説明

金属化ポリイミドフィルム、およびその評価方法

【課題】加速寿命試験における合格率を向上させるポリイミドフィルムを提供するとともに、加速寿命試験に合格可能で絶縁信頼性の高いフレキシブル配線基板を提供できる金属化ポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】液温38〜42℃に保った、濃度38〜42g/Lの過マンガン酸カリウムと濃度18〜22g/Lの水酸化ナトリウムの混合水溶液中に、45〜75秒間浸漬する強アルカリ処理を施した場合に、表面の溶解量が35nm以下となるポリイミドフィルムを用い、そのポリイミドフィルムの表面に下地金属層、金属導体層の順に金属層を積層したことを特徴とする金属化ポリイミドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式めっき法を用いてポリイミドフィルムの表面に金属導体層が形成された、フレキシブル配線基板等に使用される金属化ポリイミドフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶ディスプレイ、携帯電話、デジタルカメラ及び様々な電子機器は、薄型、小型、軽量、低コスト化が求められており、それら電子機器を構成する電子部品にも、当然に同様の要求がある。その結果、電子部品に用いられるフレキシブル配線基板の配線ピッチは、30μm以下が求められつつある。
この要求に対応するために配線ピッチが30μm以下のフレキシブル配線基板を得ようとする場合、サブトラクティブ法を用いて配線を形成するには、サイドエッチングによる影響を小さくして、配線断面が矩形形状に近い配線とするために、基板となるポリイミドフィルムに設けられる金属導体層の厚みは20μm以下としなければならない。一方、セミアディティブ法で配線を形成する場合には、その金属導体層の厚みは1μm程度でもよい。
【0003】
このポリイミドフィルムに金属導体層を形成して得られる金属化ポリイミドフィルムの製造方法としては、まずポリイミドフィルムの表面に乾式めっき法を用いて下地金属層を形成し、その上に乾式めっき法で金属薄膜を形成し、更にその上に湿式めっき法により金属膜を設けて金属導体層を得る方法が一般的である。
そして、これらの金属薄膜および金属膜に銅を用いる金属導体層を形成した金属化ポリイミドフィルムが主流となっている。そしてまた、この金属化ポリイミドフィルムは、全ての構成金属層をめっき法で得るため、各金属層の厚みを任意に制御できる利便性がある。
【0004】
このような金属化ポリイミドフィルムは、近年の配線の高密度(ファインピッチ)化と共に、金属層とポリイミドフィルムとの密着性の向上がさらに求められるようになってきている。これは、フレキシブル配線基板に半導体素子を搭載する際に、半導体素子表面の電極とフレキシブル配線基板上の配線とをボンディングするが、この際のタクトタイムを短くするために、高温で圧力を掛けてボンディングが行われるためである。
【0005】
特許文献1では、金属層とポリイミドフィルムとの密着性を向上させる技術として、ポリイミドフィルムを親水化処理、もしくは粗化処理後親水化処理した後に、金属層の無電解銅−ニッケル合金めっき層を形成するポリイミドフィルムへの金属層の形成方法が開示されている。しかし、この特許文献1では、ポリイミドフィルムと無電解銅−ニッケル合金めっき層との密着性の向上には有益であるが、クロム−ニッケル合金層との密着性の向上は明らかではなく、さらに無電解めっき層以外の金属層に関しては、その適用は開示されていない。
【0006】
すなわち、特許文献1における親水化処理では、まずKOHやNaOHなどのアルカリ性溶液にポリイミド樹脂を浸漬し、ポリイミド樹脂表面を加水分解して、イミド環の開環したポリイミドフィルムを形成することによって、カルボキシル基を有するポリアミック酸、あるいはポリアミック酸塩の構造を有するとみられ、次に、このポリイミドフィルムを金属イオン含有溶液に浸漬して、カルボキシル基に金属イオンを吸着させて金属塩を形成し、この金属塩を還元剤溶液に浸漬し、無電解によって金属の薄膜を得るものである。
【0007】
また、粗化処理は過マンガン酸カリウムを用いる常法によって行われるが、樹脂表面の粗化は、配線回路の微細化が進む中において、配線回路特性の低下を招く恐れがある。配線回路特性、特に高周波数における基板表面粗さに依存する伝送損失の特性に対しては、基材表面の平滑性が重要となり、樹脂表面の粗化を可能な限り少なくすることが望まれる。
【0008】
さらに、従来の金属化ポリイミドフィルムを使用したフレキシブル配線基板を用いた配線ピッチが30μm以下の高密度プリント配線基板における絶縁信頼性を、HAST:Highly accelerated temperature and humidity Stress Test、PCBT:Pressure Cooker Biased Test、又は高温高湿バイアス試験(HHBT:High temperature and High humidity Benchmark Test)等の加速寿命試験で評価した場合、配線間のポリイミドフィルム上に、配線を形成する金属のイオンによるマイグレーションが発生し、隣接する配線同士がイオンマイグレーションを介して短絡し、絶縁信頼性を確保することが難しいという不具合があった。
【0009】
このような問題に対しては、フレキシブル配線基板の配線形成工程における基板の清浄度を高めることで、加速寿命試験での合格率を上げることは可能であったが、その合格率は、ばらつきが大きく、安定して高合格率のフレキシブル配線基板を得ることが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−231459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記に示す高密度プリント配線基板の絶縁信頼性に関する問題に鑑みなされたもので、フレキシブル配線基板の加速寿命試験合格率を向上させる金属化ポリイミドフィルムの評価方法を提供するとともに、加速寿命試験に合格可能で絶縁信頼性の高いフレキシブル配線基板を提供できる金属化ポリイミドフィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の発明は、液温38〜42℃に保った、濃度38〜42g/Lの過マンガン酸カリウムと濃度18〜22g/Lの水酸化ナトリウムの混合水溶液中に、45〜75秒間浸漬する強アルカリ処理を施した場合に、表面の溶解量が35nm以下となるポリイミドフィルムを用い、そのポリイミドフィルムの表面に下地金属層、金属導体層の順に金属層を積層した金属化ポリイミドフィルムである。さらに、このポリイミドフィルム表面に設けられる下地金属層が、スパッタ膜であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の第2の発明は、フレキシブル配線基板用金属化ポリイミドフィルムに用いるポリイミドフィルムの評価方法で、強アルカリ処理によるポリイミドフィルム表面の溶解量が35nm以下であるポリイミドフィルムをフレキシブル配線基板用金属化ポリイミドフィルムに選定することを特徴とするものである。さらに、その強アルカリ処理が、液温を38〜42℃に保った、濃度38〜42g/Lの過マンガン酸カリウムと濃度18〜22g/Lの水酸化ナトリウムの混合水溶液中に、45〜75秒間浸漬するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、過酷な加速寿命試験に合格可能で絶縁信頼性の高いフレキシブル配線基板の形成を可能とする金属化ポリイミドフィルムを容易に提供することを可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明はポリイミドフィルムの表層を所定条件によって処理した場合に、35nm以下の厚みで除去されるポリイミドフィルムを選択することによって、その選択されたポリイミドフィルム表面上に、下地金属層、金属導体層の順に積層した金属層を設けた金属化ポリイミドフィルムに関するもので、本発明者は、ポリイミドフィルムの表層が特定処理条件によって除去される性質を有するポリイミドフィルムを用いることによって、その表面に設けられる金属層、特にスパッタリングにより形成される下地金属層との密着性が強固となることを見出し、さらに鋭意開発を進め本発明の完成に至ったものである。
【0016】
そのポリイミドフィルムの表層を除去する所定条件によって処理した場合に、35nmの厚みを超えて表層が除去されるポリイミドフィルムでは、表面が粗化され易いことになり、アンカー効果によって密着性の向上は期待されるが、逆に新生面を形成することによるマイグレーションの促進を誘発し、信頼性を損なうために金属化ポリイミドフィルムには使用できない。
【0017】
なお、本発明では表層を除去する範囲を「溶解量」と称し、干渉顕微鏡による垂直走査干渉法(Vertical Scanning Interferometry、以下VSIと称す)を用いて測定した、除去前後の厚みの差を溶解量とした。
【0018】
使用するポリイミドフィルムを選定するためのポリイミドフィルム表層の除去所定条件とは、強アルカリ成分によるケミカルエッチングである強アルカリ処理で、以下に示す条件によって行うものである。
その強アルカリ成分としては、過マンガン酸カリウムと水酸化ナトリウムの混合水溶液が適し、特に濃度38〜42g/Lの過マンガン酸カリウム水溶液と、濃度18〜22g/Lの水酸化ナトリウム水溶液の混合水溶液を用い、処理温度38〜42℃、処理時間45〜75秒の条件によって浸漬処理する強アルカリ処理が望ましい。
【0019】
この所定条件の範囲外の条件によって、ポリイミドフィルムの表層を除去した場合には、表層の溶解量が同じ値を示していても、金属化ポリイミドフィルムを作製して信頼性試験を行った場合に、良好な信頼性が得られなかった。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
〔表層の溶解〕
厚み35nmの帯状ポリイミドフィルムの複数のロットから長さ20cmの短冊状ポリイミドフィルム試料を採取し、強アルカリ処理を施した。
この強アルカリ処理は、強アルカリ溶液に濃度38〜42g/Lの過マンガン酸カリウムと濃度18〜22g/Lの水酸化ナトリウムの混合水溶液を使用し、処理温度(液温)38〜42℃、処理時間45〜75秒で浸漬処理した。その後、水洗にて強アルカリ溶液を十分に除去し、それぞれのポリイミドフィルムの溶解量(削れ量)をオプティカルプロフィラーNewView6200(Zygo製)にて測定した。
【実施例1】
【0021】
〔金属層の形成−下地金属層の形成〕
測定した中から溶解量の平均が30nmの短冊状ポリイミドフィルム試料が属するロットを選択し、その選択したポリイミドフィルムの片面に、繰り出し機、スパッタリング装置、巻き取り機から構成されるスパッタリング設備を用いて直流スパッタリング法を使用して、平均厚み7nmの7mass%Cr−Ni合金層を下地金属層として形成した。
【0022】
〔金属層の形成−銅薄膜、導体金属層の形成〕
さらに同様の方法で、その下地金属層上に平均厚み100nmの銅薄膜を形成して、その銅薄膜上に電気銅めっき法により、厚み8μmの銅から成る導体金属層を設けて金属層を形成して金属化ポリイミドフィルムを作製した。
【0023】
〔フレキシブル配線基板の作製〕
次に、この金属化ポリイミドフィルムを用いて配線ピッチ30μm(配線幅15μm)のフレキシブル配線基板をサブトラクティブ法で作製した。
サブトラクティブ法を用いた作製では、先ず、導体金属層上にフォトレジスト層を形成し、このフォトレジスト層を所定のマスクを使用して露光し、現像することによりフォトレジスト層から成る所望のエッチングマスクを形成する。ここで使用するフォトレジスト層としては、受光することで硬化(不溶化)するタイプのネガ型感光性樹脂を使用することも出来るし、受光によって軟化(可溶化)するタイプのポジ型感光性樹脂を使用することも出来る。一般的に、ポジ型感光性樹脂を使用した方が微細パターンを形成し易い。
【0024】
上記のようにして形成したエッチングマスクを用い、エッチングマスクから露出した導体金属層をエッチング除去して、配線ピッチが30μmの配線パターンを得た。ここで使用するエッチング剤には、塩化第二鉄を主成分とするエッチング液、塩化第二銅を主成分とするエッチング液、硫酸・過酸化水素を主成分とするエッチング液等があり、本実施例では塩化第二銅を主成分とするエッチング液を用いて配線パターンを形成した。
【0025】
その後、アルカリ洗浄工程により、フォトレジスト層を除去した。ここで使用するアルカリ洗浄液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アミノエタノールを主成分とする水溶液等を用いることが出来る。
上記のように配線パターンを形成した後、配線パターンの全面に厚み0.5μmの無電解錫めっきを施した。
【0026】
〔フレキシブル配線基板の信頼性試験〕
このようにして配線パターンを形成したフレキシブル配線基板を、85℃−85%RHの条件で60Vの電圧を印加して、連続1000時間の加速寿命試験の高温高湿バイアス試験(HHBT)を行った。この加速寿命試験は、配線パターンに短絡が生ずるまでの時間、ここでは絶縁抵抗値が1×10Ω未満になるまでの時間が1000時間に満たないものは、一般的な基板として使用することはできない。
HHBT試験前の絶縁抵抗値は、1012Ω程度であった。一方HHBT試験後の絶縁抵抗値は、1012Ω程度であり、試験前後での絶縁抵抗値に実質的な差は認められなかった。
【実施例2】
【0027】
ポリイミドフィルム表層の溶解量が20nmのポリイミドフィルムのロットを用いて、実施例1と同様の条件で金属化ポリイミドフィルムおよびフレキシブル配線基板を作製し、HHBTによる加速寿命試験を行った。
加速寿命試験前の絶縁抵抗値は1012Ω程度であり、試験後の絶縁抵抗値も1012Ω程度であり、試験前後での絶縁抵抗値に実質的な差は認められなかった。
【0028】
(比較例1)
ポリイミドフィルム表層の溶解量が40nmのポリイミドフィルムのロットを用いて、実施例1と同様の条件で金属化ポリイミドフィルムおよびフレキシブル配線基板を作製し、HHBTによる加速寿命試験を行った。
加速寿命試験前の絶縁抵抗値は1012Ω程度であり、加速寿命試験後に測定した絶縁抵抗値は10Ω程度であり、試験による絶縁抵抗値の低下が認められた。
【0029】
(比較例2)
ポリイミドフィルム表層の溶解量が50nmのポリイミドフィルムのロットを用いて、実施例1と同様の条件で金属化ポリイミドフィルムおよびフレキシブル配線基板を作製し、HHBTによる加速寿命試験を行った。
加速寿命試験前の絶縁抵抗値は1012Ω程度であり、加速寿命試験後に測定した絶縁抵抗値は10Ω程度であり、試験による絶縁抵抗値の低下が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液温38〜42℃に保った、濃度38〜42g/Lの過マンガン酸カリウムと濃度18〜22g/Lの水酸化ナトリウムの混合水溶液中に、45〜75秒間浸漬する強アルカリ処理を施した場合に、表面の溶解量が35nm以下となるポリイミドフィルムを用い、前記ポリイミドフィルムの表面に下地金属層、金属導体層の順に金属層を積層したことを特徴とする金属化ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記下地金属層が、スパッタ膜であることを特徴とする請求項1に記載の金属化ポリイミドフィルム。
【請求項3】
フレキシブル配線基板用金属化ポリイミドフィルムに用いるポリイミドフィルムの評価方法であって、
強アルカリ処理によるポリイミドフィルム表面の溶解量が35nm以下であるポリイミドフィルムを選定することを特徴とする。
【請求項4】
前記強アルカリ処理が、液温38〜42℃に保った、濃度38〜42g/Lの過マンガン酸カリウムと濃度18〜22g/Lの水酸化ナトリウムの混合水溶液中に、45〜75秒間浸漬することを特徴とする請求項3記載のポリイミドフィルムの評価方法。

【公開番号】特開2012−45745(P2012−45745A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187831(P2010−187831)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】