説明

透明導電性ナノ複合体

1実施形態において、本発明は、複数のカーボンナノチューブ構造体を提供する段階と、高分子複合体を提供するために前記複数のカーボンナノチューブ構造体を高分子マトリックス中に分散させる段階と、を含む有機電気装置を形成する方法であって、前記複数の導電性ナノ構造体が第1濃度で存在する場合、外部エネルギーが印加されると前記複数のカーボンナノ構造体及び高分子マトリックスの界面で電荷が輸送されることを特徴とし、前記複数の導電性ナノ構造体が第2濃度で存在する場合、外部エネルギーが印加されると前記複数のカーボンナノ構造体及び高分子マトリックスの界面で励起子が解離することを特徴とし、前記第1濃度が前記第2濃度未満であることを特徴とする有機電気装置の形成方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の1実施形態は、ナノスケール材料から成る複合体、ナノスケール材料の複合体の形成方法、及びナノスケール材料の応用に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2006年12月27日に出願された同時係属出願である特許文献1“Transparent Conductive Nanorod Composite”及び2007年3月8日に出願された特許文献2“Towards an Optimal Nanotube Dispersion for Transparent Conductive Coatings”の優先権を主張するものであり、参照により全体がここに組み込まれる。
【0003】
本発明は、米国エネルギー省によって与えられた政府支援とともになされたものである。政府は本発明において特定の権利を有する。
【0004】
透明導電被覆は、ディスプレイ技術、光学、電磁遮蔽、その他の応用において商業利用されている。インジウム酸化スズ(ITO)は最も幅広く使用されている被覆であるが、柔軟性がなく作製に高い処理温度を必要とする。
【0005】
有機光起電装置及び有機エレクトロルミネッセンス装置を含む有用な薄膜装置は、進歩の対象となってきた。特に、有機発光材料はこの20年間でますます興味を引き付けている。有機発光ダイオード(OLED)は、低分子OLEDまたは高分子OLEDのいずれかであり得る。可溶性発光高分子は、大面積、低価格発光装置の製造に魅力的である。近年、この領域にスクリーン印刷及びインクジェット印刷がうまく利用され、面発光、パターニング、ディスプレイ応用の価格低下に有望である。
【0006】
発光エレクトロルミネッセンス層が高分子であるにもかかわらず、グラフィックカラーディスプレイを形成するための単純な“印刷”方法を使用することによって、テレビスクリーン、コンピューターディスプレイ、広告及びインフォメーションボード、及び同様の用途での使用のためにさまざまな量のOLEDをスクリーン上にアレイで堆積することが可能である。OLEDは照明装置にも使用し得る。標準化前には、OLED技術は有機エレクトロルミネッセンスとも称された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国仮出願第60/877,602号
【特許文献2】米国仮出願第60/905,974号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
1実施形態において、本発明は、ナノスケール材料を含む高分子複合体及びナノスケール材料を含む高分子複合体の形成方法を提供する。1実施形態において、本発明によって提供されるナノスケール材料から成る高分子複合体は、最適な透明性及び電気伝導性を有することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1実施形態において、本発明は、
複数の導電性ナノ構造体を提供する段階と、
高分子複合体を提供するために複数の導電性ナノ構造体を高分子マトリックス中に分散させる段階と、を含む有機電気装置の形成方法を提供し、
複数の導電性ナノ構造体が第1濃度で存在する場合、有機電気装置はエレクトロルミネッセンス反応を特徴とし、複数の導電性ナノ構造体が第2濃度で存在する場合、有機電気装置は光起電反応を特徴とし、第1濃度は第2濃度未満である。
【0010】
1実施形態において、第1濃度の複数の導電性ナノ構造体は有機発光ダイオードを提供し、第2濃度の導電性ナノ構造体は光起電装置を提供する。1実施形態において、第1濃度は約0.001wt%から約0.2wt%までの範囲であり、第2濃度は約0.001wt%から約1.0wt%の範囲である。
【0011】
1実施形態において、導電性ナノ構造体はレーザー蒸発法によって提供され、酸処理され、高純度に酸化された単層カーボンナノチューブ(SWNT)である。1実施形態において、高純度カーボンナノチューブはカーボン約90%超から成る。別の実施形態において、導電性ナノ構造体は垂直に配列したカーボンナノチューブである。1実施形態において、垂直に配列したカーボンナノチューブは化学気相堆積によって成長される。
【0012】
1実施形態において、高分子マトリックスの最高占有軌道と最低非占有軌道との間に位置する仕事関数を提供するために、導電性ナノ構造体がドープされる。
【0013】
1実施形態において、複数の導電性ナノ構造体を高分子マトリックス中に分散させる段階は、誘電泳動配列、真空ろ過、エレクトロスパンナノチューブ−高分子ファイバー、可溶性ナノチューブのスプレー堆積の内の少なくとも1つまたはそれらの組み合わせを含む。1実施形態において、複数の導電性ナノ構造体を高分子マトリックス中に分散させる段階は溶媒を含み、溶媒は、オルトジクロロベンゼン(ODCB)、クロロホルム(CHCl)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、コール酸ナトリウム(SC)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、t‐オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(TrironX−100)、またはそれらの組み合わせを含む。1実施形態において、複数の導電性ナノ構造体を高分子マトリックス中に分散させる段階は、溶媒に塩及びドーパント材料を加える段階を含み、塩及びドーパント材料は導電性ナノ構造体及び高分子マトリックスの接合の抵抗を低下させる。
【0014】
別の側面において、本発明は高分子複合体を含み得る有機電気装置を提供する。1実施形態において、本発明は、第1複数の導電性ナノ構造体を含む高分子複合体と、高分子複合体の対向する側の正極及び負極と、を備え、正極及び負極の内の少なくとも一方が第2複数の導電性ナノ構造体を備えることを特徴とする有機電気装置を提供する。
【0015】
1実施形態において、第2複数の導電性ナノ構造体は、正極及び負極の内の少なくとも一方に高分子複合体の仕事関数と実質的に同一の仕事関数を提供するためのドーパントを含む。1実施形態において、第2複数の導電性ナノ構造体から成らない正極及び/または負極は、金属から成る。
【0016】
1実施形態において、第1複数の導電性ナノ構造体が第1値の濃度を有する場合に有機電気装置は有機発光ダイオードであり、第1複数の導電性ナノ構造体が第2値の濃度を有する場合に有機電気装置は光起電装置であり、第1値は第2値未満である。1実施形態において、第1値は約0.001wt%から約0.2wt%までの範囲の第1濃度であり、第2値は約0.001wt%から約1.0wt%までの範囲の第2濃度である。
【0017】
1実施形態において、高分子複合体は高分子マトリックスから成り、複数の導電性ナノ構造体は高分子マトリックス内に位置する単層カーボンナノチューブを含み、単層カーボンナノチューブは正極及び負極の間に電気的連結を提供し、パーコレーション閾値未満に位置している。1実施形態において、高分子複合体は、共役高分子ポリ(2‐メトキシ‐5‐(2’‐エチルヘキシルオキシ)‐1,4‐フェニレンビニレン)(MEHPPV)を含む。その他の高分子は、ポリチオフェン等のエレクトロルミネッセンス高分子を含む。
【0018】
1実施形態において、有機電気装置の第1複数の導電性ナノ構造体は、n型またはp型ドープされる。1実施形態において、ドーパントは塩化チオニル(SOCl)、トリエチルアミン(EtN)、ピリジン(CN)及び/またはオルトジクロロベンゼンからなり得る。1実施形態において、第1複数の導電性ナノ構造体は垂直に配列したカーボンナノチューブである。
【0019】
1実施形態において、有機電気装置の厚さは、上限100ミクロンの厚さを有する。
【0020】
1実施形態において、逆バイアス条件で作動させる場合に、有機発光ダイオードは発光する。
【0021】
別の実施形態において、本発明は有機電気装置を提供する。1実施形態において、有機電気装置は、正極及び負極と、正極及び負極と電気的に接触して配置される高分子複合体と、を含み、高分子複合体は高分子マトリックスと、高分子マトリックスを介して正極及び負極の間に電気的連結を提供する導電性ナノ構造体の最小パーコレーションネットワークとを含む。
【0022】
別の実施形態において、本発明はナノ構造体高分子複合体材料を形成する方法を提供する。1実施形態において、この方法は、高分子マトリックスを提供する段階と、高分子マトリックス内にカーボンナノチューブの束を提供する段階と、カーボンナノチューブのネットワークにカーボンナノチューブの束を分散させる段階と、を含み、分散されたカーボンナノチューブの仕事関数が高分子マトリックスの仕事関数と実質的に一致する。
【0023】
1実施形態において、ナノチューブは基板上に堆積または配列され、その後スピンコート、スプレー、レーザー転写またはそれらの組み合わせによって高分子が堆積され得る。1実施形態において、ナノチューブ及び高分子は共分散され、その後共堆積され得る。別の実施形態において、高分子または高分子のモノマーはがはじめに塗布され、ナノチューブの堆積が続き、その後インサイチューで重合され得る。
【0024】
1実施形態において、カーボンナノチューブの束を提供する段階は、レーザー蒸発法を含む。1実施形態において、カーボンナノチューブの束を分散する段階は、カーボンナノチューブの束サイズを減少させる溶媒を含む。1実施形態において、溶媒は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、コール酸ナトリウム(SC)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、t‐オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(TritonX−100)、またはそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されるものではない。1実施形態において、分散する前、カーボンナノチューブの束は50nmを超える直径を有する。1実施形態において、分散後、カーボンナノチューブの束の直径は50nm未満である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1A】本発明による有機電気装置の高分子マトリックスを介したカーボンナノチューブのネットワーク及び有機電気装置の高分子マトリックスを介したカーボンナノチューブの配列したネットワークを図示する。
【図1B】本発明の1実施形態による高分子複合体の光起電反応またはエレクトロルミネセンス反応におけるナノチューブ濃度の影響の関係を示す図である。
【図2A】本発明によるナノチューブの束の1実施形態の側面斜視図である。
【図2B】本発明の1実施形態による分散されたカーボンナノチューブのネットワークの1実施形態の側面斜視図である。
【図3】本発明の1実施形態によるカーボンナノチューブのネットワークの1実施形態を示す顕微鏡写真である。
【図4】本発明の1実施形態による束の直径と分散の種類の関係を示す図である。
【図5】本発明の1実施形態によるカーボンナノチューブの抵抗及び透過率における束のサイズの関係を示す図である。
【図6A】本発明の1実施形態によるカーボンナノチューブの吸光度への硝酸ドーパントの影響の関係を示す図である。
【図6B】本発明の1実施形態によるカーボンナノチューブの吸光度への硝酸ドーパントの影響の関係を示す図である。
【図6C】本発明の1実施形態によるカーボンナノチューブの抵抗及び吸光度への塩化チオニルドーパントの影響の関係を示す図である。
【図6D】本発明の1実施形態によるカーボンナノチューブの抵抗及び吸光度への塩化チオニルドーパントの影響の関係を示す図である。
【図7】本発明による有機電気装置の1実施形態を示す垂直断面図である。
【図8A】本発明による有機電気装置の1実施形態のシート導電性へのオルトジクロロベンゼン(ODCB)ドーパントの影響を示す。
【図8B】本発明による有機電気装置の1実施形態のシート導電性へのオルトジクロロベンゼン(ODCB)ドーパントの影響を示す。
【図9】本発明による誘電泳動配列の1実施形態を示す上面図である。
【図10A】本発明による有機電気装置の1実施形態の電圧とEL強度の関係を示す図である。
【図10B】本発明による有機電気装置の1実施形態の電圧と電流の関係を示す図である。
【図10C】本発明による有機電気装置の1実施形態の波長と強度の関係を示す図である。
【図10D】バンドギャップ図の図表示である。
【図11A】本発明による逆バイアス及び順バイアスで作動する有機電気装置の1実施形態のプロットを示す。
【図11B】本発明による逆バイアス及び順バイアスで作動する有機電気装置の1実施形態のプロットを示す。
【図12】本発明による有機電気装置の1実施形態の外部量子EL効果の関係を示す。
【図13】電流が浸透ナノチューブによって電極間の間隙を流れるような約2ミクロン離間して配置された2つの電極間に電流を流す20nmの厚さの高分子中に組み込まれたナノチューブの顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
単にここで実施例として与えられ本発明を限定する目的でない以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて十分に理解されるだろう。以下において、参照符号は要素及び部分などを示す。
【0027】
本発明の詳細な実施形態をここで開示するが、開示された実施形態はさまざまな形態で例示され得る本発明を単に説明するものであることを理解されたい。さらに、本発明のさまざまな実施形態に関連して与えられた各例は、例示的目的であり限定を意図するものでない。さらに、図面は必ずしも原寸に比例するものではなく、特定の要素を詳細に示すためにいくつかの特徴は誇張され得る。従って、ここに開示される特定の構造及び機能の詳細は限定的ではなく、単に当業者が本発明をさまざまに適用するための代表的基準として解釈されるものである。
【0028】
本発明の実施形態は、有機電気装置の新規構造及び有機電気装置、例えば有機発光ダイオード(OLED)及び有機光起電装置の形成方法に関する。本発明の構造及び方法を説明する際に、別段の合意がない限り以下の用語は以下の意味を有するものとする。
【0029】
“エレクトロルミネセンス反応”とは、材料が電流の通過及び/または電界の印加に反応して発光する反応である。
【0030】
“光起電反応”とは、材料が光の適用に反応して電気エネルギーを生成する反応である。
【0031】
“複合体”とは、2つ以上の異なる物理及び/または化学特性を有する構成要素から成る材料であり、2つ以上の構成要素の化学及び/または物理特性が材料中で依然として区別できる材料である。
【0032】
“有機発光ダイオード”とは、有機材料から成るエレクトロルミネセンス層を備えたダイオードである。1実施形態において、有機材料は高分子である。
【0033】
ここで使用される“ナノ構造体”とは、分子次元と微小(マイクロメートルサイズ)次元との間の少なくとも1次元を有し、長さと幅とのアスペクト比が10を超える物体である。
【0034】
ここで使用される“ナノチューブ”とは、明確に区別して特定される場合を除いて単層及び多層ナノチューブを含むものである。1実施形態において、カーボンナノチューブは円柱状に巻かれた少なくとも1層のグラフェン層である。1実施形態において、単層カーボンナノチューブはナノメートル次元の直径を有する継ぎ目のない円柱状に巻かれたグラフェンである。多層カーボンナノチューブは、ナノメートル次元の直径を有する継ぎ目のない円柱状に巻かれた複数のグラフェンシートである。
【0035】
ナノ構造体と併せてここで使用される“ネットワーク”は、電気的連結に携わる少なくとも2つのナノ構造体から成る高分子マトリックスを通る導電経路を意味する。
【0036】
ここで使用される“P型”は、価電子の欠如を引き起こす固有のカーボンナノ構造体への不純物の追加を意味する。
【0037】
ここで使用される“N型”は、固有のカーボンナノ構造体に自由電子を寄与する不純物の追加を意味する。
【0038】
ここで使用される“仕事関数”は、固体から1つの電子を固体表面のすぐ外部の点まで取り出すのに必要な最小エネルギー(電子ボルトで測定)(またはフェルミ準位から真空準位へと電子を移動させるのに必要なエネルギー)である。
【0039】
本説明を通じて使用される“電気伝導”、“電気的連結”、及び/または“電気的に連結している”は、室温で10−8(Ω・m)−1より大きな導電度を有する材料を意味する。
【0040】
明細書における“1実施形態”、“1実施例”等は、記載された実施形態が特定の特徴、構造または特性を含み得るが、すべての実施形態が必ずその特定の特徴、構造または特性を含む必要はないことを示唆する。さらに、このようなフレーズは必ずしも同じ実施形態に言及しているとは限らない。さらに、特定の特徴、構造または特性が1実施形態と関連して説明される場合、特に記載されていてもされていなくても、その他の実施形態と関連してそのような特徴、構造または特性にも影響を及ぼすことは、当業者の知識の範囲内であると考えられる。
【0041】
この後の説明のために、“上の”、“下の”、“右”、“左”、“垂直”、“水平”、“上部”、“底部”、“下に”、“下部の”、“より下に”、“上部の”及びそれらの派生語は、図面において方向付けられるように本発明に関連するものとする。
【0042】
1実施形態において、本発明は透明導電性複合体の形成方法に関する。1実施形態において、有機電気装置は、エレクトロルミネセンス特性を示す高分子導電性ナノ構造複合体を備えるため、有機発光ダイオード(OLED)装置用途に適し、また光起電特性を示すため、有機光起電(PV)装置に適する。高分子導電性ナノ構造複合体の高分子マトリックス中に存在する導電性ナノ構造体の濃度によって、有機電気装置がエレクトロルミネセンス特性を示すかまたは光起電特性を示すかが決定される。
【0043】
1実施形態において、有機光起電装置または有機発光ダイオードは、高分子マトリックスと、カーボンまたはZnOナノリボン等のナノリボン、F、NをドープしたZnOナノロッドまたはSnをドープしたInナノロッド等のナノロッド、単層ナノチューブ、二層ナノチューブ、数層ナノチューブまたは多層ナノチューブ等のナノシリンダーを含むがそれらに限定されるものではない高アスペクト比(長さの直径に対する比率)を有する導電性ナノ構造体のネットワークとから成る。1実施形態において、ナノ構造体の材料は、カーボン及び/または導電性を向上させるために例えば低分子または金属イオンをドープした金属酸化物であり得る。カーボンナノチューブについてここから議論するが、本発明はその他の導電性ナノ構造体及び形態に同等に適用できることに留意されたい。
【0044】
さらに、高分子マトリックスは電流または電界に反応して発光するあらゆる高分子材料から成り得、その例はポリ(フェニレンビニレン)、ポリチオフェン、ポリピリジン、ポリ(ピリジルビニレン)、ポリフェニレン及びこれらの材料の共重合体を含むがそれらに限定されるものではない。1実施形態において、高分子は共役高分子である。共役高分子は、交互一重及び二重炭素−炭素及び/または炭素−窒素結合もしくは炭素−硫黄結合の構造を有する。一重結合はs結合と称され、二重結合は1つのs結合と1つのp結合を含む。共役高分子は、sp混成軌道に重なる1つのs結合骨格を有する。炭素(または窒素)原子上の残りの面外のp軌道は、p結合を与えるために隣接するp軌道と重なる。
【0045】
1実施形態において、カーボンナノチューブを高分子マトリックスに組み込むと、それぞれ電荷注入の促進及び励起子の解離によって、複合体高分子の発光反応(エレクトロルミネセンス)及び光起電反応が向上する。1実施形態において、カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブのネットワーク中に存在するかまたはより効果的なエレクトロルミネセンスまたは光起電動作のために、より多量の高分子が接近できるように垂直に配列したアレイに存在する。高分子及びカーボンナノチューブのネットワークは、結合されるとナノメートル次元の界面を形成して、高表面積のネットワークに従って効果的な電荷分離または電荷注入を可能にし、いずれの要素自身と比較しても、エレクトロルミネセンスまたは光起電動作の効率が向上する。
【0046】
図1Aは、有機電気装置の高分子マトリックス20を介したカーボンナノチューブ5のネットワーク10と、有機電気装置の高分子マトリックス20を介したカーボンナノチューブ5の垂直に配列したアレイ15と、をカーボンナノチューブ5を含まない有機電気装置と比較して図示する。1実施形態において、電気有機装置の厚さはカーボンナノチューブ5を組み込むことによって増大し得るが、有機電気装置を通る電気的連結は装置のエレクトロルミネッセンスと同様に増大し得る。カーボンナノチューブ5のネットワーク10またはカーボンナノチューブの配列したアレイ15がより抵抗の高い高分子マトリックスを通る第1電極から第2電極への導電経路を提供するため、電気装置の厚さは増大し得る。1実施形態において、導電性ネットワークを提供することによって、対向する電極の離間距離が増大し得、より多くの高分子マトリックスが電極間に位置できるようになる。1実施形態において、より多くの発光高分子マトリックス20が電極間にあるため、且つカーボンナノチューブ5のネットワーク10またはカーボンナノチューブ5の配列したアレイ15がカーボンナノチューブ5から高分子マトリックス20への効率的電荷分離または注入を可能にするため、エレクトロルミネッセンスが向上した有機電気装置が提供される。1実施形態において、有機電気装置の厚さは100nmより厚くてよい。別の実施形態において、有機電気装置の厚さは5ミクロンより厚くてよい。さらなる実施形態の事象において、有機電気装置の厚さは100ミクロン程度であってよい。
【0047】
有機電気装置が有機発光ダイオード(OLED)を提供するよう構成される本発明の実施形態において、高分子マトリックスまたは電極と比較してカーボンナノチューブの仕事関数が低いため、電子及び正孔はカーボンナノチューブに容易に注入される。1実施形態において、カーボンナノチューブの仕事関数は、約4.5eVから約3.2eVの範囲であり得る。1実施形態において高分子の仕事関数は、約5.0eVから約6.0eVの範囲であり得る。
【0048】
1実施形態において、ナノチューブと高分子鎖との間のポテンシャル障壁が小さいため、カーボンナノチューブから高分子マトリックスの鎖への電荷輸送は、低バイアス(電圧の低いターン)で起こることができる。1実施形態において、高分子エレクトロルミネセンスをもたらすナノチューブに促進された電荷注入が、順バイアス及び逆バイアスの両方で起こり得る。その結果、このカスケード注入工程により有機発光ダイオードにおける電荷注入を著しく増大させることができる。1実施形態において、本発明によって生成される順バイアスにおける有機電気装置の電圧のターンは、約2Vから約8Vの範囲であり得る。別の実施形態において、本発明によって生成される逆バイアスにおける有機電気装置の電圧のターンは、約6Vから約16Vであり得る。図1Bを参照すると、1実施形態において、カーボンナノチューブを高分子マトリックスに組み込むことにより、0.0wt%超0.1wt%未満の濃度で存在するときエレクトロルミネッセンス2が増大する。
【0049】
1実施形態において、有機電気装置は有機光起電装置を提供するように構成され、カーボンナノチューブを使用することにより、ナノチューブと高分子マトリックスの高分子鎖との間にドナー−アクセプター相互作用を導入することができる。1実施形態において、ドナー−アクセプター相互作用は、電荷キャリアの生成のために光励起生成された励起子を効果的に解離することができる。高濃度のナノチューブは、その光吸収及び励起子生成力によって、システムの光電流に寄与することができる。さらに、カーボンナノチューブは、光電流の生成のために解離された電荷キャリアを輸送することもできる。図1Bを参照すると、有機電気装置の1実施形態において、カーボンナノチューブは光起電反応を向上させる。カーボンナノチューブの濃度が約0.20wt%まで増加するにつれて光起電反応3は上昇する。
【0050】
1実施形態において、本発明は、電気伝導率パーコレーション閾値程度でのナノチューブ濃度で、有機発光ダイオード(OLED)における光学エレクトロルミネセンスを高める。1実施形態において、最大の発光効率、並びに消滅及び非放射緩和、励起子及び電荷キャリアの欠陥サイトでのトラッピング等の二次プロセスへの最小の損失で高分子マトリックスにおいて電子と正孔とが再結合するようにナノチューブ濃度が選択される。1実施形態において、ナノチューブ濃度は、高分子マトリックスを通る有機電気装置の陽極と陰極との間に電気的連結を提供する最小パーコレーション閾値である。
【0051】
パーコレーション閾値(PT)は、高分子複合体の高分子マトリックスを通る導電経路を組み立てるために必要な導電性材料(すなわちカーボンナノチューブ)の最小濃度として定義される。1実施形態において、パーコレーション閾値は、絶縁マトリックス(この場合、低“導電性”高分子)に電流が流れ始めるカーボンナノチューブの最小濃度である。1実施形態において、パーコレーション閾値を越えると、主にカーボンナノチューブによって電荷が運ばれる。1実施形態において、パーコレーション閾値の直ぐ下では、電荷伝導経路が高分子マトリックスを介する伝導及び導電カーボンナノチューブネットワークを介した電荷伝導の両方を含むような高分子マトリックスの抵抗が高いために到達し難い高分子マトリックスの領域へと電荷が運ばれる。
【0052】
1実施形態において、パーコレーション閾値の直ぐ下とは、最大のエレクトロルミネッセンス反応が起こる最大の電荷注入及び高分子マトリックスとの相互作用の領域を表す。1実施形態において、ナノチューブ濃度がより高い場合(パーコレーション閾値超)、励起子分散経路長内でのナノチューブの接近によって、ナノチューブ−高分子界面で効果的な励起子の解離及び電荷収集が起こるため、エレクトロルミネッセンスと競合し、有効な光起電作用が可能となる。
【0053】
1実施形態において、排除体積が基本的に1−Dまたは2−D物体によって占有される有効な体積であるという排除体積の概念を使用し、カーボンナノチューブ(CNT)を剛性ロッドとして考え、2次元パーコレーション閾値の定義を適用すると、有機発光ダイオードの最大効率に対応するSWNTのパーコレーション閾値濃度(q)は、
=(N/V(1/Vex
とほぼ等しく、Nはパーコレーションでのカーボンナノチューブ数であり、Vはパーコレーション問題を検討した立方体の体積(すなわち、高分子複合体の体積)であり、Vexは排除体積である。
【0054】
図13は、本発明によるパーコレーションでのカーボンナノチューブ数(N)を表す高分子ナノ構造複合体の1例を示す。この例では、高分子ナノ構造複合体は約20nmの厚さであり、高分子マトリックスに組み込まれたカーボンナノロッドのネットワークを含む。カーボンナノロッドのネットワークは、離れて対向する2つの電極間に伸びている。電極間の電流は、カーボンナノロッドのネットワークによって、対向する電極を分離する約2ミクロンの間隔に渡って流れる。
【0055】
この例では、1つの電極から対向する電極への導電経路、すなわちパーコレーション経路を提供するために必要なナノロッドの最小数は、各ナノロッドが約1ミクロンの長さを有する場合、約2ナノロッドと等しい。再度図13を参照すると、電極に印加された電流によって約20ナノロッドが帯電し、パーコレーションネットワークを形成している。この例では概略で、約0.02立方ミクロンの体積(V)において2ナノロッド(N)が、約1ミクロンの長さのナノロッドでの臨界経路を生じさせる。
【0056】
この例では、パーコレーション閾値(q)は、2ナノロッド(N)/(0.02立方ミクロン(V))または100/立方ミクロンと等しい。図13に関して上記で説明した実施例は、例示的目的で与えられたものであり、本発明を限定する目的ではなく、その他の範囲及びナノチューブ濃度も検討されたことに留意されたい。
【0057】
1実施形態において排除体積は、
ex(d,l)=2・d・((2p/3)d+p・d+l+l・<sinγ>)
であり、d及びlは単一のナノチューブ(またはナノチューブ束)の直径及び長さであり、γはネットワークの2つの導電カーボンナノチューブがとり得る方向間の角度である。
1実施形態において、直径(d)は約0.1nmから約1000nmの範囲である。別の実施形態において、直径(d)は約1nmから約20nmの範囲である。さらなる実施形態において、直径(d)は約1.2nmから約5.0nmの範囲である。別の実施形態において、直径(d)は約1.0nmから約2.0nmの範囲である。
【0058】
1実施形態において、長さ(l)は約10nmから約1cmの範囲である。別の実施形態において、長さ(l)は約10nmから約10mmの範囲である。さらなる実施形態において、長さ(l)は約10nmから約500nmの範囲である。
【0059】
1実施形態において、角度(γ)は約0°から約180°の範囲である。別の実施形態において、角度(γ)は約1°から約45°の範囲である。さらなる実施形態において、角度(γ)は約2°から約30°の範囲である。さらなる実施形態において、角度(γ)は約2°から約15°の範囲である。1実施形態は等方性の場合である(<sinγ>=p/4)。
【0060】
別の実施形態において、連続閾値は、Z.Neda、R.Florian、Y.Brechet、Phys.Rev.E59,33717−3719(1999)の3次元において等方性配列したスティックを通る連続パーコレーションを使用して決定され得る。
【0061】
1実施形態において、カーボンナノチューブがネットワーク中に配置される場合、単層カーボンナノチューブはレーザー蒸発法によって与えられる。1実施形態において、単層カーボンナノチューブは金属触媒などの触媒と組み合わせてレーザー蒸発法を使用して形成される。1実施形態において、触媒はグラファイト基板等の基板上に担持されるかまたは、触媒は浮遊金属触媒粒子であり得る。1実施形態において、金属触媒はFe、Ni、Co、Rh、Paまたは合金及びそれらの組み合わせから成り得る。
【0062】
1実施形態において、レーザー蒸発法は、例えばメタン又は一酸化炭素等の多量のカーボン含有原料ガス等のカーボン(グラファイトとも称される)ターゲットに作用するレーザービームを含む。1実施形態において、約1200℃程度の温度の炉内に存在するカーボンターゲットを揮発させるために使用するレーザーは、パルスレーザー、または連続レーザーである。1実施形態において、パルスレーザーは約100kW/cm程度の光強度を有し、連続レーザーは約12kW/cm程度の光強度を有する。1実施形態において、炉は500Torrの圧力を維持するために、ヘリウムまたはアルゴンで充填される。
【0063】
1実施形態において、蒸気プルームが形成、膨張及び冷却する。蒸発した種が冷却するため、カーボン分子及び原子は急速に凝縮され、フラーレンを含み得る大きなクラスターを形成する。1実施形態において、さらに触媒が凝縮してカーボンクラスターに付着し始め、かご構造への閉鎖を妨げる。触媒が付着する場合、かご構造を開放し得る。1実施形態において、触媒粒子が大きくなりすぎるか、または触媒粒子の表面を通ってまたは表面上に炭素がもはや分散できない程度に十分冷却されるまで、これらの初期クラスターから柱状分子が単層カーボンナノチューブへと成長する。1実施形態において、この場合において形成される単層カーボンナノチューブは、ネットワークを提供するために分子間力で束となる。
【0064】
1実施形態において、本発明で使用される単層ナノチューブの直径は、約1ナノメートルから約20ナノメートルの範囲である。別の実施形態において、単層ナノチューブの直径は約1.2ナノメートルから約1.4ナノメートルである。1実施形態において、本発明で使用される単層ナノチューブの長さは、約0.5ナノメートルから約10ミクロンの範囲である。別の実施形態において、単層ナノチューブの長さは約100ナノメートルから約10ミリメートルの範囲である。1実施形態において、本発明で使用される単層ナノチューブは、約1,000:1程度の長さ対幅アスペクト比を有する。
【0065】
1実施形態において、レーザーアブレーションによって生成されるカーボンナノチューブは、高純度を有する。1実施形態において、カーボンナノチューブは、カーボン約90%以上の程度の高純度を有し得る。別の実施形態において、カーボンナノチューブはカーボン約95%から約99%程度の高純度を有し得る。さらなる実施形態では、カーボンナノチューブは99%以上の程度の高純度を有する。
【0066】
さらなる実施形態において、ナノチューブは過半数カーボンを含む。1実施例において、ナノチューブは約50%から約70%の範囲のカーボン含有量を有する。別の実施例では、カーボン含有量はカーボン約70%から約90%である。別の実施例ではカーボン含有量はカーボン90%を超える。
【0067】
1実施形態において、カーボンナノチューブは酸処理、続いて酸化を含む方法によってさらに精製され得る。1実施形態において、酸処理は希硝酸還流/空気酸化処理による処理及び酸化段階を含み得る。
【0068】
1実施形態において、レーザー蒸発法によって生成されるカーボンナノチューブは典型的に束状に形成される。図2A及び2Bを参照すると、束は複数の相互接続したカーボンナノチューブである。1実施形態において、ナノチューブ5の束100は、約50nm以上程度の直径を有する。1実施形態において、本方法は、最大の電荷注入及び最大のエレクトロルミネセンスをもたらす高分子複合体の高分子マトリックスとの相互作用を提供することができるパーコレーション閾値の直ぐ下であることを特徴とするネットワークへと後に処理及び分散されるカーボンナノチューブの束へと凝集する比較的欠陥の無い単層ナノチューブ(SWNT)を提供する。
【0069】
1実施形態において、高分子マトリックスに導入されるナノチューブ束は、ナノチューブ5個体には分散されず、数百のナノチューブを上限とするいくつかのナノチューブを含む束を維持し、不確定の長さの相互接続、複合、分岐ネットワークを形成する。
【0070】
1実施形態において、パーコレーションネットワークをパーコレーション閾値まで減少させることは、カーボンナノチューブネットワークの厚さを薄膜、すなわち基本的に2次元ネットワークへと減少させることを含む。1実施形態において、カーボンナノチューブネットワークの薄膜は、単一のナノチューブ束の約20nmから約100nmの範囲の厚さを有する。1実施形態において、基本的に全てのナノチューブを一平面に制限することを通じて単位面積当たりの所定のナノチューブ数の導電率が最大となるため、透明導電複合体を提供するための最小光学吸収を満たす。
【0071】
以下の工程段階において、カーボンナノチューブはカーボンナノチューブの仕事関数を調整するためにドープされ得る。1実施形態において、オプトエレクトロニクス適用のために高分子カーボンナノチューブ複合体の仕事関数及び電子受容能を調整するために、カーボンナノチューブのN型及びP型ドーピングが望ましい。カーボンナノチューブはP型またはN型となるようドープされ得る。P型とは、ナノチューブが過剰の正孔、すなわち正電荷キャリアを有することを意味し、ナノチューブは過剰の正孔を供給するドーパントでドープされ得る。N型とは、ナノチューブが過剰の電子、すなわち負電荷キャリアを有することを意味し、ナノチューブは過剰の電子を供給するドーパントでドープされ得る。
【0072】
1実施形態において、一度外気にさらされると成長を受けて、カーボンナノチューブはP型となる。酸素分子がカーボンナノチューブ表面上に吸収され、表面相互作用を通じてナノチューブをP型導電性の状態にする電気状態へと変換される。別の実施形態において、ナノチューブをカリウム原子にさらすことによってカーボンナノチューブにカリウムが吸収され得、ナノチューブの領域をN型にドープする。さらなる実施形態では、カーボンナノチューブをフッ素化カルボン酸及びスルホン酸にさらすことによって、P型導電性カーボンナノチューブが生成される。
【0073】
1実施形態において、カーボンナノチューブの仕事関数は、有機半導体高分子の最低非占有分子軌道(LUMO)と最高占有分子軌道(HOMO)との間に位置する。結果として、カーボンナノチューブと高分子鎖との間の界面距離が十分小さければ、いかなるポテンシャル障壁もなく電子及び正孔がカーボンナノチューブに注入され、その後電子及び正孔はずっと低下したポテンシャル障壁を通って高分子鎖へとさらに注入されるだろう。このカスケード電荷注入は順バイアス及び逆バイアスの両方で起こり得る。
【0074】
1実施形態において、カーボンナノチューブのドーピングは、仕事関数及び電子受容能の2つの物理的パラメータを変化させることができる。1実施形態において、仕事関数の変化によって、有機発光ダイオード(OLED)における電荷注入を調整することができる。別の実施形態において、電子受容能を変化させることによって、高分子/ナノチューブ複合体におけるドナー−アクセプター相互作用強度を修正することができるため、高分子太陽電池などの光起電装置の励起子解離率を変化させる。
【0075】
1実施形態において、カーボンナノチューブのドーピングは、カーボンナノチューブの束と高分子マトリックスとの間の相互作用に影響を与える。1実施形態において、カーボンナノチューブの分散は帯電の影響を受けやすいため、本発明では、高分子マトリックスとのよりよい界面を提供するために分散を促進すると同時に、ナノチューブの電気特性が実質的に高分子の電気特性と一致するように変更するために、同時にナノチューブにドープする。1実施形態において、図2Aに示すようなナノチューブの束は、図2Bに示すような分散しているナノチューブと同じ数のナノチューブを有するが、ナノチューブの分散はナノチューブの束より低抵抗及び高透過率を有する。図3は、カーボンナノチューブの分散の顕微鏡写真を示す。1実施形態において、分散したナノチューブは、約0.1MOから約100MOの範囲の接触抵抗を有する。1実施形態において、分散したナノチューブは、約1.5kOから約250kOの範囲の管抵抗を有する。
【0076】
例えば、ドープされた単層ナノチューブ(SWNT)は、より効果的に束を解放し得、より優れた分散をもたらすため、パーコレーションネットワーク及び電荷注入または回収のための界面数を大幅に変化させる。1実施形態において、ナノチューブのドープにより基本的にナノチューブ上に電荷が生成される。1実施形態において、適切な溶媒中に存在する帯電したナノチューブは、静電反発力によってカーボンナノチューブ束における束の解放を促進する。
【0077】
1実施形態において、カーボンナノチューブの束サイズを減少させるために適した溶媒は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、コール酸ナトリウム(SC)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(Triton X−100)、またはそれらの組み合わせを含む。図4を参照すると、1実施形態において、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶媒中に分散している単層カーボンナノチューブは、約15nmから約35nmの範囲の減少した束直径を有し得る。別の実施形態において、コール酸ナトリウム(SC)溶媒中に分散しているカーボンナノチューブの束は、約5nmから約23nmの範囲の減少した束直径を有し得る。別の実施形態において、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)溶媒中に分散しているカーボンナノチューブの束は、約7nmから約25nmの範囲の減少した束直径を有し得る。図5は、単層カーボンナノチューブの分散及び束サイズの抵抗及び透過率への影響を示す。束サイズが大きいほうが、小さいものより高い抵抗を有し、透過率には著しい影響がないことがわかる。
【0078】
別の実施形態において、ドープされたナノチューブは、高分子中でより効果的に電荷を輸送するための長距離秩序を可能にし得る。1実施形態において、ナノチューブネットワークは、高分子中で幅方向(x方向)に約1.0nmから約1.0ミクロンの範囲であり、長さ方向(y方向)に約1.0nmから約100ミクロンの範囲の長距離秩序を可能にする。さらなる実施形態において、単層ナノチューブ(SWNT)を生成すると、異なるバンドギャップの異なるキラリティーを有するナノチューブの束が生じ、ドーパント分子の使用を通じてナノチューブ間の相対バンドギャップを減少させると、ナノチューブネットワークにおける抵抗を減少させることができる。
【0079】
1実施形態において、ナノチューブは生成、精製処理及び/または後処理の間にドープされ得る。1実施形態において、ナノチューブは合成の間もしくは高分子マトリックスにおいて使用される高分子等の気体、液体、または固体を使用する後処理の間にドープされ得る。例えば、成長後のナノチューブのドーピングは、制御された気圧、真空または空気で固相の液体、蒸気からのドーパントの堆積を介してなされ得る。1実施形態において、液体からのドーパント堆積は、加熱及び/または冷却を含み得る後処理が後に続く液体ディッピングを含む。
【0080】
ドーパントの例は、硝酸、塩化チオニル(SOCl)、トリエチルアミン(Et3N)、ピリジン(CN)、オルトジクロロベンゼン、またはそれらの組み合わせを含み得る。例えば、ドープ剤としての硝酸の効果が図6A−6Bに示され、ドープしたデータは図6Aの参照ライン50によって示され、非ドープデータは図6Bの参照ライン40及び図6Aの参照ライン45によって示されている。1実施形態において、ドーパントの導入によってカーボンナノチューブの吸着性が低下している。例えば、1実施形態において、硝酸でドープすると、1700nm程度の波長で、約0.25から約0.22まで吸光度が低下し得る。1実施形態において、光吸収分光法を使用して単層カーボンナノチューブの光学遷移をモニタすることで、ナノチューブの合成及び処理の間に、S11、S22及びM11バンド上のドーピング効果を評価することが可能となる。別の例において、ドープ剤としての塩化チオニル(SOCl)の効果が図6C−6Dに示され、非ドープデータは参照ライン41によって示され、ドープしたデータは参照ライン46によって示されている。図6Cを参照すると、塩化チオニル(SOCl)をドープしたカーボンナノチューブは、550nm程度の膜厚において同様の透過率で、非ドープカーボンナノチューブより低抵抗を示し、ドーピングにより約2分の1に減少した。図6Dを参照すると、塩化チオニル(SOCl)をドープすることで、1500nm程度の波長で、吸光度が約0.12から約0.05まで低下し得る。
【0081】
別の実施形態において、正孔ドーピングは負電位(対参照電極)でのナノチューブアセンブリを通じてカーボンナノチューブの電気化学ドーピングを達成することができる。電気化学ドーピングは、カーボンナノチューブの制御された酸化である。電極電位が低いほどドーピングレベルが深くなる。電子ドーピングには正電位(対参照電極)が使用され、より深いドーピングレベルにはより高い電位が使用される。電気化学ドーピングは、ドーピング電位を維持しながら希硫酸等の電解質から作用電極を回収することによって維持される。これら2種類の電気化学的にドープされたナノチューブの混合物は、高分子内で電子または正孔等の電荷キャリアに経路を提供するために、n型及びp型ドープナノチューブの相互貫入ネットワークを構成することに使用される。高分子マトリックス内でナノチューブの配向性を制御するためのドーピングに加えて、各ナノチューブがより低い重量負荷でより優れたパーコレーションを提供できるように、高分子マトリックスからまたは内部で分離したナノチューブおよびそれらのネットワークを伸展させるために溶媒処理が提供される。
【0082】
1実施形態において、実質的に透明な複合体のためにナノチューブを配列する方法は、誘電泳動、エレクトロスピニングナノチューブ−高分子ファイバー、可溶化ナノチューブの表面へのスプレー堆積、制御可能凝集(乾燥)、高密度ナノチューブファイバーの押出を含むがそれらに限定されるものではない。
【0083】
図7を参照すると、1実施形態において、カーボンナノチューブ5のネットワークへの誘電泳動配列は、乾燥処理の間に高分子マトリックス20において提供される。1実施形態において、誘電泳動配列は、カーボンナノチューブ5を、互いに平行かつ向かい合う2つの電極60の間に配置し、電極60の間に振動電場65を印加することによって、オルトジクロロベンゼン(ODCB)またはクロロホルム(CHCl)等の溶媒中で共可溶化カーボンナノチューブ5を配列すること含む。1実施形態において、振動電場65の形成は、乾燥処理の間にDC及び/またはAC電場を使用して、電流をkHz及びMHzの範囲で変化させて、カーボンナノチューブ5を電極60に配列させることを含む。1実施形態において、電流は約1kHzから約1MHzの範囲で変化させる。1実施形態において、カーボンナノチューブ5の配列は、長さL1を有するカーボンナノチューブ5を対向する電極60の平行な表面と実質的に垂直に配置することを含む。1実施形態において、カーボンナノチューブ5の配列は、カーボンナノチューブ5の長さを電極60の平行な表面と実質的に垂直に配置することを含み、隣接するカーボンナノチューブ5は、対向する第1の電極から近接する対向する第2の電極へ電気的に連結して配置される。
【0084】
1実施形態において、透明膜を提供するために、ナノチューブ溶液の真空ろ過を使用してカーボンナノチューブをネットワーク中に配列させる。1実施形態において、カーボンナノチューブの透明薄膜は、ODCB等の溶媒及び/またはSDSなどの界面活性剤溶液におけるカーボンナノチューブの共可溶化または懸濁によって形成され得る。1実施形態において、カーボンナノチューブは溶液中に分散され、膜を通して真空ろ過される。1実施形態において、カーボンナノチューブの分散溶液は、約1atmで真空ろ過される。1実施形態において、膜は、約100nmから約2000nmの範囲の孔サイズを備える。1実施形態において、膜は、約20nm程度の孔サイズを備える。1実施形態において、膜は、硝酸セルロース等の可溶性材料から成る。1実施形態において、膜上でのナノチューブのろ過に続いて、カーボンナノチューブは浮遊法(floating method)によって基板または金網へと移動される。1実施形態において、カーボンナノチューブの移動の間またはその後、膜は溶解され得る。1実施形態において、硝酸セルロースから成る膜は、アセトンで溶解され得る。硝酸セルロース以外の材料も可溶性膜として使用するために検討され、本発明の範囲内であることに留意されたい。
【0085】
別の実施形態において、膜が溶解される前、捕捉されたナノチューブを含む膜は、ガラス基板等の基板と連動し得る。膜が基板と連動した後、膜は溶解されナノチューブが基板へと移動され得る。1実施形態において、真空ろ過は誘電泳動配列と組み合わせて使用され、その結果カーボンナノチューブの配列ネットワークが備えられる。
【0086】
1実施形態において、透明複合体用にナノチューブを配列させる方法は、溶媒または界面活性剤中での超音波処理によるカーボンナノチューブの分散、カーボンナノチューブ膜を提供するための真空ろ過、カーボンナノチューブ膜の洗浄、カーボンナノチューブ膜のDI水での洗浄、カーボンナノチューブ膜のガラス基板への移動、膜の溶解を含む。超音波処理は、サンプル中で粒子を撹拌するために、音(通常超音波)エネルギーを利用する方法である。1実施形態において、超音波処理は、超音波プローブの超音波浴を使用して行われる。1実施形態において、超音波処理は、凝集したナノチューブの束を分散させることによって透過率を向上させる。1実施形態において、超音波処理は、ナノチューブ束のアスペクト比を減少させる。
【0087】
1実施形態において、本発明は、カーボンナノチューブネットワークの導電性を向上させるためにナノチューブ間結合抵抗を低下させる方法を提供する。1実施形態において、ナノチューブ間抵抗は、電荷輸送成分または化合物を添加することによって低下され得る。1実施形態において、ナノチューブとナノチューブとの結合の抵抗は、HNOまたはSOClまたはオルトジクロロベンゼン等のドーパントをドーピングすることによって低下され得る。図8Aは、OCDBでドープしたカーボンナノチューブ80の吸光度とシート導電率の関係を非ドープカーボンナノチューブ81と比較して示す。図8Bは、OCDBでドープしたカーボンナノチューブ82の波長と吸光度の関係を非ドープカーボンナノチューブ83と比較して示す。
【0088】
別の実施形態において、カーボンナノチューブ間の抵抗を減少させるためにカーボンナノチューブは洗浄され得る。1実施形態において、カーボンナノチューブはアモルファスカーボン等のナノチューブ間の不純物を懸濁または可溶化する過酸化物または溶媒とともに洗浄され得る。さらなる実施形態において、カーボンナノチューブ間の結合性を強化するために、カーボンナノチューブマットに圧縮力が適用され得る。
【0089】
図9を参照すると、本発明の別の側面では、高分子マトリックス20中に配置された第1複数のカーボンナノ構造体5を含む高分子複合体と、高分子複合体の対向する側の正電極70及び負電極75とを備えた有機電気装置であって、正電極及び負電極の内の少なくとも一方が第2複数のカーボンナノ構造体から成るカーボンナノチューブマット6を備え、第2複数のカーボンナノ構造体が高分子マトリックス20の仕事関数と実質的に同等の仕事関数を有する正電荷及び負電荷の少なくとも一方を提供するドーパントを含む装置を提供する。1実施形態において、カーボンナノチューブマット6は電子及び正孔の両方が注入されるように高分子マトリックス20への電荷注入を強化し、その結果装置の起動電圧が低下し、装置の輝度が向上する。
【0090】
1実施形態において、有機発光ダイオード等の本発明の有機電気装置の柔軟な電極として、透明カーボンナノチューブマット6が備えられる。1実施形態において、透明度を維持するために、カーボンナノチューブマット6の厚さは100nm未満で備えられる。別の実施形態において、カーボンナノチューブマット6の厚さは、約10nmから約20nmの範囲である。1実施形態において、有機電気装置の両電極は、透明カーボンナノチューブマットから成る。別の実施形態において、電極は、発光する有機電気装置、すなわち有機発光ダイオードの一部に配置され、対向する電極は光を反射するために鏡として作用し得る反射表面を有する。1実施形態において、装置の電極を提供するカーボンナノチューブは、高分子マトリックス内を貫通し得、高分子マトリックスを介した電極間の電気的連結を提供するカーボンナノチューブのネットワークを提供し得る。
【0091】
ナノチューブアレイから成る高分子複合体を含む有機電気装置用の適用は、化学センサー、光センサー、光化学センサー、レドックスセンサーを含むがそれらに限定されるものではない。上記適用は例示的目的であって本発明を制限するものではなく、さらなる適用が検討されており、それらは本発明の範囲内である。
【0092】
上記で説明したナノチューブのランダムなアレイを提供するカーボンナノチューブの製造法に加えて、カーボンナノチューブを提供する他の製造方法が提供され、それらは本発明の範囲内である。1実施形態において、カーボンナノチューブは垂直に配列したアレイに位置する。1実施形態において、垂直に配列したナノチューブアレイ(VANTA)は、金属触媒膜をパターン形成した基板上への炭化水素原料の熱化学気相堆積によって合成することができる。広義には、1実施形態において、熱化学気相堆積合成は、エネルギーを気体カーボン分子に伝送するために、気相のカーボンソースを供給し、プラズマまたは抵抗加熱コイルなどのエネルギー源を使用することによって行われる。カーボンナノチューブを形成するのに適した化学気相堆積法の例は、プラズマ化学気相堆積法(PECVD)、熱化学気相堆積法(CVD)、気相成長法、エアロゲル担持化学気相堆積法(CVD)、レーザー利用化学気相堆積を含むがそれらに限定されるものではない。
【0093】
1実施形態において、パターン化された金属触媒膜は、電子ビーム蒸着、スパッタリング、または化学気相堆積によって堆積された単層または多層金属薄膜から成る。1実施形態において、金属触媒膜は、Ni、Fe、またはCoを含むがそれらに限定されない遷移金属を含み得る。1実施形態において、堆積に続いて、フォトリソグラフィー及びエッチング処理を使用して金属触媒膜はパターン化される。金属触媒膜は、ドットパターン、柱状、ストライプ、及び/またはセンサー構造等の機能的構造を提供するためにパターン化され得る。
【0094】
1実施形態において、パターン化金属触媒膜は基板と接触する例えばAl等の緩衝層と、緩衝層の上に形成される例えば0.2−1.0nmのFe等の金属触媒とを含む。1実施形態において、パターン化金属触媒膜は、0.2nmのMo等の別の金属層を含む。
【0095】
以下の処理段階において、パターン化金属触媒膜を含む基板を円筒炉内部に配置し、水素及びアルゴンガスフローの下でさまざまな分圧で温度を上昇させる。1実施形態において、アセチレンと水素及びアルゴン、エタノールと水素及びアルゴン、またはメタノールと水素及びアルゴン等のその他のガスを含み得る炭化水素原料は、熱化学気相堆積法においてパターン化金属触媒上を通過し、パターン化金属触媒からカーボンナノチューブが成長する。垂直配列カーボンナノチューブを形成する方法は、化学気相堆積に続いて高分子溶液でのアレイの浸透、溶解によるVANTAを含む膜の剥離、ピーリング、物理的剥離をさらに含み得る。1実施形態において、VANTAの形成において生成されるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWNT)であってもなくてもよい。
【0096】
1実施形態において、VANTAはその配列を維持するために高分子に浸透させ得る。1実施形態において、有機電気装置が高分子マトリックスを介したVANTAから成る場合、高分子マトリックスを介した主な電気伝導経路または熱伝導経路は、カーボンナノチューブの成長方向上の表面に垂直に配置される。高分子マトリックスを介した導電経路を提供するために隣接するナノチューブが電気的に連結しているカーボンナノチューブのネットワークに反して、隣接するVANTAは互いに平行であり、導電経路の長さは基材基板から成長するナノチューブの高さに相当する。
【0097】
本発明の1実施形態において、VANTAは数ミリメートルの高さまで成長し得るかまたは誤差約20nmで100ナノメートルの限定された高さで成長され得る。1実施形態において、VANTAの高さを制御することによって、アレイの上面及び底面から反射する光による干渉縞に基づいて成長する膜の色を制御することが可能となる。さらなる実施形態において、VANTAの高さが制御可能であることにより、透過される放射線の偏光制御が可能となる。
【0098】
1実施形態において、VANTAがその上に成長する金属触媒のパターン化は、膜全体の光透過性を調整すると同時に電気伝導経路の形状に影響を与える。別の実施形態において、電気伝導経路を提供するために、VANTAはフォトリソグラフィー及び反応性イオンエッチング等のエッチング処理を使用してエッチングされる。
【0099】
1実施形態において、VANTAは方向性光学吸収を示す。1実施形態において、VANTAを含む高分子複合体は、軸外の光は大幅に減衰し、特定の方向に沿って光を透過するブラインダーとして作用し得る。1実施形態において、VANTAの高さの調節は、高分子複合体の光透過性等の光学特性に影響を与える。別の実施形態において、干渉パターン及び色効果は、VANTAを光のバンドギャップ構造へと操作することができる。1実施形態において、VANTAはフォトリソグラフィー及びエッチング処理を使用して光バンドギャップ構造へと操作される。
【0100】
VANTAから成る高分子複合体を含む有機電気装置用の適用は、光学フィルター、偏光板、回折格子等の光学要素の他に埋め込み応力予測センサーも含む。上記適用は、例示的目的のためであり、本発明を制限することを意図するものではない。さらなる適用が検討されており、それらは本発明の範囲内である。
【0101】
以下の実施例を提供して、本発明の側面をさらに例示し、そこから生じる利点を実証する。説明する特定の実施例に本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0102】
単層ナノチューブをレーザー蒸発法によって合成し、希硝酸還流/空気酸化処理によって精製した。分子量51,000及び多分散性1.1を有する共役高分子ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキシロキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MJEHPPV)を提供した。MEHPPVにおいてSWNTが均一に分散するために、オルト−ジクロロベンゼン(ODCB)及びクロロホルム(CHCl)の2つの溶媒を使用して、超音波の下で、それぞれSWNTを懸濁し、MEHPPVを溶解させた。
【0103】
以下の段階において、SWNT及びMEHPPV溶液を混合して、所望のドーピング濃度でSWNT/MEHPPV複合体溶液を形成させた。抵抗10ohm/squareのインジウム酸化スズ(ITO)基板上に、80nmの厚さの発光膜を複合体溶液から回転成形した。2×10−6Torrの真空下で回転成形薄膜上にアルミニウム(Al)電極を熱蒸発させることによって、SWNT/MEHPPV複合体の単層LEDをITO/複合体/Alの構成で作製した。
【0104】
回転成形薄膜の厚さは、Dektak IIA表面形状測定装置で測定した。EL、PV、PL特性は、Keithley 2400ソースメーター、積分球測定、Fluorolog 3−22分光計を用いて窒素雰囲気下で測定した。
【0105】
SWNTが存在するとMEHPPVのEL強度が増加し、順バイアスでの閾値電圧が純粋なMEHPPVの8Vから、0.1wt%のSWNT含有高分子複合体では2Vまで低下することが図10Aからわかる。0.1wt%のSWNTによって著しい電荷注入及びそれによって交流EL出力を生じさせる逆バイアスでのMEHPPVからのEL(図10B参照)が起こる。
【0106】
SWNT(0.1wt%)/MEHPPV複合体と純粋なMEHPPVとの間での類似したELスペクトルから、順バイアスまたは逆バイアスで複合体LEDにおいてMEHPPVから発光が起こっていることが確認される。従って、分散されたSWNTが電荷注入を向上させ、順バイアス及び逆バイアスの両方でSWNT/MEHPPV複合体LEDにおけるELを実質的に強化することは明確である。
【0107】
ここで我々は、SWNT/MEHPPV複合体において、分散されたSWNTが電荷注入及びELの両方を促進する理由を検討する。バンド図(図10D参照)から、順バイアスではSWNT/MEHPPV複合体においてITO/SWNT及びSWNT/Al接触部に実質的なポテンシャル障壁が存在しないため、電子及び正孔が容易にSWNTへと注入され得ることが示唆される。
【0108】
印加された電場の影響下で、SWNTにおける注入された電子及び正孔は、SWNTの大きな表面接触面積とナノチューブチップの電界強化効果に起因して、SWNT−高分子界面でMEHPPV複合体のLUMO(最低非占有軌道)及びHOMO(最高占有軌道)へとさらに移動することができる。そのため分散されたSWNTは、順バイアス及び逆バイアスの両方でチューブ−鎖界面を介して共役高分子への電子及び正孔注入を向上させることができ、図11A及び図11Bに見られるような強化された順及び逆有機ELをもたらす。
【0109】
通常、SWNT高分子界面でのバンドオフセットは励起子の解離を引き起こすため、図11Aに示すようにPV反応が上昇することがわかる。このSWNT誘発の励起子解離を解析するために、単層SWNT/MEHPPV複合体LEDの光電流を450mnで0.2mW/cmの照明の下で測定した。図11Bから、SWNT/MEHPPV LEDからの光電流は、SWNTドーピングに応じて連続的に上昇することがわかる。
【0110】
例えば、0.1wt%のSWNTは、逆バイアスの0.6Vでは6倍光電流を増加させる。従って、低ドーピング濃度(=0.1wt%)のSWNTはSWNT/MEHPPV複合体LEDにおいてEL及びPVの両方を増強すると結論付けることができる。通常、EL発光及びPV応答はオプトエレクトロニクス装置において競合すると言える。SWNTで強化されたELとPVとの競合をさらに理解するために、単層SWNT/MEHPPV複合体LEDを基準としてSWNTドーピング濃度に応じたEL効果及び光電流の両方を測定した。
【0111】
図12は、外部量子EL効果が、低濃度SWNTドーピングでの0.04%光子/電子から上昇し、SWNT濃度を約0.02wt%まで増加させると最大の約0.25%光子/電子まで直ぐに到達することを示す。さらにSWNT濃度を増加させると、EL効果が減少する結果となった。しかしながら、SWNTドーピングを低濃度から比較的高濃度の0.2wt%まで増加させると光電流は連続的な上昇を示す。従って、低濃度で分散されたSWNTは主にSWNT−高分子界面を介したバイポーラ電荷注入を向上させ、その結果順バイアス及び逆バイアスの両方で高分子ELを強化すると結論付けることができる。
【0112】
SWNT/MEHPPV複合体において、SWNT濃度をさらに増加させると(>0.02wt%)、EL効果は大きく減少し、PV反応の増大が顕著となる。結論として、このSWNT濃度依存EL及びPV反応から、カーボンナノチューブドープ共役高分子オプトエレクトロニクス装置において共役高分子材料中のSWNTの分散を調整することにより、EL及びPV二重の機能を別々に制御することが可能となることが示唆される。
【0113】
本発明を好ましい実施形態に対して特に説明したが、本発明の精神と範囲から逸脱することなく前述及びその他の詳細な変更がなされ得ることは当業者に理解されるだろう。従って、本発明は、既存の形態並びに説明及び例示した詳細に限定されず、添付の特許請求の範囲の中にある。
【符号の説明】
【0114】
5 カーボンナノチューブ
6 カーボンナノチューブマット
10 ネットワーク
15 アレイ
20 高分子マトリックス
60 電極
65 振動電場
70 正極
75 負極
100 束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリックス中に第1複数の導電性ナノ構造体を含む高分子複合体と、
高分子複合体の対向する側に正極及び負極と、を備え、
前記正極及び負極の内の少なくとも一方が第2複数の導電性ナノ構造体を備えることを特徴とする有機電気装置。
【請求項2】
前記第2複数の導電性ナノ構造体が、前記正極及び負極の内の少なくとも一方に高分子マトリックスの仕事関数と実質的に同一の仕事関数を提供するためのドーパントを含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機電気装置。
【請求項3】
前記第1複数の導電性ナノ構造体が第1値の濃度を有する場合に、前記有機電気装置が有機発光ダイオードであり、前記第1複数の導電性ナノ構造体が第2値の濃度を有する場合に、前記有機電気装置が光起電装置であり、前記第1値が前記第2値未満であることを特徴とする、請求項1に記載の有機電気装置。
【請求項4】
前記第1値が、約0.001wt%から約0.2wt%までの範囲の第1濃度であり、前記第2値が、約0.001wt%から約1wt%までの範囲の第2濃度であることを特徴とする、請求項1に記載の有機電気装置。
【請求項5】
前記高分子複合体が高分子マトリックスから成り、前記複数の導電性ナノ構造体が前記高分子マトリックス内に位置するカーボンナノチューブを含み、前記カーボンナノチューブが前記正極及び負極の間に電気的連結を提供し、パーコレーション閾値未満に位置していることを特徴とする、請求項1に記載の有機電気装置。
【請求項6】
前記高分子複合体が、共役高分子ポリ(2‐メトキシ‐5‐(2’‐エチルヘキシルオキシ)‐1,4‐フェニレンビニレン)(MJEHPPV)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機電気装置。
【請求項7】
前記第1複数の導電性ナノ構造体が、n型またはp型ドープされていることを特徴とする、請求項2に記載の有機電気装置。
【請求項8】
前記第1複数の導電性ナノ構造体が、垂直に配列したカーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項1に記載の有機電気装置。
【請求項9】
前記有機電気装置の厚さが、上限100ミクロンの厚さを有することを特徴とする、請求項1に記載の有機電気装置。
【請求項10】
逆バイアス条件で作動させる場合に、前記有機発光ダイオードが発光することを特徴とする、請求項2に記載の有機電気装置。
【請求項11】
前記第2複数の導電性ナノ構造体から成らない前記正極及び負極のうちの少なくとも一方が、金属を含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機電気装置。
【請求項12】
複数の導電性ナノ構造体を提供する段階と、
高分子複合体を提供するために前記複数の導電性ナノ構造体を高分子マトリックス中に分散させる段階と、を含む有機電気装置の形成方法であって、
前記複数の導電性ナノ構造体が第1濃度で存在する場合、有機電気装置がエレクトロルミネセンス反応を特徴とし、前記複数の導電性ナノ構造体が第2濃度で存在する場合、有機電気装置が光起電反応を特徴とし、前記第1濃度が前記第2濃度未満であることを特徴とする、有機電気装置の形成方法。
【請求項13】
前記第1濃度の前記複数の導電性ナノ構造体が有機発光ダイオードを提供し、前記第2濃度の前記導電性ナノ構造体が光起電装置を提供することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記導電性ナノ構造体が、垂直に配列するカーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記垂直に配列するカーボンナノチューブを、化学気相堆積によって成長させることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記導電性ナノ構造体を、レーザー蒸発法によって提供し、酸処理し、高純度に酸化することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記導電性ナノ構造体が、単層カーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
高分子マトリックスの最高占有分子軌道と最低非占有分子軌道との間に位置する仕事関数を有する単層カーボンナノチューブを提供するために、前記導電性ナノ構造体をドープすることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記複数の導電性ナノ構造体を高分子マトリックス中に分散させる段階が、誘電泳動配列、真空ろ過、エレクトロスパンナノチューブ−高分子ファイバー、可溶性ナノチューブのスプレー堆積の内の少なくとも1つまたはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
高分子マトリックス中に複数のカーボンナノ構造体を分散させる段階が溶媒を含み、前記溶媒がオルトジクロロベンゼン(ODCB)、クロロホルム(CHCl)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、コール酸ナトリウム(SC)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、t‐オクチルフェノキシポリエトキシエタノール、またはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
高分子マトリックス中に前記複数のカーボンナノ構造体を分散させる段階が、溶媒に電荷輸送成分及びドーパント材料を加える段階を含み、前記電荷輸送成分及びドーパント材料が、カーボンナノ構造体及び高分子マトリックスの接合の抵抗を低下させることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
正極及び負極と、
前記正極及び前記負極と電気的に接触して配置された高分子複合体と、を含む有機電気装置であって、前記高分子複合体が高分子マトリックスと、高分子マトリックスを通って前記正極及び負極の間に電気的連結を提供するカーボンナノ構造体の最小パーコレーションネットワークと、を含む有機電気装置。
【請求項23】
最小パーコレーションネットワークが二次元パーコレーション閾値であることを特徴とし、前記パーコレーション閾値が、
=(N/Vp)(1/Vex
とほぼ同等であり、Nがパーコレーションでのナノチューブ数、Vが高分子複合体体積、Vexが排除体積であることを特徴とする、請求項22に記載の有機電気装置。
【請求項24】
前記排除体積が、
ex(d,l)=2・d・((2p/3)d+p・d+l+l・<sinγ>)と同等であり、dが単一のナノチューブの直径、lが単一のナノチューブの長さ、γが二つの単一のナノチューブの配列の間の角度であることを特徴とする、請求項23に記載の有機電気装置。
【請求項25】
高分子マトリックスを提供する段階と、
前記高分子マトリックス内にカーボンナノチューブの束を提供する段階と、
カーボンナノチューブのネットワークにカーボンナノチューブの束を分散させる段階と、
を含み、カーボンナノチューブのネットワークの仕事関数が高分子マトリックスの仕事関数と実質的に一致することを特徴とする、複合体の提供方法。
【請求項26】
前記カーボンナノチューブの束を提供する段階が、レーザー蒸発法を含むことを特徴とする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記カーボンナノチューブの束を分散させる段階が、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、コール酸ナトリウム(SC)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、t‐オクチルフェノキシポリエトキシエタノール、またはそれらの組み合わせを含む溶媒を含むことを特徴とする、請求項25に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2010−515227(P2010−515227A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544103(P2009−544103)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/026421
【国際公開番号】WO2008/082609
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(509181448)
【出願人】(509181389)
【出願人】(509181390)
【出願人】(509181437)
【出願人】(509181459)
【出願人】(509181415)
【出願人】(509181426)
【Fターム(参考)】