説明

透明導電膜およびその形成方法

【課題】より入手しやすいTiを母体材料とした透明導電膜を提供する。
【解決手段】透明導電膜は、TiONの結晶から構成されてる。この結晶は、後述するように、面心立方格子構造のTiOもしくはTiNの回折点(200)と同じ位置にX線の回折ピークを示す結晶性を有するものである。また、透明導電膜は、金属Tiターゲットを用いた反応性スパッタ法により形成できる。このスパッタ法において、酸素ガスの流量は、ターゲットの表面に金属Tiが露出した状態が定常的に保持される上限の流量よりも少ない流量とすればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型ディスプレイ、太陽電池、バイオ刺激電極などに適用可能な透明導電膜およびその形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、薄型ディスプレイのような電子機器に最も多く使用されている透明導電膜は、ITO(Indium Tin Oxide)である。しかし、ITOの主材料であるインジウムは、希少金属であるため、太陽電池用には、専らGaドープZnOやAlドープZnOなどが使用されている。
【0003】
一方、より入手しやすいTiを母体材料とするTiNが、透明導電性を有することが知られている。TiNは、AuやNiなどの極薄膜を透明導電膜として流用するのに比較すれば可視光透過率は高いものの、黄金色を帯びた金属光沢を示し、透過率はあまり高くない。
【0004】
他方、Tiを母体材料とするTiO2は無色透明であるが、絶縁体である。TiOx(x〜2)膜は、酸素欠損による導電性を示すようになるが、もしもこの膜が十分に透明で結晶構造がアナターゼ相であれば、TiOx(x〜2)膜の抵抗率は10Ωcm程度を示し、これでは透明導電膜として使えない。
【0005】
これに対し、最近では、TiO2にNbをドープした透明導電膜Nb:TiO2が報告されている(非特許文献1)。用いる基板の種類にも依存するが、TiO2を構成しているTi原子の一部をNb原子置き換えることにより、10-1Ωcmから10-4Ωcm台に入る程度の抵抗率が得られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y.Furubayashi, et al. ,"A transparent metal: Nb-doped anatase TiO2",APPLIED PHYSICS LETTERS, Vol.86, 252101, 2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、透明導電膜Nb:TiO2は、PLD法やスパッタ法により形成できるが、生産性に優れるスパッタ法を用いて高速成膜するのは困難であるという問題がある。金属Tiをターゲットに用いた反応性スパッタリングにおいては、ターゲット表面に金属領域が存在する間は、スパッタ速度は非常に大きい。しかしターゲット表面がすべて酸素で覆われるとスパッタ速度は急激に低下する。このように急激な変化はTiO2という材料に特有なものである。一方、TiO2ターゲットを用いてスパッタ成膜を行うには、ターゲットが相当な還元状態のTiOxを使用しない限り、十分なスパッタ速度を得ることができない。このように、透明導電膜Nb:TiO2は、スパッタ法では高速な成膜が容易ではない。
【0008】
さらにNb:TiO2の透明導電性を発現させるためには、アナターゼ結晶の状態にすることが必要であり、成膜中あるいは成膜後に350〜500℃程度でアニールする工程が入る。よって熱に弱いプラスチック基板などは用いることができないという問題点があった。
【0009】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、より入手しやすいTiを母体材料とした透明導電膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る透明導電膜は、TiONの結晶から構成されている。ここで、結晶は、面心立方格子構造のTiOもしくはTiNの回折点(200)と同じ位置にX線の回折ピークを示す結晶性を有するものであればよい。
【0011】
本発明に係る透明導電膜の形成方法は、不活性ガス,酸素ガス,および窒素ガスかなるプラズマを生成し、金属Tiから構成されたターゲットに負のバイアスを印加してプラズマより発生した粒子をターゲットに衝突させてスパッタ現象を起こし、ターゲットを構成する材料を基板の上に堆積することで、基板の上にTiONの結晶から構成された透明導電膜を形成する工程を備え、酸素ガスの流量は、ターゲットの表面に金属Tiが露出した状態が定常的に保持される上限の流量よりも少ない流量とする。
【0012】
上記透明導電膜の形成方法において、透明導電膜の形成は、基板を加熱しながら行うことよい。また、プラズマは、電子サイクロトロン共鳴により生成されて発散磁界により運動エネルギーが与えられた電子サイクロトロン共鳴プラズマであるとよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、透明導電膜をTiONの結晶から構成したので、より入手しやすいTiを母体材料とした透明導電膜が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】酸素ガスだけを導入した反応性スパッタによりTiOx膜を形成する場合の、スパッタ速度とターゲットセルフバイアス電位の変化を概念的に示した特性図である。
【図2】窒素ガスの流量に対するTiON膜の抵抗率および透過率の変化を示す特性図である。
【図3】本実施の形態におけるTiON膜の典型的なX線回折パタンを示す特性図である。
【図4】酸素ガス流量0.6sccm、窒素ガス流量0.8sccmと、Tiが十分に酸化された状態になる条件でスパッタした膜のX線回折パタンを示す特性図である。
【図5】酸素ガス流量が0.2sccmおよび0.3sccmで、基板温度を室温(RT)および400℃の各々の条件について、窒素ガス流量を変えたときの抵抗率の変化を示す特性図である。
【図6】窒素ガス流量0.8sccmにおいて、酸素ガス流量を変えたときの抵抗率の変化を示す特性図である。
【図7】基板温度を室温としたときの、窒素ガス流量と形成されるTiON膜の透過率の変化との関係を示す特性図である。
【図8】基板温度を400℃としたときの、窒素ガス流量と形成されるTiON膜の透過率の変化との関係を示す特性である。
【図9】窒素ガス流量0.8sccmと同一条件とし、酸素ガス流量を0.2sccmから0.6sccmまで変化させたときの透過率の変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。本発明に係る透明導電膜は、TiONの結晶から構成されたものである。この結晶は、後述するように、面心立方格子構造のTiOもしくはTiNの回折点(200)と同じ位置にX線の回折ピークを示す結晶性を有するものである。
【0016】
TiOx(0<x<1)は、金属的な伝導を示すため、抵抗率は低いが透明度も低い。これに対し、TiOxは、x=1を超えて酸素量がx=2に近づくにつれて、アナターゼ相やルチル相の結晶形が現れ、抵抗率も急に高くなる。この状態では、膜の透明性は高いが、抵抗率も高い。
【0017】
一方、金属Tiターゲットを用いた反応性スパッタによりTiN膜を形成する場合には、窒素ガスの流量に応じてスパッタ速度は変化するものの、酸素ガスの反応性スパッタによりTiO2膜を形成する場合に比べれば、スパッタ速度はずっと緩やかに移り変わる。TiN膜の抵抗率は窒素の導入量により変化するが、概して、抵抗率および透過率ともに低いという特徴がある。
【0018】
以上の知見をもとに、TiO2の透明性とTiNの伝導性をある程度両立できるTiONを透明導電膜として利用するものとしたところに、本発明の特徴がある。また、TiONを反応性スパッタ法により形成する場合、酸素ガスと窒素ガスの流量を適切に設定することで、特性の良い透明導電膜を実現することができることが判明した。
【0019】
以下、より詳細に説明する。
【0020】
はじめに、形成方法について説明する。本実施の形態におけるTiONからなる透明導電膜は、金属Tiターゲットを用いる反応性スパッタ法により形成すればよい。より詳細に示すと、不活性ガス,酸素ガス,および窒素ガスかなるプラズマを生成し、金属Tiから構成されたターゲットに負のバイアスを印加してプラズマより発生した粒子をターゲットに衝突させてスパッタ現象を起こし、ターゲットを構成する材料(Ti)を基板の上に堆積することで、基板の上にTiONの結晶から構成された透明導電膜を形成すればよい。スパッタ源の種類、装置の排気速度、投入パワー、プラズマ密度などにより、成膜条件は様々であるが、共通する特徴と手順を述べる。
【0021】
図1は、酸素ガスだけを導入した反応性スパッタによりTiOx膜を形成する場合の、スパッタ速度とターゲットセルフバイアス電位の変化を概念的に示した特性図である。図1において、実線は、スパッタ速度の変化を示し、点線は、ターゲットバイアス電圧の変化を示している。酸素ガス流量をゼロから増やしていくと、酸素ガス流量が低いうちはターゲット表面に金属Tiが露出しているため、いわゆるメタルモードのスパッタリングが進行する(O−A間)、このメタルモードにおいては、スパッタ速度も大きく、ターゲット電位も低い状態(マイナスの大きな値)にある。
【0022】
これに対し、ターゲット表面がすべて酸化されると、ターゲット電位が急に上昇すると同時にスパッタ速度も1桁以上低下する(A→B)。この状態よりさらに酸素ガス流量を増やしても、スパッタ速度にあまり変化はない(B−C間)。この状態が、いわゆる酸化物モードのスパッタである。この状態より逆に、供給する酸素ガス流量を減らしていくと、今度は、C→D→E→Oのラインに沿ってスパッタ速度が変わる。このように、酸素ガスだけを用いた反応性スパッタによるTiOx膜の形成では、酸素ガス流量を増やしたときと減らしたときでは、図1に示すようなヒステリシスが生じる。
【0023】
本実施の形態における透明導電膜の形成方法では、上述した酸素流量を変化させる中の遷移領域を避け、図1中のEの状態よりも左側のメタルモードの状態で、TiONの成膜を行うところに特徴がある。言い換えると、酸素ガスの供給流量を、ターゲットの表面に金属Tiが露出した状態が定常的に保持される上限の流量よりも少ない流量とし、上述した反応性スパッタによりTiONの成膜を行えばよい。
【0024】
例えば、まず、TiONの形成に用いる反応性スパッタ装置において、図1を用いて説明したような酸素ガスの供給流量に対するスパッタ速度およびターゲットバイアス電圧の変化特性を取得しておき、メタルモードの酸素ガス流量の範囲を確定しておく。
【0025】
次に、図1の例えばFの状態の酸素ガス流量において、窒素ガスも同時に導入してスパッタを行う。この場合、窒素ガス流量を増やしていくとスパッタ速度は緩やかに低下するものの、酸素ガス流量に対する変化ほど急激ではない。
【0026】
上述したことにより形成されるTiON膜の抵抗率と透過率を、窒素ガス流量に対してプロットすると、図2のようになる。図2において、実線は、形成されたTiON膜の抵抗率の変化を示し、点線は、透過率の変化を示している。窒素ガス流量が低い条件では、窒素ガス流量によらず抵抗率は一定である。これは酸素に結合していないTiの結合手に窒素原子が結合するためであり、透過率は向上するが、酸化度が変わらないため抵抗率はあまり影響を受けない。
【0027】
これに対し、窒素ガス流量をさらに増やしていくと、過剰に窒素原子が薄膜内に取り込まれるため、抵抗率は増大していくが、膜の透過率もより向上する。このように抵抗率と透過率とはトレードオフの関係にある。従って、より低抵抗なTiON膜が必要な場合には、多少透過率を犠牲にして、反応性スパッタにより成膜するときに供給する窒素ガス流量を低めに設定するとよい。これに対し、より高透過率なTiON膜が必要な場合には、供給する窒素ガスを多めに流せばよい。
【0028】
次に、金属Tiターゲットを用いた電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマスパッタ法により、実際にガラス基板の上にTiON膜を形成した結果について説明する。ECRスパッタ法は、低ダメージ成膜を特徴とし、適切なガス流量の設定により低抵抗のZnO透明導電膜を形成できることが知られている。
【0029】
まず、本実施の形態におけるECRプラズマスパッタ法によるTiON膜の形成では、供給する酸素ガス流量に対して定常的にメタルモードが保たれる酸素ガス流量は、1.2sccm以下であった。なお、sccmは流量の単位であり、0℃・1気圧の流体が1分間に1cm3流れることを示す。
【0030】
次に、形成したTiON膜の典型的なX線回折パタンを図3に示す。成膜の条件は、酸素ガス流量0.3sccm、窒素ガス流量0.6sccmである。この条件で形成したTiON膜は、抵抗率が0.63mΩcmであった。基板温度は室温(23℃程度)であるが、400℃においても同様なX線回折パタンが得られた。図3からわかるように、本実施の形態の形成法によるTiON膜は、面心立方格子構造のTiOやTiNの回折角とほぼ一致した位置に、(200)、(220)、(311)などのピークが見られる。このことから、TiONはTiOやTiNの面心立方格子構造と同じ構造を取ることが分かる。なお、この状態は、形成した膜中に、複数のTiONの微結晶粒が分散している状態と考えることができる。
【0031】
一方、酸素ガス流量0.6sccm、窒素ガス流量0.8sccmと、Tiが十分に酸化された状態になる条件でスパッタした膜のX線回折パタンを図4に示す。なお、成膜時の基板温度は450℃としている。図4に示すように、アナターゼ相に対応する回折ピーク(101),(004),(200),(105),(213)、および、ルチル相に対応する回折ピーク(110)が見られる。結晶構造がアナターゼ相のTiO2に近いことから、組成はTiO2-xx(x〜2)であり、窒素原子は、アナターゼ相の結晶構造にあまり影響しないような格子間位置に入っていると推測される。この試料の抵抗率は、2.6Ωcmと高く、透明導電膜としての利用には向いていない。
【0032】
以上の結果から、Tiの酸化度がTiOに近い場合とTiO2に近い場合では、結晶構造が全く異なることがわかる。透明導電膜に適しているのは、前者の「Tiの酸化度がTiOに近い場合」である。よって、透明導電膜への適応性は、X線回折パタンにより判断することができる。
【0033】
酸素ガス流量は、0.2sccmおよび0.3sccm、基板温度は、室温(RT)および400℃の各々の条件について、窒素ガス流量を変えたときの抵抗率を図5に示す。図5において、黒丸は、酸素ガス流量0.2sccm、基板温度は室温である。また、黒四角は、酸素ガス流量0.3sccm、基板温度は室温である。また、白丸は、酸素ガス流量0.3sccm、基板温度は400℃である。また、白四角は、酸素ガス流量0.3sccm、基板温度は400℃である。なお、白三角は、酸素ガス流量0.2sccm、基板温度を室温としたときの(200)回折ピーク強度の変化を示している。
【0034】
黒丸、黒四角、白丸、および白四角の全般に、窒素ガス流量の増大に伴って高抵抗化している。室温での成膜(黒丸、黒四角)と400℃での成膜(白丸、白四角)とを比較すると、400℃での成膜の方がより低い抵抗率を示している。これは、高い温度でより結晶化が進んだ状態となり、この結晶化により電子の移動度が大きくなるためである。
【0035】
また、図5の白三角に示すように、窒素ガス流量を増やすと回折ピーク強度は減少し、形成される膜は、非晶質状態に近くなっている。窒素ガス流量1.5sccmまでは有為の回折ピーク強度があるが、これよりさらに高窒素ガス流量においては、非晶質である。
【0036】
一方、窒素ガス流量0.8sccmにおいて、酸素ガス流量を変えたときの抵抗率の変化を図6に示す。図6において、白丸は、形成したTiON膜の抵抗率の変化を示し、黒丸は、(200)回折ピーク強度の変化を示している。酸素流量においては、この流量を増やすと急激に抵抗率が増大している。このことは、図5の結果も合わせ、酸素原子および窒素原子ともに、TiON膜内に過剰に取り込まれると高抵抗化することを示している。なお、図6に示すように、酸素ガス流量においては、わずかに0.3sccmの酸素ガス流量の変化で抵抗率が2桁変わるが、図5に示すように、窒素ガス流量においては、同様の抵抗変化を起こすためには、1sccmの窒素ガス流量変化を要している。このように、TiON膜においては、窒素よりも酸素の方が抵抗を高める効果がはるかに大きい。
【0037】
また、図5に示す結果では、抵抗率が測定できる範囲に留まっているが、図6に示す結果では、酸素ガス流量0.6sccmの場合は、抵抗率はグラフの縦軸の範囲を大きくはみ出している。また酸素ガス流量0.5sccmまでは(200)回折ピークが何とか確認できるが、これ以上では観測されず、結晶になっていない。
【0038】
以上の図5および図6に示す結果より、TiON膜の抵抗率が透明導電膜として使える範囲に入るには、これが結晶となっていることを示す、面心立方格子構造の(200)回折ピークが出現することが必要条件とすることができる。
【0039】
次に、金属Tiターゲットを用いたECRプラズマスパッタ法によるTiON膜の形成において、酸素ガス流量0.3sccmの条件の下、窒素ガス流量を変えて成膜したTiON膜の透過率の変化について図7および図8を用いて説明する。図7は、基板温度を室温としたときの、窒素ガス流量と形成されるTiON膜の透過率の変化との関係を示す特性図である。また、図8は、基板温度を400℃としたときの、窒素ガス流量と形成されるTiON膜の透過率の変化との関係を示す特性である。
【0040】
図7および図8に示すように、どちらの基板温度条件においても、窒素ガス流量の増大に伴って透過率は増大している。
【0041】
ここで、基板温度条件が、室温と400℃との結果を比較する。室温での成膜の場合、窒素ガス流量1.0sccmのとき、波長400〜800nmの可視光域の平均透過率は、40%であり、このとき抵抗率は4mΩcmである。窒素ガス流量1.5sccmのとき、可視域の平均透過率は60%であり、抵抗率は0.2Ωcmである。一方、400℃成膜の場合、窒素ガス流量1.0sccmのとき、平均透過率は50%であり、抵抗率は2.3mΩcmである。また、窒素ガス流量1.5sccmのとき、可視域の平均透過率は57%であり、抵抗率は6mΩcmである。これらのことより明らかに、同じガス流量であれば、室温成膜よりも400℃成膜の方が透過率はより高く、抵抗率はより低い。
【0042】
なお、金属Tiターゲットを用いたECRプラズマスパッタ法によるTiON膜の形成において、窒素ガス流量0.8sccmと同一条件とし、酸素ガス流量を0.2sccmから0.6sccmまで変化させたときの透過率の変化を図9に示す。この場合もやはり酸素ガス流量の増大とともに、TiON膜の透過率は増大している。ただし、前述したように、酸素ガス流量が大きい条件で形成したTiON膜の抵抗率は、高いものとなり、導電膜には適していないものとなる。
【0043】
以上に説明したように、金属Tiターゲットを用いた反応性スパッタ法で、酸素ガスの流量を、ターゲットの表面に金属Tiが露出した状態が定常的に保持される上限の流量よりも少ない流量とする条件としてTiON膜を形成することで、TiOxやTiNよりも透過率が高く、TiO2よりも抵抗率の低い透明導電膜TiONを得ることができる。
【0044】
TiONは、ZnやInよりもクラーク数が大きなTiという、地球上に豊富に存在する元素を主成分としている。また、Nbのような希少金属のドーピング材料を使用していない。従って、ITO、ZnO系透明導電膜、およびNbドープTiO2などに比較し、本発明の透明導電膜は、環境適合性が高く、低コストで形成することができる。また、成膜時の基板温度条件を室温程度としていても、相応の透明性および導電性を発現することができるため、ZnO系とは別系列の透明導電膜として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiONの結晶から構成されたことを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
請求項1記載の透明導電膜において、
前記結晶は、面心立方格子構造のTiOもしくはTiNの回折点(200)と同じ位置にX線の回折ピークを示す結晶性を有することを特徴とする透明導電膜。
【請求項3】
不活性ガス,酸素ガス,および窒素ガスかなるプラズマを生成し、金属Tiから構成されたターゲットに負のバイアスを印加して前記プラズマより発生した粒子を前記ターゲットに衝突させてスパッタ現象を起こし、前記ターゲットを構成する材料を基板の上に堆積することで、前記基板の上にTiONの結晶から構成された透明導電膜を形成する工程を備え、
前記酸素ガスの流量は、前記ターゲットの表面に金属Tiが露出した状態が定常的に保持される上限の流量よりも少ない流量とする
ことを特徴とする透明導電膜の形成方法。
【請求項4】
請求項3記載の透明導電膜の形成方法において、
前記透明導電膜の形成は、前記基板を加熱しながら行うことを特徴とする透明導電膜の形成方法。
【請求項5】
請求項3記載の透明導電膜の形成方法において、
前記プラズマは、電子サイクロトロン共鳴により生成されて発散磁界により運動エネルギーが与えられた電子サイクロトロン共鳴プラズマであることを特徴とする透明導電膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−21237(P2011−21237A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166999(P2009−166999)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】