説明

選択的エストロゲン受容体モジュレーターまたはアロマターゼ阻害剤を用いた慢性非細菌性前立腺炎の治療方法

(i)前立腺におけるエストロゲン・アンタゴニスト作用を有する選択的エストロゲン受容体モジュレーター、(ii)アロマターゼ阻害剤、及び/または(iii)抗エストロゲンを効果的な量で投与する工程を含む、尿道括約筋機能不全を伴わない個人における、慢性非細菌性前立腺炎の治療または予防方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)化合物、アロマターゼ阻害剤、及び/または抗エストロゲンを用いて、慢性非細菌性前立腺炎を患う男性を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺炎は前立腺の炎症性疾患であり、この疾患には、全男性の50%近くが、彼らの人生のある時期に罹患する。慢性非細菌性前立腺炎には、前立腺の炎症が含まれ、一般に、すべての年齢の男性に発症がみられる。前立腺炎は、慢性疼痛症候群(CPPS)、不快症状及び排尿痛を含む尿障害、頻尿及び尿意逼迫、または膀胱の排出障害を引き起こす可能性がある。
【0003】
アンドロゲンが存在する適切なホルモン環境では、慢性非細菌性前立腺炎は、前立腺過形成(良性前立腺肥大(「BPH」))、及び、前立腺癌に進行する可能性がある。
【0004】
選択的エストロゲン受容体モジュレーター(「SERMs」)は、異なる組織中のエストロゲン受容体に結合しているが、アンタゴニストまたはアゴニストのどちらの作用も及ぼす化合物である。タモキシフェン、トレミフェン、ラロキシフェン、ラソフォキシフェン、バゼドキシフェン、オスペミフェン、及びフィスペミフェンなどの化合物は、典型的なSERMである。それらは、乳癌においては抗エストロゲン性であり、骨ではエストロゲン性であるなど、いくつかの共通する特徴を共有しているのに対し、他の器官では、それらは、さまざまな程度のエストロゲンまたは抗エストロゲン特性を示す。尿管では、抗エストロゲン特性が優勢であるように思われる。
【0005】
実験モデルは、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERMs)が下部尿路症状(LUTS)の治療または予防に有用であろうことを示している。SERMsを用いた、非細菌性前立腺炎を含めた下部尿路症状の治療または予防方法が、参照することにより本明細書に援用される、特許文献1に十分に開示されている。
【0006】
参照することにより本明細書に援用される、特許文献2には、アロマターゼ阻害剤による、LUTSを引き起こす尿道括約筋機能不全の治療が教示されている。
【0007】
SERMsまたはアロマターゼ阻害剤を用いた尿路症状の治療の基本は、テストステロンに対するエストラジオールの割合の増加の結果として、LUTSを引き起こす尿道括約筋機能不全の進行を生じさせることの観察にある。しかしながら、骨盤痛を伴う非細菌性前立腺炎は、場合によっては尿道括約筋機能不全と関係している可能性があるが、慢性非細菌性前立腺炎の原因がエストロゲン依存性であることは、以前には示されていない。
【0008】
男性においては、良性前立腺過形成(BPH)、良性前立腺肥大による尿道閉塞が、LUTSの主原因であるとみなされることが多い。しかしながら、幾つかの研究は、前立腺肥大、閉塞、及び、LUTSの間には、弱い相関関係しか存在しないことを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願第10/454,823号明細書
【特許文献2】米国特許第5,972,921号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
現在は、慢性非細菌性前立腺炎がエストロゲン依存性であることが判明している。成熟したNobleラットにおけるアンドロゲンに対するエストロゲンの濃度比の上昇は、尿道括約筋機能不全を同時に生じさせることなく、前立腺での直接的影響として非細菌性前立腺炎を引き起こす。ラットにおける前立腺炎は炎症細胞の観察によって決定され、組織学的には、人間のものと似ていることが判明している。
【0011】
したがって、本発明は、男性における慢性非細菌性前立腺炎の治療方法に関し、ここで、慢性非細菌性前立腺炎は尿道括約筋機能不全とは無関係である。本方法は、(i)前立腺における抗エストロゲン作用を有する選択的エストロゲン受容体モジュレーター、(ii)アロマターゼ阻害剤、及び/または(iii)抗エストロゲンを効果的な量で、それらを必要とする患者に投与する工程を含む。
【0012】
本発明はまた、BPHの進行、及び前立腺癌を予防する方法でもある。間質過形成の進行(ヒトBPHにおける間質過形成と同種)及び前立腺癌の進行は、長期間にわたる慢性前立腺炎と関係がある。例えばフィスペミフェンなどのSERMs、またはアロマターゼ阻害剤、もしくは抗エストロゲンを用いた慢性前立腺炎の治療は、BPHの進行または前立腺癌の進行を予防するであろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、本発明がフィスペミフェンなどのSERMsが前立腺におけるエストロゲン作用を遮断し、したがって、慢性非細菌性前立腺炎の予防または治療に利用できる可能性があることを見出した。同様に、アロマターゼ阻害剤の使用、または抗エストロゲンの使用による、体内のエストロゲン濃度の低下を利用して、この症状を治療することができる。
【0014】
慢性非細菌性前立腺炎におけるテストステロンに対するエストロゲンの割合の上昇の影響について明らかにするため、Nobleラットの第1群を、テストステロン(T)(240μg/日)、及びエストラジオール(E2)(70μg/日)で6週間治療し、動物に正常T/高E2の特徴を発現させた。(T/E2の比は、対照群では150であるのに対し、試験群では30であった。E2濃度は、対照群が10pg/mlであるのに対し、30pg/mlであった。)動物は、尿管閉塞を伴わない非細菌性前立腺炎、及び正常の大きさの前立腺を呈した。
【0015】
低テストステロン環境におけるエストラジオールの高比率の影響を明らかにするため、NobleラットをT(240μg/日)、及びE2(70μg/日)で13週間治療し、低T/高E2の特徴を発現させた。(T/E2の比は、対照群では150であるのに対し、試験群では1〜10であった。テストステロン濃度は、対照の1.5ng/mlに対し、100pg/mlであった。エストラジオール濃度は、対照群の10pg/mlに対し、40〜80pg/mlであった。)この群の動物は、この場合も尿管閉塞がなく、顕著な排尿水力学的変化を伴わない慢性非細菌性前立腺炎を呈した。動物は小さい前立腺を呈していたが、男性における良性前立腺過形成と同様の間質過形成がみられた。
【0016】
高テストステロン環境との関連における、テストステロンに対するエストラジオールの割合の増大の影響を実証するため、nobleラットの第3群をT(800μg/日)、及びE2(70μg/日)で13週間治療した。(T/E2の比は、対照群では150であるのに対し、試験群では75であった。テストステロン濃度は、対照群が1.5ng/mlであるのに対し、4.5ng/mlであった。エストラジオール濃度は、対照群が10pg/mlであるのに対し、60pg/mlであった。)これら動物の前立腺は正常よりも大きく、慢性前立腺炎及び前癌性の病変、ならびに前立腺管癌を発現し、BPH及び前立腺癌の進行傾向が示唆された。
【0017】
エストロゲン・アンタゴニストを使用した慢性非細菌性前立腺炎の治療を実証するため、ラットの第4群をT(240μg/日)、及びE2(70μg/日)で3週間治療した後、2回量の純粋なエストロゲン・アンタゴニストであるフルベストラント(fulvestrant)(5mg/kg)を第3週に投与した。フルベストラントは、TとE2のみで治療した対照群に比べて、前立腺炎を顕著に低減させた。前立腺炎は抗エストロゲンの投与によって食い止めることができることから、症状はエストロゲン依存性であると考えられる。
【0018】
前立腺におけるフィスペミフェンのエストロゲン・アンタゴニスト作用を実証するため、Nobleラットの第5群を去勢し、エストラジオールの同時投与(70μg/日)の有無の両条件について、3、10及び30mg/kgの用量のフィスペミフェンで3週間治療した。エストロゲン作用の感受性マーカーであるFRA2またはPRの発現を測定することにより、フィスペミフェンが、前立腺におけるエストロゲン・アンタゴニストであり、前立腺においてエストラジオールの作用を用量依存的に阻害することが観察された。
【0019】
限定はしないが、経口、局所、経皮、または皮下経路を含めたさまざまな経路によってヒト男性に投与された、0.1〜100mg/kgの用量のフィスペミフェン(または他のSERM)は、前立腺におけるエストロゲン・アンタゴニスト作用を有しており、慢性非細菌性前立腺炎を治療し、及び/またはBPH及び前立腺癌の進行を予防すると考えられる。好ましい用量は、約0.1〜約10.0mg/kgの範囲であり、期待される日用量は一人当たり約100mg〜約300mgの範囲であると予想される。経口投与の経路が最も好ましいと考えられる。適切な剤形としては、例えば、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、懸濁液、及びシロップが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
男性における慢性非細菌性前立腺炎の治療方法であって、
(i)前立腺における抗エストロゲン作用を有する選択的エストロゲン受容体モジュレーター、(ii)アロマターゼ阻害剤、(iii)抗エストロゲン、及びそれらの組合せからなる群より選択される薬剤を効果的な量で、それらを必要とする患者に投与する工程を有してなり、
前記慢性非細菌性前立腺炎が尿道括約筋機能不全と無関係であることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
男性における良性前立腺過形成(BPH)または前立腺癌の進行を予防する方法であって、
尿道括約筋機能不全を伴わない慢性非細菌性前立腺炎を有する男性に、(i)前立腺における抗エストロゲン作用を有する選択的エストロゲン受容体モジュレーター、(ii)アロマターゼ阻害剤、(iii)抗エストロゲン、及びそれらの組合せからなる群より選択される薬剤を効果的な量で投与する工程を有してなる、
方法。
【請求項3】
体重1kgあたり約0.1〜約100mg/kgの量でフィスペミフェンを投与する工程を含む、請求項1または2記載の方法。

【公表番号】特表2009−537629(P2009−537629A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511598(P2009−511598)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【国際出願番号】PCT/IB2007/001321
【国際公開番号】WO2007/135547
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(506277524)ホルモス メディカル リミテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】HORMOS MEDICAL LTD.
【Fターム(参考)】