連続熱処理炉における板温制御方法及び装置、コンピュータプログラム並びにコンピュータ読取り可能な記録媒体
【課題】予め候補として設定した複数の制御ゲインの中から最適な制御ゲインを選択して、板温調節部の効率の良い操作量変更量を決定することができ、処理炉出口板温の制御精度を向上させることが可能な、連続熱処理炉における板温制御方法及び装置、コンピュータプログラム並びにコンピュータ読取り可能な記録媒体を提供すること。
【解決手段】算出された処理炉体出口板温を目標板温に設定するゲイン毎に板温調節部の操作量変更量を算出するステップと、算出された操作量変更量と、処理炉体内における熱収支モデルとから、処理炉体出口における板温の変動を、ゲイン毎に予測算出するステップと、予測算出された処理炉体出口板温と目標板温との温度差と、操作量変更量に基づいて、ゲイン毎に算出された操作量変更量の中から最適な操作量変更量を決定するステップとを含むことを特徴とする。
【解決手段】算出された処理炉体出口板温を目標板温に設定するゲイン毎に板温調節部の操作量変更量を算出するステップと、算出された操作量変更量と、処理炉体内における熱収支モデルとから、処理炉体出口における板温の変動を、ゲイン毎に予測算出するステップと、予測算出された処理炉体出口板温と目標板温との温度差と、操作量変更量に基づいて、ゲイン毎に算出された操作量変更量の中から最適な操作量変更量を決定するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結された複数の鋼板等の金属板を連続熱処理炉において連続的に熱処理する際の板温制御方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鋼板等の連続溶融めっき設備や、連続焼鈍設備などには、帯状の金属板が目標とする温度に達成するように、金属板を加熱又は冷却する連続熱処理炉が設けられる。連続熱処理炉における板温の制御は、製品としての金属板の品質に影響するため、金属板の製造において非常に重要な要素である。
【0003】
連続熱処理炉で処理される帯状の金属板は、鋼種、板幅、板厚、熱処理前の板温、目標板温といった製造仕様等の製造条件が異なる複数の種類の金属板が、その先端部と尾端部を溶接して接続されたものである。そして、連続熱処理炉内部では、これらの金属板が連続的に通過していく。連続熱処理炉には、加熱装置やブロワなどの温度調節部が設けられており、温度調節部は、熱処理炉の内部温度の調節によって、金属板の温度が目標板温になるように加熱・冷却する。温度調節部は、金属板の種類に応じて、連続的に精度良く動作させる必要がある。温度調節部の操作量は、製造設備の設備能力や、金属板の製造仕様等の製造条件などに基づいて決定される。
【0004】
熱処理炉の出口における金属板の板温を推定する方法として、下記の特許文献1〜5が開示されている。特許文献1、2では、金属板の推定板温と目標とする金属板の目標板温との温度差、操作量変更量に基づいた評価関数を用いて、評価関数から得られる値が最小となるときの操作量を、実際の板温制御に用いる操作量として採用することが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−316545号公報
【特許文献2】特開平9−227954号公報
【特許文献3】特開平5−255759号公報
【特許文献4】特開2005−298941号公報
【特許文献5】特開平5−186836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1〜5で開示されたような熱処理炉の出口における金属板の板温を推定する方法は、熱処理炉全体の熱収支をマクロに近似した線形のモデル式を用いて推定計算を行っている。そのため、算出された推定板温は、精度の点において問題があった。
【0007】
また、上記特許文献1、2で開示された操作量の決定方法では、複数の異なる操業条件に対しても操作量を導出する計算パラメータが単一となっていた。そのため、製造条件によっては、実際の熱処理の結果から得られる実績板温が、目標板温の上限又は下限から外れることがあった。そして、その結果、目標板温から外れた金属板が、炉況を不安定にするという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、予め候補として設定した複数の制御ゲインの中から最適な制御ゲインを選択して、板温調節部の効率の良い操作量変更量を決定することができ、処理炉体出口板温の制御精度を向上させることが可能な、連続熱処理炉における板温制御方法及び装置、コンピュータプログラム並びにコンピュータ読取り可能な記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、帯状に接合部で連結した複数の金属板が通過し、処理炉体内に金属板の進行方向を変更させる円筒形状のハースロールと、金属板を加熱又は冷却する板温調節部とを備える連続熱処理炉における板温制御方法であって、板温調節部の現状の操作量と、処理炉体内における熱収支モデルとから、処理炉出口における板温の変動をシミュレーションして所定期間算出するステップと、算出された処理炉出口の板温を目標板温に設定して、熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて、板温調節のための予め設定した制御のゲイン毎に板温調節部の操作量変更量を算出するステップと、算出された操作量変更量と、処理炉体内における熱収支モデルとから、処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして、ゲイン毎に予測算出するステップと、予測算出された処理炉体出口板温と目標板温との温度差と、操作量変更量に基づいて、ゲイン毎に算出された操作量変更量の中から最適な操作量変更量を決定するステップとを含むことを特徴とする連続熱処理炉における板温制御方法が提供される。
【0010】
かかる構成により、ゲイン毎に板温調節部の操作量変更量が算出され、算出された操作量変更量と、処理炉体内における熱収支モデルとから、処理炉体出口における板温の変動を、ゲイン毎に予測算出することができる。そして、予測算出された処理炉出口板温と目標板温との温度差と、ゲイン毎に算出された操作量変更量の中から最適な操作量変更量を決定することができる。
【0011】
上記処理炉体内における熱収支モデルは、処理炉体を複数の空間に分割し、処理炉体内雰囲気と金属板との間の対流伝熱、及びハースロールと金属板との間の伝導伝熱から複数の空間における金属板の板温を算出するモデルであることができる。かかる構成により、処理炉体内の金属板の熱収支を厳密に算出するため、金属板の板温の変動を精度よく推定することができる。例えば、金属板の製造条件や炉内の条件が変わっても板温制御精度を向上させることができる。
【0012】
上記ゲインは、金属板の接合部が処理炉体入口又は出口を通過するとき操作量を制御するフィードフォワード制御のゲインと、フィードフォワード制御後、任意の時間間隔で操作量を制御するフィードバック制御のゲインとからなることができる。かかる構成により、金属板を目標板温に精度良く近づけることができる。
【0013】
上記板温調節部の操作量変更量は、板温の実績値、目標板温、金属板の種類、板厚、板幅と、ゲインとから、熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて算出される。かかる構成により、板温の実績値、目標板温、金属板の種類、板厚、板幅に応じて、操作量変更量が算出され、板温制御精度を向上させることができる。
【0014】
上記最適な操作量変更量の決定は、温度差の二乗和と操作量変更量の二乗和の合計値が最小となるときのゲインを採用して決定されてもよい。かかる構成により、温度変動や操作量変更量を最小限にして、板温を制御することができる。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、帯状に接合部で連結した複数の金属板が通過し、処理炉体内に金属板の進行方向を変更させる円筒形状のハースロールと、金属板の板温を加熱又は冷却する板温調節部とを備える連続熱処理炉における板温制御装置であって、板温調節部の現状の操作量と、処理炉体内における熱収支モデルとから、処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして所定期間算出するベース板温時間変化算出部と、ベース板温時間変化算出部で算出された処理炉体出口板温を目標板温に設定して、熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて、板温調節のための予め設定した制御のゲイン毎に板温調節部の操作量変更量を算出する操作量変更量算出部と、操作量変更量算出部で算出された操作量変更量と、処理炉体内における熱収支モデルとから、処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして、ゲイン毎に予測算出する板温時間変化予測算出部と、板温時間変化予測算出部で予測算出された処理炉体出口板温と目標板温との温度差と、操作量変更量をファクタとして、ゲイン毎に算出された操作量変更量の中から最適な操作量変更量を決定する操作量変更量決定部とを備えることを特徴とする連続熱処理炉における板温制御装置が提供される。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータを、上記の連続熱処理炉における板温制御装置として機能させることを特徴とするコンピュータプログラムが提供される。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上記のコンピュータプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読取り可能な記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、予め候補として設定した複数の制御ゲインの中から最適な制御ゲインを選択して、板温調節部の効率の良い操作量変更量を決定することができ、処理炉体出口板温の制御精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
(第1の実施形態の構成)
まず、本発明の第1の実施形態に係る連続熱処理炉について説明する。図1は、本実施形態に係る連続熱処理炉100を示す概略図である。
【0021】
連続熱処理炉100は、移動する帯状のストリップ(金属板)110を連続的に加熱又は冷却して、ストリップ110を目標とする温度に処理する設備であり、例えば鋼板等の製造工程で、亜鉛をめっきする連続溶融めっき設備や、連続焼鈍設備などに設けられる。
【0022】
連続熱処理炉100は、ストリップ110が通過する中空の塔状の処理炉体120と、ストリップ110の進行方向を変更させる円筒形状のハースロール130と、ストリップ110に低温の気体を吹き付けて板温を冷却させるブロワ140とを備える。処理炉体120入口と出口には、ストリップ表面温度を測定する板温計124、122が設けられる。
【0023】
ストリップ110は、鋼種、板幅、板厚、熱処理前の板温、目標板温といった製造仕様等の製造条件の異なる種々のストリップ110が、前端部及び尾端部でそれぞれ溶接により接続されている。なお、ここで目標板温は、本実施形態では炉出側の板温としているが、板温検出端となる板温計が設置されている場所であれば、当該箇所の板温とすることも可能である。処理炉体120内は、ストリップ110が一側の入口から他側出口に向かって移動しており、処理炉体120の雰囲気温度は、ブロワ140やストリップ110によって変動する。ハースロール130は、ストリップ110と接触しており、ストリップ110と熱の移動が行われる。ブロワ140は、板温調節部の一例であり、処理炉体120内に設けられ、ブロワ140の回転数(操作量)Gを調節することによって、処理炉体120のストリップ110を冷却させることができる。
【0024】
次に、本実施形態に係る板温制御装置200の構成について説明する。図2は、本実施形態に係る連続熱処理炉100における板温制御装置200を示すブロック図である。
【0025】
板温制御装置200は、FF/FBゲインテーブル記録部210と、プロセスシミュレータ220と、FF(フィードフォワード)コントローラ230と、FB(フィードバック)コントローラ232とを備える。
【0026】
FF/FBゲインテーブル記録部210は、プロセスシミュレータ220に入力されるフィードフォワード制御ゲイン(FFゲイン)とフィードバック制御ゲイン(FBゲイン)との対を1つのケースとして予め複数のケースをFF/FBゲインテーブルとして記録しておく。FFゲインは、例えば、ストリップ110の溶接部分が処理炉体120の入口又は出口を通過するとき、先行する金属板(先行材)の目標板温と後行する金属板(後行材)の目標板温との差に基づき、ブロワ回転数Gをフィードフォワード制御で変更させ、ストリップ温度T2を目標温度に設定するための計算パラメータとなる制御ゲインである。また、FBゲインは、フィードフォワード制御後、任意の時間間隔、例えば所定の周期タイミングで、処理炉体120の出側を通過中の金属板の目標板温と板温計にて検出した実績板温との偏差に基づき、ブロワ回転数Gをフィードバック制御で変更するための計算パラメータとなる制御ゲインである。FB周期は、ブロワ回転数Gを変更した後、当該ブロワ回転数Gが実績板温に反映されて安定するまでの時間を設定する。FF/FBゲインテーブルは、予め複数の異なる操業条件においてFFコントローラ及びFBコントローラで制御ゲイン(FF/FBゲイン)を変えて調節し、経験的に導出した適切な数値の複数のFF/FBゲインを記憶させておく。また、シミュレーション等で理論的に検討してFF/FBゲインの候補を導出して記憶させてもよい。即ち、予め複数の異なる操業条件で調節して決定した、操作量変更量を算出する際に適用したゲインの組み合わせを格納したテーブルである。図3は、本実施形態に係るブロワの回転数変更量を決定するFF/FBゲインテーブルを示す説明図である。
【0027】
FFコントローラ230とFBコントローラ232は、プロセスシミュレータ220で決定された最適なブロワ回転数変更量に対応するFFゲインとFBゲインをそれぞれ、プロセスシミュレータ220から取得する。そして、FFコントローラ230とFBコントローラ232は、取得したFFゲイン、FBゲインに基づいてブロワ回転数変更量を制御する信号をブロワ140の駆動部(図示せず。)に出力する。
【0028】
プロセスシミュレータ220は、鋼種、板幅、板厚、熱処理前の板温、目標板温といった製造命令(製造条件)、熱収支モデル、フィードフォワード制御ゲイン、フィードバック制御ゲイン、プロセス実績データ等から、ストリップ温度T2の時間変化をシミュレートして算出し、ストリップ温度T2を調節するための最適なブロワ回転数変更量を決定する。
【0029】
プロセスシミュレータ220は、図4に示すように、ベース板温時間変化算出部222と、操作量変更量算出部224と、板温時間変化予測算出部226と、操作量変更量決定部228などの機能ブロックを有する。
【0030】
ベース板温時間変化算出部222は、ブロワ140の現状のブロワ回転数Gと、処理炉体120内における熱収支モデルとから、制御すべきストリップ110について処理炉体120出口におけるストリップ温度T2の時間変化を未来方向一定期間Nについて算出する。ここで、ブロワ140の現状の回転数Gとは、制御対象となるストリップ110に対して設定している、ベース板温時間変化算出部222での計算開始タイミングでのブロワ140の回転数Gである。
【0031】
処理炉体120内における熱収支モデルでは、処理炉体120をストリップ110の通板方向について微小空間(複数の空間)に分割して、各微小空間でのストリップ110の熱収支を検討し、ストリップ温度T2の時間変化を一定期間Nに亘って算出する。熱収支モデルは、処理炉体120内雰囲気とストリップ110との間の対流伝熱を考慮する対流伝熱モデルと、ハースロール130とストリップ110との間の伝導伝熱を考慮する伝導伝熱モデルとからなる。この微小空間のサイズとしては、コンピュータの計算処理能力や所望の計算精度に基づき決定すればよく、本実施形態の処理炉体120の場合では10cmとしている。
【0032】
まず、初期値として、現時点の時間i=0、処理炉体120入口におけるストリップ110(炉内位置j=0)のストリップ温度をT2(i,j)=T2(0,0)とする。そして、これ以降の時刻i、炉内位置jのストリップ温度T2(i,j)を、後で詳述する熱収支モデルを用いて算出する。即ち、ストリップ温度T2(i,j)は、第一義的には、ストリップ110の特定の部位について定義された温度ではなく、炉内位置jについて定義される。時刻iと時刻i+1との間隔を微小時刻dtとする。
【0033】
ストリップ110の各部位の温度は、時刻i、i+1、・・・、炉内位置j、j+1、・・・、におけるストリップ110のストリップ温度T2(i,j)によって、図5に示すように表せる。本実施形態の連続熱処理炉100内部のストリップ110が微小距離移動した場合の時刻及び位置と、ストリップ温度との関係を示す図である。図5中で、制御対象となるストリップ110は、長さ方向に炉内位置jとj+1間が微小時間dt刻みでn個、又炉内位置j+1とj+2間がm個となっている場合を示している。v(i)は、時間iにおけるストリップ110の進行速度であり、対象となるストリップ110の長さは、Σv(i)×dtで表される。
【0034】
ベース板温時間変化算出部222が、ブロワ140の現状のブロワ回転数Gが一定のままとして、処理炉体120内における熱収支モデルとから、処理炉体120出口におけるストリップ温度T2の時間変化を予め設定したFB期間ごとに未来方向一定期間Nについて算出すると、ストリップ温度T2の時間変化は、図6に示すようになる。図6におけるFBはFB期間とも記し、フィードバック制御周期である。このときの時間軸方向のストリップ温度T2の温度変化をベース板温時間変化と記すことにする。FB期間は、制御系を構成するコンピュータ等の機器の計算能力や所望の制御精度に基づいて決定すればよい。
【0035】
対流伝熱モデルは、処理炉体120内雰囲気とストリップ110との間の対流伝熱を考慮するモデルであり、ストリップ温度T2は、数式1で表される。対流伝熱モデルでは、ストリップ温度T2は、ストリップ110の密度、比熱、板厚、板幅といった製造条件と、ブロワ140の回転数Gなどの条件から算出される。
【0036】
【数1】
【0037】
伝導伝熱モデルは、ハースロール130とストリップ110との間の伝導伝熱を考慮するモデルであり、ハースロール130とストリップ110との接触部分の熱流量Qは、下記の数式3で表され、ハースロール温度T1は数式4で、ストリップ温度T2は数式5で表される。伝導伝熱モデルを表すための説明図を図7及び図8に示す。図7は、本実施形態に係る連続熱処理炉内部のハースロール及びストリップの配置を示す側面図である。図8は、本実施形態に係る連続熱処理炉内部、ハースロール及びストリップ間の熱伝導を示す模式図である。
【0038】
【数2】
【0039】
操作量変更量算出部224は、FF/FBゲインテーブル記録部210から、予め用意されたケース毎にFFゲイン及びFBゲイン、製造命令情報、プロセス実績情報を読み込んで、ブロワ140のブロワ回転数変更量を算出する。ブロワ回転数Gの変更量(DRB)は、例えば、上記の熱収支モデルである伝熱モデルを用いて導出される、板厚、目標板温、及び実績板温等の微小な変化量に対する熱伝達係数の変化を表す関係式である下記の数式6を用いて算出される。ブロワ140のブロワ回転数変更量は、先行するストリップ(先行材)と後行するストリップ(後行材)それぞれに関する、目標板温、ストリップの種類、板厚、板幅等の製造命令情報(製造条件)や、処理炉体120出口におけるストリップ温度T2の実績値、処理炉体120内部温度の実績値等のプロセス実績情報に基づいて、FFゲイン及びFBゲインを用いて算出される。ここで、後行材とは、処理中又はこれから処理するストリップ、先行材とは、当該後行材の直前に処理されたストリップである。
【0040】
【数3】
【0041】
板温時間変化予測算出部226は、操作量変更量算出部224で算出されたブロワ140のブロワ回転数変更量と、処理炉体120内における熱収支モデルとから、処理炉体120出口におけるストリップ温度T2の時間変化を一定期間未来方向に予測算出する。熱収支モデルは、ベース板温時間変化算出部222と同様の数式1〜5で表される対流伝熱モデルと伝導伝熱モデルであり、処理炉体120を微小空間に分割して、ストリップ110の熱収支を検討できるモデルである。
【0042】
板温時間変化予測算出部226は、操作量変更量算出部224で算出されたブロワ回転数変更量をもとにブロワ回転数Gを決定する。そして、板温時間変化予測算出部226は、熱収支モデルを用いて、ブロワ140の回転数Gを変化させた場合のストリップ110とハースロール130の温度の時間変化を算出する。図9〜図11は、ケース1〜3それぞれについて、ストリップ温度とブロワの回転数の時間変化の例を示すグラフである。
【0043】
操作量変更量決定部228は、板温時間変化予測算出部226で予測算出された処理炉体120の出口におけるストリップ温度T2と目標板温との温度差ΔT2と、ブロワ回転数変更量ΔGに基づいた、数式7に示す評価関数Jsを用いて、ゲイン毎に算出されたブロワ回転数変更量の中から最適なブロワ回転数変更量を決定する。評価関数Jsは、最適なブロワ回転数変更量を決定するための関数であり、温度差の二乗和ΣΔT2(i)2とブロワ回転数変更量の二乗和ΣΔG(i)2の合計値である。そして、評価関数Jsの評価値が最小となるときのゲインを、実際にブロワ140を駆動するときのゲインとして採用する。即ち、未来方向一定期間Nにおいて目標板温との温度差が小さく、かつ回転数変化量が小さくなるゲインを実際の制御のゲインとする。
【0044】
【数4】
【0045】
板温時間変化予測算出部226で予測算出された処理炉体120の出口におけるストリップ温度T2と目標板温との温度差ΔT2、ブロワ回転数変更量ΔGは、図11に示すようにFB周期のタイミングで算出される。温度差の二乗和ΣΔT2(i)2、ブロワ回転数変更量の二乗和ΣΔG(i)2は、それぞれ未来方向一定期間Nにおける温度差ΔT2の二乗値、ブロワ回転数変更量ΔGの二乗値を合計したものである。
【0046】
温度差ΣΔT2(i)2と、ブロワ回転数変更量ΣΔG(i)2は、図12に示すテーブルのように格納される。図12には、加えてブロワの回転数変更量を決定する制御ゲインテーブルを示す。
【0047】
(第1の実施形態の動作)
次に、図13を参照して、本実施形態に係る板温制御装置200の動作について説明する。図13は、本実施形態に係るストリップ温度制御方法を示すフロー図である。
【0048】
まず、プロセスシミュレータ220は、初期データとして、製造設備の設備能力や、ストリップ110の製造仕様等の製造条件から決定される設備定数や制御定数をデータベースから読み取る。更に、ベース板温時間変化算出部222は、ブロワ140の現状のブロワ回転数Gと、処理炉体120内における熱収支モデルとを用いて、処理炉体120出口におけるストリップ温度T2の時間変化を一定期間未来方向に算出する(ステップS1)。
【0049】
次に、操作量変更量算出部224は、FF/FBゲインテーブル記録部210から、予め用意されたケース毎にFFゲイン及びFBゲインを読み込む(ステップS2)。操作量変更量算出部224は、FF制御であるか、FB制御であるかを判断し(ステップS3)、FF制御である場合は、データベースからFF制御情報を読み込み設定し(ステップS4)、FB制御である場合は、データベースからFB制御情報を読み込み設定する(ステップS5)。
【0050】
そして、操作量変更量算出部224は、ブロワ140のブロワ回転数変更量(DRB)を例えば所定の経過時刻毎に算出する(ステップS6)。その際、操作量変更量算出部224は、製造命令情報、プロセス実績情報をデータベースから読み込む。
【0051】
次に、板温時間変化予測算出部226は、操作量変更量算出部224で算出されたブロワ140のブロワ回転数変更量と、処理炉体120内における熱収支モデルとから、ある時刻における処理炉体120出口におけるストリップ温度T2、及びハースロール130の温度を算出する(ステップS7)。板温時間変化予測算出部226は、ストリップ温度T2とハースロール130温度を例えば所定の経過時刻毎に算出しており、算出した温度の経過時刻が、所定のFB周期タイミングと一致するか、又は超過しているかを判断する(ステップS8)。
【0052】
経過時刻が所定のFB周期タイミングと一致せず、更に超過もしていない場合、即ち、FB周期タイミングに依然として到達していない場合、ステップS6に戻り、操作量変更量算出部224は、次の経過時刻におけるブロワ140のブロワ回転数変更量(DRB)を算出する。
【0053】
一方、経過時刻が所定のFB周期タイミングと一致したり、又は超過している場合、その経過時刻におけるストリップ温度T2とブロワ140の回転数Gを、それぞれFB周期タイミングにおけるストリップ温度T2(t)とブロワ140の回転数G(t)と決定する。そして、操作量変更量決定部228は、ストリップ温度T2(t)とブロワ140の回転数G(t)から、FB周期タイミングの評価関数Jsの評価値を算出し、その評価値をデータベースに保存する(ステップS9)。
【0054】
以降、FB周期タイミング毎に評価関数Jsの評価値がデータベースに保存される。そして、板温時間変化予測算出部226は、経過時刻が未来一定方向期間Nに到達しているかどうかを判断する(ステップS10)。そして、未来一定方向期間Nに到達するまで、評価関数Jsの評価値をFB周期タイミング毎にデータベースに格納する。一方、経過時刻が未来一定方向期間N以上となった場合、操作量変更量決定部228は、評価関数Jsの評価値が最小となるときのFFゲイン又はFBゲインを、実際にブロワ140を駆動するときのFFゲイン又はFBゲインとして決定する(ステップS11)。
【0055】
次に、図14を参照して、本実施形態に係るプロセスシミュレータ220が、FF/FBゲインテーブルのケースごとに評価関数の評価値を算出し、評価関数の最小値を算出する方法について説明する。図14は、本実施形態に係る評価関数の最小値を決定する方法を示すフロー図である。
【0056】
プロセスシミュレータ220の操作量変更量算出部224は、まずFF/FBゲインテーブルのケースi=1を設定する(ステップT1)。次に、操作量変更量算出部224は、FF/FBゲインテーブル記録部210からケースi=1の場合のFFゲイン又はFBゲインを読み込む(ステップT2)。なお、ステップT2は、上述したステップS2に対応する。そして、操作量変更量算出部224は、上述したステップS3〜ステップ8の過程を経て、ケースi=1の場合の評価関数Jsの評価値Js(1)をデータベースに格納する。
【0057】
そして、ケースi=1の場合、操作量変更量算出部224は、次に、FF/FBゲインテーブルのケースi=2(=1+1)を設定する(ステップT7)。そして、ケースi=2がFF/FBゲインテーブルに用意されたケースの最大のケース番号imaxよりも大きい場合は終了するが(if imax=1)、通常FF/FBゲインテーブルには複数のケースを用意するので、再びステップT2へ戻る。
【0058】
そして、ケースi=2の場合の評価関数Jsの評価値Js(2)をデータベースに格納し(ステップT3)、評価値Js(2)がデータベースに格納されている評価値の最小値Jsminに比べて小さいか否かを判断する(ステップT5)。Js(2)が評価値の最小値Jsminに比べて小さい場合、Js(2)をJsminと決定する(ステップT6)。なお、i=2のときのJsminは、Js(1)である。次に、操作量変更量算出部224は、FF/FBゲインテーブルのケースi=3(=2+1)を設定する(ステップT7)。一方、Js(2)が評価値の最小値Jsmin以上である場合は、評価値Jsminは変更されず、操作量変更量算出部224は、FF/FBゲインテーブルのケースi=3を設定する(ステップT7)。
【0059】
以上、ケース番号iが最大のケース番号imaxよりも大きくなるまで、ケースiの場合の評価関数Jsの評価値Js(i)をデータベースに格納し(ステップT3)、評価値Js(i)と、評価値の最小値Jsminとを比べて(ステップT5)、小さい値のほうをJsminと決定する(ステップT6)。そして、ケース番号iが最大のケース番号imaxよりも大きくなったときのJsminが、評価関数Jsの最小値として最終的に決定される。
【0060】
(その他の実施形態)
本発明のその他の実施形態に係る連続熱処理炉の板温制御装置を構成する各構成要素は、例えば、コンピュータを板温制御装置として機能させるコンピュータプログラムを実行するプロセッサと、上記のコンピュータプログラムを記録し、コンピュータによって読取り可能なRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、又はHDD(Hard Disk Drive)などの記憶デバイスなどを有するハードウェア資源で構成することができる。なお、各構成要素に独立したハードウェア資源を該当させる必要はない。また、各構成要素又は各構成要素の一部分を電子ネットワークで接続された別のハードウェア資源で構成するとしてもよい。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
例えば、上記実施形態では、板温調節部の例としてブロワの場合について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、板温調節部は、他の冷却装置も適用することができ、熱交換装置などの加熱装置などであってもよい。そして、連続熱処理炉は、金属板を冷却する冷却炉に限定されず、金属板を加熱する加熱炉であってもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、板温調節部の操作量は、ブロワ回転数であるとしたが、板温調節部として適用する冷却装置又は加熱装置に対応した操作量とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る連続熱処理炉を示す概略図である。
【図2】同実施形態に係る連続熱処理炉における板温制御装置を示すブロック図である。
【図3】同実施形態に係るブロワの回転数変更量を決定するFF/FBゲインテーブルを示す説明図である。
【図4】同実施形態に係るプロセスシミュレータを示すブロック図である。
【図5】同実施形態に係る連続熱処理炉内部のストリップが微小距離移動した場合の時間及び位置と、ストリップ温度との関係を示す概略図である。
【図6】同実施形態に係るストリップ温度とブロワの回転数との関係を示すグラフである。
【図7】同実施形態に係る連続熱処理炉内部のハースロール及びストリップの配置を示す側面図である。
【図8】同実施形態に係る連続熱処理炉内部、ハースロール及びストリップ間の熱伝導を示す模式図である。
【図9】同実施形態に係るストリップ温度とブロワの回転数の時間変化を示すグラフである。
【図10】同実施形態に係るストリップ温度とブロワの回転数の時間変化を示すグラフである。
【図11】同実施形態に係るストリップ温度とブロワの回転数の時間変化を示すグラフである。
【図12】同実施形態に係るブロワの回転数変更量を決定する制御ゲインテーブルを示す説明図である。
【図13】同実施形態に係るストリップ温度制御方法を示すフロー図である。
【図14】同実施形態に係る評価関数の最小値を決定する方法を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0065】
100 連続熱処理炉
110 ストリップ
120 処理炉体
130 ハースロール
140 ブロワ
200 板温制御装置
210 FF/FBゲインテーブル記録部
220 プロセスシミュレータ
222 ベース板温時間変化算出部
224 操作量変更量算出部
226 板温時間変化予測算出部
228 操作量変更量決定部
230 FFコントローラ
232 FBコントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結された複数の鋼板等の金属板を連続熱処理炉において連続的に熱処理する際の板温制御方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鋼板等の連続溶融めっき設備や、連続焼鈍設備などには、帯状の金属板が目標とする温度に達成するように、金属板を加熱又は冷却する連続熱処理炉が設けられる。連続熱処理炉における板温の制御は、製品としての金属板の品質に影響するため、金属板の製造において非常に重要な要素である。
【0003】
連続熱処理炉で処理される帯状の金属板は、鋼種、板幅、板厚、熱処理前の板温、目標板温といった製造仕様等の製造条件が異なる複数の種類の金属板が、その先端部と尾端部を溶接して接続されたものである。そして、連続熱処理炉内部では、これらの金属板が連続的に通過していく。連続熱処理炉には、加熱装置やブロワなどの温度調節部が設けられており、温度調節部は、熱処理炉の内部温度の調節によって、金属板の温度が目標板温になるように加熱・冷却する。温度調節部は、金属板の種類に応じて、連続的に精度良く動作させる必要がある。温度調節部の操作量は、製造設備の設備能力や、金属板の製造仕様等の製造条件などに基づいて決定される。
【0004】
熱処理炉の出口における金属板の板温を推定する方法として、下記の特許文献1〜5が開示されている。特許文献1、2では、金属板の推定板温と目標とする金属板の目標板温との温度差、操作量変更量に基づいた評価関数を用いて、評価関数から得られる値が最小となるときの操作量を、実際の板温制御に用いる操作量として採用することが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−316545号公報
【特許文献2】特開平9−227954号公報
【特許文献3】特開平5−255759号公報
【特許文献4】特開2005−298941号公報
【特許文献5】特開平5−186836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1〜5で開示されたような熱処理炉の出口における金属板の板温を推定する方法は、熱処理炉全体の熱収支をマクロに近似した線形のモデル式を用いて推定計算を行っている。そのため、算出された推定板温は、精度の点において問題があった。
【0007】
また、上記特許文献1、2で開示された操作量の決定方法では、複数の異なる操業条件に対しても操作量を導出する計算パラメータが単一となっていた。そのため、製造条件によっては、実際の熱処理の結果から得られる実績板温が、目標板温の上限又は下限から外れることがあった。そして、その結果、目標板温から外れた金属板が、炉況を不安定にするという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、予め候補として設定した複数の制御ゲインの中から最適な制御ゲインを選択して、板温調節部の効率の良い操作量変更量を決定することができ、処理炉体出口板温の制御精度を向上させることが可能な、連続熱処理炉における板温制御方法及び装置、コンピュータプログラム並びにコンピュータ読取り可能な記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、帯状に接合部で連結した複数の金属板が通過し、処理炉体内に金属板の進行方向を変更させる円筒形状のハースロールと、金属板を加熱又は冷却する板温調節部とを備える連続熱処理炉における板温制御方法であって、板温調節部の現状の操作量と、処理炉体内における熱収支モデルとから、処理炉出口における板温の変動をシミュレーションして所定期間算出するステップと、算出された処理炉出口の板温を目標板温に設定して、熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて、板温調節のための予め設定した制御のゲイン毎に板温調節部の操作量変更量を算出するステップと、算出された操作量変更量と、処理炉体内における熱収支モデルとから、処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして、ゲイン毎に予測算出するステップと、予測算出された処理炉体出口板温と目標板温との温度差と、操作量変更量に基づいて、ゲイン毎に算出された操作量変更量の中から最適な操作量変更量を決定するステップとを含むことを特徴とする連続熱処理炉における板温制御方法が提供される。
【0010】
かかる構成により、ゲイン毎に板温調節部の操作量変更量が算出され、算出された操作量変更量と、処理炉体内における熱収支モデルとから、処理炉体出口における板温の変動を、ゲイン毎に予測算出することができる。そして、予測算出された処理炉出口板温と目標板温との温度差と、ゲイン毎に算出された操作量変更量の中から最適な操作量変更量を決定することができる。
【0011】
上記処理炉体内における熱収支モデルは、処理炉体を複数の空間に分割し、処理炉体内雰囲気と金属板との間の対流伝熱、及びハースロールと金属板との間の伝導伝熱から複数の空間における金属板の板温を算出するモデルであることができる。かかる構成により、処理炉体内の金属板の熱収支を厳密に算出するため、金属板の板温の変動を精度よく推定することができる。例えば、金属板の製造条件や炉内の条件が変わっても板温制御精度を向上させることができる。
【0012】
上記ゲインは、金属板の接合部が処理炉体入口又は出口を通過するとき操作量を制御するフィードフォワード制御のゲインと、フィードフォワード制御後、任意の時間間隔で操作量を制御するフィードバック制御のゲインとからなることができる。かかる構成により、金属板を目標板温に精度良く近づけることができる。
【0013】
上記板温調節部の操作量変更量は、板温の実績値、目標板温、金属板の種類、板厚、板幅と、ゲインとから、熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて算出される。かかる構成により、板温の実績値、目標板温、金属板の種類、板厚、板幅に応じて、操作量変更量が算出され、板温制御精度を向上させることができる。
【0014】
上記最適な操作量変更量の決定は、温度差の二乗和と操作量変更量の二乗和の合計値が最小となるときのゲインを採用して決定されてもよい。かかる構成により、温度変動や操作量変更量を最小限にして、板温を制御することができる。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、帯状に接合部で連結した複数の金属板が通過し、処理炉体内に金属板の進行方向を変更させる円筒形状のハースロールと、金属板の板温を加熱又は冷却する板温調節部とを備える連続熱処理炉における板温制御装置であって、板温調節部の現状の操作量と、処理炉体内における熱収支モデルとから、処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして所定期間算出するベース板温時間変化算出部と、ベース板温時間変化算出部で算出された処理炉体出口板温を目標板温に設定して、熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて、板温調節のための予め設定した制御のゲイン毎に板温調節部の操作量変更量を算出する操作量変更量算出部と、操作量変更量算出部で算出された操作量変更量と、処理炉体内における熱収支モデルとから、処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして、ゲイン毎に予測算出する板温時間変化予測算出部と、板温時間変化予測算出部で予測算出された処理炉体出口板温と目標板温との温度差と、操作量変更量をファクタとして、ゲイン毎に算出された操作量変更量の中から最適な操作量変更量を決定する操作量変更量決定部とを備えることを特徴とする連続熱処理炉における板温制御装置が提供される。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータを、上記の連続熱処理炉における板温制御装置として機能させることを特徴とするコンピュータプログラムが提供される。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上記のコンピュータプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読取り可能な記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、予め候補として設定した複数の制御ゲインの中から最適な制御ゲインを選択して、板温調節部の効率の良い操作量変更量を決定することができ、処理炉体出口板温の制御精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
(第1の実施形態の構成)
まず、本発明の第1の実施形態に係る連続熱処理炉について説明する。図1は、本実施形態に係る連続熱処理炉100を示す概略図である。
【0021】
連続熱処理炉100は、移動する帯状のストリップ(金属板)110を連続的に加熱又は冷却して、ストリップ110を目標とする温度に処理する設備であり、例えば鋼板等の製造工程で、亜鉛をめっきする連続溶融めっき設備や、連続焼鈍設備などに設けられる。
【0022】
連続熱処理炉100は、ストリップ110が通過する中空の塔状の処理炉体120と、ストリップ110の進行方向を変更させる円筒形状のハースロール130と、ストリップ110に低温の気体を吹き付けて板温を冷却させるブロワ140とを備える。処理炉体120入口と出口には、ストリップ表面温度を測定する板温計124、122が設けられる。
【0023】
ストリップ110は、鋼種、板幅、板厚、熱処理前の板温、目標板温といった製造仕様等の製造条件の異なる種々のストリップ110が、前端部及び尾端部でそれぞれ溶接により接続されている。なお、ここで目標板温は、本実施形態では炉出側の板温としているが、板温検出端となる板温計が設置されている場所であれば、当該箇所の板温とすることも可能である。処理炉体120内は、ストリップ110が一側の入口から他側出口に向かって移動しており、処理炉体120の雰囲気温度は、ブロワ140やストリップ110によって変動する。ハースロール130は、ストリップ110と接触しており、ストリップ110と熱の移動が行われる。ブロワ140は、板温調節部の一例であり、処理炉体120内に設けられ、ブロワ140の回転数(操作量)Gを調節することによって、処理炉体120のストリップ110を冷却させることができる。
【0024】
次に、本実施形態に係る板温制御装置200の構成について説明する。図2は、本実施形態に係る連続熱処理炉100における板温制御装置200を示すブロック図である。
【0025】
板温制御装置200は、FF/FBゲインテーブル記録部210と、プロセスシミュレータ220と、FF(フィードフォワード)コントローラ230と、FB(フィードバック)コントローラ232とを備える。
【0026】
FF/FBゲインテーブル記録部210は、プロセスシミュレータ220に入力されるフィードフォワード制御ゲイン(FFゲイン)とフィードバック制御ゲイン(FBゲイン)との対を1つのケースとして予め複数のケースをFF/FBゲインテーブルとして記録しておく。FFゲインは、例えば、ストリップ110の溶接部分が処理炉体120の入口又は出口を通過するとき、先行する金属板(先行材)の目標板温と後行する金属板(後行材)の目標板温との差に基づき、ブロワ回転数Gをフィードフォワード制御で変更させ、ストリップ温度T2を目標温度に設定するための計算パラメータとなる制御ゲインである。また、FBゲインは、フィードフォワード制御後、任意の時間間隔、例えば所定の周期タイミングで、処理炉体120の出側を通過中の金属板の目標板温と板温計にて検出した実績板温との偏差に基づき、ブロワ回転数Gをフィードバック制御で変更するための計算パラメータとなる制御ゲインである。FB周期は、ブロワ回転数Gを変更した後、当該ブロワ回転数Gが実績板温に反映されて安定するまでの時間を設定する。FF/FBゲインテーブルは、予め複数の異なる操業条件においてFFコントローラ及びFBコントローラで制御ゲイン(FF/FBゲイン)を変えて調節し、経験的に導出した適切な数値の複数のFF/FBゲインを記憶させておく。また、シミュレーション等で理論的に検討してFF/FBゲインの候補を導出して記憶させてもよい。即ち、予め複数の異なる操業条件で調節して決定した、操作量変更量を算出する際に適用したゲインの組み合わせを格納したテーブルである。図3は、本実施形態に係るブロワの回転数変更量を決定するFF/FBゲインテーブルを示す説明図である。
【0027】
FFコントローラ230とFBコントローラ232は、プロセスシミュレータ220で決定された最適なブロワ回転数変更量に対応するFFゲインとFBゲインをそれぞれ、プロセスシミュレータ220から取得する。そして、FFコントローラ230とFBコントローラ232は、取得したFFゲイン、FBゲインに基づいてブロワ回転数変更量を制御する信号をブロワ140の駆動部(図示せず。)に出力する。
【0028】
プロセスシミュレータ220は、鋼種、板幅、板厚、熱処理前の板温、目標板温といった製造命令(製造条件)、熱収支モデル、フィードフォワード制御ゲイン、フィードバック制御ゲイン、プロセス実績データ等から、ストリップ温度T2の時間変化をシミュレートして算出し、ストリップ温度T2を調節するための最適なブロワ回転数変更量を決定する。
【0029】
プロセスシミュレータ220は、図4に示すように、ベース板温時間変化算出部222と、操作量変更量算出部224と、板温時間変化予測算出部226と、操作量変更量決定部228などの機能ブロックを有する。
【0030】
ベース板温時間変化算出部222は、ブロワ140の現状のブロワ回転数Gと、処理炉体120内における熱収支モデルとから、制御すべきストリップ110について処理炉体120出口におけるストリップ温度T2の時間変化を未来方向一定期間Nについて算出する。ここで、ブロワ140の現状の回転数Gとは、制御対象となるストリップ110に対して設定している、ベース板温時間変化算出部222での計算開始タイミングでのブロワ140の回転数Gである。
【0031】
処理炉体120内における熱収支モデルでは、処理炉体120をストリップ110の通板方向について微小空間(複数の空間)に分割して、各微小空間でのストリップ110の熱収支を検討し、ストリップ温度T2の時間変化を一定期間Nに亘って算出する。熱収支モデルは、処理炉体120内雰囲気とストリップ110との間の対流伝熱を考慮する対流伝熱モデルと、ハースロール130とストリップ110との間の伝導伝熱を考慮する伝導伝熱モデルとからなる。この微小空間のサイズとしては、コンピュータの計算処理能力や所望の計算精度に基づき決定すればよく、本実施形態の処理炉体120の場合では10cmとしている。
【0032】
まず、初期値として、現時点の時間i=0、処理炉体120入口におけるストリップ110(炉内位置j=0)のストリップ温度をT2(i,j)=T2(0,0)とする。そして、これ以降の時刻i、炉内位置jのストリップ温度T2(i,j)を、後で詳述する熱収支モデルを用いて算出する。即ち、ストリップ温度T2(i,j)は、第一義的には、ストリップ110の特定の部位について定義された温度ではなく、炉内位置jについて定義される。時刻iと時刻i+1との間隔を微小時刻dtとする。
【0033】
ストリップ110の各部位の温度は、時刻i、i+1、・・・、炉内位置j、j+1、・・・、におけるストリップ110のストリップ温度T2(i,j)によって、図5に示すように表せる。本実施形態の連続熱処理炉100内部のストリップ110が微小距離移動した場合の時刻及び位置と、ストリップ温度との関係を示す図である。図5中で、制御対象となるストリップ110は、長さ方向に炉内位置jとj+1間が微小時間dt刻みでn個、又炉内位置j+1とj+2間がm個となっている場合を示している。v(i)は、時間iにおけるストリップ110の進行速度であり、対象となるストリップ110の長さは、Σv(i)×dtで表される。
【0034】
ベース板温時間変化算出部222が、ブロワ140の現状のブロワ回転数Gが一定のままとして、処理炉体120内における熱収支モデルとから、処理炉体120出口におけるストリップ温度T2の時間変化を予め設定したFB期間ごとに未来方向一定期間Nについて算出すると、ストリップ温度T2の時間変化は、図6に示すようになる。図6におけるFBはFB期間とも記し、フィードバック制御周期である。このときの時間軸方向のストリップ温度T2の温度変化をベース板温時間変化と記すことにする。FB期間は、制御系を構成するコンピュータ等の機器の計算能力や所望の制御精度に基づいて決定すればよい。
【0035】
対流伝熱モデルは、処理炉体120内雰囲気とストリップ110との間の対流伝熱を考慮するモデルであり、ストリップ温度T2は、数式1で表される。対流伝熱モデルでは、ストリップ温度T2は、ストリップ110の密度、比熱、板厚、板幅といった製造条件と、ブロワ140の回転数Gなどの条件から算出される。
【0036】
【数1】
【0037】
伝導伝熱モデルは、ハースロール130とストリップ110との間の伝導伝熱を考慮するモデルであり、ハースロール130とストリップ110との接触部分の熱流量Qは、下記の数式3で表され、ハースロール温度T1は数式4で、ストリップ温度T2は数式5で表される。伝導伝熱モデルを表すための説明図を図7及び図8に示す。図7は、本実施形態に係る連続熱処理炉内部のハースロール及びストリップの配置を示す側面図である。図8は、本実施形態に係る連続熱処理炉内部、ハースロール及びストリップ間の熱伝導を示す模式図である。
【0038】
【数2】
【0039】
操作量変更量算出部224は、FF/FBゲインテーブル記録部210から、予め用意されたケース毎にFFゲイン及びFBゲイン、製造命令情報、プロセス実績情報を読み込んで、ブロワ140のブロワ回転数変更量を算出する。ブロワ回転数Gの変更量(DRB)は、例えば、上記の熱収支モデルである伝熱モデルを用いて導出される、板厚、目標板温、及び実績板温等の微小な変化量に対する熱伝達係数の変化を表す関係式である下記の数式6を用いて算出される。ブロワ140のブロワ回転数変更量は、先行するストリップ(先行材)と後行するストリップ(後行材)それぞれに関する、目標板温、ストリップの種類、板厚、板幅等の製造命令情報(製造条件)や、処理炉体120出口におけるストリップ温度T2の実績値、処理炉体120内部温度の実績値等のプロセス実績情報に基づいて、FFゲイン及びFBゲインを用いて算出される。ここで、後行材とは、処理中又はこれから処理するストリップ、先行材とは、当該後行材の直前に処理されたストリップである。
【0040】
【数3】
【0041】
板温時間変化予測算出部226は、操作量変更量算出部224で算出されたブロワ140のブロワ回転数変更量と、処理炉体120内における熱収支モデルとから、処理炉体120出口におけるストリップ温度T2の時間変化を一定期間未来方向に予測算出する。熱収支モデルは、ベース板温時間変化算出部222と同様の数式1〜5で表される対流伝熱モデルと伝導伝熱モデルであり、処理炉体120を微小空間に分割して、ストリップ110の熱収支を検討できるモデルである。
【0042】
板温時間変化予測算出部226は、操作量変更量算出部224で算出されたブロワ回転数変更量をもとにブロワ回転数Gを決定する。そして、板温時間変化予測算出部226は、熱収支モデルを用いて、ブロワ140の回転数Gを変化させた場合のストリップ110とハースロール130の温度の時間変化を算出する。図9〜図11は、ケース1〜3それぞれについて、ストリップ温度とブロワの回転数の時間変化の例を示すグラフである。
【0043】
操作量変更量決定部228は、板温時間変化予測算出部226で予測算出された処理炉体120の出口におけるストリップ温度T2と目標板温との温度差ΔT2と、ブロワ回転数変更量ΔGに基づいた、数式7に示す評価関数Jsを用いて、ゲイン毎に算出されたブロワ回転数変更量の中から最適なブロワ回転数変更量を決定する。評価関数Jsは、最適なブロワ回転数変更量を決定するための関数であり、温度差の二乗和ΣΔT2(i)2とブロワ回転数変更量の二乗和ΣΔG(i)2の合計値である。そして、評価関数Jsの評価値が最小となるときのゲインを、実際にブロワ140を駆動するときのゲインとして採用する。即ち、未来方向一定期間Nにおいて目標板温との温度差が小さく、かつ回転数変化量が小さくなるゲインを実際の制御のゲインとする。
【0044】
【数4】
【0045】
板温時間変化予測算出部226で予測算出された処理炉体120の出口におけるストリップ温度T2と目標板温との温度差ΔT2、ブロワ回転数変更量ΔGは、図11に示すようにFB周期のタイミングで算出される。温度差の二乗和ΣΔT2(i)2、ブロワ回転数変更量の二乗和ΣΔG(i)2は、それぞれ未来方向一定期間Nにおける温度差ΔT2の二乗値、ブロワ回転数変更量ΔGの二乗値を合計したものである。
【0046】
温度差ΣΔT2(i)2と、ブロワ回転数変更量ΣΔG(i)2は、図12に示すテーブルのように格納される。図12には、加えてブロワの回転数変更量を決定する制御ゲインテーブルを示す。
【0047】
(第1の実施形態の動作)
次に、図13を参照して、本実施形態に係る板温制御装置200の動作について説明する。図13は、本実施形態に係るストリップ温度制御方法を示すフロー図である。
【0048】
まず、プロセスシミュレータ220は、初期データとして、製造設備の設備能力や、ストリップ110の製造仕様等の製造条件から決定される設備定数や制御定数をデータベースから読み取る。更に、ベース板温時間変化算出部222は、ブロワ140の現状のブロワ回転数Gと、処理炉体120内における熱収支モデルとを用いて、処理炉体120出口におけるストリップ温度T2の時間変化を一定期間未来方向に算出する(ステップS1)。
【0049】
次に、操作量変更量算出部224は、FF/FBゲインテーブル記録部210から、予め用意されたケース毎にFFゲイン及びFBゲインを読み込む(ステップS2)。操作量変更量算出部224は、FF制御であるか、FB制御であるかを判断し(ステップS3)、FF制御である場合は、データベースからFF制御情報を読み込み設定し(ステップS4)、FB制御である場合は、データベースからFB制御情報を読み込み設定する(ステップS5)。
【0050】
そして、操作量変更量算出部224は、ブロワ140のブロワ回転数変更量(DRB)を例えば所定の経過時刻毎に算出する(ステップS6)。その際、操作量変更量算出部224は、製造命令情報、プロセス実績情報をデータベースから読み込む。
【0051】
次に、板温時間変化予測算出部226は、操作量変更量算出部224で算出されたブロワ140のブロワ回転数変更量と、処理炉体120内における熱収支モデルとから、ある時刻における処理炉体120出口におけるストリップ温度T2、及びハースロール130の温度を算出する(ステップS7)。板温時間変化予測算出部226は、ストリップ温度T2とハースロール130温度を例えば所定の経過時刻毎に算出しており、算出した温度の経過時刻が、所定のFB周期タイミングと一致するか、又は超過しているかを判断する(ステップS8)。
【0052】
経過時刻が所定のFB周期タイミングと一致せず、更に超過もしていない場合、即ち、FB周期タイミングに依然として到達していない場合、ステップS6に戻り、操作量変更量算出部224は、次の経過時刻におけるブロワ140のブロワ回転数変更量(DRB)を算出する。
【0053】
一方、経過時刻が所定のFB周期タイミングと一致したり、又は超過している場合、その経過時刻におけるストリップ温度T2とブロワ140の回転数Gを、それぞれFB周期タイミングにおけるストリップ温度T2(t)とブロワ140の回転数G(t)と決定する。そして、操作量変更量決定部228は、ストリップ温度T2(t)とブロワ140の回転数G(t)から、FB周期タイミングの評価関数Jsの評価値を算出し、その評価値をデータベースに保存する(ステップS9)。
【0054】
以降、FB周期タイミング毎に評価関数Jsの評価値がデータベースに保存される。そして、板温時間変化予測算出部226は、経過時刻が未来一定方向期間Nに到達しているかどうかを判断する(ステップS10)。そして、未来一定方向期間Nに到達するまで、評価関数Jsの評価値をFB周期タイミング毎にデータベースに格納する。一方、経過時刻が未来一定方向期間N以上となった場合、操作量変更量決定部228は、評価関数Jsの評価値が最小となるときのFFゲイン又はFBゲインを、実際にブロワ140を駆動するときのFFゲイン又はFBゲインとして決定する(ステップS11)。
【0055】
次に、図14を参照して、本実施形態に係るプロセスシミュレータ220が、FF/FBゲインテーブルのケースごとに評価関数の評価値を算出し、評価関数の最小値を算出する方法について説明する。図14は、本実施形態に係る評価関数の最小値を決定する方法を示すフロー図である。
【0056】
プロセスシミュレータ220の操作量変更量算出部224は、まずFF/FBゲインテーブルのケースi=1を設定する(ステップT1)。次に、操作量変更量算出部224は、FF/FBゲインテーブル記録部210からケースi=1の場合のFFゲイン又はFBゲインを読み込む(ステップT2)。なお、ステップT2は、上述したステップS2に対応する。そして、操作量変更量算出部224は、上述したステップS3〜ステップ8の過程を経て、ケースi=1の場合の評価関数Jsの評価値Js(1)をデータベースに格納する。
【0057】
そして、ケースi=1の場合、操作量変更量算出部224は、次に、FF/FBゲインテーブルのケースi=2(=1+1)を設定する(ステップT7)。そして、ケースi=2がFF/FBゲインテーブルに用意されたケースの最大のケース番号imaxよりも大きい場合は終了するが(if imax=1)、通常FF/FBゲインテーブルには複数のケースを用意するので、再びステップT2へ戻る。
【0058】
そして、ケースi=2の場合の評価関数Jsの評価値Js(2)をデータベースに格納し(ステップT3)、評価値Js(2)がデータベースに格納されている評価値の最小値Jsminに比べて小さいか否かを判断する(ステップT5)。Js(2)が評価値の最小値Jsminに比べて小さい場合、Js(2)をJsminと決定する(ステップT6)。なお、i=2のときのJsminは、Js(1)である。次に、操作量変更量算出部224は、FF/FBゲインテーブルのケースi=3(=2+1)を設定する(ステップT7)。一方、Js(2)が評価値の最小値Jsmin以上である場合は、評価値Jsminは変更されず、操作量変更量算出部224は、FF/FBゲインテーブルのケースi=3を設定する(ステップT7)。
【0059】
以上、ケース番号iが最大のケース番号imaxよりも大きくなるまで、ケースiの場合の評価関数Jsの評価値Js(i)をデータベースに格納し(ステップT3)、評価値Js(i)と、評価値の最小値Jsminとを比べて(ステップT5)、小さい値のほうをJsminと決定する(ステップT6)。そして、ケース番号iが最大のケース番号imaxよりも大きくなったときのJsminが、評価関数Jsの最小値として最終的に決定される。
【0060】
(その他の実施形態)
本発明のその他の実施形態に係る連続熱処理炉の板温制御装置を構成する各構成要素は、例えば、コンピュータを板温制御装置として機能させるコンピュータプログラムを実行するプロセッサと、上記のコンピュータプログラムを記録し、コンピュータによって読取り可能なRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、又はHDD(Hard Disk Drive)などの記憶デバイスなどを有するハードウェア資源で構成することができる。なお、各構成要素に独立したハードウェア資源を該当させる必要はない。また、各構成要素又は各構成要素の一部分を電子ネットワークで接続された別のハードウェア資源で構成するとしてもよい。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
例えば、上記実施形態では、板温調節部の例としてブロワの場合について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、板温調節部は、他の冷却装置も適用することができ、熱交換装置などの加熱装置などであってもよい。そして、連続熱処理炉は、金属板を冷却する冷却炉に限定されず、金属板を加熱する加熱炉であってもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、板温調節部の操作量は、ブロワ回転数であるとしたが、板温調節部として適用する冷却装置又は加熱装置に対応した操作量とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る連続熱処理炉を示す概略図である。
【図2】同実施形態に係る連続熱処理炉における板温制御装置を示すブロック図である。
【図3】同実施形態に係るブロワの回転数変更量を決定するFF/FBゲインテーブルを示す説明図である。
【図4】同実施形態に係るプロセスシミュレータを示すブロック図である。
【図5】同実施形態に係る連続熱処理炉内部のストリップが微小距離移動した場合の時間及び位置と、ストリップ温度との関係を示す概略図である。
【図6】同実施形態に係るストリップ温度とブロワの回転数との関係を示すグラフである。
【図7】同実施形態に係る連続熱処理炉内部のハースロール及びストリップの配置を示す側面図である。
【図8】同実施形態に係る連続熱処理炉内部、ハースロール及びストリップ間の熱伝導を示す模式図である。
【図9】同実施形態に係るストリップ温度とブロワの回転数の時間変化を示すグラフである。
【図10】同実施形態に係るストリップ温度とブロワの回転数の時間変化を示すグラフである。
【図11】同実施形態に係るストリップ温度とブロワの回転数の時間変化を示すグラフである。
【図12】同実施形態に係るブロワの回転数変更量を決定する制御ゲインテーブルを示す説明図である。
【図13】同実施形態に係るストリップ温度制御方法を示すフロー図である。
【図14】同実施形態に係る評価関数の最小値を決定する方法を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0065】
100 連続熱処理炉
110 ストリップ
120 処理炉体
130 ハースロール
140 ブロワ
200 板温制御装置
210 FF/FBゲインテーブル記録部
220 プロセスシミュレータ
222 ベース板温時間変化算出部
224 操作量変更量算出部
226 板温時間変化予測算出部
228 操作量変更量決定部
230 FFコントローラ
232 FBコントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状に接合部で連結した複数の金属板が通過し、処理炉体内に前記金属板の進行方向を変更させる円筒形状のハースロールと、前記金属板を加熱又は冷却する板温調節部とを備える連続熱処理炉における板温制御方法であって、
前記板温調節部の現状の操作量と、前記処理炉体内における熱収支モデルとから、該処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして所定期間算出するステップと、
前記算出された処理炉体出口の板温を目標板温に設定して、前記熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて、板温調節のための予め設定した制御のゲイン毎に前記板温調節部の操作量変更量を算出するステップと、
前記算出された前記操作量変更量と、前記処理炉体内における熱収支モデルとから、前記処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして、前記ゲイン毎に予測算出するステップと、
前記予測算出された処理炉出口板温と前記目標板温との温度差と、前記操作量変更量とに基づいて、前記ゲイン毎に算出された前記操作量変更量の中から最適な前記操作量変更量を決定するステップと、
を含むことを特徴とする、連続熱処理炉における板温制御方法。
【請求項2】
前記処理炉体内における熱収支モデルは、前記処理炉体を複数の空間に分割し、前記処理炉体内雰囲気と前記金属板との間の対流伝熱、及び前記ハースロールと前記金属板との間の伝導伝熱から前記複数の空間における前記金属板の板温を算出するモデルであることを特徴とする、請求項1記載の連続熱処理炉における板温制御方法。
【請求項3】
前記ゲインは、前記金属板の前記接合部が前記処理炉体入口又は出口を通過するとき前記操作量を制御するフィードフォワード制御のゲインと、前記フィードフォワード制御後、任意の時間間隔で前記操作量を制御するフィードバック制御のゲインとからなることを特徴とする、請求項1又は2記載の連続熱処理炉における板温制御方法。
【請求項4】
前記板温調節部の操作量変更量は、前記板温の実績値、前記目標板温、前記金属板の種類、板厚、板幅と、前記ゲインとから、前記熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて算出されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の連続熱処理炉における板温制御方法。
【請求項5】
前記最適な前記操作量変更量の決定は、前記温度差の二乗和と前記変更量の二乗和の合計値が最小となるときのゲインを採用して決定されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の連続熱処理炉における板温制御方法。
【請求項6】
帯状に接合部で連結した複数の金属板が通過し、処理炉体内に前記金属板の進行方向を変更させる円筒形状のハースロールと、前記金属板の板温を加熱又は冷却する板温調節部とを備える連続熱処理炉における板温制御装置であって、
前記板温調節部の現状の操作量と、前記処理炉体内における熱収支モデルとから、該処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして所定期間算出するベース板温時間変化算出部と、
前記ベース板温時間変化算出部で算出された処理炉体出口板温を目標板温に設定して、前記熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて、板温調節のための予め設定した制御のゲイン毎に前記板温調節部の操作量変更量を算出する操作量変更量算出部と、
前記操作量変更量算出部で算出された前記操作量変更量と、前記処理炉体内における熱収支モデルとから、前記処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして、前記ゲイン毎に予測算出する板温時間変化予測算出部と、
前記板温時間変化予測算出部で予測算出された処理炉体出口板温と前記目標板温との温度差と、前記操作量変更量をファクタとして、前記ゲイン毎に算出された前記操作量変更量の中から最適な前記操作量変更量を決定する操作量変更量決定部と、
を備えることを特徴とする、連続熱処理炉における板温制御装置。
【請求項7】
前記処理炉体内における熱収支モデルは、前記処理炉体を複数の空間に分割し、前記処理炉体内雰囲気と前記金属板との間の対流伝熱、及び前記ハースロールと前記金属板との間の伝導伝熱から前記複数の空間における前記金属板の板温を算出するモデルであることを特徴とする、請求項6記載の連続熱処理炉における板温制御装置。
【請求項8】
前記ゲインは、前記金属板の前記接合部が前記処理炉体入口又は出口を通過するとき前記操作量を制御するフィードフォワード制御のゲインと、前記フィードフォワード制御後、任意の時間間隔で前記操作量を制御するフィードバック制御のゲインとからなることを特徴とする、請求項6又は7記載の連続熱処理炉における板温制御装置。
【請求項9】
前記板温調節部の操作量変更量は、前記板温の実績値、前記目標板温、前記金属板の種類、板厚、板幅と、前記ゲインとから、前記熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて算出されることを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の連続熱処理炉における板温制御装置。
【請求項10】
前記最適な前記操作量変更量の決定は、前記温度差の二乗和と前記操作量変更量の二乗和の合計値が最小となるときのゲインを採用して決定されることを特徴とする、請求項6〜9のいずれかに記載の連続熱処理炉における板温制御装置。
【請求項11】
コンピュータを、請求項6〜10のいずれかに記載の連続熱処理炉における板温制御装置として機能させることを特徴とする、コンピュータプログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のコンピュータプログラムを記録したことを特徴とする、コンピュータ読取り可能な記録媒体。
【請求項1】
帯状に接合部で連結した複数の金属板が通過し、処理炉体内に前記金属板の進行方向を変更させる円筒形状のハースロールと、前記金属板を加熱又は冷却する板温調節部とを備える連続熱処理炉における板温制御方法であって、
前記板温調節部の現状の操作量と、前記処理炉体内における熱収支モデルとから、該処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして所定期間算出するステップと、
前記算出された処理炉体出口の板温を目標板温に設定して、前記熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて、板温調節のための予め設定した制御のゲイン毎に前記板温調節部の操作量変更量を算出するステップと、
前記算出された前記操作量変更量と、前記処理炉体内における熱収支モデルとから、前記処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして、前記ゲイン毎に予測算出するステップと、
前記予測算出された処理炉出口板温と前記目標板温との温度差と、前記操作量変更量とに基づいて、前記ゲイン毎に算出された前記操作量変更量の中から最適な前記操作量変更量を決定するステップと、
を含むことを特徴とする、連続熱処理炉における板温制御方法。
【請求項2】
前記処理炉体内における熱収支モデルは、前記処理炉体を複数の空間に分割し、前記処理炉体内雰囲気と前記金属板との間の対流伝熱、及び前記ハースロールと前記金属板との間の伝導伝熱から前記複数の空間における前記金属板の板温を算出するモデルであることを特徴とする、請求項1記載の連続熱処理炉における板温制御方法。
【請求項3】
前記ゲインは、前記金属板の前記接合部が前記処理炉体入口又は出口を通過するとき前記操作量を制御するフィードフォワード制御のゲインと、前記フィードフォワード制御後、任意の時間間隔で前記操作量を制御するフィードバック制御のゲインとからなることを特徴とする、請求項1又は2記載の連続熱処理炉における板温制御方法。
【請求項4】
前記板温調節部の操作量変更量は、前記板温の実績値、前記目標板温、前記金属板の種類、板厚、板幅と、前記ゲインとから、前記熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて算出されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の連続熱処理炉における板温制御方法。
【請求項5】
前記最適な前記操作量変更量の決定は、前記温度差の二乗和と前記変更量の二乗和の合計値が最小となるときのゲインを採用して決定されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の連続熱処理炉における板温制御方法。
【請求項6】
帯状に接合部で連結した複数の金属板が通過し、処理炉体内に前記金属板の進行方向を変更させる円筒形状のハースロールと、前記金属板の板温を加熱又は冷却する板温調節部とを備える連続熱処理炉における板温制御装置であって、
前記板温調節部の現状の操作量と、前記処理炉体内における熱収支モデルとから、該処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして所定期間算出するベース板温時間変化算出部と、
前記ベース板温時間変化算出部で算出された処理炉体出口板温を目標板温に設定して、前記熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて、板温調節のための予め設定した制御のゲイン毎に前記板温調節部の操作量変更量を算出する操作量変更量算出部と、
前記操作量変更量算出部で算出された前記操作量変更量と、前記処理炉体内における熱収支モデルとから、前記処理炉体出口における板温の変動をシミュレーションして、前記ゲイン毎に予測算出する板温時間変化予測算出部と、
前記板温時間変化予測算出部で予測算出された処理炉体出口板温と前記目標板温との温度差と、前記操作量変更量をファクタとして、前記ゲイン毎に算出された前記操作量変更量の中から最適な前記操作量変更量を決定する操作量変更量決定部と、
を備えることを特徴とする、連続熱処理炉における板温制御装置。
【請求項7】
前記処理炉体内における熱収支モデルは、前記処理炉体を複数の空間に分割し、前記処理炉体内雰囲気と前記金属板との間の対流伝熱、及び前記ハースロールと前記金属板との間の伝導伝熱から前記複数の空間における前記金属板の板温を算出するモデルであることを特徴とする、請求項6記載の連続熱処理炉における板温制御装置。
【請求項8】
前記ゲインは、前記金属板の前記接合部が前記処理炉体入口又は出口を通過するとき前記操作量を制御するフィードフォワード制御のゲインと、前記フィードフォワード制御後、任意の時間間隔で前記操作量を制御するフィードバック制御のゲインとからなることを特徴とする、請求項6又は7記載の連続熱処理炉における板温制御装置。
【請求項9】
前記板温調節部の操作量変更量は、前記板温の実績値、前記目標板温、前記金属板の種類、板厚、板幅と、前記ゲインとから、前記熱収支モデルにて導出された熱伝達係数の変化を表す所定の関係式を用いて算出されることを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の連続熱処理炉における板温制御装置。
【請求項10】
前記最適な前記操作量変更量の決定は、前記温度差の二乗和と前記操作量変更量の二乗和の合計値が最小となるときのゲインを採用して決定されることを特徴とする、請求項6〜9のいずれかに記載の連続熱処理炉における板温制御装置。
【請求項11】
コンピュータを、請求項6〜10のいずれかに記載の連続熱処理炉における板温制御装置として機能させることを特徴とする、コンピュータプログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のコンピュータプログラムを記録したことを特徴とする、コンピュータ読取り可能な記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−266715(P2008−266715A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110798(P2007−110798)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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