説明

酵素処理黒酢の製造方法、およびその製造方法により得られた酵素処理黒酢の用途

【課題】 攪拌時の泡立ちを抑制し、かつ発生した泡が消えやすい性質を有する酵素処理黒酢の製造方法、およびその製造方法により得られた酵素処理黒酢の用途を提供する。
【解決手段】 大麦および/または米を原料とする黒酢の製造方法において、酢酸発酵をした後にプロテアーゼ処理することを特徴とする酵素処理黒酢の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌時の泡立ちを抑制し、かつ発生した泡が消えやすい性質を有する酵素処理黒酢の製造方法、およびその製造方法により得られた酵素処理黒酢の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
黒酢とは、黒色の外観が特徴の酢の一種であり、古くは大型の壷に蒸米、麹、水を仕込み、日当たりの良いところで長時間熟成させて製造していたことから壷酢ともよばれている。また、我が国では鹿児島県福山で製造された黒酢が有名であり、福山酢の別名もある。
【0003】
黒酢は一般的な食酢と比べアミノ酸、ビタミン、ミネラル類が豊富に含まれており、近年、高血圧予防、血流改善、抗酸化作用などの健康効果が謳われ、様々な加工食品に利用されている。
【0004】
しかし、黒酢は非常に泡立ちやすい性質を有しており、攪拌工程を有する加工食品の製造工程において、起泡するため工数と時間がかかり、製造効率が低下する問題があった。また、黒酢を含有する加工食品の製造工程で一度発生した泡は消えにくい為、最終商品の品質にムラが発生してしまう問題があった。
【0005】
加工食品の泡立ちを抑制する方法として、モノグリセリドやシリコーンなどを有効成分とした消泡剤が知られている(非特許文献1)。また、これらを原料として調製された消泡剤組成物が知られている(特許文献1,2)。しかし、これらの消泡剤および消泡剤組成物を用いても、上記課題を充分に解決するものではなかった。また、健康志向の観点から食品添加物を使用せずに上記課題を解決する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−173003号公報
【特許文献2】特開2008−11852号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「食品用乳化剤−基礎と応用−(平成9年4月1日)」、p.11,24、株式会社光琳
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、攪拌時の泡立ちを抑制し、かつ発生した泡が消えやすい性質を有する酵素処理黒酢の製造方法、およびその製造方法により得られた酵素処理黒酢の用途を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成すべく、使用原料及び各工程等、様々な諸条件について鋭利研究を重ねた結果、大麦および/または米を原料とする黒酢の製造方法において、酒精発酵および酢酸発酵をした後にプロテアーゼ処理することにより、意外にも、攪拌時の泡立ちを抑制し、かつ発生した泡が消えやすい性質を有する酵素処理黒酢が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)大麦および/または米を原料とする黒酢の製造方法において、酒精発酵および酢酸発酵をした後にプロテアーゼ処理する酵素処理黒酢の製造方法、
(2)原料となる穀物を酒精発酵する前にプロテアーゼ処理する(1)記載の酵素処理黒酢の製造方法、
(3)穀物の使用量が穀物酢1Lにつき250〜500gである(1)または(2)に記載の酵素処理黒酢の製造方法、
(4)大麦を原料とする黒酢の製造方法において、原料となる大麦が玄麦である(1)乃至(3)のいずれかに記載の酵素処理黒酢の製造方法、
(5)含有されるタンパク質分解物の平均分子量が200〜1000である(1)乃至(4)のいずれかに記載の酵素処理黒酢の製造方法、
(6)(1)乃至(5)のいずれかの方法で得られた酵素処理黒酢を配合した加工食品、
(7)(1)乃至(5)のいずれかの方法で得られた酵素処理黒酢を配合した液状調味料、
(8)(1)乃至(5)のいずれかの方法で得られた酵素処理黒酢を配合した酸性飲料、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、攪拌時の泡立ちを抑制し、かつ発生した泡が消えやすい性質を有する酵素処理黒酢を提供でき、それを配合した加工食品の生産効率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0013】
本発明において黒酢とは、食酢品質表示基準(農林水産省告示第1507号平成20年10月16日改正参照)により定義される大麦黒酢あるいは米黒酢に適合するものである。つまり、大麦黒酢とは、穀物酢のうち、原材料として大麦のみを使用したもので、大麦の使用量が穀物酢1Lにつき180g以上であって、かつ、発酵及び熟成によって褐色又は黒褐色に着色したものをいう。また、米黒酢とは、穀物酢のうち、原材料として米(玄米のぬか層の全部を取り除いて精白したものを除く。以下この項において同じ。)又はこれに小麦若しくは大麦を加えたもののみを使用したもので、米の使用量が穀物酢1Lにつき180g以上であって、かつ、発酵及び熟成によって褐色又は黒褐色に着色したものをいう。
【0014】
本発明の酵素処理黒酢とは、黒酢をプロテアーゼ処理することによって、黒酢に含有されるタンパク質の全部または一部が分解されている黒酢のことをいう。
【0015】
黒酢の製造方法は、まず上記の大麦および/または米を原料として、麦芽や麹に含まれる糖化酵素、又は別途糖化酵素を添加して原料中の糖質を糖化した後、ろ過などにより糖化粕などを除去し糖化液を調製する。その後、該糖化液に酵母を添加し酒精発酵させた後、ろ過などにより酒粕などを除去し酒精発酵液を得る。さらに、該酒精発酵液を酢酸菌により酢酸発酵させ、適宜熟成を行った後、ろ過、殺菌し、容器に充填して製造する方法が一般的である。あるいは、一つの壷などの中で、上記の糖化、酒精発酵、酢酸発酵の各工程を同時に進行させて製造する方法なども知られている。
【0016】
本発明は、大麦および/または米を原料とする酵素処理黒酢の製造方法、およびその製造方法により得られた酵素処理黒酢の用途に係る発明であるが、大麦および/または米を原料として上記の糖化、酒精発酵、酢酸発酵をした後にプロテアーゼ処理することを特徴としており、これにより攪拌時の泡立ちを抑制し、かつ発生した泡が消えやすい性質を有する酵素処理黒酢が得られる。以下に本発明の酵素処理黒酢の代表的な製造方法を中心に詳述する。
【0017】
原料は、上記食酢品質表示基準に則り、酵素処理大麦黒酢の場合は大麦を用い、酵素処理米黒酢の場合は米(玄米のぬか層の全部を取り除いて精白したものを除く)を用いる。
【0018】
本発明で用いる大麦は、旨味・コク味付与の観点から、玄麦の精白の程度が低く、フスマ層が多く残存しているものが好ましく、玄麦をそのまま用いることがより好ましい。また、玄麦を使用すると、本発明の課題である攪拌時の泡立ちが発生しやすいため、本発明の効果を発揮しやすく好適である。具体的には、フスマ層を除去する程度が0〜30%の大麦が好ましく、0〜15%の大麦がより好ましい。
【0019】
また、大麦を原料とする場合は、麦芽を用いることが好ましい。麦芽は糖化酵素およびプロテアーゼを豊富に含有しており、糖化処理、および糖化処理と同時または連続して行われるプロテアーゼ処理の作業効率を高めることができるためである。
【0020】
また、本発明で用いる米は、玄米の精米の程度が低く、ぬか層が多く残存しているものが好ましく、玄米をそのまま使用しても良い。具体的には、精米の程度が、7分づき以下の分づき米または玄米を用いることが好ましく、5分づき以下の分づき米または玄米を用いることがより好ましい。
【0021】
本発明において、大麦および/または米の使用量は、穀物酢1Lにつき250〜500gが好ましく、300〜500gがより好ましい。使用量が250gよりも少ないと、本発明の課題である攪拌時の泡立ちが発生しにくいため、好適でない。一方、使用量が500gよりも高いと、例え後述の酢酸発酵後のプロテアーゼ処理をしても泡立ちを抑制し難く好ましくない。
【0022】
大麦および/または米の使用量を増やす方法としては、原料の大麦および/または米の使用量を増やす方法も挙げられるが、糖化の作業効率を良くする観点から濃縮糖化液を使用する方法が好ましい。濃縮糖化液とは、後述する大麦および/または米を糖化処理した糖化液を減圧濃縮などの方法で濃縮したものである。減圧濃縮は通常の減圧濃縮装置あるいは減圧蒸留装置を用いることができる。装置としては、濃縮缶、ロータリーエバポレーターなどを用いればよい。
【0023】
本発明の酵素処理黒酢の製造方法は、原料となる穀物を酒精発酵する前にプロテアーゼ処理すると、酵素処理黒酢の攪拌時の泡立ちが抑制され、かつ発生した泡が消えやすくなるため好ましい。
【0024】
プロテアーゼとは、ペプチド結合を加水分解する酵素の総称であり、タンパク質加水分解酵素あるいはタンパク質分解酵素ともいわれる。プロテアーゼは、由来原料によって動物由来(パンクレアチン・トリプシン・キモトリプシン・ペプシンなど)、植物由来(パパイン・ブロメライン・フィシンなど)、微生物由来(麹菌・乳酸菌・酵母・カビ・枯草菌・放線菌など)に、分解の位置のよってエンドペプチターゼ・エキソペプチターゼに、至適pHによる分類である酸性プロテアーゼ・中性プロテアーゼ・アルカリ性プロテアーゼなどに分類される。
【0025】
本発明における、酒精発酵する前に行われる原料となる穀物のプロテアーゼ処理は、酵素処理大麦黒酢の場合は麦芽が有するプロテアーゼ、酵素処理米黒酢の場合は麹菌が有するプロテアーゼによっても処理されるが、別途プロテアーゼを加えてもよい。添加するプロテアーゼとしては、大麦および/または米に含有されているタンパク質を適度に加水分解できるものであれば特に限定するものではないが、pH4〜9に至適pHを持つ酸性プロテアーゼまたは中性プロテアーゼを用いることが好ましい。
【0026】
酒精発酵する前のプロテアーゼ処理の処理条件は、酵素の種類、添加量、反応温度、反応時間を変更することによって任意に設定することができるが、例えば本発明では、糖化処理の前後または糖化処理と同時に、30〜70℃の条件下で1〜24時間処理するとよい。
【0027】
本発明の酵素処理黒酢の製造方法において、糖化処理の処理条件は特に限定されるものではないが、工業的、伝統的な黒酢の製造方法で実施されている常法に従ってpH、反応温度、反応時間を変更することによって任意に設定することができる。例えば、糖化処理は、pH2.5〜8.0、温度40℃〜90℃、1〜24時間の範囲で、原料の種類、配合量に応じて適宜条件を選択すればよい。
【0028】
酵素反応の停止は、加熱により酵素を失活させることにより行うことができる。加熱条件は、例えば85℃で15分間等の条件で行うとよい。
【0029】
本発明の酵素処理黒酢の製造方法において、酒精発酵、酢酸発酵の処理条件は特に限定されるものではないが、工業的、伝統的な黒酢の製造方法で実施されている常法に従ってpH、反応温度、反応時間を変更することによって任意に設定することができる。例えば、酒精発酵は、pH3.0〜8.0、温度10℃〜35℃、1〜30日の範囲で、原料の種類、配合量、発酵方法に応じて適宜条件を選択すればよい。また、酢酸発酵は、温度25℃〜35℃、1〜30日の範囲で、原料の種類、配合量、発酵方法に応じて適宜条件を選択すればよい。
【0030】
本発明の酵素処理黒酢の製造方法は、酒精発酵および酢酸発酵をした後にプロテアーゼ処理することを特徴とする。酒精発酵および酢酸発酵後のプロテアーゼ処理をしていない黒酢は、例え前述の酒精発酵前のプロテアーゼ処理をしたとしても、攪拌時の泡立ちが抑制されず、また、発生した泡が消えにくいものとなるためである。
【0031】
本発明における酢酸発酵した後のプロテアーゼ処理で用いるプロテアーゼは、黒酢に含有されているタンパク質を充分に加水分解できるものであれば特に限定するものではないが、酸性(pH2〜7)に至適pHを持つ酸性プロテアーゼを用いることが好ましい。
【0032】
酢酸発酵をした後のプロテアーゼ処理の処理条件は、酵素の種類、添加量、反応温度、反応時間を変更することによって任意に設定することができるが、例えば本発明では、pH2〜5の酢酸発酵液に、タンパク質1g当たり50〜10000活性単位の割合でプロテアーゼを混合し、30〜70℃の条件下で1〜24時間処理するとよい。
【0033】
酵素反応の停止は、加熱により酵素を失活させることにより行うことができる。加熱条件は、例えば85℃で15分間等の条件で行うとよい。
【0034】
本発明において、酵素処理黒酢に含有されるタンパク質分解物の平均分子量は、200〜1000が好ましく、200〜800がより好ましい。タンパク質分解物の平均分子量が前記範囲よりも高いと、酵素処理黒酢の攪拌時の泡立ちを抑制し難く好ましくない。なお、タンパク質分解物の平均分子量は小さいほど酵素処理黒酢の攪拌時の泡立ちを抑制できるが、作業性の観点から200以上が好ましい。
【0035】
タンパク質分解物の平均分子量は、一般的に行われている以下の方法で求められる。つまり、セミミクロケルダール法よる全窒素の含量をA%とし、ホルモル滴定法によるアミノ態窒素の含量をB%とし、そしてアミノ酸分析により得られる構成アミノ酸の数平均分子量をCとしたとき、平均分子量=(A×C)/Bに基づいて算出される値である。
【0036】
本発明の酵素処理黒酢は、製造工程に攪拌を有する加工食品であれば、攪拌時の泡立ちが抑制され、かつ発生した泡が消えやすくなるため、好適に使用できる。製造工程に攪拌を有する加工食品としては、例えば、マヨネーズ、マヨネーズ類、乳化ドレッシング、分離液状ドレッシング、ノンオイルドレッシング、調味マスタード、ウスターソース、とんかつソース、中濃ソース、オイスターソース、タレ類などの液状調味料、清涼飲料水、アルコール飲料などの酸性飲料およびこれらの濃縮物、パスタソース、クリームソース、カレーソース、シチュー、スープ、グラタン、ドリア、フィリング、スプレッド、フラワーペースト、プリン、アイスクリーム、ムース、流動食などが挙げられる。
【0037】
本発明の加工食品において、酵素処理黒酢の配合量は、本発明が解決しようとする課題である、加工食品の攪拌時の泡立ちが起こり得る量を配合すれば良く、1〜90%が好適であり、3〜70%がより好適であり、5〜50%が更に好適である。
【0038】
以下、本発明について、実施例、比較例並びに試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
<麦芽糖化液および麦芽濃縮糖化液の製造工程>
粉砕した麦芽600kgを1500kgの清水と混合し、攪拌しながら45℃で30分間加熱した後(プロテアーゼ処理)、60℃で90分間加熱し(糖化処理)、その後、90℃まで達温させることで酵素反応を停止させ、麦芽糖化液を得た。また、この麦芽糖化液を減圧濃縮することで、Brix80の濃縮麦芽糖化液を得た。
【0040】
<大麦黒酢の製造工程>
麦芽糖化液2100kgに上記麦芽濃縮糖化液1200kg、清水300kgを混合し、少量の酵母を添加して30℃で3日間、酒精発酵を行い、ろ過をして大麦酒精発酵液を得た。次いで、大麦酒精発酵液に酢酸菌を接種して30℃で20日間、アルコール濃度0.5ml/100ml以下になるまで静置発酵を行い、ろ過をして、大麦黒酢を得た。
【0041】
<酵素処理大麦黒酢の製造工程>
得られた大麦黒酢100Lに対して酸性プロテアーゼ(プロテアーゼYP−SS(ヤクルト薬品工業社製))50gの割合で添加し、45℃で17時間プロテアーゼ処理をし、ろ過をして、酵素処理大麦黒酢を得た。なお、得られた酵素処理大麦黒酢は酵素処理大麦黒酢1Lにつき400gの大麦を使用したものであり、含有されるタンパク質分解物の平均分子量は約490であった。
【0042】
[実施例2]
<分離液状ドレッシングの製造方法>
下記の配合割合に準じ、実施例1で得られた酵素処理大麦黒酢及びその他の水相原料を混合し、ミキサーで均一に攪拌し(3000rpm、3分)、水相部を調製した。次に、得られた水相部を分離液状ドレッシングの容量が250mLとなるように250mL容量のポリエチレンテレフタレート製の容器(以下、PET容器)に充填した後に、残りの油相部である植物油を積層させ密栓した。
【0043】
<分離液状ドレッシングの配合割合>
(油相部)
植物油 35%
(水相部)
醤油 15%
酵素処理大麦食酢(酸度5%) 10%
食塩 3%
キサンタンガム 0.1%
清水 残余
――――――――――――――――――――
合計 100%
【0044】
分離液状ドレッシングの製造工程中の攪拌時に、酵素処理大麦黒酢を含む混合液の泡立ちは少なく、また、発生した泡は消えやすいものであった。
【0045】
[実施例3]
実施例1の酵素処理大麦黒酢の製造方法における麦芽糖化液および麦芽濃縮糖化液の製造工程において、粉砕した麦芽と清水を混合し、攪拌しながら60℃で90分間加熱した後(糖化処理)、90℃まで達温させることで酵素反応を停止させた以外は実施例1と同様の方法で麦芽糖化液を得た後、その麦芽糖化液を用いて実施例1と同様の方法で酵素処理大麦黒酢を得た。
【0046】
[比較例1]
実施例1の酵素処理大麦黒酢の製造方法における麦芽糖化液および麦芽濃縮糖化液の製造工程において、粉砕した麦芽と清水を混合し、攪拌しながら45℃で3時間加熱した後(プロテアーゼ処理)、60℃で90分間加熱(糖化処理)した以外は実施例1と同様の方法で酒精発酵および酢酸発酵後のプロテアーゼ処理を施していない大麦黒酢を得た。なお、得られた大麦黒酢に含有されるタンパク質分解物の平均分子量は約570であった。
【0047】
[試験例1]
実施例1の酵素処理大麦黒酢1L、実施例3の酵素処理大麦黒酢1L、比較例1の大麦黒酢1L、比較例1の大麦黒酢1Lにシリコーン0.045gを混合したものを用いて、プロテアーゼ処理の有無による攪拌時の黒酢の泡立ちやすさを評価した。具体的には、上記4種の黒酢をミキサーで攪拌し(3000rpm、3分)、を下記の評価基準で評価した。
【0048】
「攪拌時の黒酢の泡立ちやすさ」の評価
ランク:基準
◎:泡立ちが充分に抑制されており、発生した泡はすぐに消滅した。
○:泡立ちが抑制されており、発生した泡は短時間の静置で消滅した。
△:泡立ちがやや抑制されているが満足いくものではなく、発生した泡は短時間の静置では消滅しなかった。
×:泡立ちが抑制されておらず、長時間放置しても消滅しなかった。
【0049】
【表1】

【0050】
表1より、黒酢の製造工程において、酢酸発酵後にプロテアーゼ処理をした酵素処理黒酢は、攪拌時の泡立ちが抑制され、かつ発生した泡の消泡効果が優れており(実施例1、3)、酢酸発酵後にプロテアーゼ処理に加えて酒精発酵する前にプロテアーゼ処理をした酵素処理黒酢は、より攪拌時の泡立ちが抑制され、かつ発生した泡の消泡効果がより優れていることが理解される(実施例1)。
【0051】
[実施例4]
<玄米酒精発酵液の製造工程>
玄米700kgを粉砕し、液化酵素(液化酵素T(エイチビィアイ社製))3kg、水1800Lを加え、50℃で1時間、さらに90℃で1時間液化処理を行った。その後、50℃まで冷却し、玄米麹100kg、米黒酢40L、糖化酵素(グルコアミラーゼアマノSD(天野エンザイム社製))0.2kg、プロテアーゼ(プロテアーゼM(天野エンザイム社製))1kgを加え、50℃で3時間処理した。その後、30℃まで冷却後、少量の酵母を添加し、24時間酒精発酵後、ろ過をして、玄米酒精発酵液を得た。
【0052】
<玄米糖化液の製造工程>
玄米500kgを粉砕し、液化酵素(液化酵素T(エイチビィアイ社製))2kg、水1200Lを加え、50℃で3時間、さらに90℃で1時間液化処理を行った。その後、50℃まで冷却し、米黒酢40L、糖化酵素(グルコアミラーゼアマノSD(天野エンザイム社製))0.12kg、プロテアーゼ(プロテアーゼM(天野エンザイム社製))1.5kgを加え、50℃で17時間糖化処理を行った。その後ろ過をして、玄米糖化液を得た。
【0053】
<米黒酢の製造工程>
玄米酒精発酵液270Lと玄米糖化液400L、米黒酢230L、水100Lを混合し、酢酸菌を接種し、30℃で20日間、アルコール濃度0.5ml/100ml以下になるまで酢酸発酵を行い、ろ過をして、米黒酢を得た。
【0054】
<酵素処理米黒酢の製造工程>
得られた米黒酢100Lに対して酸性プロテアーゼ(プロテアーゼYP−SS(ヤクルト薬品工業社製))50gの割合で添加し、45℃で17時間プロテアーゼ処理をし、ろ過をして、酵素処理米黒酢を得た。なお、得られた酵素処理米黒酢は酵素処理米黒酢1Lにつき300gの米を使用したものであり、含有されるタンパク質分解物の平均分子量は約330であった。
【0055】
[実施例5]
<黒酢飲料の製造方法>
下記の配合割合に準じ、実施例3で得られた酵素処理米黒酢7.5kg、砂糖3kg及び清水90kgを混合し、ミキサーで均一に攪拌し(3000rpm、3分)、混合液を調製した。次に、得られた混合液を常法により108℃で2秒間加熱殺菌した後、これを200mLずつ紙容器に無菌パックして黒酢飲料を得た。
【0056】
黒酢飲料の製造工程中の攪拌時に、酵素処理米黒酢を含む混合液の泡立ちは少なく、また、発生した泡は消えやすいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦および/または米を原料とする黒酢の製造方法において、酒精発酵および酢酸発酵をした後にプロテアーゼ処理することを特徴とする酵素処理黒酢の製造方法。
【請求項2】
原料となる穀物を酒精発酵する前にプロテアーゼ処理することを特徴とする請求項1記載の酵素処理黒酢の製造方法。
【請求項3】
穀物の使用量が酵素処理黒酢1Lにつき250〜500gである請求項1または2に記載の酵素処理黒酢の製造方法。
【請求項4】
大麦を原料とする黒酢の製造方法において、原料となる大麦が玄麦である請求項1乃至3のいずれかに記載の酵素処理黒酢の製造方法。
【請求項5】
含有されるタンパク質分解物の平均分子量が200〜1000である請求項1乃至4のいずれかに記載の酵素処理黒酢の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの方法で得られた酵素処理黒酢を配合した加工食品。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかの方法で得られた酵素処理黒酢を配合した液状調味料。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかの方法で得られた酵素処理黒酢を配合した酸性飲料。

【公開番号】特開2011−36157(P2011−36157A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185224(P2009−185224)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【出願人】(591112371)キユーピー醸造株式会社 (17)
【Fターム(参考)】