説明

透明ポリイミド管状物及びその製造方法

【課題】
ポリイミド前駆体溶液を出発物として製造するポリイミド管状物において、管状物被膜中に残存する気泡(ボイド)、あるいはガス溜まりによる膨れや偏肉など、直接的に光の透過率や、機械的特性へ悪影響をおよぼす多くの問題を解決すること。
【解決手段】
被膜の水蒸気透過率が10〜50g/m・24hrの範囲にあり、その原料は化学式(A)又は化学式(B)から選ばれる少なくとも1種のジアミン又はその誘導体と、少なくとも1種のテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体とを、極性溶媒中で反応させてなるポリイミド前駆体溶液であって、この溶液をイミド化させて得られる透明ポリイミド管状物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過率が高く、偏肉や気泡などの欠陥がなく、寸法精度の高い透明ポリイミド管状物及びその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、例えば複写機、プリンタ、ファクシミリ及びこれらの複合機など、電子写真方式の画像形成装置の部材として用いられ、特に背面露光感光ドラムの透明支持体の用途に最適な透明ポリイミド管状物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、耐熱性、寸法安定性、機械的特性、電気的特性などに優れ、電気、電子、航空宇宙分野に広く用いられている。このような特性を有するポリイミド樹脂からなる管状物やシームレスベルトは、特に電子写真方式の画像形成装置において帯電、感光、転写搬送、中間転写、転写定着及び定着などの電子写真プロセスにおいて、部材として使用されている。例えば、中間転写ベルトでは、感光ドラム上に形成されたトナー像を複写紙に転写する時の中間転写体としてポリイミド樹脂製のベルトが使用され、また複写紙に転写されたトナー像を熱定着するための定着ベルトとしては、オンデマンド定着方式と呼ばれるポリイミド樹脂とフッ素樹脂の複合定着ベルトが使用されている。
【0003】
近年、電子写真技術は小型化、軽量化、高速化と同時にカラー化を含む画像の鮮明さが追求されているため、新たな動向として、背面露光(裏面露光)技術の開発が注目を集めている。この背面露光技術は、円筒状の透明支持体上にITO(インジウム錫酸化物)などの透明電極とa−Si(アモルファスシリコン)やOPC(有機光導電体)などの光導電体層を積層して感光体を形成し、露光手段を感光ドラムの内側に収納し、ドラム内部からの光で潜像を形成するものである。内径30〜100mmの透明管状物の内側に露光用電源等を収納することにより、小型化、軽量化を達成するとともに、鮮明な画像が得られる。
【0004】
前記透明支持体に必要な特性は、感光ドラム回転体としての機械的特性、透明導電層形成時の耐熱性、光導電層形成時の耐薬品性、及び光透過率が高いことである。したがって管状物の被膜中に、光の透過を妨げる気泡や異物が混入することは、致命的な欠陥になる。同時に管状物の厚みや、表面粗度、形状の均一性なども重要なパラメーターである。この透明支持体の材料として、ポリイミド樹脂は機械的特性、耐熱性あるいは耐薬品性に優れているため、とくに好適である。
【0005】
これらの電子写真方式の画像形成装置に使用されているポリイミド樹脂管状物は、いずれもシームレス形状である。ポリイミド樹脂は一般に溶媒や薬品に不溶で、熱的にも不融であることから、特許文献1及び2に開示されているように、これらのモノマーであるテトラカルボン酸二無水物とジアミンを極性重合溶媒中で反応させてポリイミド前駆体溶液を製造し、この溶液を金型表面に所定の厚みに液状成形(キャスティング)し、その後、乾燥工程から段階的に温度を上げていき、300度C〜450度Cでイミド化を完結させ、金型から分離して管状物を得る方法が一般的である。特許文献3には、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸を円筒状金型の内面に注入し、加熱しながら回転させ、遠心成形法にて薄肉のエンドレスベルトを製造する方法が開示されている。
【0006】
特許文献4に開示されているように、ポリイミド前駆体溶液は50〜10,000ポイズの高粘度であるため、金型表面に液状成形する工程で脱泡される。また、特許文献5に開示されているように、ポリイミド前駆体溶液槽に成形金型を挿入し、液槽内で回転させて金型表面の気泡を除去した後、引き上げ、その後リング状ダイスを通過させることにより、溶液中に含まれる気泡を持ち込まないようにすることができる。さらに、特許文献6に開示されているように、ポリイミド前駆体溶液の液状成形物を加熱し、イミド化を促進していく過程で発生するガス溜まりや膨れ現象による偏肉を防止するため、多孔質金属製の金型を用いることができる。
【0007】
このように、ポリイミド管状物の製造方法は特許文献1〜3に開示されている方法が基本で、その製造過程で発生する気泡や偏肉の問題に対する解決方法が、特許文献4〜6に提案されている。しかし、それらの方法では、被膜中に気泡を含まず、偏肉や膨れがなく、背面露光感光体の透明支持体としての要求特性を満たす透明ポリイミド管状物を得ることは難しい。その理由は以下の通りである。
【0008】
すなわち、金型表面上のポリイミド前駆体の液状形成物は、加熱などによってイミド化が進み、その完結によって強靭で平滑なポリイミド被膜が得られる。しかし、極性重合溶媒の蒸発や縮合水の発生など、熱的あるいは化学的な反応が伴うため、平滑、透明、かつ機械的特性の優れた管状物を製造するには大きな障害になる。
【0009】
例えば、金型の外面にポリイミド前駆体溶液を所定の厚みで塗布し、オーブンで加熱してイミド化を進めていく過程では、まず液状成形物の最外表面から溶媒や縮合水の蒸発が始まり、同時に被膜化(フィルム化)が促進されていく。以降そのまま加熱を続け、イミド化を進行させていくとイミド化反応は、液状成形体の表面から厚み方向の内部に向かって進行していくため、その表層は被膜化(フィルム化)がますます進み、塗膜の内部で進行中のイミド化反応によって発生している溶媒や縮合水の蒸発ガスの放出が次第に困難になる。この状態をそのまま継続していくと、金型とポリイミド層が接している境界面に水蒸気や溶媒のガスが閉じ込められ、金型と被膜が局部的に分離し、この部分にガス溜りができ、金型表面上の被膜が凸状に押し上げられ膨れた状態になる。この現象は偏肉になり、真円度や平滑性が損なわれ、光の透過を阻害することになる。画像形成装置の部材として使用する場合、これらの現象は致命的な欠陥になる。
【0010】
また、ポリイミド前駆体溶液は非常に高粘度であるため、溶液中で一度発生した気泡を除去することは難しく、溶液中の気泡はそのまま金型表面の液状成形物に持ち込まれ、イミド転化で被膜中に封じ込められてボイドとなり、光透過の妨げになるとともに、機械的特性の低下を招くことになる。このような不具合を解消するため、特許文献4及び5には、気泡除去方法が開示されているが、十分ではなく、一度発生した気泡は徐々にその数が増えていくため、管状物の被膜中にも徐々に気泡が持ち込まれ、ボイドが増大していくことになる。
【0011】
また、偏肉あるいは膨れ現象の改善に関しては、特許文献6に開示されているように、多孔質金属金型を用い、発生する蒸気やガスを多孔質層から除去する方法が提案されている。この方法であれば発生したガスや水蒸気は除去され、偏肉や膨れ現象は改善されるが、金型表面が焼結金属の多孔質状であるため、金型表面の微細な形状がそのまま管状物内面に転写されてすりガラス状になり、光透過率が極度に低下してしまうという問題を依然として残している。
【特許文献1】特開平06−23770号公報
【特許文献2】特開平01−156017号公報
【特許文献3】特開平05−077252号公報
【特許文献4】特開2003−1628号公報
【特許文献5】特開平07−164456号公報
【特許文献6】特開2003−285341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記従来の問題を解決し、膨れや偏肉がなく表面が平滑で真円度が高く、また被膜中に気泡がなく、光透過率の高い透明ポリイミド管状物、及びこの透明ポリイミド管状物を低コストで生産性高く製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の透明ポリイミド管状物は、被膜の水蒸気透過率が10〜50g/m・24hrの範囲であることを特徴とするものである。また、前記被膜の少なくとも波長420nmにおける光透過率が、被膜厚みが50±10μmの場合において、50%以上であることを特徴とし、前記被膜のガラス転移温度が200度C以上であることを特徴とするものである。また、本発明の透明ポリイミド管状物の製造方法は、金型表面に濃度10重量%〜50重量%の前記ポリイミド前駆体溶液を所定の厚みで液状成形し乾燥後、400度C以下の温度でイミド転化を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明はポリイミド樹脂管状物の水蒸気透過率を10〜50g/m・24hrの範囲とすることによって、ポリイミド前駆体溶液から液状成形し、イミド化反応によって管状物を製造する過程で発生する偏肉や膨れ現象をなくし、寸法精度の高い管状物を製造することができる。したがって厚みの厚い管状物の製造においてもボイドの発生がなく欠陥のない管状物を製造できる。また本発明のモノマーを用いると光透過率が高く、ガラス転移温度の高い透明管状物を製造することができる。また水蒸気透過率が前記した範囲の管状物を製造した場合、その後真空中で透明導電性膜を製膜する工程において、ポリイミド管状物中に含まれている水分やガスの除去を短時間で処理することができる。本発明で作成されるポリイミド樹脂管状物は中間転写や熱定着ベルトの用途として、また透明ポリイミド樹脂管状物は、背面露光感光ドラムなど透明支持体として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の透明ポリイミド管状物は、その被膜の水蒸気透過率が10〜50g/m・24hrの範囲にある。10g/m・24hr未満であると、従来のようにガス溜まりによる膨れ現象が発生し、気泡やボイドを除去することが難しくなる。一方、50g/m・24hrを超えると、実質上ポリイミドの吸水率が大きくなるため、寸法安定性が低下する。また、前記ポリイミド管状物被膜の少なくとも波長420nmにおける光透過率が、被膜厚みが50±10μmの場合において、50%以上であることが好ましい。すなわち、実施例1〜4に示すように、緑色及び赤色の光源に対してのみならず、少なくとも青色の光源に対して、換言すれば可視光域全般にわたって、光透過率が50%以上の透明性を有していることが好ましい。さらには、70%以上であることが、より好ましい。光透過率が50%以上、より好ましくは70%以上であれば、背面露光などの用途に好適に用いることができるからである。また、被膜のガラス転移温度が200度C以上であること好ましい。さらに、250度C以上がより好ましく、300度C以上が最も好ましい。背面露光感光体では、透明支持体の外面にITOなどの透明導電薄膜を形成し、高温でアニールする工程が必要であるが、ガラス転移温度が200度C以上であれば、アニールなどの工程も問題なく処理できるからである。
【0016】
次に、本発明の透明ポリイミド管状物の好ましい原料組成の選択であるが、大きな原子団である−SO−(スルホン)基の存在が、水蒸気や気体の透過をスムーズにし、完成品である管状物において問題となるボイドの存在や、ガス溜まりによる偏肉などの欠陥を防止させるものと考えられる。
【0017】
したがって、本発明の透明ポリイミド管状物は、−SO−基を含む下記化学式(A)又は化学式(B)から選ばれる少なくとも1種のジアミン又はその誘導体(以下、ジアミン成分という)と、少なくとも1種のテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体(以下、テトラカルボン酸二無水物成分という)を、極性溶媒中で反応させてなるポリイミド前駆体組成物を原料組成とすることが好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
前記ジアミン成分としては、ジアミン、ジイソシアネート、ジアミノジシラン類を用いることができるが、ジアミンが好ましい。
【0021】
本発明の実施形態において、とくに好ましいのは、下記化学式(A)のジアミノジフェニルスルホンである。ジアミノジフェニルスルホンは、パラ体(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン)であってもよいし、メタ体(3,3’−ジアミノジフェニルスルホン)であってもよい。またパラ体、メタ体を混合して反応させてもよい。
【0022】
【化3】

【0023】
本発明の透明ポリイミドの前駆体溶液を製造する際に、本発明の性質を損なわない範囲内で、以下のジアミンを1種以上混合して反応させても何ら差し支えない。例えば、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4、4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス−(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等の芳香族ジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン等の脂環式ジアミンが挙げられる。
【0024】
一方、前記テトラカルボン酸二無水物成分としては、テトラカルボン酸、カルボン酸エステル、テトラカルボン酸二無水物などが挙げられるが、好ましいのはテトラカルボン酸二無水物である。
【0025】
前記テトラカルボン酸二無水物成分は、下記化学式(I)又は化学式(II)(Xは、−O−、−S−、−SO−、−CH−、−CF−、−C(CH−、−C(CF−、−CO−又は直接結合を表わす)から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0026】
【化4】


【0027】
【化5】

【0028】
本発明の好ましい実施形態において、テトラカルボン酸二無水物成分は、下記化学式(III)の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)及び下記の化学式(IV)の2,2−ビス[4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)である。BPDAおよびBPADAは、混合して反応させることが好ましい。
【0029】
【化6】

【0030】
【化7】

【0031】
BPDAおよびBPADAを混合する場合のモル比は、BPDA:BPADA=9:1〜5:5の範囲であることが好ましい。この範囲であれば、透明性を高く維持したままで強靭性を高くできるからである。
【0032】
本発明の透明ポリイミドの前駆体溶液を製造する際に、本発明の性質を損なわない範囲内で、以下のテトラカルボン酸二無水物を1種以上混合して反応させても何ら差し支えない。例えば、ピロメリット酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、オキシジフタル酸無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物や9,9−ビス[4−(3,4’−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1−シクロヘキシルコハク酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物が挙げられる。
【0033】
本発明の好ましい実施形態において、透明ポリイミドの前駆体溶液は、極性溶媒中において90度Cより低い温度で不活性雰囲気においてテトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分を反応させることにより、製造される。反応時間は6時間以上である。
【0034】
透明ポリイミドの前駆体溶液を製造する場合、テトラカルボン酸二無水物成分およびジアミン成分を可能な限り等モル比で反応させて分子量を上げることが好ましい。従って、テトラカルボン酸二無水物成分/ジアミン成分のモル比を0.9〜1.1/1.0、さらに好ましくは1.00〜1.04/1.0の範囲に維持することが好ましい。本発明の透明ポリイミド前駆体の分子量は、好ましくは5,000〜500,000、さらに好ましくは15,000〜100,000である。
【0035】
透明ポリイミドの前駆体溶液の製造において有用な極性溶媒は、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライムなどが挙げられる。好ましい溶媒はN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)である。これらの溶媒を単独で又は混合物としてあるいはトルエン、キシレン、すなわち芳香族炭化水素などの他の溶媒と混合して用いることができる。
【0036】
透明ポリイミドの前駆体溶液には、本発明の性質を損なわない範囲内で、加工助剤又は流動補助剤(例えば、モダフロウ(MODAFLOW)(登録商標)流動補助剤)、酸化防止剤、帯電防止剤、無機顔料(例えば、二酸化チタン、TiO)、および充填剤(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレン/プロピレンコポリマー)などの添加剤を含有することもできる。
【0037】
透明ポリイミドの前駆体溶液の取り扱いを容易にするために、溶液中のポリイミド前駆体の濃度は、10重量〜50重量%、好ましくは20重量〜40重量%の範囲であり、また溶液の粘度は約500〜約5,000ポイズの範囲であることが好ましい。
【0038】
極性溶媒は、被膜形成工程が完了すると、ポリイミド前駆体溶液から除去され、ポリアミド酸は熱的にイミド化されてポリイミドになる。化学的イミド化法によってイミド化してもよい。
【0039】
本発明の透明ポリイミド管状物の製造方法は、金型表面に濃度10重量%〜50重量%のポリイミド前駆体溶液を所定の厚みで成形し乾燥後、400度C以下の温度でイミド化を行うことが好ましい。ポリイミド前駆体溶液中の濃度は20重量〜40重量%の範囲が一回の被膜形成において厚みを厚く成形でき好ましい。本発明の透明ポリイミド管状物は1回の成形厚みを厚くしても気泡の残存や膨れによる偏肉のない管状物を製造できる。また金型表面に形成したポリイミド前駆体液状成形物は、80度C前後の温度で乾燥後400度C以下の温度で段階的にイミド化を完結する方が好ましい。本発明で用いるポリイミド前駆体溶液は光の透過率とともに、水蒸気透過率を高くするために、前記した特定のモノマーを選定したポリイミド樹脂であるため、光透過率、および機械的特性、ガラス転移温度の最適値を得るためには275〜325度Cの範囲でイミド化を完結させることが好ましい。
【0040】
前記透明ポリイミド管状物の少なくとも片面には、さらに少なくとも一層の透明導電膜を形成しても良い。前記透明導電膜の表面抵抗率は、1010Ω/□以下であることが好ましい。透明導電膜としては、例えばインジウム−錫酸化物合金等があり、膜厚は50nm〜5μmの範囲が好ましい。この導電膜は、例えば、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、プラズマCVDあるいは塗布法などによって形成できる。また前記の膜を170度C以上の高温で比較的短時間で熱処理(アニール処理)することにより透明性、耐熱性、導電性を向上させてもよい。透明ポリイミド層は高いTgを有するためアニール処理ができる。
【0041】
以下に実施例および比較例に基づき、詳細を説明する。各実施例および比較例で作製した透明ポリイミドの前駆体溶液の粘度および透明ポリイミド管状物の諸特性は、下記の測定方法で測定した。
(1)粘度
ブルックフィールド社製の粘度計LVTを用いて、23±1度Cでの透明ポリイミド前駆体溶液の粘度を測定した。
(2)光透過率
島津製作所社製の分光光度計UV−2550を使用して光透過率を測定した。
(3)ガラス転移温度
島津製作所社製の熱機械分析装置TMA−50を用いて、昇温速度10度C/分で伸びが変曲する温度をガラス転移温度として測定した。
(4)膜厚
サンコー社製の渦電流膜厚計EDY−1000を用いて膜厚を測定した。
(5)機械的物性
島津製作所製のオートグラフAGS−10kNGを用いて、引張速度50mm/分で測定した。
(6)水蒸気透過率
GTRテック社製のGTR−10XACTを用いて、40度C−90%RHにおける水蒸気透過率を測定した。
【実施例1】
【0042】
(a)透明ポリイミド前駆体溶液の合成
3000mLの3つ口セパラブルフラスコに、ポリテトラフルオロエチレン製の攪拌羽を取り付けた攪拌棒と窒素ガス導入管を取り付けて反応容器とし、反応はすべて、窒素雰囲気下で行なった。ポリイミド前駆体溶液の濃度が33重量%となるように、ジアミン成分として、和歌山精化工業社から商品名“セイカキュアーS”で販売されている4、4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)203.86g(0.822モル)、反応溶媒として三菱ガス化学社から販売されているN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)1,005gを投入し、44DDSがDMACに完全に溶解後、テトラカルボン酸二無水物成分として、上海市合成樹脂研究所から商品名“BPADA”で販売されている2,2−ビス[4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)107.93g(0.208モル)および三菱化学社から商品名“BPDA”で販売されている3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)183.07g(0.623モル)を固体のままで添加し、40度Cで12時間反応させ、粘度1,000ポイズの粘稠な透明ポリイミドの前駆体溶液を得た。
【0043】
(b)透明ポリイミド管状物の作製
外径30.4mm、長さ510mmのアルミニウム製金型を用意した。前記金型は外面の平均表面粗さ(Rz)が1μm以下になるように研磨加工し、表面に酸化ケイ素コーティング剤をディッピング法によりコーティングし、150度Cで30分および370度Cで30分加熱して焼き付け酸化ケイ素膜で被覆した金型を用いた。次に前記(a)項の透明ポリイミド前駆体溶液の中に前記金型を400mm部分まで浸漬し、ポリイミド前駆体液を塗布したのち、内径31.4mmのリング状ダイスを前記金型の上部から挿入し自重で落下走行させ、前記金型の表面に液状成形した。その後イミド化処理として、80度Cで45分、120度Cで45分、200度Cで30分、250度Cまで45分で昇温させ、250度Cで30分、300度Cで20分間イミド化を行って透明ポリイミド管状物を作製した。冷却後、金型から分離した管状物は、被膜の厚みが75±2μmであるにもかかわらず、イミド化過程で揮発する溶媒や、縮合水の気化ガスの影響によるポリイミド被膜の部分的な膨れ、偏肉や気泡等の欠陥がなく、管状物の内外面とも平滑で真円度の高い透明管状物であった。すなわち、管状物被膜の波長420nm、550nmおよび780nmの光透過率は、それぞれ71.0%、85.2%、87.1%であり、水蒸気透過率は31g/m・24hrであった。また引張強度および引張弾性率は、それぞれ12.0kgf/mm、339kgf/mm、ガラス転移温度は310度Cであった。
【実施例2】
【0044】
ポリイミド前駆体溶液の濃度が33重量%となるように、ジアミン成分として、44DDS152.90g(0.617モル)および小西化学工業社から商品名“DAS”で販売されている3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)50.97g(0.206モル)、反応溶媒としてDMAC1,005gを投入し、44DDS、33DDSがDMACに完全に溶解後、テトラカルボン酸二無水物成分として、BPADA107.93g(0.208モル)およびBPDA183.07g(0.623モル)を固体のままで添加し、40度Cで12時間反応させ、粘度620ポイズの粘稠な透明ポリイミドの前駆体溶液を得た。
その後、実施例1(b)に記載した同様の条件で、被膜の厚み76±3μmの透明ポリイミド管状物を作製した。管状物被膜の波長420nm、550nmおよび780nmの光透過率は、それぞれ70.4%、85.4%、86.9%であり、水蒸気透過率は28g/m・24hrであった。また引張強度および引張弾性率は、それぞれ12.6kgf/mm、306kgf/mm、ガラス転移温度は285度Cであった。この管状物はボイドや偏肉、膨れなどの欠陥がなく、光透過率が優れ、ガラス転移温度の高い管状物を得ることができた。
【実施例3】
【0045】
ポリイミド前駆体溶液の濃度が33重量%となるように、ジアミン成分として、44DDS101.93g(0.411モル)および33DDS101.93g(0.411モル)、反応溶媒としてDMAC1,005gを投入し、44DDS、33DDSがDMACに完全に溶解後、テトラカルボン酸二無水物成分として、BPADA107.93g(0.208モル)およびBPDA183.07g(0.623モル)を固体のままで添加し、40度Cで12時間反応させ、粘度500ポイズの粘稠な透明ポリイミドの前駆体溶液を得た。その後、実施例1の(b)に記載した同様の条件で、被膜の厚み78±5μmの透明ポリイミド管状物を作製した。管状物被膜の波長420nm、550nmおよび780nmの光透過率は、それぞれ69.8%、84.1%、86.1%であり、水蒸気透過率は21g/m・24hrであった。また引張強度および引張弾性率は、それぞれ14.5kgf/mm、340kgf/mm、ガラス転移温度は267度Cであった。この管状物はボイドや偏肉、膨れなどの欠陥がなく、光透過率が優れ、ガラス転移温度の高い管状物を得ることができた。
【実施例4】
【0046】
ポリイミド前駆体溶液の濃度が33重量%となるように、ジアミン成分として、44DDS50.97g(0.206モル)および33DDS152.9g(0.617モル)、反応溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)1,005gを投入し、44DDS、33DDSがDMACに完全に溶解後、テトラカルボン酸二無水物成分として、BPADA107.93g(0.208モル)およびBPDA183.07g(0.623モル)を固体のままで添加し、40度Cで12時間反応させ、粘度650ポイズの粘稠な透明ポリイミドの前駆体溶液を得た。その後、実施例1(b)に記載した同様の条件で、被膜の厚み76±4μmの透明ポリイミド管状物を作製した。管状物被膜の波長420nm、550nm、780nmの光透過率は、それぞれ70.2%、85.3%、87.2%であり、水蒸気透過率は20g/m・24hrであった。また引張強度および引張弾性率は、それぞれ14.8kgf/mm、333kgf/mm、ガラス転移温度は253度Cであった。この管状物はボイドや偏肉、膨れなどの欠陥がなく、光透過率が優れ、ガラス転移温度の高い管状物を得ることができた。
【0047】
(比較例)
外径30.4mm、長さ510mmのアルミニウム製金型を用意した。前記金型は外面の平均表面粗さ(Rz)が1μm以下になるように研磨加工し、表面に酸化ケイ素コーティング剤をディッピング法によりコーティングし、150度Cで30分および370度Cで30分加熱して焼き付け酸化ケイ素膜で被覆した金型を用いた。次に濃度18%、粘度約1,500ポイズのポリイミド前駆体溶液((株)IST社製 RC5063PyreMLワニス)に前記金型を400mm部分まで浸漬し、ポリイミド前駆体溶液を塗布したのち、内径32.0mmのリング状ダイスを前記金型の上部から挿入し自重で落下走行させ、前記金型の表面に液状成形した。その後イミド化処理として、80度Cで45分、120度Cで45分、200度Cで30分、250度Cまで45分で昇温させ、250度Cで30分、300度Cで20分焼成を行ってポリイミド管状物を作製した。管状物を金型から分離し諸特性を測定した。この管状物被膜の水蒸気透過率は1.4g/m・24hrであった。またこの管状物被膜の波長420nm、550nmおよび780nmの光透過率は、それぞれ0%、56.0%、79.0%であった。この管状物の被膜の厚みは、79±7μmであったが、被膜の中にボイドが残存し、部分的なガス溜まりの発生している部分は厚みが薄くなり偏肉の状態が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂被膜からなる管状物であって、前記被膜の水蒸気透過率が10〜50g/m・24hrの範囲であることを特徴とする透明ポリイミド管状物。
【請求項2】
前記被膜の少なくとも波長420nmにおける光透過率が、被膜厚みが50±10μmの場合において、50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の透明ポリイミド管状物。
【請求項3】
前記被膜のガラス転移温度が200度C以上であることを特徴とする請求項1に記載の透明ポリイミド管状物。
【請求項4】
下記化学式(A)又は化学式(B)から選ばれる少なくとも1種のジアミン又はその誘導体と、少なくとも1種のテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体とを、極性溶媒中で反応させてなるポリイミド前駆体溶液を、イミド化させて得られることを特徴とする請求項1に記載の透明ポリイミド管状物。
【化1】

【化2】

【請求項5】
前記テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体が、下記化学式(I)又は化学式(II)(Xは−O−、−S−、−SO−、−CH−、−CF−、−C(CH−、−C(CF−、−CO−又は直接結合を表わす)から選ばれる少なくとも1種の化合物からなることを特徴とする請求項4に記載の透明ポリイミド管状物。
【化3】

【化4】

【請求項6】
金型表面に濃度10重量%〜50重量%の前記ポリイミド前駆体溶液を所定の厚みに液状成形して乾燥後、400度C以下でイミド転化を行うことを特徴とする透明ポリイミド管状物の製造方法。

【公開番号】特開2006−152257(P2006−152257A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308342(P2005−308342)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】