説明

透析液作成用希釈水の製造装置

【課題】透析液作成用希釈水の製造装置にて、比較的短い時間で装置の熱水洗浄を実施して装置を長期間高い清浄度に維持する。
【解決手段】原水貯留槽3と、活性炭を含む前処理手段5、RO膜モジュール8、精製水貯留槽9等がこの順番で配置される。RO膜モジュール8からの透過水を脱塩水と電極水と濃縮水に分離するEDI15が設置される。EDIの脱塩水を精製水貯留槽9に供給する脱塩水供給路24と、RO膜モジュール8の透過水と濃縮水、ならびにEDI15の脱塩水と電極水と濃縮水を原水貯留槽3に戻す循環経路12,13,21,22,23と、RO膜モジュール8とEDI15の熱湯洗浄時に原水貯留槽3内の原水と原水貯留槽3内への循環水を加温する、原水貯留槽3に付設された加温手段28と、熱湯洗浄のとき、脱塩水供給路24の脱塩水が精製水貯留槽9に供給されないように脱塩水供給路24を脱塩水循環経路21に切り替える三方弁25と、が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析用の透析液を透析用粉末剤または透析用濃縮原液と希釈水とを所定の比率で混合して作成するのに用いられる、透析液作成用希釈水の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多人数用の血液透析を中央で集中管理できるようにした、いわゆるセントラル透析システムにおいては、個々の血液透析に用いられる透析液を調製するに際し、とくに所定濃度の透析用原液が多量に調製されることが多い。これら透析用原液は、透析用粉末剤または透析用濃縮原液と希釈水とを所定の混合比率で混合し、透析用粉末剤を希釈水で溶解あるいは透析用濃縮原液を希釈水で所定濃度に希釈することにより、多量に調製される。このような透析液作成用希釈水には、通常、高い清浄度が要求される。
【0003】
近年、透析液作成用希釈水の清浄度要求はさらに高まりつつある。透析液作成用希釈水の製造装置としては、逆浸透膜モジュール(以下、逆浸透をROと略す。)を備えた装置が知られており、さらに水質向上を図るためには、RO膜モジュールを2段直列に接続することが知られている。
【0004】
さらに、透析液作成用希釈水の製造分野よりも水質基準の高い医薬品用精製水の製造分野では、RO膜モジュールに加えて電気再生式純水製造装置(この装置は電気式脱イオン水製造装置とも呼ばれ、以下、EDIと略称する。)が使用されている(特許文献1参照)。このEDIは、基本的にはカチオン交換膜とアニオン交換膜で形成される隙間にイオン交換体を充填して脱塩室を構成し、このイオン交換体に被処理水を通過させると共に、両イオン交換膜を介して直流電流を作用させて、両イオン交換膜の外側に流れている濃縮水中へ被処理水中の不純物イオンを電気的に排除しながら脱イオン水を製造するものである。このようなEDIをRO膜モジュールの後段に設けることで、RO膜の透過水をさらに清浄化することができる。
【0005】
透析液作成用希釈水の製造分野においても希釈水の水質基準の高度化に追従するため、RO膜モジュールの後段にEDIを追加した透析液作成用希釈水製造装置が検討されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−74109号公報
【特許文献2】特開2007−252396号公報
【特許文献3】特開2010−194092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
透析液作成用希釈水の製造装置では、人体に入れる透析液の希釈に使う水を製造するため、通常の製造を開始する前に系内の殺菌を行う必要がある。特許文献1に開示された医薬品用精製水の製造装置では、熱水による殺菌洗浄が実施されている。
【0008】
そこで、RO膜モジュールとEDIを用いた透析液作成用希釈水の製造装置においても、RO膜の1次側および2次側ラインと、EDIの脱塩水ライン、電極水ラインおよび濃縮水ラインの殺菌を確実に行い長期的に高い清浄度を維持するために、熱水による殺菌洗浄を実施することを考えた。しかしながら、この実施においては以下のような課題がある。
【0009】
1)上記の熱水洗浄の実施において、特許文献1に示されているように、熱湯を作るための加熱手段を原水タンクに備え、熱湯をRO膜モジュールおよびEDIに順次通水して再び原水タンクに戻す循環方式を採用することが考えられる。しかし、特許文献1に開示された装置は原水タンクとRO膜モジュールとEDIをこの順番に備えた系であり、熱水洗浄で循環させられる水は、EDIの脱塩水ライン濃縮水ラインを通る熱湯だけである。
【0010】
このような系ではEDIの電極室を流れる水(電極水)は陰極又は陽極付近の水であり、EDIの電圧印加時(通常運転時)には、電解生成物、すなわち陰極水は水素ガス、陽極水は酸素ガス、塩素ガス、オゾンガス、過酸化水素などの酸化性ガスを含有している。そのため、特に酸化性ガスを含む陽極水を原水タンクに戻すと、後段のRO膜の性能低下(酸化劣化)を引き起こしたり、場合によってはRO膜すらも透過してEDIに酸化性ガスが流入し性能低下(酸化劣化)を引き起こす可能性がある。したがって、これら電極水は系外へ排出するラインを設け、系外へ排出せざるを得なかった。
【0011】
したがって、原水タンク、RO膜モジュール、EDIをこの順番に備えただけの系においては、水回収率が100%とならない。加えて、熱水による殺菌洗浄時(EDIの電圧停止時)においても同じラインを使用するため電極水を系外へ排出することになり、原水タンクに還流される熱湯は減少し、原水タンクからRO膜モジュールを経てEDIへ供給される熱湯は減少し続ける。つまり、熱水の利用効率が低い。これを改善するには、熱水による洗浄処理中に原水タンク内の水が無くなって空だき運転にならないように、洗浄時間中に排出される電極水の水量に相当する分を原水タンクに追加しておく必要がある。この結果、原水タンクが大型化するという問題が生じる。透析液は医薬品製造工場ではなく病院施設内で作製されるため、透析液作成用希釈水の製造装置には、病院施設内で容易に搬送および設置できる大きさのものが求められており、上記原水タンクの大型化の問題はこの要求に応えられない。さらに、電極水の排出の為にその排出ラインに付随して排水処理設備が本製造装置の設置と共に必要になり、病院施設内で作る透析液作成用希釈水の製造装置としては適さない。
【0012】
2)RO膜およびEDIのイオン交換膜に一気に高温の熱湯を供給するのは好ましくないため、原水タンク内の昇温は上記RO膜とEDIと原水タンクとの間で循環を行いながら徐々に昇温していくことが望ましい。しかし、上述したように原水タンクに還流される熱湯が減少すること、RO膜およびEDIのイオン交換膜が昇温の阻害になっていることなどで、昇温の際の熱効率が低く、所望の昇温に時間を要する。また、電極水の排出と一緒に系内の熱も一部放出されてしまうことや、通常運転後は未だ電極室に酸化性ガスを含む陽極水が残っているため陽極水をすべて系外に排出しそれから熱湯洗浄運転を実施する必要があることから、通常運転後に直ぐに熱湯洗浄運転を開始することはできない。
【0013】
3)夜間透析などの実施により1日の透析治療時間が長くなる傾向にあり、翌日の透析までの待機時間が短くなってきているため、夜間に熱湯洗浄を行う場合には短時間で洗浄工程を終了する必要がある。しかし、上述したように洗浄水の昇温に時間を要するため、この短時間での洗浄の要求に応えることが困難となる。
【0014】
なお、本発明に関連する技術として、特許文献1に、医薬品用精製水の製造において熱水殺菌を行う技術が記載されているが、特許文献1に記載の技術は、処理対象が本発明とは異なり、医薬品製造用の精製水を対象としており、透析液については言及されていない。また、特許文献1記載の装置はRO膜モジュールおよびEDIをこの順に備えた系と原水タンクとの間で熱水を循環可能な循環経路を設けているが、RO膜モジュールおよびEDIを経た処理水を熱交換器のみに通す構成であり、また熱水の循環経路に少なくとも活性炭を含む前処理手段も備えられていない。よって、本発明のように原水タンク、前処理手段、RO膜モジュールおよびEDIに順次熱湯を通水した後、EDIの脱塩水、電極水および濃縮水をそれぞれ原水タンクに循環させる循環経路を設ける構成とは異なる。
【0015】
さらに、加熱方式も本発明とは異なり、特許文献1記載の装置では循環配管中に加熱器を設けているので、原水タンクに加温手段を備える場合に比べ加熱効率が低く、所望の加温に長時間を要するおそれがある。
【0016】
また、本発明に関連する技術として、特許文献2に、透析液作成用希釈水の製造において、RO膜とEDIを用いる技術が記載されているが、特許文献2には熱水洗浄については全く言及されていない。
【0017】
また、本発明に関連する技術として、特許文献3に、透析液作成用希釈水の製造において、系内の熱水殺菌を行う技術が記載されているが、特許文献3に記載の装置は、原水タンク、前処理手段およびRO膜モジュールをこの順に備える構成であり、EDIを備えていない点で本発明とは異なる。
【0018】
仮に特許文献3に記載の装置に特許文献1による熱水洗浄の思想を考慮しても、前述したような理由で、酸化性ガスを含むEDIの電極水を原水タンクに戻すという発想は起こらない。そのため、上記の課題1)のように電極水を原水タンクに戻せない実情に起因する原水タンクの大型化の問題は依然と残る。
【0019】
そこで本発明は、上記の課題1)〜3)を解消するものであって、比較的短い時間で装置の熱水洗浄を実施して装置を長期間高い清浄度に維持することができる透析液作成用希釈水の製造装置を提供することを目的とする。更なる目的は、病院施設内で使用できるように原水タンクを最小限の大きさで設置可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る透析液作成用希釈水の製造装置は、原水を貯留する原水貯留槽と、原水貯留槽より加圧供給された原水を前処理する少なくとも活性炭を含む前処理手段と、前処理手段より前処理されて加圧供給された原水を逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜モジュールと、逆浸透膜モジュールからの透過水を脱塩水、電極水および濃縮水に分離する電気再生式純水製造装置(EDI)と、電気再生式純水製造装置の脱塩水を精製水として貯留する精製水貯留槽と、電気再生式純水製造装置の脱塩水を精製水貯留槽に供給する脱塩水供給路と、精製水貯留槽に貯留された精製水を透析液作成用希釈水として供給する精製水供給手段と、を有する。
【0021】
上記課題を解決するため、本発明の態様の一つによれば、上記逆浸透膜モジュールの透過水および濃縮水、ならびに上記電気再生式純水製造装置の脱塩水、電極水および濃縮水をそれぞれ原水貯留槽に戻す循環経路が設けられている。さらに、逆浸透膜モジュールおよび電気再生式純水製造装置の熱湯洗浄を行うときに上記原水貯留槽内の原水と、上記逆浸透膜モジュールの透過水および濃縮水ならびに上記電気再生式純水製造装置の脱塩水、電極水および濃縮水の原水貯留槽内への循環水を加温する加温手段が上記原水貯留槽に付設されている。さらに、上記熱湯洗浄を行うときに、上記脱塩水供給路の脱塩水が精製水貯留槽に供給されないように脱塩水供給路を、電気再生式純水製造装置の脱塩水を原水貯留槽に戻す脱塩水循環経路に切り替えることが可能な第1の流路切替手段が設けられている。
【0022】
このような本発明に係る装置においては、逆浸透膜モジュールの透過水と濃縮水、電気再生式純水製造装置の脱塩水、電極水および濃縮水が循環経路を介して原水貯留槽に循環され、原水貯留槽に付設された加温手段により昇温され、逆浸透膜モジュールおよび電気再生式純水製造装置を熱湯洗浄に供される。したがって、逆浸透膜モジュールの透過水(二次側透過水)と濃縮水(一次側濃縮水)、電気再生式純水製造装置の脱塩水、電極水および濃縮水の全量が原水貯留槽に回収されて循環されることになり、熱湯循環水量が減少されずに逆浸透膜モジュールおよび電気再生式純水製造装置が熱湯洗浄され、熱湯による洗浄効果が高く維持される。さらに、原水貯留槽と逆浸透膜モジュールと電気再生式純水製造装置をこの順番に備えた系において、逆浸透膜モジュールの前段に、陽極水に含まれる酸化性ガスを除去できる活性炭を有する前処理手段を設けたことにより、この前処理手段の前段の原水貯留槽へ電気再生式純水製造装置の電極水を戻すことができ、水回収率が100%となる。このため、電気再生式純水製造装置の電極水を排出することが必要な従来構成と違い、電極水の排出量を見越して原水貯留槽の大きさを大きくする必要がなくなり、病院施設内で容易に搬送および設置できる大きさの透析液作成用希釈水の製造装置を提供することができる。また本願の製造装置は、電気再生式純水製造装置の電極水を排水処理する設備が要らないため、病院施設で使用する装置として非常に適している。
【0023】
また、加温手段により原水および上記循環経路の循環水が徐々に昇温されるので、逆浸透膜に一気に高温熱湯が供給されることはなく、逆浸透膜および電気再生式純水製造装置は望ましい温度条件にて洗浄され得る。また、循環水は水量が減少されずに、その全量が原水貯留槽に付設された加温手段により昇温され、とくに系外への熱水の排出が無いため原水貯留槽では昇温のための熱容量を大きい状態に維持でき、結果、高い加温効率が得られ、短時間のうちに目標とする温度に昇温可能となる。目標温度への昇温に時間を要しないため、所望の熱湯洗浄を短時間で終えることが可能になり、短くなりつつある夜間の洗浄可能時間にも容易に対応できるようになる。さらに、昇温された熱湯は逆浸透膜モジュールおよび電気再生式純水製造装置のみならず原水貯留槽から前処理手段にも通水されるので、効率のよい前処理手段の熱湯洗浄も可能になり、前処理手段での細菌コンタミ等をより適切に防止できるようになり、システム全体の優れた洗浄が可能になる。このように優れた性能の洗浄が短時間で可能になるので、比較的多量の透析液作成用希釈水の製造が要求されるセントラル透析システムにおける希釈水製造にも容易に対応できるようになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る透析液作成用希釈水の製造装置によれば、熱水洗浄において電気再生式純水製造装置を経た電極水を原水貯留槽に戻すことができるため、原水貯留槽の大きさが最小限で済み、装置を病院施設内で使用できるようになる。
【0025】
さらに、逆浸透膜モジュールおよび電気再生式純水製造装置の洗浄のための原水および循環水を効率よく所望の温度に加温でき、逆浸透膜モジュール、電気再生式純水製造装置、さらには前処理手段についても、短時間のうちに効率よく熱湯洗浄でき、セントラル透析システムにおける透析液作成用希釈水の製造に容易に対応できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態に係る透析液作成用希釈水の製造装置の機器系統図である。
【図2】図1のEDIと代替可能な別のEDIの構成例を示した模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0028】
図1は、本発明の第1実施形態に係る透析液作成用希釈水の製造装置を示しており、RO膜モジュールが1段の場合の一例を示している。図1に示す透析液作成用希釈水の製造装置1は、供給されてくる原水2を貯留する原水貯留槽3と、原水貯留槽3内の原水を加圧し供給する加圧ポンプ4と、加圧ポンプ4により供給された原水を前処理する前処理手段5と、前処理手段5により前処理された原水をさらに加圧し供給する高圧ポンプ6と、高圧ポンプ6により供給された原水を逆浸透膜(以下、RO膜と略す。)により透過水と濃縮水とに分離するRO膜モジュール8と、RO膜モジュール8からの透過水を脱塩水、電極水および濃縮水とに分離する電気再生式純水製造装置(以下、EDIと略す。)15と、EDI15からの脱塩水を精製水として貯留する精製水貯留槽9と、精製水貯留槽9に貯留された精製水を透析液作成用希釈水10として供給する精製水供給手段としての送水ポンプ11とを有している。
【0029】
前処理手段5は、少なくとも活性炭を含み、その他に、例えば、各種濾過膜(MF膜、UF膜、NF膜など)、軟化器、濾過器などの少なくとも一つを含むもので構成される。
【0030】
EDI15は、例えば、カチオン交換膜16とアニオン交換膜17とで画成される室にイオン交換体(イオン交換樹脂、モノリス状有機多孔質イオン交換体、イオン交換繊維等)を充填して脱塩室18を構成し、脱塩室18の両側に2つの濃縮室19a、19bを設け、これら脱塩室18および濃縮室19a、19bを、陰極を備えた陰極室20aと陽極を備えた陽極室20bとの間に配置して構成されている。濃縮室19aと電極室20aの間並びに濃縮室19bと電極室20bの間もアニオン交換膜16又はカチオン交換膜17が備えられている。図1では平板積層型のEDIを示しているが、スパイラル型あるいは同心円型などでもよい。また、脱塩室18が一つの場合を例示しているが、図2に示すように脱塩室18内に他のイオン交換膜(ここではアニオン交換膜17)を備え、脱塩室18を分割する構成であってもよい。
【0031】
図1の構成の場合、RO膜モジュール8からの透過水は分岐され、脱塩室18内に充填されたイオン交換体の層、濃縮室19a、19b、および電極室20a,20bを通過するようになっている。図2の構成の場合は、RO膜モジュール8の透過水は第1の脱塩室18aを通過した後に第2の脱塩室18bを通過するようにするのがよい。いずれの場合も、電極室20aの陰極と電極室20bの陽極との間に電圧が印加され、脱塩室18の両側のカチオン交換膜16とアニオン交換膜17を介して水の流れに対して直角方向に直流電流が作用されることにより、脱塩室18を流れるRO膜透過水中の不純物イオンが、濃縮室19a、19b中を流れるRO膜透過水中へ電気的に排除されながら、処理水として脱塩水が製造される。脱塩室18からの不純物イオン(塩類)を受け取った濃縮室19a、19bのRO膜透過水は濃縮水としてEDI15の外へ排出される。また、電極室20a,20b中を流れるRO膜透過水は水素ガスや、酸素ガス、塩素ガス、オゾンガス、過酸化水素などの酸化性ガス等の電解生成物を含んで電極水としてEDI15の外へ排出される。
【0032】
RO膜モジュール8の濃縮水および透過水、EDI15の脱塩水、電極水および濃縮水は、それぞれ、RO膜モジュール8からの濃縮水循環経路12および透過水循環経路13、ならびに、EDI15からの脱塩水循環経路21、濃縮水循環経路22および電極水循環経路23を介して原水貯留槽3に循環されることが可能に構成されている。EDI15の脱塩水循環経路21は、EDI15の脱塩室18から精製水貯留槽9へ送られる脱塩水供給路24に三方弁25を介して接続されている。三方弁25(第1の流路切替手段)により、透析液作成用希釈水の製造の際には脱塩水をEDI15の脱塩室18から精製水貯留層9へ送る脱塩水供給路24に、透析液作成用希釈水製造前の熱湯洗浄の際には熱湯をEDI15の脱塩室18から原水貯留槽3へ送る脱塩水循環経路21に切り替え可能となっている。
【0033】
また、精製水貯留槽9に貯留された精製水は、透析液作成用希釈水の製造の際に送水ポンプ11により透析液作成用希釈水10として供給されるか、透析液作成用希釈水製造前の熱湯洗浄の際に三方弁26(第2の流路切替手段)により切り替えた精製水循環経路14を介して原水貯留槽3に循環されることが可能に構成されている。
【0034】
原水貯留槽3には、原水および、各循環経路12,13,14,21,22,23を介して回収されてくる循環水を加温する加温手段28が付設されている。この加温手段としては、ヒータ等の一般的な加温手段をそのまま転用すればよい。
【0035】
透析液作成用希釈水の製造前にRO膜モジュール8およびEDI15の熱水洗浄を行う場合は、三方弁25によって脱塩水供給路24を脱塩水循環経路21のみに接続し、開閉弁27を開けて原水貯留槽3内に原水3を必要量貯める。その後、加温手段28、加圧ポンプ4および高圧ポンプ6を動作させる。これにより、原水貯留槽3内の原水が前処理手段5、RO膜モジュール8、およびEDI15へこの順番に通水されるとともに、各循環経路14,21,22,23を介して再び原水貯留槽3へ還流する。こうした循環を繰り返すことより、前処理手段5、RO膜モジュール8およびEDI15の通過のたびに原水貯留槽3内の原水の清浄度が増し、かつ、加温手段28で徐々に昇温される。こうしてRO膜モジュール8およびEDI15が熱湯洗浄に供される。
【0036】
ただし、昇温された熱湯により、前処理手段5から精製水貯留槽9までを含めたシステム全体の洗浄も可能である。これは、三方弁25によって、脱塩水供給路24を脱塩水循環経路21との接続から精製水貯留槽9との接続に切り替えると同時に、三方弁26により、精製水貯留槽9から精製水循環経路14に切り替えることで可能になる。
【0037】
さらに本実施形態では、加圧ポンプ4の出口側と高圧ポンプ6の入口側とを連通し前処理手段5をバイパスするバイパス回路29が設けられている。バイパス回路29によって前処理手段5を通水させる経路と通水させない経路とに切り替えることが可能であり、これにより、前処理手段5に通水する熱湯の温度と、RO膜モジュール8以降に通水する熱湯の温度との切り替えが可能になっている。
【0038】
このように構成された透析液作成用希釈水の製造装置1は次のようないくつかの効果を奏する。
【0039】
RO膜モジュール8により分離された透過水と濃縮水、EDI15の脱塩水、電極水、および濃縮水がそれぞれの循環経路12、13、21、22、23を介して原水貯留槽3に循環され、原水貯留槽3に付設された加温手段28によって徐々に昇温される。したがって、循環水量が減少されることなく、全量循環され、加温された循環水の全量がRO膜モジュール8とEDI15の熱湯洗浄に供され、熱水の利用効率が高く維持される。特に、原水貯留槽3とRO膜モジュール8とEDI15をこの順番に備えた系において、RO膜モジュール8の前段に、陽極水に含まれる酸化性ガスを除去できる活性炭を含む前処理手段5を設けたことにより、この前処理手段5の前段の原水貯留槽3へEDI15の電極水を戻せるので、水回収率が100%となる。このため、EDIの電極水を排出することが必要な従来構成と違い、電極水の排出量を見越して原水貯留槽3の大きさを大きくする必要がなくなる。
【0040】
電極水を循環させられない従来構成の場合、例えば、EDIからの電極水の排出量が1時間当たり30リットルとすると、4時間の熱水洗浄で120リットルの水が失われる。また図1に示すように原水貯留槽3からRO膜モジュール8やEDI15等を経て再び原水貯留槽3へ水を還流させる系では、空運転させないために、原水貯留槽3以外の構成要素にも水を保有させておく必要がある。このような保有水量が例えば70リットルであるとすると、電極水の消失水量と合わせて従来構成では原水貯留槽3内に190リットルの原水を貯留しておかなければならない。つまり、原水貯留槽3は少なくとも190リットルの原水を収容できる大きさでなければならない。これに対し、電極水を原水貯留槽3に戻せる本願発明では系内の熱水は減らないので、上記の保有水量の70リットルを最小限貯留できればよい。上記の数値例で言うと、本願発明によれば、従来構成よりも半分以下に原水タンク容量を減らすことができる。
【0041】
したがって、EDIの電極水を排出することが必要な従来構成と違い、病院施設内で容易に搬送および設置できる大きさの透析液作成用希釈水の製造装置を提供することができる。また本発明の製造装置は、電極水の排出ラインが不要であるため、本製造装置に付随して排水処理設備を用意する必要がなく、病院施設内で作る透析液の製造装置として好適である。
【0042】
また、上述したように加温手段28により循環水が徐々に昇温されるので、RO膜モジュール8およびEDI15の内部が一気に高温熱湯に曝されることはなく、RO膜やイオン交換体等は望ましい温度条件で洗浄される。さらに、循環水は水量が減少されずに、その全量が原水貯留槽3に付設された加温手段28により昇温され、とくに系外への熱水の排出が無いため原水貯留槽では昇温のための熱容量を大きい状態に維持できる。結果、高い加温効率を実現でき、短時間のうちに目標温度まで昇温できる。昇温時間の短縮により、所定の洗浄時間も短くなり、短くなりつつある夜間の洗浄可能時間中に、十分な洗浄を行うことが可能になる。
【0043】
また、昇温された熱湯は前処理手段5にも通水されるので、RO膜モジュール8とEDI15のみならず前処理手段5の効率のよい熱湯洗浄も可能になり、洗浄後の希釈水製造の際の前処理手段5での細菌コンタミ等をより適切に防止できるようになる。さらに、精製水貯留槽9も循環水により熱湯洗浄可能であり、システム全体の効率のよい優れた洗浄が可能である。
【0044】
さらに、バイパス回路29による流路切り替えを利用することにより、前処理手段5とRO膜モジュール8とEDI15にとって最適とされる熱湯通水温度が互いに異なる場合にあっても、各部位をそれぞれ最適な熱湯温度でより適切に洗浄できるようになる。例えばバイパス回路29を閉じて前処理手段5側のみに通水した場合には、前処理手段5の洗浄に最適な温度の熱湯を前処理手段5に通過させることができ、バイパス回路29を開いて前処理手段5側に通水させない場合には、RO膜8モジュールおよびEDI15の洗浄に最適な温度の熱湯をRO膜8モジュールおよびEDI15に通過させることができる。
【0045】
また三方弁25,26を操作することにより、原水貯留槽3とRO膜モジュール8およびEDI15との間で循環される熱湯の温度が所定温度に達し、所定時間循環を行った後、RO膜モジュール8およびEDI15を経た熱湯を精製水貯留槽9に供給するとともに、送水ポンプ11により精製水循環経路14を介して精製水貯留槽9と原水貯留槽3との間で精製水を循環させ、該循環水により原水貯留槽3から精製水貯留槽9までを熱湯洗浄することもできる。すなわち、所定時間原水貯留槽3とRO膜モジュール8およびEDI15との間の循環を行って洗浄がある程度進んだ段階で、送水ポンプ11を利用して精製水貯留槽9の精製水を原水貯留槽3に循環させることができる。これにより、より清浄な精製水を用いて最終的な熱湯洗浄を行うことが可能となり、最終洗浄後すぐに希釈水の製造を適切に開始できるようになる。
【0046】
以上、実施形態を示して本発明を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の形や細部には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0047】
例えば、上記では、前処理手段5とEDI15の間の流路上に一つのRO膜モジュールが設置された装置を示したが、RO膜モジュール8が少なくとも2段直列に配置された装置であってもよい。この装置の場合も、追加されたRO膜モジュールの濃縮水および透過水を原水貯留槽3へ戻す循環経路や、高圧ポンプを適宜追加することができる。こうした多段のRO膜モジュールを備えることにより、透析液作成用希釈水を製造する際の希釈水の清浄度をさらに高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、前処理手段とRO膜モジュールとEDIとを有するあらゆる透析液作成用希釈水の製造に適用でき、とくに多人数用の血液透析を中央で集中管理できるようにしたセントラル透析システムにおける透析液作成用希釈水の製造に好適なものである。
【符号の説明】
【0049】
1 透析液作成用希釈水の製造装置
2 原水
3 原水貯留槽
4 加圧ポンプ
5 前処理手段
6 高圧ポンプ
8 逆浸透膜モジュール
9 精製水貯留槽
10 透析液作成用希釈水
11 精製水供給手段としての送水ポンプ
12 RO膜モジュールの濃縮水循環経路
13 RO膜モジュールの透過水循環経路
14 精製水循環経路
15 EDI
16 カチオン交換膜
17 アニオン交換膜
18、18a、18b 脱塩室
19a、19b 濃縮室
20a、20b 電極室
21 脱塩水循環経路
22 濃縮水循環経路
23 電極水循環経路
24 脱塩水供給路
25、26 三方弁
27 開閉弁
28 加温手段
29 バイパス回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を貯留する原水貯留槽と、
前記原水貯留槽より加圧供給された原水を前処理する少なくとも活性炭を含む前処理手段と、
前記前処理手段より前処理されて加圧供給された原水を逆浸透膜で透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜モジュールと、
前記逆浸透膜モジュールからの透過水を脱塩水、電極水および濃縮水に分離する電気再生式純水製造装置(EDI)と、
前記電気再生式純水製造装置の脱塩水を精製水として貯留する精製水貯留槽と、
前記電気再生式純水製造装置の脱塩水を前記精製水貯留槽に供給する脱塩水供給路と、
前記精製水貯留槽に貯留された精製水を透析液作成用希釈水として供給する精製水供給手段と、を有し、さらに、
前記逆浸透膜モジュールの透過水および濃縮水、ならびに前記電気再生式純水製造装置の脱塩水、電極水および濃縮水をそれぞれ前記原水貯留槽に戻す循環経路と、
前記原水貯留槽に付設され、前記逆浸透膜モジュールおよび前記電気再生式純水製造装置の熱湯洗浄を行うときに前記原水貯留槽内の原水と、前記逆浸透膜モジュールの透過水および濃縮水ならびに前記電気再生式純水製造装置の脱塩水、電極水および濃縮水の前記原水貯留槽内への循環水とを加温する加温手段と、
前記熱湯洗浄を行うときに、前記脱塩水供給路の脱塩水が前記精製水貯留槽に供給されないように前記脱塩水供給路を、前記電気再生式純水製造装置の脱塩水を前記原水貯留槽に戻す脱塩水循環経路に切り替えることが可能な第1の流路切替手段と、
を有する透析液作成用希釈水の製造装置。
【請求項2】
前記精製水貯留槽内の精製水を前記原水貯留槽に戻す精製水循環経路と、
前記精製水供給手段で供給される精製水を前記精製水循環経路への流れに切り替えることが可能な第2の流路切替手段とをさらに有し、
前記熱湯洗浄を行うときに前記第1の流路切替手段により前記脱塩水供給路の脱塩水を前記精製水貯留槽に供給し、前記第2の流路切替手段により前記精製水貯留槽内の精製水を前記精製水循環経路に流すことが可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の透析液作成用希釈水の製造装置。
【請求項3】
多段に直列接続された複数の前記逆浸透膜モジュールが前記前処理手段と前記電気再生式純水製造装置の間に配されていることを特徴とする請求項1または2に記載の透析液作成用希釈水の製造装置。
【請求項4】
前記前処理手段は、軟化器、濾過器、および濾過膜の少なくとも一つをさらに含むもので構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の透析液作成用希釈水の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−125449(P2012−125449A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280382(P2010−280382)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】