説明

透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒の結晶学的方位関係測定装置及びそれによる結晶粒界の特性の糾明方法

【課題】2つの結晶の方位関係と結晶粒界の特性をリアルタイムで正確に確認できることを特徴とし、透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒の結晶学的方位関係と結晶粒界の特性を測定する測定装置及びその測定方法を提示する。
【解決手段】このため結晶軸(H1,H2,H3)に対してゴニオメ−タを利用してX傾斜軸及びY傾斜軸にそれぞれ垂直する軸である(Tx,Ty)値を測定し、測定された結晶軸(H1,H2,H3)に対する3つの(Tx,Ty)値から(H1,H2,H3)結晶軸の挟角を求める。次いで(H1,H2,H3)の結晶指数から結晶学的な方法で(H1,H2,H3)の挟角を求める。次いで、測定された(Tx,Ty)値から得た(H1,H2,H3)の挟角と結晶学的に算出した挟角とを比較して、その差を最小化する(Tx,Ty)値を正確な測定値として選択して、傾斜軸と結晶軸(H1,H2,H3)間の関係を樹立する。次いで2つの結晶間の脱角行列を利用して結晶粒界の特性を糾明する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は隣り合う結晶粒の結晶学的方位関係の測定装置及びこれを利用した結晶粒界の特性の糾明方法に関するもので、特に、透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒の方位関係を測定する装置及びその装置による結晶粒界の特性の糾明方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡は、数nm以下の厚さの試料に電子線を照射してこれによる透過及び回折される電子線の干渉によって結晶構造及び結晶欠陥を観察することができる装置である。特に、透過電子顕微鏡は結晶構造または結晶の方位関係を確認し、これを通じて結晶粒界の特性を把握するのに有用に使用される。透過電子顕微鏡を利用した従来の結晶粒界の特性糾明は、非弾性散乱電子(inelastic scattering electron)が作る回折像から成る菊池図形(Kikuchi pattern)をフィルムに現像して成された。
【0003】
ところが、従来の透過電子顕微鏡を利用した結晶粒界の特性の糾明方法は、菊池図形が現像されたフィルムに基準座標系を設定し、結晶軸が傾いた角度と距離を測定して結晶粒界の特性を糾明したため、結晶粒界の特性をリアルタイムで糾明することは難しい。また菊池図形が現像されたフィルムに基準座標系を設定するとき、そしてカメラ距離を設定するとき誤差が流入される可能性が高い。従って、菊池図形が現像されたフィルムを使用すると2つの結晶粒の脱角(misorientation)の誤差が流入される可能性が高い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明が解決しようとする技術的な課題は、隣り合う結晶粒の方位関係と結晶粒界の特性をリアルタイムで正確に確認するため、透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した結晶粒の方位関係測定装置を提供することにある。また、本発明が解決しようとする他の技術的課題は、上記装置を利用して結晶粒の方位関係と共に結晶粒界の特性を測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記技術的課題を達成すべく、本発明の隣り合う結晶粒の方位関係測定装置は、透過電子顕微鏡に装着されたゴニオメ−タ及び上記ゴニオメ−タを利用して結晶軸と試料の傾斜軸との関係を線型代数的に解釈して上記試料の結晶粒界の特性を糾明する測定部を含む。
【0006】
本発明において、上記結晶軸(または結晶面、例えば、H1,H2,H3結晶軸から予測されたH5,H6,H7)と試料の傾斜軸(tilt axis)との関係は、上記透過電子顕微鏡に装着されたX傾斜軸及びY傾斜軸にそれぞれ垂直する軸であるTx[100]軸とTy[010]軸そしてTx軸とTy軸に垂直するTz[001]軸からなる直交座標系と3つの直交する結晶軸からなる座標の間の線形代数的な関係であることができる。
【0007】
上記技術的課題を達成すべく、本発明は隣り合う結晶粒の間の脱角(misorientation)を測定する方法を提供する。先ず、結晶軸(H1,H2,H3)の結晶指数を回折図形から決定する。その後、3つの結晶軸(H1,H2,H3)に対して透過電子顕微鏡に装着されたX傾斜軸及びY傾斜軸にそれぞれ垂直する軸である(Tx,Ty)角を測定する。次いで、結晶軸(H1,H2,H3)間の挟角を測定された(Tx,Ty)値から求める。次いで、結晶軸(H1,H2,H3)間の挟角を結晶指数から結晶学的方法で算出する。その後(H1,H2,H3)の測定された(Tx,Ty)値から得た挟角と結晶指数から結晶学的に計算された挟角を比較して、その差を最小化する測定角(Tx,Ty)角を正確な測定値に採択して上記傾斜軸と結晶軸(H1,H2,H3)間の関係を樹立する。次いで、2つの結晶間の脱角行列を求める。上記脱角行列を利用して結晶粒界の特性を糾明する。
【0008】
本発明の好ましい実施例において、結晶軸(H1,H2,H3)の測定値と計算値の差を最小化する段階は、上記測定された(Tx,Ty)角から結晶軸(H1,H2,H3)の挟角を求める段階と、上記測定された結晶軸(H1,H2,H3)の結晶指数を決定し立方晶系の挟角を結晶指数から結晶学的に算出する段階を含む。測定された(Tx,Ty)角から結晶軸(H1,H2,H3)の挟角を求める原理は、上記Tx軸に沿った傾斜角(tilt angle;α)、上記Ty軸に沿った傾斜角(β)ほど傾いている場合、ビ−ムの中心方向から傾いた角(γ)を求める原理と同一である。
【0009】
上記傾斜軸と上記結晶軸(H5,H6,H7)間の関係を樹立する段階は、上記結晶軸(H1,H2,H3)から任意の結晶軸(H4)を予測する段階を含む。
【0010】
本発明の好ましい結晶粒界測定方法において、上記傾斜軸と上記結晶軸(H1,H2,H3)間の関係を樹立する段階は、上記結晶軸を上記傾斜軸の[100]軸、上記結晶軸を上記傾斜軸の[010]軸、及び上記結晶軸を上記傾斜軸の[001]軸に平行した(H5,H6,H7)から樹立することができる。結晶軸(H5,H6,H7)は測定された結晶軸(H1,H2,H3)から予測して探ることができる。または上記傾斜軸と上記結晶軸(H8,H9,H7)間の関係はX軸、Y軸に所定の同一な角θほどそれぞれ回転されたH8、H9とZ軸に平行したH7から樹立することができる。結晶軸H8、H9は、測定された結晶軸(H1,H2,H3)から予測して探ることができる。
【0011】
または上記傾斜軸と上記結晶軸(H10,H11,H12)間の関係は、X軸、Y軸に所定の同一なθほどそれぞれ回転させたとき、結晶軸ベクトルからZ軸に平行した結晶軸ベクトルを差し引いたH10、H11結晶軸と、Z軸に平行したH12結晶軸から樹立することができる。結晶軸H10、H11は、測定された(H1,H2,H3)から予測して探ることができる。または、上記傾斜軸と結晶軸の間の関係は、H10、H11結晶軸においてTx,Ty軸にそれぞれ平行した成分で構成された結晶軸とZ軸に平行した結晶軸から樹立することができる。
この際、上記θは0より大きく10より小さい角であることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒の方位関係測定装置及びその方法によると、ゴニオメ−タを利用して結晶軸と試料の傾斜軸との関係を線形代数的に解釈して上記試料の結晶粒界の特性を糾明することにより、隣り合う結晶粒の方位関係と結晶粒界の特性を小さい誤差範囲内でリアルタイムで確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照に本発明の好ましい実施例を詳しく説明する。以下で説明する実施例は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が下記に詳述する実施例に限定されるものではない。本発明の実施例は当技術分野において通常の知識を有している者に本発明をより完全に説明するため提供されるものである。
【0014】
本発明の実施例は、透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用して、隣り合う結晶粒の方位関係と結晶粒界の特性を線形代数的な方法により糾明する装置及び方法に関するものである。具体的に、本発明の実施例は、従来の菊池図形を直接利用せず、透過電子顕微鏡に装着されたゴニオメ−タを利用して結晶軸と試料の傾斜軸(tilt axis)の関係を線形代数的に解釈して結晶粒界の特性を糾明するものである。これによって本発明は結晶粒界の特性を透過電子顕微鏡に装着されたゴニオメ−タを利用するためリアルタイムで分かることができる。
【0015】
本発明の実施例は、観察しようとする結晶(以下、試料と称す)が装着されたゴニオメ−タを利用して傾斜軸と結晶軸の関係を測定し、その後、上記関係を利用して測定されない結晶軸を予測する方法を順次に説明する。また、上記予測方法を段階別に具体的に見せる。
【0016】
図1は本発明の実施例による透過電子顕微鏡に装着された試料の傾斜軸と結晶軸との関係を説明した図面で、図2は測定された3つの結晶軸と傾斜軸の関係を利用して測定されない結晶軸を予測する線形代数的な方法を説明した図面である。この際、ゴニオメ−タは透過電子顕微鏡の対物レンズと集束レンズとの間に位置しながら、試料を装着する装置である。
【0017】
図1を参照すると、透過電子顕微鏡のゴニオメ−タに装着された試料Sを透過した電子ビ−ム(E)が結晶面によって回折された結晶軸(H1,H2,H3)を表す。すなわち、逆格子(reciprocal lattice)と関連して提案されたエバルト球(Ewald sphere;S(E))のX傾斜軸とY傾斜軸が接するところに試料Sを位置させる。次いで、電子ビ−ムを試料Sに向かって照射すると、試料Sの結晶面により回折された結晶軸(H1,H2,H3)を透過電子顕微鏡の蛍光面で確認することができる。この際、結晶軸H1は試料Sの結晶面により回折された(h111)結晶軸で、H2は(h222)結晶軸で、H3は(h333)結晶軸である。
【0018】
図2によると、先に得られた結晶軸(H1,H2,H3)と透過電子顕微鏡に装着された傾斜軸を利用すると、予測しようとする結晶軸(H4)が分かる。具体的に、透過電子顕微鏡に装着されたX傾斜軸及びY傾斜軸にそれぞれ垂直する軸であるTx軸とTy軸からなる座標に測定された結晶軸(H1,H2,H3)を配置すると、それぞれの結晶軸(H1,H2,H3)の挟角(η1,η2,η3)が得られる。この際、η1はH1(h111)とH2(h222)、η2はH2(h222)とH3(h333)、η3はH3(h333)とH1(h111)のそれぞれの挟角である。また結晶軸(H1,H2,H3)の(Tx,Ty)角を利用して予測しようとする結晶軸H4(hkl)と結晶軸(H1,H2,H3)の挟角(θ1、θ2、θ3)が得られる。この際、Tx軸とTy軸はTz軸と直交し、θ1はH4(hkl)とH1(h111)、θ2はH4(hkl)とH2(h222)、そしてθ3はH4(hkl)とH3(h333)のそれぞれの挟角である。
【0019】
測定されない結晶軸H4(hkl)を予測する前に、結晶軸(H1,H2,H3)に対する正確な測定値を得るため測定された(Tx,Ty)値から決定された挟角と結晶指数から結晶学的に決定された挟角とを比較して、最小の差を有する(Tx,Ty)値を採択する過程S20が含まれる。ゴニオメ−タで測定された結晶軸(H1,H2,H3)の挟角(θ1、θ2、θ3)と結晶指数から結晶学的に算出した挟角の関係を利用して、式(3)と式(4)から予測しようとする結晶軸H4を求めることができる。例えば、H1とH4の(Tx,Ty)がそれぞれ(10、20)、(0、90)であるとき、H1とH4の挟角は2つの(Tx,Ty)角の差である(−10、70)から式(4)を利用して求めることができる。結晶学的に決定された挟角は(H1,H2,H3)結晶軸の知られた結晶指数(h111)、(h222)、(h333)とH4の知られない結晶指数(hkl)から(式3)を利用して求めることができる。
【0020】
図3は、本発明の実施例による結晶粒界の特性を糾明する過程を説明するフロ−図である。
【0021】
図3を参照すると、先ず、結晶軸(H1,H2,H3)それぞれの(Tx,Ty)角をゴニオメ−タを利用して測定することにより結晶軸(H1,H2,H3)の挟角(η1,η2,η3)を測定するS10。その後、測定された(Tx,Ty)角から決定された結晶軸(H1,H2,H3)に対する挟角と、結晶指数から結晶学的に計算された結晶軸(H1,H2,H3)の挟角とを比較してその差を最小化する(Tx,Ty)角を正確な測定角に選択するS20。次いで、傾斜軸の基底ベクトル(basis vector)と結晶軸の基底ベクトルの間の関係を樹立しS30、2つの結晶の間の脱角行列を求めるS40。最後に、求められた脱角行列を利用して結晶粒界の特性を糾明するS50。以下では、上記の結晶粒界の特性を糾明する過程を段階別に具体的に説明する。
【0022】
−結晶軸(H1,H2,H3)を測定する段階S10
観察しようとする結晶に対して3つの結晶軸(H1,H2,H3)を図1及び図2のようにゴニオメ−タを利用して測定する。具体的に、試料(図1のS)を傾けて電子ビ−ム方向(図1のE−beam)と平行した結晶軸を探り、そのときのゴニオメ−タに表示された角度を記録する。このような過程は観察しようとする全ての結晶粒に対してそれぞれ行う。例えば、2つの結晶粒(A、B)が結晶粒界により区分されると仮定すると、A結晶粒の結晶軸H(A)1(h111)、H(A)2(h222)、H(A)3(h333)と、B結晶粒の結晶軸H(B)1(h111)、H(B)2(h222)、H(B)3(h333)が有する(Tx,Ty)角を全て測定する。
【0023】
−測定された値の正確性を評価する段階S20
A結晶粒の場合、3つの結晶軸[H(A)1、H(A)2、H(A)3]に対して測定した(Tx,Ty)値で式(1)により挟角を算出する。次いで3つの結晶軸[H(A)1、H(A)2、H(A)3]の間の角を(h111)、(h222)、(h333)結晶指数から式(2)により結晶学的に算出する。次いで(Tx,Ty)値から求めた挟角と結晶指数から結晶学的に得た挟角を比較して、可能な限りその差を小さくする(Tx,Ty)値を採択する。
【0024】
その理由は、3つの結晶軸の間の測定値と計算値の差が大きいと、直交座標系の直交性が劣り、従って、予測されるH4の結晶軸に誤差が大きくなるためである。具体的に、測定された(Tx,Ty)角から測定された結晶軸[H(A)1、H(A)2、H(A)3]の挟角を式(1)から算出する。また、測定した結晶軸[H(A)1、H(A)2、H(A)3]の結晶指数を決定し、立方晶系の挟角を結晶学的に算出する式(2)によりその挟角を算出する。結晶軸に対する傾斜角を数回測定して算出した測定値と計算値の差が、可能な限り小さい(Tx,Ty)角を選択することにより、直交座標系の直交性を最大に改善しなければならない。
【0025】
図4は、図1の一部分としてゴニオメ−タの(Tx,Ty)角を利用して結晶軸[H(A)1、H(A)2、H(A)3]の挟角(η1、η2、η3)を算出する方法を説明した図面である。ここで図4は、X傾斜によって形成されるエバルト球S(E)上での結晶軸の軌跡10、Y傾斜により形成されるエバルト球S(E)上での結晶軸の軌跡11、X傾斜角(α)に関係するTx軸上の距離(12)、Y傾斜角(β)に関係するTy軸上の距離13及びX傾斜角(α)とY傾斜角(β)による総傾斜角(γ)により誘発された距離14で表現される。参照番号15は電子ビ−ムの中心方向である。
【0026】
具体的にみると、結晶軸H(A)1(h111)は、X傾斜に関係するTx軸に沿った傾斜角(α)、y傾斜に関係するTy軸に沿った傾斜角(β)ほど傾いている場合、ビ−ムの中心15から傾いた総傾斜角(γ)の角は次の関係を有する。
【0027】
cosγ=cosα+cosβ−1……式(1)
【0028】
すなわち、式(1)からゴニオメ−タで測定した3つの結晶軸[H(A)1、H(A)2、H(A)3]の挟角(η1、η2、η3)を全て算出することができる。
【0029】
また、立方晶系の結晶軸H(A)1(h111)と H(A)2(h222)の挟角を次の結晶学的数式で計算することができる。
【0030】
【数1】

【0031】
B結晶粒に対して[H(B)1、H(B)2、H(B)3)]の(Tx1、Ty1)、(Tx2、Ty2)、(Tx3、Ty3)測定値から式(1)により挟角(η1、η2、η3)を算出することができ、結晶学的な計算値は式(2)により求めることができる。但し、B結晶粒に対して3つの結晶軸に対する傾斜角を測定するとき留意する点は、結晶粒Aの3つの結晶軸内に電子ビ−ムが通過し、そのとき透過電子ビ−ムの中心で傾斜角を(Tx0、Ty0)とすると、3つの結晶軸は可能な限り透過電子ビ−ムから近くなければならない。また、結晶粒 Bの傾斜角の測定は(Tx0、Ty0)であるときの透過電子ビ−ムの中心から可能な限り近い結晶軸を利用しなければならない。このような過程により直交座標系の直交性をより改善することができる。
【0032】
−傾斜軸と結晶軸との関係を樹立する段階S30
ここでは3つの結晶軸[H(A)1、H(A)2、H(A)3]の間の角度を正確に測定して、3つの結晶軸[H(A)1、H(A)2、H(A)3]から知りたい任意の結晶軸[H(A)4]を予測することも含まれる。図2において任意の結晶軸H(A)4(h k l)は次の関係により計算する。
【0033】
【数2】

【0034】
ここで、





、i=1、2、3である。
また、θ1、θ2、θ3は次のような関係を満たす。
【0035】
【数3】

【0036】
ここで、H(A)1(h111)の(Tx1、Ty1)、H(A)2(h222)の(Tx2、Ty2)、H(A)3(h333)の(Tx3、Ty3)と H(A)4(hkl)の(Tx4、Ty4)の差をそれぞれ(ΔTx1、ΔTy1)、(ΔTx2、ΔTy2)、(Δx3、ΔTy3)とする。
【0037】
式(3)と式(4)の関係から結晶軸と傾斜軸の間の関係を樹立する方法は3つがある。すなわち、一番目の方法は、図5のようにH5(Tx=90、Ty=0)16で、H6(Tx=0、Ty=90)17で、H7(Tx=0、Ty=0)18であるときの結晶軸を利用する方法である。この際、H5(Tx=90、Ty=0)16は結晶軸を傾斜軸の[100]軸、H6(Tx=0、Ty=90)17は結晶軸を傾斜軸の[010]軸、そしてH7(Tx=0、Ty=0)18は結晶軸を傾斜軸の[001]軸に平行するよう配列したものである。
【0038】
二番目の方法は、図6のようにX軸、Y軸に同一な任意の角、θほどそれぞれ回転させた値を使用し、θほどそれぞれ回転させた値は式(3)と式(4)から算出することができる。例えば、式(3)と式(4)に入力される値はそれぞれH8(Tx=10、Ty=0)19、H9(Tx=0、Ty=10)20、H7(Tx=0、Ty=0)21であり、そのときの結晶軸をそれぞれ算出する方法である。この際、H8(Tx=10、Ty=0)19は結晶軸を傾斜軸の[x0z]軸、H9(Tx=0、Ty=10)20は結晶軸を傾斜軸の[0yz]軸、H7(Tx=0、Ty=0)21は結晶軸を傾斜軸の[001]軸に平行するよう配列したものである。
この際(値は0より大きく10より小さいか同じ任意値を選択することができ、その中で脱角行列の直交性に優れた値を選択することができる。
【0039】
三番目の方法は、図7のようにX軸、Y軸にそれぞれ同一な任意の角θほどそれぞれ回転させたときの結晶軸ベクトルを式(3)と式(4)から算出した後、Z軸に平行した結晶軸ベクトルを減算した値(subtracted value)を使用する。例えば、式(3)と式(4)に入力値で(Tx=10、Ty=0)、(Tx=0、Ty=90)、(Tx=0及びTy=0)を代入し、そのときの結晶軸をそれぞれ求めた後、(Tx=10及びTy=0)、(Tx=10及びTy=0)結晶軸から(Tx=0、Ty=0)であるときの結晶軸をそれぞれ減算して利用するものである。
【0040】
具体的に、図7において参照番号22は(Tx=10、Ty=0)であるときの結晶軸から(Tx=0、Ty=0)の結晶軸を減算した結晶軸H10を傾斜軸の[100]軸に近似的に(approximately)平行するよう配列したもので、参照番号23は(Tx=0、Ty=10)であるときの結晶軸から(Tx=0、Ty=0)の結晶軸を減算した結晶軸H11を傾斜軸の[010]軸に近似的に平行するよう配列したもので、参照番号24は(Tx=0、Ty=0)であるときの結晶軸H12を傾斜軸の[001]軸に平行するよう配列したものである。この際、θ値は0より大きく10より小さいか同じ任意の値を選択することができ、その中で直交座標の直交性に優れた値を選択することができる。
【0041】
四番目の方法は、三番目の方法から減算して求めたH10、H11結晶軸に対してTx,Ty軸にそれぞれ平行な成分で構成された2つの結晶軸とTz軸に平行な結晶軸で傾斜軸と結晶軸の間の線形代数的な関係を樹立することができる。
【0042】
一番目の方法を図5を参照して詳しく説明すると、式(3)及び式(4)の関係を利用してH5(Tx=90、Ty=0)16、H6(Tx=0、Ty=90)17、H7(Tx=0、Ty=0)18結晶軸をそれぞれ算出して結晶軸の基底ベクトル(basis vector)と傾斜軸の基底ベクトル(basis vector)の間の関係を次の一致行列(correspondence matrix、ciMt)を樹立する。この際、一致行列は観察しようとする結晶粒ci全てに対して樹立する。A、B結晶粒を仮定すると、iはA、Bを表す。
【0043】
【数4】

【0044】
一番目の方法は、3つの結晶軸を正確に測定したとき数学的に正確な値を示すことができる。しかし、実際の場合、試料の厚さが薄くて発生し得る結晶の回転と3つの結晶軸を同一な領域に対して測定することができないため、3つの結晶軸を正確に測定することは不可能であり、自然な誤差が含まれる。このような誤差は、式(1)と式(2)により算出した3つの結晶軸の間の角によって判別することができる。従って、一番目の方法は線形代数的な面で最も正確な方法であるにも拘らず、3つの結晶軸に対して傾斜角をそれぞれ測定するとき自然な誤差が介入するため直交座標系の直交性が劣る。
【0045】
二番目の方法は、脱角行列の直交性を改善する方法で、図6のようにX軸、Y軸に同一な任意の角、θほどそれぞれ回転させた値を使用し、θほどそれぞれ回転させた値は式(3)と式(4)から算出することができる。例えば、H8(Tx=10、Ty=0)19、H9(Tx=0、Ty=10)20、H7(Tx=0、Ty=0)21の結晶軸をそれぞれ算出して次の一致行列を樹立する。この際、一致行列は観察しようとする結晶粒ciの全てに対して樹立する。A、B結晶粒を仮定すると、iはA、Bを表す。この際、θ値は0より大きく10より小さいか同じ任意値を選択することができ、その中で脱角行列の直交性に優れた値を選択することができる。
【0046】
【数5】

【0047】
三番目の方法は、結晶軸と傾斜軸の直交性を改善することであり、樹立された式(6)の行列要素(elements of matrix)を利用する方法で、図7のように、X軸、Y軸に同一な任意の角、θほどそれぞれ回転させた値を使用する。同一な角θほどそれぞれ回転させた値を式(3)と式(4)から算出することができる。例えば、H8(Tx=10、Ty=0)19、H9(Tx=0、Ty=10)20、H7(Tx=0、Ty=0)21の結晶軸をそれぞれ算出して式(6)の一致行列を樹立する。樹立された式(6)の行列要素中、(Tx=10、Ty=0)であるときの結晶軸から(Tx=0、Ty=0)であるときの結晶軸指数(indices of crystal axis)を減算した結晶軸H10を傾斜軸の[100]軸に、(Tx=0、Ty=10)であるときの結晶軸から(Tx=0、Ty=0)であるときの結晶軸指数を減算した結晶軸H11を傾斜軸の[010]軸に近似的に平行するよう配列し、(Tx=0、Ty=0)であるときの結晶軸H12を傾斜軸の[001]軸に平行するよう配列して式(7)のように一致行列を樹立する。この際θ値は0より大きく10より小さいか同じ任意値を選択することができ、その中で直交座標の直交性に優れた値を選択することができる。
【0048】
三番目の方法は、図7のように一致行列要素は傾斜軸のTx[100]、Ty[010]、Tz[001]方向に平行するため結晶軸と傾斜軸の間には直交性が発生することが特徴である。この際の直交性は線形代数的に正確な一番目の方法より著しく改善された特徴を有する。
【0049】
【数6】

【0050】
四番目の方法は、一致行列の行列要素が三番目の方法で加減して求めた結晶軸に対してTx,Ty軸にそれぞれ平行した成分のみを選択して傾斜軸と結晶軸の間の関係を樹立する。(Tx=θ、Ty=0)の結晶軸から(Tx=0、Ty=0)の結晶軸を加減したベクトルに対してTx軸に平行した成分である(a111213)は次の通りである。
【0051】
【数7】

【0052】
(Tx=0、Ty=θ)の結晶軸から(Tx=0、Ty=0)の結晶軸を加減したベクトルに対してTy軸に平行した成分である(b111213)は次の通りである。
【0053】
【数8】

【0054】
四番目の方法により樹立される一致行列は次の通りである。
【0055】
【数9】

【0056】
一方、式(5)、式(6)及び式(7)のための各段階で各行列のカラム(column)要素の大きさを“1”にする正規化(normalizing)過程が必要である。式(6)と式(7)の差点は、式(6)は直交性のない行列であるが、式(7)は直交性を有する行列であるということである。従って、式(6)自体だけでは測定の誤差を減少させることができず、次の段階を経ると脱角行列の直交性が改善されるのである。
【0057】
−2つの結晶間の脱角行列を求める段階S40
この段階は、式(5)、式(6)または式(7)により樹立された結晶軸と傾斜軸の間の関係を利用して結晶粒の間の脱角行列を樹立する過程である。先に説明した結晶粒AとBに対する結晶軸と傾斜軸の間の関係を利用して次のように2つの結晶粒の間の脱角行列を樹立することができる。
【0058】
【数10】

【0059】
すなわち、式(11)から観察しようとする各結晶粒界に対して脱角行列を構成することができる。
【0060】
−求めた脱角行列から結晶粒界の特性を糾明する段階S50
ここでは、式(8)により構成された脱角行列に対して文献に知られたデ−タから結晶粒界の特性を糾明する。例えば、結晶粒界がCSL(coincident site lattice)結晶粒界であるか否かと、どのようなCSL結晶粒界であるのかを判別することができる。具体的に、文献に報告されているCSLの索引、すなわちΣ値(Σ3、Σ5、Σ7、...)による回転軸−回転角(axis−angle pair)から脱角行列を構成する。次の段階で、本発明で測定された脱角行列とCSL結晶粒界のデ−タから構成された脱角行列の逆行列の積を算出する。算出した行列の対角成分から計算される値、θd=acos[0.5(a11+a22+a33−1)]を算出して文献に知られた基準Σ値(例えば、Brandon criteria)より小さいとΣ値を採択し、大きいと棄却する。このような過程を立方晶系の24個の対称性を全て考慮して実施する。
【0061】
以上、本発明は好ましい実施例を挙げて詳しく説明したが、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で当分野の通常の知識を有している者によって様々な変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明による透過電子顕微鏡に装着された試料の傾斜軸と結晶軸との関係を説明した図面である。
【図2】本発明による測定された3つの結晶軸と傾斜軸の関係を利用して傾斜角が測定されない任意の結晶軸を予測する線形代数的な方法を説明した図面である。
【図3】本発明による結晶粒界の特性を糾明する過程を説明するフロ−図である。
【図4】図1の一部分として測定された(Tx,Ty)角から測定された結晶軸の挟角を算出する方法を説明した図面である。
【図5】本発明による結晶軸と傾斜軸の間の関係を樹立する一番目の方法に関する概念図である。
【図6】本発明による結晶軸と傾斜軸の間の関係を樹立する二番目の方法に関する概念図である。
【図7】本発明による結晶軸と傾斜軸の間の関係を樹立する三番目の方法に関する概念図である。
【図8】本発明による結晶軸と傾斜軸の間の関係を樹立する四番目の方法に関する概念図である。
【符号の説明】
【0063】
S 試片
S(E) エバルト球
H1 (h111)結晶軸
H2 (h222)結晶軸
H3 (h333)結晶軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過電子顕微鏡に装着されたゴニオメ−タと、
前記ゴニオメ−タを利用して結晶軸と試料の傾斜軸との関係を線形代数的に解釈して前記試料の結晶粒界の特性を糾明する測定部と、を含む透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒方位関係及び結晶粒界の特性測定装置。
【請求項2】
前記結晶軸と試料の傾斜軸との関係は、前記透過電子顕微鏡に装着されたX傾斜軸及びY傾斜軸にそれぞれ垂直する軸であるTx軸とTy軸からなる座標に測定された結晶軸(H1,H2,H3)を配置して、予測しようとする結晶軸H4と前記測定された結晶軸(H1,H2,H3)とのそれぞれの挟角(θ1、θ2、θ3)であることを特徴とする請求項1に記載の透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒の方位関係及び結晶粒界の特性測定装置。
【請求項3】
結晶軸(H1,H2,H3)をゴニオメ−タを利用して測定する段階と、
透過電子顕微鏡に装着されたゴニオメ−タの(Tx,Ty)角で測定された結晶軸(H1,H2,H3)に対する挟角と結晶学的に計算された結晶軸(H1,H2,H3)の挟角とを比較してその差を最小化する(Tx,Ty)角を選択する段階と、
前記傾斜軸と結晶軸の間の関係を樹立する段階と、
2つの結晶間の脱角行列を求める段階と、
前記脱角行列を利用して結晶粒界の特性を糾明する段階と、を含む透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒方位関係及び結晶粒界の特性の測定方法。
【請求項4】
前記差を最小化する(Tx,Ty)角を選択する段階は、
前記(Tx,Ty)角から前記測定された結晶軸(H1,H2,H3)の挟角が前記Tx軸に沿った傾斜角(α)、前記Ty軸に沿った傾斜角(β)ほど傾いている場合、ビ−ムの中心から傾いた角(γ)を求める段階と、
前記測定された結晶軸(H1,H2,H3)の結晶指数を決定し立方晶系の挟角を結晶学的に算出する段階と、を含むことを特徴とする請求項3に記載の透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒方位関係及び結晶粒界の特性の測定方法。
【請求項5】
前記傾斜軸と結晶軸の間の関係を樹立する段階は、
前記結晶軸(H1,H2,H3)の間の角度を測定して結晶軸と前記傾斜軸との関係を樹立する段階と、
前記結晶軸(H1,H2,H3)から任意の結晶軸(H4)を予測する段階と、を含む請求項3に記載の透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒方位関係及び結晶粒界の特性の測定方法。
【請求項6】
前記傾斜軸と前記結晶軸の間の関係を樹立する段階は、
(Tx=90、Ty=0)結晶軸を前記傾斜軸の[100]軸、(Tx=0、Ty=90)結晶軸を前記傾斜軸の[010]軸、及び(Tx=0、Ty=0)結晶軸を前記傾斜軸の[001]軸に平行するよう配列したことを特徴とする請求項3に記載の透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒方位関係及び結晶粒界測定方法。
【請求項7】
前記傾斜軸と前記結晶軸の間の関係を樹立する段階は、
Tx軸、Ty軸に所定の同一な角θほどそれぞれ回転させたときの2つの結晶軸とTz軸に平行した1つの結晶軸を算出することを特徴とする請求項3に記載の透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒方位関係及び結晶粒界の特性の測定方法。
【請求項8】
前記傾斜軸と結晶軸の間の関係を樹立する段階は、
Tx,Ty軸に所定の同一な角θほどそれぞれ回転させたときの結晶軸からTz軸に平行した結晶軸を減算して求めた2つの結晶軸とTz軸に平行した1つの結晶軸を算出することを特徴とする請求項3に記載の透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒の方位関係及び結晶粒界の特性の測定方法。
【請求項9】
前記傾斜軸と結晶軸の間の関係を樹立する段階は、
Tx,Ty軸に所定の同一な角θほどそれぞれ回転させたときの結晶軸からTz軸に平行した結晶軸を減算して求めた2つの結晶軸に対してTx,Ty軸に平行した成分のみを選択した2つの結晶軸とTz軸に平行した1つの結晶軸を算出することを特徴とする請求項3に記載の透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒の方位関係及び結晶粒界の特性の測定方法。
【請求項10】
前記θは0より大きく10より小さい角であることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の透過電子顕微鏡のゴニオメ−タを利用した隣り合う結晶粒方位関係及び結晶粒界の特性の測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−27592(P2010−27592A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318286(P2008−318286)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(508367739)
【Fターム(参考)】