説明

適応変速機

【課題】すきまが小さく且つ内部摩擦の低い変速機の提供。
【解決手段】変速機1、31の機械要素、特に内歯車は内歯40を有し、その軸22に垂直な面において少なくとも2つの構成部材11、12に分割され、構成部材11、12は互いに変位できるように担体20に装着され、構成部材11、12の1つを担体20に対して変位させる駆動部材15−18が担体20に備えられていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内歯を有する内歯車を備えた変速機に並びにその操作方法に関する。内歯車は、その軸に垂直な面において少なくとも2つの構成部材に分割され、構成部材は互いに変位できるように担体に装着され、担体に対して構成部材を変位させる駆動部材が担体に備えられている。
【背景技術】
【0002】
特に正確に作動させる駆動装置の変速機では、回転面において小さなすきまが要求される。しかしながら、力の損失を最小にして熱の生成を防ぐために、変速機の内部摩擦をできるだけ低くすることが好ましい。
【0003】
特許文献1には、駆動スクリューの周りを回転する2つに分割された遊星歯車機構の内歯車が開示されている。これにより、遊星歯車機構のすきまを小さくできる。
【0004】
特に遊星歯車機構においては、太陽歯車、遊星歯車及び内歯車などの種々の歯車が、多くの条件に制約されて固定されたシステムを構成し、そのことにより、変速機が正確に配列されず、内歯車への負荷の配分が不均一となり、時間を経ると位置により摩耗度が異なってくる。耐用期間が長く、すきまが小さく且つ内部摩擦の低い遊星歯車機構が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1236929号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の変速機の機械要素を改良することを目的としている。特に、すきまを小さくして位置決めの精度を上げるか又は機械要素又は変速機の耐用年数を増加させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、下記(1)〜(11)のように構成することにより解決される。
【0008】
(1)変速機の内歯車であって、内歯を有する前記内歯車は、その軸に垂直な面において少なくとも2つの構成部材に分割され、前記構成部材は互いに変位できるように担体に装着され、前記構成部材の1つを前記担体に対して変位させる駆動部材が前記担体に備えられていることを特徴とする内歯車。
【0009】
(2)前記構成部材は少なくとも3つの前記駆動部材を介して前記担体に連結されていることを特徴とする前記(1)に記載の内歯車。
【0010】
(3)少なくとも3つの前記駆動部材により第1の前記構成部材を変位させる第1の駆動部材セットが形成され、少なくとも3つの前記駆動部材により第2の前記構成部材を前記担体に対して変位させる第2の駆動部材セットが形成されていることを特徴とする前記(2)に記載の内歯車。
【0011】
(4)前記駆動部材は圧電素子及び/又は形状記憶合金であることを特徴とする前記(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の内歯車。
【0012】
(5)前記駆動部材は、制御部により駆動されることを特徴とする前記(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の内歯車。
【0013】
(6)同軸変速機であって、前記(1)ないし(5)のいずれか1項に記載の内歯車を備えていることを特徴とする同軸変速機。
【0014】
(7)前記同軸変速機は、遊星歯車機構であることを特徴とする前記(6)に記載の同軸変速機。
【0015】
(8)前記変速機は、内部にカムディスクを含み、前記内歯車と前記カムディスクの間に、前記カムディスクによって径方向に駆動される歯を有する環状ギアが備えられていることを特徴とする同軸変速機。
【0016】
(9)前記(6)ないし(8)のいずれか1項に記載の前記同軸変速機を操作する方法であって、駆動軸、出力軸、太陽歯車、前記内歯車及び/又は遊星歯車の回転位置を入力変数として決定する工程、前記入力変数に基づいて前記内歯車の前記構成部材の少なくとも1つに対する設定位置を決定する工程並びに前記設定位置に基づいて前記駆動部材を駆動させる工程を含むことを特徴とする同軸変速機を操作する方法。
【0017】
(10)更に、特性図が決定されるように前記同軸変速機を操作する工程を含むことを特徴とする前記(9)に記載の同軸変速機を操作する方法。
【0018】
(11)前記同軸変速機は、そのすきまが大きな第一の方式になるように前記構成部材が操作されてから、そのすきまが小さな第二の方式になるように操作されることを特徴とする前記(9)又は(10)に記載の同軸変速機を操作する方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、耐用期間が長く、すきまが小さく且つ内部摩擦の低い遊星歯車機構を提供できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による遊星歯車機構の前面の斜視図
【図2】図1に示す遊星歯車機構の軸に沿った断面図
【図3】図1に示す遊星歯車の内歯車の裏面図
【図4】本発明による別の変速機の平面図
【図5】図4に示す変速機の詳細を示す側面図
【図6】図1の遊星歯車機構に制御系を加えたシステム全体のブロック図
【図7】本発明による遊星歯車機構の操作手順を示す流れ図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による変速機の担体は固定されるか、又は固定された軸受が好ましい。本発明による変速機の機械要素は、特に、例えば遊星歯車機構、環状ギアを有するハーモニックドライブ(登録商標)又はカムディスク及び径方向に可動な歯を有する変速機に適している。機械要素は歯車に噛み合うように配列された歯を備えている。機械要素は内歯の配列された内歯車も含む歯車である。機械要素は、2つの構成部材を含むことが好ましいが、3つ以上の構成部材を含むことも可能である。それぞれの構成部材は周りに環状ギアを備えることが好ましい。環状ギアには、内歯の配列も含まれる。構成部材は互いに変位する。ここでは、「変位」には、直進又は軸方向の変位並びに回転変位が含まれる。構成部材は、上記の変位の少なくとも1つの変位をすることが好ましい。第1の構成部材は、担体並びに第2の構成部材に対して駆動部材により変位する。駆動部材は電気的に駆動されることが好ましい。
【0022】
構成部材間の相対的変位により変速機のすきまが変化するように、構成部材が配列される。駆動部材を用いて第1の駆動部材を変位させると、変速機と機械要素とのすきまが減少して機械要素に対する変速機の剛性が増すので、運転中の許容差が改善され、ゼロ交差における柔軟さがなくなる。
【0023】
別の実施例では、担体は、軸など可動な部品として備えられている。この実施例では、固定端子からシャフトを通して駆動部材の制御又はエネルギー供給を行う必要がある点は問題であるが、操作状況に対応して変速機の適応の自由度が大きいとの利点がある。担体は、剛性のある軸又は剛性のある固定軸受などの剛体であることが好ましい。ここで「剛性」とは、従来用いられている軸又は軸受の剛性に相当するものである。
【0024】
駆動部材は、第1の構成部材を、歯車としての機械要素の歯の1.5倍まで変位させるのに適している。この駆動部材は、直進状、回転状又は2つ変位に適用できる。駆動部材は、第1の構成部材を、歯の1.1倍まで変位させるように構成することが好ましく、更には、歯の0.3〜0.6倍までの変位が好ましい。回転変位は、1°まで、更には0.5°までが好ましい。変位が小さいことは、駆動部材が小さくてよいことを意味し、短時間で目的位置に到達することが可能となる。
【0025】
駆動部材は、少なくとも3つの駆動部材を介して担体と連結されることが好ましい。3つの駆動部材により、その停止点から平面が決まり、十分な剛性と位置決めの信頼性が得られる。駆動部材は、周方向に変位するように配置されることが好ましい。少なくとも3つの駆動部材を用いると、構成部材の回転方向への変位と同様に、機械要素の軸に垂直な面においてあらゆる方向への変位が可能となる。機械要素の軸は、回転軸を意味するか又は、歯車などの機械要素の軸は、機械要素に関して少なくとも部分的に回転対称である。
【0026】
特に好適な実施例においては、駆動部材は対を成し、互いに反対方向に駆動される。この場合、例えば圧電式駆動部材のように所定の作動方向を有する駆動部材が用いられる。実施例によっては、周方向に作用する3対以上好ましくは4対以上の駆動部材が用いられる。4対の駆動部材では、機械要素の安定性が高いとの利点がある。基本的には駆動部材又はその対は、周方向に均等に配置される。駆動部材が周方向に作用する場合には、機械要素の歯は、軸に対して直線状の配列が好ましい。その他の場合には、傾いた配列となる。傾いた配列では、第1の構成部材が担体に対して軸方向に変位できるように、少なくとも1つの駆動部材を配置することが好ましい。傾いた配列では、歯の配列のすきまが変化することが特徴である。
【0027】
第1の構成要素を変位させる少なくとも3つの駆動部材は、第1の駆動部材セットを形成する。好適な実施例では、第2の駆動部材セットは、第2の構成要素を担体に対して変位させる。第2の駆動部材セットは、少なくとも3つ、好ましくは4つ又は4対の駆動部材から成る。2つの構成部材のそれぞれに4対の駆動部材を、周方向又は、実質的に周方向に配列することが好ましい。ここで「実質的には周方向」とは、周方向において最大+/−20°好ましくは+/−10°の角度内を意味する。駆動部材を周方向に配列すると、空間が節約されるとの利点がある。2つの構成部材に2つの駆動部材セットを配置して、互いに反対方向に駆動させることにより、2つの構成部材を迅速に変位させることができる。
【0028】
少なくとも1つの構成部材は、圧電素子から成ることが好ましい。圧電素子は、機械的作動が速いのが特徴であり、その結果、100kHz以上の周波数で直線状又は回転状の変位が可能となる。構成部材を迅速に変位させるには、圧電式駆動部材が好ましい。実施例によっては、少なくとも1つの駆動部材に形状記憶合金を用いてもよい。形状記憶合金は、熱的にも磁気的にも変化し更に極めて安定していることが特徴である。
【0029】
好適な実施例では、少なくとも1つの駆動部材が力を測定するように構成される。このようにして、変速機により伝動されるトルクを測定することができる。圧電素子は、駆動部材に作用する力の測定に用いることが好ましい。変速機に伝動されるトルクを測定するのに、駆動部材を力センサとして用いる方法もある。
【0030】
機械要素として、内歯を有する環状ギアを用いることに利点がある。特に、固定された環状ギアでは、駆動部材及び担体を備えるのに十分な取り付け場所がある。担体は一部が環状ギアから成る変速機のハウジングに固定されるか、又は担体自身がハウジング又はハウジングの一部であることが好ましい。これにより、小型で安定な構成となる。
【0031】
本発明は、駆動部材を駆動する制御部を含んで構成される。制御部は、入力値の変化に応じて駆動部材を制御する。入力値としては、機械要素と噛み合っている歯車、駆動軸又は出力軸の位置が考えられる。これにより、駆動部材が駆動され、その結果構成部材は、例えば遊星歯車などの追加された歯車のすきまからの自由度が大きく摩耗が少ない位置に位置決めされる。制御部には、特性図を記憶する記憶装置を備えることが好ましい。制御部は、特性図のデータに基づいて入力値の変化に応じて駆動部材を駆動させることが好ましい。特性図のデータは、機械要素の形状の不規則性又は更に機械要素と噛み合っている歯車の形状の不規則性を含む。このようにして、機械要素に対する変速機の運転中の許容差が改善され、更には、機械要素と噛み合っている歯車の位置に対する構成要素の位置を適応させることにより変速機のすきまが減少する。
【0032】
本発明による実施例の1つは、機械要素として環状ギアを有する変速機、特に同軸の変速機である。このような変速機では、改善された運転中の許容差と高い剛性により、すきまが減少することに特徴がある。回転すきまは、最大でもで3′角、更には1′角又は0.5′角が好ましい。好適な実施例では、変速機は遊星歯車機構である。機械要素が固定された遊星歯車機構が好ましい。この実施例としては、互いに変位可能な2つの構成部材に分割できる太陽歯車が考えられる。特に、固定された機械要素として、環状ギアを備えた実施例が好ましい。このようにして、簡単な構成が得られる。本発明による遊星歯車機構では、運転中の許容差の特性が改善されることが特徴である。遊星歯車機構は、製造時の公差による内部応力が生じ得る多元的な系である。本発明では、そのような許容差が補償される。製造上の理由により、遊星歯車は、周方向に渉って異なったすきま又は径又は歯の形状が変化することを考慮する必要がある。製造公差が小さくして、これら形状の不規則性が極めて僅かであっても、個々の遊星歯車の位置及び回転位置に応じて、許容差又はすきまに何らかの影響を及ぼす。遊星歯車の回転位置に応じた構成部材の動的変位によっては、変速機の運転中の許容差の特性が改善されることが可能となる。
【0033】
本発明による別の実施例は、多角形とも称されるカムディスク並びに機械要素としての内歯車とカムディスクの間に配置されて径方向に可動な歯を有する環状ギアを含んで構成される。歯はカムディスクにより駆動される。独国特許発明第102006042786号明細書には、これに相当する変速機が開示されているが、本発明による機械要素は備えられていない。本発明では、上記特許に開示された内歯車は、少なくとも2つの構成部材を有する内歯車に置き換わっている。2つの構成部材を反対方向に回転させることにより、歯車と噛み合う歯の時間的に変化応じて、周方向に渉るすきまを変化させることができる。
【0034】
また、1つの内歯車、機械要素の2つの構成部材を形成する径方向に可動な歯を有する2つ環状ギア又は2つのカムディスクを備えた実施例も可能である。少なくとも1つは駆動部材を介して同一の駆動軸に連結された2つのカムディスクを備えた実施例では、2つのカムディスクが互いに回転可能である。変速機に引張力を加えてすきまを減少させることも可能である。代表的な実施例では、機械要素は、径方向に可動な歯を有する2つの環状ギアにより構成され、少なくとも4つの歯が変速機の径方向に並んで整列されている。分割された機械要素の1つのケージ内に配置された2つの歯が共に装着されているので、4つの歯を整列させることにより軸受の安定性が増大する。
【0035】
カムディスクを備えた変速機及びカムディスク変速機に関する正確な情報は、上記特許を参照されたい。上記特許の内容、特に(上記特許では、符号7、8で表示されている)カムディスク上の径方向に可動な歯の軸受及び環状ギア(上記特許では符号3で表示されている)の歯の軸受は本出願に組み込まれている。
【0036】
本発明の好適な実施例では、少なくとも2つ、好ましくは3つ又は4つの歯が径方向に並んで整列されて1つのパケットを形成している。このようにして、変速機の安定性が改善され、歯が変速機の径方向の周りを回転すること、すなわち歯の長軸周りを回転することが防止される。これにより、高ギア比、すきまが小さく且つ高剛性の変速機が提供できる。
【0037】
上記の実施例にある変速機を操作する方法も本発明の特徴ある一面である。本発明による方法を用いると変速機の運転中の許容差又はすきまが改善又は減少して耐用期間が長くなる。本発明により不規則性が機械電子的に補償されるので、特に運転中の許容差が均され、すなわち全周に渉るすきまの形状が改善される。駆動軸、出力軸、遊星歯車担体又は少なくとも1つの遊星歯車の回転位置が決められる。この回転位置により、本発明の方法に対する入力変数が決まる。入力変数に応じて、機械要素の少なくとも1つの構成部材に対する設定位置が決められる。入力変数を基に、ある特定の時点の変速機の位置が決められる。制御部は、駆動部材を駆動できるように、入力変数に基づいて少なくとも1つ又は複数の駆動部材のある時点における設定位置を予め計算する。特性図は、変速機の位置決めとも言われる多様な位置に対して、形状の不規則性、運転中の許容差、すきま又は歯車、環状ギア又はカムディスクなど形状データに関する情報を含むことが好ましい。制御部は、変速機の位置に対する情報を、特性図から推定して得られるように構成とすることが好ましい。これにより、特性図に要する記憶容量を減ずることができる。本発明による方法では、設定位置に基づいて駆動部材が駆動される。迅速に位置決めして特定のすきまが得られるように、複数の構成部材は、互いに反対方向に回転される。
【0038】
本発明による方法により、変速機の剛性が改善又は増大する。特に加速して高トルクを得る場合には、例えば定常速度の場合よりも高度の剛性が要求される。極めて大きな負荷の際、恒常的に小さな変形に対して変速機を構成することが無いよう、従って形状が大きくなるのを避けるため、本発明による機械要素の駆動部材は剛性を増大させることができる。剛性を高めると変速機の質量を小さくできる利点がある。その結果、変速機は多軸ロボット又は移動する質量が小さな応用に適している。本発明によって、変速機の静的及び動的な剛性が増大できる。この目的のため、出力側における負荷又は力に応じて駆動部材が駆動される。出力側の力又はトルクは、圧電素子又は歪ゲージなどの力センサにより測定できる。駆動部材自身を力の測定に用いることもできる。実際に測定された力は、駆動部材を迅速に駆動させることができ剛性が改善される。例えば、2つの構成部材からなる内歯車の場合には、弾性変形を減らして剛性を増大させるように、負荷を和らげるように構成部材を回転させることができる。
【0039】
本発明による方法は、特性図を決定する初期化のステップを含む。ここでは、包括的な特性図が決定されるように、変速機の機械要素又は他の構成部材の回転位置が読み取られる。応力の振れからこの位置のすきまを決定することにより、変速機の位置決め過程におけるすきまが決定できる。例えば、遊星歯車機構では、駆動軸、回転軸及び遊星歯車の回転位置を10°以下、好ましくは3°以下また更に好ましくは1°以下ずつ増大させた位置情報の組合せから特性図が得られる。このようにして、もし推定が適切であれば、変速機のすきま、運転中の許容差及び全ての位置に対して必要な適応に関する情報が得られる。機械要素が内歯車である実施例では、例えば太陽歯車、遊星歯車又はカムディスクなどの内部歯車装置は、環状ギアと共に操作されて、例えばすきま又は運転中の許容差など変速機の上記角度で増大させた全ての回転位置の形状に関する情報が得られる。
【0040】
操作中は特性図が繰り返し決定される。ある時間操作した後に再度特性図が決定されることが好ましい。このようにして、駆動部材を駆動させることによって長期間使用した変速機のすきまも小さく保てるので、使い古した変速機に対してさえ、すきまの適応ができる。変速機のすきまが所定の値よりも増大したことを検出した場合には、特性図を再度決定することもできる。例えば駆動軸及び出力軸の回転位置に関する情報を制御部が受信することにより、制御部は変速機のすきまを決定できる。
【0041】
変速機の操作には、変速機のすきまが大きくなるように構成部材が位置決めされた第一方式とすきまが小さくなるように構成部材が位置決めされた第二方式がある。変速機は、先ず、第一方式で操作され次いで第二方式で操作されることが好ましい。このようにして、速いギア速度並びに正確に位置決めできるギア速度が与えられる。これにより、粗い位置決めから迅速に始動した後にすきまの小さな正確な位置決めができるとの利点が付与される。制御部は、上記の第一方式並びに第二方式で操作できるように構成されている。
【0042】
以下、図面を用いて本発明による実施例の特徴及び長所を説明する。
【実施例1】
【0043】
図1は、機械要素として固定された内歯車を有する変速機としての遊星歯車機構1を示す斜視図である。遊星歯車機構1は、1つの太陽歯車5並びに太陽歯車5の周りに配置されて太陽歯車5と噛み合っている3つの遊星歯車6を含んで構成される。遊星歯車6は、内歯車の内歯とも噛み合っている。内歯車は、駆動部材15〜18によって担体20に装着された2つの構成部材11、12により構成されている。駆動部材15、16は構成部材11を保持し、駆動部材17、18は構成部材12を保持している(図3参照)。構成部材11、12は、それぞれが径方向に突出した先端部21を有し、駆動部材15〜18が周りに配置されて先端部21に作用する構成となっている。相互に反対方向に作動する駆動部材15と16は4つの対を成し、また相互に反対方向に作動する駆動部材17と18も4つの対を成している。駆動部材の対は、構成部材11、12の周りに90°の角度で均等に配置されている。駆動部材15と17は、ある回転方向に作用し、駆動部材16、18は上記と逆の回転方向に作用する。駆動部材15〜18は、実質的には内歯車の軸22の円周方向に配置されている。先端部21は、ある厚さを有し、駆動部材15〜18の力は正確には円周方向に作用しないので、ここでは「実質的」と形容した。遊星歯車機構1は同軸の構成なので、軸22は遊星歯車機構1並びに太陽歯車5の中心の長軸となる。更に、遊星歯車6の回転軸は、軸22の周りを回転する。
【0044】
駆動部材15〜18は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する圧電素子を含んで構成される。圧電素子を用いることにより、駆動部材15〜18は、極めた短時間の内に別に位置に移動できるので、構成部材11、12は、100kHzまでの周波数で左右に回転移動できる。同様に、直進運動も可能である。すきまへの適応又は改良された操作では、僅かな変位で十分なので、圧電素子を備えた駆動部材の行程が限定されていることは、ほとんど問題ではない。図面を判り易くするため、歯車の歯の配置状況は図示されていない。
【0045】
以下の図面においても、同一又は類似の部品には、同じ符号を用いて説明する。
【0046】
図2は、図1に示す遊星歯車機構1の軸22に沿った断面図である。この図では、先端部21、3つの内1つの遊星歯車6及び太陽歯車5の断面が図示されている。もう1つの遊星歯車6は、太陽歯車5に部分的に隠れている。
【0047】
図3は、図1に示す遊星歯車の内歯車の軸22に垂直な平面図であり、裏面にある構成部材12を保持する駆動部材17、18が図示されている。内歯車は、例えばハーモニックドライブ(登録商標)を備えた変速機など、図4に図示された内歯40を備えた別の変速機にも用いられる。
【実施例2】
【0048】
図4には、例えば50:1のように高い伝達比を可能とするカムディスク変速機31が図示されている。カムディスク変速機31は、図1の遊星歯車機構1の内歯車に相当する内歯車を含んで構成される。駆動素子としてのカムディスク変速機31は、内歯車と同軸に配置された図4では破線で図示される楕円形の外周32Aを有するカムディスク32を含んで構成される。カムディスク32が回転すると、環状ギアの歯33は、径方向を外方に押されて内歯車と噛み合う。カムディスク32の周辺の位置では、環状ギアの歯35は、径方向を内方に戻される。図4では、歯33は、カムディスク32の「上昇点」に位置し、歯35は「下降点」に位置している。図では、歯33、35の覆われた部分を破線では図示していない。カムディスク変速機31のより詳細な情報は、独国特許発明第102006042786号明細書に記載されている。
【0049】
歯33並びに35は、環状ギアの一部であり、ケージ36内に配置されて径方向に変位する。ケージ36は、(不図示の)出力軸に連結されている。歯33、35は、カムディスク32及び内歯40により径方向に動かされる。ケージ36の周辺に備えられた歯の数は、固定された内歯40の数よりも少ないので、歯33及び35と内歯40とが噛み合うと、ケージ36が回転運動することになる。
【0050】
内歯車の構成部材11、12が逆方向に回転される際に、歯33、35が傾斜又は回転するのを防ぐために、図5に図示するようにそれぞれの歯列37には4つの歯33又は35が並んで配列されている。例えば歯のピッチの1/20だけ構成部材11、12が反対方向に回転すると、歯列37の4つの歯の内幾つかの内歯40の後端と周方向において噛み合い、4つの歯の残りは内歯40の前喘と周方向において噛み合う。その結果、軸の周りのトルクが歯列37に負荷される。回転を防ぐために、4つの歯33、35は、歯列37として配列されケージ36内に把持されている。1つのパケットに歯33、35の2つが装着され、2つのパケット列により歯列37が構成される。
【0051】
代わりに、1つの歯列に2つの歯を有する分割された内歯車を備えた実施例も考えられる。2つの歯は1つのパケットを形成して装着される。2つの歯の場合には、比較的簡単な設計となる。2つのカムディスク、2つの環状ギア又はケージを用いる場合には、少なくとも4つの歯が配列されて変速機が安定するとの利点がある。
【0052】
互いに交換可能な少なくとも3つ又は4つの構成部材を備えた実施例も考えられる。特に、1つのカムディスクを備えた変速機では、変速機の軸、すなわち歯の長軸の周りのトルクが歯に負荷されることが避けられるとの利点がある。
【0053】
図6は、図1の遊星歯車機構1に制御系を備えたシステム全体を示すブロック図である。図6には、遊星歯車機構1の駆動部材を制御し且つ駆動部材からエネルギーを供給される制御部51、更に、制御部51は、遊星歯車機構1の構成部材の位置を表す、例えば駆動軸52の回転位置などの回転角度の情報を遊星歯車機構1から受信する。
【0054】
駆動軸52は、遊星歯車機構1を駆動する原動機53に連結されている。原動機53は、制御機54により制御される。遊星歯車機構1の出力側には、出力軸55が備えられている。制御部51は、駆動軸52又は出力軸55の回転位置に関する情報も受信する。この情報は、遊星歯車機構1の回転位置情報から決定できる。制御機54のデータを評価することによって情報を得ることも可能である。この情報及び制御部51の記憶装置56に保存された特性図の情報に基づいて、制御部51は遊星歯車機構1の駆動部材を駆動する。場合によっては、特性図から駆動部材を駆動する命令を獲得するために、遊星歯車機構1の位置のみを決定することもある。
【0055】
図7は、本発明による遊星歯車機構1の操作手順を示す流れ図である。ステップ61は、操作の開始点である。次いで、ステップ62において特性図の記録が開始される。特性図には、遊星歯車機構1の形状、特に個々の遊星歯車6、太陽歯車5及び内歯車の構成部材11、12の径の偏差に関する情報が含まれる。個々の部材の寸法にはばらつきがあって、正確な円形ではないため、個々の部材の位置に応じて、操作中の遊星歯車機構1の許容差又はすきまに僅かに偏差が生ずる。形状に関する情報を記録するのに、遊星歯車機構1を操作して2つの構成部材11、12の位置を変化させて異なった大きさのすきまを生成させ、遊星歯車機構1の複数の回転位置又は位置において、どのすきまかによるかを決定すること1つの方法である。本明細書において、「回転位置」と共に変速機の部材が記載されている場合には、特に説明しない限り駆動軸又は出力軸を意味する。更に、遊星歯車機構1を反対の方向に操作することにより、ある位置におけるすきまが直接に決定できる。
【0056】
変速機の運転中の許容差は、別の方法により決定できる。この目的のため、例えば計時装置を変速機の出力軸に装着して運転中の許容差を決定できる。
【0057】
ステップ62おいて、構成部材11、12の位置に応じて遊星歯車機構1の最初の位置のすきまが測定されて、構成部材11、12の最適位置が決定される。最適位置は、特定のすきま又は最小化したすきま又は運転中の許容差を最適化できる。種々の特性図を記録して、すきまの低下、実操作の改良など多様に応用できる。ステップ63において、遊星歯車機構1の別に位置に対するすきまの決定が必要か否か問い合わせる。必要ならば、ステップ64へと移行し、またステップ62を繰り返す。このようにして、特性図に情報が蓄積される。遊星歯車機構1を0.5°ずつ回転させて構成部材の全ての位置情報を収集することができる。
【0058】
必要な情報を全て収集した後に、ステップ65において、特性図が制御部51の記憶装置56に保存される。ステップ66から遊星歯車機構1の通常の操作が開始され、少なくとも1つの位置センサ、特に太陽歯車5に連結された駆動軸52に装着された回転角度信号生成器又は遊星歯車6に連結された出力軸55に装着された回転角度信号生成器により、遊星歯車機構1の構成部材の位置が決められる。他の情報は変速機の動きから計算できるので、通常は1つの回転角度信号生成器で十分である。ステップ67において、構成部材11、12の設定位置が決定されてすきまを所望の値まで低下させるか、運転中の許容差を改善するように、駆動部材15、18が駆動される。ここにおいて、遊星歯車機構1を駆動する原動機53を制御する制御機54が、遊星歯車機構1を大きなすきまで速い速度の第一方式か、又は小さなすきまで正確な位置決めをする第二方式で操作するかを制御部51に予め規定させる方法もある。ステップ68において、遊星歯車機構1の操作を続行すると判断する間はステップ67が繰り返される。ステップ68において、操作を続行しないと判断されるとステップ69の操作の終了に移行する。
【0059】
本発明は、上記の実施例、特に固定された内歯車に用いた実施例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0060】
1 遊星歯車機構
5 太陽歯車
6 遊星歯車
11、12 (内歯車の)構成部材
15〜18 駆動部材
20 担体
21 構成部材の先端部
22 (内歯車の)軸
31 カムディスク変速機
32 カムディスク
33、35 (環状ギアの)歯
36 ケージ
37 歯列
40 内歯
51 制御部
52 駆動軸
53 原動機
54 制御機
55 出力軸
56 記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機(1、31)の内歯車であって、
内歯(40)を有する前記内歯車は、その軸(22)に垂直な面において少なくとも2つの構成部材(11、12)に分割され、
構成部材(11、12)は互いに変位できるように担体(20)に装着され、
構成部材(11、12)の1つを担体(20)に対して変位させる駆動部材(15−18)が担体(20)に備えられていることを特徴とする内歯車。
【請求項2】
構成部材(11、12)は少なくとも3つの駆動部材(15−18)を介して担体(20)に連結されていることを特徴とする請求項1に記載の内歯車。
【請求項3】
少なくとも3つの駆動部材(15、16)により第1の構成部材(11)を変位させる第1の駆動部材セットが形成され、少なくとも3つの駆動部材(17,18)により第2の構成部材(12)を担体(20)に対して変位させる第2の駆動部材セットが形成されていることを特徴とする請求項2に記載の内歯車。
【請求項4】
駆動部材(15−18)は圧電素子及び/又は形状記憶合金であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の内歯車。
【請求項5】
駆動部材(15−18)は、制御部(51)により駆動されることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の内歯車。
【請求項6】
同軸変速機(1、31)であって、
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の内歯車を備えていることを特徴とする同軸変速機。
【請求項7】
前記同軸変速機は、遊星歯車機構(1)であることを特徴とする請求項6に記載の同軸変速機。
【請求項8】
同軸変速機(1)は、内部にカムディスク(32)を含み、前記内歯車と前記カムディスクの間に、カムディスク(32)によって径方向に駆動される歯(33、35)を有する環状ギアが備えられていることを特徴とする同軸変速機。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載の同軸変速機(1、31)を操作する方法であって、
駆動軸(52)、出力軸(55)、太陽歯車(5)、前記内歯車及び/又は遊星歯車(6)の回転位置を入力変数として決定する工程、
前記入力変数に基づいて前記内歯車の構成部材(11、12)の少なくとも1つに対する設定位置を決定する工程並びに、
設定位置に基づいて駆動部材(15−18)を駆動させる工程を含むことを特徴とする同軸変速機を操作する方法。
【請求項10】
更に、特性図が決定されるように同軸変速機(1、31)を操作する工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の同軸変速機を操作する方法。
【請求項11】
同軸変速機(1、31)は、そのすきまが大きな第一の方式になるように構成部材(11、12)が操作されてから、そのすきまが小さな第二の方式になるように操作されることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の同軸変速機を操作する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−180932(P2012−180932A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−38771(P2012−38771)
【出願日】平成24年2月24日(2012.2.24)
【出願人】(500542240)ヴィッテンシュタイン アーゲー (19)
【Fターム(参考)】