説明

運転支援装置及び運転支援方法

【課題】ドライバーの煩わしさの低減を図ることができる運転支援装置及び運転支援方法を提供する。
【解決手段】
本発明に係る運転支援装置1は、所定の調整判定時間τより計測時間が短いときには、支援判定部18がリスクマップ作成部14によって算出された第1のリスク度をより低いリスク度である第2のリスク度に調整し、支援判定部18が、その第2のリスク度に応じて運転支援の内容を決定する。そのため、ドライバーがリスク対象を注視してから早期に回避操作を行った場合、運転支援のレベルを低下させることができ、ドライバーに対して過度の運転支援をする事態が抑制され、その結果、運転支援の際のドライバーの煩わしさが効果的に低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバーの運転を支援する運転支援装置及び運転支援方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野における技術文献として、特開2007−133692号公報が知られている。この公報には、ドライバーが安全確認の際に注意すべき領域(注意必要領域)とドライバーが現に注意している領域(注意領域)とを比較し、注意領域が注意必要領域をカバーしていないと判定した場合に、ドライバーへの警報や衝突回避等の運転支援を実行する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−133692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、上述した注意領域と注意必要領域との比較等により、ドライバーが衝突対象物を実際に注視したと判定した際の運転支援について研究を重ね、ドライバーの煩わしさを低減することができる技術を新たに見いだした。
【0005】
つまり、本発明は、ドライバーの煩わしさの低減を図ることができる運転支援装置及び運転支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る運転支援装置は、車両の運転者に対して車両周辺のリスク対象を回避するための運転支援を行う運転支援装置であって、リスク対象を検出するリスク対象検出手段と、リスク対象検出手段によって検出されたリスク対象を、運転者が注視したことを検出する注視検出手段と、運転者の運転操作を検出する運転操作検出手段と、リスク対象検出手段及び運転操作検出手段の検出結果に基づいて、運転者がリスク対象に対するリスク回避操作を行ったことを検出する回避操作判定手段と、注視検出手段によって運転手の注視が検出された時点から、回避操作判定手段によって運転者によるリスク回避操作が行われた時点までの時間を計測する回避操作時間計測手段と、リスク対象検出手段が検出したリスク対象の、車両に対する第1のリスク度を算出するリスク度算出手段と、回避操作時間計測手段によって計測された計測時間と、所定の調整判定時間とを比較し、且つ、計測時間が調整判定時間より短いと判定したときに、リスク度算出手段によって算出された第1のリスク度をより低いリスク度である第2のリスク度に調整するリスク度調整手段と、運転支援の内容を決定する支援内容決定手段であって、回避操作時間計測手段によって計測時間が調整判定時間より長いと判定されたときには、リスク度算出手段によって算出された第1のリスク度に応じて、運転支援の内容を決定し、回避操作時間計測手段によって計測時間が調整判定時間より短いと判定されたときには、リスク度調整手段によって調整された第2のリスク度に応じて、運転支援の内容を決定する支援内容決定手段と、を備える。
【0007】
この運転支援装置においては、所定の調整判定時間より計測時間が短いときには、リスク度調整手段がリスク度算出手段によって算出された第1のリスク度をより低いリスク度である第2のリスク度に調整し、支援内容決定手段が、その第2のリスク度に応じて運転支援の内容を決定する。そのため、運転者がリスク対象を注視してから早期に回避操作を行った場合、運転支援のレベルを低下させることができ、運転者に対して過度の運転支援をする事態が抑制され、その結果、運転支援の際の運転者の煩わしさが効果的に低減される。
【0008】
また、リスク度調整手段は、車両がリスク対象に到達するまでの時間の短さに応じて、調整判定時間を短縮し、その短縮された調整判定時間と計測時間とを比較する態様であってもよい。この場合、リスク度調整手段において、危険のレベルに応じた適切なリスク度調整を行うことができる。
【0009】
本発明に係る運転支援方法は、車両の運転者に対して車両周辺のリスク対象を回避するための運転支援を行う運転支援方法であって、リスク対象を検出するリスク対象検出ステップと、リスク対象検出ステップにおいて検出されたリスク対象を、運転者が注視したことを検出する注視検出ステップと、運転者の運転操作を検出する運転操作検出ステップと、リスク対象検出ステップ及び運転操作検出ステップの検出結果に基づいて、運転者がリスク対象に対するリスク回避操作を行ったことを検出する回避操作判定ステップと、注視検出ステップにおいて運転手の注視が検出された時点から、回避操作判定ステップにおいて運転者によるリスク回避操作が行われた時点までの時間を計測する回避操作時間計測ステップと、リスク対象検出ステップが検出したリスク対象の、車両に対する第1のリスク度を算出するリスク度算出ステップと、回避操作時間計測ステップによって計測された計測時間と、所定の調整判定時間とを比較し、且つ、計測時間が調整判定時間より短いと判定したときに、リスク度算出手段において算出された第1のリスク度をより低いリスク度である第2のリスク度に調整するリスク度調整ステップと、運転支援の内容を決定する支援内容決定ステップであって、回避操作時間計測ステップにおいて計測時間が調整判定時間より長いと判定されたときには、リスク度算出ステップにおいて算出された第1のリスク度に応じて、運転支援の内容を決定し、回避操作時間計測ステップにおいて計測時間が調整判定時間より短いと判定されたときには、リスク度調整ステップにおいて調整された第2のリスク度に応じて、運転支援の内容を決定する支援内容決定ステップと、を備える。
【0010】
この運転支援方法においては、所定の調整判定時間より計測時間が短いときには、リスク度調整手段がリスク度算出ステップによって算出された第1のリスク度をより低いリスク度である第2のリスク度に調整し、支援内容決定ステップにおいて、その第2のリスク度に応じた運転支援の内容を決定する。そのため、運転者がリスク対象を注視してから早期に回避操作を行った場合、運転支援のレベルを低下させることができ、運転者に対して過度の運転支援をする事態が抑制され、その結果、運転支援の際の運転者の煩わしさが効果的に低減される。
【0011】
また、リスク度調整ステップでは、車両がリスク対象に到達するまでの時間の短さに応じて、調整判定時間を短縮し、その短縮された調整判定時間と計測時間とを比較する態様であってもよい。この場合、リスク度調整ステップにおいて、危険のレベルに応じた適切なリスク度調整を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ドライバーの煩わしさの低減を図ることができる運転支援装置及び運転支援方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、車両が衝突するまでに提供される運転支援の内容について示した図である。
【図2】図2は、情報提供段階における運転支援について示した図である。
【図3】図3は、回避誘導段階における運転支援について示した図である。
【図4】図4は、回避制御段階における運転支援について示した図である。
【図5】図5は、リスク対象との衝突を回避するまでのドライバーの状態について示した図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態に係る運転支援装置の概略構成図である。
【図7】図7は、図6に示した運転支援装置の各機能を示した図である。
【図8】図8は、図6の運転支援装置が運転支援の内容を決定する際に利用する支援形態マップを示した図である。
【図9】図9は、本実施形態におけるリスク度R0〜R3の想定シーンを示した図である。
【図10】図10は、図6の運転支援装置を用いて運転支援を行う処理手順を示したフローチャートである。
【図11】図11は、本実施形態における調整判定時間と衝突余裕時間との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0015】
本発明の実施形態の説明に先立ち、運転支援装置が提供する各種運転支援の内容について、図1〜4を参照しつつ説明する。
【0016】
図1に示すとおり、運転支援装置が提供する運転支援には、車両が衝突するまでの時間に応じて、(a)情報提供段階、(b)回避誘導段階、(c)回避制御段階があり、各段階において所定の運転支援が行われる。以下、これらの運転支援の内容について説明する。
(a)情報提供段階
【0017】
情報提供段階では、衝突までの予測時間が比較的長く(たとえば4.0秒)、運転支援装置は、運転手自らの判断で危険から遠ざかる運転をしてもらうことを目的とした運転支援を行う。すなわち、図2に示すように、前方に存在する衝突可能性のある物体(リスク対象)を、レーダやカメラにより検知して、その存在をドライバーに報知する。図2に示した態様では、車両前方に、路側物B1、先行車B2、歩行者B3が存在している。すなわち、ドライバーには、3つのリスク対象B1、B2、B3が報知される。
(b)回避誘導段階
【0018】
回避誘導段階では、衝突までの予測時間が短く(たとえば2.5秒)、運転支援装置は、ドライバー自らの回避操作を誘うことを目的とした運転支援を行う。すなわち、図3に示すように、リスク対象の情報に基づいて衝突リスクを演算し、衝突リスク対象B2の最も小さいエリアから、自車の推奨進路D及び最適車速を生成する。これら「推奨進路」と「最適車速」とを合わせて「目標経路」と定義される。その目標経路に対して、自車の実際の経路に所定値以上の乖離があった場合には、目標経路に近づけるように操舵方向を誘導するための運転支援(たとえば、単発ステアトルクの入力や緩減速制御)を行う。
(c)回避制御段階
【0019】
回避制御段階では、衝突までの予測時間が極めて短く(たとえば、1.0秒)、運転支援装置は、ドライバーの運転操作に介入して衝突を回避することを目的とした運転支援を行う。すなわち、図4(b)に示すように、リスク対象Bとの衝突を回避するために、運転支援装置が、減速(ブレーキ)及び軌道変更(ステア)の介入制御(ステア・ブレーキ協調制御)を行う。なお、従来はブレーキ制御のみが行われていた(図4(a)参照)。
【0020】
ここで、車両前方に、衝突する可能性のあるリスク対象が存在する場合に、そのリスク対象との衝突を回避するまでのドライバーの状態について、図5を参照しつつ説明する。
【0021】
リスク対象との衝突を回避するためには、ドライバーはまず、そのリスク対象を見る必要がある。そして、リスク対象を見たときには、そのリスク対象との衝突可能性を認識し、危険を感知する必要がある。さらに、危険を感知したときには、実際に回避操作を行って、対処しなければならない。
【0022】
つまり、ドライバーは、リスク対象を見て、危険を感知して、対処することで、リスク対象との衝突という危険を回避する。
【0023】
続いて、実施形態に係る運転支援装置1について、図6を参照しつつ説明する。この運転支援装置1は、自車のドライバーに対して車両周辺のリスク対象を回避するための運転支援を行う装置であり、車両走行時のリスクとなる障害物(リスク対象)を検出し、検出した障害物と車両とが衝突するまでの衝突余裕時間(TTC[Time To Collision])に応じた運転支援をドライバーに提供するものである。
【0024】
運転支援装置1は、演算処理を行うCPU[Central Processing Unit]、記憶部となるROM[Read Only Memory]及びRAM[Random Access Memory]、入力信号回路、出力信号回路、電源回路等により構成され、装置を統括的に制御する運転支援ECU[Electric Control Unit]2を有している。運転支援ECU2は、ドライバー状態検出部(注視検出手段)3、白線検出部4、障害物検出部(リスク対象検出手段)5、運転操作検出部(運転操作検出手段)6、車速センサ7、ヨーレートセンサ8のそれぞれと電気的に接続されている。さらに、運転支援ECU2は、HMI[Human Machine Interface]9、車両制御部10のそれぞれと電気的に接続されている。
【0025】
ドライバー状態検出部3は、ドライバーの視線を検出するカメラを備えており、後述する障害物検出部5によって検出された障害物を、ドライバーが注視したことを検出する部分である。ドライバー状態検出部3は、ドライバーによる障害物の注視を検出すると、その検出結果を運転支援ECU2に送信する。
【0026】
白線検出部4は、車両前方の白線の位置を認識するためのカメラを備えており、その光軸方向が車両の進行方向と一致するように車両の前方に取り付けられる。白線検出部4のカメラは、走行している道路を十分に撮像可能な左右方向に広い撮像範囲を有している。白線検出部4は、撮像した車両前方の画像及びこの画像から認識した白線の位置を白線認識情報として運転支援ECU2に送信する。
【0027】
障害物検出部5は、電波を利用して車両周辺の障害物を検出するためのレーダを備えており、そのレーダは、車両前方に延びる扇状の検出範囲を有する前方レーダと、前方レーダの検出範囲より近距離で広角な扇状の検出範囲を有する前側方広角近距離レーダとで構成されている(図7(a)参照)。障害物検出部5は、検出した障害物の位置や大きさ等を障害物情報として運転支援ECU2に送信する。
【0028】
運転操作検出部6は、ドライバーによる車両の運転操作を検出するセンサである。運転操作検出部6は、例えば操舵角センサ、アクセルペダルセンサ、ブレーキペダルセンサ、及び方向指示操作検出センサ等により構成される。運転操作検出部6は、検出したドライバーの運転操作を運転操作情報として運転支援ECU2に送信する。
【0029】
車速センサ7は、車両の車速を検出するセンサである。車速センサ7は、例えば車輪に取り付けられ、車輪の回転速度から車速を検出する。車速センサ7は、検出した車速を車速情報として運転支援ECU2に送信する。ヨーレートセンサ8は、車両のヨーレートを検出するセンサである。ヨーレートセンサ8は、例えば車体に取り付けられている。ヨーレートセンサ8は、検出した車両のヨーレートをヨーレート情報として運転支援ECU2に送信する。
【0030】
HMI9は、装置とドライバーとの間において情報をやり取りするためのインターフェイスである。HMI9は、ドライバーに情報提供するためのディスプレイパネル及びスピーカを備えている。HMI9は、運転支援ECU2から情報提供指令が送信された場合、運転支援としてドライバーに対する情報提供を行う。
【0031】
車両制御部10は、運転支援ECU2から送信された各種指令に応じて車両を制御する部分である。車両制御部10は、運転支援ECU2から回避誘導指令が送信された場合、ドライバーに対する回避誘導を実施する。回避誘導とは、車両が障害物を回避する方向に車両のハンドル、ブレーキペダル、及びアクセルペダルを駆動させることで、ドライバーの回避運転を誘導する運転支援である。回避誘導時におけるハンドル等の駆動は、車両の走行に影響させない。また、車両制御部10は、運転支援ECU2から回避制御指令が送信された場合、車両の回避制御を行う。回避制御とは、車両制御部10が運転に介入して車両を強制的に停止又は進路変更させる運転支援である。
【0032】
運転支援ECU2は、逸脱余裕時間演算部12、衝突余裕時間演算部13、及びリスクマップ作成部(リスク度算出手段)14を有している。さらに、運転支援ECU2は、警報タイミング演算部15、車両制御目標値演算部16、車両制御量演算部17、支援判定部(回避操作判定手段、回避操作時間計測手段、リスク度調整手段、支援内容決定手段)18を有している。
【0033】
逸脱余裕時間演算部12は、各種情報に基づいて、走行中の車両が白線から逸脱するまでの時間である逸脱余裕時間を算出する。逸脱余裕時間演算部12は、白線検出部4から送信された白線認識情報、運転操作検出部6から送信された運転操作情報、車速センサ7から送信された車速情報、及びヨーレートセンサ8から送信されたヨーレート情報に基づいて、公知の方法により逸脱余裕時間を算出する。逸脱余裕時間演算部12は、算出した逸脱余裕時間を逸脱余裕時間情報としてリスクマップ作成部14に送信する。
【0034】
衝突余裕時間演算部13は、各種情報に基づいて、走行中の車両が障害物に衝突するまでの時間である衝突余裕時間(すなわち、TTC)を算出する。衝突余裕時間演算部13は、障害物検出部5から送信された障害物情報、運転操作検出部6から送信された運転操作情報、車速センサ7から送信された車速情報、及びヨーレートセンサ8から送信されたヨーレート情報に基づいて、公知の方法によりTTCを算出する。衝突余裕時間演算部13は、算出したTTCをTTC情報としてリスクマップ作成部14に送信する。
【0035】
リスクマップ作成部14は、逸脱余裕時間演算部12から送信された逸脱余裕時間情報、衝突余裕時間演算部13から送信されたTTC情報、運転操作検出部6から送信された運転操作情報、車速センサ7から送信された車速情報、及びヨーレートセンサ8から送信されたヨーレート情報に基づいて、リスクマップを作成する。
【0036】
図7(b)に示すように、リスクマップは、各障害物(柱L、対向車両N、及び先行車両M)と衝突するリスクが高くなる領域を楕円状の衝突リスク領域として表し、これらの衝突リスク領域を避けた車両の推奨進路を生成するためのマップである。衝突リスク領域は、各障害物に対するTTCから算出されたリスク度に応じて設定されている。リスク度は、衝突リスクを示す指標であり、TTCが小さいほどすなわち車両が障害物と衝突するまでの時間が少ないほど高くなる。
【0037】
衝突リスク領域は、リスク度に応じた複数の階層から構成されている。例えば電柱Lの衝突リスク領域は、低リスク度領域A、中リスク度領域B、及び高リスク度領域Cの3つの階層から構成されている。理解を容易にするためTTCを用いて各階層の区分を例示すると、低リスク度領域AはTTCが4.0秒以下の領域、中リスク度領域BはTTCが2.5秒以下の領域、高リスク度領域CはTTCが1.4秒以下の領域として設定される。なお、移動可能な対向車両等においては、衝突リスク領域は低リスク度領域A及び中リスク度領域Bから構成されている。これらの領域に車両が入り込んだ場合には、領域毎に異なる内容の運転支援が行われる。
【0038】
リスクマップ作成部14は、作成したリスクマップに基づいて、車両の推奨進路に関する演算処理を行い、推奨進路を走行する際の最適車速情報を生成する。リスクマップ作成部14は、生成した推奨進路情報及び最適車速情報を車両制御に用いる目標経路情報として車両制御目標値演算部16に送信する。また、リスクマップ作成部14は、作成したリスクマップをリスクマップ情報として警報タイミング演算部15及び車両制御目標値演算部16に送信する。
【0039】
図1に示すように、警報タイミング演算部15は、各種情報に基づいて、運転支援の一つである情報提供に関する演算を行う。具体的には、警報タイミング演算部15は、リスクマップ作成部14から送信されたリスクマップ情報、白線検出部4から送信された白線認識情報、及び障害物検出部5から送信された障害物情報に基づいて、情報提供としてHMI9のディスプレイパネルに表示する画像情報及びスピーカから出力する警報情報を生成する。警報タイミング演算部15は、生成した画像情報及び警報情報を支援判定部18に送信する。
【0040】
車両制御目標値演算部16は、リスクマップ作成部14から送信されたリスクマップ情報及び目標経路情報に基づいて、運転支援である回避誘導及び回避制御に関する制御目標値を定める。車両制御目標値演算部16は、回避誘導における制御目標値、すなわちドライバーを誘導するための車両のハンドル、ブレーキペダル、及びアクセルペダルの駆動量及び駆動方向を算出する。
【0041】
また、車両制御目標値演算部16は、リスクマップ作成部14から送信されたリスクマップ情報及び目標経路情報に基づいて、回避制御における制御目標値、すなわち運転に介入する際の操舵制御、制動制御、及び加速制御の各目標値を算出する。車両制御目標値演算部16は、算出した回避誘導における制御目標値及び回避制御における制御目標値を制御目標値情報として支援判定部18に送信する。また、車両制御目標値演算部16は、リスクマップ作成部14から送信された目標経路情報を支援判定部18に送信する。
【0042】
支援判定部18は、各種情報に基づいて、運転支援の内容及び実行タイミングを判断する。運転支援の内容としては、支援度の異なる情報提供(注意喚起や警報)、回避誘導(ドライバー誘導)、回避制御(介入制御)がある。情報提供は、ドライバーに対する支援度が最も低く、HMI9を通じてドライバーに障害物への注意を促す。回避誘導は、ドライバーに対する支援度が情報提供の次に低く、車両が障害物を回避する方向に車両のハンドル、ブレーキペダル、及びアクセルペダルを駆動させることで、ドライバーの回避運転を誘導する。回避制御は、ドライバーに対する支援度が最も高く、運転に介入して車両を強制的に停止又は進路変更させる。
【0043】
支援判定部18は、運転支援の内容を判定する際、図8に示すような支援形態マップを利用する。この支援形態マップには、TTCの判定条件として、T1(2.5〜3.5秒)、T2(1.8〜2.5秒)、T3(〜1.8秒)が設定されており、推定危険度(リスク度)の判定条件として、R0〜R3が設定されている。
【0044】
ここで、リスク度R0〜R3の想定シーンについて、図9を参照しつつ説明する。図9に示すシーンでは、歩行者がリスク対象の障害物である。
【0045】
図9(a)に示すリスク度R0では、歩行者は、自車の進路上に侵入しておらず、且つ、進路上に侵入できる交通ルールもない状況である。
【0046】
図9(b)に示すリスク度R1では、歩行者は、自車の進路上に侵入していないが、進路上に侵入できる交通ルール(横断歩道)がある状況である。
【0047】
図9(c)に示すリスク度R2では、歩行者は、自車の進路上に侵入していないが、進路上に侵入できる交通ルール(横断歩道)がある状況であり、しかも、他の障害物(他車)との関係から進路上に侵入する可能性が高い状況である。
【0048】
図9(d)に示すリスク度R3では、歩行者は、自車の進路上に侵入している状況、若しくは、まさに侵入しようとしている状況である。
【0049】
運転支援装置1は、各種センサを利用してリスク対象の状況を把握するとともに、運転支援ECU2において判定をおこない、上記リスク度R0〜R3の中から1つのリスク度(第1のリスク度)を決定する。
【0050】
支援判定部18は、リスク対象のTTCとリスク度とから、図8の支援形態マップを参照して、運転支援の内容を決定する。
【0051】
また、支援判定部18は、回避操作判定手段として機能し、運転操作検出部6から提供された運転操作情報に基づいて、ドライバーがリスク回避操作を行ったか否かを判定する。このリスク回避操作には、認識時操作と回避時操作とが含まれる。
【0052】
認識時操作とは、ドライバーが衝突のおそれがあると認識した障害物から車両を遠ざけようとする操作である。支援判定部18は、ドライバーがアクセル操作、ブレーキ操作、ハンドル操作のうち少なくとも一つの操作を所定の操作量以上行った場合に、認識時操作を行ったと判定する。なお、認識時操作には、踏み込んでいたアクセルペダルを放す操作も含まれる。また、操作量自体が所定の操作量に満たない場合であっても、ペダル操作による車両の加速度変化が所定値以上の場合や白線を跨いでレーンチェンジを行った場合には認識時操作が行われたと判定するようにしてもよい。
【0053】
回避時操作は、認識時操作と比べてより明確に障害物を避けようとする操作である。回避時操作が行われたか否かの判定は、認識時操作の場合と同様に行われる。回避時操作が行われたか否かの判定は、上述の他、車速が0になった場合、車両の進行方向が障害物から明らかに逸れた場合等に回避時操作が行われたと判定してもよい。支援判定部18は、障害物毎にドライバーがリスク回避操作(すなわち、認識時操作や回避時操作)を行ったか否かの判定結果を記憶する。
【0054】
ここで、上述したドライバー状態検出部3ではドライバーによる障害物の注視までは検出できるものの、障害物への注意意識の有無が明確にはわからない。そこで、支援判定部18が、ドライバーによるリスク回避操作の有無を確認することにより、ドライバーに障害物への注意意識が有ることが確認される。
【0055】
さらに、支援判定部18は、回避操作時間計測手段として機能し、ドライバー状態検出部3によってドライバーが障害物を注視したことを検出してからの時間を計測しており、そのドライバーの注視タイミングから、上記リスク回避操作のタイミングまでの時間計測を行う。
【0056】
支援判定部18は、リスク度調整手段として機能し、上記計測時間と所定の調整判定時間とを比較する。そして、計測時間が調整判定時間より短いと判定したときには、前述したリスク度(第1のリスク度)をより低いリスク度である第2のリスク度に調整する。たとえば、リスク対象の状況から第1のリスク度がR3と判定されているときに、より低いリスク度R2に調整する。なお、支援判定部18は、計測時間が調整判定時間より長いと判定したときには、上記リスク度の調整は行わない。
【0057】
支援判定部18は、支援内容決定手段として機能し、計測時間が調整判定時間より短いときには、調整された第2のリスク度を用いて、運転支援の内容を決定する。一方、計測時間が調整判定時間より長いときには、第1のリスク度を用いて、運転支援の内容を決定する。
【0058】
支援判定部18は、支援内容を情報提供として運転支援を行う必要があると判断した場合、警報タイミング演算部15で生成された画像情報及び警報情報を含む情報提供指令をHMI9に送信する。支援判定部18は、支援内容を回避誘導に変更して運転支援を行う必要があると判断した場合、車両制御目標値演算部16で生成された制御目標値情報を含む回避誘導指令を車両制御部10に送信する。また、支援判定部18は、支援内容を回避制御に変更して運転支援を行う必要があると判断した場合、車両制御部10に回避制御指令を送信する。
【0059】
続いて、上述した運転支援装置を用いて運転支援を行う処理手順について、図10を参照しつつ説明する。
【0060】
まず、運転支援ECU2が、各種センサ類4〜8を通じて各種情報を取得する。そして、得られた情報に基づいて、衝突危険性のあるリスク対象に対し、衝突余裕時間TTCとリスク度Rとを付与する(ステップS10)。
【0061】
次に、ドライバー状態検出部3により、ドライバーの視線を検出し(ステップS11)、さらに、ドライバーがリスク対象である障害物を確認したか否かを判定する(ステップS12)。このステップS12において、ドライバーが障害物を確認したと判定された場合には、次のステップS13に進み、確認したと判定されなかった場合には、後述するステップS16に進む。
【0062】
ステップS13では、ステップS10において付与されたTTCに応じた調整判定時間τを決定する。
【0063】
続くステップS14では、ドライバーによるリスク回避操作(たとえばブレーキ操作)が、リスク対象をドライバーが注視したタイミングから、上記調整判定時間τ以内に行われたか否かを判定する。このステップS14において、リスク回避操作が調整判定時間τ以内に行われたと判定された場合には、次のステップS15に進み、行われたと判定されなかった場合には、後述するステップS16に進む。
【0064】
ステップS15では、ステップS10において付与されたリスク度を、1ランクダウン(たとえば、R3→R2)するリスク度調整を行う。
【0065】
そして、ステップS16では、衝突余裕時間TTCとリスク度Rとに基づいて、上述した運転支援マップに従う運転支援が決定され、その内容での運転支援が実施される。
【0066】
以上説明した運転支援装置1による運転支援方法によれば、ドライバーが障害物を注視して確認したタイミングからリスク回避操作をするまでの時間(計測時間)が、所定の調整判定時間τより短いときには、リスク対象の状況から決定された第1のリスク度が、よりリスク度の低い第2のリスク度に調整され、その第2のリスク度に対応する内容の運転支援が行われる。そのため、ドライバーがリスク対象を注視してから早期に回避操作を行った場合、運転支援のレベルを低下させることができ、ドライバーに対して過度の運転支援をする事態が抑制され、その結果、運転支援の際のドライバーの煩わしさが効果的に低減されることとなる。
【0067】
なお、調整判定時間τは、リスク対象の衝突余裕時間TTCの短さに応じて短縮して、その短縮された調整判定時間と計測時間とを比較してもよい。たとえば、図11に示すグラフのように、衝突余裕時間TTCが短いほど、調整判定時間τを短くする。この場合には、危険のレベルに応じた適切なリスク度調整を行うことができる。
【0068】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、車両と衝突する可能性のある障害物をリスク対象として説明したが、リスク対象は障害物に限られず、例えば車道付近の溝や道路の凹みをリスク対象として本発明を適用してもよい。
【0069】
また、ドライバーが障害物を認識していると判断された場合の運転支援の内容の変更は、支援中止という内容に変更する場合に限られず、運転支援の内容を支援度の低い内容に変更、例えば運転に介入する回避制御から運転に介入しない回避誘導に運転支援の内容を変更することでドライバーの煩わしさの低減を図る態様であってもよい。ここで、運転支援の内容を支援度の低い内容に変更することには、元の情報提供と比べてスピーカの出力がより小さい情報提供に変更することや、元の回避誘導と比べてハンドル等の駆動がより小さな回避誘導に変更することが含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1…運転支援装置、2…運転支援ECU、3…ドライバー状態検出部、5…障害物検出部、6…運転操作検出部、9…HMI、10…車両制御部、13…衝突余裕時間演算部、14…リスクマップ作成部、18…支援判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者に対して前記車両周辺のリスク対象を回避するための運転支援を行う運転支援装置であって、
前記リスク対象を検出するリスク対象検出手段と、
前記リスク対象検出手段によって検出された前記リスク対象を、前記運転者が注視したことを検出する注視検出手段と、
前記運転者の運転操作を検出する運転操作検出手段と、
前記リスク対象検出手段及び前記運転操作検出手段の検出結果に基づいて、前記運転者が前記リスク対象に対するリスク回避操作を行ったことを検出する回避操作判定手段と、
前記注視検出手段によって運転手の注視が検出された時点から、前記回避操作判定手段によって前記運転者による前記リスク回避操作が行われた時点までの時間を計測する回避操作時間計測手段と、
前記リスク対象検出手段が検出した前記リスク対象の、前記車両に対する第1のリスク度を算出するリスク度算出手段と、
前記回避操作時間計測手段によって計測された計測時間と、所定の調整判定時間とを比較し、且つ、前記計測時間が前記調整判定時間より短いと判定したときに、前記リスク度算出手段によって算出された前記第1のリスク度をより低いリスク度である第2のリスク度に調整するリスク度調整手段と、
前記運転支援の内容を決定する支援内容決定手段であって、前記回避操作時間計測手段によって前記計測時間が前記調整判定時間より長いと判定されたときには、前記リスク度算出手段によって算出された前記第1のリスク度に応じて、前記運転支援の内容を決定し、前記回避操作時間計測手段によって前記計測時間が前記調整判定時間より短いと判定されたときには、前記リスク度調整手段によって調整された前記第2のリスク度に応じて、前記運転支援の内容を決定する支援内容決定手段と、
を備える、運転支援装置。
【請求項2】
前記リスク度調整手段は、前記車両が前記リスク対象に到達するまでの時間の短さに応じて、前記調整判定時間を短縮し、その短縮された調整判定時間と前記計測時間とを比較する、請求項1記載の運転支援装置。
【請求項3】
車両の運転者に対して前記車両周辺のリスク対象を回避するための運転支援を行う運転支援方法であって、
前記リスク対象を検出するリスク対象検出ステップと、
前記リスク対象検出ステップにおいて検出された前記リスク対象を、前記運転者が注視したことを検出する注視検出ステップと、
前記運転者の運転操作を検出する運転操作検出ステップと、
前記リスク対象検出ステップ及び前記運転操作検出ステップの検出結果に基づいて、前記運転者が前記リスク対象に対するリスク回避操作を行ったことを検出する回避操作判定ステップと、
前記注視検出ステップにおいて運転手の注視が検出された時点から、前記回避操作判定ステップにおいて前記運転者による前記リスク回避操作が行われた時点までの時間を計測する回避操作時間計測ステップと、
前記リスク対象検出ステップが検出した前記リスク対象の、前記車両に対する第1のリスク度を算出するリスク度算出ステップと、
前記回避操作時間計測ステップによって計測された計測時間と、所定の調整判定時間とを比較し、且つ、前記計測時間が前記調整判定時間より短いと判定したときに、前記リスク度算出手段において算出された前記第1のリスク度をより低いリスク度である第2のリスク度に調整するリスク度調整ステップと、
前記運転支援の内容を決定する支援内容決定ステップであって、前記回避操作時間計測ステップにおいて前記計測時間が前記調整判定時間より長いと判定されたときには、前記リスク度算出ステップにおいて算出された前記第1のリスク度に応じて、前記運転支援の内容を決定し、前記回避操作時間計測ステップにおいて前記計測時間が前記調整判定時間より短いと判定されたときには、前記リスク度調整ステップにおいて調整された前記第2のリスク度に応じて、前記運転支援の内容を決定する支援内容決定ステップと、
を備える、運転支援方法。
【請求項4】
前記リスク度調整ステップでは、前記車両が前記リスク対象に到達するまでの時間の短さに応じて、前記調整判定時間を短縮し、その短縮された調整判定時間と前記計測時間とを比較する、請求項3記載の運転支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−210098(P2011−210098A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78670(P2010−78670)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】