説明

金型中子製造方法および金型中子

【課題】採液流路を有するプラスチック製の穿刺用針の成形に用いるための金型中子を精度よく製造する。
【解決手段】基板1上にネガ型のフォトレジストを塗布して露光・現像することにより、採液流路に対応させてレジスト凸部4を形成する。レジスト凸部4を覆うようにポジ型のフォトレジストを塗布して露光・現像し、レジスト凸部4を囲むように土手状部12を形成することにより、凹型8を形成する。凹型8により、レジスト凸部4および土手状部12を反転させた転写型を形成する。この転写型により、レジスト凸部4および土手状部12を転写して金型中子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採液流路を有するプラスチック製の穿刺用針の成形に用いるための金型中子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の穿刺用針としては、従来、金属製のものが多用されている(例えば、特許文献1参照)。ところが、金属製の穿刺用針だと、針の形状に制約が生じるため、穿刺時の痛みを十分には軽減できないばかりか、大量消費されるため、その廃棄方法が社会問題になっている。
【0003】
そこで、こうした問題に対処すべく、プラスチック製の穿刺用針が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007−38021号公報
【特許文献2】特開2002−172169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、穿刺時の痛みを軽減するには、単に穿刺部の直径を細くするのみならず、微細で複雑な形状(蚊の口吻に似せた形状)に仕上げる必要がある。こうした微細で複雑な形状をプラスチック成形するための金型中子は、従来の機械加工では製造することができないという課題があった。
【0005】
このような課題を解決するため、フォトリソグラフィによって金型中子を製造することが考えられるが、成形品である穿刺用針が厚くなると、それに応じてフォトレジストを厚く塗布する必要があるため、露光深さが深い部位を所望の形状に高精度に成形することができない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、微細で複雑な形状の採液流路付き穿刺用針のプラスチック成形に適する金型中子をフォトリソグラフィによって製造する際に、成形品である穿刺用針が厚くなっても、露光深さが深い部位を高精度に成形することが可能な金型中子製造方法および金型中子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る第1の金型中子製造方法は、採液流路(25)を有するプラスチック製の穿刺用針(20)の成形に用いるための金型中子(7)の製造方法であって、基板(1)上にネガ型のフォトレジスト(2)を塗布し、このネガ型のフォトレジストを露光・現像することにより、前記採液流路に対応させてレジスト凸部(4)を形成する凸部形成工程と、前記凸部形成工程で形成された前記レジスト凸部を覆うようにポジ型のフォトレジスト(3)を塗布し、このポジ型のフォトレジストを露光・現像して前記レジスト凸部を囲むように土手状部(12)を形成することにより、凹型(8)を形成する凹型形成工程と、前記凹型形成工程で形成された前記凹型により、前記レジスト凸部および前記土手状部を反転させた転写型(5)を形成する転写型形成工程と、前記転写型形成工程で形成された前記転写型により、前記レジスト凸部および前記土手状部を転写して前記金型中子を製造する中子製造工程とを含む金型中子製造方法としたことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る金型中子(7)は、上記金型中子製造方法によって製造された金型中子としたことを特徴とする。
【0009】
なお、ここでは、本発明をわかりやすく説明するため、実施の形態を表す図面の符号に対応づけて説明したが、本発明が実施の形態に限定されるものでないことは言及するまでもない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微細で複雑な形状の採液流路付き穿刺用針のプラスチック成形に適する金型中子をフォトリソグラフィによって製造する際に、成形品である穿刺用針が厚くなっても、露光深さが深い部位を高精度に成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0012】
図1乃至図6は、本発明の実施の形態1に係る図である。
【0013】
この実施の形態1に係るプラスチック製の穿刺用針20は、図5に示すように、扇形平板状の基体部21を有しており、基体部21の表面には採液収容部26が凹設されている。また、基体部21には一直線状の穿刺部22が一体に突設されている。穿刺部22には、図5および図6に示すように、その先端に尖頭形状部24が形成されているとともに、左右両側にそれぞれ凹凸表面部23、23が形成されている。また、穿刺部22から基体部21にわたって2本の採液流路25、25が互いに平行に形成されている。採液流路25、25の一端は尖頭形状部24に達しているとともに、採液流路25、25の他端は採液収容部26に連通している。
【0014】
以上のような構成を有する穿刺用針20を射出成形する際には、それに先立ち、下記の手順で金型中子を製造する。
【0015】
まず、凸部形成工程で、図1に示すように、ガラス基板(基板)1上に、フォトリソグラフィにより、穿刺用針20の2本の採液流路25、25に対応させて2つのレジスト凸部4、4を形成する。
【0016】
それには、図1(a)に示すように、ガラス基板1上にネガ型のフォトレジスト2を所定の厚さT1(例えば、T1=50μm)だけ塗布する。このとき、ネガ型のフォトレジスト2の厚さT1は、穿刺用針20の採液流路25の深さに一致させる。次に、ネガ型のフォトレジスト2の特定の部位(穿刺用針20の2本の採液流路25、25に対応する部位)を露光・現像する。すると、ガラス基板1上に、図1(b)に示すように、穿刺用針20の2本の採液流路25、25に対応する形で2つのレジスト凸部4、4が形成される。
【0017】
こうしてガラス基板1上に2つのレジスト凸部4、4が形成されたところで、凹型形成工程に移行し、図2に示すように、フォトリソグラフィにより、ガラス基板1上に凹型8を形成する。
【0018】
それには、ガラス基板1上に、図2(a)に示すように、2つのレジスト凸部4、4を覆うようにポジ型のフォトレジスト3を所定の厚さT2(例えば、T2=120μm)だけ塗布する。このとき、ポジ型のフォトレジスト3の厚さT2は、穿刺用針20の穿刺部22の高さに一致させる。したがって、ポジ型のフォトレジスト3の厚さT2は、ネガ型のフォトレジスト2の厚さT1より厚くなる。
【0019】
次に、グレースケールマスク(図示せず)を用いて、ポジ型のフォトレジスト3の特定の部位(穿刺用針20の穿刺部22に対応する部位)を露光・現像して除去することにより、ガラス基板1上に、図2(b)に示すように、レジスト凸部4、4を囲むように2つの土手状部12、12を斜めに形成する。すると、ガラス基板1上に凹型8が形成される。このとき、ポジ型のフォトレジスト3の厚さT2は、ネガ型のフォトレジスト2の厚さT1より厚くので、土手状部12の高さはレジスト凸部4の高さより高くなる。なお、各レジスト凸部4は、ネガ型のフォトレジスト2から構成されているため、ポジ型のフォトレジスト3を露光・現像しても、溶解することなく元の形のまま残存する。
【0020】
こうしてガラス基板1上に凹型8が形成されたところで、転写型形成工程に移行し、図3に示すように、レジスト凸部4、4および土手状部12、12を反転させた紫外線硬化型樹脂製の転写型5を形成する。
【0021】
それには、図3(a)に示すように、液状の紫外線硬化型樹脂10を凹型8に滴下し、その上に白板ガラス6を載置して等分布荷重をかけることにより、紫外線硬化型樹脂10を均一に伸ばす。この状態で、水銀ランプ(図示せず)を用いて紫外線硬化型樹脂10に紫外線を照射して、紫外線硬化型樹脂10を硬化させる。その後、レジスト剥離液を用いて、図3(b)に示すように、ガラス基板1から白板ガラス6を剥離する。すると、白板ガラス6上に凸形状の転写型5が形成される。
【0022】
このとき、転写型5には、図3(b)に示すように、2つのレジスト凸部4、4を反転させた2つの凹部5a、5aが形成されるとともに、2つの土手状部12、12を反転させた2つの傾斜部5b、5bが形成される。
【0023】
こうして転写型5が形成されたところで、中子製造工程に移行し、図4に示すように、金型中子7を製造する。
【0024】
それには、白板ガラス6上の転写型5に対して、電鋳の電極となるニッケル膜をスパッタにより成膜した後、図4(a)に示すように、転写型5をニッケル電鋳浴に浸漬して所定の厚さT3(例えば、T3=2mm程度)のニッケル電鋳塊9を製造する。
【0025】
その後、図4(b)に示すように、転写型5からニッケル電鋳塊9を分離する。すると、ニッケル電鋳塊9には、転写型5の2つの凹部5a、5aを反転させた2つの凸部9a、9aが形成されるとともに、転写型5の2つの傾斜部5b、5bを反転させた2つの傾斜部9b、9bが形成される。このように、レジスト凸部4、4および土手状部12、12は、転写型5を経由してニッケル電鋳塊9に転写されることになる。
【0026】
さらに、このニッケル電鋳塊9を金型(モールドベース)に組み込めるようにするため、ニッケル電鋳塊9の外周および裏面に所定の加工を施す。すると、金型中子7が完成する。
【0027】
ここで、金型中子7の製造作業が終了する。こうして製造された金型中子7を金型に組み込むことにより、所定の立体形状をもつキャビティが形成される。
【0028】
以上のように、この実施の形態1では、ガラス基板1上にネガ型のフォトレジスト2を薄く塗布してレジスト凸部4、4を成形した後、その上にポジ型のフォトレジスト3を厚く塗布して土手状部12、12を成形するという2段階の成形工程が採用される。したがって、ガラス基板1上にフォトレジストを厚く塗布して凸部4、4および土手状部12、12を1段階で成形する場合と比べて、レジスト凸部4、4を高精度に成形することができる。その結果、穿刺用針20の採液流路25、25を精度よく形成することが可能となる。
[発明のその他の実施の形態]
【0029】
なお、上述した実施の形態1では、凹型形成工程において、グレースケールマスクを用いて土手状部12を斜めに形成する場合について説明したが、土手状部12を垂直に形成する場合はグレースケールマスクを用いる必要はない。
【0030】
また、上述した実施の形態1では、2本の採液流路25、25を有する穿刺用針20について説明したが、採液流路25の本数は、1本以上であれば何本でも構わない。
【0031】
さらに、上述した実施の形態1では、射出成形用の金型中子7について説明したが、射出成形以外のプラスチック成形(例えば、押し出し成形、ブロー成形、圧縮成形、真空成形など)に用いられる金型中子7に本発明を同様に適用することも可能である。
【0032】
さらにまた、上述した実施の形態1では、電鋳で金型中子7を製造する場合について説明したが、電鋳以外の手法(例えば、ドライエッチングによるレジスト形状の基材への形状転写によるガラス型、シリコン型など)を用いて金型中子7を製造することも可能である。
【0033】
また、上述した実施の形態1では、転写型5の材料として紫外線硬化型樹脂10を使用する場合について説明した。しかし、紫外線硬化型樹脂10以外の樹脂(例えば、熱硬化性樹脂、常温熱硬化性樹脂など)を代用または併用することもできる。さらに、樹脂以外の材料を代用または併用することも可能である。
【0034】
また、上述した実施の形態1では、基板としてガラス基板1を用いる場合について説明したが、ガラス基板1以外の基板を代用しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、血糖値測定に用いられる穿刺用針を射出成形する際に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態1に係る金型中子製造方法の凸部形成工程を示す断面図であって、(a)はガラス基板上にネガ型のフォトレジストが塗布された状態図、(b)はガラス基板上にレジスト凸部が形成された状態図である。
【図2】同実施の形態1に係る金型中子製造方法の凹型形成工程を示す断面図であって、(a)はガラス基板上にポジ型のフォトレジストが塗布された状態図、(b)はガラス基板上に凹型が形成された状態図である。
【図3】同実施の形態1に係る金型中子製造方法の転写型形成工程を示す断面図であって、(a)はガラス基板上に紫外線硬化型樹脂が滴下されて加圧された状態図、(b)は転写型が形成された状態図である。
【図4】同実施の形態1に係る金型中子製造方法の中子製造工程を示す断面図であって、(a)は転写型がニッケル電鋳浴に浸漬された状態図、(b)は転写型からニッケル電鋳塊が分離された状態図である。
【図5】穿刺用針の斜視図である。
【図6】図5に示す穿刺用針の穿刺部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1……ガラス基板(基板)
2……ネガ型のフォトレジスト
3……ポジ型のフォトレジスト
4……レジスト凸部
5……転写型
5a……凹部
5b……傾斜部
6……白板ガラス
7……金型中子
8……凹型
9……ニッケル電鋳塊
9a……凸部
9b……傾斜部
10……紫外線硬化型樹脂
12……土手状部
20……穿刺用針
21……基体部
22……穿刺部
23……凹凸表面部
24……尖頭形状部
25……採液流路
26……採液収容部
T1……ネガ型のフォトレジストの厚さ
T2……ポジ型のフォトレジストの厚さ
T3……ニッケル電鋳塊の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
採液流路を有するプラスチック製の穿刺用針の成形に用いるための金型中子の製造方法であって、
基板上にネガ型のフォトレジストを塗布し、このネガ型のフォトレジストを露光・現像することにより、前記採液流路に対応させてレジスト凸部を形成する凸部形成工程と、
前記凸部形成工程で形成された前記レジスト凸部を覆うようにポジ型のフォトレジストを塗布し、このポジ型のフォトレジストを露光・現像して前記レジスト凸部を囲むように土手状部を形成することにより、凹型を形成する凹型形成工程と、
前記凹型形成工程で形成された前記凹型により、前記レジスト凸部および前記土手状部を反転させた転写型を形成する転写型形成工程と、
前記転写型形成工程で形成された前記転写型により、前記レジスト凸部および前記土手状部を転写して前記金型中子を製造する中子製造工程と
を含むことを特徴とする金型中子製造方法。
【請求項2】
前記土手状部は、前記レジスト凸部より高いことを特徴とする請求項1に記載の金型中子製造方法。
【請求項3】
前記凹型形成工程において、
前記ポジ型のフォトレジストを前記ネガ型のフォトレジストより厚く塗布することを特徴とする請求項1または2に記載の金型中子製造方法。
【請求項4】
前記凹型形成工程において、
グレースケールマスクを用いて前記土手状部を斜めに形成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の金型中子製造方法。
【請求項5】
前記中子製造工程において、
前記金型中子をニッケル電鋳で製造することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の金型中子製造方法。
【請求項6】
前記転写型の材料は、紫外線硬化型樹脂であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の金型中子製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の金型中子製造方法によって製造されたことを特徴とする金型中子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−17853(P2010−17853A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177507(P2008−177507)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】