説明

部品のリサイクル洗浄方法およびその部品洗浄装置。

【課題】本願発明は、火災や爆発等の災害を生じるおそれがなく、洗浄液を繰り返して使用でき、かつ、ポンプ等の動力を使用せず、被洗浄物から除去した汚れ成分の廃棄に際しても洗浄液の混入を極力押えた電気部品、機械部品等の洗浄方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本願発明に係る洗浄方法は、アセトンが92質量%ないし88質量%を占めるアセトンと水との混合液を第1の槽で加熱して沸騰させ、部品を納置した第2の槽にこの沸騰液を噴射させてフラッシュ洗浄し、フラッシュ洗浄後の混合液を冷却後にアセトンが40質量%ないし20質量%を占めるアセトンと水との混合液と混合して蒸留し、この蒸留液を再度洗浄液として使用する一方、汚れ成分を含んだ残留液を廃棄することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電気部品、機械部品等の被洗浄物を、アセトンと水の混合液を用いて洗浄を行う洗浄方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気部品、機械部品等の被洗浄物を洗浄する場合に、不燃性溶剤であるフロン類やトリクロロエタン等の不燃性有機溶剤を用いて行うのが一般的であった。しかしながら、これらの不燃性有機溶剤はオゾン層を破壊し地球環境を悪化させる原因物質であり、かつ、フロン類は地球温暖化の原因物質であることから、今後これらの物質を洗浄液として使用することが困難になってきている。
【0003】
これらの不燃性有機溶剤に代わる洗浄液として、メタノール、エタノール等のアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系、ベンゼン、トルエン、キシレン等の石油系等の可燃性溶剤が存在する。これらの可燃性溶剤は、優れた洗浄効果を有するものの、極めて引火し易く、洗浄液として使用した場合には火災や爆発等の災害を生じるおそれを有している。このため、上記可燃性溶剤を用いて洗浄を行うには、洗浄雰囲気と外気とを遮断する必要がある。
【0004】
また、従来の洗浄方法では、洗浄によって汚染された洗浄液を蒸留器等でリサイクルする設備を設けていても、洗浄液を洗浄装置内に封じ込めたまま汚れ物質のみを洗浄装置外に排出する機能がなく、所定期間経過後は洗浄装置を停止して使用済みの洗浄液を新たな洗浄液に交換する必要があった。
【0005】
このような問題点を解決する技術として、特許第3066117号公報に開示の技術がある。この技術は、「電気部品、電子部品、機械部品、光学関連部品、樹脂加工品、印刷用スクリーン等の被洗浄物を洗浄する洗浄装置に於て、洗浄雰囲気の相対的空気濃度を低下させ、可燃性洗浄溶剤の燃焼が可能となる条件の成立を常に完全に阻止することによって、フロン、トリクロロエタン等の不燃性溶剤に代わる可燃性溶剤の使用を可能にし、洗浄溶剤と水の蒸留分離を行いながら、かつ洗浄溶剤中の汚れ成分のみを、蒸留器から流出する凝縮水とともに排出させ、洗浄溶剤濃度の維持及び洗浄溶剤の汚れを防ぐ事を可能とし、廉価なランニングコストで洗浄を行う」ことを目的とし、その解決方法として、「被洗浄物の搬入口と、洗浄を完了した被洗浄物の搬出口とにスチーム、またはスチームと窒素、またはスチームと炭酸ガスのいずれかを供給し、洗浄雰囲気と外気との連通をスチーム、またはスチームと窒素、またはスチームと炭酸ガスのいずれかで遮断するとともに搬入口と搬出口間に、水より沸点の低い可燃性溶剤を用いる洗浄室および水と可燃性溶剤を分離する蒸留器を設置し、この蒸留器のコンデンサーを洗浄室に接続し、この洗浄室を経由して蒸留器に凝縮液を還流可能とするとともに被洗浄物から除去した汚れ成分を、蒸留器により可燃性溶剤から分離される凝縮水とともに系外に排出」することとしたものである。
【特許文献1】特許第3066117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許第3066117号公報に開示の技術は、洗浄雰囲気と外気とを不活性のガスで遮断するため、火災や爆発等の災害を生じるおそれは有さないものの、被洗浄物の搬入口と、洗浄を完了した被洗浄物の搬出口とにスチーム、またはスチームと窒素、またはスチームと炭酸ガスのいずれかを供給し、洗浄雰囲気と外気との連通をスチーム、またはスチームと窒素、またはスチームと炭酸ガスのいずれかで遮断するなど、設備も比較的大掛かりであり、廉価なランニングコストで洗浄を行うことはできても、イニシャルコストについては、廉価とはならない。
【0007】
そこで、本願発明は、火災や爆発等の災害を生じるおそれがなく、被洗浄物から除去した汚れ成分の廃棄に際しても洗浄液の混入を極力押えた電気部品、機械部品等の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願請求項1に係る部品のリサイクル洗浄方法は、アセトンがM質量%(ただし、92>M>88)を占めるアセトンと水との第1の混合液が満たされた第1の槽は加熱されて該第1の混合液が沸騰し、沸騰した前記第1の混合液はその蒸気とともに第2の槽に導入されて該第2の槽内に納置された部品をフラッシュ洗浄し、前記第2の槽の底部に貯留した前記フラッシュ洗浄後の前記第1の混合液は前記第1の槽に導入されて再度前記フラッシュ洗浄に使用されるとともに、前記第2の槽の底部に貯留した前記フラッシュ洗浄後の前記第1の混合液は所定のレベルを維持し該所定のレベルを超えると前記第1の槽内の前記第1の混合液は第3の槽に導入され、前記第3の槽内のアセトンがN質量%(ただし、40>N>20)を占めるアセトンと水との第2の混合液と混合された後に加熱されて蒸気を発生し、前記蒸気は冷却液化されて蒸留される一方、前記第3の槽に残留した残留液は所定量貯留された後に廃棄され、前記蒸留後の液体は前記第1の槽に導入されて前記フラッシュ洗浄に再使用される、ことを特徴としている。
また、本願請求項2に係る部品のリサイクル洗浄方法は、請求項1に記載の部品のリサイクル洗浄方法であって、前記第2の槽の上部に滞留する前記第1の混合液の蒸気は冷却液化されて前記第2の槽の底部に導入される、ことを特徴としている。
そして、本願請求項3に係る部品のリサイクル洗浄方法は、請求項1または請求項2に記載の部品のリサイクル洗浄方法であって、前記蒸留後の液体には必要に応じてアセトンおよび/または水が加えられる、ことを特徴としている。
さらに、本願請求項4に係る部品のリサイクル洗浄方法は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の部品のリサイクル洗浄方法であって、外部と連通可能で気密性を有する前記第1の槽、同前記第2の槽および同前記第3の槽を備え、前記第1の槽の上部と前記第2の槽の上部、前記第2の槽の下部と前記第1の槽の下部、前記第1の槽の下部と前記第3の槽の下部、および前記第3の槽の上部と前記第1の槽の下部はそれぞれ導管を介して連通し、前記第1の槽、前記第2の槽、前記第1の槽、前記第3の槽および前記第1の槽をこの順で循環する管路が形成され、前記第1の槽および前記第3の槽は加熱装置を備え、前記第2の槽は冷却装置を備える該第2の槽の上部と下部を連結するバイパス導管を備え、前記第3の槽の上部と前記第1の槽の下部とを連結する導管は冷却装置を備え、前記第1の槽の下部と前記第3の槽の下部とを連通する導管には上方に向けて曲折し外部に連通するU字管が介設されて、前記所定のレベルと該U字管の曲折部のレベルは同一であり前記第1の槽の頂部のレベルは前記所定のレベルよりも下方に位置している、ことを特徴としている。
また、本願請求項5に係る部品洗浄装置は、請求項4に記載の部品のリサイクル洗浄方法に使用される部品洗浄装置であって、前記第1の槽の上部と前記第2の槽の上部とを連結する導管は前記第2の槽側で管径が狭まっている、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本願請求項1に係る部品のリサイクル洗浄方法は、洗浄液としてアセトンと水との第1の混合液を使用しているため、その沸点は水との混合割合に拠るが、概ね58℃前後の比較的低温である。そのため、この沸騰液を洗浄に使用しても被洗浄物たる部品の品質に対して熱による影響を及ぼすことがない。
【0010】
また、被洗浄物たる部品にアセトンと水とが混合された沸騰液と蒸気によるフラッシュ洗浄をおこなっている。従来の洗浄方法には、浸し洗浄、スプレー洗浄、電解洗浄、超音波洗浄および蒸気洗浄があるが、ここにいうフラッシュ洗浄とは、被洗浄物に対し間歇的に蒸気と沸騰液を墳射する洗浄方法をいい、スプレー洗浄と蒸気洗浄の利点を兼ね備えたものである。すなわち、沸騰液を部品に衝突させて、油、切粉、その他の汚れを洗浄液の作用と衝突するときの力を利用して強力な洗浄をおこなうとともに、蒸気を用いることにより、部品によく浸透し、脱脂能力が増大するのである。
【0011】
そして、フラッシュ洗浄後の第1の混合液は、第1の槽に送出され、第1の槽内の第1の混合液と混合されて、繰り返しフラッシュ洗浄に使用される。その一方で、第2の槽の底部に貯留したフラッシュ洗浄後の混合液は、所定のレベルを維持し、第1の槽内は第1の混合液で満たされているから、第1の槽内の第1の混合液が無くなることによるいわゆる空焚きを防止することができる。ここにいう所定のレベルとは、第2の槽内の混合液の液位をいう。
【0012】
所定のレベルを超えると、超えた部分に相当する第1の槽内の第1の混合液は第1の槽と第3の槽を連結する導管を通って第3の槽に導入され、そこで第2の混合液に送出され加熱されて蒸気を発生する。この第2の混合液は、第1の混合液よりもアセトンの混入量が低く、第1の混合液中のアセトンを希釈したものとなる。そして、蒸気中にはアセトンが多く含まれ、混合液中の水分の多くは部品の汚れ成分とともに残留液として第3の槽の底部に貯留する。このため、加熱・蒸気発生を継続しておこなうことにより、残留液は主に部品の汚れ成分および多量の水と少量のアセトンから構成されたものとなる。
【0013】
さらに、前記の蒸気を冷却し液化された蒸留後の液体は、アセトンを多く含み第1の混合液の組成に近いものとなる。第1に混合液の組成に近いものとなることにより、水あるいはアセトンを新たに加えることなく第1の混合液として部品の洗浄に再利用することができる。
【0014】
本願発明に係る洗浄方法は、洗浄前における部品の第2の槽内への納置時、洗浄前における第1の混合液の第1の槽内への注入時と第2の混合液の第3の槽内への注入時、および洗浄後における残留液の第3の槽からの排出時を除いて、洗浄中は洗浄雰囲気と外気は完全に遮断されている。そのため、可燃性溶剤であるアセトンを用いた洗浄を安全におこなうことができる。
【0015】
そして、第1の混合液におけるアセトンの質量%であるMを92>M>88としている。Mの値が大きいほど混合液の洗浄能力は高くなる一方で、混合液の引火点が低くなって引火しやすくなり、また、第3の槽における残留液中のアセトンの割合も大きくなって廃棄するのに適さなくなることから、上記の範囲内の値が好ましい。さらに、第2の混合液におけるアセトンの質量%であるNを40>N>20としている。この混合比により、第3の槽で蒸留された液体は第1の混合液として、そのまま部品の洗浄に再使用することができる。
【0016】
本願請求項3に係る部品のリサイクル洗浄方法では、第1の混合液および/または第2の混合液に、必要に応じてアセトンおよび/または水を加え、第1の混合液におけるアセトンの質量%であるMおよび第2の混合液におけるアセトンの質量%であるNを適切に調整することができる。
【0017】
本願請求項4に係る部品洗浄装置は、第1の槽、第2の槽および第3の槽と、それぞれを連結する導管により構成されていて、装置全体として、気密性を有している。このため、有害性を有し揮発性が高く、かつ、引火性のあるアセトンが漏れ出すことはない。また、ポンプなどの動力を必要とせず、加熱のみにより装置を作動させている。このため、装置自体の構成が極めて単純かつ簡単であり、装置のイニシャルコストやランニングコストは低廉である。
また、第1の槽と第3の槽とを連通する導管には上部に向けて曲折するU字管が介設されていて、さらに、第2の槽と第1の槽とは導管によって連通しているから、大気圧により、第2の槽内の混合液は、U字管の曲折部のレベルと同一のレベル、すなわち、所定のレベルとなる。さらに、このU字管は外部に連通しているので、第1の槽内の混合液がU字管を貫流して第3の槽内に流入しても、U字管のサイホン効果が防止され、第2の槽内の混合液は、常に、所定のレベルを維持することになる。なお、U字管の曲折部のレベルは第1の槽の頂部のレベルよりも上方に位置しているから、第1の槽は、常に、第1の混合液で満たされていることになる。
【0018】
本願請求項5に係る部品洗浄装置では、第1の槽と第2の槽とを連結する導管がその先端近傍(すなわち、第2の槽側)で管径が狭くなった括れ部が形成されている。このため、第1の槽で加熱されて沸騰した混合液と蒸気が第1の槽と第2の槽とを連結する導管を貫流する際に、この括れ部によって一瞬せき止められた後に第2の槽内に噴出することになるため、フラッシュ効果の増大や沸騰液と蒸気の部品への衝突力の増大により、洗浄効果がさらに大きくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本願発明を実施するための最良の形態に係る実施例について、図1に基づいて説明する。図1は、本願発明の部品のリサイクル洗浄方法を実証するための実験装置の概略図、である。
【0020】
図1において、符号1は実験装置、符号12は第1の槽、符号14は第2の槽、符号16は第3の槽、符号22は第1の冷却装置、符号24は第2の冷却装置、符号26は第1の加熱装置、符号28は第2の加熱装置、符号32は沸騰液蒸気導管、符号34はバイパス導管、符号35は洗浄液導管、符号36は混合液回収導管、符号362はU字管、符号364は通気管、符号38は混合液リサイクル導管、符号40は第1の残留液廃棄管、符号41は第2の残留液廃棄管、符号42は第1の混合液、符号43は第2の混合液、符号44は部品、符号46は蒸気である。
【0021】
まず、部品のリサイクル洗浄方法を実証した実験装置の構成について説明する。実験装置1は、主として、第1の槽12、第2の槽14、第3の槽16、第1の槽12と第2の槽14とを連結する沸騰液蒸気導管32、第1の冷却装置22を備えた第2の槽14の上部と下部を連結するバイパス導管34、第2の槽14と第1の槽12を連結する洗浄液導管35、第1の槽12と第3の槽16を連結する混合液回収導管36、第2の冷却装置24を備えた第3の槽16と第1の槽12とを連結する混合液リサイクル導管38、第1の槽12の下部を加熱する第1の加熱装置26および第3の槽16の下部を加熱する第2の加熱装置28から構成されている。
【0022】
そして、沸騰液蒸気導管32、バイパス導管34、洗浄液導管35、混合液回収導管36、および混合液リサイクル導管38は、それぞれの両端が開口されていて、この構成により、アセトンと水との混合液が、第1の槽12、第2の槽14、第1の槽12、第3の槽16および第1の槽12を循環する循環管路が形成される。また、混合液回収導管36には上方に向けて曲折するU字管362が介設されている。さらに、このU字管362には、U字管362に連通し上方に延伸する通気管364が添設されていて、通気管364の先端は外部に開放されている。
【0023】
第1の槽12、第2の槽14および第3の槽16は、それぞれの直径および長さが60mmφ×130mm、40mmφ×210mm、および60mmφ×280mm、のガラス管であって、気密性を有し、第2の槽14はその上部が開閉可能となっている。
また、第1の槽12および第3の槽16は、それぞれ第1の加熱装置26および第2の加熱装置28を備えていて、第1の槽12および第3の槽16の下部を加熱するようになっている。この加熱装置は、ガスバーナーであっても電気ヒーターであってもよいことは勿論である。
【0024】
沸騰液蒸気導管32は、直径7mmφのガラス管で、第1の槽12内から垂直に延伸した後、略直角に曲折して第2の槽14に連結されている。第2の槽14側の端部は第2の槽14内の上部に開口していて、沸騰液蒸気導管32の水平部分の先端部は、その直径が略5mmφと狭まっていて括れ部(図示外)が形成されている。
【0025】
第2の槽14には、側面視がコの字状のバイパス導管34が添設されていて、このバイパス導管34は直径8mmφのガラス管であって、第2の槽14の上部と下部とに連通している。バイパス導管34の垂直部は上方に延伸していて、この延伸した部分に第1の冷却装置22が添設されていて、図1に示すように、下方の白抜き矢印の方向から冷却水が送入され上方の白抜き矢印の方向へ冷却水が排出されて、バイパス導管34の上方に延伸した垂直部との間で熱交換がおこなわれて、バイパス導管34からの蒸気を冷却凝縮するようになっている。なお、この第1の冷却装置22は、バイパス導管34の中間部に添設されてもよいことは勿論である。
【0026】
洗浄液導管35は、第2の槽14の下部と第1の槽12を連通する直径が8mmφのガラス管である。
U字管362および通気管364が介設されている混合液回収導管36は、第1の槽12の下部と第3の槽16の下部とを連結する直径が8mmφのガラス管であり、U字管362および通気管364により、第1の槽12内が第1の混合液42で満たされるとともに、第2の槽14内での液面高さを制御している。
【0027】
そして、第3の槽16の下部には、開閉弁が介設される第2の残留液廃棄管41が連接されていて、開閉弁の操作により第3の槽16内の液体が排出されるようになっている。
【0028】
混合液リサイクル導管38は、第3の槽16の上部と第1の槽12とを連通していて側面視がコの字状を呈している。混合液リサイクル導管38は直径が8mmφのガラス管であって、混合液リサイクル導管38の垂直部はバイパス導管34と同様に上方に延伸していて、この延伸した部分に第2の冷却装置24が添設されている。この第2の冷却装置24の構成は、第1の冷却装置22と同様であるので説明を省略する。なお、第1の冷却装置22と同様に、この第2の冷却装置24は、混合液リサイクル導管38の中間部に添設されてもよいことは勿論である。
【0029】
つぎに、実験装置1で実証した部品のリサイクル洗浄方法について説明する。なお、図1において、沸騰液蒸気導管32、バイパス導管34、洗浄液導管35、混合液回収導管36、および混合液リサイクル導管38の脇に記されている矢印は、アセトンと水との混合液の貫流する方向を示している。
【0030】
この部品のリサイクル洗浄方法は以下の過程を経て実施される。すなわち、
(1)上部が開閉可能となっている第2の槽14の上部から被洗浄物である部品44を第2の槽内に納置する。この実験では、汚れた部品の代用として、油性インクを塗布したガラス製の物品を使用した。
【0031】
(2)第1の冷却装置22の上部から第1の槽12内に第1の混合液42を注入した。この第1の混合液42には、アセトン:水を略9:1に混合したものを使用し、注入した第1の混合液42の量は180cmであった。さらに、混合液回収導管36の上部から第3の槽16内に第2の混合液43を注入した。この第2の混合液43には、アセトン:水を略3:7に混合したものを使用し、注入した第2の混合液43の量は220cmであった。
【0032】
(3)第1の槽12を第1の加熱装置26により加熱する。加熱により第1の混合液42は沸騰し、蒸気の泡により沸騰液蒸気導管32内に噴き上げられ、沸騰液蒸気導管32に導かれて第2の槽14内に噴出する。沸騰液蒸気導管32内を貫流する蒸気である気体と沸騰液の液体が、交互に第2の槽14内へ噴出して、フラッシュ効果を奏する。さらに沸騰液蒸気導管32の水平部分の先端部に形成された括れ部(図示外)により、このフラッシュ効果はより一層強調される。なお、前述したように、混合液回収導管36に介設されているU字管362の曲折部のレベルは第1の槽12の頂部よりも高く設定されているから、第1の槽12内は、常に第1の混合液42で満たされている。
【0033】
(4)沸騰した第1の混合液42は、第2の槽14内に納置された部品44をフラッシュ洗浄した後、第2の槽14内の底部に部品44の汚れ成分とともに貯留する。また、第2の槽14内の上部に滞留する第1の混合液42の蒸気は、第1の冷却装置22により冷却凝縮されバイパス導管34に導かれて自然落下して第2の槽14内の底部に排出される。このため、沸騰した第1の混合液42の第2の槽14内への噴出力は衰えることはない。
【0034】
(5)フラッシュ洗浄後に第2に槽14内の底部に貯留した混合液は第1の槽12にもどる。第1の槽12内の混合液はU字管362および通気管364が介設されている混合液回収導管36に導かれて第3の槽16に送出される。前述したように、第2の槽14における液面の高さはU字管362の曲折部のレベル高によって決定される。
【0035】
(6)混合液回収導管36から第3の槽16に排出された部品44の汚れ成分を含んだ第1の混合液42は、第3の槽16内の第2の混合液43と混合される。この第2の混合液43は、アセトン:水を略3:7に混合したものを使用していて、相対的に第1の混合液42中のアセトンは希釈されることになる。
【0036】
(7)第2の混合液43は、第2の加熱装置28により加熱されて蒸気を発生する。ここで汚れ成分は第3の槽16内の液に残り蒸気には含まれない。この汚れ成分を含まない蒸気は第2の冷却装置24により冷却凝縮され混合液リサイクル導管38を通って第1の槽12内に送出され、再度、第1の混合液42として部品44の洗浄に使用される。定常状態において、第3の槽16から発生する蒸気の組成と第1の槽12の液組成は等しくなる。
【0037】
(8)そして、前述の(3)ないし(7)の工程を繰り返して部品44を洗浄し、洗浄が完了した時点で、第1の加熱装置26による加熱を停止させると、部品44へのフラッシュ洗浄は終了する。第1の槽12および第2の槽14内の温度が適当に下がったところで、第2の槽14内から洗浄後の部品44を取り出す。
【0038】
(9)第1の槽12内の混合液42の50%を第1の残留液廃棄管40の開閉弁を開いて取り出し、この取り出した液は洗浄液として再使用する。つぎに、第3の槽16内の混合液43の35%を蒸気として蒸留した時点で第2の加熱装置28による加熱を停止する。第1の槽12内の残留液は洗浄液として再利用する。ここで第3の槽16内に残留する汚れ成分を含む液を廃棄する。この場合アセトンの回収率は99%となる。
以上が部品のリサイクル洗浄方法の手順である。
【0039】
上述したように、実験装置1はポンプ等の動力は一切使用しておらず、実験装置1は加熱することにより、作動するようになっている。また、実験装置1は実証実験に使用したものであるが、商用ベースにおける本願発明に係る部品洗浄装置もその構成と作用においては略同様であって、異なるところは装置の規模と大きさおよび材質である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、本願発明の部品のリサイクル洗浄方法を実証するための実験装置の概要図である。
【符号の説明】
【0041】
1 実験装置
12 第1の槽
14 第2の槽
16 第3の槽
22 第1の冷却装置
24 第2の冷却装置
26 第1の加熱装置
28 第2の加熱装置
32 沸騰液蒸気導管
34 バイパス導管
35 洗浄液導管
36 混合液回収導管
38 混合液リサイクル導管
40 第1の残留液廃棄管
41 第2の残留液廃棄管
42 第1の混合液
43 第2の混合液
44 部品
46 蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトンがM質量%(ただし、92>M>88)を占めるアセトンと水との第1の混合液が満たされた第1の槽は加熱されて該第1の混合液が沸騰し、
沸騰した前記第1の混合液はその蒸気とともに第2の槽に導入されて該第2の槽内に納置された部品をフラッシュ洗浄し、
前記第2の槽の底部に貯留した前記フラッシュ洗浄後の前記第1の混合液は前記第1の槽に導入されて再度前記フラッシュ洗浄に使用されるとともに、
前記第2の槽の底部に貯留した前記フラッシュ洗浄後の前記第1の混合液は所定のレベルを維持し該所定のレベルを超えると前記第1の槽内の前記第1の混合液は第3の槽に導入され、
前記第3の槽内のアセトンがN質量%(ただし、40>N>20)を占めるアセトンと水との第2の混合液と混合された後に加熱されて蒸気を発生し、
前記蒸気は冷却液化されて蒸留される一方、前記第3の槽に残留した残留液は所定量貯留された後に廃棄され、
前記蒸留後の液体は前記第1の槽に導入されて前記フラッシュ洗浄に再使用される、ことを特徴とする部品のリサイクル洗浄方法。
【請求項2】
前記第2の槽の上部に滞留する前記第1の混合液の蒸気は冷却液化されて前記第2の槽の底部に導入される、ことを特徴とする請求項1に記載の部品のリサイクル洗浄方法。
【請求項3】
前記蒸留後の液体には必要に応じてアセトンおよび/または水が加えられる、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の部品のリサイクル洗浄方法。
【請求項4】
外部と連通可能で気密性を有する前記第1の槽、同前記第2の槽および同前記第3の槽を備え、
前記第1の槽の上部と前記第2の槽の上部、前記第2の槽の下部と前記第1の槽の下部、前記第1の槽の下部と前記第3の槽の下部、および前記第3の槽の上部と前記第1の槽の下部はそれぞれ導管を介して連通し、前記第1の槽、前記第2の槽、前記第1の槽、前記第3の槽および前記第1の槽をこの順で循環する管路が形成され、
前記第1の槽および前記第3の槽は加熱装置を備え、
前記第2の槽は冷却装置を備える該第2の槽の上部と下部を連結するバイパス導管を備え、前記第3の槽の上部と前記第1の槽の下部とを連結する導管は冷却装置を備え、
前記第1の槽の下部と前記第3の槽の下部とを連通する導管には上方に向けて曲折し外部に連通するU字管が介設されて、前記所定のレベルと該U字管の曲折部のレベルは同一であり前記第1の槽の頂部のレベルは前記所定のレベルよりも下方に位置している、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の部品のリサイクル洗浄方法に使用される部品洗浄装置。
【請求項5】
前記第1の槽の上部と前記第2の槽の上部とを連結する導管は前記第2の槽側で管径が狭まっている、ことを特徴とする請求項4に記載の部品洗浄装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−14915(P2007−14915A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201105(P2005−201105)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】