説明

酸性果実用缶体

【課題】錫の溶出量を低く抑えかつ低コストで長期保存可能な酸性果実用缶体を提供する。
【解決手段】天蓋、地蓋及び缶胴の3つの部材で構成され、且つ缶内面側が無塗装又は部分的に有機被覆された酸性果実用缶体において、前記天蓋、前記地蓋及び前記缶胴のうちの少なくとも1つの部材が、錫メッキ層の上層に金属Cr量で2mg/m以下の金属Cr層を有する第1の錫メッキ鋼板を素材とし、かつ、前記天蓋、前記地蓋及び前記缶胴のうちの少なくとも1つの部材が、錫メッキ層の上層に金属Cr量で3〜50mg/mの金属Cr層を有する第2の錫メッキ鋼板を素材とし、前記第1の錫メッキ鋼板と前記第2の錫メッキ鋼板が、ともに有機被覆されていない酸性果実用缶体とした。なお、缶胴の接合部分には補修塗装してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイナップル、チェリーなどに代表される酸性果実缶用の缶体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パイナップル、チェリーなどに代表される酸性果実には無塗装のブリキ(錫メッキ)缶が使用されてきた。これは、気密性、遮光性、長期の保存性、生産性、経済性、搬送性に優れているところによる。
【0003】
特に、素材であるブリキ(錫メッキ鋼板)は、金属素材であることから気密性、遮光性に優れ、さらに、缶体においても缶胴シーム部、蓋巻き締め部も気密性の高い構造となっており、缶体として高い気密性を確保できることから、従来から、酸性果実用の缶体には無塗装のブリキ缶が使用されてきた。
【0004】
また、上述の気密性、遮光性に加えて、長期の保存性は、ブリキ表面の錫の役割が大きい。内容物の果実は充填時に缶内に混入する酸素や内容物自体に含まれる硝酸根のような酸化性物質により、酸化変敗され可能性がある。ところが、ブリキ表面の錫は酸素や酸化性物質の物質を還元し、錫自体は錫イオンとなり溶解することにより、果実の酸化変敗を防止し、長期保存を可能にしている。
【0005】
また、酸性果実缶内雰囲気のように、酸素が少なく、有機酸の存在する雰囲気下では、錫は鉄を犠牲防食し、鉄の溶出を抑えるため、缶寿命が保たれる。
【0006】
上述したように、ブリキ缶において錫は重要であるが、近年、缶内の錫溶出量の規制が行われるようになった。
【0007】
錫溶出量の低減に対しては、錫の溶出に関係する混入する酸素や内容物自体に含まれる硝酸根のような酸化性物質を低減する努力も行われている。混入する酸素に対しては、缶内の空気をスチームや窒素で置換して充填する方法が採用されている。また、硝酸根においては、起因となる肥料の施肥時期をコントロールして果実内の硝酸根量を低減している。
【0008】
素材であるブリキにおいても、ATC(Alloy Tin Couple)値は低錫溶出性を示す指標といわれ、このATC値を低減(低錫溶出化)するための方法としては、錫メッキ後、溶融処理を行うことによって形成される錫と鉄素地との合金層(FeSn)を制御することが知られている。
【0009】
さらに、缶蓋には高価ではあるが錫の溶出の心配がない塗装板が採用されたり、あるいは、錫の溶出が時間とともに徐々に進行することから賞味期限を短く設定するなど、各種管理や素材コストの上昇へとつながり問題となっている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0010】
【非特許文献1】東洋鋼鈑株式会社:ぶりきとティンフリースチール(アグネ株式会社)(1970)p.154
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、錫の溶出量を低く抑えかつ低コストで長期保存可能な酸性果実缶用缶体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、種々検討を行い、酸性果実の長期保存と錫の溶出量を低く抑えた安価な缶体の検討を行い、本発明に至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1) 天蓋、地蓋及び缶胴の3つの部材で構成され、且つ缶内面側が無塗装又は部分的に有機被覆された酸性果実用缶体において、前記天蓋、前記地蓋及び前記缶胴のうちの少なくとも1つの部材が、錫メッキ層の上層に金属Cr量で2mg/m以下の金属Cr層を有する第1の錫メッキ鋼板を素材とし、かつ、前記天蓋、前記地蓋及び前記缶胴のうちの少なくとも1つの部材が、錫メッキ層の上層に金属Cr量で3〜50mg/mの金属Cr層を有する第2の錫メッキ鋼板を素材とし、前記第1の錫メッキ鋼板と前記第2の錫メッキ鋼板が、ともに有機被覆されていないことを特徴とする、酸性果実用缶体。
(2)前記缶胴の接合部分には補修塗装されていることを特徴とする、請求項1に記載の酸性果実用缶体。
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、錫の溶出量を低く抑えかつ低コストで長期保存可能な酸性果実缶用缶体の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の酸性果実用缶体は、上述したように、錫による内容物の変敗防止と錫溶出量の低減し、かつ安価な天蓋、缶胴、地蓋からなる缶体である。
【0017】
従来の無塗装缶、あるいは部分有機被覆缶の有機被覆されていない錫メッキ部分は、その上層に、化成処理層としてクロム換算で10mg/m程度の皮膜量の水和酸化クロム層を有する。これは、錫メッキ板の運搬、貯蔵中の表面の酸化を防止することと、また、内容物が充填された缶体内においては、充填時に混入した酸素と錫との急激な反応を防止する機能がある。
【0018】
発明者らは、錫メッキ層の上層に金属クロム層を付与することにより、酸性果実缶内の雰囲気中で錫メッキ表面からの錫の溶解をほぼ完全に抑えることができることを見出し、本発明に至ったものであり、2種類の錫メッキ鋼板を用いるところに特徴がある。
【0019】
先ず、天蓋、地蓋及び缶胴のうちの少なくとも1つの部材の素材に、錫メッキ層の上層に金属Cr量で2mg/m以下の金属Cr層を有する第1の錫メッキ鋼板(以下、「錫メッキ鋼板1」という。)を使用する理由は、従来の缶体にもある機能である錫による内容物の変敗防止機能を確保するためである。このためには、錫メッキ層の上層の金属Cr層は金属Cr量が2mg/m以下であることが重要であり、従来の酸性果実缶用のブリキを使用することができる。
【0020】
さらに、この金属Cr層の上層には、錫の表面酸化を抑えるために、金属クロム換算で3〜8mg/mの水和酸化クロム層を付与することが効果的である。水和酸化クロムが金属クロム換算で3mg/m未満では輸送や長期保管中に黄変と呼ばれる錫の表面酸化がおこり、外観上の問題を引き起こすことがある。また、水和酸化クロムが金属クロム換算で8mg/m超ではその効果はほぼ飽和し、生産性上不利を招くためである。
【0021】
次に、天蓋、地蓋及び缶胴のうちの少なくとも1つの部材の素材に、錫メッキ層の上層に金属Cr量で3〜50mg/mの金属Cr層を有する第2の錫メッキ鋼板(以下、「錫メッキ鋼板2」という。)を使用する理由は、上述したように、錫メッキ層の上層に金属Cr層を付与して錫の溶解を抑えた鋼板を素材とした部材を使用することにより、塗装板等の有機被覆板を使用するのと同じ効果を持たせるものである。塗装板等の有機被覆板は、アルミ板や錫メッキなどのメッキ鋼板の上層に塗料をしたもの、PETフィルムをラミネートしたものなどであるが、塗装やラミネ−トは一般的に専用のラインを通板させるものであり、設備の固定費と塗料あるいはフィルムのコストから高価な素材となっている。
【0022】
一方、錫メッキ層の上層に金属Cr層を付与することは、従来のブリキのライン内で化成処理条件を変更することで比較的容易であり、付着させる量も極めて少ないため、従来のブリキとほぼ同等の価格で製造できる。
【0023】
金属クロム量が3mg/m未満では、錫の溶解を抑える効果が十分ではなく、50mg/m超ではその効果は飽和し、経済的に不利を招くため、錫メッキ層の上層の金属Cr層における金属Cr量を3〜50mg/mとする。
【0024】
さらに、錫の溶解を抑える上で、金属クロム層の上層には金属クロム換算で3〜10mg/mの水和酸化クロム層を付与することが効果的である。金属クロムのみで完全に被覆できない錫の表面を水和酸化クロム層が被覆し、錫の溶解を抑える効果がある。水和酸化クロムの付着量としては金属クロム換算で3mg/m未満では被覆の効果が不完全であり、10mg/m超でその効果はほぼ飽和し、生産性上不利を招くためである。
【0025】
なお、錫メッキの付着量に関しては、錫メッキ層の上層に金属Cr量で2mg/m以下の金属Cr層を有する錫メッキ鋼板1では、5.6〜15.0g/mの錫付着量が望ましい。下限の5.6g/m未満では酸化変敗を防止する効果が長期に持続できないためであり、また、15.0g/m超ではその効果が十二分に発揮され、経済的に不利益を招くためである。錫メッキ層の上層に金属Cr量で3〜50mg/mの金属Cr層を有する錫メッキ鋼板2においては、2.8〜11.2g/mの錫付着量が望ましい。錫メッキ層の上層に3〜50mg/mの金属Cr層を有する錫メッキ鋼板2において、工業的な生産を考慮するとメッキ工程、搬送、製缶工程において、金属Cr層に欠陥を生じることを考慮する必要がある。金属Cr層に欠陥が生じると、錫メッキ層が露出した状態となり、錫が溶解することになる。錫の付着量が2.8/m未満では、部分的に錫が犠牲防食できない領域が生まれ、地鉄が溶解し、穿孔腐食する危険性がある。また、錫の付着量が11.2g/m超では、地鉄の溶解に至るまでの時間を十分確保でき、経済的な不利を招くためである。
【0026】
なお、錫メッキ鋼板としては、通常のブリキはもちろんのこと、下地に微量のNiメッキをした錫メッキ鋼板を使用することも可能である。
【0027】
本発明に係る酸性果実用缶体は、以上説明したような、錫メッキ鋼板1及び錫メッキ鋼板2を素材として使用して、公知の成型方法により製造することができる。すなわち、天蓋または地蓋のいずれか一方または双方の素材として、錫メッキ鋼板1または錫メッキ鋼板2を使用し、通常の成型方法により天蓋及び地蓋に成型する。また、缶胴の素材として、天蓋または地蓋に使用した錫メッキ鋼板と異なるものを使用(例えば、天蓋または地蓋に錫メッキ鋼板1を使用した場合には、缶胴として錫メッキ鋼板2を使用)して、通常用いられるブランキング、溶接、ビード成型、及びフランジ成型等により缶胴を製造する。さらに、天蓋を巻締め、内容物(酸性果実)を充填後、地蓋を巻き締めることにより、本発明の酸性果実用缶体を製造することができる。
【0028】
また、錫メッキ層の上層に3〜50mg/mの金属Cr層を有する錫メッキ鋼板2を缶胴部材として使用する場合には、接合部分には補修塗装を行うことが望ましい。溶接時の電極との接触、あるいは、発熱による合金化等により、溶接部及び溶接部近傍は、錫の被覆あるいは金属Cr水和酸化クロムの被覆が完全ではない部分ができる恐れがある。溶接部及び溶接部近傍以外の部分は錫が犠牲防食できない構造であることから、溶接部及び溶接部近傍で局所的な腐食の危険性がある。即ち、地鉄が露出した部分での穿孔腐食、あるいは錫の集中的溶解を経て地鉄が露出する状態となり、穿孔腐食へ至る危険性があるため、補修塗装を行うことが望ましい。
【0029】
補修塗装の方法は、スプレー、パウダーコート等があるが、その方法を限定するものではなく、凹凸のある接合部を欠陥なく補修できることが望ましい。
【0030】
工業上あるいは性能上好ましい補修塗装方法としては、スプレー、パウダーコート、帯状フィルムを貼り付ける方法等がある。その中の塗装方法から、生産性、接合部分の凹凸の被覆性を考慮して、適宜選択すればよい。なお、本発明では、塗装板を一部の部材として使用することが可能であるが、素材は、塗装アルミ板、塗装鋼板や錫メッキ鋼板のいずれでも用いることが可能である。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明の実施例及び比較例を述べる。なお、錫溶出量および鉄溶出量の評価基準において、錫溶出量が160ppmを超える場合、鉄溶出量が40ppmを超える場合を不可とした。
【0032】
<実施例1>
板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が11.2g/m、その上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で7mg/mである錫メッキ鋼板1を天蓋及び地蓋に成型した。また、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が8.4g/m、その上層に金属クロム量が15mg/m、さらにその上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で7mg/mである錫メッキ鋼板2をブランキングし、溶接、ビード成型、及びフランジ成型して缶胴を製造し、直径87.3mm×高さ115.9mmの缶部材を作成した。次いで、天蓋を巻締め、内容物としてパイナップルを充填後、地蓋を巻き締め、105℃で殺菌の後、室温で3年間貯蔵した50缶を調査した。各缶の錫溶出量は82〜105ppm、平均値は86ppm、鉄溶出量は5〜14ppm、平均値は8ppmであり、錫溶出量は少ない値を示し、鉄溶出量は許容範囲内であった。
【0033】
<実施例2>
板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が3.4g/m、その上層に金属クロム量が38mg/m、さらにその上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で4mg/mである錫メッキ鋼板2を天蓋及び地蓋に成型した。また、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が6.2g/m、その上層に金属クロム量が1mg/m、さらにその上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で4mg/mである錫メッキ鋼板1をブランキングし、溶接、ビード成型、及びフランジ成型して缶胴を製造し、直径87.3mm×高さ115.9mmの缶部材を作成した。次いで、天蓋を巻締め、内容物としてパイナップルを充填後、地蓋を巻き締め、105℃で殺菌の後、室温で3年間貯蔵した50缶を調査した。各缶の錫溶出量は137〜148ppm、平均値は142ppm、鉄溶出量は3〜9ppm、平均値は5ppmであり、錫溶出量は許容範囲内であり、鉄溶出量は少ない値を示した。
【0034】
<実施例3>
板厚0.2mmの塗装錫メッキ鋼板を素材として易開缶性蓋を成型し、これを天蓋とし、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が5.4g/m、その上層に金属クロム量が5mg/m、さらにその上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で6mg/mである錫メッキ鋼板2を地蓋に成型した。また、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が8.4g/m、その上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で5mg/mである錫メッキ鋼板1をブランキングし、溶接、ビード成型、フランジ成型して缶胴を製造し、直径87.3mm×高さ115.9mmの缶部材を作成した。次いで、天蓋を巻締め、内容物としてパイナップルを充填後、地蓋を巻き締め、105℃で殺菌の後、室温で3年間貯蔵した50缶を調査した。各缶の錫溶出量は129〜150ppm、平均値は140ppm、鉄溶出量は2〜7ppm、平均値は4ppmであり、錫溶出量は許容範囲内であり、鉄溶出量は少ない値を示した。
【0035】
<実施例4>
板厚0.2mmの塗装錫メッキ鋼板を素材として易開缶性蓋を成型し、これを天蓋とし、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が14.0g/m、その上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で4mg/mである錫メッキ鋼板1を地蓋に成型した。また、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が5.4g/m、その上層に金属クロム量が15mg/m、さらにその上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で5mg/mである錫メッキ鋼板2をブランキングし、溶接、ビード成型、及びフランジ成型して缶胴を製造し、直径87.3mm×高さ115.9mmの缶部材を作成した。次いで、天蓋を巻締め、内容物としてパイナップルを充填後、地蓋を巻き締め、105℃で殺菌の後、室温で3年間貯蔵した50缶を調査した。各缶の錫溶出量は62〜89ppm、平均値は72ppm、鉄溶出量は5〜15ppm、平均値は9ppmであり、錫溶出量はかなり少ない値を示し、鉄溶出量は許容範囲内であった。
【0036】
<実施例5>
板厚0.2mmの塗装錫メッキ鋼板を素材として易開缶性蓋を成型し、これを天蓋とし、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が5.4g/m、その上層に金属クロム量が5mg/m、さらにその上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で6mg/mである錫メッキ鋼板2を地蓋に成型した。また、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が5.0g/m、その上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で4mg/mである錫メッキ鋼板1をブランキングし、溶接、ビード成型、及びフランジ成型して缶胴を製造し、直径87.3mm×高さ115.9mmの缶部材を作成した。次いで、天蓋を巻締め、内容物としてパイナップルを充填後、地蓋を巻き締め、105℃で殺菌の後、室温で3年間貯蔵した50缶を調査した。各缶の錫溶出量は140〜152ppm、平均値は142ppm、鉄溶出量は7〜14ppm、平均値は13ppmであり、錫及び鉄溶出量は許容範囲内であった。
【0037】
<実施例6>
板厚0.2mmの塗装錫メッキ鋼板を素材として易開缶性蓋を成型し、これを天蓋とし、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が2.5g/m、その上層に金属クロム量が5mg/m、さらにその上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で6mg/mである錫メッキ鋼板2を地蓋に成型した。また、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が6.2g/m、その上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で5mg/mである錫メッキ鋼板1をブランキングし、溶接、ビード成型、及びフランジ成型して缶胴を製造し、直径87.3mm×高さ115.9mmの缶部材を作成した。次いで、天蓋を巻締め、内容物としてパイナップルを充填後、地蓋を巻き締め、105℃で殺菌の後、室温で3年間貯蔵した50缶を調査した。各缶の錫溶出量は140〜152ppm、平均値は148ppm、鉄溶出量は7〜14ppm、平均値は11ppmであり、錫及び鉄溶出量は許容範囲内であった。
【0038】
<実施例7>
板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が11.2g/m、その上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で7mg/mである錫メッキ鋼板1を天蓋及び地蓋に成型した。また、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が5.4g/m、その上層に金属クロム量が15mg/m、さらにその上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で7mg/mである錫メッキ鋼板2をブランキングし、溶接を行い、次いで溶接部分は、幅12mm補修塗装を行った後、ビード成型、フランジ成型して缶胴を製造し、直径87.3mm×高さ115.9mmの缶部材を作成した。次いで、天蓋を巻締め、内容物としてパイナップルを充填後、地蓋を巻き締め、105℃で殺菌の後、室温で3年間貯蔵した50缶を調査した。各缶の錫溶出量は80〜93ppm、平均値は86ppm、鉄溶出量は2〜5ppm、平均値は3ppmであり、錫及び鉄の溶出量はかなり少ない値を示した。
【0039】
<実施例8>
板厚0.2mmの塗装錫メッキ鋼板を素材として易開缶性蓋を成型し、これを天蓋とし、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が14.0g/m、その上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で4mg/mである錫メッキ鋼板1を地蓋に成型した。また、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が5.4g/m、その上層に金属クロム量が15mg/m、さらにその上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で5mg/mである錫メッキ鋼板2をブランキングし溶接を行い、次いで溶接部分は、幅12mm補修塗装を行った後、ビード成型、フランジ成型して缶胴を製造し、直径87.3mm×高さ115.9mmの缶部材を作成した。次いで、天蓋を巻締め、内容物としてパイナップルを充填後、地蓋を巻き締め、105℃で殺菌の後、室温で3年間貯蔵した50缶を調査した。各缶の錫溶出量は65〜77ppm、平均値は71ppm、鉄溶出量は2〜5ppm、平均値は3ppmであり、錫及び鉄の溶出量はかなり少ない値を示した。
【0040】
<実施例9>
板厚0.2mmの塗装錫メッキ鋼板を素材として易開缶性蓋を成型し、これを天蓋とし、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が14.0g/m、その上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で4mg/mである錫メッキ鋼板1を地蓋に成型した。また、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が3.4g/m、その上層に金属クロム量が15mg/m、さらにその上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で5mg/mである錫メッキ鋼板2をブランキングし溶接を行い、次いで溶接部分は、幅12mm補修塗装を行った後、ビード成型、フランジ成型して缶胴を製造し、直径87.3mm×高さ54mmの缶部材を作成した。次いで、天蓋を巻締め、内容物としてパイナップルを充填後、地蓋を巻き締め、105℃で殺菌の後、室温で3年間貯蔵した50缶を調査した。各缶の錫溶出量は71〜85ppm、平均値は78ppm、鉄溶出量は2〜4ppm、平均値は3ppmであり、錫及び鉄の溶出量はかなり少ない値を示した。
【0041】
<実施例10>
板厚0.2mmの缶内面側の錫付着量が14.0g/m、その上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で4mg/mである錫メッキ鋼板1を天蓋とし、板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が5.4g/m、その上層に金属クロム量が5mg/m、さらにその上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で6mg/mである錫メッキ鋼板2を地蓋とした。また、溶接を行う部分を除いて塗装した錫メッキ鋼板をブランキングし溶接を行い、次いで溶接部分は、幅12mm補修塗装を行った後、ビード成型、フランジ成型して缶胴を製造し、直径87.3mm×高さ38mmの缶部材を作成した。次いで、天蓋を巻締め、内容物としてパイナップルを充填後、地蓋を巻き締め、105℃で殺菌の後、室温で3年間貯蔵した50缶を調査したところ、各缶の錫溶出量は123〜148ppm、平均値は135ppm、鉄溶出量は3〜8ppm、平均値は4ppmであり、錫溶出量は許容範囲内であり、鉄溶出量は少ない値を示した。
【0042】
<比較例1>
板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が8.4g/m、その上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で5mg/mである錫メッキ鋼板1を天蓋及び地蓋に成型した。また、同じ錫メッキ鋼板1をブランキングし、溶接、ビード成型、フランジ成型して缶胴を製造し、直径87.3mm×高さ115.9mmの缶部材を作成した。次いで、天蓋を巻締め、内容物としてパイナップルを充填後、地蓋を巻き締め、105℃で殺菌の後、室温で3年間貯蔵した50缶を調査した。各缶の錫溶出量は172〜203ppm、平均値は183ppm、鉄溶出量は2〜8ppm、平均値は5ppmであり、錫溶出量がやや高かった。
【0043】
<比較例2>
板厚0.2mm、缶内面側の錫付着量が8.4g/m、その上層に金属クロム量が15mg/m、さらにその上層に水和酸化クロム層が金属クロム換算で7mg/mである錫メッキ鋼板2を天蓋及び地蓋に成型した。また、同じ錫メッキ鋼板2をブランキングし、溶接、ビード成型、フランジ成型して缶胴を製造し、直径87.3mm×高さ115.9mmの缶部材を作成した。次いで、天蓋を巻締め、内容物としてパイナップルを充填後、地蓋を巻き締め、105℃で殺菌の後、室温で3年間貯蔵した50缶を調査した。各缶の錫溶出量は54〜70ppm、平均値は63ppm、鉄溶出量は48〜65ppm、平均値は54ppmであり、錫の溶出量はかなり少ないもの鉄の溶出量が極めて高かった。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
天蓋、地蓋及び缶胴の3つの部材で構成され、且つ缶内面側が無塗装又は部分的に有機被覆された酸性果実用缶体において、
前記天蓋、前記地蓋及び前記缶胴のうちの少なくとも1つの部材が、錫メッキ層の上層に金属Cr量で2mg/m以下の金属Cr層を有する第1の錫メッキ鋼板を素材とし、かつ、前記天蓋、前記地蓋及び前記缶胴のうちの少なくとも1つの部材が、錫メッキ層の上層に金属Cr量で3〜50mg/mの金属Cr層を有する第2の錫メッキ鋼板を素材とし、
前記第1の錫メッキ鋼板と前記第2の錫メッキ鋼板が、ともに有機被覆されていないことを特徴とする、酸性果実用缶体。
【請求項2】
前記缶胴の接合部分には補修塗装されていることを特徴とする、請求項1に記載の酸性果実用缶体。



【公開番号】特開2010−6458(P2010−6458A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171344(P2008−171344)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】