説明

運転診断装置、及びプログラム

【課題】運転診断装置において、惰力走行を行っている自動車が加速と減速とを連続して実行する状況下での停止所要時間の計測精度を向上させること。
【解決手段】アクセルがオフ状態とされることにより、燃料カットが実行されて惰力走行による減速を開始すると(t11)、アクセルがオフ状態となってからの経過時間の計測を開始する。走行速度Vが停止前速度V1以下となると(t12)、当該経過時間の計測を継続しつつ、その時点(t12)での経過時間T1を記憶部に記憶する。下り坂を走行し終えて(t15)減速することで、走行速度Vが停止前速度V1以下となると(t16)、経過時間の計測を継続しつつ、その時点(t16)での経過時間T2を記憶部に記憶(更新)する。走行速度Vが停止速度V0となると(t17)、経過時間の計測を終了すると共に、記憶部に記憶されている経過時間T2を停止所要時間として決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車において、自車両の減速時に燃料カットが実行されている時間長を計測する運転診断装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車では、アクセルをオフ状態として走行する場合、内燃機関の単位時間当たりの回転数(以下、エンジン回転数とする)が高ければ、内燃機関への燃料供給を停止し、エンジン回転数が低くなると、内燃機関をアイドリング状態に維持するために必要な量の燃料供給を行う燃料カットが行われている。
【0003】
そして、自動車を減速させる際に、アクセルをオフ状態として燃料カットを実行することにより慣性で走行する惰力走行の時間長(以下、停止所要時間とする)に基づいて、省燃費運転の程度を診断する技術(以下、運転診断技術とする)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この種の運転診断技術の中には、自車両の走行速度が設定速度未満となると、自車両の走行速度が設定速度未満である期間中は、該期間の起点である設定速度未満となってからの経過時間を計測する技術がある(特願2009−058108)。この技術では、計測した経過時間のうち、アクセル開度がゼロである状態にて走行している(即ち、アクセルがオフ状態である)期間を、停止所要時間としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−337229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動車の使用状況として、アクセルをオフ状態として減速を開始してから、停止目標位置にて自車両を停止させるまでの間に下り坂を含む道路を、アクセルをオン状態とすることなく自車両が走行する状況が考えられる。
【0007】
このような状況下において、従来の運転診断技術では、図6に示すように、アクセルをオフ状態(即ち、アクセル開度をゼロ)として減速を開始(t21)した後、自車両の走行速度が設定速度V2未満となると(t22)、経過時間T1の計測を開始する。そして、自車両が走行する道路が下り坂となり(t23)、自車両が加速して走行速度が設定速度V2を超える(t24)と、従来の運転診断技術では、経過時間(図6中、T1)の計測を終了する。その後、下り坂を走行し終え、減速を再開して、自車両の走行速度が設定速度V2未満となると(t25)、経過時間(図6中、T2)の計測を新たに開始し、その経過時間T2の計測を自車両が停止する(t26)まで続行する。
【0008】
つまり、従来の運転診断技術では、惰力走行中に自動車が加速と減速とを連続して実行する状況下において、惰力走行を連続して実行しているにも拘わらず、複数の停止所要時間を計測してしまい、停止所要時間の計測精度、ひいては、省燃費運転の程度の診断精度が低下するという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、運転診断装置において、惰力走行を行っている自動車に加速と減速とが連続して生じる状況下での停止所要時間の計測精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明は、アクセルがオフ状態である場合に、内燃機関の単位時間当たりの回転数が、予め設定された燃料カット回転数よりも高ければ、該内燃機関への燃料供給を停止し、単位時間当たりの回転数が、燃料カット回転数よりも小さい設定回転数以下であれば、該内燃機関への燃料供給を開始する燃料カットを実行する自動車に搭載される運転診断装置に関する。
【0011】
その本発明の運転診断装置では、アクセル操作検出手段が、自車両のアクセルの操作状態を検出し、速度取得手段が、自車両が移動する速度を表す走行速度を取得する。
そして、アクセル操作検出手段での検出の結果、アクセルがオフ状態であれば、時間計測手段が、アクセルが該オフ状態となってからの経過時間を計測し、速度取得手段にて取得した走行速度が、設定回転数の内燃機関にて発生する駆動力により走行可能な自車両の速度(以下、停止前速度とする)以下であれば、時間記憶手段が、走行速度が停止前速度以下となった時点で時間計測手段により計測された経過時間を、記憶部に記憶する。
【0012】
さらに、速度取得手段にて取得した走行速度が、停止前速度よりも低い速度として予め規定された停止速度以下であれば、時間決定手段が、記憶部に記憶されている経過時間を、燃料カットが実行されることにより惰力で走行する惰力走行の時間長である停止所要時間として決定する。
【0013】
ただし、本発明における時間計測手段は、アクセルがオフ状態であれば、走行速度が停止速度となるまで、経過時間の計測を継続して実行する。
したがって、本発明の運転診断装置によれば、アクセルがオフ状態となることにより燃料カットが開始されてから、燃料カットが解除されて燃料供給が再開される時点までの連続する時間長を、停止所要時間とすることができる。ただし、ここでの燃料カットが解除されて燃料供給が再開とは、自車両の走行速度が、停止速度となる直前に停止前速度となった時点における燃料供給の再開のことである。
【0014】
この結果、本発明の運転診断装置によれば、惰力走行を行っている自動車に加速と減速とが連続して生じる状況下であっても、停止所要時間の計測精度を向上させることができる。
【0015】
なお、本発明において、燃料カット回転数は、燃料カットを実行する契機として予め設定された単位時間当たりの回転数である。さらに、設定回転数は、燃料カット回転数よりも小さい単位時間当たりの回転数であり、例えば、内燃機関をアイドリング状態に維持するために必要な単位時間当たりの回転数として設定されていることが好ましい。また、本発明における停止速度は、停止前速度よりも低い速度であり、例えば、自車両が停止しているとみなせる速度として予め規定されていても良い。
【0016】
ここで、図5は、アクセルをオフ状態として減速を開始してから、停止目標位置にて自車両を停止させるまでの間に下り坂を含む道路を、アクセルをオン状態とすることなく自車両が走行する状況下における自車両の走行速度の推移を示した図である。
【0017】
このような状況下において、本発明の運転診断装置では、アクセルがオフ状態とされることにより、燃料カットが実行されて惰力走行による減速を開始すると(t11)、経過時間の計測を開始する。そして、自車両の走行速度が停止前速度V1以下となると(t12)、その時点(t12)での経過時間(図5中、T1)を記憶部に記憶すると共に、当該経過時間の計測を継続する。
【0018】
その後、自車両が下り坂を走行し終えた後(t15)に、減速を再開して、再び、自車両の走行速度が停止前速度V1以下となると(t16)、その時点(t16)での経過時間(図5中、T2)を記憶部に記憶(更新)すると共に、経過時間の計測を継続する。そして、自車両の走行速度が停止速度V0となると(t17)、経過時間の計測を終了すると共に、記憶部に記憶されている経過時間T2を停止所要時間として決定する。
【0019】
なお、図5に示す例では、自車両の走行速度が停止前速度V1以下となった後(t12)、自車両が下り坂に差し掛かり(t13)、自車両が加速して燃料カット回転数に対応した速度V1+Vthを超えるまで(t14)、燃料カットの実行が解除されることに起因して内燃機関への燃料供給が実行される。しかし、自車両の走行速度が停止前速度V1以下となった後に、速度V1+Vthを超えるまでの時間長(以下、燃料カット解除期間とする)は、停止所要時間に比して極めて短い時間長であることが多く、無視できる。
【0020】
なお、燃料カット解除期間は、同じ時間長であれば、自車両が走行する道路状況に拘わらず、その期間内に一定量の燃料が消費される。このため、停止所要時間の中に、当該燃料カット解除期間が含まれていたとしても、燃料カット解除期間以外の期間の時間長により、省燃費運転の程度が決定されることとなり、省燃費運転の程度の診断に影響を与える可能性は低い。
【0021】
ところで、燃料カットを実行する一般的な自動車は、アクセルがオン状態となると、内燃機関に燃料供給が開始され、内燃機関にて発生する駆動力により走行する。
このとき、自車両の走行状態は惰力走行ではないため、本発明においては、アクセルがオン状態であれば、計測中止手段が、時間計測手段による経過時間の計測を中止し、その計測していた経過時間を初期化しても良い(請求項2)。
【0022】
つまり、本発明の運転診断装置によれば、アクセルがオン状態となった後、改めて、アクセルがオフ状態となり、再び惰力走行となった場合に、新たな経過時間を初期値から計測することができる。
【0023】
本発明の運転診断装置では、運転診断手段が、時間決定手段にて決定された停止所要時間に基づいて、自車両の運転に対して評価を決定しても良い(請求項3)。
そして、燃料カットを実行する一般的な自動車では、停止所要時間が長いほど、燃料を消費することなく長い距離を走行、即ち、省燃費で走行することができるため、本発明において、燃費診断手段は、停止所要時間が長いほど、自車両の運転に対して高い評価を決定しても良い(請求項4)。
【0024】
なお、運転診断手段が自車両の運転に対する評価を高くする条件としては、停止所要時間が長いことの他に、停止所要時間の間に移動した距離が長いことや、停止所要時間中の加速度の変化が小さいことなどが考えられる。これらの条件であっても、省燃費運転であるほど高い評価とすることができる。
【0025】
一般的に、自動車の運転においては、自車両を減速させるためにアクセルをオフ状態とした時点での走行速度が低いほど、急制動による減速となる可能性が低く、安全に運転していると考えられる。
【0026】
このため、本発明において、運転診断手段は、停止所要時間の起点であるアクセルがオフ状態となった時点の走行速度が低いほど、自車両の運転に対して高い評価を決定しても良い(請求項5)。
【0027】
ところで、本発明は、アクセルがオフ状態である場合に、内燃機関の単位時間当たりの回転数が、予め設定された燃料カット回転数よりも高ければ、該内燃機関への燃料供給を停止し、単位時間当たりの回転数が、燃料カット回転数よりも小さい設定回転数以下であれば、該内燃機関への燃料供給を開始する燃料カットを実行する自動車に搭載される運転診断装置として、コンピュータを機能させるためのプログラムとしてなされたものであっても良い。
【0028】
本発明が、このようなプログラムとしてなされている場合、本発明のプログラムは、請求項6に記載のように、アクセル操作検出手順にて、自車両のアクセルの操作状態を検出し、速度取得手段にて、自車両が移動する速度を表す走行速度を取得すると共に、アクセル操作検出手順での検出の結果、アクセルがオフ状態であれば、時間計測手順にて、アクセルが該オフ状態となってからの経過時間を計測し、速度取得手順にて取得した走行速度が、設定回転数の内燃機関にて発生する駆動力により走行可能な自車両の速度を表す停止前速度以下であれば、時間記憶手順にて、走行速度が停止前速度以下となった時点で時間計測手順により計測された経過時間を、記憶部に記憶して、速度取得手順にて取得した走行速度が、停止前速度よりも低い速度として予め規定された停止速度以下であれば、時間決定手順にて、記憶部に記憶されている経過時間を、燃料カットが実行されることにより惰力で走行する惰力走行の時間長である停止所要時間として決定する。ただし、時間計測手順では、アクセルがオフ状態であれば、走行速度が停止速度となるまで、経過時間の計測を継続して実行する。
【0029】
このような本発明のプログラムによれば、例えば、DVD−ROM、CD−ROM、ハードディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録し、必要に応じてコンピュータにロードさせて起動することや、通信回線を介してコンピュータに必要に応じて取得させて起動することにより用いることができる。そして、コンピュータに各手順を実行させることで、そのコンピュータを、請求項1に記載された運転診断装置として機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態における運転診断システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】運転診断装置の制御部が実行する運転診断処理の処理手順を示したフローチャートである。
【図3】運転診断に用いる運転診断マップを例示した図面である。
【図4】運転診断に用いる運転診断マップの変形例を例示した図面である。
【図5】本発明の作用、及び実施形態における動作例を説明するための説明図である。
【図6】従来技術の課題を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本発明が適用された運転診断装置を中心に構成された運転診断システムの概略構成を示すブロック図である。
【0032】
〈運転診断システムの構成〉
図1に示すように、運転診断システム1は、燃料カットを実行する自動車に搭載して用いられるものであり、自車両の減速時に燃料カットが実行されている時間長(以下、停止所要時間Tとする)を計測し、その計測した停止所要時間Tに基づいて、省燃費運転の程度を診断(評価)するものである。
【0033】
その運転診断システム1は、自車両の内燃機関(エンジン)30に設けられた燃料噴射装置31を少なくとも制御するエンジンECU(ECUは、電子制御装置の略)20と、エンジンECU20に車内LAN5を介して接続される運転診断装置10とを備えている。
【0034】
このうち、エンジンECU20には、自車両が走行する速度(以下、走行速度Vとする)を検出する車速センサ21と、自車両のアクセルペダルの操作量(即ち、操作状態)を検出するアクセル開度センサ22とが接続されている。さらに、エンジンECU20には、図示しないが、内燃機関の単位時間当たりの回転数(即ち、回転速度、以下、エンジン回転数Nとする)を検出する回転数検出センサや、内燃機関のクランク角を検出するクランク角センサなどが接続されている。
【0035】
そして、アクセル開度センサ22は、アクセルペダルに付設されており、アクセルペダルの踏み込み量(即ち、操作量)に比例した大きさのアクセル開度信号を出力する。すなわち、アクセル開度信号によって表されるアクセル開度は、アクセルペダルが踏み込まれていなければ(即ち、アクセルがオフ状態であれば)、「0」であり、アクセルペダルが踏み込まれていれば(アクセルがオン状態であれば)、踏み込み量(即ち、操作量)に応じた大きさである。
【0036】
エンジンECU20は、ROM,RAM,CPUを有した周知のマイクロコンピュータを中心に構成されている。このエンジンECU20は、アクセル開度信号や、エンジン回転数N、クランク角等に基づく周知の処理により、燃料の噴射タイミングや、噴射量を決定し、燃料噴射装置31に対して制御指令を出力することで、燃料を噴射する燃料噴射制御を実行する。これと共に、エンジンECU20は、燃料噴射装置31からの燃料の噴射をカット(停止)する燃料カットを実行する。
【0037】
一般的に、燃料カットを実行する条件としては、「アクセルがオフ状態(即ち、アクセル開度が「0」)で、且つ、エンジン回転数Nが燃料カット回転数NC1以上である」という条件が挙げられる。そして、この条件が成立して燃料カットが実行された場合、その燃料カットの実行を停止して内燃機関30に燃料を噴射する状態へと復帰する条件(燃料カット復帰条件)は、「アクセルがオン状態(即ち、アクセル開度が「0」ではなくなる)か、あるいは、エンジン回転数Nが、燃料カット回転数NC1よりも小さい設定回転数NR1以下になった」という条件が挙げられる。ただし、ここでいう設定回転数NR1は、内燃機関30をアイドリング状態に維持するために必要なエンジン回転数Nである。
【0038】
このような燃料カットは、自動車の内燃機関の制御においては、周知の制御であるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
次に、運転診断装置10は、エンジンECU20からの情報に基づいて、各種処理を実行する制御装置14を中心に構成されている。その制御装置14には、画像を表示する表示部11と、音声を出力する音声出力部12と、メモリカードなどの記憶媒体に情報を書き込むカードスロットル部13とが接続されている。
【0039】
制御装置14は、各種情報を記憶する第一領域18及び第二領域19を有する記憶部17と、処理プログラムに従って処理を実行すると共に、運転診断装置10を構成する各部11,12,13を制御する制御部16とを備えている。
【0040】
その制御部16が処理プログラムに従って実行する処理として、エンジンECU20からの情報に基づいて停止所要時間Tを計測して、その計測した停止所要時間Tから省燃費運転の程度を診断(評価)する運転診断処理が予め用意されている。
【0041】
〈運転診断処理の処理内容について〉
次に、運転診断装置10の制御部16が実行する運転診断処理について説明する。
この運転診断処理は、予め規定された規定速度(例えば、20[km/h])以上で走行している自車両において、アクセル開度が「0」(アクセルがオフ状態)となり、燃料カットの実行が開始されると起動される。このようにアクセルがオフ状態となると、自車両は、惰力走行となり、減速を開始する。
【0042】
そして、運転診断処理が起動されると、図2に示すように、まず、記憶部17の第一領域18に記憶されている減速カウンタのカウント値をリセット(即ち、初期化、本実施形態では、初期値「0」と)する(S110)。なお、本実施形態における減速カウンタとは、自車両が減速する際に、アクセルがオフ状態となってからの時間長(即ち、経過時間)を計測するためのカウンタである。
【0043】
続いて、自車両が減速している際の走行状態を表す状態情報(図2中、STATE)を、減速開始の直後であることを表す「初期減速中」に設定する(S120)。本実施形態では、この状態情報として、「初期減速中」と、自車両が停止する直前であることを表す「停止前減速中」とが予め用意されている。
【0044】
そして、エンジンECU20からのアクセル開度信号を取得すると共に(S130)、エンジンECU20からの自車両の走行速度Vを取得する(S140)。さらに、S130にて取得したアクセル開度信号によって表されるアクセル開度が、「0」であるか否かを判定する(S150)。
【0045】
そのS150での判定の結果、アクセル開度が「0」でなければ(S150:NO)、即ち、アクセルがオン状態であれば、燃料カットの実行が解除されることにより、内燃機関30に燃料供給が開始されたものと判断して、経過時間(ひいては停止所要時間T)の計測を中止する(S170)。つまり、内燃機関30にて発生する駆動力により、自車両の走行が再開されると、経過時間の計測を中止して、本運転診断処理を終了する。
【0046】
一方、S150での判定の結果、アクセル開度が「0」であれば(S150:YES)、即ち、アクセルがオフ状態を維持していれば、記憶部17の第一領域18に記憶されている減速カウンタのカウント値を、予め規定された時間長、インクリメントする(S160)。本実施形態において、S160にてインクリメントされる時間長は、本運転診断処理におけるS130以降のステップの実行周期に対応する時間長であることが好ましい。
【0047】
続いて、状態情報(図2中:STATE)が、「初期減速中」であるか「停止前減速中」であるかを判定する(S180)。そのS180での判定の結果、状態情報が「初期減速中」であれば、S140にて取得した自車両の走行速度Vが、予め設定された停止前速度V1以下であるか否かを判定する(S190)。本実施形態において、停止前速度V1は、設定回転数NR1にて内燃機関30が駆動されることにより発生する駆動力で走行可能な自車両の走行速度(例えば、10[km/h])である。
【0048】
そして、S190での判定の結果、自車両の走行速度Vが停止前速度V1よりも大きければ(S190:NO)、今回の減速において自車両が停止するまでに時間を要するものと判断して、状態情報を「初期減速中」に維持したまま、S130へと戻る。
【0049】
一方、S190での判定の結果、自車両の走行速度Vが停止前速度V1以下であれば(S190:YES)、今回の減速において自車両の走行状態が停止する直前であるものと判断して、状態情報(図2中:STATE)を「停止前減速中」に設定する(S200)。続いて、記憶部17の第一領域18に記憶されている減速カウンタのカウント値を、記憶部17の第二領域19に保存する(S210)。ただし、記憶部17の第一領域18に記憶されている減速カウンタのカウント値は、維持される。
【0050】
すなわち、自車両の走行速度Vが停止前速度V1以下となると、自車両の走行速度Vが停止前速度V1以下となった時点で、記憶部17の第一領域18に記憶されている減速カウンタのカウント値を維持しつつ、記憶部17の第二領域19に同カウント値を格納する。
【0051】
そして、その後、S130へと戻る。
このようにして、状態情報が「停止前減速中」に設定された後に、S180に移行し、そのS180にて、状態情報(図2中:STATE)が、「停止前減速中」であるものと判定されると、自車両の走行速度Vが、予め規定された停止速度V0以下であるか否かを判定する(S220)。本実施形態において、停止速度V0は、停止前速度V1よりも低い速度として規定されたものであり、例えば、自車両が停止しているとみなせる速度(0〜0.5[km/h])であっても良い。
【0052】
そして、S220での判定の結果、自車両の走行速度Vが停止速度V0よりも大きければ(S220:NO)、自車両の走行速度Vが、予め設定された燃料カット解除速度V1+Vth以上であるか否かを判定する(S230)。なお、本実施形態における燃料カット解除速度V1+Vthは、停止前速度V1よりも速度Vth大きな速度であり、例えば、燃料カット回転数NC1にて内燃機関30が駆動されることにより発生する駆動力で走行可能な自車両の走行速度として設定されている。
【0053】
そのS230での判定の結果、自車両の走行速度Vが燃料カット解除速度V1+Vth未満であれば(S230:NO)、自車両の走行状態が停止する直前の状態に維持されているものと判断して、状態情報を「停止前減速中」に維持したまま、S130へと戻る。
【0054】
一方、S230での判定の結果、自車両の走行速度Vが燃料カット解除速度V1+Vth以上であれば(S230:YES)、状態情報(図2中:STATE)を「初期減速中」に設定する(S240)。すなわち、S240では、アクセルがオフ状態でありながら、自車両が加速したことに起因して、自車両が停止するまでに時間を要することとなったものと判断して、状態情報を「初期減速中」へと戻す。
【0055】
そして、その後、S130へと戻る。このようにして、状態情報が、「停止前減速中」から「初期減速中」へと戻された後に、S210へと移行すると、記憶部17の第二領域19に記憶されている減速カウンタのカウント値を、その時点で記憶部17の第一領域18に記憶されている減速カウンタのカウント値へと変更(更新)する。
【0056】
なお、S220での判定の結果、自車両の走行速度Vが停止速度V0以下であれば(S220:YES)、自車両の走行速度Vが停止速度V0以下となった時点で、記憶部17の第二領域19に記憶されている減速カウンタのカウント値に対応する経過時間を、停止所要時間Tとして決定する(S250)。すなわち、本実施形態における停止所要時間Tは、アクセルがオフ状態となることにより燃料カットが開始されてから、自車両の走行速度Vが、停止速度V0となる直前に停止前速度V1となったことにより、燃料カットが解除されて燃料供給が再開される時点までの連続する時間長となる。
【0057】
続いて、S250にて決定された停止所要時間Tに基づいて、自車両の運転に対する省燃費の程度(以下、省燃費評価とする)を決定(評価)する(S260)。本実施形態におけるS260にて決定される省燃費評価は、例えば、図3に示すように、停止所要時間Tが長いほど評価レベル(点数など)が高くなるように、停止所要時間Tの区分毎に評価レベルが対応付けられた運転診断マップに基づいて実行され、停止所要時間Tが長いほど高い評価となる。これは、停止所要時間Tが長いほど、燃料を消費することなく長い距離を走行、即ち、省燃費で走行することができるためである。
【0058】
そして、その後、本運転診断処理を終了する。
なお、S260にて決定された省燃費評価は、表示部11に表示しても良いし、音声出力部12から音声によって出力しても良い。また、S260にて決定された省燃費評価を、カードスロットル部13を介して記憶媒体に記憶し、その記憶媒体に記憶された省燃費評価を、運転診断装置10とは別に構成された情報処理端末にて解析しても良い。
【0059】
〈運転診断装置の動作例〉
次に、運転診断装置10の動作例について、先に説明した図5を用いて説明する。
この図5に示すように、アクセルをオフ状態として減速を開始してから、停止目標位置にて自車両を停止させるまでの間に下り坂を含む道路を、アクセルをオン状態とすることなく自車両が走行する状況下を想定する。
【0060】
このような状況下において、アクセルがオフ状態とされることにより、燃料カットが実行されて惰力走行による減速を開始すると(t11)、運転診断装置10では、運転診断処理を起動して、アクセルがオフ状態となってからの経過時間の計測を開始する(S160)。そして、自車両の走行速度Vが停止前速度V1以下となると(t12)、S210にて、その時点(t12)での経過時間T1を、記憶部17の第二領域19に記憶すると共に、当該経過時間の計測を継続する。
【0061】
このように、自車両の走行速度Vが停止前速度V1以下となると(t12)、エンジンECU20は、燃料カットの実行を解除して、燃料の噴射を再開する。この後、自車両が下り坂に差し掛かり(t13)、自車両が加速して走行速度Vが燃料カット解除速度V1+Vth以上となると(t14)、エンジンECU20が、燃料カットを実行して、燃料の噴射を停止すると共に、運転診断装置10が、S240にて、状態情報を「初期減速中」に戻す。なお、自車両の走行速度Vが停止前速度V1以下となった後に、燃料カット解除速度V1+Vthを超えるまでの時間長(以下、燃料カット解除期間とする)は、停止所要時間Tに比して極めて短い時間長であることが多く、無視できる。
【0062】
その後、自車両が下り坂を走行し終えた後(t15)に、減速を再開して、再び、自車両の走行速度Vが停止前速度V1以下となると(t16)、運転診断装置10では、その時点(t16)での経過時間T2を、記憶部17の第二領域19に記憶(更新)すると共に、経過時間の計測を継続する。そして、自車両の走行速度Vが停止速度V0となると(t17)、経過時間の計測を終了すると共に、記憶部17の第二領域19に記憶されている経過時間T2を停止所要時間として決定する。
[実施形態の効果]
以上説明したように、本実施形態の運転診断処理により決定される停止所要時間Tは、アクセルがオフ状態となることにより燃料カットの実行が開始されてから、燃料カットが解除されて燃料供給が再開される時点までの連続する時間である。ただし、ここでの燃料供給が再開とは、自車両の走行速度Vが、停止速度V0となる直前に停止前速度V1となった時点での燃料供給の再開である。
【0063】
したがって、本実施形態の運転診断装置10によれば、惰力走行を行っている自動車に加速と減速とが連続して生じる状況下であっても、停止所要時間Tの計測精度を向上させることができる。
【0064】
特に、運転診断装置10では、アクセルがオン状態となった後、改めて、アクセルがオフ状態となり、再び惰力走行となった場合に、新たな経過時間を初期値から計測する。このため、運転診断装置10によれば、経過時間、ひいては停止所要時間Tが誤計測されることを防止できる。
【0065】
これらの結果、運転診断装置によれば、省燃費評価をより精度良く評価することができる。
なお、上記実施形態の動作例では、燃料カット解除期間が導出されたが、この燃料カット解除期間は、同じ時間長であれば、自車両が走行する道路状況に拘わらず、その期間内に一定量の燃料が消費される。このため、停止所要時間の中に、当該燃料カット解除期間が含まれていたとしても、燃料カット解除期間以外の期間の時間長から、省燃費評価が決定されることとなり、燃料カット解除期間が省燃費評価の決定に影響を与える可能性は低い。
【0066】
さらに、運転診断装置10において、省燃費評価を、表示部11に表示したり、音声出力部12から音声によって出力したりすれば、自車両の運転者に省燃費運転を心掛けさせることができる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0067】
例えば、上記実施形態における運転診断マップは、停止所要時間Tが長いほど評価レベル(点数など)が高くなる対応関係を有していたが、運転診断マップにおける対応関係は、これに限るものではなく、停止所要時間Tの間に移動可能な距離が長いほど評価レベルが高くなるものであっても良いし、停止所要時間Tの間における自車両の加速度の変化が小さいほど評価レベルが高くなるものであっても良い。
【0068】
さらに、運転診断マップは、図4に示すように、停止所要時間Tが長いほど、かつ、停止所要時間Tの起点となったアクセルがオフ状態となった時点での自車両の走行速度(以下、開始速度とする)Vが低いほど、高い評価レベルとなるように、停止所要時間Tと開始速度Vと省燃費評価の評価レベルとが対応付けられた運転診断マップに基づいて、省燃費評価を決定しても良い。
【0069】
さらには、省燃費評価は、開始速度Vのみに基づいて決定しても良く、この場合、開始速度Vが低いほど、高い評価レベルとすれば良い。これは、自車両を停止させる際には、減速開始時の走行速度Vが低いほど、急制動である可能性が低く、安全に運転していると考えられるためである。
【0070】
また、上記実施形態の運転診断処理おいては、自車両の走行状態が「初期減速中」であるか「停止前減速中」であるかを、自車両の走行速度Vに基づいて判定していたが、本発明における自車両の走行状態の判定は、エンジン回転数Nに基づいて実行しても良い。
【0071】
なお、上記実施形態の運転診断装置10の制御装置14には、表示部11、音声出力部12、カードスロットル部13が接続されていたが、本発明の運転診断装置には、これらの各部11,12,13全てが接続されていなくとも良く、例えば、各部11,12,13のうち、少なくとも一つが接続されていても良いし、これらの各部11,12,13が一つも接続されていなくとも良い。
[実施形態と特許請求の範囲との対応関係]
最後に、上記実施形態の記載と、特許請求の範囲の記載との関係を説明する。
【0072】
上記実施形態の運転診断処理におけるS150が、本発明のアクセル操作検出手段に相当し、運転診断処理におけるS140が、本発明の速度取得手段に相当する。そして、上記実施形態の運転診断処理におけるS130〜S240までのステップを繰り返す過程におけるS160が、本発明の時間計測手段に相当する。
【0073】
さらに、上記実施形態の運転診断処理におけるS210が、本発明の時間記憶手段に相当し、運転診断処理におけるS250が、本発明の時間決定手段に相当する。なお、上記実施形態において、記憶部17の第二領域19が、本発明における記憶部に相当する。
【0074】
また、上記実施形態の運転診断処理におけるS170及びS110が、本発明の計測中止手段に相当し、運転診断処理におけるS260が、本発明の運転診断手段に相当する。
【符号の説明】
【0075】
1…運転診断システム 10…運転診断装置 11…表示部 12…音声出力部 13…カードスロットル部 14…制御装置 16…制御部 17…記憶部 18…第一領域 19…第二領域 20…エンジンECU 21…車速センサ 22…アクセル開度センサ 30…内燃機関 31…燃料噴射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセルがオフ状態である場合に、内燃機関の単位時間当たりの回転数が、予め設定された燃料カット回転数よりも高ければ、該内燃機関への燃料供給を停止し、単位時間当たりの回転数が、燃料カット回転数よりも小さい設定回転数以下であれば、該内燃機関への燃料供給を開始する燃料カットを実行する自動車に搭載される運転診断装置であって、
自車両のアクセルの操作状態を検出するアクセル操作検出手段と、
前記自車両が移動する速度を表す走行速度を取得する速度取得手段と、
前記アクセル操作検出手段での検出の結果、アクセルがオフ状態であれば、アクセルが該オフ状態となってからの経過時間を計測する時間計測手段と、
前記速度取得手段にて取得した走行速度が、前記設定回転数の内燃機関にて発生する駆動力により走行可能な自車両の速度を表す停止前速度以下であれば、前記走行速度が停止前速度以下となった時点で前記時間計測手段により計測された経過時間を、記憶部に記憶する時間記憶手段と、
前記速度取得手段にて取得した走行速度が、前記停止前速度よりも低い速度として予め規定された停止速度以下であれば、前記記憶部に記憶されている経過時間を、前記燃料カットが実行されることにより惰力で走行する惰力走行の時間長である停止所要時間として決定する時間決定手段と
を備え、
前記時間計測手段は、
前記アクセルがオフ状態であれば、前記走行速度が停止速度となるまで、前記経過時間の計測を継続して実行することを特徴とする運転診断装置。
【請求項2】
前記アクセル操作検出手段での検出の結果、前記アクセルがオン状態であれば、前記時間計測手段による経過時間の計測を中止し、その計測していた経過時間を初期化する計測中止手段
を備えることを特徴とする請求項1に記載の運転診断装置。
【請求項3】
前記時間決定手段にて決定された停止所要時間に基づいて、自車両の運転に対して評価を決定する運転診断手段
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の運転診断装置。
【請求項4】
前記運転診断手段は、
前記停止所要時間が長いほど、自車両の運転に対して高い評価を決定することを特徴とする請求項3に記載の運転診断装置。
【請求項5】
前記運転診断手段は、
前記停止所要時間の起点である前記アクセルがオフ状態となった時点の前記走行速度が低いほど、自車両の運転に対して高い評価を決定することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の運転診断装置。
【請求項6】
アクセルがオフ状態である場合に、内燃機関の単位時間当たりの回転数が、予め設定された燃料カット回転数よりも高ければ、該内燃機関への燃料供給を停止し、単位時間当たりの回転数が、燃料カット回転数よりも小さい設定回転数以下であれば、該内燃機関への燃料供給を開始する燃料カットを実行する自動車に搭載される運転診断装置として、コンピュータを機能させるためのプログラムであって、
自車両のアクセルの操作状態を検出するアクセル操作検出手順と、
前記自車両が移動する速度を表す走行速度を取得する速度取得手順と、
前記アクセル操作検出手順での検出の結果、アクセルがオフ状態であれば、アクセルが該オフ状態となってからの経過時間を計測する時間計測手順と、
前記速度取得手順にて取得した走行速度が、前記設定回転数の内燃機関にて発生する駆動力により走行可能な自車両の速度を表す停止前速度以下であれば、前記走行速度が停止前速度以下となった時点で前記時間計測手順により計測された経過時間を、記憶部に記憶する時間記憶手順と、
前記速度取得手順にて取得した走行速度が、前記停止前速度よりも低い速度として予め規定された停止速度以下であれば、前記記憶部に記憶されている経過時間を、前記燃料カットが実行されることにより惰力で走行する惰力走行の時間長である停止所要時間として決定する時間決定手順とを、
前記コンピュータに実行させ、
前記時間計測手順は、
前記アクセルがオフ状態であれば、前記走行速度が停止速度となるまで、前記経過時間の計測を継続して実行することを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−17699(P2012−17699A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155889(P2010−155889)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】