説明

金属ナノワイヤー及びその製造方法、並びに水性分散物及び透明導電体

【課題】透明性と導電性を維持でき、透明導電体を形成することができる金属ナノワイヤー及び金属ナノワイヤーの製造方法、並びに該金属ナノワイヤーを含有し、塗布後の保存安定性、及び分散安定性が向上した水性分散物、及び透明導電体の提供。
【解決手段】銀と、銀以外の金属とからなる金属ナノワイヤーであって、該銀以外の金属の標準電極電位が銀の標準電極電位よりも貴であり、長軸長さが1μm以上、短軸長さが300nm以下であることを特徴とする金属ナノワイヤーである。銀以外の金属の金属ナノワイヤーにおける含有量が、銀に対して0.5原子%〜30原子%である態様、などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化防止剤を用いなくても低抵抗な透明導電層を形成することができる金属ナノワイヤー及び金属ナノワイヤーの製造方法、並びに水性分散物及び透明導電体に関する。
【背景技術】
【0002】
長軸長さが1μm以上、短軸長さが100nm以下である金属ナノワイヤー水性分散物の製造方法として、ポリオール法を用いて調製された銀ナノワイヤーポリオール分散物を、遠心分離工程を経て溶媒置換し、水性分散物を製造する方法が提案されている(特許文献1及び2参照)。
また、特許文献2及び3には、金属ナノワイヤーを用いた透明導電体が提案されている。しかし、実条件での使用においては、Agの酸化に起因する抵抗値の増大が問題となっており、酸化防止剤を添加したり、オーバーコート層を設けることで解決を図っているが、酸化防止剤やオーバーコート層が導電性を持たないこと、有機物であるがゆえ、その効果が恒久的ではないことなどから、更なる改良が望まれているのが現状である。
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0056118号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0074316号明細書
【特許文献3】特開2004−196923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、透明性と導電性を維持でき、透明導電体を形成することができる金属ナノワイヤー及び金属ナノワイヤーの製造方法、並びに該金属ナノワイヤーを含有し、塗布後の保存安定性、及び分散安定性が向上した水性分散物、及び透明導電体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 銀と、銀以外の金属とからなる金属ナノワイヤーであって、該銀以外の金属の標準電極電位が銀の標準電極電位よりも貴であり、長軸長さが1μm以上、短軸長さが300nm以下であることを特徴とする金属ナノワイヤーである。
<2> 銀以外の金属の金属ナノワイヤーにおける含有量が、銀に対して0.5原子%〜30原子%である前記<1>に記載の金属ナノワイヤーである。
<3> 銀以外の金属が、金、パラジウム、イリジウム、白金及びオスミウムから選択される少なくとも1種である前記<1>から<2>のいずれかに記載の金属ナノワイヤーである。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属ナノワイヤーを製造する方法であって、
銀ナノワイヤー水分散液に銀以外の金属塩水溶液を添加して酸化還元反応を行い、更に脱塩処理を行うことを特徴とする金属ナノワイヤーの製造方法である。
<5> 銀以外の金属が、銀により還元されて生成される前記<4>に記載の金属ナノワイヤーの製造方法である。
<6> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属ナノワイヤーを含有することを特徴とする水性分散物である。
<7> 長軸長さが10μm以上の金属ナノワイヤーを0.01質量%以上含有する前記<6>に記載の水性分散物である。
<8> 前記<6>から<7>のいずれかに記載の水性分散物により形成された透明導電層を有する透明導電体である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、透明性と導電性を維持でき、透明導電体を形成することができる金属ナノワイヤー及び金属ナノワイヤーの製造方法、並びに該金属ナノワイヤーを含有し、塗布後の保存安定性、及び分散安定性が向上した水性分散物、及び透明導電体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(金属ナノワイヤー)
本発明の金属ナノワイヤーは、銀、及び標準電極電位が銀の標準電極電位よりも貴である銀以外の金属からなる。
前記金属ナノワイヤーは、その長軸長さが1μm以上であり、短軸長さが300nm以下である。
【0008】
前記金属ナノワイヤーの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば円柱状、直方体状、断面が多角形となる柱状等の任意の形状をとることができる。
前記金属ナノワイヤーの長軸長さは、1μm以上であり、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。前記金属ナノワイヤーの短軸長さは、300nm以下であり、250nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。前記金属ナノワイヤーの長軸長さが、1μm未満であると、透明導電体を塗布により作製した場合において、金属同士の接合点が減少し、導通が取りにくくなり、その結果、抵抗が高くなってしまうことがある。一方、前記金属ナノワイヤーの短軸長さが、300nmを超えると、透明導電体としての特性、主に導電性と保存安定性は良化するが、光散乱によるヘイズが非常に目立ち、透明性が失われるため不都合である。
ここで、前記金属ナノワイヤーの長軸及び短軸の各々の平均長さは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、TEM像を観察することにより求めることができる。
【0009】
前記金属ナノワイヤーを形成する銀以外の金属としては、標準電極電位が銀の標準電極電位よりも貴である銀以外の金属であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば金、パラジウム、イリジウム、白金、オスミウム、などが挙げられる。これらの中でも、パラジウム、イリジウム、金、白金が特に好ましい。
前記金属の標準電極電位は「化学便覧改訂5版 基礎編II 581頁〜584頁」に記載されているので参考にできる。前記標準電極電位は、同一金属であっても金属化合物の種類や共存する化合物種によって異なるので、金属種に対応して適宜選択して使用することができる。
前記金属ナノワイヤーにおける銀以外の金属の含有量は、導電性及び分散安定性の観点から、銀に対して0.5原子%〜30原子%であることが好ましく、1.0原子%〜25原子%であることがより好ましい。前記銀以外の金属の含有量が、30原子%を超えると、導電性の低下、導電体としたとき透明性の悪化が生じることがあり、0.5原子%未満であると、保存安定性において問題が生じることがある。
前記金属ナノワイヤーにおける各金属原子の含有量は、例えば試料を酸などにより溶解後、ICP(高周波誘導結合プラズマ)により測定することができる。
【0010】
前記銀以外の金属の性状、組成は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば金属単体、酸化物、後述の無機塩、有機酸(又はその塩)から形成される有機酸物などが挙げられる。
【0011】
前記銀以外の金属は、金属ナノワイヤー中に含有されていてもよく、又は金属ナノワイヤーを被覆していてもよい。より好ましくは、金属ナノワイヤーを被覆していることである。前記金属ナノワイヤーを被覆している場合、銀以外の金属は、必ずしもコアとなる銀又は銀合金の全表面積を被覆している必要はなく、その一部を被覆していればよい。
【0012】
本発明において、前記金属ナノワイヤーの平均粒径(長軸、短軸の各々の長さ)及び銀以外の金属の含有量は、後述する金属ナノワイヤーの製造方法で、金属塩、無機塩、有機酸(又はその塩)の濃度、粒子形成時の溶媒種、還元剤の濃度、それぞれの薬品の添加速度や温度などを適宜選択することにより制御することができる。
【0013】
(金属ナノワイヤーの製造方法)
本発明の金属ナノワイヤーの製造方法は、本発明の前記金属ナノワイヤーを製造する方法であって、銀ナノワイヤー水分散液に銀以外の金属塩水溶液を添加して酸化還元反応を行い、更に脱塩処理を行う。
【0014】
前記銀以外の金属は、銀により還元されて生成されることが好ましい。
前記還元としては、銀ナノワイヤーと金属塩を含む溶媒中で加熱することにより行う。前記溶媒を加熱することにより、銀により、金属塩が還元される。更に目的に応じて適宜、光還元、還元剤添加、化学還元法などを組み合わせてもよい。
前記溶媒の加熱方法としては、例えばオイルバス、アルミブロックヒーター、ホットプレート、オーブン、赤外線ヒーター、ヒートローラ、蒸気(熱気)、超音波、マイクロ波などを用いて行うことができる。加熱温度は35℃〜200℃が好ましく、45℃〜180℃がより好ましい。
前記光還元としては、例えば紫外線、可視光線、電子線、赤外線などの照射が挙げられる。
前記還元剤添加に用いる還元剤としては、例えば水素ガス、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、ヒドラジン、アスコルビン酸、アミン類、チオール類、ポリオール類、などが挙げられる。なお、化学還元法としては、電気分解法を用いて行うこともできる。
【0015】
前記銀以外の金属塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硝酸塩、塩化物、燐酸塩、硫酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、アンミン錯体、クロロ錯体、有機酸塩などが挙げられる。これらの中でも、水に対する溶解度の大きい硝酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、アンミン錯体、クロロ錯体、有機酸塩が特に好ましい。
【0016】
前記有機酸、及び有機酸塩を形成する有機酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、酪酸、フマル酸、乳酸、シュウ酸、グリコール酸、アクリル酸、エチレンジアミン四酢酸、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸、エチレンジアミン二酢酸、ジアミノプロパノール四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸、など挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、有機カルボン酸又はその塩が特に好ましい。
前記有機酸の塩としては、例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられ、アンモニウム塩が特に好ましい。
【0017】
前記水性分散物は、有機酸及びその塩のいずれかを全固形分に対し0.01質量%〜10質量%含有することが好ましく、0.05質量%〜5質量%がより好ましい。前記含有量が0.01質量%未満であると、分散安定性が悪くなることがあり、10質量%を超えると、導電性、耐久性が低下することがある。
前記有機酸又はその塩の含有量は、例えば熱分析(TG)などにより測定することができる。
【0018】
なお、銀以外の金属塩水溶液には、後述の水と混和する有機溶媒を含有してもよい。
前記脱塩処理は、金属ナノワイヤーを形成した後、限外ろ過、透析、ゲルろ過、デカンテーション、遠心分離などの手法により行うことができる。
【0019】
(水性分散物)
本発明の水性分散物は、分散溶媒中に本発明の前記金属ナノワイヤーを含有してなる。
本発明の前記金属ナノワイヤーの前記水性分散物における含有量は、0.1質量%〜99質量%が好ましく、0.3質量%〜95質量%がより好ましい。前記含有量が、0.1質量%未満であると、製造時、乾燥工程における負荷が多大となり、99質量%を超えると、粒子の凝集が起こりやすくなることがある。
この場合、長軸長さが10μm以上の金属ナノワイヤーを0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上含有することが、より少ない塗布銀量で導電性を高くすることができ、透明性との両立の観点で特に好ましい。
【0020】
本発明の水性分散物における分散溶媒としては、主として水が用いられ、水と混和する有機溶媒を50容量%以下の割合で併用することができる。
前記有機溶媒としては、例えば、沸点が50℃〜250℃、より好ましくは55℃〜200℃のアルコール系化合物が好適に用いられる。このようなアルコール系化合物を併用することにより、塗布工程での塗り付け良化、乾燥負荷の低減をすることができる。
前記アルコール系化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばメタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1−エトキシ−2−プロパノール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−ジメチルアミノイソプロパノール、などが挙げられ、好ましくはエタノール、エチレングリコールである。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明の水性分散物は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ハロゲン化物イオン等の無機イオンを含まないことが好ましい。
前記水性分散物の電気伝導度は1mS/cm以下が好ましく、0.1mS/cm以下がより好ましく、0.05mS/cm以下が更に好ましい。
前記水性分散物の20℃における粘度は、0.5mPa・s〜100mPa・sが好ましく、1mPa・s〜50mPa・sがより好ましい。
【0022】
本発明の水性分散物には、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、界面活性剤、重合性化合物、酸化防止剤、硫化防止剤、腐食防止剤、粘度調整剤、防腐剤などを含有することができる。
【0023】
前記腐食防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、アゾール類が好適である。該アゾール類としては、例えばベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾテトラゾール、(2−ベンゾチアゾリルチオ)酢酸、3−(2−ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸、及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、並びにアミン塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。該腐食防止剤を含有することで、一段と優れた防錆効果を発揮することができる。前記腐食防止剤は直接水分散物中に、適した溶媒で溶解した状態、又は粉末で添加するか、後述する透明導電体を作製後に、これを腐食防止剤浴に浸すことで付与することができる。
【0024】
本発明の水性分散物は、インクジェットプリンター用水性インク及びディスペンサー用水性インクにも好ましく用いることができる。
インクジェットプリンターによる画像形成用途において、水性分散物を塗設する基板としては、例えば紙、コート紙、表面に親水性ポリマーなどを塗設したPETフイルムなどが挙げられる。
【0025】
(透明導電体)
本発明の透明導電体は、本発明の前記水性分散物により形成される透明導電層を有する。前記透明導電体の製造方法は、本発明の前記水性分散物を、基板上へ塗設し、乾燥する。
以下、前記透明導電体の製造方法の説明を通じて、本発明の透明導電体の詳細についても明らかにする。
【0026】
前記水性分散物を塗設する基板としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、透明導電体用基板には、以下のものが挙げられるが、これらの中でも、製造適性、軽量性、可撓性などの点からポリマーフイルムが好ましく、PET、TACフイルムが特に好ましい。
(1)石英ガラス、無アルカリガラス、結晶化透明ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、サファイア等のガラス
(2)ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、PET、PEN、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン、スチレン系樹脂、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂
(3)エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂
【0027】
前記基板材料としては、所望により併用してもよい。用途に応じてこれらの基板材料から適宜選択して、フイルム状等の可撓性基板、又は剛性のある基板とすることができる。
前記基板の形状としては、円盤状、カード状、シート状等のいずれの形状であってもよい。また、三次元的に積層されたものでもよい。更に基板のプリント配線を行う箇所にアスペクト比1以上の細孔、細溝を有していてもよく、これらの中に、インクジェットプリンター又はディスペンサーにより本発明の水性分散物を吐出することもできる。
【0028】
前記基板の表面は親水化処理を施すことが好ましい。また、前記基板表面に親水性ポリマーを塗設したものが好ましい。これらにより、水性分散物の基板への塗布性、及び密着性が良化する。
【0029】
前記親水化処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば薬品処理、機械的粗面化処理、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理などが挙げられる。これらの親水化処理により表面の表面張力を30dyne/cm以上にすることが好ましい。
【0030】
前記基板表面に塗設する親水性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばゼラチン、ゼラチン誘導体、ガゼイン、寒天、でんぷん、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸共重合体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デキストラン、などが挙げられる。
前記親水性ポリマー層の層厚(乾燥時)は、0.001μm〜100μmが好ましく、0.01μm〜20μmがより好ましい。
前記親水性ポリマー層には、硬膜剤を添加して膜強度を高めることが好ましい。前記硬膜剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド等のアルデヒド化合物;ジアセチル、シクロペンタンジオン等のケトン化合物;ジビニルスルホン等のビニルスルホン化合物;2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン等のトリアジン化合物;米国特許第3,103,437号明細書等に記載のイソシアネート化合物、などが挙げられる。
前記親水性ポリマー層は、上記化合物を水などの適当な溶媒に溶解又は分散させて塗布液を調製し、スピンコート、ディップコート、エクストルージョンコート、バーコート、ダイコート等の塗布法を利用して親水化処理した基板表面に塗布することにより形成することができる。更に、基板と上記親水性ポリマー層の間に、更なる密着性の改善など必要により下引き層を導入してもよい。前記乾燥温度は120℃以下が好ましく、30℃〜100℃がより好ましい。
【0031】
本発明においては、透明導電体を形成後に、腐食防止剤浴に通すことも好ましく行うことができ、これにより、更に優れた腐食防止効果を得ることができる。
【0032】
−用途−
本発明の透明導電体は、例えばタッチパネル、ディスプレイ用帯電防止、電磁波シールド、有機又は無機ELディスプレイ用電極、その他フレキシブルディスプレイ用電極・帯電防止、太陽電池用電極、各種デバイスなどに幅広く適用される。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例において、「金属ナノワイヤーの平均粒径(長軸・短軸の長さ)」、「金属ナノワイヤーにおける銀及び銀以外の金属の含有量」、「水分散物の粘度」、及び「塗布物の透過率」「塗布物の表面抵抗」は、以下のようにして測定した。
【0034】
<金属ナノワイヤーの平均粒径(長軸・短軸の長さ)>
金属ナノワイヤーの平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子株式会社製、JEM−2000FX)を用い、TEM像を観察することにより求めた。
【0035】
<金属ナノワイヤーにおける銀及び銀以外の金属の含有量>
金属ナノワイヤーにおける銀及び銀以外の金属の含有量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ;島津製作所製、ICPS−1000IV)により測定した。
【0036】
<水分散物の粘度>
CBCマテリアルズ社製VISCOMATE VM−1G により、25℃での粘度を測定した。
【0037】
(実施例1)
<金属ナノワイヤー水分散物の調製>
−試料101の作製−
エチレングリコール30mLを三口フラスコ内に入れ160℃に加熱した。その後、36mMのPVP(K−30)、3μMのアセチルアセトナート鉄、60μMの塩化ナトリウムエチレングリコール溶液18mlと、24mMの硝酸銀エチレングリコール溶液18mlを毎分1mlの速度で添加した。160℃で60分加熱後室温まで冷却した。水を加えて遠心分離し、伝導度が50μS/cm以下になるまで精製し、水分散物を作製した。
得られた銀ナノ粒子は短軸長さ50nm〜110nm、長軸長さ10μm〜60μmのワイヤー状であった。
得られた銀ナノワイヤー水分散物における銀の含有量は、銀22質量%であった。得られた水性分散物を乾燥させて熱分析(TG)(理学電機株式会社製、Thermo Plus2)したところ、550℃までの加熱による質量減は1.8%であった。この水分散物を試料101とした。
得られた試料101の金属ナノワイヤーは短軸長さ50nm〜110nm、長軸長さ10μm〜60μmであった。
【0038】
−試料102の作製−
試料101において、硝酸パラジウム水溶液0.01Mを、銀に対して0.05原子%となるように添加し、90℃で1時間加熱を行い、室温まで冷却後、伝導度50μS/cm以下になるまで水で精製した。得られた水分散物を試料102とした。
得られた試料102の金属ナノワイヤーは短軸長さ50nm〜106nm、長軸長さ9μm〜59μmであった。
【0039】
−試料103の作製−
試料101において、硝酸パラジウム水溶液0.01Mを、銀に対して0.6原子%となるように添加し、90℃で1時間加熱を行い、室温まで冷却後、伝導度50μS/cm以下になるまで水で精製した。得られた水分散物を試料103とした。
得られた試料103の金属ナノワイヤーは短軸長さ49nm〜110nm、長軸長さ9μm〜58μmであった。
【0040】
−試料104の作製−
試料101において、硝酸パラジウム水溶液0.01Mを、銀に対して12原子%となるように添加し、90℃で1時間加熱を行い、室温まで冷却後、伝導度50μS/cm以下になるまで水で精製した。得られた水分散物を試料104とした。
得られた試料104の金属ナノワイヤーは短軸長さ50nm〜107nm、長軸長さ10μm〜59μmであった。
【0041】
−試料105の作製−
試料101において、硝酸パラジウム水溶液0.01Mを、銀に対して28原子%となるように添加し、90℃で1時間加熱を行い、室温まで冷却後、伝導度50μS/cm以下になるまで水で精製した。得られた水分散物を試料105とした。
得られた試料105の金属ナノワイヤーは短軸長さ49nm〜112nm、長軸長さ8μm〜58μmであった。
【0042】
−試料106の作製−
試料101において、硝酸パラジウム水溶液0.01Mを、銀に対して34原子%となるように添加し、90℃で1時間加熱を行い、室温まで冷却後、伝導度50μS/cm以下になるまで水で精製した。得られた水分散物を試料106とした。
得られた試料106の金属ナノワイヤーは短軸長さ46nm〜106nm、長軸長さ8μm〜54μmであった。
【0043】
−試料107の作製−
試料101において、溶媒をエタノールで置換し、0.02Mのドデカンチオールエタノール(thiol)溶液を加えた後、更に水へ溶媒置換し、得られた水分散物を試料107とした。
得られた試料107の金属ナノワイヤーは短軸長さ50nm〜110nm、長軸長さ10μm〜60μmであった。
【0044】
−試料108の作製−
試料101において、PVPの乾燥質量が銀と同質量となるようにPVP(K−30)水溶液を添加し、得られた水分散物を試料108とした。
得られた試料108の金属ナノワイヤーは短軸長さ50nm〜110nm、長軸長さ10μm〜60μmであった。
【0045】
得られた各水分散物の粘度を測定したところ、すべて10mPa・s(25℃)以下であった。また、各水分散物について、XRD測定(理学電機株式会社製、RINT2500)したところ、すべての試料において金属銀の回折パターンを得た。
【0046】
次に、市販の2軸延伸熱固定済の厚さ100μmポリエチレンテレフタレート(PET)基板に8W/m・分のコロナ放電処理を施し、下記組成の下引き層を乾燥厚みが0.8μmになるように塗設した。
−下引き層の組成−
ブチルアクリレート(40質量%)、スチレン(20質量%)、及びグリシジルアクリレート(40質量%)の共重合体ラテックスにヘキサメチレン−1,6−ビス(エチレンウレア)を0.5質量%含有したもの
【0047】
次に、下引き層の表面に8W/m・分のコロナ放電処理を施して、ヒドロキシエチルセルロースを親水性ポリマー層として乾燥厚みが0.2μmになるように塗設した。
次に、ドクターコーターを用いて、試料101〜108各水分散物を親水性ポリマー層上に塗布し、乾燥した。塗布銀量を蛍光X線分析装置(SII社製、SEA1100)にて測定し、0.02g/mとなるように塗布量を調節した。
【0048】
得られた塗布物について、以下のようにして諸特性を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
<塗布物の透過率>
島津製作所製UV−2550を用いて、400nm〜800nmの透過率を測定した。
【0050】
<塗布物の表面抵抗>
三菱化学株式会社製Loresta−GP MCP−T600を用いて表面抵抗を測定した。
【0051】
<水性分散物の安定性>
マグネティックスターラーにて攪拌の後、1辺5cm、高さ30cmの透明アクリル柱へ水分散液を移し、室温で3時間静置させた。水面から深さ2cmのところから液をサンプリングし、紫外可視透過吸収スペクトル(島津製作所製、UV−2550)を測定することで、分散安定性評価を行った。ベースラインは水を入れた光学セルを100%とした。分散安定性が高いサンプルは、水面近くにおいても透過率が低く、分散安定の低いサンプルにおいては、沈降が著しく起こるため、水面近くの透過率が高くなった。
評価基準は以下の通りである。なお、分散安定性は数字が大きいほど優れていることを示す。
〔評価基準〕
1: 透過率が90%以上で、沈降が著しく、実用上問題あるレベルである。
2: 透過率が70%以上90%未満で、沈降が確認でき、実用上問題あるレベルである。
3: 透過率が50%以上70%未満で、沈降が若干見られるが、実用上問題ないレベルである。
4: 透過率が30%以上50%未満で、沈降がほとんどなく、実用上問題ないレベルである。
5: 透過率が0%以上30%未満で、沈降が確認できず、実用上問題ないレベルである。
【0052】
<塗布物の保存安定性>
試料101〜108の水分散物を用いて、前述と同様の方法で塗布サンプルを作製した。60℃、湿度80%RHの空気中にて2週間放置し、放置後の表面抵抗測定により、塗布物の保存安定性の比較を行った。
【0053】
【表1】

表1の結果から、本発明の試料102〜106では、透明性と導電性を維持したまま、塗布後の保存安定性、更には溶液状態での分散安定性が向上したことが分かった。
また、試料104の塗布サンプルをベンゾトリアゾール0.2質量%水溶液に浸漬させ、純水で洗浄し、乾燥させた後、上記評価を行った結果、試料104と同等程度の透過率、導電性(作製直後、経時後)を示す試料が得られた。また、試料104に対し、硝酸パラジウムを塩化金酸、又は塩化白金酸ナトリウムに変えて作製した試料においても、試料104と同等の結果を示すことが分かった。
【0054】
(比較例1)
米国特許出願公開第2007/0074316号明細書の実施例1〜4及び8に従って、銀ナノワイヤーの合成、水分散物の作製、及びフイルム塗布物の作製を行った。
得られた銀ナノワイヤーは短軸長さ60nm〜200nm、長軸長さ数μm〜40μmであった。
塗布物の表面抵抗は数100Ω/□であり、良好な導電性を持っていたが、分散液の沈降がひどく、また、塗布物の表面抵抗は、実施例1と同条件の経時後において、3400Ω/□であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の金属ナノワイヤー及び水性分散物は、例えばタッチパネル、ディスプレイ用帯電防止、電磁波シールド、有機又は無機ELディスプレイ用電極、その他フレキシブルディスプレイ用電極・帯電防止、太陽電池用電極、各種デバイスなどに幅広く適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀と、銀以外の金属とからなる金属ナノワイヤーであって、該銀以外の金属の標準電極電位が銀の標準電極電位よりも貴であり、長軸長さが1μm以上、短軸長さが300nm以下であることを特徴とする金属ナノワイヤー。
【請求項2】
銀以外の金属の金属ナノワイヤーにおける含有量が、銀に対して0.5原子%〜30原子%である請求項1に記載の金属ナノワイヤー。
【請求項3】
銀以外の金属が、金、パラジウム、イリジウム、白金及びオスミウムから選択される少なくとも1種である請求項1から2のいずれかに記載の金属ナノワイヤー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の金属ナノワイヤーを製造する方法であって、
銀ナノワイヤー水分散液に銀以外の金属塩水溶液を添加して酸化還元反応を行い、更に脱塩処理を行うことを特徴とする金属ナノワイヤーの製造方法。
【請求項5】
銀以外の金属が、銀により還元されて生成される請求項4に記載の金属ナノワイヤーの製造方法。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載の金属ナノワイヤーを含有することを特徴とする水性分散物。
【請求項7】
長軸長さが10μm以上の金属ナノワイヤーを0.01質量%以上含有する請求項6に記載の水性分散物。
【請求項8】
請求項6から7のいずれかに記載の水性分散物により形成された透明導電層を有する透明導電体。

【公開番号】特開2009−215594(P2009−215594A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59527(P2008−59527)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】