説明

酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜及びその製造方法

【課題】成膜速度が速いため、製造時間が短くなり、製造コストを低減することができる酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基材10上に積層される中間層20(薄膜)であって、該中間層20上に希土類系酸化物超電導層30が積層される酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜を、2軸配向性を有するシーライト構造の酸化物から形成する。この基材10上に積層される2軸配向性を有する薄膜はイオンビームアシスト蒸着法により積層される。中間層20は、シーライト構造を有するYNbO,GdNbOの1種から形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類系酸化物超電導体の線材化には、テンプレートになる2軸配向した中間層、すなわち、薄膜が必要である。この理由は以下の通りである。酸化物超電導体は、臨界電流密度が低いことが知られており、これは酸化物超電導体の結晶自体に電気的な異方性が存在することが原因となっている。特に、酸化物超電導体はそのa軸方向とb軸方向に電気を流しやすく、c軸方向には電気を流しにくい。このため、酸化物超電導体を基材上に形成してこれを超電導体として使用するためには、前記基材上に結晶配向性の良好な状態の酸化物超電導体を形成して、且つ、電気を流す方向に酸化物超電導体の結晶のa軸又はb軸を配向させて、その他の方向に酸化物超伝導体のc軸を配向させる必要がある。このため、基材上に結晶配向性の良好な酸化物超導電層を形成することが行われている。
【0003】
ここで、IBAD法(イオンビームアシスト蒸着法)により形成された蛍石構造酸化物もしくはパイロクロア構造の酸化物中間層(すなわち、薄膜)は高度な2軸配向を示し、その上に形成された希土類系酸化物超電導層は良好な超電導特性を示す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、これらの物質の中間層(すなわち、薄膜)は、成膜速度が遅いため、製造時間を要し、製造コストがかかる問題がある。
本発明の目的は、成膜速度が速いため、製造時間が短くなり、製造コストを低減することができる酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜を提供することにある。
【0005】
又、本発明の他の目的は、成膜速度が速いため、製造時間が短くなり、製造コストを低減することができる酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、本発明の酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜は、基材上に積層される酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜において、前記薄膜が2軸配向性を有するシーライト構造の酸化物からなることを特徴とする。
【0007】
前記シーライト構造の酸化物は、YNbO,GdNbOの中から少なくとも1つ選ばれたものであることが好ましい。
又、前記シーライト構造の酸化物上に、蛍石構造の酸化物層が形成された積層構造を有していてもよい。
【0008】
又、前記シーライト構造の酸化物上に、パイロクロア構造の酸化物層が形成された積層構造を有していてもよい。
又、本発明の酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜の製造方法は、基材に対して2軸配向性を有する薄膜を積層する酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜の製造方法において、シーライト構造の酸化物をイオンビームアシスト蒸着法により前記基材上に積層して、前記薄膜を形成することを特徴とする。
【0009】
本発明の酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜の製造方法は、前記シーライト構造の酸化物が、YNbO,GdNbOの中から少なくとも1つ選ばれたものであることが好ましい。
【0010】
又、本発明の酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜の製造方法は、前記シーライト構造の酸化物上に、蛍石構造の酸化物層を形成してもよい。
又、本発明の酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜の製造方法は、前記シーライト構造の酸化物上に、パイロクロア構造の酸化物層を形成してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜によれば、薄膜の形成時に薄膜の成膜速度が速いため、製造時間が短くなり、製造コストを低減することができる。
本発明の酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜の製造方法によれば、薄膜の形成時に薄膜の成膜速度が速いため、製造時間が短くなり、製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した実施形態を図1、図2を参照して説明する。
酸化物超電導線材の基材10は、その材質としては、ハステロイ、銀、白金、ステンレス鋼等を挙げることができ、形状としては長尺状のテープ、板材等を挙げることができる。
【0013】
前記基材10に積層された中間層20、すなわち、薄膜は、シーライト構造の酸化物が好ましく、なかでも、YNbO,GdNbOの少なくとも1つが選ばれることが好ましい。これらのシーライト構造の酸化物は、蛍石構造に比較して対称性が低く、欠陥を内包しても結晶を維持することが可能であり、かつ、成膜温度をパイロクロア構造や蛍石構造の酸化物の酸化物より高温にすることが可能であるため、膜の成長速度を増大させることが可能である。しかも、シーライト構造の酸化物は、結晶内での陽イオンの配置が蛍石構造やパイロクロア構造の酸化物とほぼ同様であるため、これらのIBAD中間層(すなわち、薄膜)と同様に平坦でクラックを生じにくい利点を損なわず、製造時において製造速度を増大させることが可能となる。
【0014】
また、中間層20をシーライト構造の酸化物上に、蛍石構造もしくはパイロクロア構造の酸化物層を形成した積層構造とすると、成膜初期の配向性をシーライト構造酸化物で向上させた後、蛍石構造もしくはパイロクロア構造の酸化物層によって平坦性を向上させることが可能となる。
【0015】
イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)は、前記基材10に対して、斜め方向からイオンガンによりイオンを照射しながら、ターゲットもしくは蒸発源から発生した粒子を基材10上に堆積させる方法である。イオンビームアシスト蒸着法は、図2に示すように真空容器40内で行われるものであり、該真空容器40内に前記基材10、ターゲット(蒸発源)50、アシストイオンビーム用イオンガン60が配置される。真空容器40の内部は、真空雰囲気で保持可能になっているとともに、雰囲気ガスが真空容器内を真空などの低圧状態で、かつ、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気又は酸素を含む不活性ガス雰囲気下で、基材ホルダ15に支持された基材10上に中間層、すなわち、IBAD中間層の形成が行われる。
【0016】
前記ターゲット(蒸発源)50は、目的とする多結晶薄膜を形成するために用意されるものであり、目的の多結晶と同一組成或いは近似組成のものが用いられ、ターゲットホルダ55にて真空容器40内で保持される。本実施形態では、前述したシーライト構造の酸化物がターゲット50として使用される。
【0017】
成膜物質粒子の発生には、直流スパッター、RFスパッター、イオンビームスパッターや電子ビームが用いられる。いずれの手法でも、本発明の効果を得ることが可能であるが、本実施形態では、シーライト構造の酸化物粒子の成膜レートを制御しやすいイオンビームスパッターを採用している。スパッター用イオンビーム照射装置70は、図示しない蒸発源を備え、かつ、該蒸発源の近傍に電極を備えて構成されている。前記電極には、スパッター加速電圧が印加される。スパッター用イオンビーム照射装置70は前記蒸発源から発生した原子又は分子の一部をイオン化し、イオン化された粒子を前記電極で発生させた電界で制御することにより、イオンビームとして、ターゲット50に対して照射することにより、ターゲット50から酸化物をたたき出して基材10に蒸着させる。
【0018】
なお、基材ホルダ15には、基材10を加熱する図示しないヒータが設けられている。
アシストイオンビーム用イオンガン60は、前記スパッター用イオンビーム照射装置70と同様の構成を備えており、前記基材10に対する入射角度θ(すなわち、基材10に酸化物が蒸着する面に対する垂線Lとイオンガン60の中心線Oとのなす角度)が45〜60度の範囲となるように傾けて配置される。イオンガン60によって照射するイオンビームは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、クリプトンなどの希ガスのイオンビーム、又はそれらと酸素イオンの混合ビーム等であればよい。イオンガン60が備える電極にはアシストビーム加速電圧が印加されることにより、前記イオンビームが制御される。
【0019】
基材10上に中間層20(すなわち、薄膜)が形成された後は、図1に示すように常法により、希土類系酸化物超電導層30を堆積して形成する。
希土類系酸化物超電導層30は、例えば、YBaCu、GdBaCu、SmBaCu等を挙げることができる。希土類系酸化物超電導層30の詳細説明は、本発明の要部ではないため、説明を省略する。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例1〜4、及び比較例1〜4を説明する。実施例1,2、及び比較例1〜4は、ともに前記イオンビームアシスト蒸着法で、基材上にIBAD中間層(すなわち、薄膜)を形成し、そのIBAD中間層の成膜時間、及びX線回折装置により成膜されたX線半幅値φを計測した。
【0021】
図3、図4は、実施例と比較例の中間層(IBAD中間層)の成膜時間と、品質(X線半幅値φ)wとの関係を示している。図3中、縦軸は成膜されたIBAD中間層のX線半幅値φ、横軸はIBAD中間層の成膜時間である。
【0022】
なお、図3中、実施例1及び実施例2の場合は、成膜中において、60分、90分、120分でX線半幅値を計測した。又、実施例2では、成膜中において、60分、90分、120分、150分でX線半幅値を計測した。比較例3,4では、成膜中において、60分、120分、150分でX線半幅値を計測した。
【0023】
又、図4中、縦軸はX線幅値Δφ、横軸はIBAD中間層の成膜時間である。なお、実施例3及び実施例4の場合は、IBAD中間層の成膜時間には、第1段階と第2段階の成膜時間の合計を含む。図4中、実施例3では、第2段階での成膜中において、60分、150分、180分でX線半幅値を計測した。又、実施例4では、第2段階での成膜中において、60分、120分、180分、220分でX線半幅値を計測した。
【0024】
実施例1〜4、及び比較例1〜4の、試験条件は下記の通りである。
(実施例1)
ターゲット及び中間層の材質:YNbO
アシストビーム加速電圧 :400V
スパッター加速電圧 :1100V
加熱温度 :290℃
(実施例2)
ターゲット及び中間層の材質:GdNbO
アシストビーム加速電圧 :400V
スパッター加速電圧 :1100V
加熱温度 :290℃
(実施例3)
実施例3は、実施例1と同様に2軸配向薄膜を形成し、その上にさらに蛍石構造の酸化物層を形成して積層構造とするものである。
【0025】
第1段階として、実施例1と同様にYNbOを形成する。第1段階の条件は実施例1と同様である。
ターゲット及び中間層の材質:YNbO
アシストビーム加速電圧 :400V
スパッター加速電圧 :1100V
加熱温度 :290℃
第2段階としては、前記第1段階での成膜時間(30分間)の後、以下の成膜条件で成膜した。
【0026】
ターゲット及び中間層の材質:YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)
アシストビーム加速電圧 :200V
スパッター加速電圧 :1000V
加熱温度 :180℃
(実施例4)
実施例4は、実施例2と同様に2軸配向薄膜を形成し、その上にさらにパイロクロア構造の酸化物層を形成して積層構造とするものである。
【0027】
第1段階として、実施例2と同様にGdNbOを形成する。第1段階の条件は実施例2と同様である。
ターゲット及び中間層の材質:GdNbO
アシストビーム加速電圧 :400V
スパッター加速電圧 :1100V
加熱温度 :290℃
第2段階としては、前記第1段階での成膜時間(30分間)の後、以下の成膜条件で成膜した。
【0028】
ターゲット及び中間層の材質:GZO(GdZr
アシストビーム加速電圧 :200V
スパッター加速電圧 :1100V
加熱温度 :180℃
(比較例1)
ターゲット及び中間層の材質:YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)
アシストビーム加速電圧 :200V
スパッター加速電圧 :1000V
加熱温度 :180℃
(比較例2)
ターゲット及び中間層の材質:HoNbO
アシストビーム加速電圧 :450V
スパッター加速電圧 :1000V
加熱温度 :280℃
(比較例3)
ターゲット及び中間層の材質:YbNbO
アシストビーム加速電圧 :450V
スパッター加速電圧 :1000V
加熱温度 :280℃
(比較例4)
ターゲット及び中間層の材質:SrWO
アシストビーム加速電圧 :400V
スパッター加速電圧 :1100V
加熱温度 :290℃
実施例1、2では、2軸配向中間層が得られた。そして、図3に示すように、実施例1では、X線半幅値Δφが15°程度になるまでの成膜時間は、120分程度、実施例2では、150分程度となる。なお、X線半幅値Δφが15°程度以下が、所定の品質を得るための目安となっている。
【0029】
それに対して、比較例1〜3では、2軸配向中間層が得られたが、比較例4では2軸配向中間層は得られなかった。このため、図3には、比較例4については記載していない。
比較例1では、X線半幅値Δφが15°程度になる時間は、約300分と極めて長い時間を要する。
【0030】
比較例2,3は、前述の比較例1よりも時間が掛かることが、図3に示すように予測できたため、150分経過したところで、成膜の形成を中止した。
上記の結果から、実施例1、実施例2では、比較例よりも所定の品質を指し示すX線半幅値Δφ(=15°)に中間層が成膜するための時間が比較例よりも十分に短い時間で良いことが分かる。
【0031】
実施例1のYNbOは、Δφ=15°程度を達成するには、90分程度の成膜時間で0.6μm程度の膜厚が得られたことが確認できた。
実施例3では、Δφ=15°程度を達成するには、成膜時間が180分程度でよくなり、実施例4では、120分程度でよく、いずれも、比較例1に比較すると、極めて短い時間で成膜できた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】酸化物超電導線材の概略断面図。
【図2】IBAD法を行うための装置の概略図。
【図3】実施例1,2と比較例1〜4の中間層の成膜時間と、品質(X線半幅値φ)との関係を示すグラフ。
【図4】実施例3,4と比較例1,2の中間層の成膜時間と、品質(X線半幅値φ)との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0033】
10…基材、20…中間層(薄膜)、30…希土類系酸化物超電導層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に積層される酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜において、前記薄膜が2軸配向性を有するシーライト構造の酸化物からなることを特徴とする酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜。
【請求項2】
前記シーライト構造の酸化物が、YNbO,GdNbOの中から少なくとも1つ選ばれたものであることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜。
【請求項3】
前記シーライト構造の酸化物上に、蛍石構造の酸化物層が形成された積層構造を有することを特徴とする請求項2に記載の酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜。
【請求項4】
前記シーライト構造の酸化物上に、パイロクロア構造の酸化物層が形成された積層構造を有することを特徴とする請求項2に記載の酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜。
【請求項5】
基材に対して2軸配向性を有する薄膜を積層する酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜の製造方法において、
シーライト構造の酸化物をイオンビームアシスト蒸着法により前記基材上に積層して、前記薄膜を形成することを特徴とする酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記シーライト構造の酸化物が、YNbO,GdNbOの中から少なくとも1つ選ばれたものであることを特徴とする請求項5に記載の酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記シーライト構造の酸化物上に、蛍石構造の酸化物層を形成することを特徴とする請求項5に記載の酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記シーライト構造の酸化物上に、パイロクロア構造の酸化物層を形成することを特徴とする請求項5に記載の酸化物超電導線材用の2軸配向薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−221572(P2009−221572A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69943(P2008−69943)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】