説明

通信装置および電力補正方法

【課題】ユーザ設定される送信周波数において最大送信電力を得ることができる。
【解決手段】演算部6は、送信信号と増幅器2で増幅された送信信号のフィードバック信号とに基づいて歪補償係数を算出する。記憶部4は、通信装置の送信電力の周波数特性を記憶する。補正部5は、記憶部4を参照してユーザ設定される送信周波数の電力を算出し、算出した電力と通信装置に規定された最大送信電力とに基づいて、ユーザ設定の送信周波数で最大送信電力が得られるようフィードバック信号を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、送信信号を増幅する増幅器の歪特性に対する歪補償処理を行う通信装置およびその通信装置の電力補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信において、デジタル化による高能率伝送が多く採用されるようになっている。このような高能率伝送では、基地局などの送信側で電力増幅器の増幅特性を直線化して非線形歪を抑え、隣接チャネル漏洩電力を低減する技術が重要である。
【0003】
かかる歪補償方式の1つとして、プリディストーション方式が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。プリディストーション方式は、増幅器の入力信号に対して、増幅器の歪特性と逆の特性を付加することにより、増幅器の出力において歪のない所望の信号を得る。
【0004】
具体的には、プリディストーション方式による歪補償処理は、歪補償前の送信信号と復調されたフィードバック信号とを比較し、その誤差(電力差)を用いて歪補償係数を算出し、更新する。歪補償係数は、送信信号の振幅、電力、またはそれらの関数をアドレスとしてメモリに記憶される。そして、更新された歪補償係数を次の送信すべき送信信号に乗算することで、送信信号のゲインが電力増幅器の歪特性の逆特性となるように調整され、そのゲイン調整された送信信号が電力増幅器に入力される。この動作を繰り返すことにより、最終的に最適の歪補償係数に収束し、電力増幅器の歪が補償される。
【0005】
ところで、無線通信装置の送信周波数(搬送波周波数)は、無線通信装置を使用する様々なユーザに対応するため、所定の帯域を有している。これにより、ユーザは、無線通信装置を使用する地域などによって、無線通信装置に所望の送信周波数を設定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−65211号公報
【特許文献2】特開2007−221245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
無線通信装置では、一般に最大送信電力が規定される。無線通信装置は、例えば、使用可能な送信周波数帯域の中心周波数にて最大送信電力が得られるように設定される。そのため、例えば、ユーザが中心周波数以外の送信周波数を無線通信装置に設定した場合、その設定した送信周波数で最大送信電力が得られない場合があるという問題点があった。
【0008】
本件はこのような点に鑑みてなされたものであり、ユーザの設定した送信周波数において最大送信電力を得ることができる通信装置および電力補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、増幅器で増幅する送信信号の歪を補償して出力する通信装置が提供される。この通信装置は、送信信号と前記増幅器で増幅された送信信号のフィードバック信号とに基づいて歪補償係数を算出する演算部と、当該通信装置の送信電力の周波数特性を記憶した記憶部と、前記記憶部を参照して設定される送信周波数における電力を算出し、算出した電力と当該通信装置に規定された最大送信電力とに基づいて、前記フィードバック信号を補正する補正部と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
開示の通信装置および電力補正方法によれば、ユーザ設定される送信周波数において最大送信電力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施の形態に係る通信装置のブロック図である。
【図2】第2の実施の形態に係る通信装置を適用した通信システムを示した図である。
【図3】通信装置のブロック図である。
【図4】送信電力トレーニングを説明する図である。
【図5】補正値の算出を説明する図である。
【図6】通信装置の歪補償処理を示したフローチャートである。
【図7】第3の実施の形態に係る通信装置のブロック図である。
【図8】通信装置の歪補償処理を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、第1の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、第1の実施の形態に係る通信装置を示した図である。図1に示すように、通信装置は、乗算器1、増幅器2、カプラ3、記憶部4、補正部5、演算部6、および歪補償係数記憶部7を有している。
【0013】
乗算器1は、送信信号に歪補償係数記憶部7の歪補償係数を乗算する。
増幅器2は、歪補償係数が乗算された送信信号を増幅する。増幅された送信信号は、例えば、アンテナを介して無線送信される。
【0014】
カプラ3は、増幅器2で増幅された送信信号の一部をフィードバック信号として補正部5に出力する。
記憶部4は、通信装置の送信電力の周波数特性を記憶している。例えば、通信装置は、ユーザ設定される様々な送信周波数に対応して通信できるよう送信周波数帯域を有しており、記憶部4は、その送信周波数帯域における複数の送信周波数に対応する送信電力を記憶している。複数の送信周波数とその送信周波数に対応する電力は、例えば、通信装置の工場出荷前等に予め測定し記憶部4に記憶する。
【0015】
補正部5は、記憶部4を参照してユーザ設定される送信周波数の電力を算出する。補正部5は、算出した電力と通信装置に規定された最大送信電力とに基づいて、ユーザ設定の送信周波数にて最大送信電力が得られるようカプラ3から出力されるフィードバック信号を補正する。
【0016】
例えば、補正部5は、ユーザ設定される送信周波数にて最大送信電力が得られるよう、記憶部4を参照して算出したユーザ設定される送信周波数の送信電力と、通信装置に規定された最大送信電力との差に応じてフィードバック信号を補正する。これにより、例えば、ユーザ設定される送信周波数における送信電力と最大送信電力とが異なっていれば、ユーザ設定される送信周波数の送信電力が最大送信電力に近づくよう歪補償係数が補正される。
【0017】
演算部6は、乗算器1に入力される送信信号と、カプラ3を介した送信信号のフィードバック信号とに基づいて歪補償係数を算出する。
歪補償係数記憶部7は、演算部6によって算出された歪補償係数を記憶する。
【0018】
このように、通信装置の補正部5は、ユーザ設定される送信周波数での電力を、送信電力の周波数特性を記憶した記憶部4を参照して算出する。そして、補正部5は、算出した電力と通信装置に規定されている最大送信電力とに基づいて、ユーザ設定の送信周波数で最大送信電力が得られるようフィードバック信号を補正するようにした。これにより、ユーザ設定される送信周波数において最大送信電力を得ることができる。
【0019】
次に、第2の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図2は、第2の実施の形態に係る通信装置を適用した通信システムを示した図である。図2に示す通信システムは、例えば、同一周波数で送信区間と受信区間とが交互に繰り返されるTDD(Time Division Duplex)方式を採用するモバイルWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)システムである。または、通信システムは、LTE(Long Term Evolution)システムであってもよい。
【0020】
通信システムは、AGW(Access Gateway)11、通信装置12〜14、およびMS(Mobile Station)15〜17を有している。通信装置12〜14は、例えば、基地局(Base Station)である。通信装置12〜14とMS15〜17との間では、無線信号の送受信が行われ、AGW11は、通信装置12〜14を制御する。
【0021】
図3は、通信装置のブロック図である。図3に示すように、通信装置は、送信信号発生部21、S/P(Serial/Parallel)部22、タイミング制御部23、歪補償部24、D/A(Digital/Analog)変換器25、直交変調器26、発振器27、増幅器28、方向性結合器29、アンテナ30、周波数変換器31、A/D(Analog/Digital)変換器32、直交検波器33、トレーニング部34、メモリ35、および補正値算出部36を有している。
【0022】
送信信号発生部21は、MSへ送信するシリアルデジタルデータ列を送出する。送信信号発生部21は、DL(Down Link)ゲート情報をタイミング制御部23へ出力する。また、送信信号発生部21は、例えば、ユーザによって入力されたプロファイルに含まれる送信周波数情報を補正値算出部36へ出力する。送信周波数情報には、当該通信装置に設定される送信周波数が含まれている。以下では、当該通信装置に設定される送信周波数を設定周波数と呼ぶこともある。
【0023】
S/P部22は、シリアルデジタルデータ列をシリアル−パラレル変換し、IQ信号のパラレルデータ列に変換する。
タイミング制御部23は、DLタイミング検出部23aおよびタイミング生成部23bを有している。DLタイミング検出部23aは、送信信号発生部21から出力されるDLゲート情報から送信信号の送信タイミングを検出する。
【0024】
タイミング生成部23bは、DLタイミング検出部23aにより検出された送信タイミングと、送信区間と受信区間の切り替えタイミングとから、歪補償処理開始信号と、歪補償処理停止信号とを生成し、歪補償部24へ出力する。
【0025】
歪補償部24は、乗算器24a,24c、歪補償演算部24b、LMS(Least Mean Square)演算部24d、およびLUT(Look Up Table)24eを有している。乗算器24aは、S/P部22から出力される送信信号に、LUT24eから出力される歪補償係数を乗算する。
【0026】
歪補償演算部24bは、例えば、送信信号のDCオフセット除去などの歪補償処理を行う。歪補償演算部24bは、歪補償処理開始信号により歪補償処理を開始し、歪補償処理停止信号により歪補償処理を停止する。
【0027】
乗算器24cには、増幅器28によって増幅された送信信号のフィードバック信号が入力される。また、乗算器24cには、補正値算出部36から出力される補正値が入力される。乗算器24cは、フィードバック信号に補正値を乗算して、LMS演算部24dに出力する。
【0028】
LMS演算部24dは、LMS演算に基づいて、乗算器24cから出力される電力補正されたフィードバック信号の電力と、S/P部22から出力される送信信号の電力との差分に基づいてLUT24eの歪補償係数を更新する。LMS演算部24dは、S/P部22から出力される送信信号の電力に基づいて、歪補償係数を更新するLUT24eのアドレスを生成する。また、LMS演算部24dは、S/P部22から出力される送信信号の電力に基づいて、乗算器24aに歪補償係数を出力するLUT24eのアドレスを生成する。
【0029】
LUT24eは、歪補償係数を格納するメモリである。D/A変換器25は、歪補償部24で歪補償処理されたIQ信号をデジタル−アナログ変換する。直交変調器26は、I信号とQ信号のそれぞれに、発振器27から出力される位相が90度異なった搬送波をミキシングする。
【0030】
増幅器28は、直交変調器26から出力される送信信号の電力増幅を行う。増幅器28は、例えば、通信装置の送信可能な送信周波数帯域の中心周波数で最大送信電力を出力できるように設定されている。最大送信電力は、通信装置で規定された最大の送信電力である。
【0031】
方向性結合器29は、増幅器28から出力される送信信号をアンテナ30に出力するとともに、その一部をフィードバック信号として周波数変換器31に出力する。
周波数変換器31は、発振器27から出力される発振信号によって、方向性結合器29から出力される送信信号をIF(Intermediate Frequency)信号に変換する。A/D変換器32は、IF信号をアナログ−デジタル変換する。直交検波器33は、デジタル変換されたIF信号をI信号およびQ信号のパラレルデータ列に分離し、歪補償部24に出力する。
【0032】
トレーニング部34は、例えば、通信装置の工場出荷前などにおいて、予め決められた送信周波数で送信信号(フィードバック信号)の電力トレーニングを行う。例えば、発振器27は、予め決められた複数の異なる周波数の搬送波を順次生成し、トレーニング部34は、各周波数における直交検波器33から出力されるフィードバック信号の電力をメモリ35に記憶する。
【0033】
メモリ35は、通信装置の送信電力の周波数特性を記憶している。例えば、メモリ35には、電力トレーニングする予め決められた複数の送信周波数と、その周波数における送信信号(フィードバック信号)の電力値とが対応付けられて記憶されている。これら周波数と電力値は、前述したように通信装置の工場出荷前などにおいて、メモリ35に予め記憶される。
【0034】
補正値算出部36は、例えば、電源が投入されてデータ送信が開始されるとき、送信信号発生部21から出力される送信周波数情報の設定周波数に基づいてメモリ35を参照し、設定周波数における送信信号の電力(擬似送信電力)を算出する。
【0035】
ここで、通信装置は、上述したように、所定幅の送信周波数で無線通信を行うことができるようになっている。ユーザは、その所定幅の送信周波数のうち、使用したい送信周波数をプロファイルで指定する。補正値算出部36は、ユーザの設定周波数における擬似送信電力を、メモリ35を参照して算出する。
【0036】
補正値算出部36は、算出した擬似送信電力と、メモリ35に記憶されている最大送信電力との差を算出する。補正値算出部36は、算出した差を乗算器24cに出力する。これにより、乗算器24cでは、ユーザの設定周波数における送信電力と最大送信電力との差に応じてフィードバック信号が電力補正される。すなわち、乗算器24cは、ユーザの設定周波数で通信装置の最大送信電力が得られるようフィードバック信号を補正する。
【0037】
図4は、送信電力トレーニングを説明する図である。図4のグラフの横軸は周波数を示し、縦軸は電力を示す。図4に示す丸は、各送信周波数における通信装置の実際の送信電力(直交検波器33から出力されるフィードバック信号の電力)を示している。また、図4に示す波形A11は、通信装置の理想の送信電力を示している。
【0038】
トレーニング部34は、例えば、通信装置の工場出荷前に、予め決められた送信周波数TRf1〜TRf11にて送信信号(フィードバック信号)の送信電力を測定する。トレーニング部34は、送信周波数TRf1〜TRf11のそれぞれと、測定した送信電力とを対応づけて、メモリ35に記憶する。
【0039】
より具体的には、トレーニング部34は、増幅器28の電力増幅を規定された最大送信電力が得られるように設定し、発振器27にて送信周波数帯域の下位バンドから上位バンドまで送信周波数をスイープさせる。トレーニング部34は、予め決められた送信周波数TRf1〜TRf11における送信電力値を取得し、メモリ35に記憶する。なお、図4の例では、送信可能な送信周波数帯域の中心周波数(TRf6)で最大送信電力となっている。
【0040】
電力トレーニングする送信周波数は、通信装置の使用可能な送信周波数帯域全体にわたって行う。また、電力トレーニングする送信周波数は、通信装置の使用可能な送信周波数帯域を均等に分割するように行う。
【0041】
送信信号の最大送信電力は、波形A11に示すように、使用可能などの送信周波数においても一定であることが望ましい。しかし、実際は、図4の丸に示すように、送信周波数によって最大送信電力が異なる。そのため、例えば、ユーザが図4に示す送信周波数fxを設定した場合、通信装置で規定された実際の最大送信電力が異なる。
【0042】
図5は、補正値の算出を説明する図である。図5には、図4で示した送信周波数TRf1,TRf2での送信電力P1,P2が示してある。また、図5には、図4で示した通信装置の最大送信電力Pmが示してある。なお、上述したように、これら送信電力P1,P2および最大送信電力Pmは、出荷前の電力トレーニングにより、メモリ35に記憶されている。
【0043】
補正値算出部36は、例えば、通信装置がユーザに出荷され、電源が投入されると、直交検波器33から出力されるフィードバック信号を補正する補正値を出力する。補正値は、ユーザの設定周波数においても送信信号の最大送信電力Pmが得られるように補正する値である。
【0044】
例えば、電源投入後、送信信号発生部21から設定周波数f1を含む送信周波数情報が出力されたとする。この場合、補正値算出部36は、メモリ35に記憶された電力情報に基づき、その設定周波数f1における擬似送信電力P’を算出する。そして、補正値算出部36は、メモリ35に記憶されている最大送信電力Pmとの差を求め、それを補正値とする。
【0045】
より具体的には、補正値算出部36は、送信周波数情報に含まれる設定周波数f1に近い2つの送信周波数TRf1,TRf2の送信電力P1,P2をメモリ35から取得する。補正値算出部36は、取得した送信電力P1,P2から、送信電力の1次近似を算出し、設定周波数f1における擬似送信電力P’を算出する。そして、補正値算出部36は、メモリ35に記憶されている最大送信電力Pmから擬似送信電力P’を減算した値を補正値として算出する。
【0046】
擬似送信電力P’および補正値Rの算出を式で示すと次の式(1),(2)に示すようになる。
P’={(P2−P1)/(TRf2−TRf1)}×(f1−TRf1)+P1
…式(1)
R=Pm−P’ …(2)
補正値算出部36は、算出した補正値を乗算器24cへ出力する。乗算器24cは、直交検波器33から出力されるフィードバック信号に補正値を乗算する。これにより、乗算器24cからは、電力補正されたフィードバック信号が出力される。
【0047】
なお、補正値算出部36は、ユーザの設定周波数とメモリ35に記憶されている周波数とが一致した場合、一致した周波数の電力を擬似送信電力とする。
図6は、通信装置の歪補償処理を示したフローチャートである。以下では、通信装置は、例えば、工場出荷前に電力トレーニングを行っており、メモリ35には、所定の送信周波数における送信電力が記憶されているとする。
【0048】
[ステップS1]送信信号発生部21は、例えば、通信装置の電源が投入されると、ユーザによって入力されたプロファイルの送信周波数情報を補正値算出部36に出力する。補正値算出部36は、メモリ35を参照して、送信周波数情報に含まれる設定周波数の擬似送信電力を算出する。
【0049】
補正値算出部36は、擬似送信電力を算出すると、設定周波数における補正値を算出する。すなわち、補正値算出部36は、設定周波数で最大送信電力を得ることができるための補正値を算出する。補正値算出部36は、算出した補正値を乗算器24cに出力する。
【0050】
[ステップS2]通信装置は、ユーザデータの送信を開始する。送信信号発生部21は、ユーザデータをS/P部22に出力する。
[ステップS3]通信装置は、位相調整処理を行う。例えば、LMS演算部24dに入力される送信信号とフィードバック信号の位相が一致するように位相調整処理を行う。
【0051】
[ステップS4]通信装置は、遅延調整処理を行う。例えば、LMS演算部24dに入力される送信信号とフィードバック信号のタイミングが一致するように遅延調整処理を行う。
【0052】
[ステップS5]通信装置は、他の歪補償処理を行う。例えば、通信装置は、DCオフセット除去等の処理を行う。
[ステップS6]LMS演算部24dは、LUT24eの更新処理を行う。これにより、送信信号は、乗算器24aによって電力補正されたフィードバック信号に基づく歪補償係数が乗算される。その後、通信装置は、ステップS3〜S6の処理を繰り返す。
【0053】
このように、補正値算出部36は、ユーザ設定される送信周波数での電力を、送信電力の周波数特性を記憶したメモリ35を参照して算出し、算出した電力と通信装置に規定されている最大送信電力とに基づいて、補正値を算出する。そして、乗算器24cは、補正値算出部36によって算出された補正値をフィードバック信号に乗算するようにした。これにより、ユーザ設定される送信周波数において最大送信電力を得ることができる。
【0054】
また、補正値算出部36は、メモリ35を参照して、ユーザ設定される送信周波数に近い2つの周波数に対応する電力を取得し、取得した電力の一次近似からユーザ設定の送信周波数での電力を算出する。そして、補正値算出部36は、算出した電力と通信装置に規定された最大送信電力との差を算出する。これにより、通信装置は、ユーザ設定される送信周波数における精度の高い電力を得ることができ、ユーザ設定される送信周波数にて精度の高い最大送信電力を得ることができる。
【0055】
さらに、メモリ35には、通信装置の送信可能な周波数帯域を均等に分割した周波数に対応して電力が記憶される。これにより、通信装置は、ユーザ設定される送信周波数において精度の高い電力を得ることができ、ユーザ設定される送信周波数にて精度の高い最大送信電力を得ることができる。
【0056】
次に、第3の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。第2の実施の形態では、図6で説明したように、電力補正の処理を行った後、所定の処理を行って、LUT更新処理を行う。そのため、ユーザデータの送信開始直後からLUT更新処理が行われるまでは、ユーザデータに電力補正が反映されない。第3の実施の形態では、ユーザデータの送信開始直後において、ユーザデータに電力補正が反映されるようにする。
【0057】
図7は、第3の実施の形態に係る通信装置のブロック図である。図7において、図3と同じものには同じ符号を付し、その説明を省略する。なお、図7では、図3の直交変調器26、発振器27、増幅器28、方向性結合器29、アンテナ30、および周波数変換器31の図示を省略している。
【0058】
図7の通信装置の歪補償部24は、LUTゲイン制御部41a、SEL(セレクタ)41b、およびゲイン調整部41cを有している。また、通信装置は、電力測定部51を有している。電力測定部51は、FW(フォワード)電力測定部51a、遅延調整メモリ51b、およびFB(フィードバック)電力測定部51cを有している。
【0059】
LUTゲイン制御部41aは、電力測定部51によって測定される電力値に基づいて、歪補償係数を補正するためのゲイン調整値を算出する。
SEL41bは、LUTゲイン制御部41aによって算出されたゲイン調整値と、補正値算出部36によって算出された電力の補正値とが入力される。SEL41bは、例えば、通信装置の電源投入後、補正値算出部36によって算出された補正値をゲイン調整部41cに出力し、電源投入後、LUT24eのLUTの更新処理が行われた後、LUTゲイン制御部41aによって算出されたゲイン調整値を出力する。
【0060】
ゲイン調整部41cは、SEL41bから出力される補正値またはゲイン調整値に基づいて、LUT24eに記憶されている歪補償係数を補正する。例えば、ゲイン調整部41cは、SEL41bから出力される補正値またはゲイン調整値をLUT24eに記憶されている歪補償係数に乗算し、LUT24eの歪補償係数(複素数で示される電力値)を加減算する。
【0061】
FW電力測定部51aおよびFB電力測定部51cは、送信信号発生部21からレート制御情報を受信する。レート制御情報には、電力を測定する単位時間の指示情報が含まれている。例えば、レート制御情報には、キャリア単位、シンボル単位、またはフレーム単位で電力を測定するように指示する情報が含まれる。
【0062】
FW電力測定部51aおよびFB電力測定部51cは、送信信号発生部21より指定された単位時間ごとの送信信号(フォワード信号)とフィードバック信号の電力値を測定する。なお、単位時間がキャリア単位の場合は、1シンボルにおける1キャリアごとの電力値が測定電力値となる。また、単位時間がシンボル単位またはフレーム単位の場合は、1シンボルまたは1フレーム内の複数キャリアの各電力値の積分値が測定電力値となる。
【0063】
遅延調整メモリ51bは、フォワード信号の電力測定タイミングと、フォワード信号に対応するフィードバック信号の測定タイミングとの時間のずれを調整するためのメモリである。遅延調整メモリ51bは、測定されたフォワード信号の測定電力値のLUTゲイン制御部41aへの出力タイミングを遅延させ、フィードバック信号の測定電力値の出力タイミングに合わせてフォワード信号の測定電力値をLUTゲイン制御部41aに供給する。
【0064】
LUTゲイン制御部41aは、フォワード信号とフィードバック信号の測定電力値を遅延調整メモリ51bとFB電力測定部51cから取得し、取得した2つの測定電力値の比に基づいてゲイン調整値を算出する。送信信号発生部21からのフォワード信号の電力が変動すると、その変動時点での歪補償係数は、その電力変動に追従して更新されないので(収束状態から外れるため)、歪補償係数は最適値から離れた値となる。よって、増幅器28の増幅で送信信号に歪が生じ、フィードバック信号の電力と送信信号の電力との差が拡大する。LUTゲイン制御部41aは、送信信号発生部21からのDLゲイン調整制御情報に応じて、フォワード信号とフィードバック信号との電力比をゲイン調整値として求め、そのゲイン調整値をSEL41bに出力する。ゲイン調整部41cは、SEL41bから出力されるゲイン調整値をLUT24eに記憶されている歪補償係数に乗算し、歪補償係数の示す電力値をゲイン調整値により加減算する。
【0065】
図8は、通信装置の歪補償処理を示したフローチャートである。以下では、通信装置は、例えば、工場出荷前に電力トレーニングを行っており、メモリ35には、所定の送信周波数における送信電力が記憶されているとする。また、電源投入時、LUT24eは、全アドレスにおいて初期値が記憶されており、例えば、乗算器24aに入力される送信信号がそのまま出力されるように、1+j・0の歪補償係数が記憶されているとする。
【0066】
[ステップS21]送信信号発生部21は、例えば、通信装置の電源が投入されると、ユーザによって入力されたプロファイルの送信周波数情報を補正値算出部36に出力する。補正値算出部36は、メモリ35を参照して、送信周波数情報に含まれる設定周波数の擬似送信電力を算出する。
【0067】
補正値算出部36は、擬似送信電力を算出すると、設定周波数における電力補正値を算出する。すなわち、補正値算出部36は、設定周波数で最大送信電力を得ることができるための補正値を算出する。補正値算出部36は、算出した補正値をSEL41bに出力する。
【0068】
なお、SEL41bは、電源投入後、補正値算出部36によって算出された補正値をゲイン調整部41cに出力する。また、算出された補正値は、乗算器24cにも出力されるが、乗算器24cは、以下で述べる電力補正のステップが実行されるまでフィードバック信号に補正値を乗算しない。
【0069】
ゲイン調整部41cは、LUT24eに記憶されている歪補償係数に、SEL41bから出力される補正値を乗算する。すなわち、ゲイン調整部41cは、SEL41bから出力される補正値に基づいて、LUT24eに記憶されている歪補償係数を補正する。これにより、歪補償係数(電力値)は、補正値算出部36によって算出された電力補正値分、加減算される。
[ステップS22]通信装置は、ユーザデータの送信を開始する。送信信号発生部21は、ユーザデータをS/P部22に出力する。なお、LUT24eの歪補償係数は、補正値算出部36によって算出された電力補正値によって補正されている。これにより、通信装置の電源投入後、送信信号発生部21からユーザデータが出力されると、乗算器24aからは、電力補正された送信信号が出力されることになる。
【0070】
[ステップS23]通信装置は、位相調整処理を行う。例えば、LMS演算部24dに入力される送信信号とフィードバック信号の位相が一致するように位相調整処理を行う。
[ステップS24]通信装置は、遅延調整処理を行う。例えば、LMS演算部24dに入力される送信信号とフィードバック信号のタイミングが一致するように遅延調整処理を行う。
【0071】
[ステップS25]通信装置は、他の歪補償処理を行う。例えば、通信装置は、DCオフセット除去等の処理を行う。
[ステップS26]LMS演算部24dは、LUT24eの更新処理を行う。
【0072】
[ステップS27]通信装置は、他の歪補償処理を行う。例えば、通信装置は、ステップS23〜S25で説明した歪補償処理を行う。
[ステップS28]ゲイン調整部41cは、LUT24eの歪補償係数に乗算した補正値分(歪補償係数に加減算した電力値分)、歪補償係数をもとに戻す。これにより、電力補正されていない、ステップS26で更新された歪補償係数がLUT24eに記憶されていることになる。
【0073】
SEL41bは、出力を補正値算出部36の補正値から、LUTゲイン制御部41aのゲイン調整値に切り替える。これにより、LUT24eの歪補償係数は、電力測定部51によって測定されるフォワード信号とフィードバック信号との電力差に応じてゲイン調整される。
【0074】
[ステップS29]乗算器24cは、補正値を乗算したフィードバック信号をLMS演算部24dに出力する。
[ステップS30]LMS演算部24dは、LUT24eの更新処理を行う。これにより、送信信号は、乗算器24aによって、LUT24eの更新された歪補償係数が乗算される。その後、通信装置は、ステップS23〜S26の処理およびLUT更新処理を繰り返す。
【0075】
このように、ゲイン調整部41cは、通信装置の電源投入後送信信号が送信される前に、LUT24eの歪補償係数に補正値算出部36によって算出された補正値を乗算し、LUT24eの歪補償係数が更新された後、LUT24eの歪補償係数を乗算した補正値分もとに戻す。そして、乗算器24cは、ゲイン調整部41cによってLUT24eの歪補償係数が補正値分もとに戻された後、補正値算出部36によって算出された補正値をフィードバック信号に乗算するようにした。これにより、ユーザデータの送信開始直後において、ユーザデータに電力補正を反映させることができる。
【0076】
なお、第1の実施の形態から第3の実施の形態においては、無線通信を行う通信装置について説明したが、光信号で通信する通信装置にも適用することができる。例えば、図3において、D/A変換された送信信号を光信号に変換し、増幅して送信する通信装置にも適用できる。
【0077】
(付記1) 増幅器で増幅する送信信号の歪を補償して出力する通信装置において、
送信信号と前記増幅器で増幅された送信信号のフィードバック信号とに基づいて歪補償係数を算出する演算部と、
当該通信装置の送信電力の周波数特性を記憶した記憶部と、
前記記憶部を参照して設定される送信周波数における電力を算出し、算出した電力と当該通信装置に規定された最大送信電力とに基づいて、前記フィードバック信号を補正する補正部と、
を有することを特徴とする通信装置。
【0078】
(付記2) 前記補正部は、
前記記憶部を参照して設定される送信周波数に近い2つの周波数に対応する電力を取得し、取得した電力の一次近似から設定の送信周波数での電力を算出し、算出した電力と当該通信装置に規定された最大送信電力との差を算出する補正値算出部と、
前記補正値算出部によって算出された差を前記フィードバック信号に乗算する乗算部と、
をさらに有することを特徴とする付記1記載の通信装置。
【0079】
(付記3) 前記歪補償係数を記憶する歪補償係数記憶部と、
当該通信装置の電源投入後送信信号が送信される前に、前記歪補償係数記憶部の前記歪補償係数に前記補正値算出部によって算出された差を乗算し、前記歪補償係数記憶部の前記歪補償係数が更新された後、前記歪補償係数記憶部の前記歪補償係数を前記乗算した分もとに戻す調整部と、をさらに有し、
前記乗算部は、前記調整部によって前記歪補償係数記憶部の歪補償係数がもとに戻された後、前記補正値算出部によって算出された差を前記フィードバック信号に乗算することを特徴とする付記2記載の通信装置。
【0080】
(付記4) 前記記憶部に記憶される電力は、当該通信装置が送信可能な送信周波数帯域を均等に分割した周波数に対応していることを特徴とする付記1乃至3のいずれかに記載の通信装置。
【0081】
(付記5) 送信信号の周波数を変化させ、周波数ごとにおける送信信号の電力値を取得し、前記記憶部に記憶するトレーニング部をさらに有することを特徴とする付記1乃至3のいずれかに記載の通信装置。
【0082】
(付記6) 前記トレーニング部による前記記憶部への電力の記憶は、当該通信装置の出荷前に行われることを特徴とする付記5記載の通信装置。
(付記7) 送信信号と増幅器で増幅された送信信号のフィードバック信号とに基づいて歪補償係数を算出する演算部と、
送信電力の周波数特性を記憶した記憶部と、を備え、
増幅する送信信号の歪を補償して出力する通信装置の電力補正方法において、
前記記憶部を参照して設定される送信周波数における電力を算出し、
算出した電力と当該通信装置に規定された最大送信電力とに基づいて、前記フィードバック信号を補正する、
ことを特徴とする電力補正方法。
【符号の説明】
【0083】
1 乗算器
2 増幅器
3 カプラ
4 記憶部
5 補正部
6 演算部
7 歪補償係数記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅器で増幅する送信信号の歪を補償して出力する通信装置において、
送信信号と前記増幅器で増幅された送信信号のフィードバック信号とに基づいて歪補償係数を算出する演算部と、
当該通信装置の送信電力の周波数特性を記憶した記憶部と、
前記記憶部を参照して設定される送信周波数における電力を算出し、算出した電力と当該通信装置に規定された最大送信電力とに基づいて、前記フィードバック信号を補正する補正部と、
を有することを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記補正部は、
前記記憶部を参照して設定される送信周波数に近い2つの周波数に対応する電力を取得し、取得した電力の一次近似から設定の送信周波数での電力を算出し、算出した電力と当該通信装置に規定された最大送信電力との差を算出する補正値算出部と、
前記補正値算出部によって算出された差を前記フィードバック信号に乗算する乗算部と、
をさらに有することを特徴とする請求項1記載の通信装置。
【請求項3】
前記歪補償係数を記憶する歪補償係数記憶部と、
当該通信装置の電源投入後送信信号が送信される前に、前記歪補償係数記憶部の前記歪補償係数に前記補正値算出部によって算出された差を乗算し、前記歪補償係数記憶部の前記歪補償係数が更新された後、前記歪補償係数記憶部の前記歪補償係数を前記乗算した分もとに戻す調整部と、をさらに有し、
前記乗算部は、前記調整部によって前記歪補償係数記憶部の歪補償係数がもとに戻された後、前記補正値算出部によって算出された差を前記フィードバック信号に乗算することを特徴とする請求項2記載の通信装置。
【請求項4】
前記記憶部に記憶される電力は、当該通信装置が送信可能な送信周波数帯域を均等に分割した周波数に対応していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の通信装置。
【請求項5】
送信信号の周波数を変化させ、周波数ごとにおける送信信号の電力値を取得し、前記記憶部に記憶するトレーニング部をさらに有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の通信装置。
【請求項6】
送信信号と増幅器で増幅された送信信号のフィードバック信号とに基づいて歪補償係数を算出する演算部と、
送信電力の周波数特性を記憶した記憶部と、を備え、
増幅する送信信号の歪を補償して出力する通信装置の電力補正方法において、
前記記憶部を参照して設定される送信周波数における電力を算出し、
算出した電力と当該通信装置に規定された最大送信電力とに基づいて、前記フィードバック信号を補正する、
ことを特徴とする電力補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−188321(P2011−188321A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52534(P2010−52534)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】