説明

金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法、該方法を応用した金属配線ならびに金属薄膜の形成方法

【課題】 基板上に塗布された金属微粒子塗布層に対して、低温加熱焼結を施して金属微粒子焼結体層を形成する際、利用される加熱処理温度を少なくとも200℃を超えない範囲として、良好な導電性を示す金属微粒子焼結体を簡便に、高い再現性で作製可能な方法の提供。
【解決手段】 塗布層中に含まれる、表面被覆分子層を備えた金属微粒子から、表面の被覆分子を除去した後、金属微粒子を低温加熱焼結する際、塗布層表面からエネルギー線を照射した後、150℃以下の低温で加熱処理を施すことにより、表面の被覆分子の除去を促進し、金属微粒子の焼結自体もかかる低温加熱で速やかに進行し、良好な導電性を示す金属微粒子焼結体が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な金属配線パターン、あるいは金属薄膜の形成に利用可能な、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層を形成する方法に関する。具体的には、微細な金属微粒子、特には、ナノサイズの粒子径を有する金属ナノ粒子の分散液を利用して、超ファインなパターン描画、あるいは薄膜塗布層を形成後、低温処理によって、微細な金属微粒子相互を焼結させて、焼結体型の薄膜導電体を形成する方法、ならびに該方法を応用して作製される金属配線ならびに金属薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
極めて粒子径の小さな金属微粒子、少なくとも、平均粒子径が100nm以下である金属微粒子の製造方法の一つとして、ガス中蒸発法を用いて調製される10nm以下の金属超微粒子を、分散溶媒中にコロイド状に分散した分散液とその製造方法が報告されている(特許文献1参照)。また、還元にアミン化合物を用いる還元析出法を利用して、平均粒子径が数nm〜数10nm程度の金属微粒子を湿式で作製し、コロイド状に分散したものとその製造方法も報告されている(特許文献2参照)。
【0003】
平均粒子径数nm〜数10nm程度の金属微粒子は、金属ナノ粒子と呼ばれ、一般に、その金属材料の融点よりも格段に低い温度(例えば、銀であれば、清浄な表面を有するナノ粒子では200℃以下においても)で焼結することが知られている。これは、金属の微粒子においては、十分にその粒子径を小さくすると、粒子表面に存在するエネルギー状態の高い原子の全体に占める割合が大きくなり、金属原子の表面拡散が無視し得ないほど大きくなる結果、この表面拡散に起因して、粒子相互の界面の延伸がなされ焼結が行われるためである。
【0004】
平均粒子径数nm〜数10nm程度の金属ナノ粒子は直接表面を接触させると、相互に融着を生じて、ナノ粒子が集塊して、分散溶媒中における均一な分散性を失う。そのため、金属ナノ粒子表面をアルキルアミンなどで均一に被覆し、表面被覆分子層を備えた状態として、高い分散性を示す金属ナノ粒子としている。この表面被覆分子層を備えた金属ナノ粒子を含む分散液を基板表面に塗布し、所望の厚さを有する塗布層を形成した後、金属ナノ粒子の表面を被覆保護しているアルキルアミンなど表面被覆分子を除去すると、清浄な表面を露呈した金属ナノ粒子相互が接触して、低温焼成処理によって、金属ナノ粒子相互の緻密な焼結体層が形成される。従来、250℃程度の温度に加熱することで、金属ナノ粒子の表面を被覆保護しているアルキルアミンなど表面被覆分子の除去を進め、引き続き、清浄な表面を露呈した金属ナノ粒子相互が接触する結果、低温焼成が開始する、加熱処理条件が利用されている。
【0005】
あるいは、導電性媒体として、表面被覆分子層を備えた金属ナノ粒子をバインダー樹脂組成物中に配合し、ペースト状の分散液とした、金属ナノ粒子型の導電性金属ペーストも提案されている。この金属ナノ粒子型の導電性金属ペーストは、粒子径がμmサイズの金属微粒子を導電性媒体に利用する、従前の導電性金属ペーストよりも、その描画精度の限界は、格段の向上が図られている。また、導電体層の形成は、表面被覆分子層を備えた金属ナノ粒子から、金属ナノ粒子相互の緻密な焼結体層を作製し、同時に、バインダー樹脂を固化させて、焼結体型導電体層として、基板面上への固着がなされる。その際、表面被覆分子を金属ナノ粒子表面より除去する処理、ならびにバインダー樹脂の固化処理は、250℃程度の温度に加熱することで、連続的に行っている。
【0006】
また、250℃程度の温度で加熱処理することで得られる、金属ナノ粒子相互の焼結体層によって、体積固有抵抗率として、3×10-6 Ω・cm〜10×10-5 Ω・cm程度を有する導電体層の作製が可能となっている。従って、250℃程度の温度で加熱処理が可能な場合、形成される焼結体型導電体層においては、実用上、特に問題の無い程度の良好な導電性が達成されている。
【特許文献1】特開平3−34211号公報
【特許文献2】特開平11-319538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、各種電子機器、電子部品の小型化に付随して、配線基板上に形成される回路配線パターンもより一層の微細化が要望されている。さらには、配線パターンの形成に、従前のメッキ法で作製される導電体層に代えて、直接、所望の配線パターンの描画が可能な導電性金属ペーストを用いて、導電体層を形成する手法の利用が進められている。例えば、導電性媒体として、表面被覆分子層を備えた金属ナノ粒子を利用する導電性金属ペーストを用いて、最小線幅/配線間隔が、20μm/20μmに達する微細な配線パターンの導電体層を作製する際、安定した通電特性を達成でき、また、再現性よく、微細な配線パターンを作製する手法の開発が進められている。
【0008】
例えば、表面被覆分子層を備えた金属ナノ粒子を含む分散液を利用すると、微細な配線パターンの描画は、高い描画精度と、再現性で行うことが可能である。その後、この塗布膜層に含まれる、表面被覆分子層を備えた金属ナノ粒子から、金属ナノ粒子相互の緻密な焼結体層を作製する手法を利用することで、再現性よく、微細な配線パターンの導電体層の形成を行うことができることが確認されている(国際公開 WO 02/35554 A1パンフレット参照)。その際、表面被覆分子層を備えた金属ナノ粒子から、その表面の被覆分子層を除去した上で、金属ナノ粒子相互の焼結を進める必要があり、少なくとも、200℃以上、通常、250℃程度の温度における加熱処理が必要である。
【0009】
配線基板に利用されている、基板材料に関しては、例えば、ハンダ接合に、所謂、Pbフリーハンダ材料の利用が図られることに伴い、250℃程度の耐熱性を有する材料の利用も進んではいる。これら耐熱性を有する基板材料に対して、ハンダ接合工程における加熱工程以外に、さらに、前記金属ナノ粒子相互の焼結を図るため、250℃程度の加熱処理に曝すと、基板材料の熱的な劣化を引き起こす頻度を高める要因となる。従って、表面被覆分子層を備えた金属ナノ粒子を含む分散液を利用する、焼結体型導電体層の形成工程において、加熱処理温度を、少なくとも200℃以下に選択して、その表面の被覆分子層の除去と、その後の金属ナノ粒子相互の焼結を進めることが可能な手法の開発が望まれている。
【0010】
仮に、加熱処理温度を200℃以下に抑えて、表面被覆分子層を備えた金属ナノ粒子から、焼結体型導電体層の形成が可能となると、利用可能な基板材料の種類は格段に広がる。従来、耐熱性の問題から、メッキ法などを利用して、導電性薄膜層の作製を行っていた種々の分野に対しても、焼結体型導電体層利用への道が開かれることになる。
【0011】
本発明は前記の課題を解決するものであり、本発明の目的は、表面被覆分子層を備えた金属微粒子の分散液を利用して、焼結体型導電体層を形成する際、基板上に塗布された、表面被覆分子層を備えた金属微粒子から、表面被覆分子層を除去した後、金属微粒子の焼結を行う工程において、利用される加熱処理温度を少なくとも200℃を超えない範囲、好ましくは、150℃以下の範囲として、良好な導電性を示す金属微粒子焼結体を簡便に、高い再現性で作製することを可能とする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、基板上に塗布された、表面被覆分子層を備えた金属微粒子から、表面被覆分子層を除去した後、金属微粒子の焼結を行う工程において、従来の方法における加熱処理温度を決定していた要因に関して、さらに検討を行った。その検討の結果、仮に、清浄な表面を持つ、平均粒子径100nm以下の金属微粒子を緻密に接触させ、不活性ガス雰囲気下において加熱処理を行った場合、200℃以下、例えば150℃の加熱温度でも、十分に金属微粒子相互の焼結が進行することが確認された。一方、表面被覆分子層を備えた金属微粒子から、その被覆分子層を除去し、本来の清浄な表面を再度表出させる過程は、被覆分子と表面の金属原子との間の、配位結合に類する分子間結合力の強弱に依存して、必要な加熱温度が変動することが確認された。分散液中において安定した表面被覆分子層を維持するため、微粒子表面の金属原子に対して配位結合に類する、高い分子間結合力を有する被覆分子を利用するため、表面の金属原子から遊離・除去する上では、より高い熱的な励起を施す必要がある。さらに、表面の金属原子から熱的に遊離された、被覆分子の再吸着を抑制するため、被覆分子の蒸散が進む加熱温度を採用していた。
【0013】
本発明者らは、これらの知見に基づき、さらなる検討を行い、分散液中においては、微粒子表面の金属原子に対して配位結合に類する、高い分子間結合力を示すが、基板上に塗布した後、被覆分子の除去を図る際には、被覆分子と表面の金属原子との間の、配位結合に類する分子間結合力を大幅に低下させることが可能となれば、250℃以上の従前の加熱処理温度よりも格段に低い温度でも、被覆分子の除去が可能となることに想到した。そして、基板上に表面被覆分子層を備えた金属微粒子の塗布層を形成した後、この塗布層表面から、電子線や紫外線などのエネルギー線の照射によって、金属微粒子に負の電荷を注入することで、被覆分子と表面の金属原子との間の、配位結合に類する分子間結合力を大幅に低下することが可能となることを見出した。同時に、照射されたエネルギー線が有するエネルギーの一部を、被覆分子の分子内振動エネルギー、金属微粒子の格子振動エネルギーへと局所的に変換することもなされ、僅かな加熱を加えるのみで、被覆分子の遊離・除去が進行することも確認された。電子線や紫外線などのエネルギー線の侵入深さは、金属微粒子塗布層の膜厚と比較すると有意に浅いが、塗布層膜厚が相対的に薄いならば、表面において、金属微粒子に負の電荷を注入すると、段階的に、下層の金属微粒子へと注入された電荷が拡散・伝播され、この効果は、塗布層膜厚の全体に及ぶことになる。従って、表面部だけでなく、薄い塗布層の深部でも、程度の差はあるものの、金属微粒子の表面を保護していた、被覆分子層の相当部分が除去される。
【0014】
表面を保護していた、被覆分子層の相当部分が除去されると、200℃未満、例えば、150℃以下の温度に加熱することで、残余する被覆分子の除去を行いつつ、清浄な表面となった金属微粒子相互が直接接触した部位から低温焼結が進行する。最終的に、薄い塗布層の深部を含め、塗布層膜厚の全体において金属微粒子相互の低温焼結が拡大・伸長して、緻密な金属微粒子焼結体層の形成が完了する。また、得られる金属微粒子焼結体は、従来、250℃以上の加熱処理によって形成されていた金属微粒子焼結体の示す導電性と遜色のない、良好な導電性を有する金属微粒子焼結体層となることも確認した。本発明は、これらの知見に基づき、完成されたものである。
【0015】
すなわち、本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法は、
基板上に金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層を形成する方法であって、
前記金属微粒子焼結体の作製に利用される、該金属微粒子は、少なくとも200℃を超える融点を示す金属材料で構成される、平均粒子径が1〜100nmの範囲の金属微粒子であり、
該金属微粒子の表面に、金属微粒子相互の凝集を防止する機能を有する、分散剤の被覆分子層を設けて、該被覆分子層を有する金属微粒子を分散質として、有機溶剤を含む液相分散媒中に分散してなる金属微粒子分散液を用いて、
前記基板上の所定位置に該金属微粒子分散液を所定膜厚で塗布して、金属微粒子分散液塗布膜層を形成する工程と、
該金属微粒子分散液塗布膜層中に含まれる、前記有機溶剤を蒸散させて、乾燥処理済み金属微粒子塗布層とする工程と、
該乾燥処理済み金属微粒子塗布層に対して、その塗布層表面から所定線量のエネルギー線を照射する処理を施す工程と、
前記エネルギー線照射処理を施した金属微粒子塗布層に、50℃以上、少なくとも200℃を超えない温度範囲に選択される加熱温度、非酸化性ガス雰囲気下において、低温加熱処理を施す工程を具え、
前記エネルギー線照射処理と低温加熱処理とを施すとことで、前記金属微粒子塗布層中に含まれる金属微粒子相互の焼結がなされ、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成がなされる
ことを特徴とする、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法である。
【0016】
その際、
前記金属微粒子を構成する、少なくとも200℃を超える融点を示す金属材料は、
金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ニッケル、アルミニウムからなる金属元素の群から選択される、単体金属種、または、二種以上の金属種からなる合金であることが好ましい。また、前記金属微粒子の平均粒子径は、5〜20nmの範囲に選択されることがより好ましい。
【0017】
加えて、該金属微粒子の表面に設ける、金属微粒子相互の凝集を防止する機能を有する、分散剤の被覆分子層は、
該分散剤として、
その沸点は、150℃以上、350℃以下の範囲であって、
アミン類、アルコール類、フェノール類、チオール類からなる群より選択される、一種類の分散剤分子、または、二種類以上の分散剤分子を利用して、形成されていることが好ましい。
【0018】
一方、
前記エネルギー線照射処理に利用されるエネルギー線として、
加速電圧が50kV〜200kVの範囲に選択される電子線、または波長域180nm〜400nmの範囲から選択される紫外線を用いることが好ましい。
【0019】
また、前記低温加熱処理に用いる加熱温度を、
50℃〜150℃の温度範囲に選択することが望ましい。
【0020】
なお、本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法では、
前記有機溶剤を含む液相分散媒中に、
前記エネルギー線照射処理に利用されるエネルギー線の照射に伴って、酸成分を発生する機能を有する酸発生剤化合物を添加し、
前記乾燥処理済み金属微粒子塗布層中に、該酸発生剤化合物を含有させることができる。その際、前記エネルギー線の照射に伴って、酸成分を発生する機能を有する酸発生剤化合物として、
酸発生能を有するオニウム化合物、スルホン化合物、ハロゲン化物、鉄アレン錯体からなる酸発生剤化合物の群から選択される、一種類の化合物、または、二種類以上の化合物を用いることが好ましい。
【0021】
さらには、前記有機溶剤を含む液相分散媒中に、
前記エネルギー線照射処理に利用されるエネルギー線の照射に伴って、ラジカル種を生成する機能を有するラジカル発生剤化合物を添加し、
前記乾燥処理済み金属微粒子塗布層中に、該ラジカル発生剤化合物を含有させることができる。
【0022】
場合によっては、前記有機溶剤を含む液相分散媒中に、
前記エネルギー線照射処理に利用されるエネルギー線の照射に伴って、ラジカル種を生成する機能を有するラジカル発生剤化合物、または、酸成分を発生する機能を有する酸発生剤化合物を添加し、
前記乾燥処理済み金属微粒子塗布層中に、該ラジカル発生剤化合物、または該酸発生剤化合物を含有させ、
さらに、前記エネルギー線照射処理に利用されるエネルギー線の照射に伴って、照射されるエネルギー線のエネルギーを受容し、該受容したエネルギーを該ラジカル発生剤化合物、または該酸発生剤化合物へと伝達し、該ラジカル発生剤化合物、または該酸発生剤化合物の機能発揮を可能とする、増感剤化合物を添加し、
前記乾燥処理済み金属微粒子塗布層中に、該増感剤化合物を含有させることもできる。
【0023】
その他に、前記有機溶剤を含む液相分散媒中に、
前記エネルギー線照射処理、または低温加熱処理を施した際、重合硬化することが可能なバインダー樹脂成分を添加し、
前記乾燥処理済み金属微粒子塗布層中に、該バインダー樹脂成分を含有させることができる。その際、前記エネルギー線照射処理、または低温加熱処理を施した際、重合硬化することが可能なバインダー樹脂成分として、
前記エネルギー線照射処理に利用する、エネルギー線の照射を起因として、重合硬化活性の発揮がなされる、エネルギー線硬化性バインダー樹脂成分を用いることもできる。
【0024】
また、バインダー樹脂成分を添加すると、
前記エネルギー線照射処理と低温加熱処理とを施すとことで、前記金属微粒子塗布層中に含まれるバインダー樹脂成分の重合硬化と、前記金属微粒子塗布層中に含まれる金属微粒子相互の焼結がなされ、
前記重合硬化されたバインダー樹脂と金属微粒子焼結体とからなる、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成がなされる方法となる。
【0025】
加えて、前記有機溶剤を含む液相分散媒中に、
基板の表面に対する、金属微粒子焼結体層の接着性を向上する機能を有する、接着性向上剤を添加し、
前記乾燥処理済み金属微粒子塗布層中に、該接着性向上剤を含有させることもできる。
【0026】
さらに、本発明は、上述する本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法を利用する、導電性金属薄膜または金属配線の形成方法の発明、あるいは、配線回路基板の発明をも提供しており、
すなわち、本発明にかかる導電性金属薄膜または金属配線の形成方法は、
基板上に導電性金属薄膜または金属配線を形成する方法であって、
前記導電性金属薄膜または金属配線は、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層を利用して形成され、
基板上に該金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層を形成する工程は、
上述する構成のいずれかを有する、本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法を用いて実施される
ことを特徴とする、導電性金属薄膜または金属配線の形成方法である。
【0027】
また、本発明にかかる配線回路基板の発明は、
基板表面に、導電性金属薄膜または金属配線からなる配線回路パターンが形成されている配線回路基板であって、
基板表面に形成されている、前記導電性金属薄膜または金属配線からなる配線回路パターンは、
金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層を利用して形成されており、
基板上の該金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層は、
上述する構成のいずれかを有する、本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法を用いて形成される、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層である
ことを特徴とする、配線回路基板である。
【0028】
なお、本発明の実施形態において形成される、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の膜厚は、0.1μm〜30μmの範囲、より好ましくは、0.5μm〜20μmの範囲、さらに好ましくは0.5μm〜5μmの範囲に選定することが望ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法では、金、銀、銅などの単体金属または合金の金属ナノ粒子を利用する金属微粒子分散液に依る、高い描画精度を生かし、微細なパターンを有する金属微粒子の塗布層を形成する。その上で、分散液中における金属微粒子相互の凝集を防止する目的で金属微粒子の表面に設けられている、分散剤の被覆分子層を除去し、金属微粒子相互の焼結を行う工程を、塗布層表面から電子線、紫外線などのエネルギー線の照射後、または、照射と同時に、加熱処理を施すことで、加熱処理温度を200℃以下に選択しても、従前の250℃以上の加熱処理と遜色のない、良好な導電性を示す金属微粒子焼結体層を形成することが可能となる。この電子線、紫外線などのエネルギー線の照射に因る、加熱処理温度の低減効果は、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層を作製する際、その基材として利用する基板材料における、耐熱性の制限を格段に緩和している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
従来、金属微粒子を用いた導電性金属薄膜または金属配線の形成方法において塗布膜の導通を行うには一般的には加熱による方法が広く行われていた。しかしながら金属微粒子を互いに融着させ、低抵抗の導電性金属薄膜または金属配線を作製するには、200℃以上の加熱温度が必要であった。それゆえ耐熱性に乏しいプラスチック、紙などの基材に対して金属微粒子を用いた導電性金属薄膜または金属配線の作製は困難であり、金属微粒子分散液を用いた導電性金属薄膜または金属配線の形成方法は幅広い用途展開ができなかった。従って、本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法は、耐熱性に乏しい基材に対しても十分適応できる温度範囲において、金属微粒子分散液を用いた導電性金属薄膜または金属配線の作製方法を提供している。例えば、本発明の方法を適用すると、金、銀、銅などの金属または合金の金属微粒子を分散媒中に安定に分散した金属微粒子分散液を利用して、基材面に目的とする描画パターンを直接、塗布・描画した上で、エネルギー線照射を利用することによって、電子部品に影響を及ぼさない50℃〜150℃の温度で焼結を行い良好な金属薄膜が得られる。この利点は、多層配線板、ICカード等のアンテナの回路について一層の微細化を与えると共に、高い生産性の向上を図ることができる。また、従来の金属薄膜を形成した後、目的とする微細パターンにエッチング加工する方法、あるいは、目的とする微細パターンのメッキマスクを利用して、メッキ法で金属薄膜を形成する方法等に比べ、それらの工程で発生する廃液処理等の観点においても、環境負荷を減らすことに貢献することができる。
【0031】
本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法では、薄膜導電体層を形成する基板に利用される基材、あるいは、基板に既に実装されている電子部品に対して、可能な限り加熱処理に伴う材料劣化の進行、電子部品性能への影響を抑制するために、金属微粒子焼結体の形成に要する加熱処理を、好ましくは、50℃〜150℃の温度範囲で行っている。そのため、従来の、250℃以上の加熱を必要とする、金属微粒子の表面被覆分子層を除去し、その後、金属微粒子自体の焼結を行う工程では、150℃以下の低温加熱処理で焼結を進行させるため、下記する手段を利用している。
【0032】
まず、本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法では、
(1)基板上に金属微粒子分散液を塗布する工程、
基板上に塗布されている金属微粒子の層に、エネルギー線を照射する工程、
および、低温加熱処理によって、塗布されている金属微粒子の層を焼成する工程を経て、導電性金属薄膜または金属配線に利用可能な金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層を作製する。
(2)導電性金属薄膜または金属配線に利用するため、焼結体の構成に用いる金属微粒子の金属種には、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ニッケル、アルミニウムから選ばれる一種またはこれらの二種以上の合金を用いて、これら導電性に優れた金属材料からなる、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層を作製する。
(3)150℃以下の低温加熱処理によって、塗布されている金属微粒子の層を焼成するので、平均粒子径が1〜100nmである上記金属微粒子を用いる。
(4)基板上に塗布されている金属微粒子の層に照射されるエネルギー線として、電子線または紫外線照射を利用する。従って、基板上に塗布されている金属微粒子の層に対して、その表面に選択的にエネルギー線照射を施し、それ以外の基板面に対しては、エネルギー線照射を行わないという、高い照射位置の選択性が得られる。
(5)基板上に塗布されている金属微粒子の層に、エネルギー線、例えば、電子線または紫外線を照射し、50〜150℃に加熱することで、エネルギー線照射が施された金属微粒子の層では金属微粒子の焼結が進行して、目的とする微細パターンの導電性金属薄膜または金属配線の作製が可能となる。
(6)金属微粒子分散液中に、エネルギー線照射により酸成分を発生する化合物を添加し、基板上に塗布されている金属微粒子の層表面にエネルギー線照射を施した際、酸成分を発生させることで、金属微粒子表面を被覆する分散剤除去の促進を図る。
【0033】
以上のように、金属微粒子の分散液中における分散性を維持する目的で利用されている、金属微粒子表面を被覆している分散剤を除去する手段として、従来は、250℃以上の温度の加熱を要する、熱的な活性化、離脱過程を利用していた。一方、本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法では、塗布されている金属微粒子の層に、電子線または紫外線などのエネルギー線を照射することにより、金属微粒子表面を被覆している分散剤を直接、振動励起がなされた「活性化」状態とする上、金属原子との間での結合力の低減もなされ、脱離が起こり易くなるという現象を利用している。この分散剤分子と金属原子との間での結合力の低減が進む現象は、金属原子と分散剤分子との結合は、金属元素と配位的な結合を形成する際、窒素、酸素、またはイオウ原子上の孤立電子対を有する基を利用することに由来している。
【0034】
例えば、分散剤分子に正の電荷を有する分子種が接近すると、分散剤分子が有する、窒素、酸素、またはイオウ原子上の孤立電子対を利用して、この正の電荷を有する分子種と、複合体形成を起こし易い。その際、分散剤分子と金属原子との間での結合力は、低減されることになる。また、金属微粒子に負の電荷が付与されると、分散剤分子が有する、窒素、酸素、またはイオウ原子上の孤立電子対を利用している、金属原子と分散剤分子との配位的な結合力は、大幅に低減される。
【0035】
加えて、金属微粒子表面を被覆している分散剤を直接、振動励起がなされた「活性化」状態とすると、熱的な「活性化」によって、振動励起がなされた場合と同様に、離脱過程の促進化が図られる。さらに、被覆されている分散剤の除去がなされると、金属微粒子自体の表面に対して、エネルギー線照射を行うと、活性化がなされ、金属微粒子同士の融着が起こりやすくなる現象をも、本発明者らは併せて見出した。
【0036】
その他、金属微粒子表面は、被覆している分散剤によって、保護されており、通常、表面に酸化被膜の存在は抑制されている。仮に、金属微粒子表面の一部に酸化被膜が存在していても、例えば、銀ナノ粒子表面に酸化銀(AgO)の酸化被膜が存在しても、減圧状態下、100℃程度に加熱すると、酸化銀(AgO)は、金属銀と酸素分子へと分解する。あるいは、系内に、アルコール性ヒドコキシ基を有する化合物が存在すると、−CH2(OH)、−CH(OH)−から、酸化銀(AgO)の酸化剤として機能を利用して、アルデヒド型−CHO、ケトン型の−CO−へと変換される。一方、表面も酸化銀(AgO)型の酸化被膜は、還元され、金属Agとなる。この反応も、金属酸化被膜、例えば、酸化銀(AgO)は半導体として機能し、紫外線励起に伴い、光キャリアが生成する、あるいは、金属酸化被膜へ電子の注入がなされると、一般に促進がなされる。
【0037】
これらの各過程は、何れも、基板上に塗布されている金属微粒子の層に、エネルギー線、例えば、電子線または紫外線を照射することで促進され、50〜150℃に加熱することで、金属微粒子(ナノ粒子)の焼結体の形成が可能となる。
【0038】
以下に、本発明に関してより詳しく説明する。その際、説明の便宜上、「平均粒子径が8nmの銀ナノ粒子」を金属微粒子として用いる実施形態を利用して、具体的な説明を行った記載を含むが、本発明は、勿論、この銀ナノ粒子を利用する形態に限定されるものではない。
【0039】
[金属微粒子分散液]
本発明においては、低温加熱処理によって、金属微粒子相互の焼結がなされ、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成を行う。
【0040】
従って、利用する金属微粒子は、低温加熱処理によって、金属微粒子相互の焼結がなされる、平均粒子径が1〜100nmの範囲の金属微粒子を利用する。また、形成される金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層は、配線回路基板において、その基板表面の導電性金属薄膜または金属配線からなる配線回路パターンの形成に利用するため、金属微粒子を構成する金属材料自体は、ハンダ接合を行う温度では、融解しないものが望ましい。従って、少なくとも200℃を超える融点を示す金属材料で構成される金属微粒子を用いることが望ましい。例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ニッケル、アルミニウムからなる金属元素の群から選択される、単体金属種、または、二種以上の金属種からなる合金であることが好ましい。
【0041】
この金属微粒子相互の焼結を行う条件は、50℃以上、少なくとも200℃を超えない温度範囲に選択される加熱温度、非酸化性ガス雰囲気下における、低温加熱処理が利用される。その際、加熱温度は、50℃〜150℃の範囲とすることがより望ましい。なお、ナノサイズの平均粒子径を有する、金属微粒子相互の焼結を、加熱温度は、50℃〜150℃の範囲とした上で、実用的な時間内で完了させるためには、前記金属微粒子の平均粒子径は、20nm以下に選択することが望ましい。
【0042】
前記の低温加熱処理に際して利用される非酸化性ガスとしては、金属微粒子を構成する金属の酸化を引き起こさない限り、そのガスの種類は問わない。なお、好適に利用可能な非酸化性ガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、窒素ガス、窒素・水素混合ガス、炭酸ガスなどを挙げることができる。なお、エネルギー線照射処理を施した金属微粒子塗布層は、表面活性が高くなっており、酸素分子のような酸化性ガスの存在下で、50℃以上の加熱処理を施すと、かかる表面が酸化等による変質が生起されるので、低温加熱処理時の雰囲気中における酸化性ガスの存在は不適当である。
【0043】
一方、作製する金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の膜厚に対して、用いる金属微粒子の平均粒子径が過度に小さくなると、得られる焼結体型の薄膜導電体層の導電率を高める上で、一般に好ましくない。例えば、作製する金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の膜厚を0.5μm〜2μmの範囲とする際には、用いる金属微粒子の平均粒子径は、少なくとも、薄膜導電体層の膜厚の1/100〜1/500程度以上の範囲に選択することが望ましい。換言するならば、用いる金属微粒子の平均粒子径は、5nm以上の範囲に選択することが好ましい。従って、実用上の観点から、利用する金属微粒子の平均粒子径は、5〜20nmの範囲に選択されることがより好ましい。
【0044】
この金属微粒子は、該金属微粒子の表面に、金属微粒子相互の凝集を防止する機能を有する、分散剤の被覆分子層を設けて、該被覆分子層を有する金属微粒子の形態で、有機溶剤を含む液相分散媒中に分散されている。形成する薄膜導電体層の膜厚、その形状パターンに応じて、かかる金属微粒子分散液を基板表面に塗布して、金属微粒子分散液塗布膜層を形成する。この金属微粒子分散液の塗布・パターン描画・印刷手段としては、インクジェットやスクリーン印刷,ディスペンサー,含浸,スピンコートなどの各種手法が用いられる。
【0045】
利用する塗布・パターン描画・印刷手段に応じて、金属微粒子分散液の液粘度を適宜調節することが必要となる。例えば、微細な塗布パターンの描画にスクリーン印刷を利用する際には、金属微粒子分散液は、その液粘度を、30〜300 Pa・s(25℃)の範囲に選択することが望ましい。
【0046】
また、オフセット、樹脂凸版印刷を利用する際には、液粘度を、10〜500 Pa・s(25℃)の範囲に選択することが望ましい。フレキソ印刷を利用する際には、液粘度を、100〜5000 mPa・s(25℃)の範囲に選択することが望ましい。グラビア印刷を利用する際には、液粘度を、1〜100 mPa・s(25℃)の範囲に選択することが望ましい。
【0047】
インクジェット印刷を利用する際には、液粘度を、1〜100 mPa・s(25℃)の範囲に選択することが望ましい。金属微粒子分散液の液粘度は、用いる金属微粒子の平均粒子径、分散濃度、用いている分散媒、例えば、含まれる有機溶剤(希釈溶媒)の種類に依存して決まり、前記の三種の因子を適宜選択して、目的とする液粘度に調節することができる。
【0048】
[分散剤の被覆分子層]
本発明において利用する、金属微粒子分散液において分散質の金属微粒子は、該金属微粒子の表面に、金属微粒子相互の凝集を防止する機能を有する、分散剤の被覆分子層を設けて、該被覆分子層を有する金属微粒子の形態で、有機溶剤を含む液相分散媒中に分散されている。
【0049】
この金属微粒子相互の凝集を防止する機能を有する、分散剤の被覆分子層には、金属微粒子を構成している金属材料において、その表面に露呈している金属原子に対して、配位可能な有機化合物が利用されている。
【0050】
この金属微粒子表面の緻密な被覆分子層に利用される有機化合物は、金属元素と配位的な結合を形成する際、窒素、酸素、またはイオウ原子上の孤立電子対を有する基を利用するもので、例えば、窒素原子を含む基として、アミノ基が挙げられる。また、イオウ原子を含む基としては、スルファニル基(−SH)、スルフィド型のスルファンジイル基(−S−)が挙げられる。また、酸素原子を含む基としては、ヒドロキシ基、エーテル型のオキシ基(−O−)が挙げられる。
【0051】
利用可能なアミノ基を有する化合物の代表として、アルキルアミン、ジアミンなどのアミン化合物を挙げることができる。なお、かかるアミン化合物は、金属元素と配位的な結合を形成した状態で、通常の保管環境、具体的には、40℃に達しない範囲では、脱離しないものが好適である。また、利用可能なスルファニル基(−SH)を有する化合物の代表として、アルカンチオール、アルカンジチオールなどを挙げることができる。なお、かかるアルカンチオール、アルカンジチオールも、金属元素と配位的な結合を形成した状態で、通常の保管環境、具体的には、40℃に達しない範囲では、脱離しないものが好適である。さらに、利用可能なヒドロキシ基を有する化合物の代表として、アルカンジオールを挙げることができる。なお、かかるアルカンジオールも、金属元素と配位的な結合を形成した状態で、通常の保管環境、具体的には、40℃に達しない範囲では、脱離しないものが好適である。
【0052】
なお、金属微粒子の焼結が進む低温加熱過程に先立ち、エネルギー線照射を施すことで、分散剤として利用する有機化合物は、金属微粒子の表面から、離脱する、あるいは、僅かに加熱を加えることで、離脱可能とされている。その後、低温加熱過程において、金属微粒子の表面から離脱した後、分散剤として利用する有機化合物は、蒸散・除去可能なものがより好適に利用できる。従って、金属微粒子表面の被覆分子層は、該分散剤として、その沸点は、150℃以上、350℃以下の範囲であって、アミン類、アルコール類、フェノール類、チオール類からなる群より選択される、一種類の分散剤分子、または、二種類以上の分散剤分子を利用して、形成することが好ましい。
【0053】
金属微粒子として、例えば、銀ナノ粒子を利用する場合、2−メチルアミノエタノール,ジエタノールアミン、ブトキシプロピルアミン、ジエチルメチルアミン、2−ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミンなどのアミン化合物や、アルキルアミン類、エチレンジアミンなど、
アルキルアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、
アルキルチオール類、シクロヘキシルチオール等の脂環式チオール類、エタンジチオールなどが好適に利用可能である。
【0054】
これら金属微粒子表面を被覆する分子層は、金属微粒子相互が直接金属表面を接触させ、金属微粒子相互の凝集を引き起こすことを防止する機能を有している。また、有機溶剤を含む液相分散媒中に均一に分散する上で、そのアルキル鎖などを利用して、有機溶剤中において、その分散性を保持する分散剤としての機能も発揮している。
【0055】
一方、金属微粒子の表面を被覆している、配位結合可能な化合物は、例えば、エネルギー線照射による励起に伴い、酸成分を発生する化合物の存在下、その励起エネルギー源として、エネルギー線、例えば、電子線や紫外線を照射し、更に、50℃〜150℃程度に加熱すると、発生した酸を利用して化学反応を起こし、その除去を行うことが可能である。
【0056】
[エネルギー線照射源]
本発明において、エネルギー線照射処理工程では、電子線または紫外線を主に利用する。
【0057】
電子線を利用する際には、その加速電圧は、50kV〜200kVの範囲に選択することが好ましい。
【0058】
一般に、電子線源としては、加速電圧100kV以下の超低加速電圧電子線照射装置、加速電圧100〜300kVの低加速電圧電子線照射装置、300〜800kVの中加速電圧電子線照射装置、および1000kV以上の高加速電圧電子線照射装置が知られているが、これらのうち、選択された加速電圧に適する電子線源を選択する。従って、加速電圧が50kV〜200kVの範囲で使用可能な電子線源は、加速電圧100kV以下の超低加速電圧電子線照射装置、あるいは、加速電圧100〜300kVの低加速電圧電子線照射装置のいずれかである。
【0059】
エネルギー線照射処理工程において、紫外線照射を利用する場合、光源としては、波長180〜400nmの近紫外線領域を利用することが、一般に好ましい。場合によっては、近紫外線領域に加えて、青色、紫色領域の近接する可視光(波長400〜500nm)をも併用することも可能である。
【0060】
前記波長180〜400nmの近紫外線領域の紫外線、ならびに、青色、紫色領域の近接する可視光(波長400〜500nm)の光源としては、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、水銀−キセノンランプ、エキシマランプ、ショートアーク灯、ヘリウム−カドニウムレーザー、アルゴンレーザー、エキシマレーザー、UV無電極ランプなどが挙げられる。例えば、水銀の原子線は、184.9nm、253.7nm、365.0nm、435.8nmに輝線を示す。
【0061】
以下に例示する、酸発生剤化合物、ラジカル発生剤化合物、増感剤化合物は、芳香族環を有しており、これらを添加すると、照射された近紫外線領域の紫外線は、一旦、これらの化合物に吸収される。その後、例えば、分散剤の被覆分子に対して、エネルギー移動を起こし、その分子内振動の励起を引き起こすことができる。また、金属微粒子の表面の格子振動へ、エネルギー移動を起こすことも可能となる。
【0062】
加えて、酸発生剤化合物、ラジカル発生剤化合物に対して、近紫外線領域の紫外線の吸収が生じると、間接的に電子移動によって、金属微粒子に負電荷の注入が引き起こされる効果もある。あるいは、分散剤の被覆分子に対して、プロトン(H+)が間接的に供与されて、プロトン(H+)の供与を受けた被覆分子は、全体として、正電荷を有するものとなる。いずれの場合も、金属微粒子表面の金属原子に対する、被覆分子の配位結合に類する分子間結合力を大幅に低下することが可能となる。その結果、酸発生剤化合物、ラジカル発生剤化合物から、分散剤の被覆分子に対して、エネルギー移動を起こし、その分子内振動の励起を引き起こす効果をも利用して、金属微粒子表面から被覆分子の離脱が促進される。
【0063】
電子線や紫外線などのエネルギー線の侵入深さは、金属微粒子塗布層の膜厚と比較すると有意に浅いが、塗布層膜厚が相対的に薄いならば、表面において、金属微粒子に負の電荷を注入すると、段階的に、下層の金属微粒子へと注入された電荷が拡散・伝播され、この効果は、塗布層膜厚の全体に及ぶことになる。従って、表面部だけでなく、薄い塗布層の深部でも、程度の差はあるものの、金属微粒子の表面を保護していた、被覆分子層の相当部分が除去される効果が得られる。
【0064】
従って、本発明において、エネルギー線照射処理工程において、紫外線照射を利用する場合、照射される紫外線を有効に吸収し、その後、エネルギー移動過程に伴い、分散剤の被覆分子に対して、その分子内振動の励起を引き起こすことができる、酸発生剤化合物、ラジカル発生剤化合物、さらには、増感剤化合物を添加することが好ましい。この酸発生剤化合物、ラジカル発生剤化合物、さらには、増感剤化合物は、金属微粒子分散液中に添加して、乾燥処理済み金属微粒子塗布層において、表面被覆分子層を具えている金属微粒子に対して、その周囲に均一に分布する形態とする。
【0065】
なお、エネルギー線照射処理工程において、紫外線照射を利用する場合、かかる紫外線を直接吸収し、酸を発生することが可能な酸発生剤化合物の利用が望ましい。但し、酸発生剤化合物の添加量は、例えば、分散媒中への溶解度などの制約が存在する。酸発生剤化合物自体の添加量は抑える代わりに、この酸発生剤化合物に対して、吸収したエネルギーを供与可能な増感剤化合物を併せて添加して、紫外線の吸収量を実質的に向上させることもできる。また、光ラジカル発生剤化合物も、この種の光増感作用を発揮するものもあり、酸発生剤化合物に対して、光ラジカル発生剤化合物を併せて添加して、紫外線の吸収量を実質的に向上させることもできる。
【0066】
[酸発生剤化合物]
本発明において、エネルギー線照射によって、酸を発生する化合物としては、例えば、化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される、酸発生剤化合物が用いられる(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192頁参照)。特には、紫外線照射を利用する際、その紫外線を直接吸収し、酸を発生する化合物の利用が好適である。
【0067】
本発明において、好適に利用可能な酸発生剤化合物の例を以下に示す。
【0068】
第1に、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウムなどの芳香族オニウム化合物のB(C654-、PF6-、AsF6-、SbF6-、CF3SO3-塩を挙げることができる。対アニオンとして、ボレート化合物を持つものが酸発生能力が高く好ましい。一方、オニウム化合物としては、ビス(アルキル(C=10〜14)フェニル)ヨードニウム ヘキサフルオロフォスフェイト、4−メチルフェニル[4−(1メチルエチル)フェニル]ヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートの他、下記に例示するオニウム化合物が好適に利用可能である。
【0069】
【化1】

【0070】
第2に、スルホン酸を発生するスルホン化物を挙げることができる。具体的な化合物の一例を以下に例示する。
【0071】
【化2】

【0072】
第3に、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物も用いることができる。以下に具体的な化合物の一例を例示する。
【0073】
【化3】

【0074】
第4に、下記に例示するような鉄アレン錯体を挙げることができる。
【0075】
【化4】

【0076】
利用される酸発生剤化合物は、乾燥処理済み金属微粒子塗布層の表面に照射される、エネルギー線、特に、紫外線に対して、その利用効率を高める添加量で使用することが望ましい。従って、金属微粒子分散液を調製する際、金属微粒子の原料として、例えば、銀ナノ粒子分散液100質量部中に、銀ナノ粒子を30〜80質量部含有している、原料銀ナノ粒子分散液を利用し、この原料銀ナノ粒子分散液中に、以下に例示する添加比率で酸発生剤化合物を添加することが好ましい。例えば、原料銀ナノ粒子分散液100質量部当たり、酸発生剤化合物の添加量を0.1〜100質量部の範囲、好ましくは、0.5〜30質量部の範囲、より好ましくは、0.5〜10質量部の範囲、さらに好ましくは、1〜10質量部の範囲に選択することが望ましい。なお、金属微粒子原料として利用する、例えば、原料銀ナノ粒子分散液100質量部当たり、酸発生剤化合物の添加量を、0.1質量部以下に選択すると、多くの場合、エネルギー線、特に、紫外線に対して、それを利用して、系内に酸を供給する効果(機能)は乏しい。一方、金属微粒子原料として利用する、例えば、原料銀ナノ粒子分散液100質量部当たり、酸発生剤化合物の添加量を、100質量部以上に選択すると、金属微粒子相互の焼結を阻害する要因ともなる。例えば、金属微粒子相互の焼結に伴う、嵩体積の減少(収縮)を阻害する結果、緻密な金属微粒子焼結体に至らず、良好な導電性の達成の妨げともなる。
【0077】
[光ラジカル発生剤(光ラジカル重合開始剤)]
本発明において、利用可能な光ラジカル発生剤化合物の一例を以下に示す。ここで、光ラジカル発生剤は、光開裂型と水素引き抜き型に大別して例示することができる。
【0078】
光開裂型のラジカル発生剤の例として、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α−アクリルベンゾイン等のベンゾイン系、
ベンジル、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン(イルガキュア907:チバスペシャルティケミカルズ社製)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノン(イルガキュア369:チバスペシャルティケミカルズ社製)、ベンジルメチルケタール(イルガキュア651:チバスペシャルティケミカルズ社製)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184:チバスペシャルティケミカルズ社製)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(ダロキュア1173:メルク社製)、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン(ダロキュア1116:メルク社製)、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、4−(2−アクリロイル−オキシエトキシ)フェニル−2−ヒドロキシ−2−プロピルケトン、ジエトキシアセトフェノン(ZLI3331:チバスペシャルティケミカルズ社製)、エサキュアーKIP100(ラムベルティ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド(BAPO1:チバスペシャルティケミカルズ社製)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(BAPO2:チバスペシャルティケミカルズ社製)、BTTB(日本油脂(株)製)、CGI1700(チバスペシャルティケミカルズ社製等が例示される。
【0079】
水素引き抜き型光ラジカル発生剤の例として、ベンゾフェノン、p−メチルベンゾフェノン、p−クロルベンゾフェノン、テトラクロロベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、アセトフェノン等のアリールケトン系開始剤、
4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジメチルアミノアセトフェノン等のジアルキルアミノアリールケトン系開始剤、
チオキサントン、キサントン系、ならびにそのハロゲン置換系の多環カルボニル系開始剤等が例示される。
【0080】
なお、光開裂型と水素引き抜き型に大別される光ラジカル発生剤化合物は、それぞれの種類に属する化合物から、一種を利用することも、場合によっては、相互に干渉を引き起こすことのないものを、適宣組み合わせて、利用することもできる。
【0081】
[増感剤化合物]
また、酸発生剤化合物、ラジカル発生剤化合物と共に、利用される増感剤化合物として、アントラセン等の化合物が挙げられる。利用する増感剤化合物は、照射される光の波長において、有効な光吸収を可能な化合物が利用され、ここに例示するアントラセンに限定されるものではない。
【0082】
利用される増感剤化合物の第一の機能は、乾燥処理済み金属微粒子塗布層の表面に照射される、エネルギー線、特に、紫外線に対して、その利用効率を高めることである。従って、金属微粒子分散液を調製する際、金属微粒子の原料として、例えば、銀ナノ粒子分散液100質量部中に、銀ナノ粒子を30〜80質量部含有している、原料銀ナノ粒子分散液を利用し、この原料銀ナノ粒子分散液中に、以下に例示する添加比率で増感剤化合物を添加することが好ましい。例えば、原料銀ナノ粒子分散液100質量部当たり、増感剤化合物の添加量を0.1〜100質量部の範囲、好ましくは、0.5〜30質量部の範囲、より好ましくは、0.5〜10質量部の範囲、さらに好ましくは、1〜10質量部の範囲に選択することが望ましい。なお、金属微粒子として利用する、例えば、原料銀ナノ粒子分散液100質量部当たり、増感剤化合物の添加量を、0.1質量部以下に選択すると、多くの場合、エネルギー線、特に、紫外線に対して、その利用効率を高める効果(機能)は乏しい。一方、金属微粒子として利用する、例えば、原料銀ナノ粒子分散液100質量部当たり、増感剤化合物の添加量を、100質量部以上に選択すると、金属微粒子相互の焼結を阻害する要因ともなる。例えば、金属微粒子相互の焼結に伴う、嵩体積の減少(収縮)を阻害する結果、緻密な金属微粒子焼結体に至らず、良好な導電性の達成の妨げともなる。
【0083】
[バインダー樹脂成分]
本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法では、必要に応じて、金属微粒子焼結体層と基板表面との間におけるバインダー樹脂、あるいは、金属微粒子焼結体層内部の隙間を満たし、金属微粒子焼結体層全体を連結するバインダー樹脂としても、利用されるバインダー樹脂成分を金属微粒子分散液中に添加することができる。このバインダー樹脂成分は、金属微粒子分散液中において、分散媒を構成する液相成分に添加される。従って、バインダー樹脂成分自体、室温(20℃)において、流動性を示すとともに、分散媒中に含まれる有機溶剤(分散溶媒)中に均一に混合、溶解可能なものを利用する。
【0084】
従って、本発明において、必要に応じて、金属微粒子分散液、例えば、銀ナノ粒子を含むペースト状の分散液中に、エネルギー線照射処理ならびに低温加熱処理を施すことで、硬化して、バインダー樹脂として機能する、バインダー樹脂成分を添加することができる。この目的で添加される、バインダー樹脂成分としては、以下に例示するような活性エネルギー線硬化性バインダー、ないしは、公知の光カチオン重合を発現させる化合物が好適に利用できる。一方、バインダー樹脂成分として、活性エネルギー線硬化性バインダー、ないしは、公知の光カチオン重合を発現させる化合物を添加する際には、同時に、酸発生剤化合物、ラジカル発生剤化合物、さらには、増感剤化合物を添加することで、エネルギー線照射処理によって、これらバインダー樹脂成分の重合反応を誘起することも可能である。
【0085】
活性エネルギー線硬化性バインダーとは、ジアリルフタレート樹脂に代表される軟化点50〜180℃の非反応性樹脂(インナート樹脂)、もしくは反応性(ラジカル重合性)オリゴマー、ラジカル重合性モノマー、必要に応じて、ラジカル重合開始剤や光増感剤、必要に応じ顔料、さらに諸種の添加剤からなる。
【0086】
非反応性樹脂(インナート樹脂)としては、オルソないしイソタイプのジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。また、反応性(ラジカル重合性)オリゴマーとして、アルキッドアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタン変性アクリレート等が挙げられる。
【0087】
ラジカル重合性モノマーとして、エチレン性不飽和二重結合を持つ、各種の(メタ)アクリルモノマーまたはアクリルオリゴマーが利用できる。エチレン性不飽和二重結合を有する、各種の(メタ)アクリルモノマー、オリゴマーのうち、代表的な1官能モノマーとして、下記のものを例示できる。先ず、アルキル(炭素数1〜18の範囲に選択される)(メタ)アクリレート、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートを例示できる。さらに、ベンジル(メタ)アクリレート、ブチルフェノール、オクチルフェノールまたはノニルフェノールまたはドデシルフェノールのようなアルキルフェノールエチレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンモノメチロール(メタ)アクリレート等も例示される。
【0088】
さらに、代表的な2官能モノマーとして、下記のものを例示できる。先ず、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートジ(メタ)アクリレート(通称マンダ)、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートジカプロラクトネートジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−オクタンジオールジ(メタ)アクリレートジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,14−テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,16−ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−2,4−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオ−ルジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールオクタンジ(メタ)アクリレート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、
トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジカプロラクトネートジ(メタ)アクリレート、
ビスフェノールA テトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF テトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールS テトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、水素添加ビスフェノールA テトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、水素添加ビスフェノールF テトラエチレンオキサイド付加体ジ(メタ)アクリレート、水素添加ビスフェノールA ジ(メタ)アクリレート、水素添加ビスフェノールF ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA テトラエチレンオキサイド付加体ジカプロラクトネートジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF テトラエチレンオキサイド付加体ジカプロラクトネートジ(メタ)アクリレート等が例示される。
【0089】
利用可能な3官能モノマーの例として、
グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリカプロラクトネートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールヘキサントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールオクタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート等が例示される。
【0090】
利用可能な4官能以上のモノマーの例として、
ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラカプロラクトネートテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラカプロラクトネートテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールエタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールブタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールヘキサンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールオクタンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリトリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリトリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリトリトールオクタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールポリアルキレンオキサイドヘプタ(メタ)アクリレート等が例示される。
【0091】
さらに、脂肪族アルコール化合物のアルキレンオキサイド付加体(メタ)アクリレートモノマー、特に、C3〜C20のアルキレンオキサイドを持つ脂肪族アルコール化合物のアルキレンオキサイド付加体(メタ)アクリレートモノマー等が例示される。
【0092】
以上に例示する各種の(メタ)アクリレート型モノマー化合物は、目的とする樹脂特性に応じて、単独、若しくは2種以上組み合わせることができる。なお、以上に例示する(メタ)アクリレート型モノマー化合物に限定されるものではない。
【0093】
一方、光カチオン重合を発現させる化合物の一例として、光カチオン重合性モノマーが挙げられる。光カチオン重合開始用励起光として、紫外線照射が利用可能な、各種公知のカチオン重合性のモノマーが使用できる。例えば、特開平6−9714号公報、特開2001−31892号公報、特開2001−40068号公報、特開2001−55507号公報、特開2001−310938号公報、特開2001−310937号公報、特開2001−220526号公報に例示されているエポキシ化合物(芳香族系、脂環式系、脂肪族系等)、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。
【0094】
光カチオン重合性モノマー用の好適なエポキシ化合物の例を、一部以下に示す。
【0095】
芳香族エポキシドとして、好ましいものは、少なくとも、1個の芳香族核を有する多価フェノール、あるい、そのアルキレンオキサイド付加体と、エピクロルヒドリンとの反応によって製造される、ジ又はポリグリシジルエーテルである。例えば、ビスフェノール A、あるいは、そのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノール A、あるいは、そのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、ならびに、ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。なお、前記アルキレンオキサイド付加体中に利用される、アルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0096】
脂環式エポキシドとしては、少なくとも、1個のシクロへキセン又はシクロペンテン環等のシクロアルケン環を有する化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化することにより得られる、シクロヘキセンオキサイド又はシクロペンテンオキサイド含有化合物が挙げられる。
【0097】
脂肪族エポキシドのうち、好ましい化合物の一例には、脂肪族多価アルコール、あるいは、そのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル等が含まれる。その代表例として、
エチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル又は1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、
グリセリン、あるいは、そのアルキレンオキサイド付加体のジ又はトリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル、
ポリエチレングリコール、あるいは。そのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール、あるいは、そのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。なお、前記アルキレンオキサイド付加体中に利用される、アルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0098】
以上に例示する、各種のエポキシドのうち、速硬化性を考慮すると、芳香族エポキシド及び脂環式エポキシドを利用することが好ましい。特に、脂環式エポキシドを利用することがより好ましい。本発明における、バインダー樹脂成分として、上述の光カチオン重合可能なエポキシドの1種を単独で使用してもよいし、また、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0099】
また、ビニルエーテル化合物としては、例えば、
エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物、
エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−O−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0100】
本発明における、バインダー樹脂成分として、上述の光カチオン重合可能なビニルエーテル化合物の1種を単独で使用してもよいし、また、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0101】
オキセタン化合物は、オキセタン(トリメチレンオキシド)環を有する化合物のことであり、特開2001−220526号公報、特開2001−310937号公報に紹介されているような公知のあらゆるオキセタン化合物が、本発明における、バインダー樹脂成分として使用できる。
【0102】
本発明においては、バインダー成分として、以上説明した各種の重合性モノマー化合物を、1種類若しくは2種類以上組み合わせて、重合させたバインダー樹脂を、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層中に含有させてもよい。なお、金属微粒子分散液を調製する際、金属微粒子の原料として、例えば、銀ナノ粒子分散液100質量部中に、銀ナノ粒子を30〜80質量部含有している、原料銀ナノ粒子分散液を利用し、この原料銀ナノ粒子分散液中に、以下に例示する添加比率でバインダー樹脂成分を添加することが好ましい。例えば、原料銀ナノ粒子分散液100質量部当たり、バインダー樹脂成分の添加量を1〜50質量部の範囲、好ましくは、1〜40質量部の範囲、さらに好ましくは5〜20質量部の範囲に選択することができる。なお、金属微粒子原料として利用する、例えば、原料銀ナノ粒子分散液100質量部当たり、バインダー樹脂成分の添加量を、5質量部以下に選択すると、多くの場合、金属微粒子焼結体全体に対するバインダー樹脂としての効果(機能)は乏しい。一方、金属微粒子原料として利用する、例えば、原料銀ナノ粒子分散液100質量部当たり、バインダー樹脂成分の添加量を、40質量部以上に選択すると、バインダー樹脂の重合速度によっては、金属微粒子相互の焼結を阻害する要因ともなる。例えば、金属微粒子相互の焼結に伴う、嵩体積の減少(収縮)を阻害する結果、緻密な金属微粒子焼結体に至らず、良好な導電性の達成の妨げともなる。
【0103】
すなわち、得られた金属微粒子焼結体において、金属微粒子の緻密な焼結体形成がなされると、かかる金属微粒子が示す嵩体積の減少が進む。その間、金属微粒子が緻密に沈積されている乾燥処理済み金属微粒子塗布層に含まれる、バインダー樹脂成分も重合硬化し、形成される金属微粒子焼結体の内部に残る隙間を占めるとともに、基板表面と金属微粒子焼結体層との界面における接着樹脂成分としても利用される。
【0104】
以上に説明したように、エネルギー線として紫外線を利用する際には、原料銀ナノ粒子分散液100質量部に対し、酸発生剤化合物0.5〜10質量部、増感剤化合物0〜10質量部、バインダー樹脂成分0〜20質量部の範囲に、配合比率を選択することが望ましい。
【0105】
[接着性向上剤]
本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法では、利用する金属微粒子分散液中に、シリコン、窒化シリコン、酸化シリコン、およびリンシリケートガラス基板に対する金属微粒子焼結体層の接着性をさらに高めるため、接着性向上剤を添加することもできる。この接着性向上剤としては、汎用のカップリング剤、例えば、アミノ基、およびアミノ残基を有しないシランカップリング剤、チタンキレート剤などが利用できる。その際、基板材質、ならびに、用いている金属微粒子を構成する金属材料に応じて、両者間の接着性向上に利用される、汎用のカップリング剤を選択することが望ましい。
【0106】
[有機溶剤(希釈溶媒)]
さらに、利用する金属微粒子分散液は、基板上に所望のパターンを、所定膜厚で塗布して、金属微粒子分散液塗布膜層を形成する。その際、利用される塗布手段に応じて、金属微粒子分散液の液粘度を調製する必要がある。また、上記のバインダー樹脂成分や接着性向上剤、あるいは、酸発生剤化合物、ラジカル発生剤化合物、増感剤化合物を添加する際、それらの添加成分を均一に溶解している分散液に調製する必要がある。
【0107】
この目的のため、通常、金属微粒子分散液中には、適宜、有機溶剤(希釈溶媒)を添加する。利用される有機溶剤(希釈溶媒)は、上記のバインダー樹脂成分や接着性向上剤、あるいは、酸発生剤化合物、ラジカル発生剤化合物、増感剤化合物などの添加成分を溶解可能な各種有機溶剤から選択される。利用可能な有機溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、アルコール類、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの極性の非プロトン性溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチルなどのエステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。
【0108】
金属微粒子分散液中に添加される、各種添加成分の種類、添加量、また、目標とする液粘度を考慮した上で、例示する有機溶剤中の一種、または、二種以上を混合したものを、使用することができる。
【0109】
一方、金属微粒子分散液を塗布した後、エネルギー線照射処理と低温加熱処理とを施すに先立ち、金属微粒子分散液塗布膜層中に含まれる、前記有機溶剤を蒸散させて、乾燥処理済み金属微粒子塗布層とする。すなわち、余剰な希釈溶媒を蒸散させ、金属微粒子は、緻密な沈積層を形成する形態とする。この有機溶剤(希釈溶媒)を蒸散する段階では、加熱を行わないので、室温(20℃)に放置することで、蒸散が可能な程度の揮発特性を示す有機溶剤(希釈溶媒)を利用すると望ましい。
【実施例】
【0110】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。下記の実施例は、本発明にかかる最良の実施形態の一例であるが、本発明は、これらの実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0111】
(銀ナノ粒子分散液1の調製)
市販されている銀の超微粒子分散液(商品名:独立分散超微粒子パーフェクトシルバー、真空冶金(株))、具体的には、平均粒径8nmの銀ナノ粒子100質量部、アルキルアミンとして、ドデシルアミン(分子量185.36;沸点248℃)15質量部、有機溶剤として、トルエン75質量部を含む銀ナノ粒子の分散液を原料として、下記の手順で銀ナノ粒子分散液1を調製した。
【0112】
この銀ナノ粒子分散液180質量部当たり、1−デカノール(分子量158.28;融点6.88℃、沸点232℃)12質量部を添加した後、減圧濃縮によりトルエンを脱溶剤して、ペースト状の銀ナノ粒子分散液1を調製した。従って、得られた銀ナノ粒子分散液1は、平均粒径8nmの銀ナノ粒子100質量部当たり、アルキルアミンとして、ドデシルアミン15質量部、分散溶媒として、1−デカノール12質量部が含有されている。
【0113】
(銀ナノ粒子分散液2の調製)
市販されている銀の超微粒子分散液(商品名:独立分散超微粒子パーフェクトシルバー、真空冶金(株))、具体的には、平均粒径8nmの銀ナノ粒子100質量部、アルキルアミンとして、ドデシルアミン15質量部、有機溶剤として、トルエン75質量部を含む銀ナノ粒子の分散液を原料として、下記の手順で銀ナノ粒子分散液2を調製した。
【0114】
先ず、原料の銀超微粒子分散液500質量部に対して、ブトキシプロピルアミン(分子量131、沸点176℃)87.5質量部(対Ag固形分50wt%:広栄化学製)を混合し、80℃で1時間加熱攪拌した。攪拌終了後、減圧濃縮によりトルエンを脱溶剤し、ペースト状の銀ナノ粒子分散液298質量部を調製した。前述の処理に伴い、ペースト状銀ナノ粒子分散液298質量部中には、銀ナノ粒子175質量部、ドデシルアミン35質量部、ブトキシプロピルアミン87.5質量部が含まれ、銀ナノ粒子表面の被覆分子層は、ブトキシプロピルアミンへと変換されていると推定される。
【0115】
脱溶剤後、ペースト状の銀ナノ粒子分散液298質量部を2Lのビーカーに移し、メタノール1,000質量部を添加して、常温で3分間攪拌後、静置した。Agナノ粒子は、極性溶剤メタノールを添加することで、ビーカー底部に沈降した。一方、上澄みには、混合物中に含有される、不要な有機成分が溶解し、茶褐色のメタノール溶液が得られた。この上澄み層を除去した後、再度、沈降物にメタノール、800質量部を添加、攪拌、静置して、Agナノ粒子を沈降させた後、上澄みのメタノール溶液層を除去した。以上のメタノール洗浄工程後、ビーカー底部のAgナノ粒子沈降層中に残存するメタノールを揮発させ、乾燥を行った。この乾燥処理を終えた時点で、沈降層のAgナノ粒子は、青色の微粉末状であった。
【0116】
前記メタノール洗浄処理済みの青色微粉末状のAg粒子205質量部に、トルエン330質量部と1−デカノール22質量部とを添加し、70℃で30分間加熱攪拌することで、Agナノ粒子を再分散させた。攪拌終了後、Agナノ粒子の再分散液557質量部を、0.2μmメンブランフィルターで濾過すると、均一な濃紺色の分散液が得られた。更に、得られた濃紺色の分散液から、減圧濃縮によりトルエンを脱溶剤し、ペースト状の銀ナノ粒子分散液2を調製した。従って、得られた銀ナノ粒子分散液2は、平均粒径8nmの銀ナノ粒子100質量部当たり、銀ナノ粒子表面に被覆分子層を構成する、ブトキシプロピルアミン14.6質量部、分散溶媒として、1−デカノール10.7質量部が含有されている。
【0117】
(導電性インキ1〜14の調製)
上記の銀ナノ粒子分散液1、銀ナノ粒子分散液2を利用して、導電性インキ1〜14を作製した。表1ならびに表2に、導電性インキ1〜14の組成を示す。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【0120】
なお、上記の導電性インキの調製に利用する、酸発生剤、増感剤、バインダー成分、接着性向上剤の各成分は、以下の通りである。
酸発生剤(1):和光純薬工業株式会社製 光カチオン重合開始剤 WPI−113(ビス(アルキル(C=10〜14)フェニル)ヨードニウム ヘキサフルオロフォスフェイト)
酸発生剤(2):和光純薬工業株式会社製 光酸発生剤 WPAG199(ビス(p−トルエンスルフォニル)ジアゾメタン)
酸発生剤(3):株式会社三和ケミカル製 光酸発生剤 TME−トリアジン
増感剤(1):チバスペシャルティケミカルズ社製イルガキュア184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)
増感剤(2):和光純薬工業株式会社製 試薬特級 アントラセン
バインダー成分(1):東亜合成株式会社製 アロニックスM−220(TPGDA:トリプロピレングリコールジアクリレート)
バインダー成分(2):ダイセル化学工業株式会社製 セロキサイド2021(3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート)
接着性向上剤:信越化学工業株式会社製 KBM−602(N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルメトキシシラン)
(実施例1〜14、実施例14−1)
導電性インキ1〜14を利用して、下記する手順で導電性金属薄膜を作製した。
【0121】
フレキシブル配線基板用のポリイミドフィルム上に、バーコーターNo.2を用いて、導電性インキ1〜14を塗布し、均一な膜厚の塗布膜を形成した。この塗布膜中に含まれる希釈溶媒キシレンを、常温(20℃)で蒸散させ、乾燥済の導電性インキ被覆膜を作製した。実施例14−1においては、バーコーターNo.9を用いて、導電性インキ14を塗布している。
【0122】
基板ポリイミドフィルムの温度を常温(20℃)に保って、この乾燥済の導電性インキ被覆膜の表面に、東洋インキ製造株式会社製 電子線照射装置「MinEB」を用いて、加速電圧50kV、電子線量:1000kGyの条件で電子線照射を行った。次いで、基板のポリイミドフィルムごと、電子線照射処理済みの導電性インキ被覆膜を150℃のオーブン中に移し、30分間、窒素雰囲気下で加熱処理を施した。
【0123】
この電子線照射処理、150℃、30分間の加熱処理を連続して施した結果、導電性インキ被覆膜に含まれている銀ナノ粒子の焼結が進み、膜全体に均一な焼結体層の形成が起こっていた。得られた焼結体型金属薄膜を基板のポリイミドフィルムとともに、3mm×30mmの大きさに切断したサンプルを用いて、金属薄膜の平均膜厚、比抵抗値(体積固有抵抗率)を測定した。予め、サンプル表面の金属薄膜の膜厚を針触型表面形状測定器(サーフコム)を用いて測定し、平均膜厚を算定した。この平均膜厚を有する均一な導電体層と仮定して、4点測定法にて比抵抗の測定を行った。
【0124】
表3に、測定された焼結体型金属薄膜の平均膜厚、比抵抗の結果をまとめて示す。測定された比抵抗値(体積固有抵抗率)は、次の評価スコアで示す。
【0125】
比抵抗値(体積固有抵抗率)評価スコア(20℃)
◎:10-5 Ω・cm 未満
○:10-5 Ω・cm 以上、10-4 Ω・cm 未満
△:10-4 Ω・cm 以上、10-3 Ω・cm 未満
×:10-3 Ω・cm 以上、または、比抵抗値は測定可能範囲を超えている場合
表3に示すように、実施例1〜14において作製された焼結体型金属薄膜の比抵抗値(体積固有抵抗率)評価スコアは「◎」または「○」であり、いずれも良好な導電性金属薄膜と判定される。
【0126】
【表3】

【0127】
(実施例15〜23)
酸発生剤を配合している導電性インキ3〜11を利用して、下記する手順で導電性金属薄膜を作製した。
【0128】
フレキシブル配線基板用のポリイミドフィルム上に、バーコーターNo.2を用いて、導電性インキ3〜11を塗布し、均一な膜厚の塗布膜を形成した。この塗布膜中に含まれる希釈溶媒キシレンを、常温(20℃)で蒸散させ、乾燥済の導電性インキ被覆膜を作製した。
【0129】
基板ポリイミドフィルムの温度を常温(20℃)に保って、この乾燥済の導電性インキ被覆膜の表面に、アイグラフィックス株式会社製紫外線照射装置により、空冷高圧水銀ランプ光 照射光強度 160W/cmを、コンベアスピード10m/分で移動させつつ、照射した。この操作を、計5回繰り返した。従って、単位面積当たりの合計照射光強度は、5×160×(60/1000) W・s/cm2に相当している。また、高圧水銀ランプから照射される紫外線領域の主なピーク波長は、365nm(i線)、436nm(g線)などである。次いで、基板のポリイミドフィルムごと、紫外線照射処理済みの導電性インキ被覆膜を150℃のオーブン中に移し、30分間、窒素雰囲気下で加熱処理を施した。
【0130】
この紫外線照射処理、150℃、30分間の加熱処理を連続して施した結果、導電性インキ被覆膜に含まれている銀ナノ粒子の焼結が進み、膜全体に均一な焼結体層の形成が起こっていた。得られた焼結体型金属薄膜を基板のポリイミドフィルムとともに、3mm×30mmの大きさに切断したサンプルを用いて、金属薄膜の平均膜厚、比抵抗値(体積固有抵抗率)を測定した。予め、サンプル表面の金属薄膜の膜厚を針触型表面形状測定器(株式会社東京精密製 サーフコム2800DX)を用いて測定し、平均膜厚を算定した。この平均膜厚を有する均一な導電体層と仮定して、4点測定法にて比抵抗の測定を行った。
【0131】
表4に、測定された焼結体型金属薄膜の平均膜厚、比抵抗の結果をまとめて示す。測定された比抵抗値(体積固有抵抗率)は、上述の評価スコアで示す。
【0132】
表4に示すように、実施例15〜25において作製された焼結体型金属薄膜の比抵抗値(体積固有抵抗率)評価スコアは「◎」または「○」であり、いずれも良好な導電性金属薄膜と判定される。
【0133】
【表4】

【0134】
(比較例1〜5)
導電性インキ1、2、3、11、14を用いて、下記する手順で焼結体型金属薄膜の作製を試みた。
【0135】
フレキシブル配線基板用のポリイミドフィルム上に、バーコーターNo.2を用いて、導電性インキ1、2、3、11、14を塗布し、均一な膜厚の塗布膜を形成した。この塗布膜中に含まれる希釈溶媒キシレンを、常温(20℃)で蒸散させ、乾燥済の導電性インキ被覆膜を作製した。次いで、基板のポリイミドフィルムごと、導電性インキ被覆膜を150℃のオーブン中に入れ、30分間、窒素雰囲気下で加熱処理を施した。
【0136】
この150℃、30分間の加熱処理を施した結果、導電性インキ被覆膜に含まれている銀ナノ粒子の焼結が進み、一見した範囲では、膜全体に均一な焼結体層の形成が起こっていた。得られた焼結体型薄膜を基板のポリイミドフィルムとともに、3mm×30mmの大きさに切断したサンプルを用いて、焼結体型薄膜の平均膜厚、比抵抗値(体積固有抵抗率)の評価を行った。予め、サンプル表面の焼結体型薄膜の膜厚を針触型表面形状測定器(株式会社東京精密製 サーフコム2800DX)を用いて測定し、平均膜厚を算定した。この平均膜厚を有する均一な導電体層と仮定して、4点測定法にて比抵抗の測定を試みた。
【0137】
4点測定法において、前記矩形サンプルの抵抗値の測定を試みたところ、測定可能範囲を超えており、比抵抗値(体積固有抵抗率)は、少なくとも、10×103 μΩ・cmを超えていると判断される。
【0138】
表5に、測定された焼結体型薄膜の平均膜厚、比抵抗の評価結果をまとめて示す。測定された比抵抗値(体積固有抵抗率)は、上述の評価スコアで示す。
【0139】
表5に示すように、比較例1〜5において作製された焼結体型薄膜は、その抵抗値は、評価スコアは「×」となっており、いずれも、導電性を示さないと判定される。
【0140】
【表5】

【0141】
(参考例1、2)
導電性インキ1、2を用いて、下記する手順で焼結体型金属薄膜の作製を試みた。
【0142】
フレキシブル配線基板用のポリイミドフィルム上に、バーコーターNo.2を用いて、導電性インキ1、2を塗布し、均一な塗布膜を形成した。この塗布膜中に含まれる希釈溶媒キシレンを、常温(20℃)で蒸散させ、乾燥済の導電性インキ被覆膜を作製した。次いで、基板のポリイミドフィルムごと、導電性インキ被覆膜を250℃のオーブン中に入れ、60分間加熱処理を施した。
【0143】
この250℃、60分間の加熱処理を施した結果、導電性インキ被覆膜に含まれている銀ナノ粒子の焼結が進み、膜全体に均一な焼結体層の形成が起こっていた。
【0144】
上記実施例と同様にして、4点方測定において、前記矩形サンプルの抵抗値の測定を行った。
【0145】
表6に、測定された焼結体型金属薄膜の平均膜厚、比抵抗の結果を示す。測定された比抵抗値(体積固有抵抗率)は、上述の評価スコアで示す。
【0146】
表6に示す通り、参考例1、2において作製された焼結体型金属薄膜の比抵抗値(体積固有抵抗率)は、評価スコアは「◎」であり、いずれも良好な導電性金属薄膜であると判定される。
【0147】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法では、金、銀、銅などの単体金属または合金の金属ナノ粒子を利用する金属微粒子分散液に依る、高い描画精度を生かし、微細なパターンを有する金属微粒子の塗布層を形成した上で、良好な導電性を示す金属微粒子の焼結体型導電体層を、少なくとも200℃を超えない温度の加熱処理で作製することを可能とする。従って、利用できる基板材料に対する、耐熱性の制限が大幅に緩和され、金属微粒子の焼結体型導電体層の利用可能範囲は、より広範なものとなる。本発明にかかる金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法を応用することで、例えば、多層配線板、ICカード等のアンテナの回路について、一層の微細化を達成するとともに、生産性の向上を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層を形成する方法であって、
前記金属微粒子焼結体の作製に利用される、該金属微粒子は、少なくとも200℃を超える融点を示す金属材料で構成される、平均粒子径が1〜100nmの範囲の金属微粒子であり、
該金属微粒子の表面に、金属微粒子相互の凝集を防止する機能を有する、分散剤の被覆分子層を設けて、該被覆分子層を有する金属微粒子を分散質として、有機溶剤を含む液相分散媒中に分散してなる金属微粒子分散液を用いて、
前記基板上の所定位置に該金属微粒子分散液を所定膜厚で塗布して、金属微粒子分散液塗布膜層を形成する工程と、
該金属微粒子分散液塗布膜層中に含まれる、前記有機溶剤を蒸散させて、乾燥処理済み金属微粒子塗布層とする工程と、
該乾燥処理済み金属微粒子塗布層に対して、その塗布層表面から所定線量のエネルギー線を照射する処理を施す工程と、
前記エネルギー線照射処理を施した金属微粒子塗布層に、50℃以上、少なくとも200℃を超えない温度範囲に選択される加熱温度、非酸化性ガス雰囲気下において、低温加熱処理を施す工程を具え、
前記エネルギー線照射処理と低温加熱処理とを施すとことで、前記金属微粒子塗布層中に含まれる金属微粒子相互の焼結がなされ、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成がなされる
ことを特徴とする、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成方法。
【請求項2】
前記金属微粒子を構成する、少なくとも200℃を超える融点を示す金属材料は、
金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ニッケル、アルミニウムからなる金属元素の群から選択される、単体金属種、または、二種以上の金属種からなる合金である
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属微粒子の平均粒子径は、5〜20nmの範囲に選択される
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記エネルギー線照射処理に利用されるエネルギー線として、
加速電圧が50kV〜200kVの範囲に選択される電子線、または波長域180nm〜400nmの範囲から選択される紫外線を用いる
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記低温加熱処理に用いる加熱温度を、
50℃〜150℃の温度範囲に選択する
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶剤を含む液相分散媒中に、
前記エネルギー線照射処理に利用されるエネルギー線の照射に伴って、酸成分を発生する機能を有する酸発生剤化合物を添加し、
前記乾燥処理済み金属微粒子塗布層中に、該酸発生剤化合物を含有させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記エネルギー線の照射に伴って、酸成分を発生する機能を有する酸発生剤化合物として、
酸発生能を有するオニウム化合物、スルホン化合物、ハロゲン化物、鉄アレン錯体からなる酸発生剤化合物の群から選択される、一種類の化合物、または、二種類以上の化合物を用いる
ことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該金属微粒子の表面に設ける、金属微粒子相互の凝集を防止する機能を有する、分散剤の被覆分子層は、
該分散剤として、
その沸点は、150℃以上、350℃以下の範囲であって、
アミン類、アルコール類、フェノール類、チオール類からなる群より選択される、一種類の分散剤分子、または、二種類以上の分散剤分子を利用して、形成されている
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記有機溶剤を含む液相分散媒中に、
前記エネルギー線照射処理に利用されるエネルギー線の照射に伴って、ラジカル種を生成する機能を有するラジカル発生剤化合物を添加し、
前記乾燥処理済み金属微粒子塗布層中に、該ラジカル発生剤化合物を含有させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記有機溶剤を含む液相分散媒中に、
前記エネルギー線照射処理に利用されるエネルギー線の照射に伴って、ラジカル種を生成する機能を有するラジカル発生剤化合物、または、酸成分を発生する機能を有する酸発生剤化合物を添加し、
前記乾燥処理済み金属微粒子塗布層中に、該ラジカル発生剤化合物、または該酸発生剤化合物を含有させ、
さらに、前記エネルギー線照射処理に利用されるエネルギー線の照射に伴って、照射されるエネルギー線のエネルギーを受容し、該受容したエネルギーを該ラジカル発生剤化合物、または該酸発生剤化合物へと伝達し、該ラジカル発生剤化合物、または該酸発生剤化合物の機能発揮を可能とする、増感剤化合物を添加し、
前記乾燥処理済み金属微粒子塗布層中に、該増感剤化合物を含有させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記有機溶剤を含む液相分散媒中に、
前記エネルギー線照射処理、または低温加熱処理を施した際、重合硬化することが可能なバインダー樹脂成分を添加し、
前記乾燥処理済み金属微粒子塗布層中に、該バインダー樹脂成分を含有させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記エネルギー線照射処理、または低温加熱処理を施した際、重合硬化することが可能なバインダー樹脂成分として、
前記エネルギー線照射処理に利用する、エネルギー線の照射を起因として、重合硬化活性の発揮がなされる、エネルギー線硬化性バインダー樹脂成分を用いる
ことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記エネルギー線照射処理と低温加熱処理とを施すとことで、前記金属微粒子塗布層中に含まれるバインダー樹脂成分の重合硬化と、前記金属微粒子塗布層中に含まれる金属微粒子相互の焼結がなされ、
前記重合硬化されたバインダー樹脂と金属微粒子焼結体とからなる、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層の形成がなされる
ことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記有機溶剤を含む液相分散媒中に、
基板の表面に対する、金属微粒子焼結体層の接着性を向上する機能を有する、接着性向上剤を添加し、
前記乾燥処理済み金属微粒子塗布層中に、該接着性向上剤を含有させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
基板上に導電性金属薄膜または金属配線を形成する方法であって、
前記導電性金属薄膜または金属配線は、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層を利用して形成され、
基板上に該金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層を形成する工程は、
請求項1〜14のいずれか一項に記載される方法を用いて実施される
ことを特徴とする、導電性金属薄膜または金属配線の形成方法。
【請求項16】
基板表面に、導電性金属薄膜または金属配線からなる配線回路パターンが形成されている配線回路基板であって、
基板表面に形成されている、前記導電性金属薄膜または金属配線からなる配線回路パターンは、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層を利用して形成されており、
基板上の該金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層は、
請求項1〜14のいずれか一項に記載される方法を用いて形成される、金属微粒子焼結体型の薄膜導電体層である
ことを特徴とする、配線回路基板。

【公開番号】特開2006−26602(P2006−26602A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212899(P2004−212899)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】