説明

金属格子の製造方法および金属格子ならびにこの金属格子を用いたX線撮像装置

【課題】シリコン(Si)基板を用い電鋳法で格子の金属部分をより緻密に形成し得る金属格子の製造方法および前記金属格子ならびにこれを用いたX線撮像装置を提供する。
【解決手段】金属格子DGは、第1Si層11とこの上に形成され第2Si部分12aおよび金属部分12bを交互に平行に配設した格子12とを備え、第2Si部分12aは、第1Si層11との間に第1絶縁層12cを有し、金属部分12bとの間に第2絶縁層12dを有する。金属格子DGは、第1Si層に第1絶縁層を介して付けられた第2Si層を備える基板の第2Si層上にレジスト層を形成し、これをリソグラフィー法でパターニングして除去し、ドライエッチング法で除去部分に対応する第2Si層を第1Si層に到達するまでエッチングしてスリット溝を形成し、その側面に陽極酸化法で第2絶縁層を形成し、電鋳法でスリット溝を金属で埋めることで製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、タルボ干渉計やタルボ・ロー干渉計に好適に使用することができる格子を製造するための金属格子の製造方法およびその金属格子に関する。そして、本発明は、この金属格子を用いたX線撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回折格子は、多数の平行な周期構造を備えた分光素子として様々な装置の光学系に利用されており、近年では、X線撮像装置への応用も試みられている。回折格子には、回折方法で分類すると、透過型回折格子と反射型回折格子とがあり、さらに、透過型回折格子には、光を透過させる基板上に光を吸収する部分を周期的に配列した振幅型回折格子(吸収型回折格子)と、光を透過させる基板上に光の位相を変化させる部分を周期的に配列した位相型回折格子とがある。ここで、吸収とは、50%より多くの光が回折格子によって吸収されることをいい、透過とは、50%より多くの光が回折格子を透過することをいう。
【0003】
近赤外線用、可視光用または紫外線用の回折格子は、近赤外線、可視光および紫外線が非常に薄い金属によって充分に吸収されることから、比較的容易に製作可能である。例えばガラス等の基板に金属が蒸着されて基板上に金属膜が形成され、該金属膜が格子にパターニングされることによって、金属格子による振幅型回折格子が作製される。可視光用の振幅型回折格子では、金属にアルミニウム(Al)が用いられる場合、アルミニウムにおける可視光(約400nm〜約800nm)に対する透過率が0.001%以下であるので、金属膜は、例えば100nm程度の厚さで充分である。
【0004】
一方、X線は、周知の通り、一般に、物質による吸収が非常に小さく、位相変化もそれほど大きくはない。比較的良好な金(Au)でX線用の回折格子が製作される場合でも、金の厚さは、100μm程度必要となり、透過部分と吸収や位相の変化部分とを等幅で数μ〜数十μのピッチで周期構造を形成した場合、金部分の幅に対する厚さの比(アスペクト比=厚さ/幅)は、5以上の高アスペクト比となる。このような高アスペクト比の構造を製造することは、容易ではない。そこで、このような高アスペクト比の構造を備えた回折格子の製造方法が、例えば、特許文献1に提案されている。
【0005】
この特許文献1に開示の回折格子の製造方法は、X線タルボ干渉計に用いられる回折格子の製造方法であって、次に各工程を備えて構成される。まず、ガラス基板の一側面に金属シート層が形成される。次に、この金属シート層上に紫外線感光性樹脂が塗布され、この紫外線感光性樹脂が位相型回折格子用の光学リソグラフィーマスクを用いてパターン露光され、現像されることでパターンニングされる。次に、金属メッキ法によって、前記紫外線感光性樹脂が除去された部分にX線吸収金属部が形成される。そして、パターニングされた紫外線感光性樹脂およびこの紫外線感光性樹脂に対応する金属シート層の部分が除去される。これによって位相型回折格子が製造される。そして、この位相型回折格子の前記一側面に紫外線感光性樹脂が塗布され、この紫外線感光性樹脂がこの位相型回折格子を光学リソグラフィーマスクとして用いて位相型回折格子の他側面からパターン露光され、現像されることでパターンニングされる。次に、前記金属シート層を介して電圧を印加することで金属メッキ法によって、前記紫外線感光性樹脂が除去された部分であって位相型回折格子のX線吸収金属部に、さらにX線吸収金属部が形成される。以下、このさらにX線吸収分金属部を形成した位相型回折格子を新たな光学リソグラフィーマスクとして、上述の各工程が、X線吸収金属部が必要な厚さとなるまで繰り返される。これによって振幅型回折格子が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−37023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献1に開示された回折格子の製造方法では、X線吸収金属部が必要な厚さとなるまで前記各工程が繰り返されるので、手間がかかり、また煩雑である。
【0008】
そこで、高アスペクト比の3次元構造を形成可能なシリコンの特性を活用して金属格子による回折格子を製造することが考えられる。すなわち、シリコン基板に高アスペクト比の周期構造のスリット溝を形成し、この形成したスリット溝にシリコンの導電性を利用することで電気メッキ法(電鋳法)によって、金属を埋めて回折格子を製造する方法が考えられる。
【0009】
しかしながら、この方法では、シリコン全体に導電性があるため、前記金属が前記スリット溝の底から成長するだけでなく、前記スリット溝の側面からも成長してしまい、その結果、金属部分の内部に空間(ボイド、金属が未充填の部分)が発生してしまう虞があり、前記スリット溝を電鋳法によって前記金属で緻密に埋めることが難しい。
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、シリコン基板を用い、電鋳法によって格子の金属部分をより緻密に形成することができる金属格子の製造方法および前記金属格子を提供することである。そして、本発明の他の目的は、この金属格子を用いたX線撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる金属格子の製造方法は、第1シリコン層と前記第1シリコン層に第1絶縁層を介して付けられた第2シリコン層とを備える基板における前記第2シリコン層の主面上にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、リソグラフィー法によって前記レジスト層をパターニングして前記パターニングした部分の前記レジスト層を除去するパターニング工程と、ドライエッチング法によって前記レジスト層を除去した部分に対応する前記第2シリコン層を前記第1シリコン層に少なくとも到達するまでエッチングしてスリット溝を形成するエッチング工程と、陽極酸化法によって、前記第2シリコン層に電圧を印加して前記スリット溝の測面に第2絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、電鋳法によって、前記第1シリコン層に電圧を印加して前記スリット溝を金属で埋める電鋳工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
このような構成の金属格子の製造方法は、シリコンをドライエッチングするので、前記スリット溝における幅に対する深さの比(スリット溝のアスペクト比=深さ/幅)の高いスリット溝を形成することができる。この結果、このような構成の金属格子の製造方法は、このスリット溝を金属で埋めることで、高アスペクト比の金属部分を持つ金属格子を製造することができる。そして、前記電鋳工程で電鋳法によって前記スリット溝を金属で埋める際に、まず、絶縁層形成工程で陽極酸化法によって前記スリット溝の測面に第2絶縁層が形成される。したがって、電鋳工程では、第1シリコン層と第2シリコン層との間に在る第1絶縁層およびスリット溝の内側側面に形成されている第2絶縁層によって、第2シリコン層は、第1シリコン層と電気的に絶縁される。このため、スリット溝の内側側面(第2シリコン層の側面)から金属が析出および成長することがなく、スリット溝の底(第1シリコン層)から金属が析出し成長する。したがって、このような構成の金属格子の製造方法は、このように金属が前記スリット溝の底から選択的に成長するので、ボイドの発生を効果的に抑制することができる。この結果、このような構成の金属格子の製造方法は、電鋳法によって格子の前記金属部分をより緻密に形成することができる。
【0013】
また、他の一態様では、この上述の金属格子の製造方法において、前記第1絶縁層の厚さと前記第2シリコン層の厚さの和が前記スリット溝の深さに対応する厚さになるように、前記第2シリコン層の厚さをスマート・カット法によって調整する調整工程をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
このような構成の金属格子の製造方法は、スマート・カット法によって第2シリコン層の厚さが調整されるので、第2シリコン層のカット面がより平坦となり、高精度に金属格子を形成することができる。
【0015】
また、他の一態様では、これら上述の金属格子の製造方法において、前記ドライエッチング法は、RIE(Reactive Ion Etching、反応性イオンエッチング)であることを特徴とする。
【0016】
このような構成の金属格子の製造方法は、RIEによって異方性エッチングを行うことができるので、深さ方向(積層方向)に沿って第2シリコン層をエッチングすることができ、比較的容易にスリット溝を形成することができる。
【0017】
また、他の一態様では、これら上述の金属格子の製造方法において、前記ドライエッチング法は、ボッシュプロセスであることを特徴とする。
【0018】
このような構成の金属格子の製造方法は、ボッシュプロセスによって第2シリコン層がドライエッチングされるので、前記スリット溝の側面がより平坦となり、高精度に金属格子を形成することができる。
【0019】
また、他の一態様では、この上述の金属格子の製造方法において、前記第1シリコン層は、前記n型シリコンであることを特徴とする。
【0020】
このような構成の金属格子の製造方法は、前記第1シリコン層の導電型がn型であるので、電鋳法で第1シリコン層を陰極とした場合に、容易に、第1シリコン層からメッキ液に電子を与え、金属を析出させることができる。
【0021】
また、他の一態様では、この上述の金属格子の製造方法において、前記第2シリコン層は、p型シリコンであることを特徴とする。
【0022】
このような構成の金属格子の製造方法は、前記第2シリコン層の導電型がp型であるので、陽極酸化法で第2シリコン層を陽極とした場合に、容易に、前記スリット溝を形成する第2シリコン層の側面に酸化膜を形成することができる。
【0023】
また、他の一態様では、これら上述の金属格子の製造方法は、X線タルボ干渉計またはX線タルボ・ロー干渉計に用いられる金属格子を製造する場合に用いられる。
【0024】
上述したように、X線では、高アスペクト比が求められるが、これら上述の金属格子の製造方法を用いることによって、より緻密に形成された高アスペクト比の金属部分を備えたX線タルボ干渉計またはX線タルボ・ロー干渉計に用いられる回折格子やマルチスリット板の金属格子を製造することができる。
【0025】
また、本発明の他の一態様にかかる金属格子は、第1シリコン層と、前記第1シリコン層上に形成され、一方向に線状に延びる複数の第2シリコン部分と前記一方向に線状に延びる複数の金属部分とが交互に平行に配設された格子とを備え、前記第1シリコン層と前記複数の第2シリコン部分との各間に複数の第1絶縁層をそれぞれさらに備え、前記複数の第2シリコン部分と前記複数の金属部分との各間に複数の第2絶縁層をそれぞれさらに備えることを特徴とする。
【0026】
これら上述の金属格子の製造方法によって、このような構成の金属格子を得ることができ、このような構成の金属格子は、より緻密に形成された高アスペクト比の金属部分を備えることができる。このため、このような構成の金属格子は、例えば、X線に好適に用いることができ、特に、X線タルボ干渉計またはX線タルボ・ロー干渉計により好適に用いることができる。
【0027】
また、本発明の他の一態様にかかるX線撮像装置は、X線を放射するX線源と、前記X線源から放射されたX線が照射されるタルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計と、前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計によるX線の像を撮像するX線撮像素子とを備え、前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計は、上述の金属格子を含むことを特徴とする。
【0028】
このような構成のX線撮像装置は、タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計を構成する金属格子に、金属部分がより緻密な上述の金属格子を用いるので、より確実に回折され、より鮮明なX線の像を得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明にかかる金属格子の製造方法は、シリコン基板を用い、電鋳法によって格子の金属部分をより緻密に形成することができる。そして、本発明では、このような金属格子の製造方法によって製造される金属格子ならびにこの金属格子を用いたX線撮像装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態における金属格子の構成を示す斜視図である。
【図2】実施形態における金属格子の製造方法を説明するための図(その1)である。
【図3】実施形態における金属格子の製造方法を説明するための図(その2)である。
【図4】実施形態における金属格子の製造方法を説明するための図(その3)である。
【図5】実施形態における金属格子の製造工程中の部材を示す斜視図である。
【図6】実施形態における金属格子を製造するために用いられるシリコン基板の製造方法を説明するための図である。
【図7】実施形態におけるX線用タルボ干渉計の構成を示す斜視図である。
【図8】実施形態におけるX線用タルボ・ロー干渉計の構成を示す上面図である。
【図9】実施形態におけるX線撮像装置の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0032】
(金属格子)
図1は、実施形態における金属格子の構成を示す斜視図である。本実施形態の金属格子DGは、図1に示すように、第1シリコン層11と、第1シリコン層11上に形成された格子12とを備えて構成される。第1シリコン部分11は、図1に示すようにDxDyDzの直交座標系を設定した場合に、DxDy面に沿った板状または層状である。格子12は、所定の厚さH(後述の第1絶縁層12cを含む)を有して一方向Dxに線状に延びる複数の第2シリコン部分12aと、前記所定の厚さH(格子面DxDyに垂直なDz方向(格子面DxDyの法線方向)の長さ)を有して前記一方向Dxに線状に延びる複数の金属部分12bとを備え、これら複数の第2シリコン部分12aと複数の金属部分12bとは、交互に平行に配設される。このため、複数の金属部分12bは、前記一方向Dxと直交する方向Dyに所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。言い換えれば、複数の第2シリコン層12aは、前記一方向Dxと直交する方向Dyに所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。この所定の間隔(ピッチ)Pは、本実施形態では、一定とされている。すなわち、複数の金属部分12b(複数の第2シリコン部分12a)は、前記一方向Dxと直交する方向Dyに等間隔Pでそれぞれ配設されている。第2シリコン部分12aは、前記DxDy面に直交するDxDz面に沿った板状または層状であり、金属部分12bもこのDxDz面に沿った板状または層状である。
【0033】
そして、第1シリコン層11と複数の第2シリコン部分12aとの各間には、複数の第1絶縁層12cがそれぞれさらに備えられている。第1絶縁層12cは、第1シリコン層11と第2シリコン部分12aとを電気的に絶縁するように機能し、例えば、酸化膜によって形成される。酸化膜は、例えば、酸化シリコン膜(SiO膜、シリコン酸化膜)等を挙げることができる。
【0034】
さらに、複数の第2シリコン部分12aと複数の金属部分12bとの各間には、複数の第2絶縁層12dがそれぞれさらに備えられている。すなわち、第2シリコン部分12aの両側面には、第2絶縁層12dが形成されている。言い換えれば、金属部分12bの両側面には、第2絶縁層12dが形成されている。第2絶縁層12dは、第2シリコン層12aと金属部分12bとを電気的に絶縁するように機能し、例えば、酸化膜によって形成される。酸化膜は、例えば、酸化シリコン膜(SiO膜)等を挙げることができる。
【0035】
これら第1シリコン層11、複数の第2シリコン部分12a、複数の第1絶縁層12cおよび複数の第2絶縁膜12dは、X線を透過するように機能し、複数の金属部分12bは、X線を吸収するように機能する。このため、金属格子DGは、一態様として、前記所定の間隔PをX線の波長に応じて適宜に設定することにより、回折格子として機能する。金属部分12bの金属は、X線を吸収するものが好適に選択され、例えば、原子量が比較的重い元素の金属や貴金属、より具体的には、例えば、金(Au)、プラチナ(白金、Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)およびイリジウム(Ir)等である。また、金属部分12bは、例えば仕様に応じて充分にX線を吸収することができるように、適宜な厚さHとされている。この結果、金属部分12bにおける幅Wに対する厚さHの比(アスペクト比=厚さ/幅)は、例えば、5以上の高アスペクト比とされている。金属部分12bの幅Wは、前記一方向(長尺方向)Dxに直交する方向(幅方向)Dyにおける金属部分12bの長さであり、金属部分12bの厚さHは、前記一方向Dxとこれに直交する前記方向Dyとで構成される平面DxDyの法線方向(深さ方向)Dzにおける金属部分12bの長さである。
【0036】
なお、第2シリコン部分12aの上面上(表面上、トップ面)には、絶縁層が在ってもよい。図1に示す例では、この絶縁層は、第2絶縁層12dが延在したものである。
【0037】
このような高アスペクト比の金属部分12bを備える金属格子DGは、第1シリコン層と前記第1シリコン層に第1絶縁層を介して付けられた第2シリコン層とを備える基板における前記第2シリコン層の主面上にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、ドライエッチング法によって前記レジスト層を除去した部分に対応する前記第2シリコン層を前記第1シリコン層に少なくとも到達するまでエッチングしてスリット溝を形成するエッチング工程と、陽極酸化法によって、前記第2シリコン層に電圧を印加して前記スリット溝の測面に第2絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、電鋳法によって、前記第1シリコン層に電圧を印加して前記スリット溝を金属で埋める電鋳工程とによって製造される。以下、この金属格子DGの製造方法について、詳述する。
【0038】
図2ないし図4は、実施形態における金属格子の製造方法を説明するための図である。図5は、実施形態における金属格子の製造工程中の部材を示す斜視図である。図6は、実施形態における金属格子を製造するために用いられるシリコン基板の製造方法を説明するための図である。
【0039】
本実施形態の金属格子DGを製造するために、まず、第1シリコン層31と第1シリコン層31に第1絶縁層33を介して付けられた第2シリコン層32とを備えるシリコン基板30が用意される(図2(A))。
【0040】
ここで、好ましくは、第1シリコン層31は、多数キャリアが電子であるn型シリコンである。n型シリコンは、伝導体電子を豊富に持つため、シリコンを陰極に接続して負電位を印加しカソード分極をすると、後述の電鋳工程では、メッキ液49といわゆるオーミック接触になり、電流が流れて還元反応が起き易くなり、結果として金属がより析出し易くなる。
【0041】
また、好ましくは、第2シリコン層32は、多数キャリアが正孔(ホール)であるp型シリコンである。p型シリコンは、多数キャリアがホールであるため、後述の絶縁層形成工程では、電源44の陽極といわゆるオーミック接触になり、容易に、陽極酸化し易くなる。
【0042】
そして、このようなシリコン基板30は、例えば、図6に示すように、次の各工程によって製造される。まず、前記第1シリコン層31となる第1シリコンウェハ21と、前記第2シリコン層32となる第2シリコンウェハ22が用意され、第1および第2シリコンウェハ21、22の一方主面、例えば、第2シリコンウェハ22の一方主面に絶縁層23が形成される(図6(A))。
【0043】
第1および第2シリコンウェハ21、22は、その電気的な特性が同等であってよく、また異なっていてもよい。例えば、第1および第2シリコンウェハ21、22は、その抵抗率が同等であってもよく、また異なっていてもよい。また例えば、第1および第2シリコンウェハ21、22は、その導電型が同等であってもよく、また異なっていてもよい。本実施形態では、第1シリコンウェハ21は、例えば、CZ(Czochralski)法によって製造され、例えば燐等をドープした比較的低抵抗なn型シリコン基板である(例えば抵抗率が10Ωcm(オームセンチメートル)や1Ωcm(オームセンチメートル)や0.1Ωcm(オームセンチメートル)等)。第2シリコンウェハ22も、第1シリコンウェハ21と同様にCZ法によって製造され、例えばホウ素等をドープした比較的高抵抗なp型シリコン基板である(例えば、抵抗率が10Ωcm、・・・、0.1Ωcm)。
【0044】
絶縁層23は、前記第1絶縁層33となる層であり、例えば、シリコン酸化膜23である。このシリコン酸化膜23は、例えば、酸素雰囲気または水蒸気を含んだ気体雰囲気中で第2シリコンウェハ22を高温加熱する熱酸化法によって形成される。なお、酸化膜の形成方法は、これに限定されるものではなく、公知の他の手法も用いることができる。シリコン酸化膜23は、例えば、モノシランと酸素等とを反応させる気相反応法によって形成されてもよい。これら熱酸化法と気相反応法とを比較すると、熱酸化法は、形成すべきシリコン酸化膜23の厚さを比較的精密に制御することができ、また不純物の少ない安定なシリコン酸化膜23を形成することができるので、気相反応法より優れている。
【0045】
次に、スマート・カット(Smart Cut)法によって第1絶縁層33としての絶縁層23の厚さと第2シリコンウェハ22の厚さとの和Hを調整するべく、絶縁層23を介して第2シリコンウェハ22の一方主表面から水素イオンHが注入される(図6(B))。
【0046】
スマート・カット法は、シリコン単結晶に水素イオンHを注入することによってシリコンの結晶格子が部分的に切断され、これによってシリコンの薄膜を切り出す方法である。このスマート・カット法では、まず、絶縁層23を含んで第2シリコンウェハ22を所望の厚さHに切り出すことができるように、前記所望の厚さHに応じた深さに所定の濃度で水素イオンHが注入される。水素イオンHが注入される前記深さは、水素イオンHの注入エネルギーを調整することによって制御される。次に、後述するように、第2シリコンウェハ22が所定の温度で加熱処理され、これによって前記水素イオンHを注入した前記深さ位置で第2シリコンウェハ22が切り出される。
【0047】
ここで、後述するように、本実施形態における金属格子DGの製造方法では、第2シリコンウェハ22をエッチングすることによって形成されたスリット溝SDに電鋳法(電気メッキ法)によって金属を埋めることで金属部分12bを形成するので、この絶縁層23を含む第2シリコンウェハ22の厚さHが金属部分12bの厚さHとなる。このため、絶縁層23を含む第2シリコンウェハ22の厚さHは、金属部分12bの厚さHに応じて決定される。そして、スマート・カット法では、水素イオンHを注入した前記深さ位置で第2シリコンウェハ22が切り出されるので、水素イオンHを注入する前記深さは、絶縁層23の厚さと第2シリコンウェハ22の厚さとの和H、すなわち、金属部分12bの厚さHに応じて決定される。
【0048】
次に、第1シリコンウェハ21および絶縁層23の各接合面が所定の洗浄液24で洗浄される(図6(C))。洗浄液24として、例えば、RCA洗浄液、超純水、脱イオン水、弗酸等が挙げられる。洗浄後、2枚の第1シリコンウェハ21および第2シリコンウェハ22が乾燥される。
【0049】
次に、第1シリコンウェハ21と第2シリコンウェハ22とが絶縁層23を介して互いに合わせられ、密着される(図6(D))。なお、これらの作業は、第1シリコンウェハ21および絶縁層23の貼接面に塵埃が付着するのを防止するためにクリーンルーム内で行われる。
【0050】
次に、絶縁層23を介して互いに合わせられた第1シリコンウェハ21および第2シリコンウェハ22が所定の温度で熱処理される。これによって第1シリコンウェハ21および第2シリコンウェハ22は、第1シリコンウェハ21および絶縁層23の貼接面でウェハボンディングによって接着され、互いに付けられるとともに、水素イオンHを注入した前記深さ位置から第2シリコンウェハ22が剥離される(図6(E))。前記第1シリコンウェハ21は、第1シリコン層31となり、この切り出された第2シリコンウェハ22の部分は、第2シリコン層32となり、絶縁層23は、第1絶縁層33となる。なお、この剥離して形成された第2シリコン層32の表面は、研磨等により平滑に仕上げられてもよい。
【0051】
こうして第1シリコン層31に第1絶縁層33を介して第2シリコン層32が付けられたシリコン基板30が製造される。
【0052】
ここで、上述では、スマート・カット法によって絶縁層23を含む第2シリコンウェハ22(第1絶縁層33を含む第2シリコン層32)の厚さHが調整されたが、これに限定されるものではなく、公知の手段を用いることができる。例えば、絶縁層23を含む第2シリコンウェハ22(第1絶縁層33を含む第2シリコン層32)の厚さHを調整するべく、第2シリコンウェハ22が研磨されてもよい。この場合には、前述の水素イオンHの注入工程を行う必要はない。
【0053】
また、上述では、ウェハボンディングによって第1シリコンウェハ21と第2シリコンウェハ22とを絶縁層23を介して接着したが、これに限定されるものではなく、公知の手段を用いることができる。例えば、プラズマ接合によって第1シリコンウェハ21と第2シリコンウェハ22とが絶縁層23を介して接着されてもよい。
【0054】
そして、このようなシリコン基板30を製造する製造方法は、図6を用いて説明した上述の方法に限定されるものではない。例えば、低抵抗CZ基板に、その一方主面から酸素イオンを注入し、前記主面から一定の距離だけ離れた深さ位置に絶縁層を形成してもよい。また例えば、第1の低抵抗CZ基板(第1シリコン層31)上に、絶縁層(第1絶縁層33)を形成し、その後、第2シリコン(第2シリコン層32)を所望の厚さ(第1絶縁層33の厚さと第2シリコン層32の厚さとの和H)だけエピタキシャル成長しても良い。
【0055】
図2に戻って、シリコン基板30における第2シリコン層32の主面上に感光性樹脂層(レジスト層)41が例えばスピンコート等によって形成される(レジスト形成工程、図2(B))。ここで、レジスト層は、リソグラフィーにおいて使用され、光(可視光だけでなく紫外線等も含む)や電子線等によって溶解性等の物性が変化する材料である。本実施形態では、その一例として感光性樹脂層である場合について説明しているが、これに限定されるものではなく、例えば、レジスト層は、電子線露光用のレジスト層であってもよい。
【0056】
次に、フォトリソグラフィー工程として、リソグラフィー法によって感光性樹脂層41がパターニングされ(図2(C))、このパターニングした部分の感光性樹脂層41が除去される(パターニング工程、図3(A))。より具体的には、感光性樹脂層41にリソグラフィーマスク42を押し当てて、感光性樹脂層41にリソグラフィーマスク42を介して紫外線43が照射され、感光性樹脂層41がパターン露光され、現像される(図2(C))。そして、露光されなかった部分(あるいは露光された部分)の感光性樹脂層41が除去される(図3(A))。
【0057】
次に、ドライエッチング法によって感光性樹脂層41を除去した部分に対応する第2シリコン層32が、前記法線方向Dzに第1シリコン層31に少なくとも到達するまでエッチングされる。すなわち、この工程によって第1絶縁層33もエッチングされる。これによってスリット溝SDが形成される(エッチング工程、図3(B)、図5)。より具体的には、パターニングされた感光性樹脂層41をマスクとして、シリコン基板30における第2シリコン層32の表面から第1絶縁層33を介して第1シリコン層31が少なくとも露出するまで、ICP(Inductively Coupled Plasma)ドライエッチングで第2シリコン層32および第1絶縁層33がエッチングされる。なお、感光性樹脂層41だけでは、所望の厚さHの第2シリコン層32および第1絶縁層33を彫りぬくために、充分な厚さではない場合には、シリコン基板30上に例えばアルミニウム(Al)や石英(Si)等を成膜し、これらアルミニウム膜または石英膜上に前記感光性樹脂層41を形成し、上述のように、リソグラフィーでこの感光性樹脂層41をパターニングした後に、このパターニングされた感光性樹脂層41をマスクに、アルミニウム膜または石英膜をパターニングし、このパターニングされたアルミニウム膜または石英膜をマスクとして、上述のように第2シリコン層32および第1絶縁層33をICPドライエッチングしても良い。
【0058】
このICPドライエッチングは、高アスペクト比で垂直なエッチングができるため、好ましくは、ICP装置によるASEプロセスである。このASE(Advanced Silicon Etch)プロセスとは、SFプラズマ中のFラジカルとFイオンによるRIE(反応性イオンエッチング)によってシリコン基板のエッチングを行う工程と、Cプラズマ中のCFラジカル及びそれらのイオンの重合反応によって、テフロン(登録商標)に近い組成を有するポリマー膜を壁面に堆積させて保護膜として作用させる工程とを繰り返し行うものである。また、高アスペクト比でより垂直なエッチングができるため、より好ましくは、ボッシュ(Bosch)プロセスのように、SFプラズマがリッチな状態と、Cプラズマがリッチな状態とを交互に繰り返すことで、側壁保護と底面エッチングとを交互に進行させてもよい。なお、ドライエッチング法は、ICPドライエッチングに限定するものではなく、他の手法であってもよい。例えば、いわゆる、並行平板型リアクティブイオンエッチング(RIE)、磁気中性線プラズマ(NLD)ドライエッチング、化学支援イオンビーム(CAIB)エッチングおよび電子サイクロトロン共鳴型リアクティブイオンビーム(ECRIB)エッチング等のエッチング技術であっても良い。
【0059】
このエッチングされて残った第2シリコン層32の板状体が第2シリコン部分12aとなり、このエッチングされて残った第1絶縁層33が金属格子DGにおける第1絶縁層12cとなる。
【0060】
なお、図5には、エッチング工程後における部材の一構造例が示されており、図3(B)には、この一例としての製造工程中の部材における、図5に示すAA’線でのこの部材の断面が示されている。
【0061】
次に、スリット溝SDにおける少なくとも内側面に第2絶縁層34が形成される(絶縁層形成工程、図3(C))。例えば、陽極酸化法によって、第2シリコン層32に電圧を印加して、スリット溝SDにおける少なくとも内側面に第2絶縁層34としての酸化膜が形成される。より具体的には、図4(A)に示すように、複数のシリコン部分12aとしての第2シリコン層32に電源44の陽極が接続され、電源44の陰極に接続された陰極電極45およびシリコン基板30が電解液46に浸けられる。なお、図4(A)では、紙面最も左側の第2シリコン層32のみに電圧が印加されているように見えるが、図4(A)に示す各第2シリコン層32は、上述の一例に示すように、少なくとも一方端(図5に示す例では両端)で互いに繋がっているので、図4(A)に示す各第2シリコン層32全体に電圧が印加される。なお、図5に示す例は、一構造例であり、他の構造であってもよい。電解液46は、酸化力が強く、かつ陽極酸化により生成された酸化膜を溶解しない酸性溶液、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、シュウ酸および燐酸等の溶液が好ましい。陰極電極45は、この電解液46に対して溶解しない金属、例えば、金(Au)および白金(Pt)等で形成されることが好ましい。このような構成によって、陽極酸化により、電解液46に接している第2シリコン層32の表面が酸化される。この例では、スリット溝SDの底面(第1シリコン層31がスリット溝に臨む部分)は、酸化せずに、第2シリコン層32の両側面(スリット溝SDの内側側面)および上面が酸化され、第2シリコン層32は、シリコン酸化膜によって被覆される。シリコン酸化膜の厚さは、一般に、電圧および通電時間に比例する。そして、シリコン酸化膜は、次の電鋳工程において第2シリコン層32に掛かる電圧を遮断する機能(第2シリコン層32を電気的に絶縁する機能)を果たすので、当該機能を奏する程度の厚さよく、例えば、10nm程度以上であればよい。一例を挙げれば、例えば、濃度68%の硝酸にシリコンを浸け、これに20Vの電圧を10分間印加することによって陽極酸化した場合には、約10nmの酸化膜が形成された。
【0062】
次に、電鋳法(電気メッキ法)によって、第1シリコン層31に電圧を印加して前記スリット溝SDが金属で埋められる(電鋳工程、図4(B))。より具体的には、第1シリコン層31に電源47の陰極が接続され、電源47の陽極に接続された陽極電極48およびシリコン基板30がメッキ液49に浸けられる。これによって電鋳によりスリット溝SDの底部における第1シリコン層31側から金属が析出し、成長する。そして、この金属がスリット溝SDを埋めると、電鋳が終了される。これによって金属が第1絶縁層33を含む第2シリコン層32と同じ厚さHだけ成長する。こうしてスリット溝SDに金属が埋められ、金属部分12bが形成される。この金属は、X線を吸収するものが好適に選択され、例えば、原子量が比較的重い元素の金属や貴金属、より具体的には、例えば、金(Au)、プラチナ(白金、Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、インジウム(In)およびニッケル(Ni)等である。
【0063】
このような各製造工程を経ることによって、図1に示す構成の金属格子DGが製造される。
【0064】
このような金属格子DGの製造方法は、シリコン基板30をドライエッチングするので、スリット溝SDにおける幅Wに対する深さHの比(スリット溝SDのアスペクト比=深さH/幅W)の高いスリット溝を形成することができる。この結果、このような金属格子DGの製造方法は、この高アスペクト比のスリット溝SDを金属で埋めることで、高アスペクト比の金属部分12bを持つ金属格子DGを製造することができる。そして、電鋳工程で電鋳法によってスリット溝SDを金属で埋める際に、まず、絶縁層形成工程で陽極酸化法によってスリット溝SDの底部に形成せずにスリット溝SDの測面に第2絶縁層34を形成する。したがって、電鋳工程では、第1シリコン層31と第2シリコン層32との間に在る第1絶縁層33およびスリット溝SDの内側側面に形成されている第2絶縁層34によって、第2シリコン層32は、第1シリコン層31と電気的に絶縁される。このため、スリット溝SDの内側側面(第2シリコン層32の側面)から金属が析出および成長することがなく、スリット溝SDの底(第1シリコン層31)から金属が析出し成長する。したがって、このような構成の金属格子DGの製造方法は、このように金属がスリット溝SDの底から選択的に成長するので、ボイドの発生を効果的に抑制することができる。この結果、このような構成の金属格子DGの製造方法は、電鋳法によって格子の金属部分をより緻密に形成することができる。特に、X線タルボ干渉計およびX線タルボ・ロー干渉計に用いられる回折格子は、金属部分12bが高いアスペクト比が求められるが、本実施形態における金属格子DGの製造方法は、上述のように、このような高アスペクト比、例えば5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上に対応することができ、しかもより緻密な金属部分12bを形成することができ、X線タルボ干渉計およびX線タルボ・ロー干渉計に用いられる回折格子の製造方法として好適である。
【0065】
なお、シリコンウェハに高アスペクト比のスリット溝をドライエッチングによって形成し、このスリット溝の底にスパッタや真空蒸着等によって金属層を形成し、この金属層を電極に用いて電鋳法によって前記スリット溝を金属で埋める金属格子の製造方法も考えられる。しかしながら、この製造方法では、前記スパッタや真空蒸着等によって金属層を形成する際に、必ずしも前記スリット溝の底にのみ形成されるとは限らず、また、前記スリット溝の底に良好な金属層が形成されるとも限らない。高アスペクト比のスリット溝の底にのみ金属層を形成することは、非常に困難である。本実施形態における金属格子DGの製造方法では、このような点も解消することができる。
【0066】
また、本実施形態における金属格子DGの製造方法は、スマート・カット法によって第2シリコン層32の厚さHが調整されるので、第2シリコン層32のカット面がより平坦となり、この結果、高精度な金属格子DGを形成することができる。特に、金属格子DGが回折格子として機能する場合には、入射面あるいは出射面がより平坦となるので、好ましい。
【0067】
また、本実施形態における金属格子DGの製造方法は、エッチング工程にRIE(Reactive Ion Etching、反応性イオンエッチング)を用いるので、いわゆる異方性エッチングを行うことができるから、深さ方向(積層方向)に沿って第2シリコン層32をエッチングすることができ、比較的容易にスリット溝SDを形成することができる。
【0068】
また、本実施形態における金属格子DGの製造方法は、ボッシュプロセスによって第2シリコン層32がドライエッチングされるので、スリット溝SDの側面がより平坦となり、この結果、高精度な金属格子DGを形成することができる。特に、金属格子DGが回折格子として機能する場合には、入射面あるいは出射面がより平坦となるので、好ましい。
【0069】
ここで、第2シリコン層32の上面部分にも酸化膜34が形成されているが、第2シリコン層32の上面部分に酸化膜34が形成されていない場合でも、第2シリコン層32は、第1絶縁層33によって絶縁されるので、電鋳工程において、この第2シリコン層32の上面部分には、金属は、析出しない。
【0070】
なお、上述の実施形態では、回折格子DGは、一次元周期構造であったが、これに限定されるものではない。回折格子DGは、例えば、二次元周期構造の回折格子であってもよい。例えば、二次元周期構造の回折格子DGは、回折部材となるドットが線形独立な2方向に所定の間隔を空けて等間隔に配設されて構成される。このような二次元周期構造の回折格子は、平面に高アスペクト比の穴を二次元周期で空け、上述と同様に、その穴を金属で埋める、あるいは、平面に高アスペクト比の円柱を二次元周期で立設させ、上述と同様に、その周りを金属で埋めることによって形成することができる。
【0071】
(タルボ干渉計およびタルボ・ロー干渉計)
上記実施形態の金属格子DGは、高アスペクト比で金属部分を形成することができるので、X線用のタルボ干渉計およびタルボ・ロー干渉計に好適に用いることができる。この金属格子DGを用いたX線用タルボ干渉計およびX線用タルボ・ロー干渉計について説明する。
【0072】
図7は、実施形態におけるX線用タルボ干渉計の構成を示す斜視図である。図8は、実施形態におけるX線用タルボ・ロー干渉計の構成を示す上面図である。
【0073】
実施形態のX線用タルボ干渉計100Aは、図7に示すように、所定の波長のX線を放射するX線源101と、X線源101から照射されるX線を回折する位相型の第1回折格子102と、第1回折格子102により回折されたX線を回折することにより画像コントラストを形成する振幅型の第2回折格子103とを備え、第1および第2回折格子102、103がX線タルボ干渉計を構成する条件に設定される。そして、第2回折格子103により画像コントラストの生じたX線は、例えば、X線を検出するX線画像検出器105によって検出される。そして、このX線用タルボ干渉計100Aでは、第1回折格子102および第2回折格子103の少なくとも一方は、前記金属格子DGである。
【0074】
タルボ干渉計100Aを構成する前記条件は、次の式1および式2によって表される。式2は、第1回折格子102が位相型回折格子であることを前提としている。
l=λ/(a/(L+Z1+Z2)) ・・・(式1)
Z1=(m+1/2)×(d/λ) ・・・(式2)
ここで、lは、可干渉距離であり、λは、X線の波長(通常は中心波長)であり、aは、回折格子の回折部材にほぼ直交する方向におけるX線源101の開口径であり、Lは、X線源101から第1回折格子102までの距離であり、Z1は、第1回折格子102から第2回折格子103までの距離であり、Z2は、第2回折格子103からX線画像検出器105までの距離であり、mは、整数であり、dは、回折部材の周期(回折格子の周期、格子定数、隣接する回折部材の中心間距離、前記ピッチP)である。
【0075】
このような構成のX線用タルボ干渉計100Aでは、X線源101から第1回折格子102に向けてX線が照射される。この照射されたX線は、第1回折格子102でタルボ効果を生じ、タルボ像を形成する。このタルボ像が第2回折格子103で作用を受け、モアレ縞の画像コントラストを形成する。そして、この画像コントラストがX線画像検出器105で検出される。
【0076】
タルボ効果とは、回折格子に光が入射されると、或る距離に前記回折格子と同じ像(前記回折格子の自己像)が形成されることをいい、この或る距離をタルボ距離Lといい、この自己像をタルボ像という。タルボ距離Lは、回折格子が位相型回折格子の場合では、上記式2に表されるZ1となる(L=Z1)。タルボ像は、Lの奇数倍(=(2m+1)L、mは、整数)では、反転像が現れ、Lの偶数倍(=2mL)では、正像が現れる。
【0077】
ここで、X線源101と第1回折格子102との間に被検体Sが配置されると、前記モアレ縞は、被検体Sによって変調を受け、この変調量が被検体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。このため、モアレ縞を解析することによって被検体Sおよびその内部の構造が検出される。
【0078】
このような図7に示す構成のタルボ干渉計100Aでは、X線源101は、単一の点光源であり、このような単一の点光源は、単一のスリット(単スリット)を形成した単スリット板をさらに備えることで構成することができ、X線源101から放射されたX線は、前記単スリット板の前記単スリットを通過して被写体Sを介して第1回折格子102に向けて放射される。前記スリットは、一方向に延びる細長い矩形の開口である。
【0079】
一方、タルボ・ロー干渉計100Bは、図8に示すように、X線源101と、マルチスリット板104と、第1回折格子102と、第2回折格子103とを備えて構成される。すなわち、タルボ・ロー干渉計100Bは、図7に示すタルボ干渉計100Aに加えて、X線源101のX線放射側に、複数のスリットを並列に形成したマルチスリット板104をさらに備えて構成される。
【0080】
このマルチスリット板104は、上述した実施形態における金属格子DGの製造方法によって製造された格子であってよい。マルチスリット板104を、上述した実施形態における金属格子DGの製造方法によって製造することによって、X線をスリット(前記複数の第2シリコン部分12a)によって透過させるとともにより確実に前記複数の金属部分12bによって遮断することができるので、X線の透過と非透過とをより明確に区別することができるから、より確実にマルチ光源とすることができる。
【0081】
そして、タルボ・ロー干渉計100Bとすることによって、タルボ干渉計100Aよりも、被写体Sを介して第1回折格子102に向けて放射されるX線量が増加するので、より良好なモアレ縞が得られる。
【0082】
このようなタルボ干渉計100Aやタルボ・ロー干渉計100Bに用いられる第1回折格子102、第2回折格子103およびマルチスリット板104の一例を挙げると、諸元は、次の通りである。なお、これらの例では、第2シリコン部分12aと金属部分12bとは、同幅に形成され、金属部分12bは、金によって形成される。
【0083】
一例として、X線源101またはマルチスリット板104から第1回折格子102までの距離R1が2mであって、X線源101またはマルチスリット板104から第1回折格子102までの距離R2が2.5mである場合では、第1回折格子102は、そのピッチPが5μmであり、その金属部分12bの厚さが3μmであり、第2回折格子103は、そのピッチPが6μmであり、その金属部分12bの厚さが100μmであり(アスペクト比=100/3)、そして、マルチスリット板104は、そのピッチPが30μmであり、その金属部分12bの厚さが100μmである。
【0084】
また、他の一例として、X線源101またはマルチスリット板104から第1回折格子102までの距離R1が1.8mであって、X線源101またはマルチスリット板104から第1回折格子102までの距離R2が2.5mである場合では、第1回折格子102は、そのピッチPが7μmであり、その金属部分12bの厚さが3μmであり、第2回折格子103は、そのピッチPが10μmであり、その金属部分12bの厚さが100μmであり(アスペクト比=100/5)、そして、マルチスリット板104は、そのピッチPが20μmであり、その金属部分12bの厚さが100μmである。
【0085】
(X線撮像装置)
前記金属格子DGは、種々の光学装置に利用することができるが、高アスペクト比で金属部分12bを形成することができるので、例えば、X線撮像装置に好適に用いることができる。特に、X線タルボ干渉計を用いたX線撮像装置は、X線を波として扱い、被写体を通過することによって生じるX線の位相シフトを検出することによって、被写体の透過画像を得る位相コントラスト法の一つであり、被写体によるX線吸収の大小をコントラストとした画像を得る吸収コントラスト法に較べて、約1000倍の感度改善が見込まれ、それによってX線照射量が例えば1/100〜1/1000に軽減可能となるという利点がある。本実施形態では、前記回折格子DGを用いたX線タルボ干渉計を備えたX線撮像装置について説明する。
【0086】
図9は、実施形態におけるX線撮像装置の構成を示す説明図である。図9において、X線撮像装置200は、X線撮像部201と、第2回折格子202と、第1回折格子203と、X線源204とを備え、さらに、本実施形態では、X線源204に電源を供給するX線電源部205と、X線撮像部201の撮像動作を制御するカメラ制御部206と、本X線撮像装置200の全体動作を制御する処理部207と、X線電源部205の給電動作を制御することによってX線源204におけるX線の放射動作を制御するX線制御部208とを備えて構成される。
【0087】
X線源204は、X線電源部205から給電されることによって、X線を放射し、第1回折格子203へ向けてX線を照射する装置である。X線源204は、例えば、X線電源部205から供給された高電圧が陰極と陽極との間に印加され、陰極のフィラメントから放出された電子が陽極に衝突することによってX線を放射する装置である。
【0088】
第1回折格子203は、X線源204から放射されたX線によってタルボ効果を生じる透過型の回折格子である。第1回折格子203は、例えば、上述した実施形態における金属格子DGの製造方法によって製造された回折格子である。第1回折格子203は、タルボ効果を生じる条件を満たすように構成されており、X線源204から放射されたX線の波長よりも充分に粗い格子、例えば、格子定数(回折格子の周期)dが当該X線の波長の約20以上である位相型回折格子である。なお、第1回折格子203は、このような振幅型回折格子であってもよい。
【0089】
第2回折格子202は、第1回折格子203から略タルボ距離L離れた位置に配置され、第1回折格子203によって回折されたX線を回折する透過型の振幅型回折格子である。この第2回折格子202も、第1回折格子203と同様に、例えば、上述した実施形態における金属格子DGの製造方法によって製造された回折格子である。
【0090】
これら第1および第2回折格子203、202は、上述の式1および式2によって表されるタルボ干渉計を構成する条件に設定されている。
【0091】
X線撮像部201は、第2回折格子202によって回折されたX線の像を撮像する装置である。X線撮像部201は、例えば、X線のエネルギーを吸収して蛍光を発するシンチレータを含む薄膜層が受光面上に形成された二次元イメージセンサを備えるフラットパネルディテクタ(FPD)や、入射フォトンを光電面で電子に変換し、この電子をマイクロチャネルプレートで倍増し、この倍増された電子群を蛍光体に衝突させて発光させるイメージインテンシファイア部と、イメージインテンシファイア部の出力光を撮像する二次元イメージセンサとを備えるイメージインテンシファイアカメラなどである。
【0092】
処理部207は、X線撮像装置200の各部を制御することによってX線撮像装置200全体の動作を制御する装置であり、例えば、マイクロプロセッサおよびその周辺回路を備えて構成され、機能的に、画像処理部271およびシステム制御部272を備えている。
【0093】
システム制御部272は、X線制御部208との間で制御信号を送受信することによってX線電源部205を介してX線源204におけるX線の放射動作を制御すると共に、カメラ制御部206との間で制御信号を送受信することによってX線撮像部201の撮像動作を制御する。システム制御部272の制御によって、X線が被写体Sに向けて照射され、これによって生じた像がX線撮像部201によって撮像され、画像信号がカメラ制御部206を介して処理部207に入力される。
【0094】
画像処理部271は、X線撮像部201によって生成された画像信号を処理し、被写体Sの画像を生成する。
【0095】
次に、本実施形態のX線撮像装置の動作について説明する。被写体Sが例えばX線源204を内部(背面)に備える撮影台に載置されることによって、被写体SがX線源204と第1回折格子203との間に配置され、X線撮像装置200のユーザ(オペレータ)によって図略の操作部から被写体Sの撮像が指示されると、処理部207のシステム制御部272は、被写体Sに向けてXを照射すべくX線制御部208に制御信号を出力する。この制御信号によってX線制御部208は、X線電源部205にX線源204へ給電させ、X線源204は、X線を放射して被写体Sに向けてX線を照射する。
【0096】
照射されたX線は、被写体Sを介して第1回折格子203を通過し、第1回折格子203によって回折され、タルボ距離L(=Z1)離れた位置に第1回折格子203の自己像であるタルボ像Tが形成される。
【0097】
この形成されたX線のタルボ像Tは、第2回折格子202によって回折され、モアレを生じてモアレ縞の像が形成される。このモアレ縞の像は、システム制御部272によって例えば露光時間などが制御されたX線撮像部201によって撮像される。
【0098】
X線撮像部201は、モアレ縞の像の画像信号をカメラ制御部206を介して処理部207へ出力する。この画像信号は、処理部207の画像処理部271によって処理される。
【0099】
ここで、被写体SがX線源204と第1回折格子203との間に配置されているので、被写体Sを通過したX線には、被写体Sを通過しないX線に対し位相がずれる。このため、第1回折格子203に入射したX線には、その波面に歪みが含まれ、タルボ像Tには、それに応じた変形が生じている。このため、タルボ像Tと第2回折格子202との重ね合わせによって生じた像のモアレ縞は、被写体Sによって変調を受けており、この変調量が被写体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。したがって、モアレ縞を解析することによって被写体Sおよびその内部の構造を検出することができる。また、被写体Sを複数の角度から撮像することによってX線位相CT(computed tomography)により被写体Sの断層画像が形成可能である。
【0100】
そして、本実施形態の第2回折格子202では、高アスペクト比の金属部分12bを備える上述した実施形態における金属格子DGであるので、良好なモアレ縞が得られ、高精度な被写体Sの画像が得られる。
【0101】
また、金属格子DGがスマート・カット法によって第2シリコン層32の厚さが調整されるので、第2シリコン層32のカット面がより平坦となり、高精度に第2回折格子202を形成することができる。このため、より良好なモアレ縞が得られ、より高精度な被写体Sの画像が得られる。
【0102】
さらに、金属格子DGがボッシュプロセスによって第2シリコン層32がドライエッチングされるので、スリット溝SDの側面がより平坦となり、高精度に第2回折格子202を形成することができる。このため、より良好なモアレ縞が得られ、より高精度な被写体Sの画像が得られる。
【0103】
なお、上述のX線撮像装置200は、X線源204、第1回折格子203および第2回折格子202によってタルボ干渉計を構成したが、X線源204のX線放射側にマルチスリットとしての上述した実施形態における金属格子DGをさらに配置することで、タルボ・ロー干渉計を構成してもよい。このようなタルボ・ロー干渉計とすることで、単スリットの場合よりも被写体Sに照射されるX線量を増加することができ、より良好なモアレ縞が得られ、より高精度な被写体Sの画像が得られる。
【0104】
また、上述のX線撮像装置200では、X線源204と第1回折格子203との間に被写体Sが配置されたが、第1回折格子203と第2回折格子202との間に被写体Sが配置されてもよい。
【0105】
また、上述のX線撮像装置200では、X線の像がX線撮像部201で撮像され、画像の電子データが得られたが、X線フィルムによって撮像されてもよい。
【0106】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0107】
DG 金属格子
SD スリット溝
11 第1シリコン層
12 格子
12a 第2シリコン部分
12b 金属部分
12c 第1絶縁層
12d 第2絶縁層
30 シリコン基板
31 第1シリコン層
32 第2シリコン層
33 第1絶縁層
34 第2絶縁層
100A X線用タルボ干渉計
100B X線用タルボ・ロー干渉計
102、203 第1回折格子
103、202 第2回折格子
104 マルチスリット板
200 X線撮像装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1シリコン層と前記第1シリコン層に第1絶縁層を介して付けられた第2シリコン層とを備える基板における前記第2シリコン層の主面上にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、
リソグラフィー法によって前記レジスト層をパターニングして前記パターニングした部分の前記レジスト層を除去するパターニング工程と、
ドライエッチング法によって前記レジスト層を除去した部分に対応する前記第2シリコン層を前記第1シリコン層に少なくとも到達するまでエッチングしてスリット溝を形成するエッチング工程と、
陽極酸化法によって、前記第2シリコン層に電圧を印加して前記スリット溝の測面に第2絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
電鋳法によって、前記第1シリコン層に電圧を印加して前記スリット溝を金属で埋める電鋳工程とを備えること
を特徴とする金属格子の製造方法。
【請求項2】
前記第1絶縁層の厚さと前記第2シリコン層の厚さの和が前記スリット溝の深さに対応する厚さになるように、前記第2シリコン層の厚さをスマート・カット法によって調整する調整工程をさらに備えること
を特徴とする請求項1に記載の金属格子の製造方法。
【請求項3】
前記ドライエッチング法は、RIEであること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属格子の製造方法。
【請求項4】
前記ドライエッチング法は、ボッシュプロセスであること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属格子の製造方法。
【請求項5】
前記第1シリコン層は、n型シリコンであること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の金属格子の製造方法。
【請求項6】
前記第2シリコン層は、p型シリコンであること
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の金属格子の製造方法。
【請求項7】
X線タルボ干渉計またはX線タルボ・ロー干渉計に用いられる回折格子を製造する請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の金属格子の製造方法。
【請求項8】
第1シリコン層と、
前記第1シリコン層上に形成され、一方向に線状に延びる複数の第2シリコン部分と前記一方向に線状に延びる複数の金属部分とが交互に平行に配設された格子とを備え、
前記第1シリコン層と前記複数の第2シリコン部分との各間に複数の第1絶縁層をそれぞれさらに備え、
前記複数の第2シリコン部分と前記複数の金属部分との各間に複数の第2絶縁層をそれぞれさらに備えること
を特徴とする金属格子。
【請求項9】
X線を放射するX線源と、
前記X線源から放射されたX線が照射されるタルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計と、
前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計によるX線の像を撮像するX線撮像素子とを備え、
前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計は、請求項8に記載の金属格子を含むこと
を特徴とするX線撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−127685(P2012−127685A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276966(P2010−276966)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】