説明

配水管路の漏水診断装置及び漏水診断方法

【課題】配水ブロック内での詳細な漏水箇所の特定を可能とし、計画的な漏水調査の立案や、費用対効果のある管路更新計画の立案を可能にできる配水管路の漏水診断装置を提供することにある。
【解決手段】浄水を供給するための配水管路網を複数の配水ブロックに分割して管理する配水管理システムに適用する配水管路の漏水診断装置において、配水管路網の配水ブロック単位での夜間最小流量の分析に加えて、配水ブロック内のメッシュ単位での漏水箇所を推定できる配水管路の漏水診断装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水道施設の配水管路網を複数の配水ブロックに分割して管理する配水管理システムに適用する配水管路の漏水診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上水道施設では、浄水を需要家まで配水するための配水管路網施設が相当の割合を占めている。配水管は、耐久年数が約40〜45年程度であると予測されており、埋設年数の更新時期に合わせて更新されることになる。配水管の更新では、単に埋設年数の古い管から更新するだけでなく、いわゆる有効率(または有収率)の向上を目的とした効率的な更新が注目されている。ここで、有効率とは、配水池からの総配水量に対して有効に使用された水量(有効水量)の割合を意味する。
【0003】
有効率(有収率)の向上には、配水管からの漏水を防止するための対策が必要不可欠であり、この対策として漏水を診断するための漏水診断装置が重要である。漏水防止による有効率向上は、水循環系への負荷を低減するだけではなく、浄水と送配水段階のコスト削減効果もある。
【0004】
漏水の監視又は検出に関する先行技術としては、配水ブロック内の水需要量、夜間最小流量等を計測し、過去の計測結果との比較で配水ブロック別に漏水可能性を診断するシステムが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このシステムは、管体に外付けできる超音波流量計を任意の位置(節点、マンホール内又は消火栓が好ましい)に設置し、この設置位置を流量監視点として、各監視点を通過する水の流量及び流向の総和に基づいて、配水ブロック別に漏水可能性を診断する。
【0005】
また、最小配水量と水道管に漏洩がない場合に得られる許容漏水量とを比較し、最小配水量が許容漏水量よりも大であれば漏水有りと判定する漏水判定方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。この方法は、流量メータにメータの回転状態をパルス信号に変換して出力するセンサを取り付け、このセンサからの出力信号を所定のサンプリング間隔で昼夜にわたって収集する。そして、これら収集データのうち、センサからのパルス入力がなかった最長の時間から当該計測時間帯における単位時間当たりの水道管の最小配水量を求める。
【特許文献1】特開2005−149280号公報
【特許文献2】特開2002−55019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の先行技術のシステムまたは方法は、夜間最小流量を監視し、漏水可能性や有無を診断する内容であるが、計測センサ間や配水ブロック毎の比較評価であり、詳細な漏水箇所を特定することは困難である。
【0007】
一般的に、配水管路網内の地下漏水については、現場調査員が定期的に音聴棒等を用いて漏水有無調査(1次調査)を実施することで、漏水可能性が高い箇所が特定される。その後に、重点的に相関式漏水探査機を用いる2次調査により、その地域での詳細な漏水箇所の特定がなされている。しかし、1次調査の段階では、定期的に全域を巡回しているだけで、どの地域を重点的に行うべきかについては考慮されていないのが現状である。
【0008】
また、前述したように、管路更新に関しては、これまでは単に埋設年数の古い管から更新しているのが現状であり、決して有効率(有収率)向上を目的とした効率的な管路更新が実行されていない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、配水ブロック内での詳細な漏水箇所の特定を可能とし、計画的な漏水調査(1次調査)の立案や、費用対効果のある管路更新計画の立案を可能にできる配水管路の漏水診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の観点は、配水管路網の配水ブロック単位での夜間最小流量の分析に加えて、配水ブロック内の所定のエリア(例えば、地図情報上でのメッシュ)単位での漏水箇所を推定できる配水管路の漏水診断装置である。
【0011】
本発明の観点に従った漏水診断装置は、浄水を供給するための配水管路網を複数の配水ブロックに分割して管理する配水管理システムに適用する配水管路の漏水診断装置であって、前記配水ブロックに流入される浄水の流量を計測する流量計測手段と、前記流量計測手段から出力される流量データに基づいて、前記配水ブロックの夜間最小流量を算出する最小流量算出手段と、前記配水ブロックの配水による圧力値を計測する圧力計測手段と、前記最小流量算出手段により算出された夜間最小流量を配水管路の漏水量とした場合に、当該漏水量および前記圧力計測手段により計測された圧力値に基づいて、圧力値と漏水量との関係式を構築し、漏水係数を生成する漏水係数演算手段と、前記配水ブロックを複数のエリアに分割して、当該各エリア毎に、前記配水管路の少なくとも埋設位置を含む管路情報を取得する管路情報取得手段と、前記圧力値及び前記管路情報を使用して、前記各エリア毎の静水圧値を計算する静水圧計算手段と、前記圧力値と漏水量との関係式、前記静水圧値及び前記漏水係数を使用して、前記各エリア毎の漏水量を算出する漏水量算出手段とを備えた構成である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、配水管路網の配水ブロック単位での夜間最小流量の分析に加えて、配水ブロッ内の所定のエリア単位での漏水箇所を推定できる漏水診断装置を提供できることにより、配水ブロック内での詳細な漏水箇所の特定を可能とし、計画的な漏水調査(1次調査)の立案や、費用対効果のある管路更新計画の立案を可能にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0014】
[第1の本実施形態]
図2は、本実施形態に関する浄水を需要家33に配水するための配水プロセス及び配水管理システムの概略を説明するための図である。
【0015】
図2に示すように、本実施形態は、一つの配水池30から、ある配水管路網34-1〜34-16に対応する配水ブロックに浄水が供給される配水プロセスを想定する。この配水ブロックは、大規模な配水管路網を複数の範囲(配水ブロック)に分割した場合の1つの配水ブロックである。
【0016】
配水管理システムは、配水ブロックの入口に配置された流量計31により、配水池30からの流入量を監視する。また、配水管理システムは、配水ブロック内に配置された圧力計32を使用して、配水ブロック内の配水圧力(単に圧力と表記する)を監視する。配水管理システムは、後述するように、流量計31により計測された流入量および圧力計32により計測された圧力値の各計測データを収集し、監視データベース(DB)12に蓄積する。
【0017】
なお、図2において、丸数字は、複数の配水管路(単に管路と表記する場合がある)34-1〜34-16の節点を示す節点番号である。
【0018】
(漏水診断装置)
図1は、本実施形態の配水管理システムに使用される漏水診断装置の構成を示すブロック図である。漏水診断装置は、配水ブロック内の漏水分布を推定する漏水分布推定装置に相当する。
【0019】
漏水診断装置は大別して、図1に示すように、データ管理端末10とシステム本体とからなる。データ管理端末10は、キーボードやディスプレイなどの入出力装置を含むコンピュータ11及び記憶装置からなる監視データベース(DB)12を有する。監視データベース12は、前述したように、流量計31により計測された流入量および圧力計32により計測された圧力値の各計測データを蓄積する。
【0020】
システム本体は、コンピュータシステム(ハードウェア及びソフトウェア)から構成されており、夜間最小流量収集部13及び圧力データ収集部14を含む。夜間最小流量収集部13は、監視データベース12に蓄積されている流量データ110に基づいて、1日で最も流入流量が少ない時間を抽出し、その時の流入流量を夜間最小流量として選定する。夜間最小流量収集部13は、1日に1回の周期で流量データ110を収集し、選定した夜間最小流量データ140を監視データベース12に蓄積する。
【0021】
一方、圧力データ収集部14は、夜間最小流量収集部13から出力される夜間最小流量データ140を使用して、夜間最小流量として選定した時間帯の圧力値またはある期間で平均した値(例えば1時間平均値)を、分単位の圧力データ100から抽出して、夜間最小流量時の圧力データ150として出力する。圧力データ収集部14も、1日に1回の周期で圧力データ150を収集する。
【0022】
システム本体は、例えば1日に1回の周期で、蓄積されている配水ブロックの流量データ及び圧力データから1日で最も流量が少ない時刻のデータのみを抽出し、図3に示すようなテーブル情報を生成する。
【0023】
さらに、システム本体は、漏水係数演算部15と、漏水分布表示部16と、漏水推定部17と、管路情報抽出部18と、管路情報データベース(DB)19と、静水圧計算部20と、水使用データベース(DB)21と、全需要量及び漏水量計算部(以下、漏水量計算部と表記する)22と、管網解析部23とを有する。
【0024】
漏水量計算部22は、水使用データベース21に蓄積された情報を使用して、1日の全需要量(配水ブロックの流入量)と、2ヶ月に1回の周期で検針されている水道料金データ等に基づいて、当該配水ブロックの漏水量230を計算する。水使用データベース21には、予め水使用に関する情報として、料金水量、分水量、メータ不感水量、局事業用水量、調定減額水量などの情報が蓄積されている。
【0025】
漏水係数演算部15は、夜間最小流量収集部13から出力される夜間最小流量データ120、夜間最小流量時の圧力データ150及び漏水量データ230を使用して、配水ブロック毎の圧力値と漏水量との関係を示す関係式(モデル)を構築し、後述する漏水係数C(漏水量に関するパラメータ)を決定する。管網解析部23は、漏水係数演算部15からの漏水係数C及び水使用データベース21に蓄積された情報を使用して、配水ブロック内の管網解析処理を実行する。具体的には、管網解析部23は、各節点の有効水圧と漏水係数Cに基づいて、配水ブロック内の各管路34-1〜34-16の各節点毎の漏水量を推定し、夜間最小流量の時間帯の水使用量(夜間水使用量データ220)を出力する。また、管網解析部23は、末端圧力一定制御時での管網解析計算を実行することで、配水ブロックの全漏水量を推定し、末端圧力制御導入時の漏水量削減効果を評価できる情報260を生成してデータ端末10に出力する。
【0026】
管路情報抽出部18は、漏水係数演算部15からの漏水係数Cの変化量、及び管路情報データベー19に蓄積された管路情報に基づいて、漏水係数Cが変化した要因となる管路情報210を抽出する。即ち、管路情報抽出部18は、漏水係数Cが変化したタイミングでの管路情報の変化を監視し、その要因変数を示す情報210を出力する。
【0027】
管路情報データベース19には、配水ブロック内の地中に埋設された各管路34-1〜34-16の仕様を示す管路情報が蓄積されている。管路情報は、例えば各管路の埋設位置、埋設年数、材質、口径、管路延長、給水栓数などの情報であり、後述するように、配水ブロック内を分割する複数のエリア(地図データ上のメッシュ)毎の情報である。
【0028】
静水圧計算部20は、管路情報データベース19に蓄積されているエリア(地図データ上のメッシュ)毎の代表地盤高(標高)と、圧力データ収集部14からの夜間最小流量時の圧力値(圧力データ130)に基づいて、メッシュ毎の静水圧値190を計算する。
【0029】
漏水推定部17は、管路情報抽出部18により抽出された管路情報(要因変数)210と、静水圧計算部20により算出されたメッシュ毎の静水圧値(代表圧力値)190に基づいて、漏水構成比率情報200を推定して出力する。漏水構成比率情報200とは、管路情報抽出部18により抽出された要因の管路延長や個数を度数とした分布を漏水構成比として、各メッシュに比率を割当てた情報である。漏水推定部17は、メッシュ毎の静水圧値(代表圧力値)と、配水ブロック全体の漏水量との差が最小となるように漏水構成比率を、繰り返し演算により算出する。
【0030】
漏水分布表示部16は、漏水構成比率情報200からの漏水構成比率情報200、漏水係数演算部15からの漏水係数C、及び静水圧計算部20により算出されたメッシュ毎の静水圧値(代表圧力値)190に基づいて計算される漏水量の推定分布を、配水ブロックに対応する地図データ上に表示するための表示情報をデータ端末10に出力する。なお、配水ブロックに対応する地図データは、管路情報データベース19に蓄積されている管路情報に含まれる情報である。
【0031】
(作用効果)
以下、図1以外に、図4から図14を参照して、本実施形態の漏水診断装置の作用効果を説明する。
【0032】
図12は、本実施形態の漏水診断装置の動作の概略(診断手順)を説明するためのフローチャートである。以下、図12に示す手順に従って、漏水診断装置の動作を説明する。
【0033】
まず、漏水量計算部22は、水使用データベース21に蓄積された情報を使用して、1日の全需要量(配水ブロックの流入量)と、2ヶ月に1回の周期で検針されている水道料金データ等に基づいて、当該配水ブロックの漏水量230を計算する(ステップS1)。この場合、漏水量計算部22の計算方法としては、図4に示すように、水使用データベース21の情報を使用したデータ収集方法が利用される。
【0034】
ここで、一般的には、夜間最小流量と漏水量とが等しいと考えるのは困難である。しかし、配水ブロック(配水区域)の規模が小さい場合には、夜間の水使用量は少ないと想定できるため、「漏水量=夜間最小流量」と考えることができる。また、配水ブロックの規模が大きい場合でも、夜間の一定使用量を想定して「夜間最小流量=漏水量+夜間使用量」と定義し、過去の有収率といったデータから夜間使用量を推定しておき、その値に基づいて漏水量を仮定することも可能である。即ち、夜間最小流量は漏水量と夜間水使用量を含むため、下記式(1)で表される。
【0035】
【数1】

【0036】
ここで、Qminは夜間最小流量[L/sec]を示し、Lは漏水量[L/sec]を示し、Uは夜間水使用量[L/sec]を示す。
【0037】
前記式(1)において、漏水量計算部22で得られた2ヶ月周期での漏水量に基づいて、1日の漏水量を換算することによって、夜間水使用量Uを求める。従って、夜間最小流量を監視することによって、配水ブロックの漏水量を監視することが可能となる。なお、前記式(1)における夜間水使用量Uの決定方法は、2ヶ月分の水道検針データから1日の配水量トレンドに合わせて時間単位に按分する方法の他に、管網解析方法を応用して、夜間最小流量の時間帯の漏水量を推定する方法もある。以下、その方法について述べる。
【0038】
漏水係数演算部15は、夜間最小流量時の圧力データ150及び漏水量データ230に基づいて、配水ブロック毎の圧力値と漏水量との関係を示す関係式(モデル)を構築する。ここで、圧力データ収集部14は、夜間最小流量として選定した時間帯の圧力値またはある期間で平均した値(例えば1時間平均値)を夜間最小流量時の圧力データ150として出力する(ステップS2)。
【0039】
一般的に、配水ブロック内の圧力値と漏水量との間には、下記式(2)に示すような関係があることが、実験的に確認されている(書籍「配水管網の解析と設計」 高桑哲男著 森北出版 1978年を参照)。
【0040】
【数2】

【0041】
ここで、Lは節点iの漏水量[L/sec]を示し、Cは節点iに関する管路延長や口径、漏水孔の形状、面積に依存する係数を示す。hは、節点iの有効水圧[m]を示し、kは実験乗数で、例えば1.15である。また、節点とは、図2に示す丸数字(管網モデルにおける管の接続点)を表す。図の場合はi=1…13である。
【0042】
漏水係数演算部15は、前記式(2)を導入し、後述する漏水係数C(漏水量に関するパラメータ)を決定する(ステップS3)。本実施形態では、測定可能な圧力値が節点13のみであるため、配水ブロック全体を一本の管路と仮定し、節点13について前記式(2)を考慮すると、配水ブロックにおける漏水係数Cを求めることができる。即ち、漏水係数演算部15は、抽出した図3に示すデータに基づいて、最小2乗法などにより、下記式(3)に示す漏水係数Cを決定する。
【0043】
【数3】

【0044】
ここで、Nは総節点数(ここでは13)を表す。
【0045】
この漏水係数Cを配水ブロックの漏水特性を表す指標と想定すれば、同じ管路網であっても圧力が増加すれば漏水量も増加するため、圧力の影響を除いた漏水係数Cの値で、配水ブロック内の漏水に関する特性を把握することが可能となる。即ち、本実施形態では、夜間最小流量だけでなく、その時の圧力状態を考慮可能なパラメータ(漏水係数C)を導入することによって、配水ブロックの漏水診断、さらには老朽管診断が可能となる。
【0046】
また、この漏水係数Cを導入することにより、管網解析を応用することによって各節点ごとの漏水量を推定することができるため、夜間最小流量の時間帯の水使用量を高精度に特定することができる。即ち、管網解析部23は、漏水係数演算部15からの漏水係数C及び水使用データベース21に蓄積された情報を使用して、配水ブロック内の管網解析処理を実行する。具体的には、管網解析部23は、各節点の有効水圧と漏水係数Cに基づいて、配水ブロック内の各管路34-1〜34-16の各節点毎の漏水量を推定し、夜間最小流量の時間帯の水使用量(夜間水使用量データ220)を出力する。また、管網解析部23は、末端圧力一定制御時での管網解析計算を実行することで、配水ブロックの全漏水量を推定し、末端圧力制御導入時の漏水量削減効果を評価できる情報260を生成してデータ端末10に出力する。
【0047】
ここで、図5は、図2に示す管網プロセスにおける管網解析結果の一例を示す図である。各節点ごとに水需要だけでなく漏水量も含まれていることを想定している。図5に示すように、前記式(3)に示す漏水係数Cを導入することによって、各節点での漏水量分布を求めることができる。各節点の漏水量は、各節点の有効水位に影響する。また、各節点の有効水位は、供給水圧(配水池30の水位)と節点需要量に影響する。
【0048】
図6は、供給水圧と全漏水量との関係を示す図である。図6において、破線60は、末端圧が許容水圧の限界点を表す。また、βが1のとき、需要量と漏水量を合わせた水量が最大であることを表す。漏水量、供給水圧および節点需要量の関係は、おおよそ比例関係にあることから、下記式(4)が成立する。
【0049】
【数4】

【0050】
ここで、Hは供給水圧[m]を示し、βは最大水量の需要時を1とした需要比率を示し、αはパラメータである。即ち、前記式(4)から、βが変動する時間単位での漏水量を推定することが可能である。このことから、夜間最小流量時間帯の漏水量を推定することが可能となり、前記式(1)に示す夜間水使用量Uを高精度で特定することが可能となる。なお、図7は、管網解析によるシミュレーション結果を示す図である。図7において、符号70は需要パターンを示す。符号71は末端圧一定制御の場合の漏水量を示す。符号72は水使用量に対応する差を示す。このようなシミュレーションにより、末端圧力一定制御を行った場合の漏水量の削減効果を事前検討することが可能となる。
【0051】
次に、静水圧計算部20の処理(ステップS5)及び管路情報抽出部18の処理(ステップS6)を説明する。管路情報抽出部18及び静水圧計算部20は、管路情報データベー19に蓄積された管路情報を使用する。管路情報データベース19には、配水ブロック内の地中に埋設された各管路34-1〜34-16の仕様を示す管路情報が蓄積されている。管路情報は、例えば各管路の埋設位置、埋設年数、材質、口径、管路延長、給水栓数などの情報であり、図8に示すように、配水ブロック内を分割する複数のエリア(地図データ上のメッシュ)毎に管理及び整理されている情報である(ステップS4)。
【0052】
管路情報抽出部18は、漏水係数演算部15からの漏水係数Cの変化量、及び管路情報データベー19に蓄積された管路情報に基づいて、漏水係数Cが変化した要因となる管路情報210を抽出する。即ち、管路情報抽出部18は、漏水係数Cが変化したタイミングでの管路情報の変化を監視し、メッシュ毎の比率を計算し、管路更新工事により変化した管路情報とその変化量を抽出する(ステップS6)。
【0053】
一方、漏水量を推定するには、メッシュ毎の代表圧力を決定する必要がある。各メッシュに対応する圧力計が設置されている場合は、その計測値を用いる。そうでない場合には、本実施形態では、静水圧計算部20によりメッシュ毎の静水圧値190を計算する。即ち、静水圧計算部20は、管路情報データベース19に蓄積されているエリア(メッシュ)毎の代表地盤高(標高)と、圧力データ収集部14からの夜間最小流量時の圧力値(圧力データ130)に基づいて、メッシュ毎の静水圧値190を計算する。一般に、夜間最小流量時の圧力値は、静水圧とほぼ等しいと考えることができる。このため、各メッシュの代表圧力値は、標高差に依存するものと想定できる。
【0054】
ここで、仮に標高差と夜間最小流量時の圧力値との間で、誤差がある場合は補正も可能とする。以下、図9を参照して具体的に説明する。例えば、図9に示すように、配水池30の標高と有効水位との和(動水位)が55mである場合に、夜間は水がほとんど流れていないために、代表的標高が15mであるメッシュの有効水位は40mと想定することができる。ただし、圧力計が設置されているメッシュでの圧力測定値と、配水池30の動水位との標高差に乖離がある場合は、その差分をその他のメッシュにも同様に適用して補正する。この補正量は、「補正量=圧力測定値−(配水池の動水位−圧力計の設置位置の標高)」から計算することができる。
【0055】
次に、漏水推定部17は、ステップS3及び6の結果に基づいて、漏水量変化の要因を抽出する(ステップS7)。即ち、漏水推定部17は、メッシュ毎の静水圧値(代表圧力値)と、配水ブロック全体の漏水量との差が最小となるように漏水構成比率を、1回/2ヶ月繰り返し演算により算出する。ここで、漏水構成比率情報200とは、管路情報抽出部18により抽出された要因の管路延長や個数を度数とした分布を漏水構成比として、各メッシュに比率を割当てた情報である。
【0056】
漏水分布表示部16は、漏水構成比率情報200からの漏水構成比率情報200、漏水係数演算部15からの漏水係数C、及び静水圧計算部20により算出されたメッシュ毎の静水圧値(代表圧力値)190に基づいて計算される漏水量の推定分布を、配水ブロックに対応する地図データ上に表示するための表示情報をデータ端末10に出力する(ステップS8,S9)。
【0057】
ここで、図10は、漏水量構成比の考え方を示す図である。水道検針データによる有収率や夜間最小流量から、配水ブロックの漏水量は計算可能である。その値に基づいて、前記式(3)に示すパラメータ(漏水係数)Cを計算する。このパラメータCと各メッシュ番号の有効水圧に基づいて、メッシュ毎の漏水量を計算することが可能となる。しかしながら、式(3)に示すパラメータCは、図2に示す流量計31と圧力計32の間を一本の管路とみなした場合のパラメータである。このため、メッシュ番号毎の漏水量の総和は、配水ブロック内の漏水量と一致しない。
【0058】
そこで、本実施形態では、圧力以外にも漏水を構成している比率(構成比)を適切に選ぶことで、メッシュ毎の漏水量分布を把握する。図8に示すように管理されている管路情報から、配水ブロック全体の漏水量とメッシュ番号毎の漏水量の総和との差が最小となるよう構成比を決定することが重要となる。例えば、埋設年数比率、管路延長比率、腐食老朽管率などを用いて、配水ブロック内の漏水量との誤差が最も小さくなる構成比を決定する。
【0059】
なお、漏水分布表示部16は、図11に示すように、得られた漏水量構成比と漏水係数C、及びメッシュ毎の代表圧力(静水圧)に基づいて計算された漏水量推定値を、地図上に強調表示して出力する。図11は出力イメージであり、メッシュ80毎の漏水分布の表示例である。このような漏水分布表示により、漏水調査業務の支援や、効率的な管路更新計画の活用が可能となる。
【0060】
さらに、図14を参照して、夜間最小流量収集部13による夜間最小流量のデータ分析例を説明する。図14は、配水ブロックの流入量のデータをより早い周期で収集可能な場合に関する。また、図14は、1分周期の場合と、5秒周期の場合とを比較したグラフである。図14に示すように、夜間最小流量と思われる定時のデータを抽出した場合と比較して、1分周期で最小の流量と、5秒周期で最小の流量とでは最小値が異なることが分かる。即ち、いかなるデータ収集周期においても定時ではなく、1日で最小の流量を抽出することが重要であるとともに、より早い周期でデータを収集することによって、水使用がない時間帯を捉える確率が高くなる。
【0061】
さらに、図14に示すように、ある5ブロックを例に解析した場合、1分周期で定時に流量を抽出する場合と比較して、5秒周期で最小流量を抽出すると、約61%少ない流量を捉えることができる。また、1分周期と5秒周期で最小流量を抽出する場合においても5秒周期の方が約15%少ない流量を捉えることができる。したがって、本実施形態の夜間最小流量収集部13は、監視データベース12に蓄積されているデータ周期ではなく、監視システムで収集しているより早い周期のデータを直接取り込むことも可能である。
【0062】
以上要するに本実施形態によれば、単に管路情報システムから得られる管路埋設状態や、水使用データ(料金水量など)を加味して、配水ブロック単位ではなく地図システム上で管理している図面(メッシュ)単位で漏水箇所を推定することが可能となる。即ち、夜間最小流量の変化とその変化に起因した要因を管路情報から抽出し、抽出された要因に基づいて配水ブロック内のどの箇所で漏水量が多いかの分布を推定することによって、計画的な漏水調査(一次調査)の立案や、費用対効果のある管路更新計画を立案を可能とする。
【0063】
[第2の実施形態]
図15は、第2の実施形態に関するシステムの構成を示すブロック図である。
【0064】
本実施形態のシステムは、図15に示すように、主幹線314に接続された各配水ブロックと、自動検針システム316と、配水管理システム306と、統括システム300とから構成されている。各配水ブロックには、漏水検出器315が設けられている。なお、漏水診断装置については、第1の実施形態と同様の装置を使用することを前提とするため、説明を省略する。
【0065】
統括システム300は、統括サーバ301、入出力端末302、監視・データ解析端末303、及びルータ304を有する。また、配水管理システム306は、マッピングシステム307、ルータ308、データ入力端末309、サーバ310、監視端末311、情報データベース312、及び無線センサモジュール313を有する。ここで、統括システム300と配水管理システム306とは、それぞれのルータ304,308を介して、一般公衆または専用回線305により接続されている。
【0066】
本実施形態は、無線通信を利用した自動検針システム316を導入することによって、漏水分布推定に必要なデータを効率的に収集するシステムに関する。これにより、検針作業に要する人件費を削減できると共に、2ヶ月ではなく、さらに早い周期で水需要を計測することが可能となるため、高精度な漏水分布推定が可能となる。
【0067】
なお、無線によるデータ収集を行う場合でも、近くまで調査員が出向く必要があるが、例えば受信機を搭載した車両で地域を巡回することで、周辺の水道検針データを収集することも可能である。また、漏水検出器315を配水ブロックの消火栓や給水栓に設置しておき、常時漏水判定を行った結果を無線で収集することも可能である。この場合、漏水の振動音を捉えるセンサを安価に作成可能で高指向性(騒音下でも目的音源をクリアに抽出すること)を有する小型光MEMSマイクロフォンを活用することで、多数のセンサを設置することが可能となる。
【0068】
本実施形態の漏水解析方法では、配水管路網を管理する配水管理システム306を浄水場に組み込む以外に、統括システム300としてASPプロバイダのようにデータを遠隔監視する構成を実現できる。このような構成では、漏水分布推定方法が統括サーバ(ASPサーバ)301上で動作し、動的に作成されたHTML等の情報を提供することも可能である。
【0069】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1の実施形態に関する漏水診断装置の構成を説明するためのブロック図。
【図2】本実施形態に関する配水プロセス及び配水管理システムの概略を説明するための図。
【図3】本実施形態に関する夜間最小流量と圧力との関係を示すテーブル情報の一例を示す図。
【図4】本実施形態に関する漏水量計算部でのデータ収集方法の一例を示す図。
【図5】本実施形態に関する管網解析結果の一例を示す図。
【図6】本実施形態に関する供給水圧と全漏水量との関係を示す図。
【図7】本実施形態に関する管網解析によるシミュレーション結果を示す図。
【図8】本実施形態に関する管路情報の具体例を示す図。
【図9】本実施形態に関する静水圧の計算方法を説明するための図。
【図10】本実施形態に関する漏水量構成比の考え方を説明するための図。
【図11】本実施形態に関する漏水分布表示の一例を示す図。
【図12】本実施形態に関する漏水診断装置の動作を説明するためのフローチャート。
【図13】本実施形態に関する夜間最小流量のデータ分析例を示す図。
【図14】本実施形態に関する夜間最小流量の配水ブロック毎のデータ分析例を示す図。
【図15】第2の実施形態に関するシステムの構成を説明するための図。
【符号の説明】
【0071】
10…データ管理端末、11…コンピュータ、12…監視データベース(DB)、
13…夜間最小流量収集部、14…圧力データ収集部、15…漏水係数演算部、
16…漏水分布表示部、17…漏水推定部、18…管路情報抽出部、
19…管路情報データベース、20…静水圧計算部、21…水使用データベース、
22…全需要量及び漏水量計算部(漏水量計算部)、23…管網解析部、30…配水池、
31…流量計、32…圧力計、34-1〜34-16…管路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄水を供給するための配水管路網を複数の配水ブロックに分割して管理する配水管理システムに適用する配水管路の漏水診断装置であって、
前記配水ブロックに流入される浄水の流量を計測する流量計測手段と、
前記流量計測手段から出力される流量データに基づいて、前記配水ブロックの夜間最小流量を算出する最小流量算出手段と、
前記配水ブロックの配水による圧力値を計測する圧力計測手段と、
前記最小流量算出手段により算出された夜間最小流量を配水管路の漏水量とした場合に、当該漏水量および前記圧力計測手段により計測された圧力値に基づいて、圧力値と漏水量との関係式を構築し、漏水係数を生成する漏水係数演算手段と、
前記配水ブロックを複数のエリアに分割して、当該各エリア毎に、前記配水管路の少なくとも埋設位置を含む管路情報を取得する管路情報取得手段と、
前記圧力値及び前記管路情報を使用して、前記各エリア毎の静水圧値を計算する静水圧計算手段と、
前記圧力値と漏水量との関係式、前記静水圧値及び前記漏水係数を使用して、前記各エリア毎の漏水量を算出する漏水量算出手段と
を具備したことを特徴とする漏水診断装置。
【請求項2】
料金水量、分水量、メータ不感水量、局事業用水量、調定減額水量などの水使用情報に基づいて、配水ブロックの全需要量や漏水量を計算する計算手段と、
前記最小流量算出手段により算出された夜間最小流量に基づいて、夜間最小流量時間帯の夜間水使用量を推定する手段とを有し、
前記漏水係数演算手段は、前記夜間最小流量から前記夜間水使用量を減算した量を漏水量として、前記漏水係数を算出することを特徴とする請求項1に記載の漏水診断装置。
【請求項3】
前記管路情報取得手段は、前記漏水係数演算手段からの漏水係数の変化量及び管路情報に基づいて、前記漏水係数が変化した要因となる管路情報を抽出することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の漏水診断装置。
【請求項4】
前記管路情報は、前記エリアとして地図データ上のメッシュに対応し、当該メッシュ毎の埋設位置、埋設年数、材質、口径、管路延長、給水栓数などの情報を含み、データベースとして蓄積されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の漏水診断装置。
【請求項5】
前記管路情報抽出手段で抽出された管路情報及び前記静水圧計算手段により算出される静水圧値であるメッシュ毎の代表圧力値に基づいて、抽出された管路情報変化の要因である管路延長や個数を度数とした分布を漏水構成比として各メッシュに比率を割当て、前記代表圧力値から計算される漏水量と、配水ブロック全体の漏水量との差が最小となるように、漏水構成比率を算出する漏水構成比演算手段を有することを特徴とする請求項4に記載の漏水診断装置。
【請求項6】
前記漏水構成比演算手段で得られる漏水構成比、前記漏水係数演算手段で得られる漏水係数、及び静水圧演算手段で算出されるメッシュ毎の代表圧力値に基づいて計算される漏水量の推定分布を、膳なき地図データ上に表示する漏水分布表示手段を有することを特徴とする請求項5に記載の漏水診断装置。
【請求項7】
前記配水ブロックの各節点の有効水圧と、配水ブロック全体の漏水量から導出した漏水係数に基づいて、各節点の漏水量を推定し、需要パターンに応じてブロック全体の漏水量を推定することによって、夜間の水使用量を特定する管網解析を行なう管網解析手段を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の漏水診断装置。
【請求項8】
前記管網解析手段は、前記配水ブロックでの末端圧力一定制御時の管網解析計算を実行し、配水ブロックの全漏水量に基づいて末端圧力制御導入時の漏水量削減効果を評価することを特徴とする請求項7に記載の漏水診断装置。
【請求項9】
前記最小流量算出手段は、配水ブロックの流入流量データを、所定のデータ周期で取得して夜間の最小流量として抽出する夜間最小流量抽出手段を含むことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の漏水診断装置。
【請求項10】
前記配水ブロックから漏水診断に必要なデータを無線通信を利用して自動的に収集する自動検針システムを含むことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の漏水診断装置。
【請求項11】
浄水を供給するための配水管路網を複数の配水ブロックに分割して管理する配水管理システムに適用する配水管路の漏水診断方法であって、
前記配水ブロックに流入される浄水の流量を計測する処理と、
前記流量計測手段から出力される流量データに基づいて、前記配水ブロックの夜間最小流量を算出する処理と、
前記配水ブロックの配水による圧力値を計測する処理と、
前記最小流量算出手段により算出された夜間最小流量を配水管路の漏水量とした場合に、当該漏水量および前記圧力計測手段により計測された圧力値に基づいて、圧力値と漏水量との関係式を構築し、漏水係数を生成する処理と、
前記配水ブロックを複数のエリアに分割して、当該各エリア毎に、前記配水管路の少なくとも埋設位置を含む管路情報を取得する処理と、
前記圧力値及び前記管路情報を使用して、前記各エリア毎の静水圧値を計算する処理と、
前記圧力値と漏水量との関係式、前記静水圧値及び前記漏水係数を使用して、前記各エリア毎の漏水量を算出する処理と
を有する手順を実行することを特徴とする漏水診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−192329(P2009−192329A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32291(P2008−32291)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(593175419)北九州市 (5)
【Fターム(参考)】