説明

金属基複合材及びその製造方法

【課題】熱伝導特性に優れた金属基複合材、特に金属マトリックスとしてアルミニウムやマグネシウムを含む軽金属を適用した軽金属複合材、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】金属マトリックスと強化材を含有し、強化材としてカーボンナノチューブとセラミック短繊維を含む金属基複合材。
金属基複合材の製造方法である。強化材を無機バインダで固定成形して、座屈強度が0.5MPa以上のプリフォームを作製し、次いで、溶融させたマトリックス金属を当該プリフォームに加圧して含浸させ、しかる後、固化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基複合材及びその製造方法に係り、更に詳細には、強化材としてカーボンナノチューブとセラミック短繊維を含有する金属基複合材、特に軽金属基複合材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭素繊維や炭化ケイ素ウィスカ、アルミナ繊維等を強化材としてアルミニウム合金等に添加した複合材は、耐熱性に優れ、軽量で且つ高強度であることが知られており、自動車用部品などに使用されている。
【0003】
このような強化材は、主として機械的性質や耐摩耗性の向上についての効果は著しいものであるが、複合材に要求される性能はより厳しくなっており、例えば自動車のエンジン部品などでは、より軽量で高出力化が求められており、更なる高強度化と共に特に熱伝導性に優れたものが望まれている。
また、電子部品の放熱基板などでは、熱伝導性だけでなく低熱膨張性を有するものが望まれている。
【0004】
そこで、軽量アルミニウム合金又はマグネシウム合金に、更なる高比強度や耐熱性、耐摩耗性、低熱膨張性を付与するために、強化材として炭素繊維や金属繊維、セラミック繊維又はこれらの粒子を添加して複合化したものが提案されている(特許文献1参照。)。
これらの中でも、炭素繊維は高価ではあるが、強度特性、摩擦摩耗特性の向上効果が大きい強化材である。
【0005】
また、これらの複合材の作製は通常は鋳造法により行われる。マトリックス金属として粉末や箔を使用する焼結法によっても複合材の作製は可能であるが、形状・寸法の自由度や生産性等を考慮すると鋳造法による作製が現実的である。
【0006】
鋳造法では一般的に加圧鋳造法が適用される。これは、予め強化材をバインダなどで固定して、所望の形状及び体積分率に成形したプリフォームを作製しておき、金型中においてそのプリフォームにマトリックスとなる金属の溶湯を注ぎ、例えばパンチなどにより加圧し、溶融したマトリックス金属をプリフォームの隙間に充填し、そのまま凝固させて一体化させる方法である。
このような方法により、局部が強化材で複合化された部品を得ることができる。
【特許文献1】特開昭62−261648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したように、これらの複合材の代表的な用途である自動車部品は、より厳しい使用環境に耐え得るように、より高度な性能が要求されており、例えばエンジンの燃焼室周りや半導体基板などでは、放熱・伝熱特性を高めるため、特に熱的な性能、具体的には優れた熱伝導特性が求められている。
しかしながら、炭素繊維は、セラミック繊維よりは熱伝導度が高いが、金属マトリックスに比べて特に優れているというものではなく、これらの要求に応え得るものではない。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱伝導特性に優れた金属基複合材、特に金属マトリックスとしてアルミニウムやマグネシウムを含む軽金属を適用した軽金属複合材、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、強化材としてカーボンナノチューブとセラミック短繊維を添加することなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の金属基複合材は、金属マトリックスと強化材を含有し、該強化材としてカーボンナノチューブとセラミック短繊維を含むものである。
そして、その好適例としては、金属マトリックスとしてアルミニウムやマグネシウムを含む軽金属を適用した軽金属基複合材を挙げることができる。
【0011】
また、本発明の金属基複合材の製造方法は、強化材を無機バインダで固定成形して、座屈強度が0.5MPa以上のプリフォームを作製し、次いで、溶融させたマトリックス金属を当該プリフォームに加圧して含浸させ、しかる後、固化して、所望の金属基複合材を得る方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、強化材としてカーボンナノチューブとセラミック短繊維を添加することなどとしたため、熱伝導特性に優れた金属基複合材、特に軽金属基複合材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の金属基複合材について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の金属基複合材は、金属マトリックスと強化材を含有し、該強化材としてカーボンナノチューブ(CNT)とセラミック短繊維を含むものである。
CNTは炭素繊維と比較して熱伝導性が著しく優れたものであり、金属マトリックス中にセラミック短繊維と共に添加することにより、熱伝導特性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明においては、強化材の含有率が2〜50体積%であることが好ましく、5〜20体積%であることがより好ましい。
強化材の含有率が2体積%未満では、熱伝導率や熱膨張率低減効果が低く、またプリフォームの強度が低いため加圧鋳造の時に変形や破損を生じて健全な複合部を得ることが難しい。一方、強化材の含有率が50体積%を超えても、熱伝導性向上効果はあまり変わらず、また加圧鋳造の際に溶融金属の浸透抵抗が大きくなり、局部的にしか複合化されないおそれがある。
そして、要求される特性に応じて、強化材の含有率を適宜調整することができる。
【0015】
更に、本発明においては、強化材中のCNTの含有率が50〜95体積%であることが好ましく、強化材中のセラミック短繊維の含有率は5〜50体積%であることが好ましい。
CNTの含有率が50体積%未満の場合には、熱伝導特性の向上が十分なものとならないおそれがある。
また、セラミック短繊維の含有率が5体積%未満の場合には、例えば上述した加圧鋳造法によって作製する場合、プリフォームを作製する際にCNT自体がバインダに保持され難くなり好ましくない。
そして、上述の範囲内において、要求される特性に応じて、強化材中のCNTとセラミック短繊維の配合割合を決めることが望ましい。
【0016】
ここで、本発明の金属基複合材に用いる金属マトリックスとしては、特に限定されるものではないが、通常のアルミニウム(Al)やマグネシウム(Mg)などを含む軽金属を適用することができる。
【0017】
例えばAlを含む軽金属としては、Al金属単体でもよいが、融点を下げて溶融金属の流動性を向上させる効果のある、即ち加圧鋳造法における含浸工程の含浸抵抗を低下させる効果のあるケイ素(Si)を適量添加したAl合金が望ましく、ケイ素(Si)の含有量が1〜15%であるAl合金が特に好ましい。
その他金属マトリックスの強度や耐熱性を向上させるマグネシウム(Mg)や銅(Cu)、ニッケル(Ni)を適宜添加したAl合金も望ましい。
また、例えばMgを含む軽金属としては、Mg金属単体でもよいが、鋳造性や強度、耐熱性を向上させる効果のある亜鉛(Zn)やアルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、ジルコニウム(Zr)、希土類元素(RE)を添加したMg合金を挙げることができる。
なお、希土類元素としては、特に限定されるものではないが、典型的にはセリウム(Ce)やランタン(La)を主成分とするミッシュメタルが挙げれる。
【0018】
そして、金属マトリックスは、主たる合金元素として、Si、Mg、Cu又はNi、及びこれらの任意の組合わせに係る合金元素を含むAl合金や、主たる合金元素として、Zn、Al、Ca、Mn、Si、Zr又はRE、及びこれらの任意の組合わせに係る合金元素を含むMg合金などを代表的なものとして挙げることができる。
【0019】
また、本発明の金属基複合材に用いるCNTとしては、特に限定されるものではないが、代表的には直径20〜200nmのCNTやカーボンナノファイバを適用することができる。CNTは複合化する際に高温に曝されるため耐酸化性の高いものが望ましい。また、CNTは単層(SW−CNT)と多層(MW−CNT)のどちらでもかまわない。
【0020】
更に、本発明の金属基複合材に用いるセラミック短繊維の材質としては、特に限定されるものではないが、例えばアルミナや炭化ケイ素、ホウ酸アルミニウムなどを挙げることができる。
【0021】
更にまた、セラミック短繊維の形状としては、特に限定されるものではなく、複合材料の強化材として通常用いられるものでよい。例えば直径0.1〜10μm程度でアスペクト比は10以上でよい。材質についても酸化物、炭化物、窒化物等でかまわないが、熱的な安定性やマトリックス金属との濡れ易さなどから酸化物系が望ましい。
特に事後の機械加工性が要求されるような場合には、酸化物系セラミックウィスカの一種であるホウ酸アルミニウムウィスカを適用することが望ましい。
【0022】
次に、本発明の金属基複合材の製造方法について詳細に説明する。なお、上記本発明の金属基複合材はかかる製造方法により作製されたものに限定されるものではない。
【0023】
上述の如く、本発明の金属基複合材の製造方法は、上記本発明の金属基複合材を製造する方法であって、強化材を無機バインダで固定成形して、座屈強度が0.5MPa以上のプリフォームを作製し、次いで、溶融させたマトリックス金属を当該プリフォームに加圧して含浸させ、しかる後、固化して、所望の金属基複合材を得る方法である。
【0024】
このように、プリフォームを形成する際に強化材としてCNTと共にセラミック短繊維を添加することにより、無機バインダとの濡れ性も高まり、バインダの効果が十分に発揮され、十分な圧縮強度を有するプリフォームを作製することができ、結果として熱伝導特性に優れた複合材を得ることが可能となる。
【0025】
また、プリフォームの座屈強度は、0.5MPa以上であれば、通常の加圧鋳造法を適用して含浸して複合化することが可能となる。
一方、0.5MPa未満の場合には、溶融したマトリックス金属を加圧したときのプリフォームの変形が著しく、間隙が狭まって含浸させ難くなり、複合化が十分にできなくなる。更に、プリフォームの座屈強度が、1MPa以上であれば、変形も小さくなりより好ましい。
【0026】
なお、本発明者らは、強化材の1つであるCNTは、CNT単独でプリフォームを形成しても無機バインダとの濡れ性が低く、得られるプリフォームの座屈強度が低いため、溶融金属を注湯した後の加圧力に耐えられず、変形してしまい健全な複合材の作製が容易ではないという技術知見を得ている。
【0027】
ここで、本発明の金属基複合材の製造方法を具体的に説明する。
プリフォームの製造方法については、通常のセラミック短繊維やウィスカのプリフォームを作製する場合と同様の方法を適用することができる。
まず、強化材であるCNTとホウ酸アルミニウムウィスカなどのセラミック短繊維を溶媒中で撹拌分散させる。
なお、溶媒は通常は純水でよいが、強化材の量や配合割合によっては分散性が低下する場合もあり、その場合にはエタノールなどの有機溶媒を添加すればよい。また、分散性を更に良くする必要がある場合には、界面活性剤を分散剤として添加してもよい。
【0028】
次いで、無機バインダを投入し、凝集剤を添加し、pH調整剤を添加して、更に撹拌する。
なお、無機バインダとしては、例えばシリカゾルやアルミナゾルなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
また、凝集剤としては、例えばアクリル系の凝集剤を用いることができるが、これに限定されるものではない。
更に、pH調整剤としては、特に限定されるものではないが、例えばアンモニアを用いることができる。
【0029】
更に、得られたものをろ過して脱水した後、乾燥させてグリーン体を得る。得られたグリーン体を、非酸化性雰囲気や不活性雰囲気下、高温で焼成して無機バインダを固化してプリフォームが得られる。
なお、無機バインダ以外に、ポリビニルアルコールなどの有機バインダを併せて添加した場合は、高温で焼成する前に、低温で焼成して有機バインダを分解させておけばよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
純水に分散剤としてエタノールを添加した溶媒中に、直径が20〜50nmのMW−CNTを作製する複合材の全体積に対して1体積%となるように添加し、セラミック短繊維としてホウ酸アルミニウムウィスカ(四国化成製、商品名:アルボレックス)を作製する複合材の全体積に対して0.5体積%となるように添加した。
更に、バインダとしてシリカゾルを添加し、凝集剤としてアクリル系凝集剤を添加し、pH調整剤としてアンモニアを用いpHを9〜10に調整して撹拌した。
その後、得られたものをろ過してフィルタを介して脱水し、自然乾燥させてグリーン体を得た。
得られたグリーン体を窒素雰囲気下、1000℃で焼成して、プリフォーム(座屈強度;0.2MPa)を得た。
【0032】
次いで、得られたプリフォームを加熱(予熱温度:500℃)し、マトリックス金属としてJIS−H5202 AC8A合金を用いて、加圧溶融法(鋳込み温度:680〜700℃、加圧力:80〜100MPa)によって、本例の金属基複合材(インゴット)を得た。
【0033】
(実施例2)
CNTを作製する複合材の全体積に対して50体積%となるように添加し、ホウ酸アルミニウムウィスカを作製する複合材の全体積に対して15体積%となるように添加してプリフォーム(座屈強度;5MPa)を得た以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の金属基複合材(インゴット)を得た。
【0034】
(実施例3)
CNTを作製する複合材の全体積に対して15体積%となるように添加し、ホウ酸アルミニウムウィスカを作製する複合材の全体積に対して5体積%となるように添加してプリフォーム(座屈強度;2.5MPa)を得た以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の金属基複合材(インゴット)を得た。
【0035】
(実施例4)
CNTを作製する複合材の全体積に対して10体積%となるように添加し、ホウ酸アルミニウムウィスカを作製する複合材の全体積に対して10体積%となるように添加してプリフォーム(座屈強度;3MPa)を得た以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の金属基複合材(インゴット)を得た。
【0036】
(実施例5)
CNTを作製する複合材の全体積に対して5体積%となるように添加し、ホウ酸アルミニウムウィスカを作製する複合材の全体積に対して15体積%となるように添加してプリフォーム(座屈強度;3.5MPa)を得た以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の金属基複合材(インゴット)を得た。
【0037】
(比較例1)
CNTを作製する複合材の全体積に対して20体積%となるように添加し、セラミック短繊維を添加せずにプリフォーム(座屈強度;0.3MPa)を得た以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の金属基複合材(インゴット)を得た。
各例のプリフォームの仕様を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
[性能評価]
(加圧鋳造評価)
得られたインゴットから試験片を切り出して観察した。観察した結果を表1に併記する。
なお、表1中の加圧鋳造結果において、「○」は健全な複合材が得られたこと、「△」は部分的に未複合部を有する複合材が得られたこと、「×」は複合材が得られなかったこと、を示す。
【0040】
(熱伝導特性評価)
得られたインゴットから試験片を切り出し、熱伝導率を測定し、加圧鋳造した鋳物の非複合化部から切り出した試験片の熱伝導率と比較して向上効果を判断した。得られた結果を表1に併記する。
なお、表1中の熱伝導特性結果において、「◎」は効果が著しく大きいこと、「○」は効果が大きいこと、「△」は若干の効果があったこと、を示す。
【0041】
表1から、金属マトリックスにCNTとセラミック短繊維を添加することにより、熱伝導特性が向上することが分かり、特に所定の含有率にすることにより、著しく熱伝導特性が向上することが分かった。
また、現時点においては、熱伝導特性の向上の観点から、実施例3及び4が最も良好な結果をもたらすものと思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属マトリックスと強化材を含有し、該強化材としてカーボンナノチューブとセラミック短繊維を含むことを特徴とする金属基複合材。
【請求項2】
上記強化材の含有率が2〜50体積%であることを特徴とする請求項1に記載の金属基複合材。
【請求項3】
上記強化材中のカーボンナノチューブの含有率が50〜95体積%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属基複合材。
【請求項4】
上記金属マトリックスが、主たる合金元素として、ケイ素、マグネシウム、銅及びニッケルから成る群より選ばれた少なくとも1種を含有するアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の金属基複合材。
【請求項5】
上記金属マトリックスが、主たる合金元素として、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、マンガン、ケイ素、ジルコニウム及び希土類元素から成る群より選ばれた少なくとも1種を含有するマグネシウム合金であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の金属基複合材。
【請求項6】
上記セラミック短繊維が、酸化物系セラミックウィスカであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の金属基複合材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の金属基複合材を製造するに当たり、
上記強化材を無機バインダで固定成形して、座屈強度が0.5MPa以上のプリフォームを作製し、次いで、溶融させたマトリックス金属を当該プリフォームに加圧して含浸させ、しかる後、固化することを特徴とする金属基複合材の製造方法。
【請求項8】
上記プリフォームを得るに際し、強化材を有機溶媒を含む水溶液中で、分散剤、凝集剤及び無機バインダを加えて撹拌し、次いで、脱水乾燥処理及び加圧成形し、しかる後、非酸化性雰囲気下で焼成することを特徴とする請求項7に記載の金属基複合材の製造方法。


【公開番号】特開2007−16286(P2007−16286A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199840(P2005−199840)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(505259181)
【出願人】(505260899)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】