説明

配線基板の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】レジストパターンの剥離残りの発生の把握が容易な配線基板の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】レジストパターン160を介してリード電極90及び島状のカウントマーク120をパターニングするパターニング工程と、パターニング工程の後、レジストパターン160を酸素プラズマによって剥離するアッシング工程と、を有する流路形成基板10の製造方法であって、パターニング工程では、アッシング工程におけるレジストパターン160の剥離特性に基づいて、リード電極90におけるレジストパターン160の剥離時間よりも、カウントマーク120におけるレジストパターン160の剥離時間を長くするように、カウントマーク120の平面形状を設定するという手法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に配線部がパターニングされた配線基板を具備するものとしては、例えば、液体噴射ヘッドが挙げられる。下記特許文献1には、液体噴射ヘッドとして、インクを噴射するノズル開口に連通する圧力発生室及び該圧力発生室を変位させる圧電素子を有する流路形成基板と、流路形成基板と接合されると共に圧電素子を駆動させる駆動IC等を有する保護基板と、を有するものが開示されている。
【0003】
配線部は、例えば、スパッタ法により、基板上に金属層を全面に成膜し、その後、金属層上にレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとしてエッチングすることによってパターニングされている。配線部のパターニング後は、配線部上に残ったレジストパターンを、酸素プラズマによって分解・除去することによりアッシング(レジスト剥離)している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−152913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記パターニング工程では、配線部と共に、配線部と比べて微小な島状の島部をパターニングすることがある。この島部は、例えば、圧電素子や配線部等の数をカウントするためのカウントマークや、基板同士の接合の位置合せをするアライメントマーク等として用いられる。
【0006】
ところで、酸素プラズマによるアッシング工程では、レジストパターンの膜厚の変動や、アッシングレートの変動等の要因によって、配線基板上の場所によってレジストパターンの剥離時間に差が生じており、配線基板上のどの配線部あるいは島部にレジストパターンの剥離残りが発生するかの把握が困難であるという問題がある。したがって、作業者は、配線基板上の全ての配線部及び島部についてレジストパターンの剥離残りがあるかどうかを、全体的に確認しなければならず、確認作業が非常に煩雑であった。また、レジストパターンの剥離残りがあることを前提として、配線基板を有機溶剤等に浸漬させるといった二重のレジスト剥離プロセスを導入すると、薬品、設備、時間等が別途必要となり、生産性の低下に繋がる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、レジストパターンの剥離残りの発生の把握が容易な配線基板の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、上記課題を解決するため鋭意実験を重ねた結果、アッシング工程において、配線部と比べて、島部上のレジストパターンの剥離残りが生じ易くなる傾向があること、及び、島部上のレジストパターンの剥離特性が、島部の平面形状と関係することを見出し、本発明に想到した。
上記の課題を解決するために、本発明は、レジストパターンを介して配線部及び島状の島部をパターニングするパターニング工程と、上記パターニング工程の後、上記レジストパターンを酸素プラズマによって剥離するアッシング工程と、を有する配線基板の製造方法であって、上記パターニング工程では、上記アッシング工程における上記レジストパターンの剥離特性に基づいて、上記配線部における上記レジストパターンの剥離時間よりも、上記島部における上記レジストパターンの剥離時間を長くするように、上記島部の平面形状を設定するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、レジストパターンの剥離特性に基づいて島部の平面形状を設定することで、配線部よりも島部におけるレジストパターンの剥離残りを生じ易くし、島部上のレジストパターンの剥離時間を、配線部上のレジストパターンの剥離時間よりも長く設定することで、島部のレジストパターンの剥離残りのみを確認することによって、配線基板全体のアッシング工程の終点確認が可能となる。
【0009】
また、本発明においては、上記島部の平面形状を、当該形状の外縁から重心までの距離に基づいて設定するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、島部においては、その平面形状の重心から外縁までの距離が長いほどレジストパターンの剥離残りが生じ易くなるというレジストパターンの剥離特性があるため、島部の平面形状を、当該形状の外縁から重心までの距離に基づいて設定する。
【0010】
また、本発明においては、上記島部の平面形状を、円弧形状を含む形状に設定するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、島部においては、その平面形状の重心から外縁までの距離が長いほどレジストパターンの剥離残りが生じ易くなるというレジストパターンの剥離特性があるため、島部の平面形状を、当該形状の外縁から重心までの距離が他の形状(例えば、三角形、四角形等)よりも比較的長い円弧形状を含む形状に設定する。
【0011】
また、本発明においては、上記島部の平面形状を、30マイクロメートル四方の領域内に設定するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、島部の平面形状を、30マイクロメートル四方の微小な領域内に設定することで、平面形状の重心から外縁までの距離が長いほどレジストパターンの剥離残りが生じ易くなるというレジストパターンの剥離特性を、島部において発現させる。また、これにより液体噴射ヘッドの寸法を大きくすることなく、検査装置が認識できる大きさで島部の平面形状を形成することができる。
【0012】
また、本発明においては、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室及び該圧力発生室を変位させる圧電素子を有する第1の基板と、上記第1の基板と接合されると共に上記圧電素子を駆動させる駆動部を有する第2の基板と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、上記第1の基板及び上記第2の基板の少なくともいずれか一方の製造方法として、先に記載の配線基板の製造方法を用いるという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、レジストパターンの剥離残りの発生の把握が容易な液体噴射ヘッドの製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態における製造方法によって製造された流路形成基板を具備するインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるパターニング工程及びアッシング工程を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態におけるカウントマークの平面形状を楕円形に設定した場合のレジストパターンの剥離の様子を経時的に示す図である。
【図5】本発明の実施形態におけるカウントマークの平面形状を四角形に設定した場合のレジストパターンの剥離の様子を経時的に示す図である。
【図6】本発明の実施形態におけるカウントマークの平面形状を菱形に設定した場合のレジストパターンの剥離の様子を経時的に示す図である。
【図7】本発明の実施形態におけるカウントマークの平面形状を三角形に設定した場合のレジストパターンの剥離の様子を経時的に示す図である。
【図8】本発明の実施形態における各カウントマークの平面形状と面積及び重心から外縁までの最短距離との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の説明では、インクジェット式記録ヘッドを例示して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態における製造方法によって製造された流路形成基板(配線基板)を具備するインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。図2は、本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。
図示するように、流路形成基板(第1の基板)10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その両面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0016】
この流路形成基板10には、その他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁によって区画された複数の圧力発生室12が幅方向に並設されている。各圧力発生室12の外側には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成する連通部13が形成され、各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0017】
また、流路形成基板10の一方の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、あるいはステンレス鋼(SUS)などからなる。
【0018】
流路形成基板10の上記開口面とは反対側には、上述したように二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)等からなる絶縁体膜55が積層形成されている。また、絶縁体膜55上には、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とからなる圧電素子300が形成されている。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。
【0019】
一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を圧力発生室12毎にパターニングして構成する。例えば、本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。
【0020】
圧電素子300の個別電極である各上電極膜80の端部近傍には、例えば、金(Au)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等からなるリード電極(配線部)90が接続され、このリード電極90は、圧電素子300を駆動するための駆動IC(駆動部)220と駆動配線200を介して接続される。駆動配線200は、ボンディングワイヤーからなり、圧電素子保持部31の外に引き出された各リード電極90の端部と、駆動IC220とを電気的に接続させる。
【0021】
リード電極90の間には、カウントマーク(島部)120が設けられている。カウントマーク120は、幅方向に複数(例えば180個)並設された圧電素子300毎に引き出されたリード電極90の間に、所定数(例えば10個)毎に配置されている。作業者は、図示しない検査装置によって、カウントマーク120を基準に、リード電極90及び圧電素子300のカウントや、所定のリード電極90及び圧電素子300の位置を特定して検査等を行うことができる。
【0022】
カウントマーク120は、リード電極90と共にパターニングされており、リード電極90と同一材料から形成されている。カウントマーク120は、島状に形成され、本実施形態では、その平面形状が円弧形状を含む形状(円形、楕円形、樽形、俵形等、本実施形態では楕円形)に設定されている。このカウントマーク120の平面形状は、100マイクロメートル(μm)四方の領域内に設定されている。より好ましくは、30マイクロメートル(μm)四方の領域に設定されていることが望ましい。これにより、インクジェット式記録ヘッドの寸法を大きくすることなく、図示しない検査装置が認識できる大きさでカウントマーク120を形成することができる。
【0023】
このような配線構造が形成された流路形成基板10上には、保護基板(第2の基板)30が接着層35を介して接合されている。この保護基板30は、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300を保護するための空間である圧電素子保持部31を有し、圧電素子300はこの圧電素子300内に配置されている。なお、圧電素子保持部31は、密封されていても密封されていなくてもよい。
【0024】
また、保護基板30には、連通部13に対向する領域に、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通部であるリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、上述したように、流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。なお、保護基板30は、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることが好ましく、例えば、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成している。
【0025】
保護基板30上には、リザーバ部32に対向する領域に、例えば、PPSフィルム等の可撓性を有する材料からなる封止膜41及び、金属材料等の硬質材料からなる固定板42とで構成されるコンプライアンス基板40が接合されている。固定板42のリザーバ部32に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ部32の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0026】
また、この保護基板30上には、各圧電素子300をそれぞれ選択的に駆動するための駆動IC220が実装されている。保護基板30上には、所定形状にパターニングされた接続配線210が設けられており、駆動IC220は、この接続配線210上に実装されている。接続配線210には、例えば、FPC等の外部配線(図示なし)が電気的に接続され、この外部配線からの駆動信号及び駆動電圧が、接続配線210を介して各駆動IC220に供給されるようになっている。
【0027】
上記構成のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動IC220からの駆動信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に駆動電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力を高め、ノズル開口21からインク滴を吐出させることが可能となっている。
【0028】
以下、上記構成のインクジェット式記録ヘッドの製造方法、特に、流路形成基板10の製造方法のうち、流路形成基板10上に、リード電極90及びカウントマーク120を形成する工程について説明する。なお、この工程前の流路形成基板10には、圧電素子300が上記先行技術文献のようにフォトリソグラフィ法等を用いて予め形成されている。
図3は、本発明の実施形態におけるパターニング工程及びアッシング工程を説明するための図である。
【0029】
先ず、図3(a)に示すように、流路形成基板10となる表面が二酸化シリコン膜(弾性膜50)で覆われたシリコン基板上に、金属層110をスパッタ法によって全面に亘って成膜する。なお、金属層110と二酸化シリコン膜との密着性を高めるために、タングステン(W)、ニッケル(Ni)又はクロム(Cr)、若しくはこれらの化合物としてニッケルクロム(NiCr)等を、金属層110の下地層として成膜してもよい。
【0030】
次に、金属層110上にレジストを塗布等することにより所定形状のレジストパターン160を形成する。具体的には、例えば、ネガレジストをスピンコート法等により金属層110上に塗布し、その後、所定形状のマスクを用いて露光・現像等を行うことによって所定パターンのレジストを形成する。勿論、ネガレジストの代わりにポジレジストを用いてもよい。
【0031】
次に、図3(b)に示すように、このレジストパターン160をマスクとして、金属層110をエッチングしてリード電極90及びカウントマーク120を所定形状にパターニングする(パターニング工程)。すなわち、流路形成基板10の表面が露出するまで金属層110をエッチングする。このエッチングとしては、例えば、ドライエッチングを用いることができる。
【0032】
次いで、図3(c)に示すように、レジストパターン160を酸素プラズマによって剥離する(アッシング工程)。具体的には、例えば、流路形成基板10を収容したチャンバー内を真空排気し、その後、酸素(O)を含むガスを導入し、プラズマ化させる。プラズマ化したガスは、レジストパターン160を、二酸化炭素(CO)や水蒸気(HO)等として分解し、除去する。
【0033】
ところで、有機材料からなるレジストパターン160は、結合エネルギーが小さく二酸化炭素(CO)や水蒸気(HO)等として分解され易いC‐O結合及びC‐H結合と、これらと比較して結合エネルギーが大きく分解され難いC‐C結合と、を有する。このため、酸素プラズマアッシング処理では、C‐O結合及びC‐H結合が優先的に分解され、C‐C結合が残存し易くなる傾向にあり、C‐C結合の割合が多くなると、それだけ分解エネルギーを必要とし、処理時間の延長に繋がる。
【0034】
ここで、レジストパターン160の載量が大きいパターンに比べて、レジストパターン160の載量が小さいパターンの方が、C‐C結合が残存し易くなる傾向にある。これは、レジストパターン160の載量が多い方が、C‐O結合及びC‐H結合を多く含むため、C‐O結合及びC‐H結合の分解に便乗して、C‐C結合が分解され易くなるためである。したがって、レジストパターン160の載量が小さいカウントマーク120では、レジスト残りが生じ易くなる傾向にある。
【0035】
このような傾向は、実験の結果、平面形状が30μm四方程度の領域内に設定された微小パターンであるカウントマーク120において発現することが確認された。また、この微小パターンであるカウントマーク120においては、レジストパターン160の剥離特性が、カウントマーク120の平面形状と関係することが確認された。
【0036】
続いて、図4〜図7を参照して、レジストパターン160の剥離特性と、カウントマーク120の平面形状との関係について説明する。
なお、図4(a)〜図7(a)は、酸素プラズマアッシング処理開始から90秒(Sec)経過後のレジストパターン160の剥離の様子を示し、図4(b)〜図7(b)は、同じく165秒経過後のレジストパターン160の剥離の様子を示し、図4(c)〜図7(c)は、同じく180秒経過後のレジストパターン160の剥離の様子を示す。
【0037】
図4は、本発明の実施形態におけるカウントマーク120の平面形状を楕円形に設定した場合のレジストパターン160の剥離の様子を経時的に示す図である。
図4(a)及び図4(b)に示すように、酸素プラズマアッシング処理開始から90秒経過後、及び、165秒経過後においては、カウントマーク120の上にレジストパターン160が確認された。
図4(c)に示すように、酸素プラズマアッシング処理開始から180経過後においては、カウントマーク120の上にレジストパターン160が確認されなかった。
【0038】
図5は、本発明の実施形態におけるカウントマーク120の平面形状を四角形に設定した場合のレジストパターン160の剥離の様子を経時的に示す図である。
図5(a)及び図5(b)に示すように、酸素プラズマアッシング処理開始から90秒経過後、及び、165秒経過後においては、楕円形に設定した場合と比較して小さいが、カウントマーク120の上にレジストパターン160が確認された。
図5(c)に示すように、酸素プラズマアッシング処理開始から180経過後においては、カウントマーク120の上にレジストパターン160が確認されなかった。
【0039】
図6は、本発明の実施形態におけるカウントマーク120の平面形状を菱形に設定した場合のレジストパターン160の剥離の様子を経時的に示す図である。
図6(a)に示すように、酸素プラズマアッシング処理開始から90秒経過後においては、カウントマーク120の上にレジストパターン160が確認された。
図6(b)及び図6(c)に示すように、酸素プラズマアッシング処理開始から165秒経過後、及び、180経過後においては、カウントマーク120の上にレジストパターン160が確認されなかった。
【0040】
図7は、本発明の実施形態におけるカウントマーク120の平面形状を三角形に設定した場合のレジストパターン160の剥離の様子を経時的に示す図である。
図7(a)に示すように、酸素プラズマアッシング処理開始から90秒経過後においては、菱形に設定した場合として小さいが、カウントマーク120の上にレジストパターン160が確認された。
図7(b)及び図7(c)に示すように、酸素プラズマアッシング処理開始から165秒経過後、及び、180経過後においては、カウントマーク120の上にレジストパターン160が確認されなかった。
【0041】
以上の結果を、下表1に示す。なお、下表1には、通常パターンとして、セグメント形状のリード電極90のレジスト残りの結果も合わせて示す。
【0042】
【表1】

【0043】
このように、レジストパターン160の剥離特性は、カウントマーク120の平面形状と関係することが分かる。具体的には、カウントマーク120の平面形状を楕円形とするとレジスト剥離に最も時間が必要となり、次いで、四角形、菱形の順、そして、カウントマーク120の平面形状を三角形とすると、レジスト剥離に最も時間がかからないことが分かる。
【0044】
上記各カウントマーク120の平面形状の設定条件を、下表2に示す。なお、下表2は、各カウントマーク120の平面形状の面積(μm)と、該平面形状の重心から外縁までの最短距離(重心‐外縁1:μm)と、該平面形状の重心から外縁までの最長距離(重心‐外縁2:μm)と、を示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2に示すように、重心‐外縁2については、三角形が最長であるが、レジスト剥離時間は最短である。レジストパターン160のアッシングは、酸素プラズマに曝される表面部(上面及び側面)から徐々に進行することに鑑みれば、図4〜図7に示すレジスト剥離特性に最も関係するパラメーターとして考えられるのは、カウントマーク120の平面形状の面積、あるいは、重心から外縁までの最短距離のいずれかとなる。
【0047】
図8は、本発明の実施形態における各カウントマーク120の平面形状と面積及び重心から外縁までの最短距離との関係を示す図である。
図8に示すように、楕円形に対して四角形は、面積が4分の1程度の大きさであるが、図4及び図5に示すように、楕円形に対する四角形のレジスト剥離時間の差は小さい。一方、四角形に対して菱形及び三角形は、平面形状の重心から外縁までの最短距離が一割程度小さいが、図5〜図7に示すように、四角形に対するレジスト剥離時間の差は大きい。このため、レジスト剥離特性に最も関係するパラメーターは、面積ではなく、平面形状の重心から外縁までの最短距離であることが分かる。
【0048】
このように島状のカウントマーク120においては、その平面形状の重心から外縁までの距離が長いほどレジストパターン160の剥離残りが生じ易くなるというレジストパターン160の剥離特性があるため、カウントマーク120の平面形状を、当該形状の外縁から重心までの距離が長い、楕円形や四角形、より好ましくは、レジスト剥離時間が最長の楕円形に設定することが好ましい。
【0049】
したがって、パターニング工程において、レジストパターン160の剥離特性に基づいて、カウントマーク120の平面形状を設定することにより、表1に示すように、カウントマーク120上のレジストパターン160の剥離時間を、リード電極90上のレジストパターン160の剥離時間よりも長くさせるといった、レジスト剥離時間のコントロールが可能となる。
これにより、作業者は、カウントマーク120上のレジストパターン160の剥離残りのみを確認することによって、リード電極90上のレジストパターン160の剥離残りを含めた流路形成基板10全体のアッシング工程の終点確認が可能となる。また、カウントマーク120は、その数がリード電極90に比べて十分に少ない(本実施形態では、例えば10分の1の数)ため、レジストパターン160の剥離残りの確認作業も容易である。
【0050】
なお、このように形成された流路形成基板10を、圧電素子保持部31及びリザーバ部32等が形成された保護基板30と接合し、接合した側と逆側の流路形成基板10を研磨及びフッ硝酸によるエッチングにより所定の厚さとした後、窒化シリコンからなるマスクを形成し、このマスクを介して異方性エッチングすることで、圧力発生室12や連通部13等を形成し、さらに、連通部13とリザーバ部32とを連通させてリザーバ100を形成する。その後、接続配線210上に駆動IC220を実装すると共に、駆動IC220とリード電極90とを駆動配線200を介して接続する。さらに、流路形成基板10に、ノズルプレート20を接合すると共に、保護基板30に、コンプライアンス基板40を接合することによって、図1及び図2に示す構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0051】
したがって、上述した本実施形態によれば、レジストパターン160を介してリード電極90及び島状のカウントマーク120をパターニングするパターニング工程と、パターニング工程の後、レジストパターン160を酸素プラズマによって剥離するアッシング工程と、を有する流路形成基板10の製造方法であって、パターニング工程では、アッシング工程におけるレジストパターン160の剥離特性に基づいて、リード電極90におけるレジストパターン160の剥離時間よりも、カウントマーク120におけるレジストパターン160の剥離時間を長くするように、カウントマーク120の平面形状を設定するという手法を採用することによって、リード電極90よりもカウントマーク120におけるレジストパターン160の剥離残りを生じ易くし、カウントマーク120上のレジストパターン160の剥離時間を、リード電極90上のレジストパターン160の剥離時間よりも長く設定することで、カウントマーク120のレジストパターン160の剥離残りのみを確認することによって、流路形成基板10全体のアッシング工程の終点確認が可能となる。したがって、本実施形態では、レジストパターン160の剥離残りの発生の把握が容易な流路形成基板10の製造方法及びインクジェット式記録ヘッドの製造方法を提供することができる。さらに、アッシング工程の終点確認が容易に可能となり、酸素プラズマアッシング処理のみでレジスト剥離プロセスを完了することができるため、レジスト溶剤等の薬品、設備、時間等が別途必要となくなり、生産性を向上させることができる。
【0052】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0053】
例えば、上述した実施形態では、島部として、カウントマークを例示して説明したが、例えば、アライメントマークとして用いよい。また、本発明は、このようなマークだけでなく、微小な島状のパターンであればあらゆるものに適用可能なものである。
【0054】
また、例えば、上述した実施形態では、島部をリード電極90と共にパターニングする形態を例示して説明したが、例えば、島部を圧電素子300の下電極膜60や上電極膜80等の配線部のパターニングと共に形成してもよい。
【0055】
また、例えば、上述した実施形態では、配線基板として流路形成基板10を例示して説明したが、同様に配線パターンが形成される基板、例えば、保護基板30に本発明を適用してもよい。
【0056】
さらに、上述した実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0057】
勿論、本発明は、このような液体噴射ヘッドだけでなく、基板上に配線パターンを有するあらゆる配線基板の製造に適用可能なものである。
【符号の説明】
【0058】
10…流路形成基板(配線基板、第1の基板)、12…圧力発生室、21…ノズル開口、30…保護基板(第2の基板)、90…リード電極(配線部)、120…カウントマーク(島部)、160…レジストパターン、220…駆動IC(駆動部)、300…圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジストパターンを介して配線部及び島状の島部をパターニングするパターニング工程と、前記パターニング工程の後、前記レジストパターンを酸素プラズマによって剥離するアッシング工程と、を有する配線基板の製造方法であって、
前記パターニング工程では、前記アッシング工程における前記レジストパターンの剥離特性に基づいて、前記配線部における前記レジストパターンの剥離時間よりも、前記島部における前記レジストパターンの剥離時間を長くするように、前記島部の平面形状を設定することを特徴とする配線基板の製造方法。
【請求項2】
前記島部の平面形状を、当該形状の外縁から重心までの距離に基づいて設定することを特徴とする請求項1に記載の配線基板の製造方法。
【請求項3】
前記島部の平面形状を、円弧形状を含む形状に設定することを特徴とする請求項1または2に記載の配線基板の製造方法。
【請求項4】
前記島部の平面形状を、30マイクロメートル四方の領域内に設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の配線基板の製造方法。
【請求項5】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室及び該圧力発生室を変位させる圧電素子を有する第1の基板と、前記第1の基板と接合されると共に前記圧電素子を駆動させる駆動部を有する第2の基板と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記第1の基板及び前記第2の基板の少なくともいずれか一方の製造方法として、請求項1〜4のいずれか一項に記載の配線基板の製造方法を用いることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−222095(P2012−222095A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85158(P2011−85158)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】