説明

金属ナノ粒子触媒及び酸素酸化方法

【課題】水を媒体とする環境調和型の酸素酸化反応方法により、アルコールからその酸化生成物を合成する酸化反応方法及びその触媒を提供する。
【解決手段】金属ナノ粒子を触媒とする、酸素を酸化剤に用いた酸化反応方法において、金属ナノ粒子を、両親媒性高分子を水に溶解させた水溶液に分散させた、安定な金属ナノ粒子分散液を触媒及び媒体として用いることで、低温で、かつ水を媒体に、温和な条件で、選択的に有機化合物を酸化させる有機化合物の酸化反応方法、及び上記金属ナノ粒子分散液からなる酸化反応用触媒。
【効果】水を媒体にしながら、温和な条件で、選択的に、酸化生成物を得ることができ、しかも、触媒は、リサイクル可能であり、環境に優しく、廃棄物を限りなく抑制することができ、分離も容易である、省エネルギーで低環境負荷型の酸化方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子を触媒とする、酸素を酸化剤に用いた酸化反応方法に関するものであり、更に詳しくは、金等の金属ナノ粒子を、両親媒性高分子を水に溶解させた水溶液に分散させた触媒、及び該触媒を用いて、酸素を酸化剤に用いることで、選択的に有機化合物を酸化させ、その酸化生成物を製造する方法に関するものである。
【0002】
本発明は、例えば、アルコールを酸化させ、対応するアルデヒド、ケトン、及びカルボン酸を合成する際に、安価で、空気中に含まれる酸素を酸化剤にして、温和な条件で、これらの生成物を、高収率、高選択的に得ることを可能とする、金属ナノ粒子の水分散液からなる高活性の触媒で、かつ媒体の役目を果たす酸化反応用触媒、及び金属ナノ粒子の分散液を用いて、金属が溶解することがなく、リサイクルが可能で、かつ有機媒体を用いない、省エネルギーで環境調和型の酸化反応に関する新技術を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
金属ナノ粒子、特に、金ナノ粒子は、高い活性を持つ触媒の一つとして、化学工業では、例えば、一酸化炭素の酸化反応(非特許文献1〜4)、α,β−不飽和アルデヒドの酸化反応(非特許文献5〜)、アルケンの酸化反応(非特許文献7〜)、アルコールの酸化反応(非特許文献9〜)、及び過酸化水素水の合成(非特許文献11,12)等で、非常に重要な役割を担っている。
【0004】
金のナノ粒子を用いたアルコールの酸化反応は、これまでも、数多くの研究開発が盛んに行われているが、ナノ粒子には、容易に凝集し、触媒となり得る表面積が著しく小さくなり、その活性が低下し易いという問題がある。そのため、アルミナ、シリカ、チタニア等の金属酸化物を担体にした、金ナノ粒子触媒が開発されている。しかし、これらの触媒も、不均一性触媒であることから、均一系触媒と比較して、基質と触媒との接触機会が少なく、反応効率も低い。
【0005】
一方、担体として、高分子を用いる方法も報告されている(特許文献1)。この方法は、スチレンポリマーに金クラスターを担持させた触媒を用いるものであり、不均一触媒として、有機媒体中で酸化反応を行うことを目的に触媒が調製されている。
【0006】
一方、近年の環境問題の高まりから、脱有機溶媒を目指した有機合成方法の研究開発が盛んであり、例えば、超臨界二酸化炭素を用いたアルコールの酸化、水中で金担持金属酸化物触媒を用いた反応等が研究されている。
【0007】
従来、工業的な酸化反応としては、金属触媒を用いる脱水素反応で、メタノールからアセトアルデヒドを合成する方法(Carbide & Carbon Corp.)や、酸素存在下において、金属触媒で、酸化脱水素反応を行う方法等がある。これらは、反応温度が270℃〜300℃で、転化率も、副生成物を抑えるために、30%〜50%に留めている。また、酸素存在下では、450℃〜550℃の範囲で、酸素との燃焼を継続させながら行う触媒反応により、アセトアルデヒドが合成されているが、いずれも、高エネルギー負荷を要する反応方法であった。
【0008】
【特許文献1】特開2007−237116号公報
【非特許文献1】M.Haruta,N.Yamada,T.Kobayashi,S.Iijima,J.Catal.1989,115,301−309
【非特許文献2】F.Moreau,G.C.Bond,A.O.Taylor,J.Catal.2005,231,105−114
【非特許文献3】J.Guzman,S.Carrettin,J.C.Fierro−Gonzalez,Y.Hao,B.C.Gates,A.Corma,Angew.Chem.Int.Ed.2005,44,4778−4781
【非特許文献4】C.M.Yang,M.Kalwei,F.Schuth,K.J.Chao,Appl.Catal.A 2003,254,289−296
【非特許文献5】J.E.Bailie,G.J.Hutchings,Chem.Commun.1999,2151−2152
【非特許文献6】J.E.Bailie,H.A.Abdullah,J.A.Anderson,C.H.Rochester,N.V.Richardson,N.Hodge,J.G.Zhang,A.Burrows,C.J.Kiely,G.J.Hutchings,Phys.Chem.Chem.Phys.2001,3,4113−4121
【非特許文献7】B.Chowdhury,J.J.Bravo−Suarez,M.Date,S.Tsubota,M.Haruta,Angew.Chem.Int.Ed.2006,45,412−415
【非特許文献8】M.D.Hughes,Y.J.Xu,P.Jenkins,P.McMorn,P.Landon,D.I.Enache,A.F.Carley,G.A.Attard,G.J.Hutchings,F.King,E.H.Stitt,P.Johnston,K.Griffin,C.J.Kiely,Nature 2005,437,1132−1135
【非特許文献9】F.Porta,L.Prati,J.Catal.2004,224,397−403
【非特許文献10】A.Abad,P.Concepcion,A.Corma,H.Garcia,Angew.Chem.Int.Ed.2005,44,4066−4069
【非特許文献11】P.Landon,P.J.Collier,A.F.Carley,D.Chadwick,A.J.Papworth,A.Burrows,C.J.Kiely,G.J.Hutchings,Phys.Chem.Chem.Phys.2003,5,1917−1923
【非特許文献12】J.K.Edwards,B.E.Solsona,P.Landon,A.F.Carley,A.Herzing,C.J.Kiely,G.J.Hutchings,J.Catal.2005,236,69−79
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術における問題点を解決し得ると共に、省エネルギーで環境低負荷型の、水中で、酸素を酸化剤としながらも、温和な条件で、アルコール類を効率的に酸化させるための触媒を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた。
【0010】
その結果、本発明者らは、金属ナノ粒子を、両親媒性高分子の水溶液に分散させることで、金属ナノ粒子との不均一触媒反応であるのにも関わらず、均一触媒反応の様に、酸化反応を起こすことができ、しかも、その水溶液中の金属ナノ粒子は、何回、反応に使っても、また、加熱しても、安定であり、再利用することができることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、通常、不安定な金属ナノ粒子を、両親媒性高分子の水溶液に分散させることで、安定で、しかも、活性の高い触媒として、また、媒体としても利用可能な酸化反応用触媒を提供すること、を目的とするものであり、また、例えば、アルコールの酸素酸化反応では、温和な条件で、特に加圧することなく、酸素をバブリングさせる程度の簡便な方法で、効率の良い反応を行うことを可能とし、従来のエネルギー負荷型の酸化反応に代替し得る省エネルギーの産業生産技術として実用化可能な酸化反応方法を提供することを目的とするものである。
【0012】
更に、本発明は、有機媒体を用いず、水を媒体とし、酸素を酸化剤とする、温和で、省エネルギーで、環境に優しく、しかも、廃棄物を限りなく排出しない、新しい酸化反応方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)金属ナノ粒子を、両親媒性高分子の水溶液に分散させて、ナノ粒子を安定化させた触媒であり、酸素を酸化剤とする酸化反応に用いるための触媒であって、上記両親媒性高分子が、ポリアルキレンオキシド型ブロック共重合体であることを特徴とする有機化合物の酸素酸化反応用触媒。
(2)両親媒性高分子が、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド型ブロック共重合体で、分子量が1000から10000である、前記(1)に記載の酸化反応用触媒。
(3)金属ナノ粒子が、金のナノ粒子であり、その粒子の大きさが、2ナノメートル以上100ナノメートル以下、ないしは2ナノメートル以上20ナノメートル以下の何れかの粒子を含む、前記(1)又は(2)に記載の酸化反応用触媒。
(4)上記触媒に、炭酸ナトリウムを含有する、前記(1)から(3)のいずれかに記載の酸化反応用触媒。
(5)酸化反応が、アルコールの酸化により、ケトン、カルボン酸、又はエステル体を製造する反応である、前記(1)から(4)のいずれかに記載の酸化反応用触媒。
(6)前記(1)から(4)のいずれかに記載の酸化反応用触媒を用いて、酸素を酸化剤とする酸化反応により有機化合物を酸素酸化することを特徴とする酸化反応方法。
(7)酸化反応が、アルコールの酸化により、ケトン、カルボン酸、又はエステル体を製造する酸化反応である、前記(6)に記載の酸化反応方法。
(8)前記(1)から(4)のいずれかに記載の酸化反応用触媒を用いて、酸素を酸化剤として、アルコールの酸化により、対応するケトン、カルボン酸又はエステル体を製造することを特徴とするアルコール酸化生成物の製造方法。
【0014】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、金属ナノ粒子を、両親媒性高分子の水溶液に分散させて、ナノ粒子を安定化させた触媒であり、酸素を酸化剤とする酸化反応に用いるための触媒であって、上記両親媒性高分子が、ポリアルキレンオキシド型ブロック共重合体であることを特徴とする有機化合物の酸素酸化反応用触媒、である。
【0015】
また、本発明は、上記の酸化反応用触媒を用いて、酸素を酸化剤とする酸化反応により有機化合物を酸素酸化することを特徴とする酸化反応方法、である。更に、本発明は、上記の酸化反応用触媒を用いて、酸素を酸化剤として、アルコールの酸化により、対応するケトン、カルボン酸又はエステル体を製造することを特徴とするアルコール酸化生成物の製造方法、である。
【0016】
本発明では、両親媒性高分子が、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド型ブロック共重合体で、分子量が1000から10000であること、金属ナノ粒子が、金のナノ粒子であり、その粒子の大きさが、2ナノメートル以上100ナノメートル以下、ないしは2ナノメートル以上20ナノメートル以下の何れかの粒子を含むこと、上記触媒に、炭酸ナトリウムを含有すること、酸化反応が、アルコールの酸化により、ケトン、カルボン酸、又はエステル体を製造する反応であること、を好ましい実施の態様としている。
【0017】
本発明は、両親媒性高分子の水溶液に安定に分散させた金属ナノ粒子からなる触媒を、酸素を用いる酸化反応に適応することで、非常に高活性な触媒能を発揮させて、温和な条件でありながら、特に加圧することなく、酸素をバブリングさせる程度で、効率の良い反応を行うことを可能とし、従来の酸化反応に代替し得る省エネルギーの産業生産技術として、実用化可能な方法を提供するものである。
【0018】
本発明は、基本的には、上記安定化されたナノ粒子を触媒にして、反応を実施することで、種々の金属ナノ粒子が利用でき、また、あらゆる種類の有機反応にも適用可能であることから、金属の種類そして、反応の種類については、特に制限されるものではない。
【0019】
本発明の有効性を実証するために、本発明者らは、金ナノ粒子等の金属ナノ粒子を、両親媒性高分子の水溶液に分散させ、ベンジルアルコールの酸素酸化反応をモデル反応にして、反応収率や、反応選択性について、種々研究を重ねた。その結果、温和な条件でありながら、8時間で、99%の転化率を得ることができ、しかも、ベンズアルデヒド、安息香酸、ベンジルベンゾエートを、高選択的に得ることができ、他の副生成物の生成は、見られず、しかも、媒体が水であるため、生成物の分離が容易にできることを確認した。
【0020】
本発明では、金属ナノ粒子の金属として、アルミニウム、シリコン等の、水に対して安定な、周期表における第2周期の元素からなる元素、そして、第3周期の元素で、スカンジウム、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、そして、第4周期のイットリウム、ジルコニウム、ネオジウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、錫、が例示される。
【0021】
そして、更に、第5周期のランタノイド系元素、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、プラチナ、金、タリウム、鉛、ビスマス、そして、アクチノイド系元素からなるナノ粒子が例示される。そして、酸素を酸化剤に用いる酸化反応には、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル等の金属ナノ粒子が好ましい。
【0022】
本発明において、金属ナノ粒子の大きさは、小さければ小さいほど表面積が大きくなり、活性が上がるが、本発明においては、2nm以上100nm以下の範囲が好ましく、更には、2nm20nm以下の粒子が最も好ましい。金属ナノ粒子のサイズが揃っていれば、反応選択性の向上に繋がるが、本発明では、これらの大きさの金属ナノ粒子が、安定に存在すればよく、全ての金属粒子が、これらの範囲内にある必要は無い。
【0023】
本発明では、金属ナノ粒子を安定化させるために、両親媒性高分子の水溶液に分散させる必要がある。本発明で使用される両親媒性高分子は、特に水に溶解する高分子の多くは、金属ナノ粒子を安定化する効果があり、水に溶解するあらゆる高分子を用いることができる。好ましくは、ポリアルキレンオキシド型ブロック共重合体で、分子量が1000以上10000以下であり、更には、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド型ブロック共重合体で、分子量が1000以上10000以下の高分子であることが最も好ましい。
【0024】
本発明では、金属ナノ粒子を安定化させるために、両親媒性の高分子の水溶液を用いるが、金属ナノ粒子とその高分子の混合比は、金属ナノ粒子(金元素によるモル換算)/高分子(単位構造によるモル換算)値は、何れも金属種により設定することができ、好適には0.01以上、1.00以下、更に好適には0.05以上、0.5以下、最も好適には、0.1以上0.2以下であることが望ましい。
【0025】
本発明では、例えば、アルコールの酸素酸化を行うことで、カルボン酸が生成する。そのため、両親媒性高分子水溶液に分散させた金属ナノ粒子は、その液の酸性度によって、その触媒能も変化する。従って、本発明における触媒分散液には、液の酸性度を、好ましくはpH4〜14に設定することで、反応を進行させることができ、更に好ましくは、pH7〜14に設定することで反応を進行させることができる。
【0026】
また、水溶液のpHを調整する際に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、ないしは炭酸塩、あるいはアルコキシド、そして、アンモニア、エチルアミン、メチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン等の有機アミン、その塩でpHを調整することが好ましく、更に好ましくは、アルカリ金属の炭酸塩で、例えば、炭酸ナトリウムでpHを調整することが好ましい。
【0027】
本発明における酸化反応とは、酸素、又は酸素を含む気体又は空気を酸化剤に用いて、アルコールの酸化により、対応するケトン、アルデヒド、カルボン酸、そして、エステル体を製造する方法を意味するものである。その時、それぞれ、アルコールの種類により、酸素の濃度を設定することができるが、酸化に用いる酸素の濃度は、空気に含まれる酸素(20.9Vol%)以上100%の酸素以下で行うことが適当である。
【0028】
本発明における酸化反応で用いるアルコールとしては、芳香族と脂肪族アルコールがあり、以下の化1の化合物群を、酸化させることができる。
【0029】
【化1】

【0030】
(式中、R及びRは、それぞれ同一であるか、あるいは異なり、水素、又は置換基を有していてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基又はアリール基であるか、あるいは互いに結合して環を形成する構成員となるものである。ここで、置換基は、アリール基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ホルミル基、カルボニル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、水酸基、メルカプト基、ハロゲン、スルホニル基又はアミノ基である。)
【0031】
また、得られる化合物としては、以下に記載する化合物群を得ることができる。得られる化合物群として、以下の化2のケトン、アルデヒドの化合物群、
【0032】
【化2】

【0033】
(式中、R及びRは、それぞれ同一であるか、あるいは異なり、水素、又は置換基を有していてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基又はアリール基であるか、あるいは互いに結合して環を形成する構成員となるものである。ここで、置換基は、アリール基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ホルミル基、カルボニル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、水酸基、メルカプト基、ハロゲン、スルホニル基又はアミノ基である。)
【0034】
また、以下の化3のカルボン酸の化合物群、
【0035】
【化3】

【0036】
(式中、Rは、水素、又は置換基を有していてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基又はアリール基を形成する構成員となるものである。ここで、置換基は、アリール基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ホルミル基、カルボニル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、水酸基、メルカプト基、ハロゲン、スルホニル基又はアミノ基である。)
【0037】
更に、以下の化4のエステル体の化合物群、を挙げることができる。
【0038】
【化4】

【0039】
(式中、Rは、水素、又は置換基を有していてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基又はアリール基を形成する構成員となるものである。ここで、置換基は、アリール基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ホルミル基、カルボニル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、水酸基、メルカプト基、ハロゲン、スルホニル基又はアミノ基である。)
【0040】
本発明において、酸化反応を行い、各種ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル等を得る場合、媒体として、水を用いるため、反応温度は、通常、0℃以上100℃以下である。しかし、これについては、適宜反応基質、目的化合物の種類や、転化率、収率、選択率等に応じて、任意に設定することができる。また、反応時間は、通常、1分以上、48時間以内であるが、これについても、基質、反応の種類、触媒、目的化合物の種類等に応じて、適宜適応可能である。
【0041】
本発明では、これらについては、特に限定範囲は無く、任意に設定することができる。代表的な例としては、例えば、ベンジルアルコールの酸化反応を行う場合、反応温度30℃、反応時間8時間で、転化率がほぼ100%に達し、ベンズアルデヒド、安息香酸、ベンジルベンゾエートを得ることができる。
【0042】
本発明では、好適には、回分式反応装置が使用されるが、連続式反応装置でも使用することが適宜可能である。更に、有機溶媒を使用しない反応系で、水を媒体とするため、水と基質、あるいは水と生成物の分離がきわめて容易である場合が多く、生成物の相が、水媒体の表面に形成されるので、多くの有機化合物について、反応後の生成物の特別の分離精製工程を省略でき、生成物の分離工程が簡便になるという利点がある。
【発明の効果】
【0043】
本発明により、以下のような効果が奏される。
(1)従来、金属ナノ粒子は、数ナノメートルの微粒子であり、界面活性剤や無機酸化物等の担体が無いと、凝集し易く、不安定であったが、両親媒性高分子の水溶液を用いることで、安定性が飛躍的に向上したことから、リサイクル可能で、しかも活性の高い触媒を提供することができる。
(2)この触媒は、主に過酸化水素水や、その他の過酸化物等の、高価な、あるいは危険性の高い酸化剤を用いず、酸素あるいは酸素を含む気体ないしは空気の様な安価で、取り扱いも簡便な物質を用いながら、水を反応媒体として用いることができ、非常に温和な条件であっても、効率よくアルコール等の酸化反応を行うことができ、対応するケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル体等を得ることができる酸化反応方法を提供することができる。
(3)更に、本発明の方法は、有機溶媒を一切使用せず、水を媒体に用いた反応であるため、反応基質及び/又は生成物の分離、回収が容易であり、しかも、不純物の排出が殆ど無く、水も触媒も再利用可能である。しかも、従来の酸化方法と比べても、圧倒的に反応温度が低く、必要な投入エネルギーを小さくできることから、本発明は、環境低負荷型の、新しい一般化学的酸化方法を提供するものとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
本実施例でが、金ナノ粒子を、次の方法で合成した。P123(両親媒性ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド(PEO−PPO−PEO)ブロック共重合体(平均分子量:5800)の水溶液、を35℃で30分撹拌後、HAuCl水溶液(0.05M,4mL)を加え、即座に激しく撹拌した。
【0046】
次に、その中に、NaBH水溶液(0.1%,6mL)を、15分間かけて、ゆっくり加えた。加えた直後から、薄い黄色い溶液に変化し、5分間の撹拌後は、ワイン色の赤い溶液へと変わった。金ナノ粒子分散液は、同様の手法で、金とP123のモル分率が1〜7までの分散液を調製した。
【0047】
得られた分散液の可視吸収スペクトルを測定したところ、520nmのところに、表面プラズモン吸収に由来する吸収が見られ、金ナノ粒子が生成していることを確認した。更に、80℃で8時間加熱した耐熱実験後と、反応実験に使用後の分散液の可視吸収スペクトルも測定した。その結果、何れも、520nmに吸収が見られ、ポリマーに分散したナノ粒子は、非常に安定であることが分かった。なお、分散液の可視吸収スペクトルを図1に示す。
【0048】
金ナノ粒子を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観測した。サンプルは、金ナノ粒子合成直後の分散液と、80℃で、8時間加熱した耐熱性実験後の分散液と、反応に使用した後の分散液、の3種類を用い、各水溶液を、銅のグリッドに1滴垂らした後、乾燥させて作製した。その映像を図2〜図4に示す。
【0049】
また、それぞれのサンプルにおける金ナノ粒子の分散を図5〜図7に示す。これより、金ナノ粒子合成直後は、平均粒径は7.3nmで、4nm〜12nmの分散を示すことが分かった。一方、耐熱性実験後は、その粒子の平均粒径は7.3nmで、4nm〜12nmと、ほぼ同一の分散を示すが、多少広くなることが分かった。また、反応後のナノ粒子は、凝集等の現象から、若干分散が広がり、平均粒径も、8.8nmと大きくなることが分かった。
【0050】
得られた金ナノ粒子のX線回折(XRD)を測定した。金の(111)、(200)、そして、(311)の面の回折に相当するピークが得られ、結晶性の金のナノ粒子が生成していることが確認された。XRDの図を図8に示す。
【実施例2】
【0051】
本実施例では、上記のP123水溶液に分散した金ナノ粒子を、触媒に用い、酸素を酸化剤とするアルコールの酸化反応を行った。15mLのNaCO水溶液(0.25M)と、15mLの金ナノ粒子分散液を、還流管をつけた50mLの二口フラスコに加え、マグネチックスターラーで撹拌しながら、オイルバスで所定の温度まで加熱した。撹拌しながら、酸素をバブリングしながら30分間溶解させた。
【0052】
その後、0.75mLのアルコールを加え、酸素をバブリングしながら、また、激しく撹拌しながら、所定の時間反応させた。反応過程では、所定時間毎に、1mLの溶液をサンプリングしながら測定を行った。反応終了後、1mLの希塩酸(2M)を加え、ジエチルエーテルで3回抽出を行った。生成物を、ガスクロマトグラフィーで分析し、収率、選択率等を求めた。
【0053】
ベンジルアルコールを原料として、反応温度は30℃、NaCOの存在下の条件で、時間に伴う反応追跡を行った。その結果を図9に示す。図中、■は、ベンジルアルコールの転化率、□は、生成物の一つであるベンズアルデヒドの選択率、△は、安息香酸の選択率、▽は、ベンジルベンゾエートの選択率、を表す。8時間で、転化率が、ほぼ100%に達成した。これ以上の反応を行ったが、転化率、その他、化合物の選択率の変化は、見られなかった。
【0054】
ベンズアルデヒドが、反応開始後30分で、選択率が最大(49%)となるが、反応が進むにつれ、酸化反応が進行し、安息香酸の選択率が増大した。一方、ベンジルベンゾエートは、ベンジルアルコールと安息香酸との縮合(エステル化)により生成することが分かった。なお、ベンジルベンゾエートの選択率は、1時間以降は、殆ど変化は無かった。また、その他の副生物は得られず、金ナノ粒子を触媒に用いることで、選択的に、酸化反応が進行することが分かった。
【0055】
次に、各種アルコールの酸化反応を行った。触媒として、金ナノ粒子を、分子換算で0.015mmol、Au:P123=1:7(モル比)、アルコールを0.75mmol、NaCOを3.75mmolを加え、30mLの水溶液に、酸素をバブリングしながら、温度30℃で反応を行った。その結果、ベンジルアルコール系は、全て94%以上の転化率で反応することが分かった。
【0056】
一方、アルキルアルコール(1−ヘプタノール)は、酸化され難く、転化率は27%程度に留まっていた。しかし、ケトン体ではなく、カルボン酸まで酸化されることが分かった。また、シクロオクタノールの様に、反応温度を20℃〜40℃の範囲で検討した場合、温度を上げることで、24時間で58%の転化率(30℃の場合)が、9時間で92%まで上昇した。しかも、シクロオクタノンのケトン体で反応が止まり、カルボン酸等は得られなかった。
【0057】
一方、金ナノ粒子あるいはパラジウム又は金/パラジウムナノ粒子を、アルミナ担体に担持させた触媒を用いた場合、殆ど反応せず、転化率も9%以下であった。したがって、金ナノ粒子をP123で安定化させた水分散液は、水溶液の様に取り扱うことができ、更に、酸化反応に対して、良好な触媒能を発揮し、しかも、通常、不安定なナノ粒子であるが、非常に安定であることが分かった。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
以上詳述したように、本発明は、金属ナノ粒子触媒及び酸素酸化方法に係るものであり、本発明により、金属ナノ粒子を両親媒性高分子水溶液に分散させることで安定化することができ、高活性でリサイクル可能で、酸素を酸化剤としてアルコールを酸化させることができる触媒を提供することができる。この触媒を用いることで、種々の酸化反応から、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル体を効率良く合成することが可能となる。
【0060】
また、本発明は、有機媒体を用いず、温和な条件で合成することができ、廃棄物も極力出さないことから、省エネルギーの環境低負荷型の有機化合物の酸化反応方法を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】P123(両親媒性ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド(PEO−PPO−PEO)ブロック共重合体(平均分子量:5800)の水溶液に、金ナノ粒子を分散させた分散液の紫外可視吸収スペクトル、及びその写真を示す。図中の(a)は、分散液を80℃で8時間加熱した後の分散液、(b)は、加熱する前の分散液、(c)は、酸化反応に用いた後の分散液、である。
【図2】分散液を80℃で8時間加熱した後の分散液の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。
【図3】調整直後の分散液の透過型電子顕微鏡写真を示す。
【図4】酸化反応に用いた後の分散液の電子顕微鏡写真を示す。
【図5】分散液を80℃で8時間加熱した後の分散液中の粒度分布を示す。
【図6】調整直後の分散液の粒度分布を示す。
【図7】酸化反応に用いた後の分散液の粒度分布を示す。
【図8】P123水溶液に分散した金ナノ粒子の粉末X線回折を示す。
【図9】P123水溶液に分散させた金ナノ粒子触媒によるベンジルアルコールの酸化反応を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子を、両親媒性高分子の水溶液に分散させて、ナノ粒子を安定化させた触媒であり、酸素を酸化剤とする酸化反応に用いるための触媒であって、上記両親媒性高分子が、ポリアルキレンオキシド型ブロック共重合体であることを特徴とする有機化合物の酸素酸化反応用触媒。
【請求項2】
両親媒性高分子が、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド型ブロック共重合体で、分子量が1000から10000である、請求項1に記載の酸化反応用触媒。
【請求項3】
金属ナノ粒子が、金のナノ粒子であり、その粒子の大きさが、2ナノメートル以上100ナノメートル以下、ないしは2ナノメートル以上20ナノメートル以下の何れかの粒子を含む、請求項1又は2に記載の酸化反応用触媒。
【請求項4】
上記触媒に、炭酸ナトリウムを含有する、請求項1から3のいずれかに記載の酸化反応用触媒。
【請求項5】
酸化反応が、アルコールの酸化により、ケトン、カルボン酸、又はエステル体を製造する反応である、請求項1から4のいずれかに記載の酸化反応用触媒。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の酸化反応用触媒を用いて、酸素を酸化剤とする酸化反応により有機化合物を酸素酸化することを特徴とする酸化反応方法。
【請求項7】
酸化反応が、アルコールの酸化により、ケトン、カルボン酸、又はエステル体を製造する酸化反応である、請求項6に記載の酸化反応方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の酸化反応用触媒を用いて、酸素を酸化剤として、アルコールの酸化により、対応するケトン、カルボン酸又はエステル体を製造することを特徴とするアルコール酸化生成物の製造方法。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−17696(P2010−17696A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183269(P2008−183269)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】