重ね合わせ式液晶フィルタ及びこれを備えた照明装置
【課題】重ね合わせ式液晶フィルタ及びこれを備えた照明装置において、向かい合うラビング配向膜の方向にずれがなく、配向膜間に充填された精度良く液晶を配向可能とする。
【解決手段】照明装置2に適用される重ね合わせ式液晶フィルタ1は、透明基板10と、透明基板10上に設けられる透明電極11と、透明電極11上に設けられる配向膜12とを有する液晶フィルタ用基板13を備え、液晶フィルタ用基板13は、重ね合わせ軸Yを軸として透明電極11を内向きにして重ね合わされ、配向膜12相互の隙間に液晶材15が充填されて成る。配向膜12は、重ね合わせ前の液晶フィルタ用基板13に対し、軸Yと略直交する方向又は略平行である方向のいずれかの方向にラビング処理が施される。このラビング処理は、一度の工程によって行われるので、ラビング配向膜12aの方向にずれがなく、配向膜12間に充填された液晶を精度良く配向することができる。
【解決手段】照明装置2に適用される重ね合わせ式液晶フィルタ1は、透明基板10と、透明基板10上に設けられる透明電極11と、透明電極11上に設けられる配向膜12とを有する液晶フィルタ用基板13を備え、液晶フィルタ用基板13は、重ね合わせ軸Yを軸として透明電極11を内向きにして重ね合わされ、配向膜12相互の隙間に液晶材15が充填されて成る。配向膜12は、重ね合わせ前の液晶フィルタ用基板13に対し、軸Yと略直交する方向又は略平行である方向のいずれかの方向にラビング処理が施される。このラビング処理は、一度の工程によって行われるので、ラビング配向膜12aの方向にずれがなく、配向膜12間に充填された液晶を精度良く配向することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基板と、透明基板上に設けられる透明電極と、透明電極上に設けられる配向膜とを有する液晶フィルタ用基板を備え、少なくとも2枚の液晶フィルタ用基板が、透明電極が内向きに互いに向かい合うように重ね合わされ、配向膜相互の隙間に液晶が充填されて成る重ね合わせ式液晶フィルタ及びこれを備えた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、吸収分光特性の異なる二色性色素を含む液晶が、透明電極付きの透明基板に挟設されて成る液晶フィルタを備えた投写型表示装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の投写型表示装置に備えられた液晶フィルタの構成例を図11に示す。液晶フィルタ105は、第1乃至第3のゲストホスト層115,116,117を備える。第1のゲストホスト層115は、透明電極118付きの透明基板111,112間に液晶分子115a及び二色性色素分子115bを挟持させて成り、赤色光束Rを吸収する。第2のゲストホスト層116は、透明電極118付きの透明基板112,113間に液晶分子116a及び二色性色素分子116bを挟持させて成り、緑色光束Gを吸収する。第3のゲストホスト層117は、透明電極118付きの透明基板113,114間に液晶分子117a及び二色性色素分子117bを挟持させて成り、青色光束Bを吸収する。各ゲストホスト層116〜117は、印加電圧の増減によって透明電極間に充填された液晶分子及び二色性色素の向きが変化し、二色性色素が吸収する光束が変化する。そのため、液晶フィルタ105を備えた投写型表示装置は、制御部125が、各ゲストホスト層116〜117に対して電圧を印加する電圧印加部121〜123を適宜に制御することにより、照射光の色温度を任意に制御することができる。
【0004】
また、液晶分子を配向させるため、透明電極の対向面上にラビング処理が施された配向膜を設けた液晶フィルタを備えた照明装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。一般に配向膜は、ポリイミド系樹脂膜等の表面に、液晶を配向するためのラビング処理が施された配向膜(ラビング配向膜)が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
液晶分子がラビング処理に対してプレチルド角を持つラビング配向膜の例を図12(a)(b)に示す。プレチルド角は、ラビング時に生じる高分子鎖の配向やポリイミド表面の微小溝によって生じる。図中の矢印はラビングの方向を示す。この種の配向膜には、配向膜120を対向させた状態で、ラビング120aの方向が同じになるパラレル型(図12(a))と、ラビング120aの方向が180度異なるアンチパラレル型(図12(b))とがある。パラレル型の液晶フィルタにおいては、液晶分子140は、印加電圧が増減によって、向かい合う透明電極の間において1/2回転する。すなわち、パラレル型においては、液晶分子140が1回転する幅(以下、ねじれピッチ幅という)が向かい合う透明電極の間隔(以下、ギャップという)の2倍である液晶材が用いられる。これに対して、アンチパラレル型の液晶フィルタにおいては、液晶分子140は向かい合う透明電極の間において1回転する。すなわち、アンチパラレル型においては、ねじれピッチ幅がギャップと同じである液晶材が用いられる。
【0006】
アンチパラレル型の液晶フィルタの特徴は、印加電圧の増減によって液晶分子が配向制御されることによる色調変化の幅が、パラレル型に比べて大きくなることが挙げられる。また、パラレル型の液晶フィルタの特徴は、液晶分子のねじれ回転する角度が制限されているので、ヒステリシスが起こりにくいことが挙げられる。これら特徴の異なる液晶フィルタは、適用される照明装置の性能や用途に応じて適宜に使い分けられる。
【特許文献1】特開平11−242197号公報
【特許文献2】特開2007−265807号公報
【特許文献3】特開2006−154725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1乃至特許文献3に示したような従来の液晶フィルタは、通常、配向膜を塗布した透明電極付き透明基板(以下、液晶フィルタ用基板という)を予め製造しておき、それら個別にラビング処理した後、重ね合わせることによって製造される。個別にラビング処理された複数の液晶フィルタ用基板が重ね合わされると、互いに向かい合う配向膜において、ラビングの方向がずれることがある。ラビングの方向がずれると、配向膜間に充填された液晶を精度良く配向することができない。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、重ね合わされる液晶フィルタ用基板の配向膜において、ラビングの方向にずれが生じることなく、配向膜間に充填された液晶を精度良く配向できるパラレル型又はアンチパラレル型の重ね合わせ式液晶フィルタ及びこれを備えた照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、透明基板と、前記透明基板上に設けられる透明電極と、前記透明電極上に設けられる配向膜とを有する液晶フィルタ用基板を備え、前記液晶フィルタ用基板は、前記透明基板を対称に分ける重ね合わせ軸を軸として前記透明電極が内向きに互いに向かい合うように重ね合わされ、前記配向膜相互の隙間に液晶が充填されて成る重ね合わせ式液晶フィルタであって、前記配向膜は、重ね合わせ前の前記液晶フィルタ用基板に対し、前記重ね合わせ軸と略直交する方向又は略平行である方向のいずれかの方向にラビング処理が施されているものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の重ね合わせ式液晶フィルタにおいて、前記液晶フィルタ用基板は、前記重ね合わせ軸を挟んで線対称となるいずれかの位置にマーキングが配置されているものである。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の重ね合わせ式液晶フィルタにおいて、前記液晶フィルタ用基板は、前記重ね合わせ軸と略直交する軸を挟む一方に電極端子が配置され、他方に前記液晶を充填するための注入口が設けられるものである。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の重ね合わせ式液晶フィルタにおいて、前記液晶フィルタ用基板は、重ね合わされた状態で略円形になるように形成されているものである。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の重ね合わせ式液晶フィルタと、光源とを備えた照明装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、互いに向かい合う配向膜のラビング処理が一度に処理されるので、それらラビングの方向にずれを生じることがなく、液晶を精度良く配向できる重ね合わせ式液晶フィルタが得られる。また、ラビング処理の方向を、重ね合わせ軸に平行な方向又はこれに直交する方向にすることにより、パラレル型又はアンチパラレル型の何れかの重ね合わせ式液晶フィルタを選択的に製造することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、マーキングを目印に液晶フィルタ用基板を正確に重ね合わせることができるので、向かい合う配向膜の方向のずれを更に効果的に抑制できる。
【0016】
請求項3の発明によれば、電極端子と液晶の注入口とが離れた位置に形成されるので、液晶の注入に際して、電極端子近傍に設けられる電極ピンや保持具等が邪魔にならず、重ね合わせ式液晶フィルタを容易に製造することができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、照明装置に適した円形の重ね合わせ式液晶フィルタが得られる。
【0018】
請求項5の発明によれば、液晶を精度良く配向でき、製造が容易な重ね合わせ式液晶フィルタを備えているので、照明光の色調や色温度を正確に制御でき、しかも安価な照明装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の第1の実施形態に係る重ね合わせ式液晶フィルタ及びこれを備えた照明装置について、図1及び図2を参照して説明する。本実施形態の重ね合わせ式液晶フィルタ(以下、液晶フィルタ1という)は、照明装置2の光源3から出射された光L1を入射して、光L1に含まれる所定波長の光束を吸収することにより、色調や色温度が調整された光L2を出射する。照明装置2は、液晶フィルタ1及び光源3に加えて、光源3を点灯させるための点灯回路4を含む光源給電部5と、液晶フィルタ1を制御するための液晶フィルタ制御回路6を含むフィルタ制御電源部7とを備える。また、照明装置2は、光源3からの出射光を液晶フィルタ1の方向へ反射させるための反射部材8と、液晶フィルタ1、光源3及び反射部材8を収納し、光出射方向に開口部を有する筐体9とを適宜に備える。なお、液晶フィルタ1と光源3との間には、光源3から出射される紫外線から液晶フィルタ1を保護するための紫外線フィルタ(図示せず)が設けられてもよい。また、図1は、1枚の液晶フィルタ1を備えた照明装置2を示しているが、複数の液晶フィルタ1が備えられてもよい。
【0020】
光源3は、汎用の光源であり、図1では蛍光灯を用いた例を示しているが、例えば、白熱灯、高輝度放電灯等であってもよく、好ましくは放射分光特性が平坦な光源が用いられる。光源給電部5は、商用電源ACからの供電を受けて、光源3の種類等に応じて所定の電圧に変換して光源3へ電流を供給するものであり、例えば、光源3が蛍光灯等であるときは、インバータ回路といった適宜の点灯回路4が備えられる。
【0021】
フィルタ制御電源部7は、ユーザの操作等によって出力された調色信号を受信して、この調色信号に対応した適宜の電圧を制御して液晶フィルタ1へ出力できる電源が用いられ、調色信号を検出すると共に、検出した信号に応じた適宜の電圧を制御する検出回路及び制御回路6等を備える。
【0022】
反射部材8は、汎用の光学部材であって、例えば、椀型に形成された樹脂構造体に、光反射率の高いアルミニウム等を蒸着させたものが用いられる。筐体9は、一方が開口し、他方が閉口した略筒形の構造材であり、光源3から放射される熱により、内部が高温に晒される場合もあるので、好ましくは耐熱性及び耐久性に優れた金属材又は樹脂材等により形成される。なお、反射部材8は、筐体9の内表面が所望の光学特性が発揮されるような形状に形成され、また、アルミニウム蒸着等の表面処理を施すことにより構成したものであってもよい。
【0023】
液晶フィルタ1は、透明基板10と、透明基板10上に設けられる透明電極11と、透明電極11上に設けられる配向膜12とを有する液晶フィルタ用基板13を備える。液晶フィルタ用基板13は、透明電極11が互いに向かい合うように重ね合わされ、配向膜12相互の隙間には、吸収分光特性の異なる二色性色素14を含む液晶材15が充填される。向かい合う透明電極11の間隔(以下、ギャップという)は、ギャップに分散されるスペーサ粒子・柱とともに透明基板10の外周にスペーサ16を貼り付けることによって設定され、透明基板10間が封止材17によって固定されることにより、液晶材15の充填空間が決定される。また、各液晶フィルタ用基板13は、透明電極11がフィルタ制御電源部7に接続され、交流又は直流の駆動電圧が印加される。
【0024】
透明基板10には、汎用のガラス基板が用いられる。透明電極11は、液晶材15に対し、その配向を調節する任意の電圧を印加するものであり、例えば、インジウム錫系酸化物が用いられる。配向膜12は、ポリイミド系樹脂から成り、透明電極11上に塗布された後にラビング処理が施される。なお、配向膜12のラビング処理の詳細な工程については後述する。
【0025】
二色性色素14は、固有の分子構造に起因する吸光ピークを持っていて、長波長域から短波長域にかけて吸収分光特性が連続的に増加するものや、短波長域から長波長域にかけて吸収分光特性が連続的に増加するものがある。なお、吸収分光特性とは、各々の物質が有する波長ごとの光の吸収特性を言う。一般的な二色性色素としては、アゾ系色素、アントラキノン系色素等が挙げられ、本実施形態においては、例えば、退色性が少ない蛍光性ベンゾチアジアゾール系二色性色素が用いられる。
【0026】
液晶材15は、汎用のサーモトロピック液晶が用いられ、本実施形態においては、ネマティック液晶、コレステリック液晶、スメクティック液晶のいずれを用いてもよいが、応答速度が早いネマティック液晶が好ましい。なお、スメクティック液晶の一種である強誘電性液晶を用いてもよい。なお、液晶材15には、液晶分子にねじれを付与するカイラル剤が添加される。
【0027】
次に、液晶フィルタ1の動作を説明する。透明電極11に電圧が印加されていないとき、細長い分子構造の液晶材15及び二色性色素14は、透明基板10に対して平行に配向(ホモジニアス配向)していて、二色性色素14の長軸方向に振動する偏光を強く吸収(ハイルマイヤー型ゲストホスト動作)する。従って、例えば、長波長成分に対する吸収分光特性を有する二色性色素14を含む液晶フィルタ1は、透過した光の色温度を増加させ、短波長成分に対する吸収分光特性を有する二色性色素14含む液晶フィルタ1は、透過した光の色温度を減少させる。
【0028】
一方、透明電極11に十分な電圧が印加されると、細長い分子構造の液晶材15及び二色性色素14は電界方向に再配向して、透明基板10に対して垂直に立ち上がる。そのため、二色性色素14による短波長成分及び長波長成分の吸収が減少して、液晶フィルタ1の透過分光特性は平坦になり、光の色温度は変化しない。
【0029】
このように、吸収分光特性の異なる二色性色素14及び液晶材15含む液晶フィルタ1に対する印加電圧が適宜に制御されることで、液晶フィルタ1の透過分光特性は連続的に変化する。従って、液晶フィルタ1は、印加電圧の増減により、その透過分光特性をアナログ的に制御することができ、光源3から入射した光L1のうち、特定の波長の光を吸収して、色温度を広範囲かつ連続的に制御した照明光L2を出射することができる。
【0030】
次に、液晶フィルタ1の配向膜12を製造するためのラビング処理について、図3(a)(b)及び図4(a)(b)を参照して説明する。まず、図3(a)(b)に示すように、1枚の透明基板10上の所定箇所に透明電極11が配置され、この透明電極11の上を覆うように配向膜12が塗布されることにより、液晶フィルタ用基板13が作製される。透明電極11には、フィルタ制御電源部7(図2参照)と接続可能となるように、電極端子11aが設けられる。透明基板10は、液晶フィルタ用基板13が重ね合わされたときに、電極端子11aと向かい合う部分がカットされ、このカットがオリフラ10aとなる。
【0031】
配向膜12は、その表面に液晶を配向するためのラビング処理が施される。ラビング配向膜12aは、例えば、ローラ状の樹脂繊維を配向膜12上の一方向(図中の白抜矢印で示す)に摩擦することによって形成される。このとき、図3(a)(b)に示したように、透明基板10を対称に分ける重ね合わせ軸Yと直交する方向(軸X方向)に摩擦することにより、配向膜12上には軸X方向のラビング処理が行われる。
【0032】
ラビング処理後、透明基板10を重ね合わせ軸Yに沿って切断することにより、2枚の液晶フィルタ用基板13が得られる。次に、図4(a)(b)に示すように、これら2枚の液晶フィルタ用基板13を向かい合わせ、向かい合う配向膜12においてラビング処理の方向が異なるアンチパラレル型の液晶フィルタ1を得る。ここに図2に示したように、2枚の液晶フィルタ用基板13は、スペーサ16で所定のギャップを有するように重ね合わされ、各透明基板10間は封止材17で固定されると共に、向かい合う配向膜12間には液晶材15等が充填される。なお、液晶フィルタ用基板13を重ね合わせる際には、予め重ね合わせ軸Yに沿って透明基板10上に切り込み線を設けておき、重ね合わせ軸Yを軸として透明基板10を折り曲げることにより、一方の配向膜12を他方の配向膜12上に重ね合わせてもよい。また、図3(a)は、重ね合わせ前の状態において、電極端子11a及びオリフラ10aが、透明基板10を対称に分ける重ね合わせ軸Yを軸として並進移動させた位置に配置される例を示すが、電極端子11a及びオリフラ10aの配置は、透明基板10の中心を回転中心とした点対称となる位置であってもよい。重ね合わせた状態における電極端子11a及びオリフラ10aの配置は、前者の場合は軸X方向に並び(図4(a))、後者の場合は重ね合わせ軸Yと平行な方向に並ぶ(図示せず)。
【0033】
また、図5(a)(b)に示したように、重ね合わせ軸Yと平行な方向にラビング処理することにより、重ね合わせ軸Y方向のラビング配向膜12aが形成される。ラビング処理後、透明基板10を重ね合わせ軸Yに沿って切断することにより、2枚の液晶フィルタ用基板13が得られ、これらを所定のギャップを有するように重ね合わせて、二色性色素14を含む液晶材15を充填する等により、図6(a)(b)に示したように、パラレル型の液晶フィルタ1が得られる。
【0034】
本実施形態の液晶フィルタ1においては、互いに向かい合うラビング配向膜12aは、一度のラビング処理によって形成される。そのため、ラビングの方向にずれが生じることがなく、液晶を精度良く配向できる重ね合わせ式液晶フィルタ1が得られる。また、ラビング処理の方向を、重ね合わせ軸Yに平行な方向又はこれに直交する方向にすることにより、パラレル型又はアンチパラレル型の何れかの液晶フィルタ1を選択的に製造することができる。
【0035】
好ましくは、重ね合わせ軸Yに沿って切断する前の1枚の液晶フィルタ用基板13には、軸Yを挟んで線対称となるいずれかの位置に予めマーキングが配置される。マーキングは、例えば、重ね合わせ軸Yを挟む透明基板10上の一方に点(・)印M1、他方に丸(○)M2が付され、2枚の液晶フィルタ用基板13を合わせる際に、丸印M2の中に点印M1を重ね合わせる。こうすれば、このマーキングを目印に切断後の2枚の液晶フィルタ用基板13を正確に重ね合わせることができるので、向かい合う配向膜12に形成されたラビング配向膜12aの位置ずれを更に効果的に抑制できる。
【0036】
次に、本発明の第2の実施形態に係る重ね合わせ式液晶フィルタついて、図7を参照して説明する。本実施形態の液晶フィルタ1においては、液晶フィルタ用基板13の重ね合わせ軸Yと直交する軸Xを挟む一方に電極端子11aが配置され、他方に前記液晶を充填するための注入口18が設けられる。注入口18は、ギャップを画定するために設けられるスペーサ16の一部を予めカットしておくことにより形成される。その他の構成は、上記第1の実施形態と同様である。注入口18は、二色性色素14を含む液晶材15が注入された後に、密封のために封止材(図示せず)によって封止される。
【0037】
電極端子11aには、液晶フィルタ1に電源電圧を印加するための電極ピン又は導線等が半田等により接合され、また、電極端子11a近傍には、透明基板10を固定するための冶具等の保持具が設けられる。本実施形体によれば、注入口18と、電極端子11aとが離れた位置に設けられるので、液晶材15等の注入に際して、電極ピンや保持具等が邪魔にならず、液晶フィルタ1を容易に製造することができる。
【0038】
次に、本発明の第3の実施形態に係る重ね合わせ式液晶フィルタについて、図8(a)(b)、図9(a)(b)及び図10を参照して説明する。本実施形態の液晶フィルタ1は、液晶フィルタ用基板13が、重ね合わされた状態で略円形になるように形成されているものであり、具体的には、1枚の透明基板10が重ね合わせ軸Yの近傍を連結させた2つの円周形状にカットされ、所定位置に略円形の透明電極11及び配向膜12を積層させる。
【0039】
配向膜12は、上記第1の実施形態と同様に、図8(a)(b)に示したように、重ね合わせ軸Yと直交する軸Xの方向に摩擦されることにより、軸Xと平行なラビング配向膜12aが形成される。ラビング処理後、透明基板10を軸Yに沿って切断することにより、2枚の液晶フィルタ用基板13が得られ、これらを所定のギャップを有するように重ね合わせて、二色性色素14を含む液晶材15を充填する等により、図9(a)(b)に示したように、アンチパラレル型の液晶フィルタ1が得られる。また、重ね合わせ軸Yと平行な方向に摩擦されることにより、重ね合わせ軸Yと平行なラビング配向膜12aが形成され、この液晶フィルタ用基板13を用いて、図10に示したように、パラレル型の液晶フィルタ1が得られる。
【0040】
本実施形態においても、向かい合うラビング配向膜12aが一度のラビング処理により、実質的に同時に行われるので、上記第1の実施形態と同様の効果を有し、しかも照明装置に適した略円形の重ね合わせ式液晶フィルタ1が得られる。好ましくは、本実施形態においても、軸Yに沿って切断する前の1枚の液晶フィルタ用基板13には、重ね合わせ軸Yを挟んで線対称となるいずれかの位置に予めマーキングが配置される。円形基板は、角型基板と比較して、透明基板10の貼り付け面が回転する事により、重ね合わせ位置のずれが生じ易いが、上記のマーキングを施すことにより、液晶フィルタ用基板13を正確に重ね合わせることができる。
【0041】
また、上述の第1乃至第3の実施形態で示したように、液晶を精度良く配向でき、製造が容易な液晶フィルタ1を備えることにより、照明装置1は、照明光の色調や色温度を正確に制御することができ、しかも安価とすることができる。
【0042】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能であり、配向膜を塗布した複数の透明基板であっても、これらを連結及び固定させて実質的に1枚の透明基板として配向膜にラビング処理を施すものであれば、それらが、ラビング処理後に分離されたとしても、本発明に含まれ得る。また、製造される液晶フィルタの形状は、必ずしも上述した角形及び円形に限られず、例えば、六角形等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る液晶フィルタを備えた照明装置の一部断面構成図。
【図2】同液晶フィルタの断面構成図。
【図3】(a)は同液晶フィルタにおけるアンチパラレル型を製造するためのラビング処理を説明する正面図及び二側面図、(b)は部分拡大図。
【図4】(a)は同アンチパラレル型の正面図及び二側面図、(b)は部分拡大図。
【図5】(a)は同パラレル型を製造するためのラビング処理を説明する正面図及び二側面図。
【図6】(a)は同パラレル型の正面図及び二側面図、(b)は部分拡大図。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る液晶フィルタにおける注入口の構成を説明するための分解斜視図。
【図8】(a)は本発明の第3の実施形態に係る液晶フィルタにおける円形アンチパラレル型を製造するためのラビング処理を説明する正面図及び側面図、(b)は部分拡大図。
【図9】(a)は同円形アンチパラレル型の正面図及び側面図、(b)は部分拡大図。
【図10】(a)は同円形パラレル型の正面図及び側面図、(b)は部分拡大図。
【図11】従来の液晶フィルタの側断面図。
【図12】(a)は従来の液晶フィルタにおけるパラレル型の配向膜の断面図、(b)は同アンチパラレル型の配向膜の断面図。
【符号の説明】
【0044】
1 重ね合わせ式液晶フィルタ
2 照明装置
3 光源
10 透明基板
11 透明電極
11a 電極端子
12 配向膜
13 液晶フィルタ用基板
15 液晶(液晶材)
18 注入口
M1 マーキング
M2 マーキング
X 重ね合わせ軸に直交する軸
Y 重ね合わせ軸
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基板と、透明基板上に設けられる透明電極と、透明電極上に設けられる配向膜とを有する液晶フィルタ用基板を備え、少なくとも2枚の液晶フィルタ用基板が、透明電極が内向きに互いに向かい合うように重ね合わされ、配向膜相互の隙間に液晶が充填されて成る重ね合わせ式液晶フィルタ及びこれを備えた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、吸収分光特性の異なる二色性色素を含む液晶が、透明電極付きの透明基板に挟設されて成る液晶フィルタを備えた投写型表示装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の投写型表示装置に備えられた液晶フィルタの構成例を図11に示す。液晶フィルタ105は、第1乃至第3のゲストホスト層115,116,117を備える。第1のゲストホスト層115は、透明電極118付きの透明基板111,112間に液晶分子115a及び二色性色素分子115bを挟持させて成り、赤色光束Rを吸収する。第2のゲストホスト層116は、透明電極118付きの透明基板112,113間に液晶分子116a及び二色性色素分子116bを挟持させて成り、緑色光束Gを吸収する。第3のゲストホスト層117は、透明電極118付きの透明基板113,114間に液晶分子117a及び二色性色素分子117bを挟持させて成り、青色光束Bを吸収する。各ゲストホスト層116〜117は、印加電圧の増減によって透明電極間に充填された液晶分子及び二色性色素の向きが変化し、二色性色素が吸収する光束が変化する。そのため、液晶フィルタ105を備えた投写型表示装置は、制御部125が、各ゲストホスト層116〜117に対して電圧を印加する電圧印加部121〜123を適宜に制御することにより、照射光の色温度を任意に制御することができる。
【0004】
また、液晶分子を配向させるため、透明電極の対向面上にラビング処理が施された配向膜を設けた液晶フィルタを備えた照明装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。一般に配向膜は、ポリイミド系樹脂膜等の表面に、液晶を配向するためのラビング処理が施された配向膜(ラビング配向膜)が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
液晶分子がラビング処理に対してプレチルド角を持つラビング配向膜の例を図12(a)(b)に示す。プレチルド角は、ラビング時に生じる高分子鎖の配向やポリイミド表面の微小溝によって生じる。図中の矢印はラビングの方向を示す。この種の配向膜には、配向膜120を対向させた状態で、ラビング120aの方向が同じになるパラレル型(図12(a))と、ラビング120aの方向が180度異なるアンチパラレル型(図12(b))とがある。パラレル型の液晶フィルタにおいては、液晶分子140は、印加電圧が増減によって、向かい合う透明電極の間において1/2回転する。すなわち、パラレル型においては、液晶分子140が1回転する幅(以下、ねじれピッチ幅という)が向かい合う透明電極の間隔(以下、ギャップという)の2倍である液晶材が用いられる。これに対して、アンチパラレル型の液晶フィルタにおいては、液晶分子140は向かい合う透明電極の間において1回転する。すなわち、アンチパラレル型においては、ねじれピッチ幅がギャップと同じである液晶材が用いられる。
【0006】
アンチパラレル型の液晶フィルタの特徴は、印加電圧の増減によって液晶分子が配向制御されることによる色調変化の幅が、パラレル型に比べて大きくなることが挙げられる。また、パラレル型の液晶フィルタの特徴は、液晶分子のねじれ回転する角度が制限されているので、ヒステリシスが起こりにくいことが挙げられる。これら特徴の異なる液晶フィルタは、適用される照明装置の性能や用途に応じて適宜に使い分けられる。
【特許文献1】特開平11−242197号公報
【特許文献2】特開2007−265807号公報
【特許文献3】特開2006−154725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1乃至特許文献3に示したような従来の液晶フィルタは、通常、配向膜を塗布した透明電極付き透明基板(以下、液晶フィルタ用基板という)を予め製造しておき、それら個別にラビング処理した後、重ね合わせることによって製造される。個別にラビング処理された複数の液晶フィルタ用基板が重ね合わされると、互いに向かい合う配向膜において、ラビングの方向がずれることがある。ラビングの方向がずれると、配向膜間に充填された液晶を精度良く配向することができない。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、重ね合わされる液晶フィルタ用基板の配向膜において、ラビングの方向にずれが生じることなく、配向膜間に充填された液晶を精度良く配向できるパラレル型又はアンチパラレル型の重ね合わせ式液晶フィルタ及びこれを備えた照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、透明基板と、前記透明基板上に設けられる透明電極と、前記透明電極上に設けられる配向膜とを有する液晶フィルタ用基板を備え、前記液晶フィルタ用基板は、前記透明基板を対称に分ける重ね合わせ軸を軸として前記透明電極が内向きに互いに向かい合うように重ね合わされ、前記配向膜相互の隙間に液晶が充填されて成る重ね合わせ式液晶フィルタであって、前記配向膜は、重ね合わせ前の前記液晶フィルタ用基板に対し、前記重ね合わせ軸と略直交する方向又は略平行である方向のいずれかの方向にラビング処理が施されているものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の重ね合わせ式液晶フィルタにおいて、前記液晶フィルタ用基板は、前記重ね合わせ軸を挟んで線対称となるいずれかの位置にマーキングが配置されているものである。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の重ね合わせ式液晶フィルタにおいて、前記液晶フィルタ用基板は、前記重ね合わせ軸と略直交する軸を挟む一方に電極端子が配置され、他方に前記液晶を充填するための注入口が設けられるものである。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の重ね合わせ式液晶フィルタにおいて、前記液晶フィルタ用基板は、重ね合わされた状態で略円形になるように形成されているものである。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の重ね合わせ式液晶フィルタと、光源とを備えた照明装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、互いに向かい合う配向膜のラビング処理が一度に処理されるので、それらラビングの方向にずれを生じることがなく、液晶を精度良く配向できる重ね合わせ式液晶フィルタが得られる。また、ラビング処理の方向を、重ね合わせ軸に平行な方向又はこれに直交する方向にすることにより、パラレル型又はアンチパラレル型の何れかの重ね合わせ式液晶フィルタを選択的に製造することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、マーキングを目印に液晶フィルタ用基板を正確に重ね合わせることができるので、向かい合う配向膜の方向のずれを更に効果的に抑制できる。
【0016】
請求項3の発明によれば、電極端子と液晶の注入口とが離れた位置に形成されるので、液晶の注入に際して、電極端子近傍に設けられる電極ピンや保持具等が邪魔にならず、重ね合わせ式液晶フィルタを容易に製造することができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、照明装置に適した円形の重ね合わせ式液晶フィルタが得られる。
【0018】
請求項5の発明によれば、液晶を精度良く配向でき、製造が容易な重ね合わせ式液晶フィルタを備えているので、照明光の色調や色温度を正確に制御でき、しかも安価な照明装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の第1の実施形態に係る重ね合わせ式液晶フィルタ及びこれを備えた照明装置について、図1及び図2を参照して説明する。本実施形態の重ね合わせ式液晶フィルタ(以下、液晶フィルタ1という)は、照明装置2の光源3から出射された光L1を入射して、光L1に含まれる所定波長の光束を吸収することにより、色調や色温度が調整された光L2を出射する。照明装置2は、液晶フィルタ1及び光源3に加えて、光源3を点灯させるための点灯回路4を含む光源給電部5と、液晶フィルタ1を制御するための液晶フィルタ制御回路6を含むフィルタ制御電源部7とを備える。また、照明装置2は、光源3からの出射光を液晶フィルタ1の方向へ反射させるための反射部材8と、液晶フィルタ1、光源3及び反射部材8を収納し、光出射方向に開口部を有する筐体9とを適宜に備える。なお、液晶フィルタ1と光源3との間には、光源3から出射される紫外線から液晶フィルタ1を保護するための紫外線フィルタ(図示せず)が設けられてもよい。また、図1は、1枚の液晶フィルタ1を備えた照明装置2を示しているが、複数の液晶フィルタ1が備えられてもよい。
【0020】
光源3は、汎用の光源であり、図1では蛍光灯を用いた例を示しているが、例えば、白熱灯、高輝度放電灯等であってもよく、好ましくは放射分光特性が平坦な光源が用いられる。光源給電部5は、商用電源ACからの供電を受けて、光源3の種類等に応じて所定の電圧に変換して光源3へ電流を供給するものであり、例えば、光源3が蛍光灯等であるときは、インバータ回路といった適宜の点灯回路4が備えられる。
【0021】
フィルタ制御電源部7は、ユーザの操作等によって出力された調色信号を受信して、この調色信号に対応した適宜の電圧を制御して液晶フィルタ1へ出力できる電源が用いられ、調色信号を検出すると共に、検出した信号に応じた適宜の電圧を制御する検出回路及び制御回路6等を備える。
【0022】
反射部材8は、汎用の光学部材であって、例えば、椀型に形成された樹脂構造体に、光反射率の高いアルミニウム等を蒸着させたものが用いられる。筐体9は、一方が開口し、他方が閉口した略筒形の構造材であり、光源3から放射される熱により、内部が高温に晒される場合もあるので、好ましくは耐熱性及び耐久性に優れた金属材又は樹脂材等により形成される。なお、反射部材8は、筐体9の内表面が所望の光学特性が発揮されるような形状に形成され、また、アルミニウム蒸着等の表面処理を施すことにより構成したものであってもよい。
【0023】
液晶フィルタ1は、透明基板10と、透明基板10上に設けられる透明電極11と、透明電極11上に設けられる配向膜12とを有する液晶フィルタ用基板13を備える。液晶フィルタ用基板13は、透明電極11が互いに向かい合うように重ね合わされ、配向膜12相互の隙間には、吸収分光特性の異なる二色性色素14を含む液晶材15が充填される。向かい合う透明電極11の間隔(以下、ギャップという)は、ギャップに分散されるスペーサ粒子・柱とともに透明基板10の外周にスペーサ16を貼り付けることによって設定され、透明基板10間が封止材17によって固定されることにより、液晶材15の充填空間が決定される。また、各液晶フィルタ用基板13は、透明電極11がフィルタ制御電源部7に接続され、交流又は直流の駆動電圧が印加される。
【0024】
透明基板10には、汎用のガラス基板が用いられる。透明電極11は、液晶材15に対し、その配向を調節する任意の電圧を印加するものであり、例えば、インジウム錫系酸化物が用いられる。配向膜12は、ポリイミド系樹脂から成り、透明電極11上に塗布された後にラビング処理が施される。なお、配向膜12のラビング処理の詳細な工程については後述する。
【0025】
二色性色素14は、固有の分子構造に起因する吸光ピークを持っていて、長波長域から短波長域にかけて吸収分光特性が連続的に増加するものや、短波長域から長波長域にかけて吸収分光特性が連続的に増加するものがある。なお、吸収分光特性とは、各々の物質が有する波長ごとの光の吸収特性を言う。一般的な二色性色素としては、アゾ系色素、アントラキノン系色素等が挙げられ、本実施形態においては、例えば、退色性が少ない蛍光性ベンゾチアジアゾール系二色性色素が用いられる。
【0026】
液晶材15は、汎用のサーモトロピック液晶が用いられ、本実施形態においては、ネマティック液晶、コレステリック液晶、スメクティック液晶のいずれを用いてもよいが、応答速度が早いネマティック液晶が好ましい。なお、スメクティック液晶の一種である強誘電性液晶を用いてもよい。なお、液晶材15には、液晶分子にねじれを付与するカイラル剤が添加される。
【0027】
次に、液晶フィルタ1の動作を説明する。透明電極11に電圧が印加されていないとき、細長い分子構造の液晶材15及び二色性色素14は、透明基板10に対して平行に配向(ホモジニアス配向)していて、二色性色素14の長軸方向に振動する偏光を強く吸収(ハイルマイヤー型ゲストホスト動作)する。従って、例えば、長波長成分に対する吸収分光特性を有する二色性色素14を含む液晶フィルタ1は、透過した光の色温度を増加させ、短波長成分に対する吸収分光特性を有する二色性色素14含む液晶フィルタ1は、透過した光の色温度を減少させる。
【0028】
一方、透明電極11に十分な電圧が印加されると、細長い分子構造の液晶材15及び二色性色素14は電界方向に再配向して、透明基板10に対して垂直に立ち上がる。そのため、二色性色素14による短波長成分及び長波長成分の吸収が減少して、液晶フィルタ1の透過分光特性は平坦になり、光の色温度は変化しない。
【0029】
このように、吸収分光特性の異なる二色性色素14及び液晶材15含む液晶フィルタ1に対する印加電圧が適宜に制御されることで、液晶フィルタ1の透過分光特性は連続的に変化する。従って、液晶フィルタ1は、印加電圧の増減により、その透過分光特性をアナログ的に制御することができ、光源3から入射した光L1のうち、特定の波長の光を吸収して、色温度を広範囲かつ連続的に制御した照明光L2を出射することができる。
【0030】
次に、液晶フィルタ1の配向膜12を製造するためのラビング処理について、図3(a)(b)及び図4(a)(b)を参照して説明する。まず、図3(a)(b)に示すように、1枚の透明基板10上の所定箇所に透明電極11が配置され、この透明電極11の上を覆うように配向膜12が塗布されることにより、液晶フィルタ用基板13が作製される。透明電極11には、フィルタ制御電源部7(図2参照)と接続可能となるように、電極端子11aが設けられる。透明基板10は、液晶フィルタ用基板13が重ね合わされたときに、電極端子11aと向かい合う部分がカットされ、このカットがオリフラ10aとなる。
【0031】
配向膜12は、その表面に液晶を配向するためのラビング処理が施される。ラビング配向膜12aは、例えば、ローラ状の樹脂繊維を配向膜12上の一方向(図中の白抜矢印で示す)に摩擦することによって形成される。このとき、図3(a)(b)に示したように、透明基板10を対称に分ける重ね合わせ軸Yと直交する方向(軸X方向)に摩擦することにより、配向膜12上には軸X方向のラビング処理が行われる。
【0032】
ラビング処理後、透明基板10を重ね合わせ軸Yに沿って切断することにより、2枚の液晶フィルタ用基板13が得られる。次に、図4(a)(b)に示すように、これら2枚の液晶フィルタ用基板13を向かい合わせ、向かい合う配向膜12においてラビング処理の方向が異なるアンチパラレル型の液晶フィルタ1を得る。ここに図2に示したように、2枚の液晶フィルタ用基板13は、スペーサ16で所定のギャップを有するように重ね合わされ、各透明基板10間は封止材17で固定されると共に、向かい合う配向膜12間には液晶材15等が充填される。なお、液晶フィルタ用基板13を重ね合わせる際には、予め重ね合わせ軸Yに沿って透明基板10上に切り込み線を設けておき、重ね合わせ軸Yを軸として透明基板10を折り曲げることにより、一方の配向膜12を他方の配向膜12上に重ね合わせてもよい。また、図3(a)は、重ね合わせ前の状態において、電極端子11a及びオリフラ10aが、透明基板10を対称に分ける重ね合わせ軸Yを軸として並進移動させた位置に配置される例を示すが、電極端子11a及びオリフラ10aの配置は、透明基板10の中心を回転中心とした点対称となる位置であってもよい。重ね合わせた状態における電極端子11a及びオリフラ10aの配置は、前者の場合は軸X方向に並び(図4(a))、後者の場合は重ね合わせ軸Yと平行な方向に並ぶ(図示せず)。
【0033】
また、図5(a)(b)に示したように、重ね合わせ軸Yと平行な方向にラビング処理することにより、重ね合わせ軸Y方向のラビング配向膜12aが形成される。ラビング処理後、透明基板10を重ね合わせ軸Yに沿って切断することにより、2枚の液晶フィルタ用基板13が得られ、これらを所定のギャップを有するように重ね合わせて、二色性色素14を含む液晶材15を充填する等により、図6(a)(b)に示したように、パラレル型の液晶フィルタ1が得られる。
【0034】
本実施形態の液晶フィルタ1においては、互いに向かい合うラビング配向膜12aは、一度のラビング処理によって形成される。そのため、ラビングの方向にずれが生じることがなく、液晶を精度良く配向できる重ね合わせ式液晶フィルタ1が得られる。また、ラビング処理の方向を、重ね合わせ軸Yに平行な方向又はこれに直交する方向にすることにより、パラレル型又はアンチパラレル型の何れかの液晶フィルタ1を選択的に製造することができる。
【0035】
好ましくは、重ね合わせ軸Yに沿って切断する前の1枚の液晶フィルタ用基板13には、軸Yを挟んで線対称となるいずれかの位置に予めマーキングが配置される。マーキングは、例えば、重ね合わせ軸Yを挟む透明基板10上の一方に点(・)印M1、他方に丸(○)M2が付され、2枚の液晶フィルタ用基板13を合わせる際に、丸印M2の中に点印M1を重ね合わせる。こうすれば、このマーキングを目印に切断後の2枚の液晶フィルタ用基板13を正確に重ね合わせることができるので、向かい合う配向膜12に形成されたラビング配向膜12aの位置ずれを更に効果的に抑制できる。
【0036】
次に、本発明の第2の実施形態に係る重ね合わせ式液晶フィルタついて、図7を参照して説明する。本実施形態の液晶フィルタ1においては、液晶フィルタ用基板13の重ね合わせ軸Yと直交する軸Xを挟む一方に電極端子11aが配置され、他方に前記液晶を充填するための注入口18が設けられる。注入口18は、ギャップを画定するために設けられるスペーサ16の一部を予めカットしておくことにより形成される。その他の構成は、上記第1の実施形態と同様である。注入口18は、二色性色素14を含む液晶材15が注入された後に、密封のために封止材(図示せず)によって封止される。
【0037】
電極端子11aには、液晶フィルタ1に電源電圧を印加するための電極ピン又は導線等が半田等により接合され、また、電極端子11a近傍には、透明基板10を固定するための冶具等の保持具が設けられる。本実施形体によれば、注入口18と、電極端子11aとが離れた位置に設けられるので、液晶材15等の注入に際して、電極ピンや保持具等が邪魔にならず、液晶フィルタ1を容易に製造することができる。
【0038】
次に、本発明の第3の実施形態に係る重ね合わせ式液晶フィルタについて、図8(a)(b)、図9(a)(b)及び図10を参照して説明する。本実施形態の液晶フィルタ1は、液晶フィルタ用基板13が、重ね合わされた状態で略円形になるように形成されているものであり、具体的には、1枚の透明基板10が重ね合わせ軸Yの近傍を連結させた2つの円周形状にカットされ、所定位置に略円形の透明電極11及び配向膜12を積層させる。
【0039】
配向膜12は、上記第1の実施形態と同様に、図8(a)(b)に示したように、重ね合わせ軸Yと直交する軸Xの方向に摩擦されることにより、軸Xと平行なラビング配向膜12aが形成される。ラビング処理後、透明基板10を軸Yに沿って切断することにより、2枚の液晶フィルタ用基板13が得られ、これらを所定のギャップを有するように重ね合わせて、二色性色素14を含む液晶材15を充填する等により、図9(a)(b)に示したように、アンチパラレル型の液晶フィルタ1が得られる。また、重ね合わせ軸Yと平行な方向に摩擦されることにより、重ね合わせ軸Yと平行なラビング配向膜12aが形成され、この液晶フィルタ用基板13を用いて、図10に示したように、パラレル型の液晶フィルタ1が得られる。
【0040】
本実施形態においても、向かい合うラビング配向膜12aが一度のラビング処理により、実質的に同時に行われるので、上記第1の実施形態と同様の効果を有し、しかも照明装置に適した略円形の重ね合わせ式液晶フィルタ1が得られる。好ましくは、本実施形態においても、軸Yに沿って切断する前の1枚の液晶フィルタ用基板13には、重ね合わせ軸Yを挟んで線対称となるいずれかの位置に予めマーキングが配置される。円形基板は、角型基板と比較して、透明基板10の貼り付け面が回転する事により、重ね合わせ位置のずれが生じ易いが、上記のマーキングを施すことにより、液晶フィルタ用基板13を正確に重ね合わせることができる。
【0041】
また、上述の第1乃至第3の実施形態で示したように、液晶を精度良く配向でき、製造が容易な液晶フィルタ1を備えることにより、照明装置1は、照明光の色調や色温度を正確に制御することができ、しかも安価とすることができる。
【0042】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能であり、配向膜を塗布した複数の透明基板であっても、これらを連結及び固定させて実質的に1枚の透明基板として配向膜にラビング処理を施すものであれば、それらが、ラビング処理後に分離されたとしても、本発明に含まれ得る。また、製造される液晶フィルタの形状は、必ずしも上述した角形及び円形に限られず、例えば、六角形等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る液晶フィルタを備えた照明装置の一部断面構成図。
【図2】同液晶フィルタの断面構成図。
【図3】(a)は同液晶フィルタにおけるアンチパラレル型を製造するためのラビング処理を説明する正面図及び二側面図、(b)は部分拡大図。
【図4】(a)は同アンチパラレル型の正面図及び二側面図、(b)は部分拡大図。
【図5】(a)は同パラレル型を製造するためのラビング処理を説明する正面図及び二側面図。
【図6】(a)は同パラレル型の正面図及び二側面図、(b)は部分拡大図。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る液晶フィルタにおける注入口の構成を説明するための分解斜視図。
【図8】(a)は本発明の第3の実施形態に係る液晶フィルタにおける円形アンチパラレル型を製造するためのラビング処理を説明する正面図及び側面図、(b)は部分拡大図。
【図9】(a)は同円形アンチパラレル型の正面図及び側面図、(b)は部分拡大図。
【図10】(a)は同円形パラレル型の正面図及び側面図、(b)は部分拡大図。
【図11】従来の液晶フィルタの側断面図。
【図12】(a)は従来の液晶フィルタにおけるパラレル型の配向膜の断面図、(b)は同アンチパラレル型の配向膜の断面図。
【符号の説明】
【0044】
1 重ね合わせ式液晶フィルタ
2 照明装置
3 光源
10 透明基板
11 透明電極
11a 電極端子
12 配向膜
13 液晶フィルタ用基板
15 液晶(液晶材)
18 注入口
M1 マーキング
M2 マーキング
X 重ね合わせ軸に直交する軸
Y 重ね合わせ軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、前記透明基板上に設けられる透明電極と、前記透明電極上に設けられる配向膜とを有する液晶フィルタ用基板を備え、前記液晶フィルタ用基板は、前記透明基板を対称に分ける重ね合わせ軸を軸として前記透明電極が内向きに互いに向かい合うように重ね合わされ、前記配向膜相互の隙間に液晶が充填されて成る重ね合わせ式液晶フィルタであって、
前記配向膜は、重ね合わせ前の前記液晶フィルタ用基板に対し、前記重ね合わせ軸と略直交する方向又は略平行である方向のいずれかの方向にラビング処理が施されていることを特徴とする重ね合わせ式液晶フィルタ。
【請求項2】
前記液晶フィルタ用基板は、前記重ね合わせ軸を挟んで線対称となるいずれかの位置にマーキングが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の重ね合わせ式液晶フィルタ。
【請求項3】
前記液晶フィルタ用基板は、前記重ね合わせ軸と略直交する軸を挟む一方に電極端子が配置され、他方に前記液晶を充填するための注入口が設けられることを特徴とする請求項1に記載の重ね合わせ式液晶フィルタ。
【請求項4】
前記液晶フィルタ用基板は、重ね合わされた状態で略円形になるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の重ね合わせ式液晶フィルタ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の重ね合わせ式液晶フィルタと、光源とを備えた照明装置。
【請求項1】
透明基板と、前記透明基板上に設けられる透明電極と、前記透明電極上に設けられる配向膜とを有する液晶フィルタ用基板を備え、前記液晶フィルタ用基板は、前記透明基板を対称に分ける重ね合わせ軸を軸として前記透明電極が内向きに互いに向かい合うように重ね合わされ、前記配向膜相互の隙間に液晶が充填されて成る重ね合わせ式液晶フィルタであって、
前記配向膜は、重ね合わせ前の前記液晶フィルタ用基板に対し、前記重ね合わせ軸と略直交する方向又は略平行である方向のいずれかの方向にラビング処理が施されていることを特徴とする重ね合わせ式液晶フィルタ。
【請求項2】
前記液晶フィルタ用基板は、前記重ね合わせ軸を挟んで線対称となるいずれかの位置にマーキングが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の重ね合わせ式液晶フィルタ。
【請求項3】
前記液晶フィルタ用基板は、前記重ね合わせ軸と略直交する軸を挟む一方に電極端子が配置され、他方に前記液晶を充填するための注入口が設けられることを特徴とする請求項1に記載の重ね合わせ式液晶フィルタ。
【請求項4】
前記液晶フィルタ用基板は、重ね合わされた状態で略円形になるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の重ね合わせ式液晶フィルタ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の重ね合わせ式液晶フィルタと、光源とを備えた照明装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−175624(P2009−175624A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16563(P2008−16563)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]