説明

遮熱コーティングを有するガスタービン用部品と、それを用いたガスタービン

【課題】本発明の目的は、低品位燃料を用いるなど腐食環境での使用に対する耐久性,信頼性を有するガスタービン用部品と、それを用いたガスタービンを提供することにある。
【解決手段】Ni,CoまたはFeを含む合金よりなる基材と、基材上に設けられ、合金よりなる結合層と、結合層上に設けられた遮熱コーティングを有するガスタービン動・静翼であって、前記遮熱コーティングは、多孔質セラミックスの遮熱層と、シリカを含む環境遮蔽層と、多孔質のセラミックスの気孔内にシリカを含む物質を有する含浸層とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン動静翼,燃焼器,シュラウド等のガスタービン用部品、特に、環境の厳しい高温腐食条件下での使用に好適な耐熱性,耐食性に優れたガスタービン用部品と、それを用いたガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンは効率向上を目的として運転温度が年々高くなってきている。運転温度の高温化に対処するために、ガスタービン高温部品の一部には、部品の温度環境を和らげる目的で表面にセラミックスよりなる遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:以下TBCと称す)を施すことが行われている。使用条件にもよるが、一般的にTBCの適用により基材温度は50〜100℃低減できる。
【0003】
特開昭62−211387号公報(特許文献1)などには、基材に対して、MCrAlY合金層を介して、低熱伝導性で耐熱性に優れた部分安定化ジルコニアよりなる遮熱層を有するTBCが開示されている。ここで、Mは鉄(Fe),Ni及びCoからなるグループから選ばれた少なくとも1種を表し、Crはクロム、Alはアルミニウム、Yはイットリウムを表す。
【0004】
また、ガスタービン用のTBCでは、燃焼ガスの高温化に対応するための耐熱性向上、および、燃焼ガス中に含まれる固体粒子(主に酸化物)による粒子摩耗(エロージョン)が課題とされていた。特開平9−78258号公報(特許文献2)では、耐熱性に優れた多孔質の遮熱層の表面に、耐エロージョン性を向上する目的で緻密な保護層を設けることが開示されている。
【0005】
ガスタービンでは、従来、燃焼性や腐食防止の観点から、燃料として液化天然ガス(LNG)や灯油,軽油等の比較的高品位の燃料が用いられてきた。これらの燃料では硫黄(S)や灰分等、腐食因子の含有量が非常に少なく、概ね、Sは0.01質量%以下、灰分はほとんど含まれず、高温部品に腐食損傷が生じることは少ない。
【0006】
しかし、近年、燃料価格高騰や省資源の観点から、ガスタービンでも重油等の低品位燃料の使用が増加している。低品位燃料では、硫黄,アルカリ金属,バナジウムなどの腐食因子となる元素を含み、燃焼ガス中で、相互に、あるいは、燃焼空気中の酸素(O)や海塩粒子(NaCl等)等と複雑に反応し、高温腐食の原因となる化合物を生成する。これらの化合物はTBC、特にジルコニア層部分に損傷を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−211387号公報
【特許文献2】特開平9−78258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、低品位燃料を用いるなど腐食環境での使用に対する耐久性,信頼性を有するガスタービン用部品と、それを用いたガスタービンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明のガスタービン動・静翼は、Ni,CoまたはFeを含む合金よりなる基材と、基材上に設けられ、合金よりなる結合層と、結合層上に設けられた遮熱コーティングを有するガスタービン動・静翼であって、前記遮熱コーティングは、多孔質セラミックスの遮熱層と、シリカを含む環境遮蔽層と、多孔質のセラミックスの気孔内にシリカを含む物質を有する含浸層とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
環境遮蔽層により環境の遮蔽効果があり、耐食性が向上し、また、環境遮蔽層の一部を遮熱層に含浸させることにより、互いの密着性が向上するため、遮熱層の損傷を防止できる。その結果、耐久性,信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】耐熱部材の例を示す断面模式図である。
【図2】実施例のタービン動翼の形状を示す斜視図である。
【図3】実施例のタービン静翼の形状を示す斜視図である。
【図4】実施例のガスタービンの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、遮熱層の表面に耐食性の環境遮蔽層を設けたTBCを使用することにある。
具体的には、Ni,CoまたはFeを主成分とする合金基材と、結合層を介して前記基材の表面に形成された遮熱コーティングを有し、当該遮熱コーティングは、セラミックスからなる多孔質の遮熱層と耐食性の環境遮蔽層を有するものであって、環境遮蔽層,遮熱層の間には環境遮蔽層の一部が遮熱層に含浸した含浸層を有する。
【0013】
特に、遮熱層は多孔質のジルコニア層からなり、環境遮蔽層は主成分がシリカからなる層であって、環境遮蔽層の一部が多孔質のジルコニア層の気孔内に含浸している。
【0014】
これにより、環境遮蔽層が溶融塩と遮熱層の接触を妨げ、遮熱層の溶融塩腐食を防止すると同時に、環境遮蔽層の一部が多孔質の安定化ジルコニア層の気孔内に含浸していることから、遮熱層との高い密着性が得られ、さらに、含浸層の下部に存在する多孔質の遮熱層が熱応力緩和機能を発揮する。
【0015】
上記の構成に対応する具体例としては、Ni,CoまたはFeを主成分とする合金よりなる基材と、基材上に形成されたMCrAlY合金またはMCrAl合金よりなる合金層(MはFe,Ni及びCoの少なくともいずれか一種)と、合金層上に形成された部分安定化ジルコニアよりなる多孔質のセラミックス層と、セラミックス層上に形成されたシリカを主成分とする緻密質のガラス層とを有する耐熱部材であって、多孔質セラミックスの上部の気孔内にガラス層の一部を含浸させて、ガラスが充填された状態で一体化されているものである。
【0016】
TBCを施したガスタービン高温部品では、TBCの遮熱効果により、TBCを施工しない場合に比べて部品温度が低く抑えられることから、ガスタービン部品の中でも特に高温強度が要求される部品(例えば、タービン動静翼,燃焼器,タービンシュラウド等)に多く用いられる。ガスタービン高温部品にTBCを施すことは非常に有効である。まず、このようなTBCの腐食損傷について詳細を説明する。
【0017】
低品位の燃料としては、現状、硫黄分や灰分の比較的少ない低硫黄A重油(LSA重油)が中小型のガスタービンを中心に用いられている。また、更に低品位の高硫黄A重油やB,C重油を燃料として使用することに対する要望も高い。低品位の燃料では、硫黄分や、灰分中にアルカリ金属(Na,K),バナジウム(V)といった腐食因子を含む。例えば、日本工業規格(JIS)K2205「重油」によると、低硫黄A重油(1種1号重油)では、Sが0.5%以下、灰分が0.05%以下、高硫黄A重油(1種2号重油)ではSが2.0%以下、灰分が0.05%以下、B重油(2種重油)ではSが3.0%以下、灰分が0.05%以下、C重油(3種1号重油)では、Sが3.5%以下、灰分が0.1%以下と規定されており、更に低質の重油では、Sや灰分の含有率に規定が設けられていないものもある。なお、従来より使用している高品位燃料では、概ねSは0.01質量%以下であり、灰分はほとんど含まれない。
【0018】
低品位の燃料に含まれる腐食因子は、燃焼ガス中で、相互に、あるいは、燃焼空気中の酸素(O)や海塩粒子(NaCl等)等と複雑に反応し、高温腐食の原因となる様々の化合物を生じる。特に、比較的融点の低い化合物は、高温部品の表面に溶融状態で付着,凝縮することで、激しい高温腐食を引き起こす(いわゆる溶融塩腐食)。ガスタービン高温部品に用いられる耐熱合金も溶融塩腐食によって激しく腐食するため、低品位燃料を用いる場合の大きな課題である。特に、耐熱合金の表面に形成され、耐酸化性や耐食性に寄与するクロミア(Cr23)やアルミナ(Al23)といった保護性酸化物皮膜が溶融塩中で容易に溶解する。
【0019】
また、TBCの部分安定化ジルコニアも同様に溶融塩腐食による損傷が生じる。特に燃料中にSが0.5%、Vが0.01%を越えて含まれる環境においては、従来技術のTBCでは、遮熱層として用いられる部分安定化ジルコニアが溶融塩腐食による損傷を受け、短時間で剥離を生じやすい。低品位燃料を用いた溶融塩腐食環境下での長期間の運転においても十分な耐久性,信頼性を有するTBCを提供するためには、TBCの溶融塩腐食による損傷を抑制する必要がある。
【0020】
本発明者らは、結合層を介して、セラミックスからなる遮熱層を設け、さらにその表面を高温腐食に対する環境遮蔽層で被覆した。これらの層としては、結合層としてMCrAlY,MCrAl層などの合金層,遮熱層として安定化ジルコニア層などの多孔質のセラミックス層,環境遮蔽層としてシリカガラス層などのシリカを主成分とする層が例示される。さらに環境遮蔽層を、多孔質の遮熱層の気孔の内部に一部含浸し、一部表面に残るように設ける。これにより、環境遮蔽層が溶融塩と遮熱層の接触を妨げ、遮熱層の溶融塩腐食を防止する。
同時に、環境遮蔽層の一部が遮熱層の気孔内に含浸していることから、両者の高い密着性が得られる。さらに、多孔質の遮熱層が熱応力緩和機能を発揮する。このようなTBCを採用した耐熱部材は、耐食性,耐熱性に優れる。
【0021】
また従来のTBCに比べ、本発明のTBCは過酷な溶融塩腐食環境における耐食性,耐熱性に優れるため、ガスタービン用の高温部品に採用するのに好適である。ガスタービンを運転する場合に、高温部品の耐久性,信頼性が向上することで、高温部品の交換や点検の周期を長く設定することが可能となり、ガスタービンの運転コストを低く抑えられる。
また、安価な低品位燃料を使用してガスタービンを運転できるため、ガスタービンの燃料コストを低く抑えることが可能となる。腐食環境が厳しく、高温の条件下で運転されるガスタービンの高温部品としては、タービン動静翼,シュラウドや燃焼器等の部品がある。
【0022】
本発明のガスタービン用の高温部品は、耐熱性のある合金の基材上に、結合層,遮熱層,含浸層,環境遮蔽層を有する。合金基材は、ガスタービン動翼,静翼,シュラウド,燃焼器等に用いられている種々の耐熱合金を用いることができる。Ni,CoまたはFeを主成分とする合金が好適である。
【0023】
結合層は、合金基材と遮熱層12の密着性を高めるために両者の中間の熱膨張係数を有するものとする。さらに、基材よりも耐食性,耐酸化性に優れた合金を用いることが好ましい。TBCの結合層として一般的に知られているものを適宜使用することができる。例えば、実質的にNi,Coを主成分として、Cr及びAlを添加した合金が望ましい。さらに添加元素として、Y,Hf,Ta,Si,Ce等を0〜10重量(wt)%の範囲で含むことができる。特に、一般にMCrAlYと称される合金(MはNi,Fe,Coのいずれか、または複数)は好適に用いられる。結合層は減圧プラズマ溶射法によって形成することが最も望ましいが、HVOF溶射法やHVAF溶射法等の高速ガス溶射法,コールドスプレー法,大気中プラズマ溶射法等を用いることも可能である。結合層11の厚さは0.05〜0.3mmの範囲が好ましい。
【0024】
遮熱層は多孔質のセラミックスであり、ZrO2系のセラミックスを用いるのが好ましい。特にY23,MgO,CaO,CeO2,Sc23,Er23,Gd23,Yb23,Al23,SiO2,La23から選ばれた少なくとも1種を含む部分安定化ジルコニアが望ましい。イットリア(Y23)部分安定化ジルコニアは極めて好適である。多孔質の安定化ジルコニアからなる遮熱層は大気中プラズマ溶射法などによって形成できる。ガスタービン用の高温部材として使用する場合には、遮熱層の厚さは0.1〜1mmの範囲が好ましい。0.1mm未満ではTBCとして十分な遮熱性が得らない場合がある。また、1mm以上では耐熱性が低下し剥離を生じやすくなるため好ましくない。多孔質の安定化ジルコニアからなる遮熱層の気孔率は、断面組織における気孔が占める面積率において10〜30%の範囲が好ましい。気孔率が10%未満では、気孔による熱応力緩和機構が十分に作用せず耐熱性が低下する。気孔率が30%以上では皮膜の機械的強度が低下して剥離を生じやすくなる。
【0025】
環境遮蔽層は、遮熱層,結合層,耐熱合金基材と溶融塩が接触し、これらの腐食による損傷を防止する機能を果たす。従って、環境遮蔽層は溶融塩と接触しても反応や溶解せずに皮膜を維持するものであって、溶融塩の通過を抑制するものを使用する。従って環境遮蔽層の気孔率は5%以下が好ましい。気孔率が5%を越えると開気孔が増加し、気孔を通じて環境遮蔽層13を溶融塩が浸透,通過しやすくなる。環境遮蔽層の厚さは0.05〜0.1mmの範囲であることが好ましい。0.05mm未満では環境遮蔽層として十分な遮蔽性が得られず、0.1mm以上では成膜時の残留応力や熱応力によってクラックが生じやすくなり、好ましくない。クラックが生じると、クラックを通じた遮蔽性の低下や、環境遮蔽層の剥離を生じやすくなる。環境遮蔽層は、粘度を調整したスラリーを用いたり、ゾルゲル法を使用して生成させる。
【0026】
環境遮蔽層としては、溶融塩と反応しにくいシリカ(SiO2)を主成分とする材料を用いるのが好ましい。例えば、硫黄を含む燃料を使用した場合、同時に存在する他の化合物や雰囲気の環境にも影響をうけるが、主としてアルカリ金属の硫酸塩(例えば、Na2SO4,K2SO4等)が高温部品の表面に付着,凝縮しやすい。これらは酸性塩としての性質を有するため、アルミナやクロミアといった両性酸化物,ジルコニアやイットリアといった塩基性酸化物と反応し、溶解することで溶融塩腐食が生じやすい。純度の高いシリカは酸性酸化物のため溶融塩との反応が生じ難く、溶融塩腐食に対し優れた耐久性を示す。シリカよりなる環境遮蔽層にはシリカ以外の添加物を加えてもよいが、ジルコニアやアルミナなどの硫黄やバナジウムに対して耐性のない成分は添加しないようにする。なお、環境遮蔽層は、シリカの純度が低いと不純物等の影響によって溶融塩腐食に対する耐食性が低下する場合がある。従って特に、シリカの純度が90%以上の石英ガラス質の材料が望ましい。
【0027】
主成分がシリカからなる環境遮蔽層の形成方法としては、金属アルコキシドのアルコール溶液を用いたゾルゲル法を適用できる。また他にも、コロイダルシリカ溶液,アルカリ金属シリケート溶液等のシリカ前駆体を含む溶液を用いてもよい。これを塗布して前駆体の層を形成し、乾燥,焼成してシリカ皮膜を形成することができる。また、市販のシリカコーティング剤を用いることも可能である。ただし、添加物や不純物の影響が許容できる範囲で、最終的に形成されるシリカ層が溶融塩に対する耐食性を有する必要がある。
【0028】
含浸層は、環境遮蔽層と多孔質の遮熱層の両者の間の密着性を向上させ、環境遮蔽層の剥離を防止する。含浸層は、遮熱層由来の多孔質のセラミックと、環境遮蔽層由来のシリカ化合物よりなる。含浸層の厚さは遮熱層の厚さに対し10〜20%程度とする。含浸層が薄すぎる場合は、環境遮蔽層と遮熱層の間の密着性が不十分となり、含浸層が厚すぎる場合は、遮熱層の気孔率が実質的に減少し、遮熱性低下や、応力の緩和効果が少なくなる。また、気孔による熱応力緩和機能の低下による剥離を生じやすくなる。含浸層の厚さは概ね、0.01〜0.1mmの範囲が好ましい。
【0029】
シリカ前駆体を含む溶液を用いて環境遮蔽層を設ける場合、溶液の粘度を予め適当に調整することで、多孔質の遮熱層の表面に溶液を塗布した際に、その一部が遮熱層の気孔に毛細現象によって浸透する。浸透した溶液は、乾燥,焼成を経て、多孔質の安定化ジルコニアからなる遮熱層内の気孔16中で固化してシリカを形成し、含浸層が形成される。含浸層の厚さ(深さ)は上記の溶液の粘度や遮熱層の気孔の大きさなどにより調整できる。
【0030】
耐熱部材の一例について、図1の断面模式図を用いて説明する。図1では、Ni,CoまたはFeを主成分とする合金基材10の表面上に、MCrAlY合金等からなる結合層11を介して、安定化ジルコニアからなる多孔質の遮熱層12を設け、その表面に主成分がシリカからなる高温腐食に対する環境遮蔽層13を設けている。さらに、環境遮蔽層13の一部が遮熱層12の気孔16内に含浸して形成された含浸層14を有する。
【0031】
本発明の耐熱部材は、腐食環境における耐久性が優れている。このため、ガスタービンの動翼,静翼及び燃焼器等の高温条件下で使用される高温部品として適する。また、ガスタービンのみならず、航空機エンジンなどの他の高温機器にも適用することができる。
【実施例1】
【0032】
本実施例のガスタービン動翼について、図2を用いて説明する。図2は、ガスタービン動翼の全体構成を表す斜視図である。図2において、このガスタービン動翼はNi基耐熱合金(Rene80)製で、例えば3段の動翼を備えたガスタービン回転部分の初段の動翼として用いられ、翼部21,プラットフォーム部22,シャンク23,シールフィン24,チップポケット25を有し、ダブテイル26を介してディスクに取り付けられる。また、この動翼は、翼部長さ100mm、プラットフォーム部22以降の長さ120mmであり、動翼は内部から冷却できるように冷却媒体、特に空気又は水蒸気が通るように冷却孔(図示せず)がダブテイル26から翼部21を通して設けられている。ガスタービン動翼のうち、燃焼ガスに曝される翼部21及びプラットフォーム部22にTBCを形成した。ガスタービン動翼の作製方法を以下に説明する。
【0033】
基材上にCoNiCrAlY合金(Co−32wt%Ni−21wt%Cr−8wt%Al−0.5%Y)粉末を用いて、減圧雰囲気中プラズマ溶射にて結合層を形成した。さらに拡散熱処理として、真空中で1121℃×2h+843℃×24hの熱処理を実施した。結合層の厚さは約200μmである。
【0034】
その後、結合層を設けた基材上に、イットリア部分安定化ジルコニア(ZrO2−8wt%Y23)粉末を用い、大気中プラズマ溶射にて約0.5mmの厚さ、気孔率が約20%の多孔質のセラミックよりなるジルコニア層を設けた。さらに、この表面にシリカ前駆体を含む溶液として、セラミック系接着剤・充填剤として市販されている東亜合成株式会社製の商品名「アロンセラミックC」に水を加えることで、粘度を室温で約3Pa・secに調整したものをディップ法により塗布した。塗布後、室温で24h自然乾燥した。その後さらに、試験翼を約90℃×1h,150℃×1hに電気炉中で加熱した。その結果、多孔質のジルコニア層の表面にシリカを主成分とする環境遮蔽層を形成した。予め同様の手順で作製した小型の試験片の断面を観察した結果、環境遮蔽層の厚さは約0.1mmであり、含浸層の厚さは約0.05mmであった。
【0035】
実機を用いて本実施例のガスタービン動翼の耐久性を検証した。実機試験は、燃料として特A重油を使用して運転し、溶融塩腐食による損傷が認められているガスタービンにおいて実施した。なお、比較のため、上述の本実施例の動翼と同様の方法で、結合層と遮熱層のみ施工して環境遮蔽層を設けない動翼(従来のTBCを設けた動翼)も作製し、同時に試験に供した。2年間の運転後、試験翼を観察したところ、本実施例のガスタービン動翼ではTBCの損傷は認められず健全であった。一方、比較例の従来の動翼では、遮熱層が局所的に剥離しているのが認められた。剥離部から遮熱層を機械的に剥ぎ取って採取し、遮熱層の断面を分析したところ、S,Vが検出された。従って、剥離が溶融塩腐食によるものと考えられる。以上の結果から、本実施例のガスタービン動翼は、従来のガスタービン動翼に比べ、耐久性に優れ、低品位燃料を用いた溶融塩腐食環境下での長期間の運転においても、十分な耐久性,信頼性を有することが確認された。
【0036】
本実施例の動翼は高温の初段に適用するのに好適である。なお、当然に2段目以降の後段動翼とすることもできる。
【実施例2】
【0037】
本実施例のガスタービン静翼について、図3を用いて説明する。図3は、ガスタービン静翼の全体構成を表す斜視図である。図3において、このガスタービン静翼は、Co基耐熱合金製(FSX414:Co−10wt%Ni−29%Cr−7.5%W−1%Fe−0.4%Mn−0.8%Si)で、例えば3段の静翼を備えたガスタービンの初段の静翼として用いられ、翼部31,エンドウォール部32を有し、内部から冷却できるように冷却媒体、特に空気又は水蒸気が通るように冷却孔(図示せず)がエンドウォール32の端面から翼部31を通して設けられている。このガスタービン静翼のうち、燃焼ガスに曝される翼部31及びエンドウォール32の翼側面(燃焼ガス通路面)に、実施例1と同様の方法でTBCを形成した。具体的には静翼表面にCoNiCrAlY合金(Co−32wt%Ni−21wt%Cr−8wt%Al−0.5%Y)粉末を用いて、減圧雰囲気中プラズマ溶射にて結合層を形成した。さらに拡散熱処理として、真空中で1121℃×2h+843℃×24hの熱処理を実施した。結合層の厚さは約200μmである。
【0038】
その後、結合層の上に、イットリア部分安定化ジルコニア(ZrO2−8wt%Y23)粉末を用い、大気中プラズマ溶射にて、厚さ約0.3mm、気孔率約20%の多孔質セラミックよりなるジルコニア層を設けた。さらに、この表面にシリカ前駆体を含む溶液として、セラミック系接着剤・充填剤として市販されている東亜合成株式会社製の商品名「アロンセラミックC」に水を加えることで、粘度を室温で約3Pa・secに調整したものをディップ法により塗布した。塗布後、室温で24h自然乾燥した。その後さらに、試験翼を約90℃×1h,150℃×1hに電気炉中で加熱した。その結果、多孔質のジルコニア層の表面にシリカを主成分とする環境遮蔽層を形成した。予め同様の手順で作製した小型の試験片の断面を観察した結果、環境遮蔽層の厚さは約0.1mmであり、含浸層の厚さは約0.05mmであった。
【0039】
実機を用いて本実施例のガスタービン動翼の耐久性を検証した。実機試験は、燃料として低硫黄A重油を使用して運転し、溶融塩腐食による損傷が認められているガスタービンにおいて実施した。なお、比較のため、上述の本実施例の静翼と同様の方法で、結合層と遮熱層のみ施工して環境遮蔽層を設けない静翼(従来のTBCを設けた静翼)も作製し、同時に試験に供した。2年間の運転後、試験翼を観察したところ、本実施例のガスタービン静翼ではTBCの損傷は認められず健全であった。一方、比較例の従来の静翼では、遮熱層が局所的に剥離しているのが認められた。剥離部から遮熱層を機械的に剥ぎ取って採取し、遮熱層の断面を分析したところ、S,Vが検出された。従って、剥離が溶融塩腐食によるものと考えられる。以上の結果から、本実施例のガスタービン静翼は、従来のガスタービン静翼に比べ、耐久性に優れ、低品位燃料を用いた溶融塩腐食環境下での長期間の運転においても、十分な耐久性,信頼性を有することが確認された。
【0040】
本実施例の静翼は高温の初段に適用するのに好適である。なお、当然に2段目以降の後段静翼とすることもできる。
【実施例3】
【0041】
図4は発電用ガスタービン主要部の断面模式図である。ガスタービンは、タービンケーシング48の内部に、中心に回転軸(ロータ)49と、回転軸49の周囲に設置される動翼46とケーシング48側に支持される静翼45、タービンシュラウド47を有するタービン部44を備える。このタービン部44に連結され、大気を吸込み、燃焼用及び冷却媒体用の圧縮空気を得る圧縮機50と、燃焼器40を有する。燃焼器40は、圧縮機50から供給される圧縮空気と、供給される燃料(図示せず)を混合して噴射する燃焼器ノズル41を有し、この混合気を燃焼器ライナ42内で燃焼させて高温高圧の燃焼ガスを発生し、トランジションピース(尾筒)43を介して、この燃焼ガスがタービン44に供給されることで、ロータ49が高速で回転する。圧縮機50より吐出された圧縮空気の一部は、燃焼器40のライナ42,トランジションピース43やタービン静翼45,タービン動翼46の内部冷却空気として用いられる。燃焼器40で発生した高温高圧の燃焼ガスは、トランジションピース43を経てタービン静翼45で整流され、動翼46に噴射されてタービン部44を回転駆動する。そして図示はしていないが、一般的には回転軸49の端部に結合されている発電機により発電するように構成されている。
【0042】
本実施例は前述の実施例1及び2に記載の動翼23及び静翼34を各々高温側の1段目に用いガスタービンの回転部を構成したものである。さらに、本実施例では、燃焼器ライナ42,トランジションピース43の燃焼ガス通路にあたる内周面、および、初段のタービンシュラウド47の燃焼ガス通路面に、実施例2に記載の方法に準じた方法によって環境遮蔽層を有するセラミックコーティング層を設けた構成とした。
【0043】
具体的には各部品の燃焼ガス通路表面にCoNiCrAlY合金(Co−32wt%Ni−21wt%Cr−8wt%Al−0.5%Y)粉末を用いて、大気中プラズマ溶射にて結合層を形成した。結合層の厚さは約200μmである。その後、結合層の上に、イットリア部分安定化ジルコニア(ZrO2−8wt%Y23)粉末を用い、大気中プラズマ溶射にて、厚さ約0.3mm、気孔率約20%の多孔質セラミックよりなるジルコニア層を設けた。さらに、この表面にシリカ前駆体を含む溶液として、セラミック系接着剤・充填剤として市販されている東亜合成株式会社製の商品名「アロンセラミックC」に水を加えることで、粘度を室温で約3Pa・secに調整したものをディップ法により塗布した。塗布後、室温で24h自然乾燥した。その後さらに、試験翼を約90℃×1h,150℃×1hに電気炉中で加熱した。その結果、多孔質のジルコニア層の表面にシリカを主成分とする環境遮蔽層を形成した。
【0044】
なお、本実施例では、3段で構成されるタービン部44の初段静翼,初段動翼,初段シュラウドに、本発明の環境遮蔽層を有するセラミックコーティング層を設けた構成を採用したが、さらに後段の2段,3段に適用することも可能である。さらには、他の段数で構成されるタービン、例えば、2段,4段で構成されるタービンの全段落、乃至は選択された段落に適用することも可能である。
【0045】
以上の構成による本実施例のガスタービンにおいて、燃料として低硫黄A重油を使用して運転した。2年間の運転後、各部品を観察したところ、本実施例のガスタービンでは各部品のTBCにほとんど溶融塩腐食による損傷は認められず健全であった。一方、本発明の環境遮蔽層を備えない、従来型のTBCを用いたガスタービンでは、1年間の運転後に多数の部品でTBCの遮熱層が溶融塩腐食によって局所的に剥離しているのが認められ、部品の補修,交換が必要となった。また、TBCの剥離部から遮熱層を機械的に剥ぎ取って採取し、遮熱層の断面を分析したところ、S,Vが検出された。
【0046】
以上の結果から、本実施例のガスタービンは、その優れた高温部品の耐食性により、安価な低品位の燃料を使用して、高信頼で運転することが可能となり、経済性,安定運用性に優れ、発電プラントに好適である。また、低品位燃料を用いた溶融塩腐食環境下での長期間の運転においても、十分な耐久性,信頼性を有する。また、本実施例で用いた、低硫黄A重油よりも、さらに腐食成分含有量の多い、低品位の燃料、例えば、高硫黄A重油,B重油,C重油等を用いた場合も、高温部品の高耐久性が期待できる。
【符号の説明】
【0047】
10 合金基材
11 結合層
12 遮熱層
13 環境遮蔽層
14 含浸層
15 溶射粒子
16 気孔
21,31 翼部
22 プラットフォーム部
23 シャンク部
24 シールフィン
25 チップポケット
26 ダブテイル
32 エンドウォール
40 燃焼器
41 燃焼器ノズル
42 燃焼器ライナ
43 トランジションピース
44 タービン
45 タービン動翼
46 タービン静翼
47 タービンシュラウド
48 タービンケーシング
49 タービンロータ
50 圧縮機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni,CoまたはFeを含む合金よりなる基材と、基材上に設けられ、合金よりなる結合層と、結合層上に設けられた遮熱コーティングを有するガスタービン動・静翼であって、
前記遮熱コーティングは、多孔質セラミックスの遮熱層と、
シリカを含む環境遮蔽層と、
多孔質のセラミックスの気孔内にシリカを含む物質を有する含浸層と
を含むことを特徴とするガスタービン動・静翼。
【請求項2】
請求項1において、低品位燃料を用いた溶融塩腐食環境下で使用されることを特徴とするガスタービン動・静翼。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記遮熱層はジルコニアよりなることを特徴とするガスタービン動・静翼。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記環境遮蔽層の厚さが0.05〜0.1mmであることを特徴とするガスタービン動・静翼。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記環境遮蔽層の気孔率が5%以下であることを特徴とするガスタービン動・静翼。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記遮熱層の厚さが0.1〜1mmであることを特徴とするガスタービン動・静翼。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記遮熱層の気孔率が10〜30%の範囲であることを特徴とするガスタービン動・静翼。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記含浸層の厚さが0.01〜0.1mmであることを特徴とするガスタービン動・静翼。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記環境遮蔽層は、シリカ前駆体を含む溶液を用いて形成された層であることを特徴とするガスタービン動・静翼。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかにおいて、前記結合層がMCrAlY合金またはMCrAl合金(MはFe,Ni及びCoの少なくとも1種)であり、前記多孔質のセラミックスが部分安定化ジルコニアであることを特徴とするガスタービン動・静翼。
【請求項11】
Ni,CoまたはFeを含む合金よりなる基材と、基材上に設けられ、合金よりなる結合層と、結合層上に設けられた遮熱コーティングを有するガスタービン用燃焼器であって、
遮熱コーティングは、多孔質セラミックスの遮熱層と、
シリカを含む環境遮蔽層と、
多孔質のセラミックスの気孔内にシリカを含む物質を有する含浸層と
を含むことを特徴とするガスタービン用燃焼器。
【請求項12】
Ni,CoまたはFeを含む合金よりなる基材と、基材上に設けられ、合金よりなる結合層と、結合層上に設けられた遮熱コーティングを有するガスタービン用シュラウドであって、
遮熱コーティングは、多孔質セラミックスの遮熱層と、
シリカを含む環境遮蔽層と、
多孔質のセラミックスの気孔内にシリカを含む物質を有する含浸層と
を含むことを特徴とするガスタービン用シュラウド。
【請求項13】
請求項1,11または12を備えることを特徴とするガスタービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−137073(P2012−137073A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291548(P2010−291548)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】