説明

酸性の湧出水からの金属回収方法および資源循環システム

【課題】 酸性の湧出水から有益な金属を回収する金属回収方法を提供する。
【解決手段】 酸性の湧出水Wに含まれる金属Mを吸着材で吸着する吸着工程11と、吸着工程11により吸着材に吸着した金属Mを酸性水またはアルカリ性水を用いて吸着材から分離して回収する第一金属回収工程12と、を有することを特徴とする金属回収方法により、上記課題を解決する。また、酸性の湧出水Wが硫酸イオンを含有する場合に、酸性の湧出水Wに炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを添加して中和する中和工程21と、中和工程21により生じた液体L2と沈殿物P2とを分離する分離工程22と、分離工程22により分離された沈殿物P2から金属Mを回収する第二金属回収工程23と、を有することを特徴とする金属回収方法により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属資源を有効に利用するための、酸性の湧出水からの金属回収方法および資源循環システムに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な地域において、温度、成分、pH等の異なる多種多様の水が湧き出ている。そうした湧出水のうち強酸性の湧出水においては、河川に直接流すとその河川の水のpHが低くなるため、人体や生物によい影響を及ぼさない。そこで、強酸性の水が湧き出る群馬県草津町等においては、湧出水を温泉の入浴用水等として用いた後、湧出水が酸性であり硫酸イオンを含むため、炭酸カルシウムを粉砕して水に溶解させた溶液を、この湧出水に添加することにより、湧出水をpH5〜6程度に中和させている。
【0003】
このとき、湧出水から中和により硫酸カルシウム塩(沈殿物)が生成される。この沈殿物を除いた湧出水は、飲用水、発電用水等として用いられている。また、中和による沈殿物を含む湧出水は、河川に戻されている。このようにして、湧出水が強酸性であっても、これを中和して用いることにより、人体や魚等の生物に影響を及ぼさないように、生態系を壊さないようにしている。
【0004】
ここで、温泉の入浴用水等として用いた湧出水から分離した沈殿物は、脱水された後、所定の場所に埋め立てられている。また、河川に戻された湧出水中の沈殿物はダムに堆積するため、この沈殿物を含む堆積物は、浚渫され、脱水された後、所定の場所に埋め立てられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような酸性の湧出水およびこれを中和して得られる硫酸カルシウム塩(沈殿物)には、多種類の金属が含まれていることを本願発明者らは発見した。しかしながら、これらの金属は、他に利用されることなく、上述のように硫酸カルシウム塩とともに埋め立てられている。
【0006】
そこで、本発明は、埋め立てられている金属を有効に利用できるよう、酸性の湧出水からの金属回収方法および資源循環システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の第一の金属回収方法は、酸性の湧出水に含まれる金属を吸着材で吸着する吸着工程と、前記吸着工程により吸着材に吸着した前記金属を酸性水またはアルカリ性水を用いて前記吸着材から分離して回収する第一金属回収工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、酸性の湧出水に含まれる金属を直接回収することができ、有効に利用することができる。また、湧出水に硫酸イオンが含有されている場合には、金属回収後の湧出水を、これまでと同様に炭酸カルシウムにより中和して、飲用水、発電用水等に用い、また、河川水として流すことができる。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の第二の金属回収方法は、酸性の湧出水が硫酸イオンを含有する場合に、前記酸性の湧出水に炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを添加して中和する中和工程と、前記中和工程により生じた沈殿物と液体とを分離する分離工程と、前記分離工程により分離された前記沈殿物から金属を回収する第二金属回収工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、硫酸イオンを含有する酸性の湧出水に含まれる金属を中和により生成した沈殿物から回収することができ、有効に利用することができる。また、沈殿物を除いた中和後の湧出水を、これまでと同様に、飲用水、発電用水等に用い、また、河川水として流すことができる。
【0011】
上記第二の金属回収方法において、前記第二金属回収工程は、一つの方法として、前記沈殿物を脱水する脱水工程と、前記脱水工程により脱水された前記沈殿物を乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程により乾燥された前記沈殿物から、金属精錬処理により金属を回収する回収工程と、を有することにより、金属を回収することができる。
【0012】
また、前記乾燥工程における乾燥は、前記中和工程により中和する前の70℃以上である前記湧出水を利用することにより行うことを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、高温の湧出水の熱を沈殿物の乾燥のために利用することにより、環境にかかる負荷を軽減させることができる。
【0014】
さらに、前記金属精錬処理により生じる炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを回収し、前記中和工程に用いることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、上述のように湧出水から金属を回収できるほか、従来埋め立てていた炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを循環して使用することができ、環境への負荷を軽減できる。
【0016】
上記第二の金属回収方法において、前記第二金属回収工程は、他の方法として、前記沈殿物を脱水する脱水工程と、前記脱水工程により脱水された沈殿物を酸に溶解させる溶解工程と、前記溶解工程により発生する気泡を液体から分離する分離工程と、前記分離工程により分離された前記気泡から金属精錬処理により金属を回収する回収工程と、を有することにより、金属を回収することができる。
【0017】
上記第二の金属回収方法において、前記第二金属回収工程は、さらに他の方法として、前記沈殿物を脱水する脱水工程と、前記脱水工程により脱水された沈殿物を酸に溶解させる溶解工程と、前記溶解工程により発生する気泡を液体から分離する分離工程と、前記分離工程により分離された前記液体に含まれる金属を吸着材で吸着する吸着工程と、前記吸着工程により前記吸着材に吸着した前記金属を酸性水またはアルカリ性水を用いて前記吸着材から分離して回収する回収工程と、を有することにより、金属を回収する。
【0018】
さらに、前記溶解工程に用いられる酸は、塩酸または硝酸であることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、沈殿物を溶解させる酸として塩酸または硝酸を用いることにより、主として硫酸カルシウムからなり、金属を含む沈殿物を、酸からなる液中に有効に溶解させることができ、上述のように、発生する気泡や溶液から効率よく金属を回収することができる。
【0020】
上記の課題を解決するために、本発明の資源循環システムは、硫酸イオンを含有する酸性の湧出水に炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを添加して中和する中和手段と、前記中和手段により生じた沈殿物と液体とを分離する分離手段と、前記分離手段により分離された前記沈殿物を脱水する脱水手段と、前記脱水手段により脱水した前記沈殿物を乾燥する乾燥手段と、前記乾燥手段により乾燥された前記沈殿物から、金属精錬処理により金属を回収する金属回収手段と、を有し、前記乾燥手段における乾燥は、前記中和手段により中和する前の70℃以上である前記湧出水を利用することにより行うことを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、硫酸イオンを含有する酸性の湧出水に含まれる金属を中和により生成した沈殿物から回収することができ、有効に利用することができる。また、沈殿物を除いた中和後の湧出水を、これまでと同様に、飲用水、発電用水等に用い、また、河川水として流すことができる。また、高温の湧出水の熱を沈殿物の乾燥のために利用することにより、環境にかかる負荷を軽減させることができる。
【0022】
上記本発明の資源循環システムにおいて、前記金属精錬処理により生じる炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを回収し、前記中和手段に用いることを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、上述のように湧出水から金属を回収できるほか、従来埋め立てていた炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを循環して使用することができ、環境への負荷を軽減させることができる。
【0024】
上記本発明の資源循環システムにおいて、前記脱水手段により脱水した前記沈殿物の一部を、前記硫酸イオンを含有する酸性の湧出水に添加する添加手段を有するとともに、前記添加手段により生じた沈殿物と液体とを、前記硫酸イオンを含有する酸性の湧出水として、前記中和手段に用いることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、脱水手段により脱水した沈殿物の一部を、硫酸イオンを含有する酸性の湧出水に添加することにより、沈殿物に含有される金属を、改めて種々の方法で回収することができる。また、脱水した沈殿物には反応せずに残った炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムが含有されているため、この沈殿物を硫酸イオンを含有する酸性の湧出水に添加することにより、中和手段に用いる炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムの量を低減することができ、資源を有効に活用することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の金属回収方法によれば、酸性の湧出水に含まれる金属を、湧出水または中和により生成した沈殿物から回収することができるとともに、中和により生成した沈殿物を除いた中和後の湧出水を、これまでと同様に、飲用水、発電用水等に用い、また、河川水として流すことができる。よって、従来利用されていなかった金属を有効利用できるとともに、湧出水については、従来通り、中和した後に、飲用水、発電用水、河川水等として用いることができる。
【0027】
本発明の資源循環システムによれば、酸性の湧出水に含まれる金属を中和により生成した沈殿物から回収することができるとともに、沈殿物を除いた中和後の湧出水を、これまでと同様に、飲用水、発電用水等に用い、また、河川水として流すことができる。よって、従来利用されていなかった金属を有効利用できるとともに、湧出水については、従来通り、中和した後に、飲用水、発電用水、河川水等として用いることができる。また、湧出水や炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムという資源を循環して使用するため、環境にかかる負荷を軽減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、図面を参照して、本発明の金属回収方法および資源循環システムについて具体的に説明する。
【0029】
なお、図1は、本発明の金属回収方法を説明する流れ図である。
【0030】
本発明の金属回収方法および資源循環システムは、酸性の湧出水Wを処理することを目的としている。
【0031】
対象となる酸性の湧出水Wについて説明する。
【0032】
酸性の湧出水Wとしては、通常、酸性という程度の範囲の水を示し、pHが1.0以上7.0未満の水が用いられる。
【0033】
また、処理する酸性の湧出水Wとしては、硫酸イオンが含有されていることが好ましく、例えば、硫酸イオンの濃度が600〜1700mg/L(ppm)程度含有する水が用いられる。
【0034】
酸性の湧出水W、特に、硫酸イオンを含有する酸性の湧出水Wは、例えば、群馬県草津町等の他、日本に多い泉質であり、多くの地域において湧き出るものである。なお、酸性の湧出水Wとしては、湧き水、温泉等と呼ばれ、地中から湧き出ている水であって、少なくとも酸性であり、好ましくは硫酸イオンを含有していれば特に限定されず、上述の地域に湧き出る水に限定されない。
【0035】
また、酸性の湧出水Wには、金属Mが0.001mg/L以上の濃度で含まれていることが好ましく、0.005〜50mg/L程度含まれていることがより好ましい。
【0036】
湧出水Wに含有される金属Mとしては、リチウム、ベリリウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、アンチモン、セシウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、タングステン、白金、金、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、トリウム、ウラン等が挙げられる。
【0037】
以下に、第一の金属回収方法(金属回収1)および第二の金属回収方法(金属回収2〜4)について順次説明する。第一の金属回収方法は、湧出水Wが上述のように硫酸イオンを多く含有する場合にも用いられるが、湧出水Wの硫酸イオンの含有量が少ない場合に有用である。また、第二の金属回収方法は、湧出水Wが上述のように硫酸イオンを多く含有する場合に有用である。
【0038】
まず、本発明の第一の金属回収方法は、図1の最も左側の流れ(金属回収1)に示すように、酸性の湧出水Wに含まれる金属Mを吸着材で吸着する吸着工程11と、吸着工程11により吸着材に吸着した金属を酸性水またはアルカリ性水を用いて吸着材から分離して回収する第一金属回収工程12と、を有する。
【0039】
吸着工程11において、金属Mを吸着する吸着材は、従来公知のものを用いることができ、例えば、キレート樹脂吸着材、イオン交換樹脂等が用いられる。
【0040】
吸着材から金属Mを分離するために用いられる酸性水は、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、ギ酸等またはこれらの酸を水で希釈した溶液が用いられる。酸性水のpHは、例えば、1.0〜6.5程度である。吸着材から金属Mを分離するために用いられるアルカリ性水は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を溶解した溶液が用いられる。アルカリ性水のpHは、例えば、10〜12程度である。これらの酸性水またはアルカリ性水のうち、吸着材から金属Mを分離するために、好ましくは、塩酸(塩酸溶液)、水酸化ナトリウム溶液が用いられる。
【0041】
吸着材から分離された各金属Mは、溶媒抽出、電解等の方法により、分離精製され、回収される。
【0042】
以上の第一の金属回収方法により、金属Mが回収された湧出水には、炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを添加することによりpH5−6程度に中和し(13)、このとき生じる沈殿物P1と液体L1とを分離した後(14)、液体L1を飲用水、発電用水等として用い、また、河川水として流す(15)。
【0043】
次いで、本発明の第二の金属回収方法は、図1における右側の流れ(金属回収2,3,4)に示すように、酸性の湧出水Wが硫酸イオンを含有する場合に、酸性の湧出水Wに炭酸カルシウム(CaCO)または水酸化カルシウム(Ca(OH))を添加して中和する中和工程21と、中和工程21により生じた沈殿物P2と液体L2とを分離する分離工程22と、分離工程22により分離された沈殿物P2から金属Mを回収する第二金属回収工程23と、を有することを特徴とする。
【0044】
中和工程21においては、炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを水に溶解させた溶液を湧出水Wに添加し、従来公知の方法により中和処理が行われる。分離工程22においては、濾過、遠心分離等の従来公知の方法により、液体L2と沈殿物P2とを分離する。
【0045】
そして、第二金属回収工程23は、具体的に、以下の三通りの態様がある(金属回収;2,3,4)。
【0046】
第二金属回収工程23は、図1における金属回収2(27)として、沈殿物P2を脱水する脱水工程24と、脱水工程24により脱水された沈殿物P2を乾燥する乾燥工程25と、乾燥工程25により乾燥された沈殿物P2から、金属精錬処理26により金属Mを回収する回収工程27と、を有する。
【0047】
脱水工程24は、例えば、フィルタプレス、ベルトプレス、遠心分離器等の装置を用いて沈殿物P2を脱水する。このとき、沈殿物P2の含水率は、特に限定されないが、通常、40%程度とする。
【0048】
乾燥工程25は、例えば、蒸気乾燥器等の装置を用いて、沈殿物P2を乾燥する。
【0049】
金属精錬処理26は、例えば、乾式で金属精錬処理を行う装置、熔解炉等を用い、電解、熔解等の方法により、乾燥された沈殿物P2から金属精錬処理を行う。また、金属精錬処理26には、回収する金属に応じて、公知の精錬技術を使用することができる。なお、この金属精錬処理26の段階で、上述の吸着材を用いて金属を回収してもよい。
【0050】
ここで、金属精錬処理26により生じる炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを回収し、上述の中和工程21に用いることが好ましい。
【0051】
また、湧出水Wの温度は特に限定されず、0〜100℃の範囲の温度があり得る。湧出水Wが、例えば70℃以上と高温である場合には、この湧出水Wの熱を、沈殿物P2の乾燥工程25に利用することができる。湧出水Wの熱を乾燥工程25に利用する場合には、より高温の状態で、より多くの熱を利用できるよう、上述のように、金属Mを吸着材により吸着する工程11や、中和する工程21の前段階で用いることが好ましい。
【0052】
次いで、第二金属回収工程23は、図1における金属回収3(34)として、沈殿物P2を脱水する脱水工程24と、脱水工程24により脱水された沈殿物P2を酸に溶解させる溶解工程31と、溶解工程31により発生する気泡Bを液体L3から分離する分離工程32と、分離工程32により分離された気泡Bから金属精錬処理33により金属を回収する回収工程34と、を有する。
【0053】
溶解工程31において沈殿物P2を溶解させる酸は、沈殿物P2を良好に溶解させるために、塩酸、硝酸等を用いることが好ましい。この酸のpHは、1〜2程度であり、原液を使用することも可能であるが、酸を3〜4倍程度に希釈して使用することが好ましい。また、沈殿物P2と酸との質量比は、特に限定されないが、例えば、沈殿物P2:酸=1:1程度の質量比で沈殿物P2を酸に溶解させることができる。
【0054】
溶解工程31において酸に沈殿物P2を溶解させることにより、気泡Bが発生する。この気泡B中には、金属Mが含まれているため、分離工程32において気泡Bを液体Lから分離する。
【0055】
分離工程32において、気泡Bを液体L3から分離するためには、例えば、適当な大きさの板を用い、当該板に気泡Bを付けるようにして液体L3から分離する。
【0056】
金属精錬処理33は、分離した気泡Bから金属Mを回収するための処理であるが、上述の、金属回収2の態様における金属精錬処理26と同様の方法により、気泡Bから金属精錬処理を行うことができる。なお、この金属精錬処理33の段階で、上述の吸着材を用いて金属を回収してもよい。
【0057】
次いで、第二金属回収工程23は、図1における金属回収4(36)として、沈殿物P2を脱水する脱水工程24と、脱水工程24により脱水された沈殿物P2を酸に溶解させる溶解工程31と、溶解工程31により発生する気泡Bを液体L3から分離する分離工程32と、分離工程32により分離された液体L3に含まれる金属Mを吸着材で吸着する吸着工程35と、吸着工程35により吸着材に吸着した金属Mを酸性水またはアルカリ性水を用いて吸着材から分離して回収する回収工程36と、を有する。
【0058】
この金属回収4に係る金属回収方法の態様において、脱水工程24、溶解工程31、分離工程32の各工程は、上述の金属回収3に係る各工程と同様である。
【0059】
また、吸着工程35に用いられる吸着材は、上述の金属回収1に係る吸着工程11において用いられるものと同様である。
【0060】
回収工程36に用いられる酸性水およびアルカリ性水は、上述の金属回収1に係る第一金属回収工程12において用いられるものと同様である。さらに、回収工程36において、金属Mを回収する工程も上述の金属回収1に係る第一金属回収工程12におけるものと同様である。
【0061】
なお、第二金属回収工程23において、脱水工程24後の沈殿物P2の一部を処理前の硫酸イオンを含有する酸性の湧出水Wに添加することもできる(図1中矢印41参照)。その後、上述の湧出水Wと同様に、金属回収1〜4の各方法により沈殿物P2に含まれる金属Mを改めて回収することができる。さらに、金属回収2〜4の各方法による場合、沈殿物P2に含まれる未反応の炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを中和工程21のために用いることができ、資源を有効に活用することができる。
【0062】
次いで、資源循環システムについて説明する。
【0063】
この資源循環システムは、上述の金属回収方法のうち、主として金属回収2として説明した金属回収方法に対応する。
【0064】
すなわち、本発明の資源循環システムは、硫酸イオンを含有する酸性の湧出水Wに炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを添加して中和する中和手段と、中和手段により生じた沈殿物P2と液体L2とを分離する分離手段と、分離手段により分離された沈殿物P2を脱水する脱水手段と、脱水手段により脱水した沈殿物P2を乾燥する乾燥手段と、乾燥手段により乾燥された沈殿物P2から、金属精錬処理により金属を回収する金属回収手段と、を有し、乾燥手段における乾燥は、中和手段により中和する前の70℃以上である湧出水Wを利用することにより行うことを特徴とする。
【0065】
また、上記の金属精錬処理により炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムが生成する。この炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを回収し、上記中和手段における炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムとして用いることが好ましい。
【0066】
さらに、この資源循環システムにおいて、図1における矢印41で示すように、上記の脱水手段により脱水された沈殿物P2の一部を、硫酸イオンを含有する酸性の湧出水Wに添加する添加手段を有するとともに、添加手段により生じた沈殿物と液体とを、硫酸イオンを含有する酸性の湧出水Wとして、中和手段に用いることが好ましい。
【0067】
沈殿物P2を湧出水Wに添加する際には、その質量比は特に限定されないが、例えば、沈殿物P2:湧出水W=1:2000程度の割合とすることができる。このように沈殿物P2を湧出水Wに添加することにより、沈殿物P2に硫酸カルシウムとともに含まれる金属Mを、改めて上述の金属回収1〜4の各方法により回収することができる。
【0068】
また、添加手段により生じた沈殿物には、中和手段において未反応であった炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムが含有されており、この沈殿物を水に添加した場合にはpH11程度の強アルカリとなるため、これらの沈殿物と液体とを中和手段に用いることにより、中和のために添加する新たな炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムの量を低減することができる。その後、中和手段により処理された湧出水Wからは、金属回収2〜4の各方法により、金属Mを回収することができる。
【0069】
ここで、群馬県草津町において温泉の入浴用水として用いられる湧出水Wは、湧出時に平均94.5℃であり、6.2m/分の速度で湧出している。この湧出水Wを水道水により温度を約52℃程度に下げたものを温泉の入浴用水として使用している。そして、入浴用水として用いられた湧出水Wを炭酸カルシウムにより中和した後に河川水等に用いられている。このとき、湧出水の中和に必要な炭酸カルシウムの量は、一日に60t(トン)程度である。
【実施例】
【0070】
群馬県草津町の土壌から湧き出た硫酸イオンを含有する酸性の湧出水に炭酸カルシウム(CaCO)を添加し、中和生成物である硫酸カルシウム(CaSO)等を沈殿させた。この中和生成物中に含まれる各金属の濃度(単位:mg/kg)を表1に示す。なお、<DLの記号は、各金属の検出限界値以下の場合を示し、以下の表における<DLの記号についても同様とする。
【0071】
また、表1に、同様の湧出水であって温泉の入浴用水として用いるもの、河川水として河川に流すもの、の各々について、中和させる前の状態で、pHの値および含まれる各金属の濃度(単位:mg/L)を示す。
【0072】
上記した中和生成物10gを、塩酸(HCl)10mLに溶解させた。この溶液を、濾過し、水で希釈して100mLとした液体について、pHの値および含まれる各金属の濃度A(単位:mg/L)を表2に示す。
【0073】
また、上記した中和生成物10gを塩酸30mLに溶解させた時に気泡が発生した。この気泡を板に付けて捕集し、水で洗浄し、濾過した後、水で希釈して100mLとした液体について、pHの値および含まれる各金属の濃度B(単位:mg/L)を表2に示す。これより、気泡による各金属の捕集率(単位:%)は、表2に示すとおりであった。
【0074】
さらに、上記した中和生成物10gを、上記と同様のpH1.97である酸性の湧出水を用い、質量にして50倍に希釈し、撹拌して遠心分離することにより、液体(上澄液)のみとした。この上澄液について、含まれる各金属の濃度(単位:ppm)を表3に示す。この上澄液を、イミノジ酢酸基が固定されたキレート樹脂からなる金属吸着材に通して金属を回収した。金属吸着材に通した後の上澄液について、含まれる各金属の濃度(単位:ppm)を表3に示す。これより、金属吸着材による各金属の吸着率(単位:%)は、表3に示すとおりであった。
【0075】
また、表1における温泉水について、温泉水(原水)1Lに対して水酸化カルシウム(Ca(OH))2gを添加し、中和生成物を沈殿させた。この沈殿した中和生成物の上澄液(原水)のpH、含有する金属の濃度(単位:mg/L)および金属が原水に残る割合を表4に示す。
【0076】
また、表1における温泉水について、温泉水(原水)1Lに対して炭酸カルシウム4gを添加し、中和生成物を沈殿させた。この沈殿した中和生成物の上澄液(原水)のpH、含有する金属の濃度(単位:mg/L)および金属が原水に残る割合を表4に示す。
【0077】
また、表4におけるものと同様にして、温泉水(原水)に水酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムを添加し、それぞれの中和生成物(沈殿物)に含まれる金属の濃度(単位:mg/L)およびその濃縮度(=沈殿物中の金属濃度/原水中の金属濃度)を表5に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

【0083】
表1に示されるように、酸性の湧出水には種々の金属が含有されており、当該金属を回収することにより、従来は埋め立てていた各金属を有効に利用することができる。また、表2〜表4に示されるように、種々の方法で各金属を回収することが可能である。特に、表4および表5から、酸性の湧出水を中和するために、炭酸カルシウムおよび水酸化カルシウムを用いることができるが、金属を回収する点から、炭酸カルシウムを用いることがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の金属回収方法を説明する流れ図である。
【符号の説明】
【0085】
11、35…吸着工程
12,23,27,34,36…金属回収工程
13,21…中和工程
22…分離工程
24…脱水
25…乾燥
26、33…金属精錬処理
31…酸への溶解工程
32…分離工程
41…沈殿物を添加湧出水に添加する工程
W…湧出水
M…金属
P1,P2…沈殿物
L1、L2、L3…液体
B…気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性の湧出水に含まれる金属を吸着材で吸着する吸着工程と、
前記吸着工程により前記吸着材に吸着した前記金属を酸性水またはアルカリ性水を用いて前記吸着材から分離して回収する第一金属回収工程と、
を有することを特徴とする金属回収方法。
【請求項2】
酸性の湧出水が硫酸イオンを含有する場合に、前記酸性の湧出水に炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを添加して中和する中和工程と、
前記中和工程により生じた沈殿物と液体とを分離する分離工程と、
前記分離工程により分離された前記沈殿物から金属を回収する第二金属回収工程と、
を有することを特徴とする金属回収方法。
【請求項3】
前記第二金属回収工程は、
前記沈殿物を脱水する脱水工程と、
前記脱水工程により脱水された前記沈殿物を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程により乾燥された前記沈殿物から、金属精錬処理により金属を回収する回収工程と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の金属回収方法。
【請求項4】
前記乾燥工程における乾燥は、前記中和工程により中和する前の70℃以上である前記湧出水を利用することにより行うことを特徴とする請求項3に記載の金属回収方法。
【請求項5】
前記金属精錬処理により生じる炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを回収し、前記中和工程に用いることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の金属回収方法。
【請求項6】
前記第二金属回収工程は、
前記沈殿物を脱水する脱水工程と、
前記脱水工程により脱水された沈殿物を酸に溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程により発生する気泡を液体から分離する分離工程と、
前記分離工程により分離された前記気泡から金属精錬処理により金属を回収する回収工程と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の金属回収方法。
【請求項7】
前記第二金属回収工程は、
前記沈殿物を脱水する脱水工程と、
前記脱水工程により脱水された沈殿物を酸に溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程により発生する気泡を液体から分離する分離工程と、
前記分離工程により分離された前記液体に含まれる金属を吸着材で吸着する吸着工程と、
前記吸着工程により前記吸着材に吸着した前記金属を酸性水またはアルカリ性水を用いて前記吸着材から分離して回収する回収工程と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の金属回収方法。
【請求項8】
前記溶解工程に用いられる酸は、塩酸または硝酸であることを特徴とする請求項5または請求項7に記載の金属回収方法。
【請求項9】
硫酸イオンを含有する酸性の湧出水に炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを添加して中和する中和手段と、
前記中和手段により生じた沈殿物と液体とを分離する分離手段と、
前記分離手段により分離された前記沈殿物を脱水する脱水手段と、
前記脱水手段により脱水した前記沈殿物を乾燥する乾燥手段と、
前記乾燥手段により乾燥された前記沈殿物から、金属精錬処理により金属を回収する金属回収手段と、
を有し、
前記乾燥手段における乾燥は、前記中和手段により中和する前の70℃以上である前記湧出水を利用することにより行うことを特徴とする資源循環システム。
【請求項10】
前記金属精錬処理により生じる炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムを回収し、前記中和手段に用いることを特徴とする請求項9に記載の資源循環システム。
【請求項11】
前記脱水手段により脱水した前記沈殿物の一部を、前記硫酸イオンを含有する酸性の湧出水に添加する添加手段を有するとともに、
前記添加手段により生じた沈殿物と液体とを、前記硫酸イオンを含有する酸性の湧出水として、前記中和手段に用いることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の資源循環システム。

【図1】
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【公開番号】特開2006−37125(P2006−37125A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214871(P2004−214871)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【出願人】(501100205)草津町 (1)
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【出願人】(504277355)
【出願人】(504277399)
【出願人】(504281400)
【出願人】(504281477)
【出願人】(504281329)
【Fターム(参考)】