説明

金属化合物の供給方法

【課題】本発明の課題は、炭化水素の分子状酸素を酸化剤とした無溶媒での連続式酸化反応の簡便な実験、評価を行う際に、特殊な設備を必要とせずに少量の金属化合物を効率よく加熱された反応器内へ供給する方法を提供することである。
【解決手段】上記課題は、
金属化合物を含む触媒を用いて有機化合物を分子状酸素によって無溶媒条件下、反応器中で連続式酸化反応を行うにあたり反応温度が100℃〜300℃であり、圧力が反応器内の液相の有機化合物の該反応温度における飽和蒸気圧以下である反応器内への金属化合物の供給方法であって、該有機化合物の沸点が100℃以上であり、該有機化合物の重量を基準として0.1%〜25%の水に金属化合物を溶解させた水溶液との混合液を4mm/s以上の流速で反応器中へ供給することを特徴とする金属化合物の供給方法によって解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機化合物の連続式酸化反応の実験装置に関し、触媒である金属化合物の効率的な供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分子状酸素を酸化剤とした有機化合物の酸化反応の1つとして、金属化合物を触媒に用いて有機化合物と分子状酸素を高温、高圧条件下で反応させることによってカルボン酸を製造する方法が多数知られている。例えば、ポリエステルの原料であるテレフタル酸ジメチルを製造する方法としてパラキシレンを液相で分子状酸素により金属化合物の存在下、170℃、0.5MPaの条件下で酸化し、パラトルイル酸を得、これをメチルエステル化してパラトルイル酸メチルとし、これを再び分子状酸素により170℃、0.5MPaの条件下でコバルト化合物の存在下で酸化してテレフタル酸モノメチルを得、これを更にメチルエステル化することによって製造するビッテンハーキュレス法がある。該方法において、パラトルイル酸メチルはパラキシレンと混合して同一の反応器で溶媒を使用せずに酸化され、工業的には連続式の反応器を用いて酸化されることが一般的である。
【0003】
このような酸化反応プロセスの条件変更などを検討する場合、容量500cc程度と小型の反応器を用いて酸化反応を行って評価することが反応を実施する上で実験操作が簡便でデータ採取に優れている。しかしながら、小型反応器でビッテンハーキュレス法のような高温条件下での無溶媒連続式酸化反応を実験する場合、反応触媒である金属化合物を過熱された反応器内へ供給する方法として以下(1)〜(4)のような方法が考えられるが、何れも問題があった。
【0004】
(1)金属化合物を反応基質である有機化合物とともにスラリーで添加する方法。小型の反応器で反応させるとき、有機化合物の送液量が少ない場合は金属化合物が反応器内まで流れずに配管内で閉塞し、金属化合物の反応器内への供給が困難となる問題があった。
【0005】
(2)金属化合物を水に溶解させ、有機化合物とは別の配管より供給する方法。この場合、水を供給し過ぎると酸化反応が効率よく進行しない問題があった。特にパラトルイル酸メチルといったエステル化合物を有する有機化合物を酸化する場合、水が過剰に存在することで加水分解反応が生じ、反応性の低いカルボン酸に分解するため、酸化反応が効率よく進行しない。一方で水を少量にすると反応器とともに加熱された供給配管内で水が蒸発し、金属化合物の結晶が供給配管内に析出し、金属化合物の反応器内への供給が困難となる問題があった。
【0006】
(3)金属化合物を酢酸などの水より沸点が高く、且つ金属化合物の溶解性が高い反応基質とは異なる有機溶媒に溶解させて、反応器内へ金属化合物を供給する方法。この場合、反応に無関係な金属化合物の有機溶媒を反応系に供給するため、精度の高い反応評価が困難となる問題があった。
【0007】
(4)容器内に有機金属化合物を充填し、キャリアガスを導入して該有機金属化合物を含有するガスを用いて供給する方法についても開示されているが、金属化合物・キャリアスの種類が限定される、固体・液体に比べるとガスを拡散させないような設備が必要になったり、有機金属化合物の供給量を評価するためにガス供給量を厳密に評価する必要があるといった問題もあった(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−111147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は炭化水素の分子状酸素を酸化剤とした無溶媒での連続式酸化反応の簡便な実験、評価を行うことを目的とし、特殊な設備を必要とせずに少量の金属化合物を効率よく加熱された反応器内へ供給する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、金属化合物を少量の水に溶解させ、反応基質である有機化合物と該水溶液の混合液を送液することによって、効率よく反応器内に金属化合物を供給することができることを見出した。
【0011】
すなわち、金属化合物を含む触媒を用いて有機化合物を分子状酸素によって無溶媒条件下、反応器中で連続式酸化反応を行うにあたり反応温度が100℃〜300℃であり、圧力が反応器内の液相の有機化合物の該反応温度における飽和蒸気圧以下である反応器内への金属化合物の供給方法であって、該有機化合物の沸点が100℃以上であり、該有機化合物の重量を基準として0.1%〜25%の水に金属化合物を溶解させた水溶液との混合液を4mm/s以上の流速で反応器中へ供給することを特徴とする金属化合物の供給方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法により有機化合物を酸素によって反応器中で温度が100〜300℃、圧力が反応器内の温度の飽和蒸気圧以下である反応器内で無溶媒条件下で連続式酸化反応を行うにおいて少量の金属化合物を効率よく反応器中に供給することができる。従って、本発明を用いることにより、操作が簡便な小型の反応装置を使用した無溶媒での連続式酸化反応を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で金属化合物の水溶液と混合して供給する有機化合物は1級、2級炭素を有する炭素、水素又は炭素、水素、酸素から構成される有機化合物のことを指し、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン、エステル、カルボン酸といった酸素を含有する官能基を有していてもよい。使用する有機化合物は、常圧における沸点が100℃以上であればよいが、好ましくは130℃以上、さらに好ましくは200℃以上である。沸点が高いほど、反応器内へと通じている加熱された配管内での反応基質である有機化合物の蒸発が無くなり、流速を維持できるため、効率よく金属化合物を反応器内へ供給することができる。
【0015】
本発明の目的は効率よく金属化合物を反応器へ供給することによって分子状酸素を酸化剤とした連続式酸化反応実験を簡便に行うことであり、酸化されやすい1級炭素を有する有機化合物が好ましい。特にパラキシレンやパラトルイル酸メチルのようにベンゼン環に結合した1級炭素を有する有機化合物が酸化しやすく好ましい。またこれらパラキシレンとパラトルイル酸メチルの混合物を本発明の供給方法に用いても良い。さらに、パラトルイル酸メチルは水と反応することにより加水分解され、パラトルイル酸となる。酸化反応ではパラトルイル酸メチルとパラトルイル酸ではパラトルイル酸メチルの方が酸化されやすいことが知られており、本発明により少量の水で金属化合物を反応器内へ供給することは、パラトルイル酸メチルの酸化に特に有効であり、反応基質である有機化合物にパラトルイル酸メチルを使用する場合に本発明がより効果的となる。
【0016】
本発明で供給する金属化合物を構成する元素には、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Snなどの周期表で第4、第5周期に属する遷移金属元素、Li、Na、Kといったアルカリ金属元素、Be、Mg、Caといったアルカリ土類金属元素などが挙げられる。特にビッテンハーキュレス法などの有機化合物の分子状酸素を酸化剤とした酸化反応の触媒として使用されるCr,Mn、Ni、Co、Cu、Liがより好ましい。金属化合物としては前記金属の有機酸塩、ハロゲン化物、酸化物などが挙げられる。好ましくは有機酸塩であり、酢酸塩、ナフトエ酸塩、安息香酸塩などの前記金属化合物が挙げられる。
【0017】
金属化合物の供給量は、反応器へ供給する反応基質である有機化合物の重量を基準として0.1%〜25%の水に溶解する重量であればよいが、好ましくは供給する有機化合物の重量を基準として10ppm〜300ppm、さらに好ましくは10ppm〜200ppmがよい。反応器へ供給する水に対して金属化合物の量が多いと、金属化合物の結晶が送液ラインで析出し、金属化合物の効率よい供給ができなくなる。
【0018】
本発明における上記金属化合物の供給方法は、ポンプなどの送液機器を利用することによって配管を通して反応器内へ供給される。このとき、高温に保たれている反応器内部の熱によって金属化合物の水溶液及び基質である有機化合物を供給する配管も反応器内に近い温度まで過熱される。本発明では、加熱された配管内で、金属化合物を溶解している水が蒸発されることにより、金属化合物の結晶の析出や閉塞が配管内で発生することを防止するために、基質である有機化合物と金属化合物の水溶液を混合して反応器内へ供給し、配管内での滞留時間を短くしている。
【0019】
反応器内の温度は100℃〜300℃、好ましくは100℃〜250℃、さらに好ましくは100℃〜170℃である。効率よく金属化合物を反応器内へ供給するためには、金属化合物を溶解している水の蒸発が少ないほうが好ましく、反応器内の温度はより低いほうが好ましい。一方で、反応器内の温度が低い場合、酸化反応を実施したときの反応が効率よく進行しない。また、圧力に関しては反応器内の温度における水の蒸気圧以下であればよいが、好ましくは反応器内の温度における水の蒸気圧以下であり、該蒸気圧と反応器内の圧力差が0.3MPa以内である圧力がよい。また圧力は液相の有機化合物の上述のような反応温度における飽和蒸気圧以下であっても良い。
【0020】
本発明で反応器へ供給する有機化合物と金属化合物を溶解させた水溶液の混合液の量は供給配管内の流速で4mm/s以上である。供給配管内の該混合液の流速が大きいほど、加熱された配管内の滞留時間が減少し、金属化合物を溶解している水が蒸発しにくく、金属化合物を効率良く反応器へ供給できる。前記範囲においてさらに好ましくは配管内の流速をV(m/s)、反応器に接触している配管の長さをL(m)、供給配管の直径をD(m)、反応器の材質の熱伝導度をK(kcal/(m・h・℃))、配管の厚さl(m)配管表面の平均温度をT1(℃)、反応器に供給する前の有機化合物の温度をT2(℃)、水の蒸発熱H(kcal/kg)とするとき、以下の関係を満たす流速がよい。
D×K×L×π×(T1−T2)/l ≦ (D/2)×π×V×H
【0021】
反応器内へ供給する水の量が少ない方が反応性への影響が少なく好ましい。とりわけパラトルイル酸メチルのように加水分解される有機化合物を反応基質とする場合は水の存在により酸化反応が進行しにくくなる。このため、本発明で使用する水の量は反応器へ供給する反応基質の有機化合物の重量を基準として0.1%〜25%であり、好ましくは1%〜4%である。水の量が少ないと水に溶解させた金属化合物が配管で析出するため、効率よく金属化合物を反応器へ供給することができない。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0023】
[実施例1]
図1に示す500ccのオートクレーブ2によりパラトルイル酸メチル、パラキシレンを分子状酸素により酸化して、テレフタル酸を製造する実験において触媒に用いる酢酸コバルト(II)4水和物の供給テストを行った。パラキシレン(沸点:138℃)45g、パラトルイル酸メチル(沸点210℃)105gに酢酸コバルト(II)4水和物を0.127g(パラキシレンとパラトルイル酸メチルの合計重量に対し200ppmのコバルト元素の重量)を含む水溶液6gを撹拌混合しながらプランジャー式ポンプによって、温度165℃、圧力0.5MPa(165℃での飽和蒸気圧は0.7MPa)、パラトルイル酸メチル200gを入れてあるオートクレーブ内に流速4.6mm/sで混合液の全量を供給配管1より送液した。送液後、オートクレーブ2内の溶液を採取し、コバルト量を原子吸光分析装置によって測定した。その結果、送液したコバルトの96%がオートクレーブ2内の溶液に含まれていた。
【0024】
[比較例1]
図1に示す500ccのオートクレーブ2によりパラトルイル酸メチル、パラキシレンを分子状酸素により酸化して、テレフタル酸を製造する実験において触媒に用いる酢酸コバルト(II)4水和物の供給テストを行った。酢酸コバルト(II)4水和物を0.127g含む水溶液36gをプランジャー式ポンプによって、温度165℃、圧力0.5MPaとし、パラトルイル酸メチル200gを入れてあるオートクレーブ2内に流速1.1mm/sで水溶液の全量を供給配管1より送液した。送液後、オートクレーブ2内の溶液を採取し、コバルト量を原子吸光分析装置によって測定した。その結果、送液したコバルトの6%がオートクレーブ2内の溶液に含まれていた。パラキシレン、コバルト水溶液を送液した供給配管1の内部をアセトンで洗い流し、得られた溶液のコバルト量を測定すると送液したコバルトの94%が残留していた。
【0025】
[比較例2]
図1に示す500ccのオートクレーブ2によりパラトルイル酸メチル、パラキシレンを分子状酸素により酸化して、テレフタル酸を製造する実験において触媒に用いる酢酸コバルト(II)4水和物の供給テストを行った。パラキシレン45gに酢酸コバルト(II水和物を0.127g(パラキシレンの重量に対し667ppmのコバルト元素の重量)含む水溶液6gを加え、撹拌混合しながらプランジャー式ポンプによって、温度165℃、圧力0.5MPaとし、パラトルイル酸メチル200gを入れてあるオートクレーブ2内に流速1.5mm/sで混合液の全量を供給配管1より送液した。送液後、オートクレーブ2内の溶液を採取し、コバルト量を原子吸光分析装置によって測定した。その結果、送液したコバルトの65%がオートクレーブ内の溶液に含まれていた。パラキシレン、コバルト水溶液を送液した供給配管1の内部をアセトンで洗い流し、得られた溶液のコバルト量を同様に測定すると送液したコバルトの35%が残留していた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の方法により有機化合物を酸素によって反応器中で温度が100〜300℃、圧力が反応器内の温度の飽和蒸気圧以下である反応器内で無溶媒条件下で連続式酸化反応を行うにおいて少量の金属化合物を効率よく反応器中に供給することができる。従って、本発明を用いることにより、操作が簡便な小型の反応装置を使用した無溶媒での連続式酸化反応を実施することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 供給配管(内径2mm、オートクレーブ内貫通距離230mm)
2 オートクレーブ
3 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物を含む触媒を用いて有機化合物を分子状酸素によって無溶媒条件下、反応器中で連続式酸化反応を行うにあたり反応温度が100℃〜300℃であり、圧力が反応器内の液相の有機化合物の該反応温度における飽和蒸気圧以下である反応器内への金属化合物の供給方法であって、該有機化合物の沸点が100℃以上であり、該有機化合物の重量を基準として0.1%〜25%の水に金属化合物を溶解させた水溶液との混合液を4mm/s以上の流速で反応器中へ供給することを特徴とする金属化合物の供給方法。
【請求項2】
反応器中に供給される有機化合物の重量を基準として、金属元素重量に換算して10ppm〜300ppmとなるように金属化合物を供給することを特徴とする請求項1記載の金属化合物の供給方法。
【請求項3】
反応器中に供給される有機化合物がパラトルイル酸メチル又はパラキシレンとパラトルイル酸メチルの混合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の金属化合物の供給方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−51924(P2011−51924A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201699(P2009−201699)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】