説明

野菜抽出物発酵液の製造方法およびこれにより製造される野菜抽出物発酵液

本発明は、野菜抽出物発酵液の製造方法およびこれにより製造される野菜抽出物発酵液に関する。本発明に係る硝酸塩含有野菜類から製造される野菜抽出物発酵液は、合成亜硝酸塩を用いることなく特徴的な肉色を改善しながら脂質酸化を抑制するために、肉製品製造の際に使用される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜抽出物発酵液の製造方法およびこれにより製造される野菜抽出物発酵液に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えばハム、ソーセージなどの肉製品生産工程において、肉色を固定して固有のピンク色を呈するようにし、腐敗および毒性を示す微生物の生育を抑制して貯蔵性を増進させるための目的で合成亜硝酸塩を添加する。すなわち、合成亜硝酸塩が肉色素としてのミオグロビン(myoglobin)およびヘモグロビン(hemoglobin)と反応することにより、ニトロソミオグロビン(nitrosomyoglobin)とニトロソヘモグロビン(nitrosohemoglobin)を生成して肉色固定効果を示し、製品の風味も向上させるうえ、微生物の成長を抑制させる。
【0003】
合成亜硝酸塩は、その特有の機能による利点はあるが、合成亜硝酸塩を過度に摂取する場合、蓄積されて発癌物質としてのニトロソアミン(nitrosoamine)を形成する可能性があり、或いは小児メトヘモグロビン血症を誘発する可能性がある。よって、毒性および発癌の危険性を考慮して、食品に添加される亜硝酸塩の量が規制されている。韓国と日本では、最終製品における亜硝酸塩の残留量を70ppm以下に規制しており、英国、ドイツなどの大部分の国でも亜硝酸塩の残留量を10〜200ppmに規制している。
【0004】
そこで、肉製品の製造工程において合成亜硝酸塩を排除するための試みが多くの研究によって行われており、合成亜硝酸塩を添加した製品に特定の物質を添加して残留量を低め、或いは合成亜硝酸塩を他の物質で代替する方向に研究が行われている。
【0005】
肉製品における亜硝酸塩の残留量を減らす方法としては、次の方法がある。肉製品内に残留する合成亜硝酸塩はpHまたは温度に影響されるため、pHを低める、或いは加熱温度を高めると、ある程度その残留量を減少させることができる。また、塩化ナトリウムの濃度を増加させても、亜硝酸塩の残留量を減少させることができる。その他に、肉製品製造の際に、アスコルビン酸塩、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、乳酸菌、α−トコフェロール、ソルビン酸カリウム、フラボノイド化合物、コーヒー酸(caffeic acid)、フェルラ酸(ferulic acid)、または各種フェノール化合物を添加すると、亜硝酸塩の残留量を減らすことができると発表された。ところが、これらの添加剤も過量の使用が規制されており、経済性がないうえ、添加方法および技術が制限的であるという欠点を持っている。
【0006】
上述した欠点を補完するために、韓国登録特許公報第10−308387号(特許文献1)では、肉製品の脂質酸化を抑制し亜硝酸塩の量を減少させる方法であって、肉製品を製造するときに共役リノール酸を添加することを特徴とする方法について開示している。
【0007】
合成亜硝酸塩を添加せず既存の肉製品と同一の特徴的な風味および安全性を確保する肉製品製造技術として、韓国公開特許公報第10−2006−17659号(特許文献2)では、肉色を固定するために、亜硝酸塩の代わりに一酸化窒素を添加する、肉製品において発色させる方法について開示している。この方法では、一酸化窒素発生装置を用いて一酸化窒素を発生させて肉色素としてのミオグロビンと反応させて肉色を固定する。ところが、この方法は、亜硝酸塩、アスコルビン酸、および硝酸などを用いてイオン化させる技術であって、合成亜硝酸塩を原料として用いる。
【0008】
また、韓国公開特許公報第10−2001−88698号(特許文献3)では、亜硝酸塩または硝酸塩を代替するためのキトサンの利用方法、詳しくは、発色のために、海老またはカニの殻、イカの軟骨、貝類などに含まれているキチンを脱アセチル化して得たキトサンまたはその誘導体を用いて、亜硝酸塩を代替する技術について開示している。
【0009】
上述したように、亜硝酸塩の特徴的な肉色固定効果を示しながら微生物の生育を抑制して貯蔵性を維持することが可能な代替物質は未だ開発されていない。よって、亜硝酸塩を代替することが可能な物質の開発が切実に要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国登録特許公報第10−308387号
【特許文献2】韓国公開特許公報第10−2006−17659号
【特許文献3】韓国公開特許公報第10−2001−88698号
【発明の概要】
【0011】
開示
技術的課題
そこで、本発明者らは、亜硝酸塩の特徴的な肉色固定効果を示しながら微生物の生育を抑制して貯蔵性を改善することが可能な代替物質について研究したところ、野菜類抽出物に硝酸塩還元菌を混合して製造される野菜類抽出物発酵液を発見した。この野菜類抽出物発酵液を用いて製造した肉製品の場合、特徴的な肉色および風味を改善し且つ脂質酸化が抑制されることを確認し、本発明を完成した。
【0012】
技術的解決方法
本発明は、野菜類抽出物発酵液の製造方法、およびこれにより製造された野菜類抽出物発酵液を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る野菜類抽出物発酵液を用いた肉製品の製造工程を示す図である。
【図2】本発明に係る野菜類抽出物発酵液を用いたウインナーソーセージの色相を示す図である。
【図3】本発明に係る野菜類抽出物発酵液を用いたウインナーソーセージのTBA分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
最善の様態
本発明は、下記の段階を含んでなる、野菜類抽出物発酵液の製造方法を提供する:
1)野菜類を洗浄した後、汁を絞り、濾過して熱処理および熱殺菌する段階、
2)前記熱殺菌の後、マルチトールとデキストロースを入れて混合した後、噴霧乾燥させて野菜類抽出物を得る段階、および
3)前記野菜類抽出物を食用水に混合させた後、ここに硝酸塩還元菌を入れて混合分散させて発酵および冷却させる段階。
【0015】
また、本発明は、前記製造方法によって製造された野菜類抽出物発酵液を提供する。
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明に使用する野菜類は、ニンジン、セロリ、キャベツ、レタス、ホウレンソウ、ジャガイモ、大根、および砂糖大根を含み、これら野菜類の硝酸塩含量は、ニンジン18〜600ppm、セロリ356〜3,530ppm、キャベツ35〜580ppm、レタス396〜3,550ppm、ホウレンソウ308〜3,784ppm、ジャガイモ39〜119ppm、大根528〜3,520ppm、および砂糖大根682〜8,008ppmである。
【0018】
前記硝酸塩を含有した野菜類を水で洗浄した後、汁を絞り、濾過する。酵素の不活性化のために濾過液を80〜90℃で1〜5分間熱処理し、水分を蒸発させる。菌制御のために熱殺菌を施し、冷却させた後、マルチトールとデキストロースを入れて混合し、しかる後に、噴霧乾燥させて野菜類抽出物を得る。
【0019】
前記野菜類抽出物を食用水に入れて均一な分散および沈殿を防止するために、攪拌器でよく攪拌しながら混合させ、ここに硝酸塩還元菌を入れて混合分散させる。この際、硝酸塩還元菌の増殖を助けるために、野菜類抽出物混合液を10〜60℃に維持しながら安定させた後、硝酸塩還元菌を混合させる。前記混合液の温度を維持しながら0.1〜24時間発酵させる。前記野菜類抽出物発酵液の最終pHが3.0〜6.5になれば、冷却させ、10℃以下に保管する。
【0020】
また、本発明は、下記の段階を含んでなる、肉製品の製造方法を提供する:
1)原料肉、野菜類抽出物発酵液および副材料を混合する段階、
2)前記混合液を充填、成形、押出、および熱処理する段階、ならびに
3)前記熱処理された製品をシャワー、放冷、および包装する段階。
【0021】
次に、前記肉製品の製造方法を具体的に説明する。
【0022】
まず、原料肉を3〜4mmの直径に切って準備する。原料肉の部分を整形或いは挽き肉する。準備された原料肉、前記製造した野菜類抽出物発酵液、塩類、卵白粉末などのタンパク類、砂糖、およびスパイスをミキサーに入れて低速混合する。混合が完了すると、真空状態で5〜10分間高速混合する。この際、野菜類抽出物発酵液の投入量は混合液の総量に対して0.1〜50重量%である。もし野菜類抽出物発酵液の投入量が0.1重量%未満であれば、ピンク色の発色効果が望ましく現れず、もし野菜類抽出物発酵液の投入量が50重量%超過であれば、発色に有意な改善はないが、物性が劣悪になり、製品の質を確実にすることが難しい。前記混合液を、充填器を用いて充填、成形、押出し、中心温度が72〜121℃に到達するように熱処理する。熱処理された製品を、噴霧式シャワー器を用いてシャワーさせ、中心温度が12〜15℃以下となるように放冷室で放冷させる。放冷が完了すると、包装を行って肉製品を製造する。
【0023】
本発明に係る野菜類抽出物発酵液を用いて肉製品を製造した場合、野菜類抽出物発酵液に合成亜硝酸塩を添加しなくても肉色固定効果を改善することができる。また、本発明に係る野菜類抽出物発酵液を用いて肉製品を製造した場合、この肉製品は、官能的品質特性評価において3.7以上とスコアが高く消費者満足度が良好であるうえ、肉製品の断面色相および脂質酸化度においても、合成亜硝酸塩を添加して製造した肉製品と有意な差異がなかった。
【0024】
したがって、本発明に係る野菜類抽出物発酵液は、合成亜硝酸塩を代替することが可能な物質であって、合成亜硝酸塩を排除した肉製品の製造に有用に使用することができる。
【0025】
前記肉製品としては、例えばハム、ベーコン、ソーセージなどがある。
【0026】
発明の様態
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の内容を限定するものではない。
【0027】
実施例1:野菜類抽出物発酵液の製造
1.野菜類抽出物の製造
ニンジン、セロリ、キャベツ、レタス、ホウレンソウ、ジャガイモ、大根、および砂糖大根を水で洗浄した。前記野菜類をそれぞれ0.1kgずつ汁を絞り、濾過した。濾過液を80〜90℃で1〜5分間熱処理し、水分を蒸発させた。その後、熱殺菌を施し、10〜30℃に冷却させた後、マルチトールとデキストロースをそれぞれ100gずつ入れて混合した後、噴霧乾燥させた。
【0028】
2.野菜類抽出物発酵液の製造
前記1の手続きで製造した野菜類抽出物を食用水に混合分散させた。野菜類抽出物混合液を10〜60℃に維持した後、硝酸塩還元菌を入れて混合分散させた。前記温度を維持しながら0.1〜24時間発酵させた。前記野菜類抽出物発酵液の最終pHが3.0〜6.5になると、冷却させ、10℃以下に保管した。
【0029】
実施例2:本発明の野菜類抽出物発酵液を用いた肉製品の製造
1.ウインナーソーセージの製造
原料肉を3〜4mmの直径に切って準備した。原料肉の部分を整形或いは挽き肉した。準備された原料肉20.0kg、実施例1で製造した野菜類抽出物発酵液1.5kg、塩類0.24kg、卵白粉末などのタンパク類0.3kg、砂糖0.4kg、およびスパイス0.14kgをミキサーに入れて低速混合した。混合が完了すると、真空状態で5〜10分間高速混合した。前記混合液を、充填器を用いて充填、成形、押出し、中心温度が72℃以上に到達するように熱処理した。熱処理された製品を、噴霧式シャワー器を用いてシャワーさせ、中心温度が12〜15℃以下となるように放冷室で放冷させた。放冷が完了すると、包装を行ってウインナーソーセージを製造した。
【0030】
2.ラウンド形肉製品の製造
前記1の手続きと同様にしてラウンド形肉製品を製造した。
本発明に係る野菜類抽出物発酵液を用いた肉製品の製造方法を図1に示した。
【0031】
実験例1:本発明の野菜類抽出物発酵液を用いて製造した肉製品の官能的品質特性検査
ソウル市居住の25〜49才の主婦のうち無作為に抽出した35名を対象として、実施例2で製造した野菜類抽出物発酵液を用いたウインナーソーセージおよびラウンド形肉製品の官能的品質特性評価を施した。比較例としては、合成亜硝酸塩を添加して製造した肉製品を使用した。
【0032】
各項目に対して5点尺度(5:非常に良い、4:良い、3:普通、2:悪い、1:非常に悪い)で評点し、その結果はこれらの平均値で示した。全般的な嗜好度および味嗜好度が平均点数3.7以上であれば、消費者満足度が高くて市販可能な点数である。
【0033】
本発明の野菜類抽出物発酵液を用いて製造したウインナーソーセージの官能的品質特性評価結果は表1に示し、本発明の野菜類抽出物発酵液を用いて製造したラウンド形肉製品の官能的品質特性評価結果は表2に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
表1および表2に示すように、本発明に係る野菜類抽出物発酵液を添加して製造したウインナーソーセージまたはラウンド形肉製品の官能的な品質特性が3.7以上と高かった。
【0037】
実験例2:本発明の野菜類抽出物発酵液を用いて製造した肉製品の断面色相検査
実施例2で製造した野菜類抽出物発酵液を用いたウインナーソーセージの色相検査を行った。比較例としては、合成亜硝酸塩を添加して製造したウインナーソーセージを使用した。
【0038】
その結果は図2に示す。
図2に示すように、本発明に係る野菜類抽出物発酵液を用いたウインナーソーセージの色相が、合成亜硝酸塩を添加して製造したウインナーソーセージの色相とほぼ同様の発色効果を示すことを確認した。
【0039】
実験例3:本発明の野菜類抽出物発酵液を用いて製造した肉製品の脂質酸化度の測定
実施例2で製造した野菜類抽出物発酵液を用いたウインナーソーセージを15日間冷蔵庫に保管しながらTBA(Thiobarbituric acid)を測定して脂質酸化度を評価した。比較例としては、合成亜硝酸塩を添加して製造したウインナーソーセージを使用した。
【0040】
その結果は図3に示す。
図3に示すように、本発明に係る野菜類抽出物発酵液を用いたウインナーソーセージは、TBA分析の結果、抗酸化効果があって脂質酸化を抑制する。また、合成亜硝酸塩を添加して製造したウインナーソーセージと有意な差異がなかった。また、そのTBA値は20MA mg/gを超えなかった。
【0041】
産業上の利用可能性
硝酸塩を含んでいる野菜類から製造される野菜類抽出物発酵液を使用して、肉製品製造の際に、合成亜硝酸塩を添加しなくても、合成亜硝酸塩の特徴的な肉色を改善しながら脂質酸化を抑制する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)野菜類を洗浄した後、汁を絞り、濾過して熱処理および熱殺菌する段階と、
2)前記熱殺菌の後、マルチトールとデキストロースを入れて混合した後、噴霧乾燥させて野菜類抽出物を得る段階と、
3)前記野菜類抽出物を食用水に混合させた後、ここに硝酸塩還元菌を入れて混合分散させて発酵および冷却させる段階と
を含んでなる、野菜類抽出物発酵液の製造方法。
【請求項2】
前記1)段階で、前記野菜類が、ニンジン、セロリ、キャベツ、レタス、ホウレンソウ、ジャガイモ、大根、および砂糖大根を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記1)段階で、前記熱処理は80〜90℃で1〜5分間行う、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記3)段階で、前記発酵は10〜60℃で0.1〜24時間行い、前記野菜類抽出物発酵液の最終pHが3.0〜6.5になるとそれを冷却させる、請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の方法によって製造された野菜類抽出物発酵液。
【請求項6】
1)原料肉、請求項5記載の野菜類抽出物発酵液、および副材料を混合する段階と、
2)前記混合液を充填、成形、押出、および熱処理する段階と、
3)前記熱処理された製品をシャワー、放冷、および包装する段階と
を含んでなる、肉製品の製造方法。
【請求項7】
前記1)段階で、前記野菜類抽出物発酵液の投入量は混合液の総量に対して0.1〜50重量%である、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記2)段階で、前記副材料は、塩類、卵白粉末のようなタンパク類、砂糖、およびスパイスを含む、請求項6記載の製造方法。
【請求項9】
前記2)段階で、前記熱処理において中心温度が72〜121℃に到達するように加熱する、請求項6記載の製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一項記載の方法によって製造された肉製品。
【請求項11】
ハム、ベーコン、およびソーセージから選択されるものである、請求項10記載の肉製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−539924(P2010−539924A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526831(P2010−526831)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【国際出願番号】PCT/KR2008/005724
【国際公開番号】WO2009/041788
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(508139664)シージェイ チェイルジェダン コーポレーション (12)
【Fターム(参考)】