説明

酸化物を含有したCo基スパッタリングターゲット材の製造方法

【課題】 本発明は、Co系磁性相および酸化物非磁性相からなる磁性膜を有する磁気記録媒体における磁性膜を生成するための高密度スパッタリングターゲット材を提供する。【解決手段】 Co系金属磁性相と酸化物非磁性相よりなり、相対密度97%以上のスパッタリングターゲット材において、成形温度1000℃以上、成形圧力500MPa以上で成形し、抗折強度が300MPa以上であることを特徴とする酸化物を含有したCo基スパッタリングターゲット材。また、上記成形温度を1000〜1350℃とする酸化物を含有したCo基スパッタリングターゲット材。さらに、上記成形圧力を500〜1000MPaとする酸化物を含有したCo基スパッタリングターゲット材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Co系磁性相および酸化物非磁性相からなる磁性膜を有する磁気記録媒体における磁性膜を生成するための高密度スパッタリングターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より磁気記録用の高密度記録媒体として、金属強磁性相の結晶粒界を非磁性相で分断した薄膜が提案されており、特に金属強磁性相としてCo系の高保磁力相、非磁性相に各種非金属化合物を用いた薄膜の特性が良好であるとされている。例えば特開平5−73880号公報(特許文献1)に開示されているように、基板と上記基板に形成された磁性層とを具備する磁気記録媒体であって、上記磁性層は、Co系、Fe系、FeCo系のいずれかである磁性材料と、酸化物および窒化物からなる群から選ばれた少なくとも1種の非磁性化合物とが混合してなる磁性記録体で、その磁性材料は、CoNiCr、CoNiPt、CoPtCr、CoCrTaからなる群から選ばれた三元合金、非磁性相としては、Si,Zr,Ta,Cr,Ti,Al,Yの酸化物が提案されている。
【0003】
さらに、特開平7−311929号公報(特許文献2)には、磁性薄膜を形成する結晶粒子が、非強磁性非金属相を含む結晶粒界部により実質的に分離されている磁気記録媒体が、また、特開2002−83411号公報(特許文献3)には、基板上にCo−PtまたはCo−Pt−Crを主体とした酸化物MxOyを含有する磁性薄膜が磁性層として形成されており、上記磁性薄膜における上記酸化物MxOyの含有量は、当該酸化物を形成する構成元素Mの比率がCo−PtまたはCo−Pt−Crに対して4原子%以上、8原子%以下となるような量とされ、且つ上記磁性層の厚さは、10nm以上、25nm以下である磁気記録媒体が提案されている。
【0004】
これらの薄膜の製造方法としては、Co系合金に酸化物を含有させた焼結ターゲット材やCo系合金ターゲット上に酸化物チップを配置した複合ターゲット材をスパッタするが薄膜の均一性やスパッタ時の生産性を考慮するとCo系合金中に酸化物が分散した焼結ターゲット材が好ましい。このような焼結ターゲット材の製造方法として、特平10−88333号公報(特許文献4)のように、急冷凝固法で作製した合金相合金粉末とセラミックス相粉末とを混合した後、ホットプレスにより固化成形する方法が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−73880号公報
【特許文献2】特開平7−311929号公報
【特許文献3】特開2002−83411号公報
【特許文献4】特平10−88333号公報
【非特許文献1】「粉体および粉末冶金」Vol.37 No.8 1144(神戸製鋼所):反応焼結法によるNi基高耐食耐摩耗合金の開発
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ターゲット材をスパッタする場合、ターゲット材の密度が生産性、薄膜の品質に大きく影響する。すなわち、低密度ターゲットを使用した場合、パーティクルの発生などにより生産性の低下を招く。しかしながら、一般的に酸化物などのセラミックスは金属との濡れ性が悪いため、特許文献4に提案されている方法によっても高密度に焼結することは非常に困難であり課題となっている。
【0007】
一方、セラミックスを合金相で高密度に結合、焼結するサーメット工具の製造方法として、超硬工具(Co−WC系)などの液相焼結法や、例えば「粉体および粉末冶金」Vol.37 No.8 1144(神戸製鋼所):反応焼結法によるNi基高耐食耐摩耗合金の開発(非特許文献1)に提案されているような反応焼結法があるが、しかしながら、液相焼結法は合金相中にセラミックスの固液限が少なくとも数%程度必要であり成分系が制限される。
【0008】
一方、反応焼結法については、セラミックスと合金が界面で反応し濡れる必要がある。しかしながら、Co系磁性相を酸化物で分断した薄膜組織として高保磁力化するためには、酸化物成分がCo系磁性相と反応しない安定な酸化物であることが必要であるため、その原料となるターゲット材を反応焼結により製造するのは本質的に困難である。したがって、Co系合金中に酸化物を含有した高密度ターゲット材を製造することは非常に困難である。
【0009】
また、相対密度は機械的強度にも大きく影響し、相対密度の低い成形体はターゲット形状に機械加工する際などにクラックや欠けを発生するため取扱が困難である。特に、抗折強度が300MPa未満の成形体の機械加工は極めて困難である。
以上のように、抗折強度が十分高く、かつ高保磁力を有する薄膜を生産性良く製造するための、Co系合金中に酸化物を含有した高密度ターゲット材を製造することは非常に困難である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、1000℃以上の温度において、500MPa以上の高圧力にて成形することが最も重要であることを見出し、発明をするに至ったものである。その発明の要旨とするとことは、
(1)Co系金属磁性相と酸化物非磁性相よりなり、相対密度97%以上のスパッタリングターゲット材において、成形温度1000℃以上、成形圧力500MPa以上で成形し、抗折強度が300MPa以上であることを特徴とする酸化物を含有したCo基スパッタリングターゲット材。
【0011】
(2)前記(1)に記載の成形温度を1000〜1350℃とすることを特徴とする酸化物を含有したCo基スパッタリングターゲット材。
(3)前記(1)または(2)に記載の成形圧力を500〜1000MPaとすることを特徴とする酸化物を含有したCo基スパッタリングターゲット材にある。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、本発明により高保磁力を有する薄膜を生産性良く製造でき、かつ機械加工などの取扱いが容易であるCo系合金中に酸化物を含有した高密度ターゲット材を製造することが可能となる工業上極めて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係るCo系金属磁性材料としては、CoCrNi,CoCrTa,CoCr,CoCrPt,CoNiPt、CoCrTaNi,CoCrTaPt等が挙げられる。これらCo系金属磁性材料は、保磁力が高く、例えばハードディスク用の高密度磁気記録媒体として使用される。
また、金属酸化物非磁性材料としては、SiO2 ,Cr2 3 ,ZrO2 ,TiO2 ,CaO,Al2 3 ,Y2 3 ,などの単一金属酸化物、それらの混合金属酸化物等を挙げることができる。
【0014】
本発明の特徴は、1000℃以上の温度において、500MPa以上の圧力にて成形し相対密度97%以上、抗折強度300MPa以上の成形体を得ることにある。特に500MPa以上の高圧力にて成形することが最も重要であって、500MPa未満の圧力では、抗折強度300MPa以上の成形体を得ることが出来ない。成形圧力は高い程よいが、しかし、1000MPaを超える成形圧力は設備上大規模となりコスト高となることから、好ましくは500〜1000MPaとする。
【0015】
なお、ホットプレス法やHIP法においても、より高温度、高圧力の条件を選定し成形することにより、97%以上の高密度化は不可能ではない。しかしながら、工業的なホットプレス装置やHIP装置は成形圧力限界が低く、ホットプレス装置で100MPa程度、HIP装置で200MPa程度である。従って、500MPa以上の高圧力を得ることは難しく、抗折強度300MPa以上の成形体を得ることは困難である。本発明においては、成形工法を特に制限するものでないが、上記の理由によって、500MPa以上の成形圧力が容易に得られるアップセット法がより好ましい。なお、アップセット法とは、原料粉末を金属製の管に詰め、真空脱気、封入し、所定の温度に加熱した後、出側を閉じてコンテナー内に挿入し、後方よりパンチで圧縮し固化成形する工法である。
【0016】
成形温度については、主に焼結の促進および合金相の軟化に影響し、1000℃未満においては高密度成形体を得ることが出来ず、1000℃以上が必要で、1350℃を超えるとCo系金属粉末が溶融してしまうため、望ましくは1000〜1350℃とする。
【0017】
抗折強度300MPa以上の成形体を得ることを条件とするものであるが、Co系金属粉末と酸化物粉末を原料粉末として用い、種々の圧力で成形した成形体においては、同程度の相対密度の成形体であっても、成形圧力により抗折強度に違いが出てくることを見出した。その要因については、詳細は定かでないが、次のように推測される。高温、高圧により粉末を固化成形した場合、原料粉末の再配列、原料粉末の変形、粉末間の原子拡散による結合が起こり、高密度化および高強度化する。これらの中で、高密度化については全ての因子が影響するが、高強度化については特に原料粉末の変形および粉末間の原子拡散による結合が重要であると考えられる。
【0018】
さらに、合金粉末同士の固化成形であれば、比較的容易に原子拡散が起こることにより高強度化するため成形温度が重要となるが、本発明材料などのように合金粉末と酸化物のようなセラミックス粉末は、濡れ性が悪く粉末間の原子拡散による結合が起こりにくいため、原子拡散による高強度化が困難である。従って、このような材料を高強度化するには、原料粉末の変形による投錨効果(アンカー効果)が極めて重要であると考えられる。そして、この投錨効果には成形温度よりも成形圧力の方が、より重要な因子となるのではないかと推測される。
【実施例】
【0019】
表1に示すように、合金粉末としてCo20Cr20Ta、Co20Cr10Ta、Co10Cr10Ta、Co20Cr10Pt、Co20Cr、Co20Cr20Ni、Co20Cr10Ni、Co20Cr10TaPt、Co15Cr10Ta10Ni(全てat%)、酸化物粉末としてSiO2 、Cr2 3 、ZrO2 、Al2 3 、TiO2 、Y2 3 の単体および混合粉末を所定割合で混合し、アップセット、HIP、ホットプレス法にて成形した成形体の相対密度および抗折強度を評価した。相対密度についてはアルキメデス法により測定した密度を成分配合より算出した理論密度を100%として、その割合を算出した。抗折強度については、1.5×1.5×20mmに切り出した試験片を、支点間距離10mmの3点曲げ抗折試験により測定した。なお、HIP法とは、原料粉末を金属製の缶に詰め、真空脱気、封入した後、所定の温度に昇温し、Arなどの媒体により等方的に圧縮し固化成形する工法である。
【0020】
合金粉末はガスアトマイズ法にて製造した。条件は以下の通りである。25kgの溶解母材を所定成分秤量し、アルミナ坩堝中、Ar雰囲気にて誘導溶解し、坩堝下のφ5mmノズルより出湯し、Arガスにてアトマイズした。この粉末を−250μmに分級した。酸化物粉末については市販のものを使用した。平均粒度はいずれの酸化物粉末も1μmのものを使用した。その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示すように、No.1〜15は本発明例であり、No.16〜22は比較例である。比較例No.16は、成形工法がHIP法であり成形圧力が低いために抗折強度が低い。比較例No.17は、成形工法がホットプレス法であり成形圧力が低く、また、成形温度が過度に高いため、一部溶融が見られるため、相対密度および抗折強度が低い。比較例No.18は、成形工法がHIP法であり成形圧力が低いために抗折強度が低い。比較例No.19は、比較例No.18と同様に成形工法がHIP法であり成形圧力が低いために抗折強度が低い。
【0023】
比較例No.20は、比較例No.18、19と同様に成形工法がHIP法であり成形圧力が低いために抗折強度が低く、かつ相対密度が低い。比較例No.21は、比較例No.18〜20と同様に成形工法がHIP法であり成形圧力が低いために抗折強度が低く、かつ相対密度が低い。比較例No.22は、成形工法がアップセット法であるが、成形温度が低いために相対密度および抗折強度が低いことが分かる。
これに対し、本発明例No.1〜15は、いずれも相対密度97%以上、抗折強度が300MPa以上の値を示していることが分かる。
【0024】
上述したように、本発明による成形温度1000℃以上、成形圧力500MPa以上の条件で成形することにより、抗折強度300MPa以上の高い抗折強度を確保し、かつ高保磁力を有する薄膜を生産性良く製造でき、かつ機械加工などの取扱いが容易であるCo系合金中に酸化物を含有した高密度ターゲット材を製造することが可能となった。


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co系金属磁性相と酸化物非磁性相よりなり、相対密度97%以上のスパッタリングターゲット材において、成形温度1000℃以上、成形圧力500MPa以上で成形し、抗折強度が300MPa以上であることを特徴とする酸化物を含有したCo基スパッタリングターゲット材。
【請求項2】
請求項1に記載の成形温度を1000〜1350℃とすることを特徴とする酸化物を含有したCo基スパッタリングターゲット材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成形圧力を500〜1000MPaとすることを特徴とする酸化物を含有したCo基スパッタリングターゲット材。

【公開番号】特開2007−154248(P2007−154248A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350118(P2005−350118)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】