説明

透明電極付き基板および透明電極付き基板の製造方法

【課題】導電性、透明性、耐環境変動性において良好な特性を示す透明電極付き基板を提供すること。
【解決手段】基材上に少なくとも1層からなる酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を有する透明電極付き基板であって、上記透明導電性酸化物層が基材に対してc軸配向した結晶構造を有しており、更に上記透明導電性酸化物層中に水素がドーピングされている基板、並びに基材上に少なくとも1層からなる酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を有する透明電極付き基板の製造方法であって、上記透明導電性酸化物層がプラズマ放電を利用したスパッタリングにより製膜され、且つスパッタリング時のキャリアガスとして、アルゴン及び水素を必須とし、さらに酸素、二酸化炭素から選択される1種以上を添加したものを使用し、且つ全キャリアガス中に水素が2〜30体積%、酸素及び/又は二酸化炭素が1〜30体積%含有されている基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として太陽電池の透明電極や裏面電極、多接合型太陽電池の透明中間層、タッチパネルやPDP、LCDやエレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ材料、化合物半導体高速デバイスに用いる低誘電率膜、表面弾性波素子、赤外線カットなどを目的とした窓ガラスコーティング、ガスセンサー、非線形光学を活用したプリズムシート、透明磁性体、光学記録素子、光スイッチ、光導波路、光スプリッタ、光音響材料、高温発熱ヒーター材料、などの材料において、高い耐環境変動性を達成可能な透明電極付き基板とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池、タッチパネルやディスプレイ材料などに使用される透明電極付き基板は、その透明導電層として酸化インジウム錫(ITO)や酸化錫、酸化亜鉛などが広く使用されている。このような透明導電層はマグネトロンスパッタリング法やモレキュラービームエピタキシー法などの物理気相堆積法(PVD法)や熱CVDやプラズマCVDなどの化学気相堆積法(CVD法)などにより形成されるほか、無電解法により形成される方法が知られている。
【0003】
中でもITOは透明導電材料として非常に優れた材料であり、現在広く透明導電層に使用されている。しかしながら、原料のインジウムが枯渇する可能性があり、資源的にもコスト的にもITOに替わる材料の探索が急務となっている。
【0004】
ITOに替わる材料としては酸化亜鉛(ZnO)が代表として挙げられる。ZnOはITOと比較して透明性に優れる反面、水分や熱に対する安定性に劣ることが非特許文献1に記載されている。
【0005】
特許文献1〜2には、ZnOにクロムやコバルトに加えてIII族あるいはIV族の原子を併用添加した透明電極が記載されている。この他、非特許文献1には酸化インジウムと酸化亜鉛との混合酸化物について述べられている。
【0006】
以上のように、ITO代替としてZnOの透明導電層への利用は幅広く開発が行われているが、現在主流となっているITO以上にすぐれた材料は実用化に至っていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−75061号公報
【特許文献2】特開2002−75062号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】R.Martins、phys.stat.sol.,202,9,R95(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ITO代替として、環境変動に対する耐久性が高く、且つ導電性に優れた酸化亜鉛を主成分とする透明電極付き基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する為に、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、酸化亜鉛を主成分とする透明導電層中の酸化亜鉛の構造に水素を含有させることで、導電性を向上させ、かつ耐環境変動性を向上することが可能であることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、基材上に少なくとも1層からなる酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を有する透明電極付き基板であって、上記透明導電性酸化物層が基材に対してc軸配向した結晶構造を有しており、さらに上記透明導電性酸化物層中に水素がドーピングされていることを特徴とする、透明電極付き基板に関する。
【0012】
好ましい実施態様は、前記透明導電性酸化物層中に、アルミニウム、ガリウム、ケイ素、ホウ素、ニオブの中から選択される1種以上の金属がドーピングされていることを特徴とする、前記の透明電極付き基板に関する。
【0013】
本発明は、基材上に少なくとも1層からなる酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を有する透明電極付き基板の製造方法であって、上記透明導電性酸化物層がプラズマ放電を利用したスパッタリングにより製膜され、且つスパッタリング時のキャリアガスとして、アルゴンおよび水素を必須とし、さらに酸素、二酸化炭素から選択される1種以上を添加したものを使用し、且つ全キャリアガス中に水素が2〜30体積%、酸素および/または二酸化炭素が1〜30体積%含有されていることを特徴とする、前記の透明電極付き基板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、例えば、太陽電池に用いられる透明導電層、タッチパネルやエレクトロルミネッセンス電極基板などで特に重要な要素である「導電性」「透明性」「耐環境変動性」において良好な特性を示す透明電極付き基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本願発明に係る透明電極付き基板の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、基材上に少なくとも1層からなる酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を有する透明電極付き基板であって、上記透明導電性酸化物層が基材表面にc軸配向した結晶構造を有しており、さらに上記透明導電性酸化物層中に水素がドーピングされていることを特徴とするものである。
【0017】
酸化亜鉛は、室温付近の温度で薄膜を作製した場合にも結晶構造をとりやすい化合物であることが知られている。そのため、従来、導電性を向上させるためのドーピング原子としては、亜鉛原子と置き換わることが可能なアルミニウムやガリウムが使用されてきた。例えばJpn.J.Appl.Phys.,24,L781(1985)(Minamiら)には、特にガリウムは、そのイオン半径が亜鉛と類似していることから、良いドーピング特性を示すことが開示されている。
【0018】
一方、このようなドーピング原子は、多く入れすぎることによりキャリアの散乱源となり、キャリア移動度を大きく低下させる虞があること、また過剰なドーピング原子は結晶粒の表面付近に不導体として偏析しやすくなるため、導電性を低下させる虞もある。さらに、上記のドーピング原子がドーピングされることで、可視光領域においても少量の電子遷移が起こり、透過率の低下の原因となる虞もある。
【0019】
すなわち、酸化亜鉛透明導電性酸化物の導電性を向上する方法としては、前記のような不純物のドーピングが一般的であるが、不純物のドーピング量には限度があり、多く添加すると導電性や透明性が損なわれる虞がある。これに対し、本発明では、酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層中に水素をドーピングすることにより、上述の不純物(従来のドーピング原子)を用いる場合を超えたキャリアの注入と、導電性の向上が可能であることを見出した。
【0020】
例えば、文献(Chris G.,Physical Review Letters,Vol.85,No.5 (2000))では、第一原理計算に基づいた亜鉛−水素結合の生成エネルギーについて議論されている。ただし上記文献では、その導電性や透明性については開示がなく、例えば水素のみをドーピングしてスパッタリングしても製膜種の亜鉛が還元されてしまい、作製される膜は黒色となりやすい問題がある。
【0021】
そこで本発明では、前記ドーピングの際に水素と同時に酸素および/または二酸化炭素を用いることで、亜鉛の還元を抑制しながらキャリアの注入による導電性の向上が可能であることを見出した。
【0022】
例えば、マグネトロンスパッタリングによる製膜と高速アニール処理による導電率の向上については、文献(Youn−Seon Kang,Journal of The Electrochemical Society,Vol.147(12),4625(2000))に報告されている。しかし、この手法では500℃の高温でのアニール処理が必須であるため、使用できる基板の種類は限定され、例えばプラスチック基板などは使用することができない。また、例えば積層膜上に製膜する場合にも、高温処理による反応・変質の可能性がある基材に対しては使用することができない。
【0023】
これに対し、本発明では、高導電性水素ドーピング酸化亜鉛透明導電性酸化物層が室温で製膜できることから、上記のような高温処理に基づく課題が生じることもない。上記文献と本発明での高温処理の要否の違いによって、製膜時の水素の導入形態が異なることが予想される。すなわち、本発明では製膜時にすでに水素がドナーとして活性な状態で導入されているのに対して、上記文献ではアニールによってはじめて水素が活性となると考えられる。
【0024】
例えば、特許文献(WO2005/078154)には、有機亜鉛化合物を原料としたCVD(MOCVD)法による酸化亜鉛透明電極の製造について述べられており、原料をガス状にしたものと水素ガスを同時に反応系中に導入することが記載されている。ここで用いる水素は反応系中を高温に維持し、原料ガスが液化することを防ぐことと、例えばジボランガスなどのドーピングガスを反応系中に均一に拡散させることを目的として導入されており、水素が原子状に分解して、酸化亜鉛中にドーパントとして活性化するものではない。これに対し、本発明では、プラズマ中で水素を原子状に分解することで、酸化亜鉛中にドーパントとして注入することが可能となる。
【0025】
以下、本発明に係る透明電極付き基板の代表的な態様を説明する。図1は本発明に係る透明電極付き基板の断面図である。基材1上に酸化亜鉛透明導電性酸化物層2が形成されている(図1)。
【0026】
上記基材1については、透明電極の基材として使用する場合には、少なくとも可視光領域において透明な基板であればよく、硬質または軟質材料は特に限定されない。適宜用途によって使い分ければよい。
【0027】
前記基材に用いられる硬質材料としては、例えば、ガラス、サファイヤなどを用いることができる。ガラスの具体例としては、アルカリガラスやホウ珪酸ガラス、無アルカリガラスなどがあげられる。ガラスあるいはサファイヤを用いた場合の基板の厚みは、使用目的により任意に選択することができる。しかしながら、取り扱い性と重量のバランスを加味すると、好ましい厚みの範囲として0.5mm〜4.5mmの範囲が例示できる。一般に、薄すぎると強度が不足するために、衝撃により割れやすい傾向がある。また厚すぎると重量が重くなることと、機器の厚みに影響を及ぼすことから、ポータブル機器への利用は困難となる傾向があり、透明性とコストの面からも好ましくない場合がある。
【0028】
一方、前記基材に用いられる軟質材料としては、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化製樹脂があげられる。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂やポリエステル、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン、シクロオレフィンポリマーなどが、熱硬化製性樹脂としてはポリウレタンなどがあげられる。中でも、特に優れた光学等方性と水蒸気遮断性に優れているシクロオレフィンポリマー(COP)を主成分とする基材が好ましい。これら軟質材料を用いた場合の基材の厚みとしては、好ましくは0.03mm〜3.0mmの範囲をあげることができる。一般に、厚みが薄すぎるとハンドリングが困難となり、強度が不足する場合がある。また厚みが厚すぎると、透明性とコストに課題があり、機器の厚みも増すことから、ポータブル機器には使用が困難となる傾向がある。
【0029】
上記COPとしては、ノルボルネンの重合体やノルボルネンとオレフィンとの共重合体、シクロペンタジエンなどの不飽和脂環式炭化水素の重合体などが挙げられる。水蒸気遮断性の観点から、構成分子の主鎖および側鎖には大きな極性を示す官能基、例えばカルボニル基やヒドロキシル基、を含まないことが好ましい。その他耐熱性に優れるという観点から、ポリエチレンナフタレート(PEN)やポリエーテルスルホン(PES)なども使用できる。
【0030】
例えば、透明導電性酸化物層を太陽電池やELデバイス中の中間層などとして使用する場合は、光電変換層や発光層を基材として、その上に本発明に係る酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を製膜することができる。この場合の光電変換層としては、例えば、非晶質または結晶シリコンや多元系化合物半導体からなる層を使用できる。発光層としては、例えば、アルミニウムや希土類原子などを金属中心とする有機金属錯体などが使用できる。
【0031】
本発明における酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層2は、水素をドーパントとして含有していることを特徴とする。透明導電性酸化物層中における水素の含有状態の詳細は不明であるが、亜鉛―水素結合状態、亜鉛−水素−酸素結合状態、酸素−水素結合状態などが考えられる。
【0032】
透明導電性酸化物層中における水素の含有の有無は、X線光電子分光スペクトル法により、例えば表面の酸素の結合エネルギーを見ながら特定することもできるが、ラザフォード後方散乱法により定量化することが最も好ましい。さらに容易な方法としては、赤外吸収スペクトルの測定により約3000〜3500cm-1の領域におけるピークを確認する方法があげられる。
【0033】
透明導電性酸化物層中への水素のドーピング方法は、スパッタのキャリアガス中に水素を導入することで可能となる。水素は最も軽い原子であることもあり、キャリアガスを水素のみとしてスパッタリングを行うことは困難である。さらに、アルゴン/水素のみでスパッタリングすると、透明導電性酸化物層中の酸素量が著しく減少し、膜が黒色になりやすく、さらに導電性も悪くなるため、透明電極付き基板として機能しない傾向がある。本発明では、キャリアガスとして必須であるアルゴン・水素に対し、さらに酸素および/または二酸化炭素を加えることで、上記の課題を克服することができる。
【0034】
さらに本発明においては、全キャリアガス中に、水素が2〜30体積%、好ましくは4〜10体積%、並びに、酸素および/または二酸化炭素が総量で1〜30体積%、好ましくは8〜15体積%含有されている状態(なお、アルゴンは40〜97体積%、好ましくは75〜88体積%)とすることで、透明性、導電性に優れる透明電極付き基板を作製可能であることを見出した。本発明により、特に可視光領域の透明性が向上するが、これは、水素が導電性キャリアとして注入されたために起こるバーンスタイン・モスシフトによりバンドギャップが短波長側にシフトしたため、結果として可視光領域から吸収成分が減少したことが原因と考えられる。上記ガスの範囲から、水素が多すぎる場合には、透明導電性酸化物層が黒色となりやすい傾向がある。また酸素が多すぎる場合には、導電性の酸素欠損も埋められてしまい導電性が低下する虞がある。二酸化炭素が多すぎる場合には、酸素と同様に酸素欠損を消滅させてしまうために導電性が低下する虞がある。
【0035】
本発明におけるスパッタリングはプラズマ放電を利用することで、水素を良好にドーピングすることができる。プラズマ放電を起こすための電源は、直流電源や高周波電源などを用いることができる。放電時の系中の圧力は、反応容器や排気ポンプの排気速度にもよるが、0.001Pa〜100Paが好ましく、さらには0.01Pa〜10Paが好ましい。この範囲の圧力より高すぎても低すぎても、放電が安定しない傾向がある。スパッタリングにおいては、ガスを連続で導入しても、断続的に導入しても構わないが、不活性ガスであるアルゴンガスは連続的であることが、放電の安定化のために好ましい。水素、酸素、二酸化炭素は連続的であっても断続的であっても構わない。
【0036】
本発明における酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層2は、基材に対してc軸に配向していることが好ましい。これにより、基材の形状を忠実に再現した表面を有する酸化亜鉛透明導電性酸化物層を形成することが可能となる。前記結晶の配向性は、X線回折測定を行うことで容易に評価することができる。c軸配向した酸化亜鉛透明導電性酸化物層は2θが33〜35度に(0002)配向のピークを示す。この2θのずれは、ドーピング剤の種類や量により変化することが推定される。
【0037】
本発明における酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層2は、金属ドーパントを添加することができる。添加する金属ドーパントは、例えば、アルミニウム、ガリウム、ケイ素、ホウ素、ニオブの中から選択される1種以上の金属が挙げられる。これらの金属ドーパントはそのまま酸化亜鉛に注入しても構わないが、酸化物として添加するほうが容易である。さらに、上記酸化物に関して、最大酸化数を示していることが好ましい。例えば、ニオブにはI、II、Vの安定酸化数があるが、I価やII価では透明性の観点から好ましくなく、V価のほうが好ましい。これらの金属ドーパントの含有量は、酸化亜鉛に対して0.50〜2.75重量%であることが好ましいが、さらには0.8〜2.2重量%含有していることが好ましい。金属ドーパントの添加量が多すぎる場合は、導電性が著しく低いものとなる場合がある。金属ドーパントの量が多くなると、酸化亜鉛の結晶粒界でのドーパントの偏析が大きくなり、酸化亜鉛結晶粒間でのキャリアの移動が起こりにくくなるためであると説明できる。
【0038】
なお、本発明の「酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層」における主成分とは、透明導電性酸化物層中に主となる酸化亜鉛以外に副成分としてドーパント等が含まれるため「酸化亜鉛を主成分とする」ものであり、酸化亜鉛が90重量%以上含まれていればよい。
【0039】
本発明にかかる透明導電性酸化物層2は、例えば、マグネトロンスパッタリング法により形成することができる。マグネトロンスパッタリングに用いられるターゲット材料は、酸化亜鉛を主成分とする酸化物とドーパントを混ぜたものを焼結し、バッキングプレートにホットプレス等により接着することで作製することができる。ここでのドーパントは、例えば、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化ニオブが挙げられる。酸化亜鉛へのドーパントの混合量は0.50〜2.75重量%、さらには0.8〜2.2重量%が好ましい。
【0040】
マグネトロンスパッタリングの際の電源は直流電源や高周波(RF、VHF)等の電源を使用することができる。このときのパワー密度は3.5W/cm2以上、さらには4W/cm2以上の条件により本願発明の基板を製造することが可能である。また、パワー密度は、さらには4W/cm2〜15W/cm2が好ましく、特には4.5W/cm2〜15W/cm2がより好ましく、中でも5W/cm2〜13W/cm2であることが特に好ましい。これよりパワー密度が低い場合は製膜速度が向上せず、また結晶性の問題であると予想されるが、高温高湿環境下における信頼性が良くない場合がある。一方、パワー密度が大きすぎる場合には、プラズマ中で生成する酸素イオンによる透明導電性酸化物層の再スパッタがなされるために、透明性・導電性の良くない透明電極付き基板となる虞がある。
【0041】
本発明における透明電極付き基板は、導電性を上げるために透明導電性酸化物層2を製膜後に水素プラズマ処理を実施しても良い。水素プラズマ処理により、酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物の導電性に大きく寄与する酸素欠陥が形成され、導電性が向上する。
【0042】
またガラス基板や高い軟化(溶融)温度を有する軟質な材料上に形成された透明電極付き基板は、導電性と光線透過率を上げるためにアニール処理をすることができる。アニール雰囲気は、真空または不活性ガス気流下が好ましい。酸素雰囲気でアニールすると、透明導電性酸化物が熱酸化され、導電率が低下する場合がある。アニール温度は酸化亜鉛の結晶性が向上する温度以上であり、基板の溶融温度以下であることが好ましく、具体的には200〜450℃程度でアニールすることで良好な透明電極付き基板を作製することができる。
【0043】
透明導電性酸化物層2の膜厚は15〜500nmさらには20〜200nmであることが好ましい。この範囲の膜厚の透明導電性酸化物層を用いることで、高い透明性と導電性を併せ持つ透明電極付き基板を作製することができる。膜厚が薄くなると、マグネトロンスパッタリングでの製膜では、透明導電性酸化物が縞状成長となり、膜とならない場合がある。一方、膜厚が厚くなると、透明導電性酸化物による光の吸収が大きくなり透過率が低下し、また応力により透明導電性酸化物層にクラックが入りやすくなる傾向がある。
【0044】
透明導電性酸化物層2に含まれるドーピング量の検出方法は、通常元素分析に用いられる手法であれば、どのような方法を用いてもかまわないが、例えば、原子吸光分析や蛍光X線分析などの元素分析手段や、X線光電子分光やオージェ電子分光、電子線マイクロアナライザなどの分光学的手法や二次イオン質量分析などの手法を用いることができる。
【0045】
作製される透明電極付き基板の表面抵抗は、使用用途によってさまざまであるが、10〜2000Ω/□の範囲で良好に使用することができる。例えば太陽電池やEL素子の場合では10〜20Ω/□程度が好ましく、タッチパネル用途などの場合は200〜2000Ω/□程度が好ましい。
【0046】
本発明における透明電極付き基板は、光線透過率の向上を目的として、基板1と透明導電性酸化物層2との間もしくは透明導電性酸化物層2表面に光学設計層を設けても良い。具体的には、基板1と透明導電性酸化物層2との間には酸化チタンや酸化ハフニウム、酸化ニオブのような高屈折率層と二酸化珪素のような低屈折率層を「基板1/高屈折率層/低屈折率層/透明導電性酸化物層2」のように積層することで、基板から透明導電性酸化物層に至るまでの界面での光の反射を抑制し、結果として光線透過率を向上させることができる。
【0047】
透明導電性酸化物層2上に設ける場合には、透明導電性酸化物層よりも低屈折率のものを形成すると光の反射の抑制効果が大きい。具体的にはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)やポリスチレンスルフォネート(PSS)の混合体などが適当である。その他、導電性多孔質カーボン材料なども使用できる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
本発明において、ドーピング量測定には走査電子顕微鏡JSM−6390−LA(日本電子社製)を用いた。表面抵抗測定は抵抗率計ロレスタGP MCT−610(三菱化学社製)を用いた。透明導電性酸化物層の膜厚は分光エリプソメーターVASE(J.Aウーラム社製)を使用した。フィッティングはChaucyモデルにより行った。550nmの波長での光線透過率は、積分球式光線透過率測定装置(装置名U−4100、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて測定した。キャリア濃度は、van der Pauw法に従ったホール効果測定より求めた。
【0050】
(実施例1〜9、比較例1〜3)
無アルカリガラス(商品名OA−10、膜厚0.7mm、日本電気硝子社製)に透明導電性酸化物層をマグネトロンスパッタリング製膜した。ターゲット材料、キャリアガス種および流量を表1に示す条件にし、基板温度を室温、製膜圧力を0.2Paの条件で100nmの膜厚になるように製膜した。
【0051】
このようにして製膜した透明電極付き基板のシート抵抗、550nmの波長での光線透過率、キャリア濃度を表2に示す。ただし、比較例3は水素による亜鉛の還元が起こり、製膜された膜が黒色になり、透明電極を形成することができなかった。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
実施例1〜9および比較例1〜2のX線回折による分析の結果、酸化亜鉛の(0002)配向(c軸配向)を示すピークが確認された。
【0055】
以上の結果から、酸化亜鉛透明導電性酸化物中に水素をドーピングすることで透明電極の導電性を向上させることが可能であることがわかった。さらに、室温で製膜することでも、キャリア濃度の上昇が確認され、水素がキャリアとして活性であることがわかった。
【符号の説明】
【0056】
1.基板
2.透明導電性酸化物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に少なくとも1層からなる酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を有する透明電極付き基板であって、上記透明導電性酸化物層が基材に対してc軸配向した結晶構造を有しており、さらに上記透明導電性酸化物層中に水素がドーピングされていることを特徴とする、透明電極付き基板。
【請求項2】
前記透明導電性酸化物層中に、アルミニウム、ガリウム、ケイ素、ホウ素、ニオブの中から選択される1種以上の金属がドーピングされていることを特徴とする、請求項1に記載の透明電極付き基板。
【請求項3】
基材上に少なくとも1層からなる酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を有する透明電極付き基板の製造方法であって、上記透明導電性酸化物層がプラズマ放電を利用したスパッタリングにより製膜され、且つスパッタリング時のキャリアガスとして、アルゴンおよび水素を必須とし、さらに酸素、二酸化炭素から選択される1種以上を添加したものを使用し、且つ全キャリアガス中に水素が2〜30体積%、酸素および/または二酸化炭素が1〜30体積%含有されていることを特徴とする、透明電極付き基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−9069(P2011−9069A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151340(P2009−151340)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム未来技術研究開発」委託研究、産業技術力強化法19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】