説明

透明導電膜および透明導電膜の製造方法、並びに色素増感太陽電池および固体電解質電池

【課題】安価かつ安定に供給可能であり、毒性の少ない材料を用いた新規な透明導電膜および透明導電膜の製造方法、色素増感太陽電池および固体電解質電池を提供する。
【解決手段】。この透明導電膜は、Li4Ti512をターゲットとして用い、窒素を含む雰囲気中で、スパッタリング法により、形成されたものである。この透明導電膜は、Li、Ti、O、Nを含有し、TiN型結晶構造を有する、透明である新規な透明導電膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、透明導電膜および透明導電膜の製造方法、並びに色素増感太陽電池および固体電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、透明でかつ電気を通し、ディスプレイパネル用の透明電極、太陽電池用の透明電極などに用いられている。
【0003】
従来、主に使用されている透明導電膜は、酸化物インジウムに酸化スズを添加したITO(indium tin oxid)膜や、酸化スズにアンチモンをドープしたATO(Sb-doped tin oxide)膜、酸化スズにフッ素をドープしたFTO(F-doped tin oxide)膜などである。
【0004】
ITO膜は、抵抗率の低さ、透明度の高さや電気化学的安定性など透明導電膜として優れた特性を有するが、希少金属であるインジウム(In)を含むため、コストが高く、また、人体に対する有害性が高いものである。ITO膜やFTO膜は、太陽電池の透明電極として用いた場合に、透明電極中のスズが光電変換層へ拡散し、性能劣化する問題を有する。
【0005】
特許文献1には、酸化インジウム、または酸化スズを主成分とする透明導電膜の表面に、窒化チタン、または酸素を含む窒化チタンからなる保護膜を形成した、耐食性のある透明導電膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−102108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ITO膜は、その構成元素であるインジウムが希少金属であるために資源の枯渇が懸念され、その代替となる材料が求められている。また、新しい透明導電膜には、コストのかからない成膜プロセスや安価な材料を使用すること、環境への優しさや毒性がないことが求められている。
【0008】
したがって、この発明の目的は、安価かつ安定に供給可能であり、毒性の少ない材料を用いた新規な透明導電膜および透明導電膜の製造方法、この透明導電膜を用いた色素増感太陽電池および固体電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、Li4Ti512をターゲットとして用い、窒素を含む雰囲気中で、物理的成膜方法によって形成した透明導電膜である。
【0010】
第2の発明は、Li4Ti512をターゲットとして用い、窒素を含む雰囲気中で、物理的成膜方法によって透明導電膜を形成する透明導電膜の製造方法である。
【0011】
第3の発明は、透明導電層と、光電極層と、電解質層と、対極とを備え、透明導電層は、Li4Ti512をターゲットとして用い、窒素を含む雰囲気中で、物理的成膜法によって形成した透明導電膜を含む色素増感太陽電池である。
【0012】
第4の発明は、正極層と、負極層と、固体電解質層とを備え、負極層は、Li4Ti512をターゲットとして用い、窒素を含む雰囲気中で、物理的成膜法によって形成した透明導電膜を含む固体電解質電池である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、安価かつ安定に供給可能であり、毒性の少ない材料を用いた新規な透明導電膜およびその製造方法、並びに色素増感太陽電池および固体電解質電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態による固体電解質電池の構成例を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態による色素増感太陽電池の構成例を示す断面図である。
【図3】実施例1の透明導電膜の写真である。
【図4】比較例1の透明膜のテスターによる評価結果を示す写真である。
【図5】実施例1の透明導電膜のXPSスペクトルである。
【図6】実施例1の透明導電膜のXRD回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、説明は、以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(透明導電膜の例)
2.第2の実施の形態(透明導電膜を用いた色素増感太陽電池の例)
3.第3の実施の形態(透明導電膜を用いた薄膜電池の例)
4.他の実施の形態(変形例)
【0016】
(透明導電膜)
この発明の第1の実施の形態による透明導電膜について説明する。この透明導電膜は、Li4Ti512をターゲットとして用い、窒素を含む雰囲気中で、物理的成膜方法であるスパッタリング法により、形成されたものである。この透明導電膜は、Li、Ti、O、Nを含有し、透明性を有する新規な透明導電膜である。この透明導電膜は、XRD(X-Ray Diffraction)分析によれば、TiN型結晶構造を有することが確認されている、新規な透明導電膜である。
【0017】
(透明導電膜の製造方法)
ターゲットは、Li4Ti512焼結体を用いることができる。Li4Ti512焼結体は、例えばLi2CO3粉末、TiO2粉末を原料とし、固相反応法により合成したLi4Ti512粉末を、成形・焼結することにより、得ることができる。
【0018】
Li4Ti512焼結体をターゲットとして用いて、窒素を含む雰囲気中、RFマグネトロンスパッタリング法により、透明導電膜を製造することができる。この際、成膜温度は、常温に設定することも可能である。なお、スパッタリング法の種類は、RFマグネトロンスパッタ法に限定されず、RFスパタッリング法などの他のスパッタリング法を用いてもよい。
【0019】
例えば、RFマグネトロンスパッタリング装置を用いて、ガス圧0.5Pa、出力:50W、ガス流量:Ar:10sccm、N2:10sccm、成膜温度:常温で成膜することによって、透明導電膜を製造することができる。この透明導電膜の抵抗率は、4端子法で測定した場合において、2.56MΩ/□を示す。
【0020】
この発明の第1の実施の形態による透明導電膜は、インジウムを使用していないため、安価で無害である。また、常温で成膜することができるため、基板材料の選択の自由度を高めることが可能となる。
【0021】
2.第2の実施の形態
上述の透明導電膜を用いた色素増感太陽電池について説明する。図1は、この発明の第2の実施の形態による色素増感太陽電池の構成を示す。この色素増感太陽電池は、透明基板11と、透明導電層12と、光電極層13と、電解質14と、対極15とを備える。この色素増感太陽電池は、透明基板11上に透明導電層12が形成され、この透明導電層12上に光電極層13と、電解質14と、対極15とがこの順で配置された構成を有する。
【0022】
(透明基板11)
透明基板11としては、ガラス基板、フィルムなどのフレキシブル基板などを用いることができる。透明基板11は、例示したものに限定されるものではなく、透明であれば様々なものを用いることができる。
【0023】
(透明導電層12)
透明導電層12としては、第1の実施の形態による透明導電膜を用いることができる。すなわち、透明導電層12としては、Li4Ti512をターゲットとして用いて、スパッタリング法により、窒素を含む雰囲気中で成膜することによって、形成されたものを用いることができる。
【0024】
透明導電層12は、2層または3層以上で構成されていてもよい。この場合、第1の実施の形態による透明導電膜は、電解液による腐食に強い材料で構成されているため、電解質14と接触する層に、配置されていることが好ましい。他の層を構成する透明導電膜の材料としては、従来公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、ITO、FTO、ATO、SnO2、ZnO、インジウム−亜鉛複合酸化物(IZO)などが挙げられる。他の層を構成する透明導電膜は、蒸着法、スパッタリング法、塗布法などの従来技術により形成することができる
【0025】
(光電極層13)
光電極層13は、透明導電層12上に、TiO2などの半導体微粒子を成膜および焼結することにより形成され、色素が担持された多孔質膜である。半導体微粒子は、例えば、一次粒子の平均粒径が1nm〜200nm程度、より好ましくは5nm〜100nm程度に設定されたものである。また、光電極層13は、光励起下で伝導帯電子がキャリアーとなり、アノード電流を与えるn型半導体であることが好ましい。
【0026】
TiO2以外の半導体としては、MgO、ZnO、WO3、Nb25、TiSrO3またはSnO2などの金属酸化物半導体が挙げられる。なかでもTiO2(アナターゼ構造のもの)が好ましい。なお、半導体の種類は例示されたものに限定されるものではなく、様々な材料を使用することが可能である。また、これらの半導体を2種類以上混合して用いてもよい。平均粒径の異なる半導体微粒子を混合したものを光電極層13の材料としてもよい。
【0027】
(色素)
光電極層13は、増感作用を有する色素を担持している。色素としては、ルテニウム金属錯体色素、白金、亜鉛、パラジウムなどの金属錯体色素、メチン色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、アゾ系色素、クマリン系色素、ポリエン系色素などの有機色素が挙げ2られる。なお、これらの色素は2種類以上混合して用いてもよい。
【0028】
(対極15)
対極15としては、白金、カーボン電極、導電性ポリマーなどを用いることができる。
【0029】
(電解質14)
電解質14は、例えば、電解質14中に、少なくとも1種類の可逆的に酸化/還元の状態変化を起こす物質系(酸化還元系)が溶解されたものである。酸化還元系の例としては、例えば、I-/I3-、Br-/Br2などのハロゲン類、キノン/ハイドロキノン、SCN-/(SCN)2などの擬ハロゲン類、鉄(II)イオン/鉄(III)イオン、銅(I)イオン/銅(II)イオンが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0030】
電解質14は、液体電解質でもよいし、これを高分子物質中に含有させた高分子電解質(ゲル電解質)、高分子固体電解質または無機固体電解質でもよい。具体的には、ヨウ素(I2)と金属ヨウ化物あるいは有機ヨウ化物との組合せ、臭素(Br2)と金属臭化物あるいは有機臭化物との組合せ、フェロシアン酸塩/フェリシアン酸塩あるいはフェロセン/フェリシニウムイオン等のイオウ化合物、ビオロゲン色素、ヒドロキノン/キノンが挙げられる。金属化合物のカチオンとしては、Li、Na、K、Mg、Ca、Cs等、有機化合物のカチオンとしては、テトラアルキルアンモニウム類、ピリジニウム類、イミダゾリウム類などの4級アンモニウム化合物が好適であるが、これらに限定されるものではなく、また、これらを2種類以上混合して用いてもよい。中でも、I2とLiI、NaI、イミダゾリウムヨーダイド、4級アンモニウムヨーダイド等のイオン性液体とを組合せた電解質が好ましい。なお、開放電圧を向上させる目的で、4−tert−ブチルピリジンあるいはカルボン酸などの各種添加剤を加えていてもよい。
【0031】
溶媒としては、例えば、アセトニトリル等のニトリル系、プロピレンカーボネートあるいはエチレンカーボネート等のカーボネート系、ガンマブチロラクトン、ピリジン、ジメチルアセトアミドあるいはその他の極性溶媒、メチルプロピルイミダゾリウム−ヨウ素などの常温溶融塩、またはそれらの混合物が挙げられる。より一般的には、溶媒は、水、アルコール類、エーテル類、エステル類、炭酸エステル類、ラクトン類、カルボン酸エステル類、リン酸トリエステル類、複素環化合物類、ニトリル類、ケトン類、アミド類、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、N−メチルプロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、3−メチルオキサゾリジノン、炭化水素などでもよく、これらを2種類以上混合して用いてもよい。また、溶媒は、テトラアルキル系,ピリジニウム系,イミダゾリウム系4級アンモニウム塩のイオン性液体でもよい。
【0032】
電解質14中には、必要に応じて支持電解質が加えられていてもよい。支持電解質としては、ヨウ化リチウムあるいはヨウ化ナトリウムなどの無機塩、または、イミダゾリウムあるいは4級アンモニウムなどの溶融塩が挙げられる。
【0033】
この色素増感太陽電池では、以下のようにして電池として機能する。すなわち、透明基板11側から入射した光が、透明基板11および透明導電層12を透過して色素に光があたり、色素が励起状態になり、電子を放出する。この電子は、半導体微粒子を通して透明導電層12に達し、外部に流れる。電子を放出した色素は、電解質14中のイオンから電子を受け取る。電子を放出したイオンは、再び対極15の表面で電子を受け取り、電子を放出する前の状態に戻る。
【0034】
(色素増感太陽電池の製造方法)
透明基板11上に、透明導電層12を形成する。透明導電層12は、Li4Ti512焼結体をターゲットとして用いて、スパッタリング法により、窒素を含む雰囲気中で成膜することによって形成する。透明導電層12上に半導体微粒子をペースト状にして塗布した後、これを焼結することにより、光電極層13を形成する。次に、色素を含む溶液中に浸すことにより、半導体微粒子に色素を担持し、その後、対極15を形成し、光電極層13と、対極15間に電解液を充填するなどにより、電解質14を形成する。以上により、この発明の第2の実施の形態による色素増感太陽電池を製造できる。
【0035】
この発明の第2の実施の形態による色素増感太陽電池では、電解質14に接触する部分に、第1の実施の形態による透明導電膜が配置されている。これにより、電解質14による腐食を抑制することができ、腐食による特性劣化を抑制することができる。
【0036】
3.第3の実施の形態
この発明の第3の実施の形態による固体電解質電池について説明する。この固体電解質電池は、第1の実施の形態による透明導電膜を用いた固体電解質電池である。この固体電解質電池において、第1の実施の形態による透明導電膜は、導電性を有すると共に負極活物質として機能する。
【0037】
図2は、この発明の第3の実施の形態による固体電解質電池の断面構造を示す。この固体電解質電池は、電池を構成する正極、負極、固体電解質を構成する材料を薄膜として層状に形成した薄膜型の固体電解質電池である。この固体電解質電池は、例えばリチウムイオン二次電池であり、充電を行うと、正極からリチウムが放出され、固体電解質を介し負極に吸蔵される。また、放電を行うと、負極からリチウムが放出され、固体電解質を介して正極に吸蔵される
【0038】
この固体電解質電池は、基板21上に、正極集電体層22と正極活物質層23と固体電解質層24と負極層25とが順次積層された構造を有する。
【0039】
(基板21)
基板21は、例えば、ガラス、アルミナ、樹脂などの電気絶縁性材料からなる基板、シリコンなどの半導体材料からなる基板、アルミニウム、銅、ステンレスなどの導電性材料からなる基板などを用いることができる。基板11の形状としては特に限定されるものではないが、例えば、基板状、シート状、フィルム状、ブロック状などが挙げられる。基板11は硬いものであっても、可撓性を有するものであってもよく、多様で広範囲のものを使用することができる。
【0040】
(正極集電体層22)
正極集電体層22は、良好な化学的安定性、電気伝導性を有する正極集電体材料により形成された薄膜である。なお、薄膜とは、厚さが例えば数μm以下であり、表面積に比べて体積が著しく小さい材料をいう。正極集電体材料としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレススチール、銅、ITO(Indium Tin Oxid:インジウムスズ酸化物)、白金、金、銀、などの金属材料などが挙げられる。
【0041】
(正極活物質層23)
正極活物質層23は、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料によって構成された薄膜である。リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、通常のリチウムイオン二次電池に使用されるリチウム遷移金属複合酸化物が用いられる。具体的には、例えば、LiMn24などのスピネル構造を有するリチウム・マンガン複合酸化物、LiCoO2、LiNiO2、LixNiyCo1-y2(x、yは電池の充放電状態によって異なり、通常0<x<1.00、0<y<1.00である)などの層状構造を有するリチウム複合酸化物、LiFePO4などで示されるオリビン構造を有するリチウムリン酸化合物などが挙げられる。また、遷移金属元素の一部を他の元素に置換した固溶体も使用可能である。
【0042】
その他の正極活物質材料としては、TiS2、MoS2、NbSe2、V25などのリチウムを含有しない金属硫化物、金属酸化物、またはポリアニリン若しくはポリチオフェンなどの特定のポリマーなどを使用してもよい。正極材料として、上記したリチウム複合酸化物、金属硫化物および金属酸化物などのうちの何れか一種または複数種を混合して用いるようにしてもよい。
【0043】
(固体電解質層24)
固体電解質層24は、リチウムイオン導電性があり、電子伝導性が無視できるほど小さい材料によって構成されている。このような材料としては、例えば、Li3PO4、LiPON、NASICON型Li1+xxTi2-x(PO43(M=Al、Scなどの異種元素)、ペロブスカイト型La2/3-xLi3XTiO3、LISICON型Li4-xGe1-xx4、β−Fe2(SO4)型Li32(PO43(M=In、Scなどの異種元素)などが挙げられる。
【0044】
(負極層25)
負極層25は、第1の実施の形態による透明導電膜によって構成されている。すなわち、負極層25は、Li4Ti512をターゲットとして用いて、スパッタリング法により、窒素を含む雰囲気中で成膜することで形成された透明導電膜によって構成されている。なお、負極層25を第1の実施の形態による透明導電膜と、負極集電体として機能する膜で構成してもよい。この場合、負極集電体として機能する膜を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレススチール、銅、ITO(Indium Tin Oxid:インジウムスズ酸化物)、白金、金、銀、などの金属材料などを用いることができる。
【0045】
(固体電解質電池の製造方法)
上述した固体電解質電池は例えば以下のようにして製造する。
基板21上に、正極集電体層22、正極活物質層23、固体電解質層24および負極層25をこの順で形成することにより、固体電解質電池を得ることができる。正極集電体層22、正極活物質層23、固体電解質層24は、スパッタリング法などのPVD(Physical Vapor Deposition:物理気相成長)法、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法などの気相法など公知の成膜方法により、形成できる。負極層25は、Li4Ti512をターゲットとして用いて、スパッタリング法により、窒素を含む雰囲気中で成膜することによって、形成することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
(ターゲットの作製)
原料粉末としてLi2CO3とTiO2と化学量論比で秤量し、ボールミルを用いて混合することにより混合粉末を得て、この混合粉末を大気中で800℃12時間で焼成することにより、Li4Ti512粉末を得た。次に、錠剤成形機を用いて、Li4Ti512粉末をプレス成形した後、大気中800℃6時間の条件で焼結を行うことにより、ターゲットとしてのLi4Ti512焼結体を得た。
【0048】
(透明導電膜の作製)
Li4Ti512焼結体をターゲットとして、マグネトロンRFスパッタリング装置を用いて、シリコンウエハ基板上に、以下のスパッタ条件によって、透明導電膜を形成した。
【0049】
[スパッタ条件]
スパッタ圧:0.5Pa
出力:50W
ガス:Ar:10sccm、N2:10sccm
成膜温度:常温(25℃)
【0050】
<比較例1>
実施例1と同様のLi4Ti512焼結体をターゲットとして、マグネトロンRFスパッタリング装置を用いて、シリコンウエハ基板上に、以下のスパッタ条件によって、透明膜を形成した。
【0051】
[スパッタ条件]
スパッタ圧:0.5Pa
出力:50W
ガス:Ar:10sccm、O2:10sccm
成膜温度:常温(25℃)
【0052】
(透明性の確認)
実施例1の透明導電膜の写真を図3に示す。図3の写真に示すように、実施例1の透明導電膜を通して、文字が透けて見えることから、実施例1の透明導電膜は透明性を有することが確認できた。
【0053】
(抵抗率測定)
4端子法により、表面抵抗率を測定した。実施例1の透明導電膜の表面抵抗率は、2.56MΩ/□であった。また、図4の写真に示すように、比較例1の透明膜をデジタルテスタを用いて、導電性の有無を確認したところ、比較例1の透明膜は、導電性がないことが確認できた。
【0054】
(XRD分析)
実施例1の透明導電膜についてXRD分析を行った。図5に実施例1の透明導電膜のXRDパターンを示す。
【0055】
(XPS分析)
実施例1の透明導電膜についてXPS(X-ray photoelectron spectroscopy)分析を行った。また、参考にするため、スパッタリング前のターゲット(Li4Ti512焼結体)についてもXPS分析を行った。図6に分析結果を示す。なお、図6において、線aが実施例1の透明導電膜のXPSスペクトルであり、線bは、スパッタリング前のターゲット(Li4Ti512焼結体)についてのXPSスペクトルである。
【0056】
また、図5に示すように、実施例1の透明導電膜では、XRDパターンにおいて、矢印が示すTiNのピークが観察された。また、図6に示すように、XPSスペクトルからLi1sピークが観察された。すなわち、実施例1の透明導電膜は、Liを含むものであることが確認できた。
【0057】
4.他の実施の形態
この発明は、上述したこの発明の実施形態に限定されるものでは無く、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。例えば、この発明の透明導電膜は、液晶ディスプレイ、PVDディスプレイ、有機ELディスプレイなどのディスプレイに用いる透明電極、シリコン系太陽電池などの色素増感太陽電池以外の太陽電池用の透明導電膜、電気伝導性ガラス、導電性フィルムなどにも適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
11・・・透明基板
12・・・透明導電層
13・・・光電極層
14・・・電解質
15・・・対極
21・・・基板
22・・・正極集電体層
23・・・正極活物質層
24・・・固体電解質層
25・・・負極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li4Ti512をターゲットとして用い、窒素を含む雰囲気中で、物理的成膜法によって形成した透明導電膜。
【請求項2】
上記物理的成膜法は、スパッタリング法である
請求項1記載の透明導電膜。
【請求項3】
上記スパッタリング法は、RFマグネトロンスパッタリング法である
請求項2記載の透明導電膜。
【請求項4】
Li4Ti512をターゲットとして用い、窒素を含む雰囲気中で、物理的成膜法によって透明導電膜を形成する透明導電膜の製造方法。
【請求項5】
透明導電層と、
光電極層と、
電解質層と、
対極と
を備え、
上記透明導電層は、Li4Ti512をターゲットとして用い、窒素を含む雰囲気中で、物理的成膜法によって形成した透明導電膜を含む色素増感太陽電池。
【請求項6】
正極層と、
負極層と、
固体電解質層と
を備え、
上記負極層は、Li4Ti512をターゲットとして用い、窒素を含む雰囲気中で、物理的成膜法によって形成した透明導電膜を含む固体電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−9201(P2012−9201A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142549(P2010−142549)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】