金属基複合材形成用鉄系プリフォーム及びジャーナル部構造
【課題】アルミニウム系合金による鋳包み性に優れ、安定した界面接合強度及び密着が確保できる金属基複合材形成用鉄系プリフォーム及び鉄系プリフォームを有するジャーナル部構造を提供する。
【解決手段】アルミニウム系合金母材で鋳包みされる金属基複合材形成用鉄系プリフォーム1のプリフォーム本体10に、内周面11と外周面12とを連通する第1〜第4貫通孔21A〜21Dを穿設する。鋳包み工程において、アルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う鉄系プリフォーム1の内周面11及び外周面12の周方向の収縮が、貫通孔21A〜21D内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う収縮によって均等に受け止められて、周方向の移動が抑制され、界面における隙間の発生が防止でき、鋳包み性に優れ、安定した界面接合強度が得られる。
【解決手段】アルミニウム系合金母材で鋳包みされる金属基複合材形成用鉄系プリフォーム1のプリフォーム本体10に、内周面11と外周面12とを連通する第1〜第4貫通孔21A〜21Dを穿設する。鋳包み工程において、アルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う鉄系プリフォーム1の内周面11及び外周面12の周方向の収縮が、貫通孔21A〜21D内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う収縮によって均等に受け止められて、周方向の移動が抑制され、界面における隙間の発生が防止でき、鋳包み性に優れ、安定した界面接合強度が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基複合材(Metal Matrix Composite:以下、頭文字をとってMMCと言う)の形成に用いるアルミニウム系合金による鋳包み性に優れた金属基複合材形成用鉄系プリフォーム及びジャーナル部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両用エンジンにおいては、重量軽減を図るためアルミニウム系合金を鋳造したシリンダブロックが広く使用されている。このようなエンジンにおいてはアルミニウム系合金(熱膨張係数:21.0×10−6/℃程度)よりなるシリンダブロックにジャーナル部を形成し、このジャーナル部に軸受メタルを介装して鉄系材料のクランクシャフト(熱膨張係数:9×10−6〜12×10−6/℃程度)を軸支すると、エンジン作動時にはシリンダ内における混合気の燃焼により発生した熱がジャーナル部に伝達され、ジャーナル部の温度が上昇して鉄系材料のクランクシャフトとアルミニウム系合金からなる母材との熱膨張係数の差により、軸受メタルが介在するジャーナル部の軸受面とクランクシャフトとの間のクリアランスが過大になって車両走行時に振動や騒音の発生を招くことになる。
【0003】
そこで、例えば、水平対向4気筒エンジンのクランクシャフトを軸支するジャーナル部にあっては、アルミニウム系合金からなる左右のシリンダブロックにそれぞれ中央部が半円弧状に凹設された軸受面を有するジャーナル部に、シリンダブロックの鋳造時に鉄系粉末焼結体からなる鉄系プリフォームを鋳包みして鉄系プリフォームをMMC化することにより、母材となるシリンダブロックのアルミニウム系合金を変更することなくジャーナル部に必要な熱膨張係数を得るようにしている。
【0004】
ところが、アルミニウム系合金の母材の一部または全部をMMC化する場合、一般的に鋳造法、特に高速・高圧鋳造法(High Pressure Die Casting:以下、頭文字をとってHPDCと言う)を用いて界面の接合強度を確保し、鉄系粉末焼結体からなるプリフォームにアルミニウム系合金を容易に溶浸させて密着性を安定的に確保することは極めて困難である。また、鉄系粉末焼結体からなるプリフォームをアルミニウム系合金で鋳包む際には、鋳包み後のアルミニウム系合金溶湯の溶浸状態が機械的特性や物理的特性に大きく影響することが知られており、このような影響を少なくするために鋳造条件が制約されることが多い。
【0005】
一方、鉄系粉末焼結体からなるプリフォームの組織を基地中に遊離Cu相が分散した組織とし、更にショットブラスト処理或いは更に水蒸気処理を施し、プリフォームの表面粗さを特定の粗さ範囲とすることにより、鉄系粉末焼結体からなるプリフォームとアルミニウム系合金の溶湯との濡れ性が向上してアルミニウム系合金による鋳包み性が向上し、アルミニウム系合金からなる母材と鉄系プリフォームとの接合強度が向上することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−204298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1によると、Cuが固溶して鉄系粉末焼結材からなるプリフォームの強度を増加させると共に、遊離Cu相として基地中に析出してプリフォームがアルミニウム系合金で鋳包まれる際にアルミニウム系合金と反応して界面の接合強度を増加させることができる。
【0008】
しかし、アルミニウム系合金によって鋳包みする際に、プリフォームの形状や仕様等に起因してプリフォームと母材との界面が一定の接合強度に達する前に、プリフォームを鋳包むアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に発生する応力が加わると界面の密着が不安定になり、かつ界面に隙間が発生して接合強度が不安定になることが懸念される。これらの界面における接合強度の不安定や、隙間の発生等の現象は、HPDCのように急冷凝固を伴う場合に顕著である。
【0009】
ジャーナル部においてアルミニウム系合金からなる母材とプリフォームとの界面に隙間があると、母材とプリフォームとの間の熱伝導効率が低下してジャーナル部の周方向において熱伝導率のバラツキが発生する。このバラツキによりジャーナル部が均等に膨張しなくなり、ジャーナル部の軸受面による軸受メタルの支持が不安定になりクランクシャフトと軸受メタルとの間の摩擦係数が高くなる。この摩擦係数の増加すなわち摩擦抵抗の増大に起因して軸受メタルの摩耗が激しくなりエンジンの燃費、性能、耐久性等が低下する要因となる。
【0010】
更に、ジャーナル部においてプリフォームと母材との界面に隙間があると、ジャーナル部の軸受面を機械加工する際に、薄肉に形成された該部が加工時の負荷により弾性変形してジャーナル部の加工精度が低下する。
【0011】
また、界面に隙間が存在すると、鉄系粉末焼結体からなるプリフォームを鋳包むアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に発生する残留応力や熱膨張の差によって高い負荷による応力集中が起こり、アルミニウム系合金部、即ち母材が破損することがある。
【0012】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の第1の目的は、アルミニウム系合金による鋳包み性に優れ、安定した界面接合強度及び密着が確保できる金属基複合材形成用鉄系プリフォームを提供することにある。また、第2の目的はこの鉄系プリフォームを有するジャーナル部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記第1の目的を達成する請求項1に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォームの発明は、断面半円弧状で中心軸芯延在方向に沿って連続形成された凹面を有するアルミニウム系合金母材で鋳包みされ、上記凹面に沿う断面半円弧状乃至U字状で上記中心軸芯延在方向に沿って連続する内周面及び外周面を有するプリフォーム本体を備えた金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記プリフォーム本体は、上記内周面と外周面とを連通する貫通孔が穿設されたことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記貫通孔は、内径をAとすると、1mm≦A≦19mmであることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記貫通孔は、内径をA、深さをCとすると、0.5A≦C≦5Aであることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記内周面に開口する貫通孔の内方端と上記内周面との連続部分は、滑らかに連続する曲面乃至面取り形状であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記貫通孔の内面に表面積拡大処理が施されていることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記貫通孔が複数穿設され、貫通孔の内径をA、上記内周面において隣接する貫通孔の開口中心間の間隔をBとすると、1.5A≦B≦5Aであることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記プリフォーム本体の内周面及び/または外周面に開口する有底孔が穿設されていることを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム発明は、断面半円弧状で中心軸芯延在方向に沿って連続形成された凹面を有するアルミニウム系合金母材で鋳包みされ、上記凹面に沿う断面半円弧状乃至U字状で上記中心軸芯延在方向に沿って連続する内周面及び外周面を有するプリフォーム本体を備えた金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記プリフォーム本体は、内周面及び/または外周面に開口する有底孔が穿設されたことを特徴とする。
【0021】
請求項9に記載の発明は、請求項7または8の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記有底孔は、内径をaとすると、1mm≦a≦19mmであることを特徴とする。
【0022】
請求項10に記載の発明は、請求項7〜9のいずれか1項の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記有底孔は、内径をa、深さをcとすると、0.5a≦c≦5aであることを特徴とする。
【0023】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記鉄系プリフォームは、鉄系粉末焼結体からなることを特徴とする。
【0024】
上記第2の目的を達成する請求項12に記載のジャーナル部構造の発明は、上記請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォームを、上記プリフォーム本体の内周面に沿う断面半円弧状で中心軸芯延在方向に沿って連続形成された凹面状の軸受面を有するアルミニウム系合金母材で鋳包みしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1の発明によると、プリフォーム本体に、内周面と外周面とを連通する貫通孔を穿設することによって、鋳包み工程において、鉄系プリフォームの外周面側に注湯されたアルミニウム合金溶湯は、鉄系プリフォームの表面に沿って内周面側に侵入すると共に、外周面側から貫通孔を経て内周面側に供給されて良好な湯廻り性が得られる。また、半円弧状の凹面と鉄系プリフォームの内周面との間に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に内周面に沿って収縮応力が作用し、かつ外周面側に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮によって外周面に沿って収縮応力が作用したときに、貫通孔に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力による抗力によって内周面及び外周面に沿う収縮応力が分散されて受け止められてアルミニウム系合金溶湯の移動が抑制されると共に内周面及び外周面に密着し、収縮後の母材に生じる残留応力が緩和される。
【0026】
更に、このアルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時におけるアルミニウム合金溶湯の移動の抑制に伴って、母材と鉄系プリフォームとの界面における隙間の発生が防止でき、安定した界面接合強度及び密着が確保できる。
【0027】
請求項2の発明によると、貫通孔の内径を1mm以上乃至19mm以下とすることによって、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う内周面及び外周面に沿う収縮応力に対抗する拘束力が適切に確保され、界面接合強度が安定する。仮に、貫通孔の内径を1mmより小さくすると、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う内周面及び外周面に沿う応力に対抗する拘束力が過少になり、界面の密着性向上の効果が極めて小さくなる。また、ショットブラスト処理を施す場合には、貫通孔の内面にショットが良好に吹き付け難く、ショットブラスト処理の効果が期待できない。一方、貫通孔の内径Aを19mmより大きくすると、鉄系プリフォームの体積が減少してプリフォーム本来の機能効果が減少することが懸念され、かつ貫通孔内でアルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う収縮の影響が大きく、貫通孔内における母材との密着性が低下して拘束力が過少になり、界面の接合強度が不安定になる。
【0028】
請求項3に記載の発明によると、貫通孔の深さを内径の0.5倍以上で5倍以下にすることによって、鋳包みの際に貫通孔内にアルミニウム系合金溶湯の侵入が容易になり、かつ貫通孔の形成が容易になる。
【0029】
請求項4の発明によると、内周面に開口する貫通孔の内方端と内周面との連続部分を滑らかに連続する曲面乃至面取り形状にするこことによって、界面接合強度及び密着が確保できると共に、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時の応力集中が抑制されて母材の破断やクラックの発生が防止される。
【0030】
請求項5の発明によると、貫通孔の内面に表面積拡大処理、例えば螺旋状の溝やリブ、スリットにより貫通孔の内面の面積を増大させて、貫通孔内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力による抗力が増大する。
【0031】
請求項6の発明によると、隣接する貫通孔の開口中心間の間隔を貫通孔の1.5倍以上乃至5倍以下にすることによって、貫通孔の形成が容易になるとともに界面における隙間の発生が防止されて、界面の接合強度が確保できる。
【0032】
請求項7の発明によると、プリフォーム本体の内周面及び/または外周面に開口する有底孔を穿設することで、有底孔に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力による抗力によって、内周面や外周面に沿って作用する収縮応力が分散されて受け止められ、アルミニウム系合金溶湯の移動が抑制されて内周面や外周面に密着し、収縮後の母材に生じる残留応力が緩和される。この有底孔は貫通孔に比べ穿設の制約が少なく、貫通孔の穿設が制限される部位でも有底孔を穿設することができる。
【0033】
請求項8の発明によると、プリフォーム本体の内周面及び/または外周面に開口する有底孔に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力による抗力によって、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による内周面及び外周面に沿って作用する収縮応力が分散されて受け止められ、アルミニウム系合金溶湯の内周面及び外周面に沿う移動が抑制されると共に内周面及び外周面に密着し、凝固及び収縮後の母材に生じる残留応力が緩和される。更に、このアルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時におけるアルミニウム合金溶湯の移動抑制に伴って、母材と鉄系プリフォームとの界面における隙間の発生が防止でき、鋳包み性に優れ、安定した界面接合強度及び密着が確保できる。
【0034】
請求項9の発明によると、有底孔の内径を1mm以上乃至19mm以下とすることによって、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う内周面及び/または外周面に沿う応力に対抗する拘束力が適切に確保され、母材の界面強度が安定する。仮に、有底孔の内径を1mmより小さくすると、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う内周面及び/または外周面に沿う応力に対抗する拘束力が過少になり、界面の密着性向上の効果が極めて小さくなる。また、ショットブラスト処理を施す場合に有底孔の内面にショットが良好に吹き付け難く、ショットブラスト処理の効果が期待できない。一方、有底孔の内径Aを19mmより大きくすると、鉄系プリフォームの体積が減少してプリフォーム本来の機能効果が減少することが懸念され、かつ有底孔内でアルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う収縮の影響が大きく、有底孔内における母材との密着性が低下して、拘束力が過少になり界面強度が不安定になる。
【0035】
請求項10の発明によると、有底孔の深さを内径の0.5倍以上で5倍以下にすることによって、鋳包みの際に有底孔内にアルミニウム系合金溶湯の侵入が容易になり、かつ有底孔の成形が容易になる。
【0036】
請求項11によると、鉄系粉末焼結体からなる鉄系プリフォームは空孔を有し、アルミニウム系合金溶湯で鋳包むことによって、アルミニウム系合金溶湯が鉄系プリフォームに容易に且つ安定的に密着し、場合により溶浸して鉄系プリフォームを適切にMMC化することができる。
【0037】
請求項12によると、鉄系プリフォームを、鉄系プリフォームの内周面に沿う断面半円弧状で連続形成された凹面状の軸受面を有するアルミニウム系合金からなる母材で鋳包みして形成したジャーナル部は、鉄系材料のシャフトとの熱膨張係数の差が小さくなり、ジャーナル部の温度が上昇してもシャフトと軸受面とのクリアランスを許容範囲内に収めることができ、シャフトの回転中における振動や騒音の発生を防止することができる。
【0038】
更に、鉄系プリフォームの内周面における界面の隙間の発生が防止され、母材と鉄系プリフォームとの熱伝導効率が向上してジャーナル部の周方向において熱伝導率が均一になり、ジャーナル部の軸受面側が均等に膨張して真円度が確保される。これにより、シャフトとの間の摩擦係数の増加が抑制され、この摩擦抵抗の減少に伴ってエンジンの燃費、性能、耐久性等が確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明による金属基複合材形成用鉄系プリフォーム及び鉄系プリフォームを有するジャーナル部構造の実施の形態について、水平対向4気筒エンジンのクランクジャーナル部及び該ジャーナル部に配置される鉄系プリフォームを例に図を参照して説明する。
【0040】
(第1実施の形態)
図1は、第1実施の形態に係る鉄系プリフォームの概要を示す斜視図、図2は図1のI−I線断面図である。
【0041】
本実施の形態に係る金属基複合材形成用鉄系プリフォーム(以下「鉄系プリフォーム」という)1は、例えば鉄系粉体と、銅粉と、黒鉛粉と、潤滑剤粉末と或いは更に被削性改善用微細粒子粉とを混合して混合粉とした後、この混合粉を金型に装入してプレス等を用いて加圧成形し、1100〜1250℃で焼結した鉄系粉末焼結体によって形成される。なお、焼結条件は、鉄系粉末焼結体の熱膨張係数が13.5×10−6/℃以下となるように、温度、時間を調整することが好ましい。
【0042】
この鉄系プリフォーム1は、図1及び図2に示すように、中心軸芯L方向に沿って延在する半円弧状乃至U字状の内周面11及び外周面12、対向する端面13、14とを備えたプリフォーム本体10を有し、プリフォーム本体10の両端にそれぞれ半径方向に延在するフランジ部15、16が一体形成され、各フランジ部15、16には連通孔15a、16aが穿設されている。
【0043】
プリフォーム本体10の内周面11は、略半円弧状で中心軸芯L方向に沿って延在する第1内周面11aと、第1内周面11aの一方端に連続形成された平面状の第2内周面11b、第2内周面11b及び第1内周面11aの他端にそれぞれ連続するとともに互いに対向する平面状の第3内周面11cと第4内周面11dを有している。一方、外周面12は、略半円弧状で中心軸芯L方向に沿って延在する第1外周面12aと、第1外周面12aの一方端に連続形成された平面状の第2外周面12b、第2外周面12b及び第1外周面12aの他端にそれぞれ連続すると共に互いに対向する平面状の第3外周面12cと第4外周面12dを有している。
【0044】
プリフォーム本体10の外周面12と内周面11とを連通する貫通孔が複数穿設されている。本実施の形態では中心軸芯Lを直交する基準線Laを有して第1内周面11aと第1外周面12aの間を連通する第1貫通孔21A、基準線Laと平行な基準線Lbを有して第2内周面11bと第2外周面12bの間を連通する第2貫通孔21B、基準線Laと直交する基準線Lcを有して第3内周面11cと第3外周面12cの間を連通する第3貫通孔21C、基準線Laと直交する基準線Ldを有して第1内周面11aの第4内周面11d近傍と第4外周面12dの間を連通する第4貫通孔21Dの各貫通通孔が穿設されている。
【0045】
これら第1〜第4貫通孔21A〜21Dを形成することによって、鉄系プリフォーム1の内周面11と外周面12が連通してアルミニウム系合金により鋳包みした際に湯廻りが良好になるとともに、鉄系プリフォーム1の表面積が増大してアルミニウム系合金の溶湯との密着性及び接合強度の向上が図られ、かつアルミニウム系合金溶湯が容易に且つ安定的に密着し、場合により溶浸して鉄系プリフォーム1のMMC化が得られる。これらの第1〜第4貫通孔21A〜21Dは金型による加圧成形時または焼結体の加工時に形成される。好ましくは金型による加圧成形時に同時に成形することにより製造の効率化が得られると共に製造コストの抑制が得られる。
【0046】
第1貫通孔21Aは、断面円形で基準線La方向に連続する円筒状の内面を有して内方端22Aaが第1内周面11aに開口する貫通孔本体22Aと、貫通孔本体22Aの外方端22Abに連続形成されて第1外周面12aに開口し、かつ貫通孔本体22Aの外方端22Ab側から第1外周面11a側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部23Aを有している。
【0047】
第2貫通孔21Bは、断面円形で基準線Lb方向に連続する円筒状の内面を有して内方端22Baが第2内周面11bに開口する貫通孔本体22Bと、貫通孔本体22Bの外方端22Bbに連続形成されて第2外周面12bに開口し、かつ貫通孔本体22Bの外方端22Bb側から第2外周面12b側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部23Bを有している。
【0048】
第3貫通孔21Cは、断面円形で基準線Lc方向に連続する円筒状の内面を有して内方端22Caが第3内周面11cに開口する貫通孔本体22Cと、貫通孔本体22Cの外方端22Cbに連続形成されて第3外周面12cに開口し、かつ貫通孔本体22Cの外方端22Cb側から第3外周面12c側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部23Cを有している。
【0049】
第4貫通孔21Dは、断面円形で基準線Ld方向に連続する円筒状の内面を有して内方端22Daが第1内周面11aに開口する貫通孔本体22Dと、貫通孔本体22Dの外方端22Dbに連続形成されて第4外周面12dに開口し、かつ貫通孔本体22Dの外方端22Db側から第4外周面12d側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部23Dを有している。
【0050】
各貫通孔21A〜21Dの形状はMMC化する製品形状等の仕様により異なるが、各貫通孔本体22A〜22Dの内径Aは、プリフォーム本体10の厚さ、即ち内周面11から外周面12までの寸法が5〜20mmでアルミニウム系合金による鋳包みによって内周面11側に形成される後述する薄肉部38、39(図5参照)の厚さが0.5〜9.5mmのときには1〜19mmが好ましい(1mm≦A≦19mm)。また、隣接する貫通孔21の間隔B、即ち内周面11側における第1貫通孔21Aの貫通孔本体22Aの内方端22Aaと第2貫通孔21Bの貫通孔本体22Bの内方端22Baの開口中心間の間隙B、第2貫通孔21Bの貫通孔本体22Bの内方端22Baと第3貫通孔21Cの貫通孔本体22Cの内方端22Caの開口中心間の間隔B、第1貫通孔21Aの貫通孔本体22Aの内方端22Aaと第4貫通孔21Dの貫通孔本体22Dの内方端22Daの開口中心間の間隔Bは、貫通孔本体22A〜22Dの内径Aの1.5倍以上乃至5倍以下(1.5A≦B≦5A)に形成される。
【0051】
内周面11に開口する各貫通孔本体22A〜22Dの内方端22Aa〜22Daと内周面11との連続部分が滑らかに連続する曲面、いわゆるR形状或いは面取り形状に形成されている。
【0052】
また、第1〜第4貫通孔21A〜21Dの深さCは貫通孔本体22A〜22Dの内径Aの0.5倍以上乃至5倍以下(0.5A≦C≦5A)が好ましい。
【0053】
これら、各貫通孔21A〜21Dの貫通孔本体22A〜22Dの内径A、隣接する第1〜第4貫通孔21A〜21Dの各間隔B、第1〜第4貫通孔21A〜21Dの各深さC、及び、各貫通孔本体22A〜22Dの内方端22Aa〜22Daと内周面12との連続部分の曲面形状は、MMC化する製品形状等の仕様により最適に設定するには、予め実験やシミュレーションにより、製品における界面の密着状態及び母材側のクラック等の発生状況により決定すること好ましい。
【0054】
この鉄系プリフォーム1は、必要に応じてショットブラスト処理が施され、表面粗さをRzで10〜100μmとされる。このショットブラスト処理を施すことにより、表面に形成された酸化被膜等が除去されて表面が清浄化され、基地中に分散する遊離Cu相が表面に露出される。これによりアルミニウム系合金の溶湯との濡れ性が向上してアルミニウム系合金による鋳包み性が向上する。
【0055】
このように形成された鉄系プリフォーム1は、鋳型内にセットされ、アルミニウム系合金の溶湯で鋳包むことによって、鉄系プリフォーム1にアルミニウム系合金が容易に且つ安定的に密着し、場合により溶浸して鉄系プリフォーム1がMMC化する。
【0056】
図3及び図4は、この鉄系プリフォーム1が用いられるジャーナル部の実施の形態を示すものである。本実施の形態は、水平対向4気筒エンジンのシャフト、例えばクランクシャフトを軸支するクランクジャーナル部を示すもので、図3はシリンダブロックのクランクシャフトと直交する方向の縦断面図であり、図4は図3のII矢視図である。
【0057】
図3及び図4において、左右のシリンダブロック31、32は、アルミニウム系合金により別個に鋳造成形され、その左側のシリンダブロック31には、中央部に半円弧状に形成された凹面である軸受面34を有する複数の左側ジャーナル部33が形成されており、右側シリンダブロック32にも同様の軸受面36を有する複数の右側ジャーナル部35が形成されている。
【0058】
クランクシャフト41は、左右の各ジャーナル部33、35の軸受面34、36に半割状の軸受メタル40a、40bを介在させて挟み込ませて配設され、各ジャーナル部33、35の半円弧状の軸受面34、36に軸受メタル40a、40bを介在して軸支される。このクランクシャフト41は、鉄系材料で形成されており、シリンダ内における混合気の燃焼によるピストンの往復運動がコンロッドを介して伝達されることにより回転し、その回転中においてジャーナル部33、35は大きな衝撃的な荷重を常時受けると共に、混合気の燃焼による熱の伝搬により熱膨張する。
【0059】
本実施の形態では、左右の各ジャーナル部33、35に、図1及び図2に示した構造の鉄系プリフォーム1をMMC化して設ける。各鉄系プリフォーム1は、各シリンダブロック31、32の鋳造成形時に、その鋳造型のジャーナル部形成位置に配置して鋳包み工程においてMMC化して設ける。
【0060】
この鋳包み工程において、鉄系プリフォーム1の外周面12側に注湯されたアルミニウム合金溶湯は、鉄系プリフォーム1の表面に沿って鉄系プリフォーム1の内周面11側に侵入すると共に、各貫通孔21A〜21Dを経ても内周面11側に供給されて良好なアルミニウム系合金溶湯の湯廻り性が得られる。これは、特に図5に示すようにジャーナル部33、34に形成された半円弧状の軸受面34、36と鉄系プリフォーム1の内周面11との間に形成される2〜3mm程度と極めて薄い薄肉部38、39にあっても良好な湯廻り性が得られる。
【0061】
このジャーナル部33、35の軸受面34、36と鉄系プリフォーム1の内周面11との間の薄肉部38、39に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に内周面11に沿って周方向に収縮応力σ1が作用し、外周面12側に注湯されたアルミニウム系合金の凝固及び収縮によっても外周面12に沿って周方向に収縮応力σ2が作用する。一方、鉄系プリフォーム1の各貫通孔21A〜21D内内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮によって各貫通孔21A〜21Dに沿ってそれぞれ収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6が作用する。
【0062】
これら鉄系プリフォーム1の各貫通孔21A〜21D内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6による抗力によって、薄肉部38、39に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に内周面11に沿って周方向に作用する収縮応力σ1が分散されて受け止められる。これにより、アルミニウム系合金溶湯の内周面11に沿う移動が抑制されると共に内周面11に密着し、収縮後のアルミニウム系合金による薄肉部38、39に生じる残留応力を軽減及び均等に分散することができ、薄肉部38、39の残留応力が緩和されて該部の割れ等が防止できる。
【0063】
同様に、鉄系プリフォーム1の各貫通孔21A〜21D内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6による抗力により、鉄系プリフォーム1の外周面12側に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮によって外周面12に沿って作用する収縮応力σ2が分散されて受け止められ、アルミニウム系合金溶湯の外周面12に沿う移動が抑制されると共に外周面12に密着し、収縮後の該部に生じる残留応力を軽減及び均等に分散することができる。
【0064】
更に、アルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時におけるアルミニウム系合金溶湯の鉄系プリフォーム1の内周面11及び外周面12に沿う周方向の移動の抑制及び密着に伴って、鉄系プリフォーム1とアルミニウム系合金による母材との界面における隙間の発生が防止でき、鉄系プリフォーム1の内周面11及び外周面12と薄肉部38、39を含む母材との界面強度が確保できる。
【0065】
ここで、鉄系プリフォーム1は鉄系粉末焼結体からなるため空孔を有し、鋳包み時にアルミニウム系合金溶湯が鉄系プリフォーム1に容易に且つ安定的に密着し、場合により溶浸してMMC化され、MMC化された鉄系プリフォーム1の熱膨張係数と鉄系材料からなるクランクシャフト41との熱膨張係数の差が小さくなるので、ジャーナル部33、35の温度が上昇しても、クランクシャフト41と軸受面34、36とのクリアランスを許容範囲内に収めることができ、クランクシャフト41の回転中における振動や騒音の発生を防止することができる。
【0066】
更に、鉄系プリフォーム1の内周面11及び外周面12との界面における隙間の発生を防止し、内周面11及び外周面12との界面接合強度を確保することで、母材と鉄系プリフォーム1との間の熱伝導効率が向上してジャーナル部33、35の周方向において熱伝導率が均一になり、ジャーナル部33、35の軸受面34、36側が均等に膨張してジャーナル部33、35による軸受メタル40a、40bの支持が安定してクランクシャフト41と軸受メタル40a、40bとの間の摩擦係数の増加が抑制されるため、摩擦抵抗の減少に伴ってエンジンの燃費、性能、耐久性等が確保できる。
【0067】
更に、ジャーナル部33、35において薄肉部38、39と鉄系プリフォーム1との界面に隙間がなくなり、ジャーナル部33、35の軸受面34、36を機械加工する際に薄肉に形成された薄肉部38、39の加工時の負荷による変形が抑制されてジャーナル部33、35の加工精度が向上する。
【0068】
ここで、第1〜第4貫通孔21A〜21D内での収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6が過少の場合には、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う薄肉部38、39の応力σ1に対抗する拘束力が過少になり内周面11と母材の界面に連続した隙間が形成されて界面強度が不安定になる。そこで、本実施の形態では鉄系プリフォーム1に穿設される第1〜第4貫通孔21A〜21Dの貫通孔本体22A〜22Dを内径1〜19mmの断面円形で連続する内面を円筒状に形成したが、仮に貫通孔21A〜21Dをテーパ孔に形成した場合には、界面の密着には有利だが鉄系プリフォームの加工が困難になり製造コストの増大を招くと共に貫通孔と内周面と連続部分にアンダーカット部が形成されて収縮応力σ1に対抗する拘束力が過大になり、凝縮及び収縮時に応力集中が発生して母材、特に薄肉部38、39に破断やクラックの発生する確率が高くなる。
【0069】
また、貫通孔21A〜21Dの内径Aを1mmより小さくすると、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う薄肉部38、39の応力σ1に対抗する拘束力が過少になり界面の密着性向上の効果が極めて小さく、また、ショットブラスト処理を施す場合に貫通孔の内面にショットが良好に吹き付け難く、ショットブラスト処理の効果が期待できない。
【0070】
一方、貫通孔21A〜21Dの内径Aを19mmより大きくすると、鉄系プリフォーム1の体積が減少してプリフォーム本来の機能効果が減少することが懸念され、かつ第1〜第4貫通孔21A〜21D内でアルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う収縮の影響が大きく、第1〜第4貫通孔21A〜21D内における母材との密着性が低下し、薄肉部38、39の応力σ1に対抗する拘束力が過少になり内周面11と母材との界面強度が不安定になる。
【0071】
隣接する貫通孔21の間隔B、即ち内周面11側における第1貫通孔21Aの貫通孔本体22Aの内方端22Aaと第2貫通孔21Bの貫通孔本体22Bの内方端22Baの開口中心間の間隔B、第2貫通孔21Bの貫通孔本体22Bの内方端22Baと第3貫通孔21Cの貫通孔本体22Cの内方端22Caの開口中心間の間隔B、第1貫通孔21Aの貫通孔本体22Aの内方端22Aaと第4貫通孔21Dの貫通孔本体22Dの内方端22Daの開口中心間の間隔Bが、内径Aの1.5倍より小さいと鉄系プリフォーム1を金型による加圧成形が困難になり、かつ機械加工等により各第1〜第4貫通孔21A〜21Dを追加加工するには大幅な製造コストの増大を招くと共に鉄系プリフォーム1の体積が減少してプリフォーム本来の機能効果が減少することが懸念される。一方、隣接する貫通孔21の間隔Bが内径Aの5倍を超えると貫通孔間の部分に隙間が発生する可能性が高くなる。
【0072】
更に、内周面11と第1〜第4貫通孔21A〜21Dの内周面11に開口する各貫通孔本体22A〜22Dの内方端22Aa〜22Daと内周面11との連続部分の曲面或いは面取り形状の曲率半径が過大であると、界面強度及び密着が悪化する一方、過小であると鉄系プリフォーム1の製造が困難になると共に、アルミニウム系合金溶湯の凝縮及び収縮時に応力集中が発生して母材、特に薄肉部38、39に破断やクラックが発生する。
【0073】
また、第1〜第4貫通孔21A〜21Dの深さCが、内径Aの0.5倍より小さいと、鋳包みの際に第1〜第4貫通孔21A〜21D内にアルミニウム系合金溶湯の侵入が困難になる一方、内径Aの5倍を超えると鉄系プリフォーム1の金型による加圧成形が困難になり、機械加工等により第1〜第4貫通孔21A〜21Dを追加加工するには大幅な製造コストの増大を招く要因となる。
【0074】
なお、本実施の形態では、鉄系プリフォーム1の第1〜第4貫通孔21A〜21Dの貫通孔本体22A〜22Dの内面を断面円形で連続する円筒状に形成したが、図6(a)に断面を示し、III矢視図を同図(b)に示すように、貫通孔本体22A〜22Dの内面に螺旋状の溝22cを形成したり、図7(a)に断面を示し、IV矢視図を同図(b)に示すように、貫通孔本体22A〜22Dの内面に複数のリブ22dを形成することによって、或いはスリット等を形成して貫通孔の内面に表面積拡大処理を施すことにより、貫通孔本体22A〜22Dの内面の面積を増大させて、各貫通孔21A〜21D内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6による抗力を増大させることができる。これにより、内周面11に沿って作用する収縮応力σ1及び外周面12に沿って作用する収縮応力σ2をより確実に受け止め、アルミニウム系合金溶湯の内周面11及び外周面12に沿う移動を抑制して内周面11及び外周面12と母材との密着効果を向上すると共に、収縮後の母材に生じる残留応力を軽減させることができる。
【0075】
なお、図8に図2に対応する鉄系プリフォーム1の断面を示しように、中心軸芯Lを直交する基準線Laを有して第1内周面11aと第1外周面12aの間を連通する第1貫通孔21A、基準線Laと平行な基準線Lbを有して第2内周面11bと第2外周面12bの間を連通する第2貫通孔21B、基準線Laと直交する基準線Le、Lfを有して第3内周面11cと第3外周面12cの間を連通する比較的小径の一対の第5貫通孔21E、第6貫通孔21F、基準線Laと直交する基準線Lgを有して第1内周面11aの第4内周面11d近傍と第4外周面12dの間を連通する比較的小径の第7貫通孔21G、基準線Lgと平行な基準線Lhを有して第4内周面11dと第4外周面12dの間を連通する比較的小径の第8貫通孔21H、及び第1貫通孔21Aと第8貫通孔21Hとの間において中心軸芯Lを斜交する基準線Ljを有して第1内周面11aと第1外周面12aの間を連通する第9貫通孔21Jを穿設する等、内周面11と外周面12とを連通する貫通孔の数、配置、大きさ等を、MMC化する製品形状等の仕様により最適に設定することができる。これら貫通孔の数、配置、大きさ等は、予め実験やシミュレーションにより、製品における界面の密着状態及び母材側のクラック等の発生状況により決定することが好ましい。
【0076】
(第2実施の形態)
図9は、第2実施の形態に係る鉄系プリフォーム51の概要を示し、上記図2に対応する断面図である。なお、図2と対応する部分には同一符号を付することで該部の詳細な説明を省略する。
【0077】
本実施の形態に係る鉄系プリフォーム51は、上記鉄系プリフォーム1と同様の鉄系粉末焼結体によって形成される。
【0078】
この鉄系プリフォーム51は、図9に示すように鉄系プリフォーム1と同様に、第1内周面11a、第2内周面11b、第3内周面11c、第4内周面11dを有する断面半円弧状乃至U字状の内周面11及び第1外周面12a、第2外周面12b、第3外周面12c、第4外周面12dを有する断面半円弧状乃至U字状の外周面12を備えたプリフォーム本体10を有し、プリフォーム本体10の両端にフランジ部15、16が一体形成されている。
【0079】
プリフォーム本体10の外周面12と内周面11とを連通する貫通孔、及び外周面12に開口する複数の有底孔が複数穿設されている。これら有底孔は、貫通孔に比べ穿設の制約が少なく、貫通孔の穿設が制限される部位でも穿設することができる。本実施の形態では、中心軸芯Lと直交する基準線Laを有して第1外周面12に開口する第1有底孔61A、基準線Laと平行な基準線Lbを有して第2内周面11bと第2外周面12bの間を連通する貫通孔65、基準線Laと直交する基準線Lcを有して第3外周面12cに開口する第2有底孔61B、基準線Laと直交する基準線Ldを有して第4外周面12dに開口する第3有底孔61Cが穿設されている。
【0080】
貫通孔65を形成することによって鉄系プリフォーム51の内周面11と外周面12が貫通孔65を介して連通してアルミニウム系合金により鋳包みした際に湯廻りが良好になるとともに、第1〜第3有底孔61A〜61Cを形成することによって鉄系プリフォーム51の表面積が増大してアルミニウム系合金の溶湯との密着性及び接合強度の向上が図られ、かつアルミニウム系合金溶湯が場合により溶浸して鉄系プリフォーム51のMMC化が得られる。これらの第1〜第3有底孔61A〜61C及び貫通孔65は金型による加圧成形時または焼結体の加工時に形成される。好ましくは金型による加圧成形時に同時に成形することにより製造の効率化が得られると共に製造コストの抑制が得られる。
【0081】
貫通孔65は、断面円形で基準線Lb方向に連続する円筒状の内面を有して内方端66aが第2内周面11bに開口する貫通孔本体66と、貫通孔本体66の外方端66bに連続形成されて第2外周面12bに開口し、かつ貫通孔本体66の外方端66b側から第2外周面12b側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部67を有している。第1実施の形態の各貫通孔21A〜21Gと同様に貫通孔本体66の内径Aは、1〜19mm(1mm≦A≦19mm)が好ましく、内周面11に開口する貫通孔本体66の内方端66aと内周面11との連続部分が滑らかに連続する曲面、いわゆるR形状或いは面取り形状に形成され、貫通孔65の深さCは貫通孔本体66の内径Aの0.5倍以上乃至5倍以下(0.5A≦C≦5A)が好ましい。
【0082】
第1有底孔61Aは、断面円形で基準線La方向に連続する円筒状の内面を有して内方端62Aaに底部62Acを有する有底孔本体62Aと、有底孔本体62Aの外方端62Abに連続形成されて第1外周面12aに開口し、かつ有底孔本体62Aの外方端62Ab側から第1外周面12a側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部63Aを有している。
【0083】
第2有底孔61Bは、断面円形で基準線Lc方向に連続する円筒状の内面を有して内方端62Baに底部62Bcを有する有底孔本体62Bと、有底孔本体62Bの外方端62Bbに連続形成されて第3外周面12cに開口し、かつ有底孔本体62Bの外方端62Bb側から第3外周面12c側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部63Bを有している。
【0084】
第3有底孔61Cは、断面円形で基準線Ld方向に連続する円筒状の内面を有して内方端62Caに底部62Ccを有する有底孔本体62Cと、有底孔本体62Cの外方端62Cbに連続形成されて第4外周面12dに開口し、かつ有底孔本体62Cの外方端62Cb側から第4外周面12d側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部63Cを有している。
【0085】
第1〜第3有底孔61A〜61C、及び貫通孔65の形状はMMC化する製品形状等の仕様により異なるが、第1〜第3有底孔61A〜61Cの有底孔本体62A〜62Cの内径aは1〜19mm(1mm≦a≦19mm)が好ましい。また、第1〜第3有底孔61A〜61Cの深さcは有底孔本体62A〜62Cの内径aの0.5倍以上乃至5倍以下(0.5a≦c≦5a)が好ましい。
【0086】
これら、各有底孔61A〜61Cの有底孔本体62A〜62Cの内径a及び有底孔61A〜61Cの深さc等は、MMC化する製品形状等の仕様により最適に設定するには、予め実験やシミュレーションにより、製品における界面の密着状態及び母材側のクラック等の発生状況により決定することが好ましい。
【0087】
この鉄系プリフォーム51は、必要に応じてショットブラスト処理が施される。ショットブラスト処理を施すことにより、表面に形成された酸化被膜等が除去されて表面が清浄化され、基地中に分散する遊離Cu相が表面に露出されてアルミニウム系合金による鋳包み性が向上する。
【0088】
図10は、この鉄系プリフォーム51が用いられるジャーナル部の実施の形態を示すものであり、鉄系プリフォーム51は、各シリンダブロックの鋳造成形時に、その鋳造型のジャーナル部形成位置に配置して鋳包み工程においてMMC化して設ける。
【0089】
この鋳包み工程において、鉄系プリフォーム51の外周面12側に注湯されたアルミニウム系合金溶湯は、鉄系プリフォーム51の表面に沿って鉄系プリフォーム51の内周面11側に侵入すると共に、貫通孔65を経ても内周面11側に供給されて良好なアルミニウム系合金溶湯の湯廻り性が得られる。
【0090】
このジャーナル部33、35の軸受面34、36と鉄系プリフォーム51の内周面11との間の薄肉部38、39に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に内周面11に沿って周方向に収縮応力σ1が作用し、外周面12側に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮によっても外周面12に沿って周方向に収縮応力σ2が作用する。一方、鉄系プリフォーム51の第1有底孔61A、貫通孔65、第2有底孔61B及び第3有底孔61C内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮によって第1有底孔61A、貫通孔65、第2有底孔61B及び第3有底孔61Cに沿ってそれぞれ収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6が作用する。
【0091】
これら鉄系プリフォーム51の貫通孔65に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ4による抗力によって、薄肉部38、39に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に内周面11に沿って周方向に作用する収縮応力σ1が分散されて受け止められ、アルミニウム系合金溶湯の内周面11に沿う移動が抑制されると共に内周面11に密着し、収縮後の薄肉部38、39に生じる残留応力を軽減すると共に均等に分散することができ、薄肉部38、39の残留応力が緩和されて該部の割れ等が防止できる。
【0092】
同様に、鉄系プリフォーム51の第1有底孔61A、貫通孔65、第2有底孔61B及び第3有底孔61C内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6による抗力により、鉄系プリフォーム51の外周面12側に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮によって外周面12に沿って作用する収縮応力σ2が分散されて受け止められ、アルミニウム系合金溶湯の外周面12に沿う移動が抑制されると共に外周面12に密着し、収縮後の該部に生じる残留応力を軽減すると共に均等に分散することができる。
【0093】
更に、アルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時におけるアルミニウム系合金溶湯の鉄系プリフォーム51の内周面11及び外周面12に沿う周方向の移動の抑制及び密着に伴って、鉄系プリフォーム51とアルミニウム系合金による母材との界面における隙間の発生が防止でき、鉄系プリフォーム51の内周面11及び外周面12と薄肉部38、39を含む母材との界面接合強度が確保できる。
【0094】
ここで、鉄系プリフォーム51は鉄系粉末焼結体からなるため空孔を有し、鋳包み時にアルミニウム系合金溶湯が鉄系プリフォーム51に容易に且つ安定的に密着し、場合により溶浸してMMC化され、MMC化された鉄系プリフォーム51の熱膨張係数と鉄系材料からなるクランクシャフト41との熱膨張係数の差が小さくなるので、ジャーナル部33、35の温度が上昇しても、クランクシャフト41と軸受面34、36とのクリアランスを許容範囲内に収めることができ、クランクシャフト41の回転中における振動や騒音の発生を防止することができる。
【0095】
更に、鉄系プリフォーム51の内周面11及び外周面12との界面における隙間の発生を防止し、内周面11及び外周面12との界面強度を確保することで、アルミニウム系合金からなる母材と鉄系プリフォーム51との間の熱伝導効率が向上してジャーナル部33、35の周方向において熱伝導率が均一になり、ジャーナル部33、35の軸受面34、36側が均等に膨張してジャーナル部33、35による軸受メタルの支持が安定してクランクシャフトと軸受メタルとの間の摩擦係数の増加が抑制され、摩擦抵抗の減少に伴ってエンジンの燃費、性能、耐久性等が確保できる。
【0096】
更に、ジャーナル部33、35において薄肉部38、39と鉄系プリフォーム51との界面に隙間がなくなり、ジャーナル部33、35の軸受面34、36を機械加工する際に薄肉に形成された薄肉部38、39の加工時の負荷による変形が抑制されてジャーナル部33、35の加工精度が向上する。
【0097】
ここで、貫通孔65の内周面11側に加わる収縮応力が過少の場合には、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う薄肉部38、39の応力σ1に対抗する拘束力が過少になり内周面11と母材の界面に連続した隙間が形成されて界面強度が不安定になる。そこで、本実施の形態では鉄系プリフォーム51に穿設される貫通孔65の貫通孔本体66を内径1〜19mmの断面円形で連続する内面を円筒状に形成したが、仮に貫通孔65の内径Aを1mmより小さくすると、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う薄肉部38、39の応力σ1に対抗する拘束力が過少になり界面の密着性向上の効果が極めて小さくなる。一方、貫通孔65の内径Aを19mmより大きくすると、鉄系プリフォーム51の体積が減少してプリフォーム本来の機能効果が減少することが懸念され、かつ貫通孔65内でアルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う収縮の影響が大きく、貫通孔65内における母材との密着性が低下し、薄肉部38、39の応力σ1に対抗する拘束力が過少になり内周面11と母材との界面強度が不安定になる。
【0098】
また、第1〜第3有底孔61A〜61C及び貫通孔65内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ3、σ5、σ6、σ4による抗力が過少の場合には、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う外周面12側の母材の応力σ2に対抗する拘束力が過少になり外周面12と母材の界面に連続した隙間が形成されて界面強度が不安定になる。そこで、本実施の形態では鉄系プリフォーム51に穿設される貫通孔65の内径A及び第1〜第3有底孔61A〜61Cの内径aを1〜19mmの断面円形で連続する内面を円筒状に形成したが、仮に貫通孔65の内径A及び各有底孔61A〜61Cの内径aを1mmより小さくすると、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う外周面12側の母材による応力σ2に対抗する拘束力が過少になり界面の密着性向上の効果が極めて小さく、また、ショットブラスト処理を施す場合に貫通孔本体66及び有底孔本体62A〜62Cの内面にショットが良好に吹き付け難く、ショットブラスト処理の効果が期待できない。
【0099】
一方、貫通孔65の内径A及び各有底孔61A〜61Cの内径aを19mmより大きくすると、鉄系プリフォーム51の体積が減少してプリフォーム本来の機能効果が減少することが懸念され、かつ貫通孔本体66及び有底孔本体62A〜62C内でアルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う収縮の影響が大きく、貫通孔本体66及び有底孔本体62A〜62C内における母材との密着性が低下し、外周面12と母材の応力σ2に対抗する拘束力が過少になり外周面12と母材との界面強度が不安定になる。
【0100】
また、貫通孔65の深さC及び第1〜第3有底孔61A〜61Cの深さcが、それぞれ内径A、内径aの0.5倍より小さいと、鋳包みの際に貫通孔65及び第1〜第3有底孔61A〜61C内にアルミニウム系合金溶湯の侵入が困難になり、また内径A、内径aの5倍を超えると鉄系プリフォーム51を金型による加圧成形が困難になり、機械加工等により貫通孔65及び第1〜第3有底孔61A〜61Cを追加加工するには大幅な製造コストの増大を招く要因となる。
【0101】
なお、本実施の形態では、鉄系プリフォーム51の第1〜第3有底孔61A〜61Cの有底孔本体62A〜62Cの内面を断面円形で連続する円筒状に形成したが、図11(a)に断面を示し、V矢視図を同図(b)に示すように有底孔本体62A〜62Cの内面に螺旋状の溝62cを形成したり、図12(a)に断面を示し、VI矢視図を同図(b)に示すように有底孔本体62A〜62Cの内面に複数のリブ62dを形成することによって、或いはスリット等を形成して有底孔本体62A〜62Cの内面に表面積拡大処理を施すことにより有底孔本体62A〜62Cの内面の面積を増大させて、第1〜第3有底孔61A〜61C内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ3、σ5、σ6を増大させることができる。これにより、外周面12に沿って周方向に作用する収縮応力σ2をより確実に受け止めて、アルミニウム系合金溶湯の外周面12に沿う移動を抑制して外周面12と母材との密着効果を向上すると共に、収縮後の母材に生じる残留応力を軽減させることができる。
【0102】
また、本実施の形態では、外周面12に開口する第1有底孔61A〜61Cを穿設したが、内周面11に開口する有底孔を配置することもできる。更に貫通孔及び有底孔の数及び配置、大きさ等をMMC化する製品形状等の仕様により最適に設定することができる。これら貫通孔の数、配置、大きさ等は、予め実験やシミュレーションにより、製品における界面の密着状態及び母材側のクラック等の発生状況により決定すること好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】第1実施の形態に係る鉄系プリフォームの概要を示す斜視図である。
【図2】図1のI−I線断面図である。
【図3】シリンダブロックのクランクシャフトと直交する方向の縦断面図である。
【図4】図3のII矢視図である。
【図5】ジャーナル部の説明図である。
【図6】他の貫通孔を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)のIII矢視図である。
【図7】他の貫通孔を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)のIV矢視図である。
【図8】他の鉄系プリフォームの断面図である。
【図9】第2実施の形態に係る鉄系プリフォームの断面図である。
【図10】ジャーナル部の説明図である。
【図11】他の有底孔を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)のV矢視図である。
【図12】他の有底孔を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)のVI矢視図である。
【符号の説明】
【0104】
1 金属基複合材形成用鉄系プリフォーム
10 プリフォーム本体
11 内周面
12 外周面
21A〜21H 第1〜第8貫通孔(貫通孔)
22c 螺旋状の溝(表面積拡大処理)
22d リブ(表面積拡大処理)
33、35 ジャーナル部
34、36 軸受面(凹面)
38、39 薄肉部
51 鉄系プリフォーム
61A〜61C 第1〜第3有底孔
62c 螺旋状の溝(表面積拡大処理)
62d リブ(表面積拡大処理)
65 貫通孔
A 貫通孔の内径
B 貫通孔の間隔
C 貫通孔の深さ
a 有底孔の内径
c 有底孔の深さ
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基複合材(Metal Matrix Composite:以下、頭文字をとってMMCと言う)の形成に用いるアルミニウム系合金による鋳包み性に優れた金属基複合材形成用鉄系プリフォーム及びジャーナル部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両用エンジンにおいては、重量軽減を図るためアルミニウム系合金を鋳造したシリンダブロックが広く使用されている。このようなエンジンにおいてはアルミニウム系合金(熱膨張係数:21.0×10−6/℃程度)よりなるシリンダブロックにジャーナル部を形成し、このジャーナル部に軸受メタルを介装して鉄系材料のクランクシャフト(熱膨張係数:9×10−6〜12×10−6/℃程度)を軸支すると、エンジン作動時にはシリンダ内における混合気の燃焼により発生した熱がジャーナル部に伝達され、ジャーナル部の温度が上昇して鉄系材料のクランクシャフトとアルミニウム系合金からなる母材との熱膨張係数の差により、軸受メタルが介在するジャーナル部の軸受面とクランクシャフトとの間のクリアランスが過大になって車両走行時に振動や騒音の発生を招くことになる。
【0003】
そこで、例えば、水平対向4気筒エンジンのクランクシャフトを軸支するジャーナル部にあっては、アルミニウム系合金からなる左右のシリンダブロックにそれぞれ中央部が半円弧状に凹設された軸受面を有するジャーナル部に、シリンダブロックの鋳造時に鉄系粉末焼結体からなる鉄系プリフォームを鋳包みして鉄系プリフォームをMMC化することにより、母材となるシリンダブロックのアルミニウム系合金を変更することなくジャーナル部に必要な熱膨張係数を得るようにしている。
【0004】
ところが、アルミニウム系合金の母材の一部または全部をMMC化する場合、一般的に鋳造法、特に高速・高圧鋳造法(High Pressure Die Casting:以下、頭文字をとってHPDCと言う)を用いて界面の接合強度を確保し、鉄系粉末焼結体からなるプリフォームにアルミニウム系合金を容易に溶浸させて密着性を安定的に確保することは極めて困難である。また、鉄系粉末焼結体からなるプリフォームをアルミニウム系合金で鋳包む際には、鋳包み後のアルミニウム系合金溶湯の溶浸状態が機械的特性や物理的特性に大きく影響することが知られており、このような影響を少なくするために鋳造条件が制約されることが多い。
【0005】
一方、鉄系粉末焼結体からなるプリフォームの組織を基地中に遊離Cu相が分散した組織とし、更にショットブラスト処理或いは更に水蒸気処理を施し、プリフォームの表面粗さを特定の粗さ範囲とすることにより、鉄系粉末焼結体からなるプリフォームとアルミニウム系合金の溶湯との濡れ性が向上してアルミニウム系合金による鋳包み性が向上し、アルミニウム系合金からなる母材と鉄系プリフォームとの接合強度が向上することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−204298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1によると、Cuが固溶して鉄系粉末焼結材からなるプリフォームの強度を増加させると共に、遊離Cu相として基地中に析出してプリフォームがアルミニウム系合金で鋳包まれる際にアルミニウム系合金と反応して界面の接合強度を増加させることができる。
【0008】
しかし、アルミニウム系合金によって鋳包みする際に、プリフォームの形状や仕様等に起因してプリフォームと母材との界面が一定の接合強度に達する前に、プリフォームを鋳包むアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に発生する応力が加わると界面の密着が不安定になり、かつ界面に隙間が発生して接合強度が不安定になることが懸念される。これらの界面における接合強度の不安定や、隙間の発生等の現象は、HPDCのように急冷凝固を伴う場合に顕著である。
【0009】
ジャーナル部においてアルミニウム系合金からなる母材とプリフォームとの界面に隙間があると、母材とプリフォームとの間の熱伝導効率が低下してジャーナル部の周方向において熱伝導率のバラツキが発生する。このバラツキによりジャーナル部が均等に膨張しなくなり、ジャーナル部の軸受面による軸受メタルの支持が不安定になりクランクシャフトと軸受メタルとの間の摩擦係数が高くなる。この摩擦係数の増加すなわち摩擦抵抗の増大に起因して軸受メタルの摩耗が激しくなりエンジンの燃費、性能、耐久性等が低下する要因となる。
【0010】
更に、ジャーナル部においてプリフォームと母材との界面に隙間があると、ジャーナル部の軸受面を機械加工する際に、薄肉に形成された該部が加工時の負荷により弾性変形してジャーナル部の加工精度が低下する。
【0011】
また、界面に隙間が存在すると、鉄系粉末焼結体からなるプリフォームを鋳包むアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に発生する残留応力や熱膨張の差によって高い負荷による応力集中が起こり、アルミニウム系合金部、即ち母材が破損することがある。
【0012】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の第1の目的は、アルミニウム系合金による鋳包み性に優れ、安定した界面接合強度及び密着が確保できる金属基複合材形成用鉄系プリフォームを提供することにある。また、第2の目的はこの鉄系プリフォームを有するジャーナル部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記第1の目的を達成する請求項1に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォームの発明は、断面半円弧状で中心軸芯延在方向に沿って連続形成された凹面を有するアルミニウム系合金母材で鋳包みされ、上記凹面に沿う断面半円弧状乃至U字状で上記中心軸芯延在方向に沿って連続する内周面及び外周面を有するプリフォーム本体を備えた金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記プリフォーム本体は、上記内周面と外周面とを連通する貫通孔が穿設されたことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記貫通孔は、内径をAとすると、1mm≦A≦19mmであることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記貫通孔は、内径をA、深さをCとすると、0.5A≦C≦5Aであることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記内周面に開口する貫通孔の内方端と上記内周面との連続部分は、滑らかに連続する曲面乃至面取り形状であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記貫通孔の内面に表面積拡大処理が施されていることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記貫通孔が複数穿設され、貫通孔の内径をA、上記内周面において隣接する貫通孔の開口中心間の間隔をBとすると、1.5A≦B≦5Aであることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記プリフォーム本体の内周面及び/または外周面に開口する有底孔が穿設されていることを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム発明は、断面半円弧状で中心軸芯延在方向に沿って連続形成された凹面を有するアルミニウム系合金母材で鋳包みされ、上記凹面に沿う断面半円弧状乃至U字状で上記中心軸芯延在方向に沿って連続する内周面及び外周面を有するプリフォーム本体を備えた金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記プリフォーム本体は、内周面及び/または外周面に開口する有底孔が穿設されたことを特徴とする。
【0021】
請求項9に記載の発明は、請求項7または8の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記有底孔は、内径をaとすると、1mm≦a≦19mmであることを特徴とする。
【0022】
請求項10に記載の発明は、請求項7〜9のいずれか1項の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記有底孔は、内径をa、深さをcとすると、0.5a≦c≦5aであることを特徴とする。
【0023】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項の金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、上記鉄系プリフォームは、鉄系粉末焼結体からなることを特徴とする。
【0024】
上記第2の目的を達成する請求項12に記載のジャーナル部構造の発明は、上記請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォームを、上記プリフォーム本体の内周面に沿う断面半円弧状で中心軸芯延在方向に沿って連続形成された凹面状の軸受面を有するアルミニウム系合金母材で鋳包みしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1の発明によると、プリフォーム本体に、内周面と外周面とを連通する貫通孔を穿設することによって、鋳包み工程において、鉄系プリフォームの外周面側に注湯されたアルミニウム合金溶湯は、鉄系プリフォームの表面に沿って内周面側に侵入すると共に、外周面側から貫通孔を経て内周面側に供給されて良好な湯廻り性が得られる。また、半円弧状の凹面と鉄系プリフォームの内周面との間に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に内周面に沿って収縮応力が作用し、かつ外周面側に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮によって外周面に沿って収縮応力が作用したときに、貫通孔に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力による抗力によって内周面及び外周面に沿う収縮応力が分散されて受け止められてアルミニウム系合金溶湯の移動が抑制されると共に内周面及び外周面に密着し、収縮後の母材に生じる残留応力が緩和される。
【0026】
更に、このアルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時におけるアルミニウム合金溶湯の移動の抑制に伴って、母材と鉄系プリフォームとの界面における隙間の発生が防止でき、安定した界面接合強度及び密着が確保できる。
【0027】
請求項2の発明によると、貫通孔の内径を1mm以上乃至19mm以下とすることによって、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う内周面及び外周面に沿う収縮応力に対抗する拘束力が適切に確保され、界面接合強度が安定する。仮に、貫通孔の内径を1mmより小さくすると、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う内周面及び外周面に沿う応力に対抗する拘束力が過少になり、界面の密着性向上の効果が極めて小さくなる。また、ショットブラスト処理を施す場合には、貫通孔の内面にショットが良好に吹き付け難く、ショットブラスト処理の効果が期待できない。一方、貫通孔の内径Aを19mmより大きくすると、鉄系プリフォームの体積が減少してプリフォーム本来の機能効果が減少することが懸念され、かつ貫通孔内でアルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う収縮の影響が大きく、貫通孔内における母材との密着性が低下して拘束力が過少になり、界面の接合強度が不安定になる。
【0028】
請求項3に記載の発明によると、貫通孔の深さを内径の0.5倍以上で5倍以下にすることによって、鋳包みの際に貫通孔内にアルミニウム系合金溶湯の侵入が容易になり、かつ貫通孔の形成が容易になる。
【0029】
請求項4の発明によると、内周面に開口する貫通孔の内方端と内周面との連続部分を滑らかに連続する曲面乃至面取り形状にするこことによって、界面接合強度及び密着が確保できると共に、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時の応力集中が抑制されて母材の破断やクラックの発生が防止される。
【0030】
請求項5の発明によると、貫通孔の内面に表面積拡大処理、例えば螺旋状の溝やリブ、スリットにより貫通孔の内面の面積を増大させて、貫通孔内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力による抗力が増大する。
【0031】
請求項6の発明によると、隣接する貫通孔の開口中心間の間隔を貫通孔の1.5倍以上乃至5倍以下にすることによって、貫通孔の形成が容易になるとともに界面における隙間の発生が防止されて、界面の接合強度が確保できる。
【0032】
請求項7の発明によると、プリフォーム本体の内周面及び/または外周面に開口する有底孔を穿設することで、有底孔に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力による抗力によって、内周面や外周面に沿って作用する収縮応力が分散されて受け止められ、アルミニウム系合金溶湯の移動が抑制されて内周面や外周面に密着し、収縮後の母材に生じる残留応力が緩和される。この有底孔は貫通孔に比べ穿設の制約が少なく、貫通孔の穿設が制限される部位でも有底孔を穿設することができる。
【0033】
請求項8の発明によると、プリフォーム本体の内周面及び/または外周面に開口する有底孔に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力による抗力によって、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による内周面及び外周面に沿って作用する収縮応力が分散されて受け止められ、アルミニウム系合金溶湯の内周面及び外周面に沿う移動が抑制されると共に内周面及び外周面に密着し、凝固及び収縮後の母材に生じる残留応力が緩和される。更に、このアルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時におけるアルミニウム合金溶湯の移動抑制に伴って、母材と鉄系プリフォームとの界面における隙間の発生が防止でき、鋳包み性に優れ、安定した界面接合強度及び密着が確保できる。
【0034】
請求項9の発明によると、有底孔の内径を1mm以上乃至19mm以下とすることによって、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う内周面及び/または外周面に沿う応力に対抗する拘束力が適切に確保され、母材の界面強度が安定する。仮に、有底孔の内径を1mmより小さくすると、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う内周面及び/または外周面に沿う応力に対抗する拘束力が過少になり、界面の密着性向上の効果が極めて小さくなる。また、ショットブラスト処理を施す場合に有底孔の内面にショットが良好に吹き付け難く、ショットブラスト処理の効果が期待できない。一方、有底孔の内径Aを19mmより大きくすると、鉄系プリフォームの体積が減少してプリフォーム本来の機能効果が減少することが懸念され、かつ有底孔内でアルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う収縮の影響が大きく、有底孔内における母材との密着性が低下して、拘束力が過少になり界面強度が不安定になる。
【0035】
請求項10の発明によると、有底孔の深さを内径の0.5倍以上で5倍以下にすることによって、鋳包みの際に有底孔内にアルミニウム系合金溶湯の侵入が容易になり、かつ有底孔の成形が容易になる。
【0036】
請求項11によると、鉄系粉末焼結体からなる鉄系プリフォームは空孔を有し、アルミニウム系合金溶湯で鋳包むことによって、アルミニウム系合金溶湯が鉄系プリフォームに容易に且つ安定的に密着し、場合により溶浸して鉄系プリフォームを適切にMMC化することができる。
【0037】
請求項12によると、鉄系プリフォームを、鉄系プリフォームの内周面に沿う断面半円弧状で連続形成された凹面状の軸受面を有するアルミニウム系合金からなる母材で鋳包みして形成したジャーナル部は、鉄系材料のシャフトとの熱膨張係数の差が小さくなり、ジャーナル部の温度が上昇してもシャフトと軸受面とのクリアランスを許容範囲内に収めることができ、シャフトの回転中における振動や騒音の発生を防止することができる。
【0038】
更に、鉄系プリフォームの内周面における界面の隙間の発生が防止され、母材と鉄系プリフォームとの熱伝導効率が向上してジャーナル部の周方向において熱伝導率が均一になり、ジャーナル部の軸受面側が均等に膨張して真円度が確保される。これにより、シャフトとの間の摩擦係数の増加が抑制され、この摩擦抵抗の減少に伴ってエンジンの燃費、性能、耐久性等が確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明による金属基複合材形成用鉄系プリフォーム及び鉄系プリフォームを有するジャーナル部構造の実施の形態について、水平対向4気筒エンジンのクランクジャーナル部及び該ジャーナル部に配置される鉄系プリフォームを例に図を参照して説明する。
【0040】
(第1実施の形態)
図1は、第1実施の形態に係る鉄系プリフォームの概要を示す斜視図、図2は図1のI−I線断面図である。
【0041】
本実施の形態に係る金属基複合材形成用鉄系プリフォーム(以下「鉄系プリフォーム」という)1は、例えば鉄系粉体と、銅粉と、黒鉛粉と、潤滑剤粉末と或いは更に被削性改善用微細粒子粉とを混合して混合粉とした後、この混合粉を金型に装入してプレス等を用いて加圧成形し、1100〜1250℃で焼結した鉄系粉末焼結体によって形成される。なお、焼結条件は、鉄系粉末焼結体の熱膨張係数が13.5×10−6/℃以下となるように、温度、時間を調整することが好ましい。
【0042】
この鉄系プリフォーム1は、図1及び図2に示すように、中心軸芯L方向に沿って延在する半円弧状乃至U字状の内周面11及び外周面12、対向する端面13、14とを備えたプリフォーム本体10を有し、プリフォーム本体10の両端にそれぞれ半径方向に延在するフランジ部15、16が一体形成され、各フランジ部15、16には連通孔15a、16aが穿設されている。
【0043】
プリフォーム本体10の内周面11は、略半円弧状で中心軸芯L方向に沿って延在する第1内周面11aと、第1内周面11aの一方端に連続形成された平面状の第2内周面11b、第2内周面11b及び第1内周面11aの他端にそれぞれ連続するとともに互いに対向する平面状の第3内周面11cと第4内周面11dを有している。一方、外周面12は、略半円弧状で中心軸芯L方向に沿って延在する第1外周面12aと、第1外周面12aの一方端に連続形成された平面状の第2外周面12b、第2外周面12b及び第1外周面12aの他端にそれぞれ連続すると共に互いに対向する平面状の第3外周面12cと第4外周面12dを有している。
【0044】
プリフォーム本体10の外周面12と内周面11とを連通する貫通孔が複数穿設されている。本実施の形態では中心軸芯Lを直交する基準線Laを有して第1内周面11aと第1外周面12aの間を連通する第1貫通孔21A、基準線Laと平行な基準線Lbを有して第2内周面11bと第2外周面12bの間を連通する第2貫通孔21B、基準線Laと直交する基準線Lcを有して第3内周面11cと第3外周面12cの間を連通する第3貫通孔21C、基準線Laと直交する基準線Ldを有して第1内周面11aの第4内周面11d近傍と第4外周面12dの間を連通する第4貫通孔21Dの各貫通通孔が穿設されている。
【0045】
これら第1〜第4貫通孔21A〜21Dを形成することによって、鉄系プリフォーム1の内周面11と外周面12が連通してアルミニウム系合金により鋳包みした際に湯廻りが良好になるとともに、鉄系プリフォーム1の表面積が増大してアルミニウム系合金の溶湯との密着性及び接合強度の向上が図られ、かつアルミニウム系合金溶湯が容易に且つ安定的に密着し、場合により溶浸して鉄系プリフォーム1のMMC化が得られる。これらの第1〜第4貫通孔21A〜21Dは金型による加圧成形時または焼結体の加工時に形成される。好ましくは金型による加圧成形時に同時に成形することにより製造の効率化が得られると共に製造コストの抑制が得られる。
【0046】
第1貫通孔21Aは、断面円形で基準線La方向に連続する円筒状の内面を有して内方端22Aaが第1内周面11aに開口する貫通孔本体22Aと、貫通孔本体22Aの外方端22Abに連続形成されて第1外周面12aに開口し、かつ貫通孔本体22Aの外方端22Ab側から第1外周面11a側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部23Aを有している。
【0047】
第2貫通孔21Bは、断面円形で基準線Lb方向に連続する円筒状の内面を有して内方端22Baが第2内周面11bに開口する貫通孔本体22Bと、貫通孔本体22Bの外方端22Bbに連続形成されて第2外周面12bに開口し、かつ貫通孔本体22Bの外方端22Bb側から第2外周面12b側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部23Bを有している。
【0048】
第3貫通孔21Cは、断面円形で基準線Lc方向に連続する円筒状の内面を有して内方端22Caが第3内周面11cに開口する貫通孔本体22Cと、貫通孔本体22Cの外方端22Cbに連続形成されて第3外周面12cに開口し、かつ貫通孔本体22Cの外方端22Cb側から第3外周面12c側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部23Cを有している。
【0049】
第4貫通孔21Dは、断面円形で基準線Ld方向に連続する円筒状の内面を有して内方端22Daが第1内周面11aに開口する貫通孔本体22Dと、貫通孔本体22Dの外方端22Dbに連続形成されて第4外周面12dに開口し、かつ貫通孔本体22Dの外方端22Db側から第4外周面12d側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部23Dを有している。
【0050】
各貫通孔21A〜21Dの形状はMMC化する製品形状等の仕様により異なるが、各貫通孔本体22A〜22Dの内径Aは、プリフォーム本体10の厚さ、即ち内周面11から外周面12までの寸法が5〜20mmでアルミニウム系合金による鋳包みによって内周面11側に形成される後述する薄肉部38、39(図5参照)の厚さが0.5〜9.5mmのときには1〜19mmが好ましい(1mm≦A≦19mm)。また、隣接する貫通孔21の間隔B、即ち内周面11側における第1貫通孔21Aの貫通孔本体22Aの内方端22Aaと第2貫通孔21Bの貫通孔本体22Bの内方端22Baの開口中心間の間隙B、第2貫通孔21Bの貫通孔本体22Bの内方端22Baと第3貫通孔21Cの貫通孔本体22Cの内方端22Caの開口中心間の間隔B、第1貫通孔21Aの貫通孔本体22Aの内方端22Aaと第4貫通孔21Dの貫通孔本体22Dの内方端22Daの開口中心間の間隔Bは、貫通孔本体22A〜22Dの内径Aの1.5倍以上乃至5倍以下(1.5A≦B≦5A)に形成される。
【0051】
内周面11に開口する各貫通孔本体22A〜22Dの内方端22Aa〜22Daと内周面11との連続部分が滑らかに連続する曲面、いわゆるR形状或いは面取り形状に形成されている。
【0052】
また、第1〜第4貫通孔21A〜21Dの深さCは貫通孔本体22A〜22Dの内径Aの0.5倍以上乃至5倍以下(0.5A≦C≦5A)が好ましい。
【0053】
これら、各貫通孔21A〜21Dの貫通孔本体22A〜22Dの内径A、隣接する第1〜第4貫通孔21A〜21Dの各間隔B、第1〜第4貫通孔21A〜21Dの各深さC、及び、各貫通孔本体22A〜22Dの内方端22Aa〜22Daと内周面12との連続部分の曲面形状は、MMC化する製品形状等の仕様により最適に設定するには、予め実験やシミュレーションにより、製品における界面の密着状態及び母材側のクラック等の発生状況により決定すること好ましい。
【0054】
この鉄系プリフォーム1は、必要に応じてショットブラスト処理が施され、表面粗さをRzで10〜100μmとされる。このショットブラスト処理を施すことにより、表面に形成された酸化被膜等が除去されて表面が清浄化され、基地中に分散する遊離Cu相が表面に露出される。これによりアルミニウム系合金の溶湯との濡れ性が向上してアルミニウム系合金による鋳包み性が向上する。
【0055】
このように形成された鉄系プリフォーム1は、鋳型内にセットされ、アルミニウム系合金の溶湯で鋳包むことによって、鉄系プリフォーム1にアルミニウム系合金が容易に且つ安定的に密着し、場合により溶浸して鉄系プリフォーム1がMMC化する。
【0056】
図3及び図4は、この鉄系プリフォーム1が用いられるジャーナル部の実施の形態を示すものである。本実施の形態は、水平対向4気筒エンジンのシャフト、例えばクランクシャフトを軸支するクランクジャーナル部を示すもので、図3はシリンダブロックのクランクシャフトと直交する方向の縦断面図であり、図4は図3のII矢視図である。
【0057】
図3及び図4において、左右のシリンダブロック31、32は、アルミニウム系合金により別個に鋳造成形され、その左側のシリンダブロック31には、中央部に半円弧状に形成された凹面である軸受面34を有する複数の左側ジャーナル部33が形成されており、右側シリンダブロック32にも同様の軸受面36を有する複数の右側ジャーナル部35が形成されている。
【0058】
クランクシャフト41は、左右の各ジャーナル部33、35の軸受面34、36に半割状の軸受メタル40a、40bを介在させて挟み込ませて配設され、各ジャーナル部33、35の半円弧状の軸受面34、36に軸受メタル40a、40bを介在して軸支される。このクランクシャフト41は、鉄系材料で形成されており、シリンダ内における混合気の燃焼によるピストンの往復運動がコンロッドを介して伝達されることにより回転し、その回転中においてジャーナル部33、35は大きな衝撃的な荷重を常時受けると共に、混合気の燃焼による熱の伝搬により熱膨張する。
【0059】
本実施の形態では、左右の各ジャーナル部33、35に、図1及び図2に示した構造の鉄系プリフォーム1をMMC化して設ける。各鉄系プリフォーム1は、各シリンダブロック31、32の鋳造成形時に、その鋳造型のジャーナル部形成位置に配置して鋳包み工程においてMMC化して設ける。
【0060】
この鋳包み工程において、鉄系プリフォーム1の外周面12側に注湯されたアルミニウム合金溶湯は、鉄系プリフォーム1の表面に沿って鉄系プリフォーム1の内周面11側に侵入すると共に、各貫通孔21A〜21Dを経ても内周面11側に供給されて良好なアルミニウム系合金溶湯の湯廻り性が得られる。これは、特に図5に示すようにジャーナル部33、34に形成された半円弧状の軸受面34、36と鉄系プリフォーム1の内周面11との間に形成される2〜3mm程度と極めて薄い薄肉部38、39にあっても良好な湯廻り性が得られる。
【0061】
このジャーナル部33、35の軸受面34、36と鉄系プリフォーム1の内周面11との間の薄肉部38、39に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に内周面11に沿って周方向に収縮応力σ1が作用し、外周面12側に注湯されたアルミニウム系合金の凝固及び収縮によっても外周面12に沿って周方向に収縮応力σ2が作用する。一方、鉄系プリフォーム1の各貫通孔21A〜21D内内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮によって各貫通孔21A〜21Dに沿ってそれぞれ収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6が作用する。
【0062】
これら鉄系プリフォーム1の各貫通孔21A〜21D内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6による抗力によって、薄肉部38、39に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に内周面11に沿って周方向に作用する収縮応力σ1が分散されて受け止められる。これにより、アルミニウム系合金溶湯の内周面11に沿う移動が抑制されると共に内周面11に密着し、収縮後のアルミニウム系合金による薄肉部38、39に生じる残留応力を軽減及び均等に分散することができ、薄肉部38、39の残留応力が緩和されて該部の割れ等が防止できる。
【0063】
同様に、鉄系プリフォーム1の各貫通孔21A〜21D内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6による抗力により、鉄系プリフォーム1の外周面12側に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮によって外周面12に沿って作用する収縮応力σ2が分散されて受け止められ、アルミニウム系合金溶湯の外周面12に沿う移動が抑制されると共に外周面12に密着し、収縮後の該部に生じる残留応力を軽減及び均等に分散することができる。
【0064】
更に、アルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時におけるアルミニウム系合金溶湯の鉄系プリフォーム1の内周面11及び外周面12に沿う周方向の移動の抑制及び密着に伴って、鉄系プリフォーム1とアルミニウム系合金による母材との界面における隙間の発生が防止でき、鉄系プリフォーム1の内周面11及び外周面12と薄肉部38、39を含む母材との界面強度が確保できる。
【0065】
ここで、鉄系プリフォーム1は鉄系粉末焼結体からなるため空孔を有し、鋳包み時にアルミニウム系合金溶湯が鉄系プリフォーム1に容易に且つ安定的に密着し、場合により溶浸してMMC化され、MMC化された鉄系プリフォーム1の熱膨張係数と鉄系材料からなるクランクシャフト41との熱膨張係数の差が小さくなるので、ジャーナル部33、35の温度が上昇しても、クランクシャフト41と軸受面34、36とのクリアランスを許容範囲内に収めることができ、クランクシャフト41の回転中における振動や騒音の発生を防止することができる。
【0066】
更に、鉄系プリフォーム1の内周面11及び外周面12との界面における隙間の発生を防止し、内周面11及び外周面12との界面接合強度を確保することで、母材と鉄系プリフォーム1との間の熱伝導効率が向上してジャーナル部33、35の周方向において熱伝導率が均一になり、ジャーナル部33、35の軸受面34、36側が均等に膨張してジャーナル部33、35による軸受メタル40a、40bの支持が安定してクランクシャフト41と軸受メタル40a、40bとの間の摩擦係数の増加が抑制されるため、摩擦抵抗の減少に伴ってエンジンの燃費、性能、耐久性等が確保できる。
【0067】
更に、ジャーナル部33、35において薄肉部38、39と鉄系プリフォーム1との界面に隙間がなくなり、ジャーナル部33、35の軸受面34、36を機械加工する際に薄肉に形成された薄肉部38、39の加工時の負荷による変形が抑制されてジャーナル部33、35の加工精度が向上する。
【0068】
ここで、第1〜第4貫通孔21A〜21D内での収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6が過少の場合には、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う薄肉部38、39の応力σ1に対抗する拘束力が過少になり内周面11と母材の界面に連続した隙間が形成されて界面強度が不安定になる。そこで、本実施の形態では鉄系プリフォーム1に穿設される第1〜第4貫通孔21A〜21Dの貫通孔本体22A〜22Dを内径1〜19mmの断面円形で連続する内面を円筒状に形成したが、仮に貫通孔21A〜21Dをテーパ孔に形成した場合には、界面の密着には有利だが鉄系プリフォームの加工が困難になり製造コストの増大を招くと共に貫通孔と内周面と連続部分にアンダーカット部が形成されて収縮応力σ1に対抗する拘束力が過大になり、凝縮及び収縮時に応力集中が発生して母材、特に薄肉部38、39に破断やクラックの発生する確率が高くなる。
【0069】
また、貫通孔21A〜21Dの内径Aを1mmより小さくすると、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う薄肉部38、39の応力σ1に対抗する拘束力が過少になり界面の密着性向上の効果が極めて小さく、また、ショットブラスト処理を施す場合に貫通孔の内面にショットが良好に吹き付け難く、ショットブラスト処理の効果が期待できない。
【0070】
一方、貫通孔21A〜21Dの内径Aを19mmより大きくすると、鉄系プリフォーム1の体積が減少してプリフォーム本来の機能効果が減少することが懸念され、かつ第1〜第4貫通孔21A〜21D内でアルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う収縮の影響が大きく、第1〜第4貫通孔21A〜21D内における母材との密着性が低下し、薄肉部38、39の応力σ1に対抗する拘束力が過少になり内周面11と母材との界面強度が不安定になる。
【0071】
隣接する貫通孔21の間隔B、即ち内周面11側における第1貫通孔21Aの貫通孔本体22Aの内方端22Aaと第2貫通孔21Bの貫通孔本体22Bの内方端22Baの開口中心間の間隔B、第2貫通孔21Bの貫通孔本体22Bの内方端22Baと第3貫通孔21Cの貫通孔本体22Cの内方端22Caの開口中心間の間隔B、第1貫通孔21Aの貫通孔本体22Aの内方端22Aaと第4貫通孔21Dの貫通孔本体22Dの内方端22Daの開口中心間の間隔Bが、内径Aの1.5倍より小さいと鉄系プリフォーム1を金型による加圧成形が困難になり、かつ機械加工等により各第1〜第4貫通孔21A〜21Dを追加加工するには大幅な製造コストの増大を招くと共に鉄系プリフォーム1の体積が減少してプリフォーム本来の機能効果が減少することが懸念される。一方、隣接する貫通孔21の間隔Bが内径Aの5倍を超えると貫通孔間の部分に隙間が発生する可能性が高くなる。
【0072】
更に、内周面11と第1〜第4貫通孔21A〜21Dの内周面11に開口する各貫通孔本体22A〜22Dの内方端22Aa〜22Daと内周面11との連続部分の曲面或いは面取り形状の曲率半径が過大であると、界面強度及び密着が悪化する一方、過小であると鉄系プリフォーム1の製造が困難になると共に、アルミニウム系合金溶湯の凝縮及び収縮時に応力集中が発生して母材、特に薄肉部38、39に破断やクラックが発生する。
【0073】
また、第1〜第4貫通孔21A〜21Dの深さCが、内径Aの0.5倍より小さいと、鋳包みの際に第1〜第4貫通孔21A〜21D内にアルミニウム系合金溶湯の侵入が困難になる一方、内径Aの5倍を超えると鉄系プリフォーム1の金型による加圧成形が困難になり、機械加工等により第1〜第4貫通孔21A〜21Dを追加加工するには大幅な製造コストの増大を招く要因となる。
【0074】
なお、本実施の形態では、鉄系プリフォーム1の第1〜第4貫通孔21A〜21Dの貫通孔本体22A〜22Dの内面を断面円形で連続する円筒状に形成したが、図6(a)に断面を示し、III矢視図を同図(b)に示すように、貫通孔本体22A〜22Dの内面に螺旋状の溝22cを形成したり、図7(a)に断面を示し、IV矢視図を同図(b)に示すように、貫通孔本体22A〜22Dの内面に複数のリブ22dを形成することによって、或いはスリット等を形成して貫通孔の内面に表面積拡大処理を施すことにより、貫通孔本体22A〜22Dの内面の面積を増大させて、各貫通孔21A〜21D内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6による抗力を増大させることができる。これにより、内周面11に沿って作用する収縮応力σ1及び外周面12に沿って作用する収縮応力σ2をより確実に受け止め、アルミニウム系合金溶湯の内周面11及び外周面12に沿う移動を抑制して内周面11及び外周面12と母材との密着効果を向上すると共に、収縮後の母材に生じる残留応力を軽減させることができる。
【0075】
なお、図8に図2に対応する鉄系プリフォーム1の断面を示しように、中心軸芯Lを直交する基準線Laを有して第1内周面11aと第1外周面12aの間を連通する第1貫通孔21A、基準線Laと平行な基準線Lbを有して第2内周面11bと第2外周面12bの間を連通する第2貫通孔21B、基準線Laと直交する基準線Le、Lfを有して第3内周面11cと第3外周面12cの間を連通する比較的小径の一対の第5貫通孔21E、第6貫通孔21F、基準線Laと直交する基準線Lgを有して第1内周面11aの第4内周面11d近傍と第4外周面12dの間を連通する比較的小径の第7貫通孔21G、基準線Lgと平行な基準線Lhを有して第4内周面11dと第4外周面12dの間を連通する比較的小径の第8貫通孔21H、及び第1貫通孔21Aと第8貫通孔21Hとの間において中心軸芯Lを斜交する基準線Ljを有して第1内周面11aと第1外周面12aの間を連通する第9貫通孔21Jを穿設する等、内周面11と外周面12とを連通する貫通孔の数、配置、大きさ等を、MMC化する製品形状等の仕様により最適に設定することができる。これら貫通孔の数、配置、大きさ等は、予め実験やシミュレーションにより、製品における界面の密着状態及び母材側のクラック等の発生状況により決定することが好ましい。
【0076】
(第2実施の形態)
図9は、第2実施の形態に係る鉄系プリフォーム51の概要を示し、上記図2に対応する断面図である。なお、図2と対応する部分には同一符号を付することで該部の詳細な説明を省略する。
【0077】
本実施の形態に係る鉄系プリフォーム51は、上記鉄系プリフォーム1と同様の鉄系粉末焼結体によって形成される。
【0078】
この鉄系プリフォーム51は、図9に示すように鉄系プリフォーム1と同様に、第1内周面11a、第2内周面11b、第3内周面11c、第4内周面11dを有する断面半円弧状乃至U字状の内周面11及び第1外周面12a、第2外周面12b、第3外周面12c、第4外周面12dを有する断面半円弧状乃至U字状の外周面12を備えたプリフォーム本体10を有し、プリフォーム本体10の両端にフランジ部15、16が一体形成されている。
【0079】
プリフォーム本体10の外周面12と内周面11とを連通する貫通孔、及び外周面12に開口する複数の有底孔が複数穿設されている。これら有底孔は、貫通孔に比べ穿設の制約が少なく、貫通孔の穿設が制限される部位でも穿設することができる。本実施の形態では、中心軸芯Lと直交する基準線Laを有して第1外周面12に開口する第1有底孔61A、基準線Laと平行な基準線Lbを有して第2内周面11bと第2外周面12bの間を連通する貫通孔65、基準線Laと直交する基準線Lcを有して第3外周面12cに開口する第2有底孔61B、基準線Laと直交する基準線Ldを有して第4外周面12dに開口する第3有底孔61Cが穿設されている。
【0080】
貫通孔65を形成することによって鉄系プリフォーム51の内周面11と外周面12が貫通孔65を介して連通してアルミニウム系合金により鋳包みした際に湯廻りが良好になるとともに、第1〜第3有底孔61A〜61Cを形成することによって鉄系プリフォーム51の表面積が増大してアルミニウム系合金の溶湯との密着性及び接合強度の向上が図られ、かつアルミニウム系合金溶湯が場合により溶浸して鉄系プリフォーム51のMMC化が得られる。これらの第1〜第3有底孔61A〜61C及び貫通孔65は金型による加圧成形時または焼結体の加工時に形成される。好ましくは金型による加圧成形時に同時に成形することにより製造の効率化が得られると共に製造コストの抑制が得られる。
【0081】
貫通孔65は、断面円形で基準線Lb方向に連続する円筒状の内面を有して内方端66aが第2内周面11bに開口する貫通孔本体66と、貫通孔本体66の外方端66bに連続形成されて第2外周面12bに開口し、かつ貫通孔本体66の外方端66b側から第2外周面12b側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部67を有している。第1実施の形態の各貫通孔21A〜21Gと同様に貫通孔本体66の内径Aは、1〜19mm(1mm≦A≦19mm)が好ましく、内周面11に開口する貫通孔本体66の内方端66aと内周面11との連続部分が滑らかに連続する曲面、いわゆるR形状或いは面取り形状に形成され、貫通孔65の深さCは貫通孔本体66の内径Aの0.5倍以上乃至5倍以下(0.5A≦C≦5A)が好ましい。
【0082】
第1有底孔61Aは、断面円形で基準線La方向に連続する円筒状の内面を有して内方端62Aaに底部62Acを有する有底孔本体62Aと、有底孔本体62Aの外方端62Abに連続形成されて第1外周面12aに開口し、かつ有底孔本体62Aの外方端62Ab側から第1外周面12a側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部63Aを有している。
【0083】
第2有底孔61Bは、断面円形で基準線Lc方向に連続する円筒状の内面を有して内方端62Baに底部62Bcを有する有底孔本体62Bと、有底孔本体62Bの外方端62Bbに連続形成されて第3外周面12cに開口し、かつ有底孔本体62Bの外方端62Bb側から第3外周面12c側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部63Bを有している。
【0084】
第3有底孔61Cは、断面円形で基準線Ld方向に連続する円筒状の内面を有して内方端62Caに底部62Ccを有する有底孔本体62Cと、有底孔本体62Cの外方端62Cbに連続形成されて第4外周面12dに開口し、かつ有底孔本体62Cの外方端62Cb側から第4外周面12d側に移行するに従って内径が漸次拡径するテーパ孔部63Cを有している。
【0085】
第1〜第3有底孔61A〜61C、及び貫通孔65の形状はMMC化する製品形状等の仕様により異なるが、第1〜第3有底孔61A〜61Cの有底孔本体62A〜62Cの内径aは1〜19mm(1mm≦a≦19mm)が好ましい。また、第1〜第3有底孔61A〜61Cの深さcは有底孔本体62A〜62Cの内径aの0.5倍以上乃至5倍以下(0.5a≦c≦5a)が好ましい。
【0086】
これら、各有底孔61A〜61Cの有底孔本体62A〜62Cの内径a及び有底孔61A〜61Cの深さc等は、MMC化する製品形状等の仕様により最適に設定するには、予め実験やシミュレーションにより、製品における界面の密着状態及び母材側のクラック等の発生状況により決定することが好ましい。
【0087】
この鉄系プリフォーム51は、必要に応じてショットブラスト処理が施される。ショットブラスト処理を施すことにより、表面に形成された酸化被膜等が除去されて表面が清浄化され、基地中に分散する遊離Cu相が表面に露出されてアルミニウム系合金による鋳包み性が向上する。
【0088】
図10は、この鉄系プリフォーム51が用いられるジャーナル部の実施の形態を示すものであり、鉄系プリフォーム51は、各シリンダブロックの鋳造成形時に、その鋳造型のジャーナル部形成位置に配置して鋳包み工程においてMMC化して設ける。
【0089】
この鋳包み工程において、鉄系プリフォーム51の外周面12側に注湯されたアルミニウム系合金溶湯は、鉄系プリフォーム51の表面に沿って鉄系プリフォーム51の内周面11側に侵入すると共に、貫通孔65を経ても内周面11側に供給されて良好なアルミニウム系合金溶湯の湯廻り性が得られる。
【0090】
このジャーナル部33、35の軸受面34、36と鉄系プリフォーム51の内周面11との間の薄肉部38、39に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に内周面11に沿って周方向に収縮応力σ1が作用し、外周面12側に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮によっても外周面12に沿って周方向に収縮応力σ2が作用する。一方、鉄系プリフォーム51の第1有底孔61A、貫通孔65、第2有底孔61B及び第3有底孔61C内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮によって第1有底孔61A、貫通孔65、第2有底孔61B及び第3有底孔61Cに沿ってそれぞれ収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6が作用する。
【0091】
これら鉄系プリフォーム51の貫通孔65に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ4による抗力によって、薄肉部38、39に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮時に内周面11に沿って周方向に作用する収縮応力σ1が分散されて受け止められ、アルミニウム系合金溶湯の内周面11に沿う移動が抑制されると共に内周面11に密着し、収縮後の薄肉部38、39に生じる残留応力を軽減すると共に均等に分散することができ、薄肉部38、39の残留応力が緩和されて該部の割れ等が防止できる。
【0092】
同様に、鉄系プリフォーム51の第1有底孔61A、貫通孔65、第2有底孔61B及び第3有底孔61C内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ3、σ4、σ5、σ6による抗力により、鉄系プリフォーム51の外周面12側に注湯されたアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮によって外周面12に沿って作用する収縮応力σ2が分散されて受け止められ、アルミニウム系合金溶湯の外周面12に沿う移動が抑制されると共に外周面12に密着し、収縮後の該部に生じる残留応力を軽減すると共に均等に分散することができる。
【0093】
更に、アルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時におけるアルミニウム系合金溶湯の鉄系プリフォーム51の内周面11及び外周面12に沿う周方向の移動の抑制及び密着に伴って、鉄系プリフォーム51とアルミニウム系合金による母材との界面における隙間の発生が防止でき、鉄系プリフォーム51の内周面11及び外周面12と薄肉部38、39を含む母材との界面接合強度が確保できる。
【0094】
ここで、鉄系プリフォーム51は鉄系粉末焼結体からなるため空孔を有し、鋳包み時にアルミニウム系合金溶湯が鉄系プリフォーム51に容易に且つ安定的に密着し、場合により溶浸してMMC化され、MMC化された鉄系プリフォーム51の熱膨張係数と鉄系材料からなるクランクシャフト41との熱膨張係数の差が小さくなるので、ジャーナル部33、35の温度が上昇しても、クランクシャフト41と軸受面34、36とのクリアランスを許容範囲内に収めることができ、クランクシャフト41の回転中における振動や騒音の発生を防止することができる。
【0095】
更に、鉄系プリフォーム51の内周面11及び外周面12との界面における隙間の発生を防止し、内周面11及び外周面12との界面強度を確保することで、アルミニウム系合金からなる母材と鉄系プリフォーム51との間の熱伝導効率が向上してジャーナル部33、35の周方向において熱伝導率が均一になり、ジャーナル部33、35の軸受面34、36側が均等に膨張してジャーナル部33、35による軸受メタルの支持が安定してクランクシャフトと軸受メタルとの間の摩擦係数の増加が抑制され、摩擦抵抗の減少に伴ってエンジンの燃費、性能、耐久性等が確保できる。
【0096】
更に、ジャーナル部33、35において薄肉部38、39と鉄系プリフォーム51との界面に隙間がなくなり、ジャーナル部33、35の軸受面34、36を機械加工する際に薄肉に形成された薄肉部38、39の加工時の負荷による変形が抑制されてジャーナル部33、35の加工精度が向上する。
【0097】
ここで、貫通孔65の内周面11側に加わる収縮応力が過少の場合には、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う薄肉部38、39の応力σ1に対抗する拘束力が過少になり内周面11と母材の界面に連続した隙間が形成されて界面強度が不安定になる。そこで、本実施の形態では鉄系プリフォーム51に穿設される貫通孔65の貫通孔本体66を内径1〜19mmの断面円形で連続する内面を円筒状に形成したが、仮に貫通孔65の内径Aを1mmより小さくすると、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う薄肉部38、39の応力σ1に対抗する拘束力が過少になり界面の密着性向上の効果が極めて小さくなる。一方、貫通孔65の内径Aを19mmより大きくすると、鉄系プリフォーム51の体積が減少してプリフォーム本来の機能効果が減少することが懸念され、かつ貫通孔65内でアルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う収縮の影響が大きく、貫通孔65内における母材との密着性が低下し、薄肉部38、39の応力σ1に対抗する拘束力が過少になり内周面11と母材との界面強度が不安定になる。
【0098】
また、第1〜第3有底孔61A〜61C及び貫通孔65内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ3、σ5、σ6、σ4による抗力が過少の場合には、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う外周面12側の母材の応力σ2に対抗する拘束力が過少になり外周面12と母材の界面に連続した隙間が形成されて界面強度が不安定になる。そこで、本実施の形態では鉄系プリフォーム51に穿設される貫通孔65の内径A及び第1〜第3有底孔61A〜61Cの内径aを1〜19mmの断面円形で連続する内面を円筒状に形成したが、仮に貫通孔65の内径A及び各有底孔61A〜61Cの内径aを1mmより小さくすると、アルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮に伴う外周面12側の母材による応力σ2に対抗する拘束力が過少になり界面の密着性向上の効果が極めて小さく、また、ショットブラスト処理を施す場合に貫通孔本体66及び有底孔本体62A〜62Cの内面にショットが良好に吹き付け難く、ショットブラスト処理の効果が期待できない。
【0099】
一方、貫通孔65の内径A及び各有底孔61A〜61Cの内径aを19mmより大きくすると、鉄系プリフォーム51の体積が減少してプリフォーム本来の機能効果が減少することが懸念され、かつ貫通孔本体66及び有底孔本体62A〜62C内でアルミニウム系合金溶湯の凝固に伴う収縮の影響が大きく、貫通孔本体66及び有底孔本体62A〜62C内における母材との密着性が低下し、外周面12と母材の応力σ2に対抗する拘束力が過少になり外周面12と母材との界面強度が不安定になる。
【0100】
また、貫通孔65の深さC及び第1〜第3有底孔61A〜61Cの深さcが、それぞれ内径A、内径aの0.5倍より小さいと、鋳包みの際に貫通孔65及び第1〜第3有底孔61A〜61C内にアルミニウム系合金溶湯の侵入が困難になり、また内径A、内径aの5倍を超えると鉄系プリフォーム51を金型による加圧成形が困難になり、機械加工等により貫通孔65及び第1〜第3有底孔61A〜61Cを追加加工するには大幅な製造コストの増大を招く要因となる。
【0101】
なお、本実施の形態では、鉄系プリフォーム51の第1〜第3有底孔61A〜61Cの有底孔本体62A〜62Cの内面を断面円形で連続する円筒状に形成したが、図11(a)に断面を示し、V矢視図を同図(b)に示すように有底孔本体62A〜62Cの内面に螺旋状の溝62cを形成したり、図12(a)に断面を示し、VI矢視図を同図(b)に示すように有底孔本体62A〜62Cの内面に複数のリブ62dを形成することによって、或いはスリット等を形成して有底孔本体62A〜62Cの内面に表面積拡大処理を施すことにより有底孔本体62A〜62Cの内面の面積を増大させて、第1〜第3有底孔61A〜61C内に侵入したアルミニウム系合金溶湯の凝固及び収縮による収縮応力σ3、σ5、σ6を増大させることができる。これにより、外周面12に沿って周方向に作用する収縮応力σ2をより確実に受け止めて、アルミニウム系合金溶湯の外周面12に沿う移動を抑制して外周面12と母材との密着効果を向上すると共に、収縮後の母材に生じる残留応力を軽減させることができる。
【0102】
また、本実施の形態では、外周面12に開口する第1有底孔61A〜61Cを穿設したが、内周面11に開口する有底孔を配置することもできる。更に貫通孔及び有底孔の数及び配置、大きさ等をMMC化する製品形状等の仕様により最適に設定することができる。これら貫通孔の数、配置、大きさ等は、予め実験やシミュレーションにより、製品における界面の密着状態及び母材側のクラック等の発生状況により決定すること好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】第1実施の形態に係る鉄系プリフォームの概要を示す斜視図である。
【図2】図1のI−I線断面図である。
【図3】シリンダブロックのクランクシャフトと直交する方向の縦断面図である。
【図4】図3のII矢視図である。
【図5】ジャーナル部の説明図である。
【図6】他の貫通孔を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)のIII矢視図である。
【図7】他の貫通孔を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)のIV矢視図である。
【図8】他の鉄系プリフォームの断面図である。
【図9】第2実施の形態に係る鉄系プリフォームの断面図である。
【図10】ジャーナル部の説明図である。
【図11】他の有底孔を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)のV矢視図である。
【図12】他の有底孔を示す図であり、(a)は断面図、(b)は(a)のVI矢視図である。
【符号の説明】
【0104】
1 金属基複合材形成用鉄系プリフォーム
10 プリフォーム本体
11 内周面
12 外周面
21A〜21H 第1〜第8貫通孔(貫通孔)
22c 螺旋状の溝(表面積拡大処理)
22d リブ(表面積拡大処理)
33、35 ジャーナル部
34、36 軸受面(凹面)
38、39 薄肉部
51 鉄系プリフォーム
61A〜61C 第1〜第3有底孔
62c 螺旋状の溝(表面積拡大処理)
62d リブ(表面積拡大処理)
65 貫通孔
A 貫通孔の内径
B 貫通孔の間隔
C 貫通孔の深さ
a 有底孔の内径
c 有底孔の深さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面半円弧状で中心軸芯延在方向に沿って連続形成された凹面を有するアルミニウム系合金母材で鋳包みされ、上記凹面に沿う断面半円弧状乃至U字状で上記中心軸芯延在方向に沿って連続する内周面及び外周面を有するプリフォーム本体を備えた金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、
上記プリフォーム本体は、上記内周面と外周面とを連通する貫通孔が穿設されたことを特徴とする金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項2】
上記貫通孔は、内径をAとすると
1mm≦A≦19mm
であることを特徴とする請求項1に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項3】
上記貫通孔は、内径をA、深さをCとすると、
0.5A≦C≦5A
であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項4】
上記内周面に開口する貫通孔の内方端と上記内周面との連続部分は、滑らかに連続する曲面乃至面取り形状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項5】
上記貫通孔の内面に表面積拡大処理が施されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項6】
上記貫通孔が複数穿設され、貫通孔の内径をA、上記内周面において隣接する貫通孔の開口中心間の間隔をBとすると、
1.5A≦B≦5A
であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項7】
上記プリフォーム本体の内周面及び/または外周面に開口する有底孔が穿設されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項8】
断面半円弧状で中心軸芯延在方向に沿って連続形成された凹面を有するアルミニウム系合金母材で鋳包みされ、上記凹面に沿う断面半円弧状乃至U字状で上記中心軸芯延在方向に沿って連続する内周面及び外周面を有するプリフォーム本体を備えた金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、
上記プリフォーム本体は、内周面及び/または外周面に開口する有底孔が穿設されたことを特徴とする金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項9】
上記有底孔は、内径をaとすると、
1mm≦a≦19mm
であることを特徴とする請求項7または8に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項10】
上記有底孔は、内径をa、深さをcとすると、
0.5a≦c≦5a
であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項11】
上記鉄系プリフォームは、鉄系粉末焼結体からなることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項12】
上記請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォームを、上記プリフォーム本体の内周面に沿う断面半円弧状で中心軸芯延在方向に沿って連続形成された凹面状の軸受面を有するアルミニウム系合金母材で鋳包みしたことを特徴とするジャーナル部構造。
【請求項1】
断面半円弧状で中心軸芯延在方向に沿って連続形成された凹面を有するアルミニウム系合金母材で鋳包みされ、上記凹面に沿う断面半円弧状乃至U字状で上記中心軸芯延在方向に沿って連続する内周面及び外周面を有するプリフォーム本体を備えた金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、
上記プリフォーム本体は、上記内周面と外周面とを連通する貫通孔が穿設されたことを特徴とする金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項2】
上記貫通孔は、内径をAとすると
1mm≦A≦19mm
であることを特徴とする請求項1に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項3】
上記貫通孔は、内径をA、深さをCとすると、
0.5A≦C≦5A
であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項4】
上記内周面に開口する貫通孔の内方端と上記内周面との連続部分は、滑らかに連続する曲面乃至面取り形状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項5】
上記貫通孔の内面に表面積拡大処理が施されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項6】
上記貫通孔が複数穿設され、貫通孔の内径をA、上記内周面において隣接する貫通孔の開口中心間の間隔をBとすると、
1.5A≦B≦5A
であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項7】
上記プリフォーム本体の内周面及び/または外周面に開口する有底孔が穿設されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項8】
断面半円弧状で中心軸芯延在方向に沿って連続形成された凹面を有するアルミニウム系合金母材で鋳包みされ、上記凹面に沿う断面半円弧状乃至U字状で上記中心軸芯延在方向に沿って連続する内周面及び外周面を有するプリフォーム本体を備えた金属基複合材形成用鉄系プリフォームにおいて、
上記プリフォーム本体は、内周面及び/または外周面に開口する有底孔が穿設されたことを特徴とする金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項9】
上記有底孔は、内径をaとすると、
1mm≦a≦19mm
であることを特徴とする請求項7または8に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項10】
上記有底孔は、内径をa、深さをcとすると、
0.5a≦c≦5a
であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項11】
上記鉄系プリフォームは、鉄系粉末焼結体からなることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォーム。
【請求項12】
上記請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属基複合材形成用鉄系プリフォームを、上記プリフォーム本体の内周面に沿う断面半円弧状で中心軸芯延在方向に沿って連続形成された凹面状の軸受面を有するアルミニウム系合金母材で鋳包みしたことを特徴とするジャーナル部構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−100122(P2007−100122A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287941(P2005−287941)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【Fターム(参考)】
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