説明

遮熱塗料の熱量の測定方法

【課題】 実際に即したきめ細かい熱量負荷の算出を行って、正確な熱貫流量削減率を決めることができる。
【解決手段】 塗料の塗色の決定をした後、この塗料のJIS A5759に定義される日射反射率を測定し、測定した日射反射率から日射吸収率を算出し、この日射吸収率をもとに下記A式により相当外気温を算出し、さらに、下記B式により貫流熱量を算出することを特徴とした遮熱塗料の効果の測定方法。
A式:相当外気温度=気温+日射量×日射吸収率/20B式:貫流熱量=K値×面積×(相当外気温度−室温)
ただし K値(熱貫流抵抗)は被塗装材の熱貫流率

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、太陽熱を遮熱する塗料の熱量の測定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】本件出願人は、先に、太陽の日射を受ける陸上、海上の各種構造物、船舶、建築物、自動車、家電製品等の外面を被覆し、これらの内部温度の上昇を抑えることにより、空調費の低減あるいは内容物の蒸発減耗の低減を図り、エネルギーの節約に顕著な効果を期待し得るとともに、長期耐久性に優れ、環境衛生上の問題もなく、着色可能で美観も兼ね備える太陽熱遮蔽塗料で、膜厚をそれほど大きくしなくとも所定の太陽熱遮熱効果を発揮でき、また、有機系顔料を使用することで色彩に幅を持たせることができ、さらに、黒、グレ−に限定されることなく任意の色に、しかも濃彩色でも、また、冴えた色調も実現可能な太陽熱遮蔽塗料を発明し、これを特願平11−17046号として特許出願した。
【0003】この特願平11−17046号の太陽熱遮蔽塗料は、上塗、中塗、下塗もしくは電着の全塗装系の全てを、または、上塗、中塗、下塗もしくは電着の全塗装系のうち、中塗塗料を、または、上塗を除いた一部塗料を、顔料とビヒクルとを主成分とし、顔料は近赤外領域で反射を示し、JIS A5759に定義される日射反射率が15%以上であって、かつCIE 1976 L*a*b*色空間におけるL*値が20以下の有機系または有機系および無機系の太陽熱遮蔽着色顔料を複数混合してなる太陽熱遮蔽塗料で塗装することを要旨とするものである。
【0004】この太陽熱遮蔽塗料によれば、表面温度では著しい効果がみられ、太陽の直射を受ける船舶、各種建造物の外面を覆することにより、長期間太陽熱を遮蔽し、内部の温度上昇を抑制し、空調費の改善あるいは内容物の蒸発消耗を抑制して、エネルギーの節減に顕著な効果を期待しうる太陽熱遮蔽塗料ならびにそれの塗装が可能となるものであり、産業の発展に貢献するところ極めて大なるものがある。
【0005】これに加えて、膜厚をそれほど大きくしなくとも所定の太陽熱遮熱効果を発揮でき、また、有機系顔料を使用することで色彩に幅を持たせることができ、さらに、黒、グレ−に限定されることなく任意の色に、しかも濃彩色でも、また、冴えた色調も実現可能なものである。
【0006】ところで、このような太陽熱遮蔽塗料を建物に塗装してその効果を得ようとする場合に、どの程度の量を塗装すれば、どの程度の遮熱効果が得られるかが問題となる。より、少ない塗装量で最大の遮熱効果を上げることが望ましいからである。
【0007】建物における太陽熱遮熱効果は、これを冷房顕熱負荷として捕らえることができる。冷房顕熱負荷は以下に挙げる諸要因によって作り出される熱負荷の合計である。
(1)内外温度差による壁体貫流熱壁体面積*熱貫流率*内外温度差(2)日射による壁体貫流熱壁体面積*熱貫流率*相当外気温度上昇(3)日射による窓透過熱窓面積*窓遮蔽係数*入射日射量(4)内外温度差による換気熱換気量*0.3(空気容積比熱)*内外温度差(5)建家内発生熱機器容量(kw)*使用率*860人数*在室率*人体代謝量これらのうちで、遮熱塗料に関係するのは(1)と(2)の壁体貫流熱である。
【0008】(2)の日射による壁体貫流熱の計算式に現れる相当外気温度上昇Δθとは、

ここに、α :壁体表面の日射吸収率α。:外表面熱伝達率(常用値:20.0kcal/mh℃)
J :入射日射量(kcal/mh)
で表されるもので、入射日射量の熱効果は、外気温がΔθだけ上昇したのと等価であることを表している。これと真の外気温θ。とを合わせたものを「相当外気温度θ」と呼んでいる。
θ=θ。+Δθ(2)
【0009】(1)と(2)の2つの壁体貫流熱は相当外気温度の導入により、合算されて、

ここに、θ:外気温度θ:室内温度という形で計算するのが通常のやり方である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】図6は屋根面より貫流熱量の算出方法の従来例を示すもので、従来、(1)式に現れる日射吸収率αについて、在来の熱負荷計算法では、α=0.8という固定値が用いられてきた。この値はコンクリートもしくはモルタルの地肌の吸収率を想定したものであり、これまで、外壁表面の日射吸収率を意図的に制御するという発想があまりなかったので、この値をすべての建材表面に適用して問題はなかったのである。
【0011】しかし、前記特願平11−17046号の太陽熱遮蔽塗料のごとき遮熱塗料では、あらためて日射吸収率についてもっと厳密に取り扱う必要が生じてきた。
【0012】本発明の目的はこのような事情に鑑みて、実際に即したきめ細かい熱量負荷の算出を行って、正確な熱貫流量削減率を決めることができる遮熱塗料の熱量の測定方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明は前記目的を達成するため、塗料の塗色の決定をした後、この塗料のJIS A5759に定義される日射反射率を測定し、測定した日射反射率から日射吸収率を算出し、この日射吸収率をもとに下記A式により相当外気温を算出し、さらに、下記B式により貫流熱量を算出することを要旨とするものである。
A式:相当外気温度=気温+日射量×日射吸収率/20B式:貫流熱量=K値×面積×(相当外気温度−室温)
ただし K値(熱貫流抵抗)は被塗装材の熱貫流率
【0014】請求項1記載の発明によれば、従来、固定値が用いられてきた日射吸収率について、これを日射反射率を測定し、測定した日射反射率から算出するようにしたことで、建材の外側面を占めるという塗料特有の遮熱作用に対する熱量負荷の算出がきめ細かく可能となる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の遮熱塗料の効果の測定方法の1実施形態を示す説明図、図2は同上縦断正面図で、屋根面よりの貫流熱量の算出方法を示す。
【0016】図1に示すように、本発明は、塗料の塗色の決定をした後、この塗料のJISA5759に定義される日射反射率を測定する。そして測定した日射反射率から日射吸収率を算出する。
【0017】日射反射率を測定に関してはJIS A5759に有る通り、分光光度計を用いて、波長350mmから2100mmまでを波長間隔50mmごとに36波長点の分光透過率(Rλ)を測定し()、次式によって日射反射率を計算するか又は反射率計を用いて直接日射反射率を求める。


ここにR:日射透過率(%)
Eλ:日射の分光分布の値Rλ:分光反射率ただし、分光反射率の分布曲線が振動波形を示すフィルムは、山と谷の中間を通る平均的な分布曲線によって、各波長における分光反射率を求めて計算する。
注() Rλの測定に際しては、試験片を約10度傾けて取付け、正反射光を積分球に捕らえるようにする。
【0018】日射反射率から日射吸収率を算出するには逆数を取ればよい。例えば、日射反射率βがβ=0.2の場合には日射吸収率αはα=0.8となる。(図2と図6の比較参照)
【0019】この日射吸収率をもとにA式:相当外気温度=気温+日射量×日射吸収率/20から相当外気温を算出する。
【0020】さらに、B式:貫流熱量=K値×面積×(相当外気温度−室温)から貫流熱量を算出する。
【0021】ただしK値(熱貫流抵抗)は被塗装材(屋根材)の熱貫流率であり、 1/20 外部熱貫流抵抗(外部伝達率)〔R0〕
塗膜の熱貫流抵抗 (厚さ/熱伝達率)〔R1〕
鋼板(屋根材)の熱貫流抵抗 (厚さ/熱伝達率)〔R2〕
断熱材の熱貫流抵抗 (厚さ/熱伝達率)
1/10 内部熱貫流抵抗(内部伝達率)〔R3〕
【0022】図2、図6で、R0の外部熱貫流抵抗は1/20であり、R1の塗膜の熱貫流抵抗は塗料の厚さL1と塗料の熱伝導率から求めるものであり、R2の鋼板(屋根材)の熱貫流抵抗は、鋼板(屋根材)の厚さL2と鋼板(屋根材)の熱伝導率から求めるものであり(断熱材がある場合は断熱材の厚さと断熱材の熱伝導率が関与する)、R3の内部伝達率 1/10である。R0とR3は固定数値となる。
【0023】前記特願平11−17046号の太陽熱遮蔽塗料(遮熱塗料)ならびに一般塗装のデータをもとに、日射吸収率が熱負荷に及ぼす影響についてケーススタディを試みた。各種塗装の日射吸収率データは下記表1の通りである。
【0024】
【表1】


【0025】この日射吸収率データは前記のごとくJIS A5759に定義される日射反射率を測定し、測定した日射反射率から日射吸収率を算出した。
【0026】相当外気温度については、空気調和衛生工学会編「空気調和衛生工学便覧」によると、東京における冷房設計用外界気象条件は下記表2のようになっている。(同書空調設備篇第2章)。
【0027】
【表2】


【0028】前記表2にもとづいて、屋根(水平面)に表1の特性を持つ塗装が施されている場合の相当外気温度を計算すると、図3の通りとなる。この結果によると、ホワイトは一般塗装でも日射反射率が高いために遮熱塗装と大きな差を生じないが、ブラック、グレーのような色調のある塗装では、日ざかり時刻において10〜15℃程度の相当外気温度の低下が見られる。
【0029】壁体貫流熱は前記(3)式で計算される。面積1000mの水平屋根があり、これにケーススタディ1の6種の表面塗装を施すものとする。屋根構造は非断熱(K=8.00kcal/mh℃) 、断熱(断熱厚:50mm,K=0.503kcal/mh℃)の2種類を考える。建家内は室温26℃に制御されているとする。
【0030】以上の条件で屋根からの貫流熱量を求めると、図4のようになる。結果を一見して分かるように、遮熱塗装は厚50mmといった断熱に匹敵するものではない。しかし、同じ断熱状態で一般塗装と比較すると、ホワイトでも約20%、グレー、ブラックでは30−40%の貫流熱量の減少(日ざかり時刻)が見られる。
【0031】冷房負荷と自然温度の関係は、東西50m、南北20m(床面積1000m)、軒高さ5mの倉庫状の建家を想定すると、屋根は非断熱と断熱、グレーの一般塗装と遮熱塗装の組み合わせで合計4種類を考える。屋根以外の壁面については、屋根と同じ断熱で、日射吸収率は0.8とする。次にこの建家の換気量をV〔m/h〕とすると、建家内自然室温θ〔℃〕は、

ここに、Q:建屋全体の冷房熱負荷〔kcal/h〕
右辺分母:建屋の総熱貫流率〔kcal/h℃〕
で得られる。換気回数を1,10〔回/h〕の2種として、合わせて前記表1の8ケースにつき、冷房負荷Qを計算した結果、換気回数l回/hの方を見ると、遮熱塗装により日ざかり時刻で20〜25%の冷房負荷の減少となっている。一方、10回/h換気の場合には、導入される外気の温度が支配的になり、断熱も遮熱塗装もその効果は相対的に小さくなる。それでも一般塗装+非断熱と遮熱塗装+断熱では5℃程度の効果は見られた。
【0032】
【発明の効果】以上のべたように本発明の遮熱塗料の熱量の測定方法は、実際に即したきめ細かい熱量負荷の算出を行って、正確な熱貫流量削減率を決めることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の遮熱塗料の熱量の測定方法の1実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明の遮熱塗料の熱量の測定方法の1実施形態を示す縦断正面図である。
【図3】相当外気温度のグラフである。
【図4】屋根面からの貫流熱負荷の比較を示すグラフである。
【図5】自然室温を示すグラフである。
【図6】従来例を示す縦断正面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 塗料の塗色の決定をした後、この塗料のJIS A5759に定義される日射反射率を測定し、測定した日射反射率から日射吸収率を算出し、この日射吸収率をもとに下記A式により相当外気温を算出し、さらに、下記B式により貫流熱量を算出することを特徴とした遮熱塗料の熱量の測定方法。
A式:相当外気温度=気温+日射量×日射吸収率/20B式:貫流熱量=K値×面積×(相当外気温度−室温)
ただし K値(熱貫流抵抗)は被塗装材の熱貫流率

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2002−39977(P2002−39977A)
【公開日】平成14年2月6日(2002.2.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−221978(P2000−221978)
【出願日】平成12年7月24日(2000.7.24)
【出願人】(399006881)
【Fターム(参考)】