説明

連続焼鈍設備の加熱炉の板温度制御方法

【課題】連続焼鈍設備の加熱炉の温度を送り込まれる冷延鋼板の放射率に応じて適切にフィードフォワード制御することができ、鋼板温度のばらつきに起因する品質不良を抑制することができる連続焼鈍設備の加熱炉の板温度制御方法を提供する。
【解決手段】連続焼鈍設備の加熱炉1の入側に設置されたルーパ5よりも手前側において測定器6により鋼板表面の反射率を測定し、測定された反射率から鋼板表面の熱吸収特性を示す放射率を演算する。その値をトラッキングし、冷延鋼板の測定部位が加熱炉1に入るタイミングに同調させてバーナ3の出力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の連続焼鈍に用いられる連続焼鈍設備の加熱炉の板温度制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板の連続焼鈍設備は、入側ルーパ、加熱炉、均熱炉、冷却炉などから構成され、冷延鋼板を連続的に炉内に送り込み一定速度で走行させながら、焼鈍その他の熱処理を施す設備である。この連続焼鈍設備の加熱炉は鋼板を輻射加熱により昇温する方式が主流である。
【0003】
連続焼鈍設備においては、鋼板を連続的に送り込むことが必要である。このため1個の冷延コイルからの冷延鋼板の払出しが終了すると、その末端部に次の冷延コイルの先端が溶接される。このため、溶接点をはさんで特性の異なる鋼板を連続的に熱処理することとなる。また同一コイルの冷延鋼板であっても、先端部分と末端部分とでは特性が次第に変化していることがある。
【0004】
上記したように、連続焼鈍設備の加熱炉は輻射加熱が主流であるから、鋼板の熱吸収特性を左右する鋼板表面の放射率が長手方向の部位によって変化すると、板温度も変化することとなる。すなわち、放射率の高い部位では熱吸収率も高くなるから鋼板温度が高めとなる。逆に放射率の低い部位では熱吸収率も低くなるから鋼板温度も低目となる。このように鋼板表面の放射率の変化は鋼板温度のばらつきを招き、品質不良の原因となる。
【0005】
なお、異なる種類の鋼板が溶接されて加熱炉に送り込まれるタイミングは、生産管理を行っているコンピュータから予め知ることができるので、前もって加熱炉の炉内温度を調節することが可能である。しかし同一コイル内の冷延鋼板の長手方向の部位による放射率の変化は、実測しなければ正確に把握することができない。しかも冷延鋼板の表面の放射率は0.1〜0.2程度という低い値であるために、常温においては正確に測定することは困難である。
【0006】
このため従来は加熱炉の出側の高温状態で鋼板の放射率を測定し、その結果を加熱制御に反映している場合が多い。しかしこの場合にはフィードバック制御となるので、加熱炉内に滞在している部分については加熱制御の改善効果が及ばないこととなる。また加熱制御を開始してから炉温が安定するまでに時間を要するため、その間に加熱炉を通過する部分についても加熱制御の改善効果が及ばないこととなる。
【0007】
なお特許文献1には、直火還元炉を備えた連続焼鈍設備において、直火還元炉と雰囲気炉との間に2つの放射温度計を備えた鋼板表面の酸化度測定装置を配置し、その測定値に応じてバーナの空燃比を制御する技術が開示されている。しかしこの技術は直火還元炉の出口における計測値に基づいて直火還元炉のバーナを制御するものであるから、フィードバック制御であり、上記と同様の制御遅れの問題を含んでいる。しかも直火還元炉を備えていない連続焼鈍設備には適用不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−129137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、連続焼鈍設備の加熱炉の温度を送り込まれる冷延鋼板の放射率に応じて適切にフィードフォワード制御することができ、鋼板温度のばらつきに起因する品質不良を抑制することができる連続焼鈍設備の加熱炉の板温度制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、連続焼鈍設備の加熱炉の入側に設置されたルーパよりも手前側において鋼板表面の反射率を測定し、測定された反射率から鋼板表面の熱吸収特性を演算し、その値をトラッキングして加熱炉の板温度制御を行うことを特徴とするものである。
【0011】
なお請求項2のように、鋼板表面の熱吸収特性として、(放射率=1−反射率)の式により演算された放射率を用いることができる。また請求項3のように、鋼板表面の反射率の測定を、鋼板がロールに巻き付く位置で行うことが好ましい。また請求項4のように、鋼板表面の反射率の測定を、赤外線反射式の測定器により行うことが好ましく、請求項5のようにレーザー光線反射式の測定器によって行うこともできる。さらに請求項6のように、鋼板表面の反射率の測定を、プロテクタを備えた測定器を鋼板表面から10〜20mmの距離に接近させて行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、連続焼鈍設備の加熱炉の入側に設置されたルーパよりも手前側の常温の冷延鋼板の反射率を測定し、その値に基づいて鋼板表面の熱吸収特性を演算し、加熱炉の板温度制御を行う。このため十分な時間的余裕を持って加熱炉の温度を変更することができ、制御遅れが生じないので、鋼板温度のばらつきに起因する品質不良を抑制することができる。なお、反射率は常温においても精度良く測定可能であり、放射率=1−反射率の関係式を利用して放射率に換算すればよい。反射率の測定を鋼板がロールに巻き付く位置で行うことによって測定器と鋼板との距離を正確に一定に維持することができ、優れた測定精度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図2】測定器の説明図である。
【図3】測定器の配置説明図である。
【図4】板温制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1において、1は連続焼鈍設備の加熱炉である。この加熱炉1の内部には多数のローラ2が上下に配置されており、冷延鋼板はそれらのロール2の間にジグザグに掛け渡された状態で搬送される。3は加熱炉1の内部に配置されたバーナであり、炉内を搬送される冷延鋼板を輻射加熱する。冷延鋼板はペイオフリール4から払い出され、加熱炉1の入側に配置されたルーパ5を経由して加熱炉1に送り込まれる。
【0015】
本発明では、このルーパ5よりも手前側の位置で、常温の冷延鋼板の反射率を測定する。尚、以下の説明では反射率の測定を赤外線反射式の測定器の場合で説明する。本実施形態で用いた測定器6は図2に示すように、被測定物に対向する表面を半球面7とした黒体炉8を備え、一定温度に加熱した黒体炉8から赤外線を被測定物に集中照射する。半球面7の中心には小孔9が形成されており、被測定物の表面からの反射光を赤外線フィルター10を通して赤外線検出素子11で検出する。その出力はプリアンプ12で増幅されたうえで演算回路13に入力される。なお14は黒体炉8の外周を覆う断熱材、15はプロテクタである。この測定器6は冷延鋼板表面の反射率を測定するものであるから、常温においても精度のよい測定が可能である。ただし測定器6の構造はこれに限定されるものではなく、レーザー光線反射式の測定器を用いても精度良く測定できる。
【0016】
このような測定器6は、ルーパ5よりも手前側の冷延鋼板がロール16に巻き付く位置に設置することが好ましい。冷延鋼板がロール16に巻き付く位置では、図3に示すように鋼板は張力によってロール16の表面に密着するため、測定器6と冷延鋼板との間隔を一定に保つことができるからである。その距離は測定精度を高めるためには10〜20mmとすることが好ましい。なお、このように冷延鋼板と接近させて測定器6を配置すると、もし冷延鋼板に変形した部分があると測定器6と接触して測定器6を破壊するおそれがある。そこで頑丈なプロテクタ15を測定器6の周囲に配置して万一鋼板が接触しても破壊されないようにしておくことが好ましい。
【0017】
透過率がゼロの不透明物体については放射率+反射率=1であるから、測定器6により測定された反射率を1から引くことによって、冷延鋼板の放射率を求めることができる。前記したように、この放射率は冷延鋼板表面の熱吸収特性を示すものである。そこで図1に示すように冷延鋼板表面の熱吸収特性を示す放射率の値を計算機17によりトラッキングし、冷延鋼板の測定部位が加熱炉1に入るタイミングに同調させてバーナ3の出力を制御する。すなわち放射率が大きい場合には熱吸収特性も高くなるので、バーナ3の出力をマイナス側に補正し、逆に放射率が小さい場合には熱吸収特性も低くなるので、バーナ3の出力をプラス側に補正する。
【0018】
なお、図4はこのためのフローチャートであり、ステップ1で冷延鋼板の長手方向位置の反射率を測定し、放射率を演算する。次にステップ2でライン速度、ルーパ内鋼板長さから加熱炉挿入予定時刻を算出する。次にステップ3で加熱炉挿入予定時刻から加熱炉の応答遅れ時間を減じて炉温変更時刻を決定する。次にステップ4で前回算出した放射率と今回算出した放射率との差を求める。最後にステップ5で炉温変更時刻になったら放射率の差に応じて炉温の制御を行う。このように本発明では、送り込まれる冷延鋼板の放射率に応じて加熱炉1の温度を適切にフィードフォワード制御することができる。
【0019】
なお、反射率の測定は連続的に行っても良いが、所定間隔で間欠的に行っても差し支えない。
【0020】
出願人会社の実設備において本発明を実施したところ、従来は板温標準偏差が3。5℃を超えていたが、本発明によって2℃以下にまで減少させることができた。これによって鋼板温度のばらつきに起因する品質不良を抑制することができた。
【符号の説明】
【0021】
1 加熱炉
2 ローラ
3 バーナ
4 ペイオフリール
5 ルーパ
6 測定器
7 半球面
8 黒体炉
9 小孔
10 赤外線フィルター
11 赤外線検出素子
12 プリアンプ
13 演算回路
14 断熱材
15 プロテクタ
16 ロール
17 計算機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続焼鈍設備の加熱炉の入側に設置されたルーパよりも手前側において鋼板表面の反射率を測定し、測定された反射率から鋼板表面の熱吸収特性を演算し、その値をトラッキングして加熱炉の板温度制御を行うことを特徴とする連続焼鈍設備の加熱炉の板温度制御方法。
【請求項2】
鋼板表面の熱吸収特性として、(放射率=1−反射率)の式により演算された放射率を用いることを特徴とする請求項1記載の連続焼鈍設備の加熱炉の板温度制御方法。
【請求項3】
鋼板表面の反射率の測定を、鋼板がロールに巻き付く位置で行うことを特徴とする請求項1記載の連続焼鈍設備の加熱炉の板温度制御方法。
【請求項4】
鋼板表面の反射率の測定を、赤外線反射式の測定器により行うことを特徴とする請求項1記載の連続焼鈍設備の加熱炉の板温度制御方法。
【請求項5】
鋼板表面の反射率の測定を、レーザー光線反射式の測定器により行うことを特徴とする請求項1記載の連続焼鈍設備の加熱炉の板温度制御方法。
【請求項6】
鋼板表面の反射率の測定を、プロテクタを備えた測定器を鋼板表面から10〜20mmの距離に接近させて行うことを特徴とする請求項1乃至5記載の連続焼鈍設備の加熱炉の板温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−84753(P2011−84753A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235845(P2009−235845)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】