説明

運転席用エアバッグ

【課題】乗員に対する安全性を向上させた運転席用エアバッグを提供する。
【解決手段】車両室内のインストルメントパネル104の上面内部に設置された運転席用エアバッグ100において、ガスが供給されるとステアリングホイール108の上端を乗り越えるように膨張展開するガス流路部130と、ガス流路部130を介してガスが供給されると、ステアリングホイール108と運転席との間に下方に向かって膨張展開し、運転席側の外表面に、乗員と接触するための乗員接触面142を有する乗員保護部140と、を有し、乗員保護部140は、その内部に設置され、一端を乗員接触面142に、他端をステアリングホイール側の外表面を構成する後面に縫い付けられ、膨張展開後の乗員接触面142に凹凸を形成する凹凸形成部166を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に衝撃が発生した時に膨張展開することで運転席の乗員を保護する運転席用エアバッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、衝突事故等の衝撃から運転席の乗員を保護するための運転席用エアバッグは、ステアリングホイールの中央内部に設置されていた。ステアリングホイールは、運転席の乗員からみて前方向の最も近くに位置し、ここにエアバッグを設置すれば迅速に乗員を保護可能だからである。かかる運転席用エアバッグによって、運転席の乗員は、衝突事故(主に前面衝突)の衝撃によってステアリングホイールへ激突したり、フロントガラスへ向かって飛び出したりすることから保護されていた。
【0003】
運転席用エアバッグは、センサによって衝撃を感知し、インフレータの火薬を爆発させ、生じた気体を内部に取り込むことで、膨張展開して乗員を受け止めている。このように、衝撃発生時に乗員を瞬時に保護できる運転席用エアバッグであるが、乗員に向かって爆発的に膨張展開して接触するため、接触した乗員(特に、頭部等の突出した部位)を却って負傷させてしまうことが懸念されていた。
【0004】
上記の問題を解決するために、例えば特許文献1には、ステアリングホイールに取り付けられるエアバッグ装置において、エアバッグ膨張時に、上方に開放する上部開放片と、左右に開放する開放小片とを形成する展開ラインを有するエアバッグカバーを備えたエアバッグ装置が開示されている。このエアバッグ装置によれば、乗員の首や顎等(頭部)に近い上部開放片の開放に先立って、開放小片が左右に開放してエアバッグの圧力を逃がすことで、安全性を高める(加害性を減らす)ことができるとされている。
【0005】
また、例えば特許文献2には、インストルメントパネル(インパネ)の背後に収納され、ステアリングホイールを乗り越え、ステアリングホイールと運転者との間にもぐり込むように展開するエアバッグを備えたエアバッグ装置が開示されている。さらに、特許文献3にはインパネに収納され、ステアリングホイールの上方を越えて展開することを補助するサブエアバッグを備えた運転席用エアバッグ装置が開示されている。
【0006】
特許文献2および特許文献3によれば、エアバッグがステアリングホイールと乗員との間にもぐり込むように展開するため、ステアリングホイールから直接乗員に向かって展開するエアバッグと比較すると、乗員に与える衝撃は軽減されると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−001402号公報
【特許文献2】特開平9−011837号公報
【特許文献3】特開2007−131056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載のようなエアバッグ装置では、膨張展開するエアバッグ自体による頭部への加害性を減らすことは可能であると思われるが、展開ラインに沿って開裂したエアバッグカバーの開放片によって乗員がいかなる作用を受けるかについては開示されていない。また、開放片はヒンジ部を中心に開口するとされているが、ヒンジ部は展開ラインと同じく、その部分の肉厚を薄くすることによって形成されているため、エアバッグの圧力によってヒンジ部も裂けて開放片が飛散するおそれがある。
【0009】
特許文献2および特許文献3に記載のようなエアバッグ装置では、乗員に与える衝撃は軽減されると考えられるものの、これはエアバッグの出現方向の変化に起因するものである。これら従来技術では、エアバッグと乗員とが直接どのように接触し、その接触によって乗員がいかなる作用を受けるかについては言及されていない。本来、特許文献2および特許文献3にてインパネ内部にエアバッグを設置した目的は、ステアリングホイールの操舵性の向上や、エアバッグの設置空間の確保である。このように、特許文献2および特許文献3では、エアバッグが乗員に対して与える衝撃の軽減までは考慮していない。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑み、乗員に対する安全性を向上させた運転席用エアバッグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここで発明者らは、エアバッグの安全性の向上を図り得る手段について検討し、エアバッグへ乗員が接触した際に、エアバッグに偏った荷重(偏荷重)が発生していることに着目した。そして、この偏荷重を分散させることが、乗員の身体の一部に衝撃が集中することを防ぎ、負傷の発生を回避できると考えた。
【0012】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明にかかる運転席用エアバッグの代表的な構成は、車両室内のインストルメントパネルの上面内部に設置された運転席用エアバッグにおいて、ガスが供給されるとステアリングホイールの上端を乗り越えるように膨張展開するガス流路部と、ガス流路部を介してガスが供給されると、ステアリングホイールと運転席との間に下方に向かって膨張展開し、運転席側の外表面に、乗員と接触するための乗員接触面を有する乗員保護部と、を有し、乗員保護部は、その内部に設置され、一端を乗員接触面に、他端をステアリングホイール側の外表面を構成する後面に縫い付けられ、膨張展開後の乗員接触面に凹凸を形成する凹凸形成部を含むことを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、乗員接触面に凹凸を形成することで、運転席用エアバッグに乗員の身体の各部が接触する時間差を短縮し、接触時に乗員に与える衝撃を、特定の部位に集中させることなく分散させることができる。すなわち、乗員の身体に同時に接触する面積が広くなり、偏荷重の発生を防ぐことができ、乗員に対する安全性を向上させた運転席用エアバッグを提供することが可能となる。
【0014】
凹凸形成部は、一端から他端までの長さ、および設置位置を変更することで、凹凸の厚みおよび形成位置を調節可能であるとよい。
【0015】
例えば、インストルメントパネルが車両内の側壁面へ向かって湾曲したデザインの車種において、運転席用エアバッグは、乗員に対して傾斜した状態で設置される場合がある。しかし、このような場合であっても、本発明によれば、凹凸形成部の長さおよび設置位置を変更し、乗員接触面の凹凸を乗員に正対するように調節することで、運転席用エアバッグの安全性の向上を図ることができる。
【0016】
凹凸形成部は、乗員保護部の左右方向の中央に配置され、乗員接触面には、膨張展開後に、凹凸形成部によって凹形状となって乗員の頭部を拘束する頭部拘束部と、頭部拘束部の左右両側において凸形状となって乗員の肩部を拘束する肩部拘束部とが形成されるとよい。
【0017】
通常、乗員の身体は、身体のなかでも重量が大きく、前方に突出している頭部(特に顔面)から先にエアバッグに接触する。膨張したエアバッグの外表面は相当に緊張しているため、乗員は頭部を負傷しやすい。しかし、本発明による運転席用エアバッグは、乗員の頭部を凹形状の頭部拘束部によって受け止め、乗員の肩部を凸形状の肩部拘束部によって受け止めている。これらにより、運転席用エアバッグに頭部が接触する時点と、胸部や肩部が接触する時点とで生じる時間差を短縮し、接触時に乗員に与える衝撃を、頭部のように突出した部位に集中させることなく分散させることができる。したがって、運転席用エアバッグの安全性の向上をさらに図ることが可能となる。
【0018】
乗員接触面には、膨張展開後に、頭部拘束部よりも下部に、凹凸形成部がなく凸形状となって乗員の胸部を拘束する胸部拘束部がさらに形成されてもよい。かかる構成によれば、胸部拘束部によって乗員の身体との接触面積がさらに拡大し、運転席用エアバッグの安全性をさらに向上させることが可能となる。
【0019】
本発明による運転席用エアバッグは、膨張展開後において上に凸の湾曲形状であって、ガス流路部から乗員保護部にかけての左右側壁を構成する湾曲形状の側面布部材をさらに有し、側面布部材は、後面布部材との縫い位置を運転席エアバッグの外側に有するとよい。
【0020】
通常のエアバッグは、内部に流入したガスによって膨張するため、必然的に袋状の構成(袋体)を採用している。袋体の外表面は、乗員と接触する部分であり乗員に対する危険防止のため、基布同士の縫い位置(縫代)が袋体の内側に位置するように縫製されていることが好ましい。ここで、本発明による運転席用エアバッグは、上に凸の湾曲形状の袋体として構成することで、ステアリングホイールを乗り越えての膨張展開を可能にしている。しかし、すべての基布同士の縫代が袋体の内側に位置するようにして、湾曲形状の運転席用エアバッグを縫製することは容易ではない。そこで、縫代のうち、乗員と接触する可能性の無い側面布部材と後面布部材との縫代を運転席用エアバッグの外側に位置させるように構成することで、乗員への危険防止を考慮した湾曲形状の運転席用エアバッグを容易に縫製可能にしている。
【0021】
側面布部材は、ガスを排出することで運転席用エアバッグの内圧を制御可能な側面排気口を有するとよい。ガスの流入による圧力を利用して瞬時に膨張展開するエアバッグであっても、過剰な圧力の発生は、外表面の緊張を必要以上に強くし、接触時に乗員へ与える衝撃を増大させてしまう。しかし、上記構成によれば、乗員との接触時に側面排気口によりガスを排出することで、外表面に適度な柔軟性を持たせることができ、運転席用エアバッグの安全性を向上させることが可能となる。
【0022】
本発明による運転席用エアバッグは、運転席用エアバッグの湾曲形状の内縁にそって縫い付けて設置されることで、上に凸の湾曲形状を維持させるように運転席用エアバッグを膨張展開させる外部形状維持部をさらに有してもよい。
【0023】
上記構成によれば、外部形状維持部によって、本発明による運転席用エアバッグは確実に上に凸の湾曲形状に膨張展開することができる。これにより、インストルメントパネルの上面内部に設置されても、ステアリングホイールと運転席の間に確実に膨張展開することが可能となる。
【0024】
本発明によるエアバッグは、乗員保護部のステアリングホイール側において、ステアリングホイールのステアリングリムの内側に合致し得る形状の補助膨張室をさらに備えてもよい。
【0025】
上記構成によれば、本発明による運転席用エアバッグは、乗員との接触時に乗員から強い荷重を受けても、補助膨張室を備えることによって、ステアリングホイールと乗員との間からずれることがない。したがって、運転席用エアバッグの安全性をさらに向上させることができる。
【0026】
本発明による運転席用エアバッグは、インストルメントパネルの上面内部に設置され、運転席エアバッグを収納するハウジングをさらに備え、ハウジングは、ヒンジによって車両前方向から後方向に向かって回動する蓋部を有し、蓋部は、蓋部におけるヒンジと反対側の端部が、ステアリングホイールの上端近傍に位置した状態で回動を停止可能であり、蓋部は、回動を停止した状態になることで、膨張展開途中のエアバッグがステアリングホイールに干渉することを防止可能であるとよい。
【0027】
上記構成によれば、インストルメントパネルとステアリングホイールの間隙に、膨張展開途中の運転席用エアバッグが入り込むことを防止できる。よって、本発明による運転席用エアバッグは、ステアリングホイールの上端を確実に乗り越えて、ステアリングホイールと乗員との間に確実に膨張展開することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、乗員に対する安全性を向上させた運転席用エアバッグを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1実施形態にかかる運転席用エアバッグの車両室内における設置位置を例示する図である。
【図2】図1の運転席用エアバッグの展開動作を説明する図である。
【図3】図1の運転席用エアバッグを説明する斜視図である。
【図4】図1の運転席用エアバッグのC-C断面図である。
【図5】第2実施形態にかかる運転席用エアバッグを説明するための図である。
【図6】第3実施形態にかかる運転席用エアバッグを説明するための図である。
【図7】第1〜第3実施形態に共通したその他の効果を説明する図である。
【図8】第1〜第3実施形態に共通したその他の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0031】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかる運転席用エアバッグ100の車両室内における設置位置を例示する図である。図1に例示するように、本実施形態にかかる運転席用エアバッグ100(以下、単に「エアバッグ100」と記載する)は、車両102のインストルメントパネル(インパネ104)の上面内部に設置される。
【0032】
エアバッグ100は、例えば、その表面を構成する基布を表裏で縫製したり、OPW(One-Piece Woven)を用いて紡織したりすることによって、上に凸の湾曲形状の袋体として形成される。
【0033】
車両102に衝突事故等によって衝撃が発生すると、まず車両102に備えられたセンサ(図示省略)がその衝撃を感知し、センサからインフレータ106へ発火信号が発信される。そして、インフレータ106の火薬が爆発し、発生したガスがエアバッグ100へ供給される。ガスが供給されたエアバッグ100は、膨張展開を開始し、ステアリングホイール108の上端を乗り越え、ステアリングホイール108と運転席112の乗員114との間に上に凸の湾曲形状となって膨張展開する。そして、乗員114を、ステアリングホイール108へ激突したり、フロントガラス110へ向かって飛び出したりすることから保護している。
【0034】
図2は、図1の運転席用エアバッグの展開動作を説明する図である。図2では、蓋部122をインパネ104の上面部分と一体として簡潔に図示しているが、蓋部122は、インパネ104の上面部分とは別個に構成してもよい。
【0035】
図2(a)に例示するように、本実施形態にかかるエアバッグ100は、ハウジング120を備えている。ハウジング120は樹脂製であり、インパネ104の上面内部に設置され、エアバッグ100を収納する。ハウジング100の底面内部にはインフレータ106(ディスク型インフレータ)が設置されていて、エアバッグ100にガスを供給可能にしている。
【0036】
図2(a)に例示するように、ハウジング120は、上面に蓋部122を有している。蓋部122は、ヒンジ124を有していて、車両102の前方向から後方向に回動して開口することができる。
【0037】
図2(b)に例示するように、膨張展開を開始したエアバッグ100からの圧力を利用して回動する。このとき、蓋部122が障壁となって、膨張展開途中のエアバッグ100は、インパネ104とステアリングホイール108との間隙に進入することができない。
【0038】
図2(c)に例示するように、蓋部122の回動は、蓋部122のヒンジと反対側の端部がステアリングホイール108の上端近傍に位置した状態で停止する。これは蓋部122とハウジング120の上面とが干渉してそれ以上蓋部122が回動しないためである。蓋部122のヒンジと反対側の端部がステアリングホイール108の上端と干渉することによって蓋部122の回動を停止させてもよい。
【0039】
このように、蓋部122は、インパネ104とステアリングホイール108との間隙を蓋い、エアバッグ100がステアリングホイール108に干渉することを防止している。このように、ハウジング120の蓋部122によって、エアバッグ100は、ステアリングホイール108の上端を確実に乗り越えて膨張展開することができる。
【0040】
図3は、図1の運転席用エアバッグ100を説明する斜視図である。図3に例示するように、エアバッグ100は、ガス流路部130と、乗員保護部140と、側面排気口150とを備える。乗員保護部140は乗員接触面142を有する。
【0041】
ガス流路部130は、インフレータ106(図1)から供給されたガスを乗員保護部140へ流通させる流路である。ガス流路部130には、車両前方向に、インフレータ106と接続する接続部132が設けられている。接続部132は、固定孔134、ガス受給口136を有している。固定孔134は、ボルト等を挿通させてエアバッグ100をハウジング120の底面に固定させ、ガス受給口136は、インフレータ106と接続してガスの供給を受ける。
【0042】
ガス流路部130は、インフレータ106からガスが供給されると、ステアリングホイール108の上端を乗り越えるように膨張展開する。インフレータ106からのガスの供給は、インフレータ106の火薬の爆発によって行われる。したがって、ガス流路部130へは相当な圧力がかかるが、ガス流路部130へ多重縫製、コーティング、および高密度生地の使用等による補強手段およびガス漏洩防止手段を施すことで、ガス流路部130の破損やガス漏洩は防止できる。
【0043】
乗員保護部140は、衝突事故等の発生時に乗員114(図1)を受け止めて保護する部分である。乗員保護部140は、ガス流路部130を介してガスを受け取ると、ステアリングホイール108と運転席112との間に下方に向かって膨張展開する。
【0044】
乗員保護部140は、運転席112側の外表面に、乗員114と接触する乗員接触面142を有している。乗員接触面142には凹凸が形成されているため、エアバッグ100と乗員114の身体とが接触する面積が拡大している。これにより、乗員接触面142は、乗員114の身体の一部に衝撃が集中すること(偏荷重の発生)を防いでいる。
【0045】
本実施形態においては、乗員接触面142の凹凸は、頭部拘束部144、肩部拘束部146、胸部拘束部148として形成されている。
【0046】
頭部拘束部144は、乗員接触面142の凹形状の部分であり、乗員114の頭部を拘束する(受け止める)部分である。通常、乗員114の身体は、身体のなかでも重量が大きく、前方に突出している頭部(特に顔面)から先にエアバッグに接触する。膨張したエアバッグの外表面は相当に緊張しているため、乗員114は頭部を負傷しやすい。しかし、本実施形態にかかるエアバッグ100は、乗員114の頭部を凹形状の頭部拘束部144によって受け止めることで、頭部に与える衝撃を分散させ、加害性を低減させている。
【0047】
肩部拘束部146は、頭部拘束部144の左右両側において凸形状となる部分であり、乗員114の肩部を受け止める部分である。肩部拘束部146によって、接触時に乗員114に与える衝撃を頭部のように突出した部分に集中させることなく分散させ、好適に受け止めることができる。
【0048】
胸部拘束部148は、乗員接触面142において頭部拘束部144よりも下部に位置し、凸形状となって乗員114の胸部を拘束する部分である。胸部拘束部148によって、エアバッグ100と乗員114の身体との接触面積はさらに拡大するため、乗員114に与える衝撃をさらに分散させることができる。
【0049】
このように乗員接触面142は、エアバッグ100に乗員114の頭部が接触する時点と、胸部や肩部が接触する時点とで生じる時間差の短縮を可能にしている。したがって、乗員接触面142は、接触時に乗員114に与える衝撃を、頭部のように突出した部位に集中させることなく分散させることができる。すなわち、乗員114の身体に同時に接触する面積が広くなり、偏荷重の発生を防ぐことができ、乗員114に対する安全性を向上させている。
【0050】
側面排気口150は、エアバッグ100の左右側面に設置され、エアバッグ100内の圧力上昇を感知して開口し、ガスを排出する(ベントホール)。側面排気口150は、エアバッグ100内のガスを排出することで、エアバッグ100内の圧力を制御することができる。エアバッグ100は、ガスの流入による圧力を利用して瞬時に膨張展開することができるが、過剰な圧力の発生は、外表面の緊張を必要以上に強くし、接触時に乗員114へ与える衝撃を増大させてしまう。しかし、側面排気口150によって、エアバッグ100と乗員114との接触時にガスを排出することができるため、外表面に適度な柔軟性を持たせることができる。これによって、エアバッグ100の安全性を向上させることが可能となる。
【0051】
なお、エアバッグ100は、排気口として、側面に設けられる側面排気口150ではなく、ステアリングホイール108側(後面)に設けられる後面排気口を備えてもよい。後面排気口であれば、排気するガスを乗員114に吹き付けてしまうおそれがないため、好適である。
【0052】
図4は、図1の運転席用エアバッグ100のC-C断面図である。図4に例示するように、エアバッグ100は、前面布部材160、後面布部材162、側面布部材164、凹凸形成部166を含んでいる。
【0053】
前面布部材160は、乗員保護部140における運転席112側の外表面である乗員接触面142を構成する。前面布部材160は、乗員114(図1)との接触時における危険防止のため、基布同士の縫い位置(縫代)、例えば側面布部材164との縫代である縫製部170がエアバッグ100の内側に位置するように縫製されている。
【0054】
後面布部材162は、乗員保護部140におけるステアリングホイール108側の外表面である後面を構成する。
【0055】
側面布部材164は、湾曲形状であって、ガス流路部130から乗員保護部140にかけての左右側壁を構成する。側面布部材164には、上述した側面排気口150が設置されている。
【0056】
側面布部材164は、前面布部材160との縫製部170をエアバッグ100の内側に有しているが、後面布部材162との縫製部172はエアバッグ100の外側に有している。通常のエアバッグでは、外表面は乗員114と接触する部分であり、乗員114に対する危険防止のため、縫代がエアバッグの内側に位置するように縫製されていることが好ましい。しかし、本実施形態にかかるエアバッグ100は、上に凸の湾曲形状の袋体として構成されていて、すべての縫製部がエアバッグ100の内側に位置するように縫製することは容易ではない。そこで、縫製部のうち、乗員114と接触する可能性の無い縫製部172をエアバッグ100の外側に位置させることで、乗員114への危険防止を考慮した湾曲形状のエアバッグ100を容易に縫製可能にしている。
【0057】
凹凸形成部166は、乗員接触面142に凹凸を形成する。凹凸形成部166は布で構成されていて、乗員保護部140の内部であって、乗員保護部140の左右方向の中央に配置されている。凹凸形成部166は、一端が前面布部材160に縫製部174として、他端が後面布部材162に縫製部176として縫い付けられている。凹凸形成部166が縫い付けられていることによって、前面布部材160の一部(乗員接触面142の一部)は一定の厚み以上には膨張できないため、乗員接触面142に凹凸(頭部拘束部144および肩部拘束部146)が形成できる。凹凸形成部166は、乗員接触面142と後面とに縫い付けられることで、縫い付けられた部分の膨張を制限し、周囲に比較して凹形状とするものである。乗員接触面142の凸形状は、凹凸形成部166が縫い付けられる部分以外の、膨張が制限されていない領域に、おのずと形成される。なお、胸部拘束部148は、頭部拘束部144の下部の前面布部材160が、凹凸形成部166が設置されずに凸形状となった部分として形成されている。
【0058】
凹凸形成部166は、一端から他端まで(縫製部174から縫製部176まで)の長さ、および設置位置を変更することで、乗員接触面142に形成される凹凸としての頭部拘束部等の厚みおよび形成位置を調節できる。例えば、インパネ104が車両内の側壁面へ向かって湾曲したデザインの車種において、エアバッグ100は、乗員114に対して傾斜した状態で設置される場合がある。しかし、このような場合であっても、本実施形態にかかるエアバッグ100によれば、凹凸形成部166の長さおよび設置位置を変更することで、乗員接触面142の頭部拘束部等が乗員114に正対するように調節可能である。これによって、エアバッグ100の安全性の向上を図ることができる。
【0059】
本実施形態にかかるエアバッグ100は、上述したように乗員接触面142に頭部拘束部144、肩部拘束部146、胸部拘束部148を形成させることで、乗員114に与える衝撃を分散させることができるため、安全性が向上している。なお、エアバッグ100は、胸部拘束部148を設けない構成とすることもできる。エアバッグ100は、一般的な運転席用エアバッグと同様に、シートベルト(図示省略)との併用を前提としている。乗員114の胸部は、既設のシートベルトによってステアリングホイール108への激突から保護されているため、エアバッグ100は、胸部拘束部148を省略した自由な形状としても安全性が低下することはない。
【0060】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態にかかる運転席用エアバッグ200を説明するための図である。第2実施形態にかかる運転席用エアバッグ200(以下、単に「エアバッグ200」と記載する)は、外部形状維持部210を備える点において、第1実施形態にかかるエアバッグ100と異なる。なお、第1実施形態と機能および構成が同様の要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
外部形状維持部210は、略半円状の布であり、エアバッグ200の湾曲形状の内縁に沿って左右両側に対称的に縫い付けて設置される(図5では手前側の外部形状維持部210のみ見えている)。外部形状維持部210は、エアバッグ200に対して上に凸の湾曲形状を維持させるようにして膨張展開させることができる。これにより、エアバッグ200は、インパネ104の上面内部に設置されていても、ステアリングホイール108を乗り越え、ステアリングホイール108と運転席112(図1)の間に確実に膨張展開して、乗員114(図1)を保護することが可能となる。なお、外部形状維持部210は、湾曲形状の内縁であれば、側面布部材164と後面布部材162のどちらに縫い付けても同様の効果を発揮し得る。
【0062】
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態にかかる運転席用エアバッグ300を説明するための図である。第3実施形態にかかる運転席用エアバッグ300(以下、単に「エアバッグ300」と記載する)は、補助膨張室310を備える点において、第1実施形態にかかるエアバッグ100と異なる。なお、第1実施形態と機能および構成が同様の要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0063】
補助膨張室310は、ステアリングホイール108の窪み(ステアリングリムの内側)に合致し得る形状であって、乗員保護部140におけるステアリングホイール108側に設置される。補助膨張室310がステアリングリムの内側に嵌まり込むように膨張展開することで、本実施形態にかかるエアバッグ300は、乗員114(図1)との接触時に乗員114から強い荷重を受けても、ステアリングホイール108と乗員114との間からずれることがない。したがって、運転席用エアバッグの安全性をさらに向上させることができる。
【0064】
補助膨張室310には、補助排気口312が備えられている。補助排気口312は、エ補助膨張室310内の圧力上昇を感知して開口し、ガスを排出する(ベントホール)。補助排気口312は、補助膨張室310内のガスを排出することで内圧を下げることができる。補助排気口312によって補助膨張室310の柔軟性が確保されるため、エアバッグ300は、補助膨張室310を背面に備えることで、正面から接触した乗員114をより柔軟に受け止めることができる。また、補助膨張室310には、乗員保護部140と連絡するための連通口314が設けられている。連通口314および補助排気口312は、ガスの通過に伴う負荷がかかりやすいため、多重縫製等の補強処理を施すと好適である。
【0065】
(その他の効果)
図7および図8は、上記の第1〜第3実施形態に共通したその他の効果を説明する図である。図7(a)では従来の運転席用エアバッグ10を例示し、図7(b)では上記の実施形態の運転席用エアバッグの代表として、第1の実施形態のエアバッグ100を例示する。図7および図8は、停車している車両を例示している。また、運転席付近にいるが運転席112(図1)には正しく着座していない乗員(正規外着座条件の乗員)として、6歳児相当の幼児180を例示している。
【0066】
図7(a)に例示するように、車両20には、ステアリングホイール108の中央に設置された従来の運転席用エアバッグ10(以下、単に「エアバッグ10」と記載する)が備えられている。運転席付近に幼児180がいる状態において、車両20に備えられたセンサ(図示省略)が幼児180のいたずら等に誤って反応してしまう場合がある。そのような場合、エアバッグ10は、ステアリングホイール30から幼児180に向かって直線的に膨張展開して接触することになる。幼児180は、成人より身体が小さいため、接触時の衝撃による影響を受けやすい。
【0067】
図7(b)に例示するように、本発明の各実施形態によれば、センサが不測の衝撃を感知したとしても、エアバッグ100は、ハウジング120からフロントガラス110の方向へ膨張し、次に運転席方向へ向かって膨張した後、下方へ向かって膨張して幼児180と接触する。このように、エアバッグ100は、膨張展開初期の爆発的な圧力を幼児180に対して直線的に与えないため、幼児180に与える衝撃が従来のエアバッグ10よりも低減している。
【0068】
図8に例示するように、幼児180がステアリングホイールに近接して位置していた場合、エアバッグ100は、上方から幼児180に接触することで、幼児180の背後に向かって展開することも起り得る。しかし、本発明の実施形態であるエアバッグ100は、このように展開しても、幼児180に与える衝撃は、幼児180に向かって直線的に膨張展開する従来のエアバック10のそれよりも小さい。このように、上記の実施形態にかかるエアバッグ100は、幼児180(正規外着座条件の乗員)に対する安全性が向上している。
【0069】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0070】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0071】
また、上記実施形態においては本発明にかかる運転席用エアバッグを自動車に適用した例を説明したが、自動車以外にも航空機や船舶などに適用することも可能であり、同様の作用効果を得ることができる。
【0072】
さらに、本発明にかかる運転席用エアバッグは、運転席以外であっても、設置位置付近に障害物が存在する場合等において有効に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、車両に衝撃が発生した時に膨張展開することで運転席の乗員を保護する運転席用エアバッグに利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 …エアバッグ
100 …エアバッグ
102 …車両
106 …インフレータ
110 …フロントガラス
112 …運転席
114 …乗員
120 …ハウジング
122 …蓋部
124 …ヒンジ
130 …ガス流路部
132 …接続部
134 …固定孔
136 …ガス受給口
140 …乗員保護部
142 …乗員接触面
144 …頭部拘束部
146 …肩部拘束部
148 …胸部拘束部
150 …側面排気口
160 …前面布部材
162 …後面布部材
164 …側面布部材
166 …凹凸形成部
170 …縫製部
172 …縫製部
174 …縫製部
180 …幼児
200 …エアバッグ
210 …外部形状維持部
300 …エアバッグ
310 …補助膨張室
312 …補助排気口
314 …連通口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両室内のインストルメントパネルの上面内部に設置された運転席用エアバッグにおいて、
ガスが供給されるとステアリングホイールの上端を乗り越えるように膨張展開するガス流路部と、
前記ガス流路部を介してガスが供給されると、前記ステアリングホイールと運転席との間に下方に向かって膨張展開し、該運転席側の外表面に、乗員と接触するための乗員接触面を有する乗員保護部と、
を有し、
前記乗員保護部は、その内部に設置され、一端を前記乗員接触面に、他端を前記ステアリングホイール側の外表面を構成する後面に縫い付けられ、膨張展開後の前記乗員接触面に凹凸を形成する凹凸形成部を含むことを特徴とする運転席用エアバッグ。
【請求項2】
前記凹凸形成部は、前記一端から前記他端までの長さ、および設置位置を変更することで、前記凹凸の厚みおよび形成位置を調節可能であることを特徴とする請求項1に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項3】
前記凹凸形成部は、前記乗員保護部の左右方向の中央に配置され、
前記乗員接触面には、膨張展開後に、前記凹凸形成部によって凹形状となって乗員の頭部を拘束する頭部拘束部と、該頭部拘束部の左右両側において凸形状となって乗員の肩部を拘束する肩部拘束部とが形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項4】
前記乗員接触面には、膨張展開後に、前記頭部拘束部よりも下部に、前記凹凸形成部がなく凸形状となって前記乗員の胸部を拘束する胸部拘束部がさらに形成されることを特徴とする請求項3に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項5】
当該運転席用エアバッグは、膨張展開後において上に凸の湾曲形状であって、前記ガス流路部から前記乗員保護部にかけての左右側壁を構成する湾曲形状の側面布部材をさらに有し、
前記側面布部材は、前記後面布部材との縫い位置を当該運転席用エアバッグの外側に有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項6】
前記側面布部材は、前記ガスを排出することで当該運転席用エアバッグの内圧を制御可能な側面排気口を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項7】
当該運転席用エアバッグは、当該運転席用エアバッグの湾曲形状の内縁に沿って縫い付けて設置されることで、上に凸の湾曲形状を維持させるように該エアバッグを膨張展開させる外部形状維持部をさらに有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項8】
当該運転席用エアバッグは、前記乗員保護部の前記ステアリングホイール側において、該ステアリングホイールのステアリングリムの内側に合致し得る形状の補助膨張室をさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項9】
当該運転席用エアバッグは、前記インストルメントパネルの上面内部に設置され、当該運転席用エアバッグを収納するハウジングをさらに備え、
前記ハウジングは、ヒンジによって車両前方向から後方向に向かって回動する蓋部を有し、
前記蓋部は、該蓋部における前記ヒンジと反対側の端部が、前記ステアリングホイールの上端近傍に位置した状態で回動を停止可能であり、
前記蓋部は、前記回動を停止した状態になることで、膨張展開途中の前記エアバッグが前記ステアリングホイールに干渉することを防止可能であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−37398(P2011−37398A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188789(P2009−188789)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
【Fターム(参考)】