説明

金属被覆された硬質塩化ビニル基材

【課題】溶剤系のアンダーコートあるいはプライマー処理を行うことなく、硬質塩化ビニルからなる基材の表面に強固に接着して高温・高湿に対する耐久性に優れた金属皮膜を有する、金属被覆された硬質塩化ビニル基材を提供する。
【解決手段】硬質塩化ビニルからなる基材の表面に表面改質層が設けられ、前記基材の表面改質層を介して、蒸着による金属薄膜層が被覆してなる金属被覆された硬質塩化ビニル基材。表面改質層が、官能基として少なくともカルボキシル基を含むことが好ましい。表面改質層が、窒素ガスを反応ガスとする大気圧プラズマ処理により形成されてなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属薄膜を有する硬質塩化ビニル基材に関する。さらに詳細には、有機溶剤を使ったアンダーコートあるいはプライマー処理を行うことなく、硬質塩化ビニル基材の表面に強固に接着して高温・高湿に対する耐久性に優れた、金属皮膜を有する硬質塩化ビニルからなる樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂板を提供する。
【背景技術】
【0002】
一般に可塑剤を10〜60%程度配合している塩化ビニル樹脂を、軟質塩化ビニル樹脂(軟質塩ビ)と呼び、この可塑剤として、一般にフタル酸エステルが使用されている。可塑剤を配合していない塩化ビニル樹脂を、硬質塩化ビニル樹脂(以下、硬質塩ビ、あるいは、硬質PVCと略称する場合もある。)と呼んでいる。
【0003】
従来から、硬質塩ビは、安価で軽量という利点があり、水道管や雨樋、窓枠などの構造材として用いられている。また、硬質塩ビは、ほとんどの強酸、弱酸、アルカリ、塩類、動植物油に対する耐食性・耐薬品性に優れており、フェノール樹脂に劣らぬ電気絶縁性を有している。また、硬質塩ビは、比較的硬く、割れやすい性質があり、耐熱性は悪くて、使用温度はせいぜい80℃である。
【0004】
硬質塩ビの表面に金属を蒸着して金属薄膜を被覆したものが、種々の用途に対して用いられている。例えば、温水シャワーの水栓(シャワーヘッド)などは、やけどの防止のためプラスチック製の外装体が用いられている、具体的には硬質塩ビにアルミニウムを蒸着したものが用いられている。あるいは、硬質塩ビの薄板の表面にアルミニウムを蒸着して作製した鏡が、ガラス製に代替する軽量で安全な鏡として用いることも行われている。
【0005】
ところで、硬質塩ビなどの合成樹脂フィルムの表面に、金属蒸着膜を形成することは従来から行われており、例えば、特許文献1〜3に示されている。
特許文献1には、合成樹脂フィルムに、蒸着によるアルミニウム層が形成された積層体が用いられた建築用パネル体が開示されている。ここで、合成樹脂フィルムとしては、ポリエステル、硬質塩化ビニルなどが使用できるとしているが、合成樹脂フィルムの表面改質を行うことについては、何ら記載されていない。
また、特許文献2には、透明性フィルムとして、二軸延伸ポリエステルフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ナイロンフィルム等の二軸延伸フィルムもしくは硬質塩化ビニルフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリメチルアクリレートフィルム等の二軸延伸しないフィルムの片面に、金属蒸着層を有し、該金属蒸着層付き透明フィルムの両側に白色印刷が施された両面印刷遮光性フィルムが開示されている。特許文献2には、「アルミニウム等の蒸着密着力を向上させるためにコロナ処理、プラズマ処理、接着剤を表面層にコーティングする等々のケミカル処理を施しても良い」との記載が見られるが、ケミカル処理の具体的な説明は、何ら記載されていない。
また、特許文献3には、透明樹脂フィルムの片面に、低温プラズマ処理、又はコロナ放電処理による改質層が形成され、該改質層の上に接着性樹脂層、赤外線反射層を順に積層した透明断熱性材料が開示されている。しかし、透明樹脂フィルムとしては、ポリフッ化ビニルなどのフッ素含有樹脂、ポリプロピレンなどのオレフィン樹脂、ポリメチルアクリレートなどのアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂を使用できるとしているが、硬質塩ビが適用できることの記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−117419号公報
【特許文献2】特開平04−052135号公報
【特許文献3】特公平06−028938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来技術による硬質塩ビの表面に形成された金属蒸着の薄膜では、高温・高湿な環境に耐えられる耐久性を有するものが得られなかったため、用途が限られるという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、溶剤系のアンダーコートあるいはプライマー処理を行うことなく、硬質塩化ビニルからなる基材の表面に強固に接着して高温・高湿に対する耐久性に優れた金属皮膜を有する、金属被覆された硬質塩化ビニル基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、硬質塩化ビニルからなる基材の表面に表面改質層が設けられ、前記基材の表面改質層を介して、蒸着による金属薄膜層が被覆してなることを特徴とする金属被覆された硬質塩化ビニル基材を提供する。
前記表面改質層が、官能基として少なくともカルボキシル基を含むことが好ましい。
前記表面改質層が、窒素ガスを反応ガスとする大気圧プラズマ処理により形成されてなることが好ましい。
前記金属薄膜層が、アルミニウム、銅、ニッケル、クロム、金、銀、白金、錫、亜鉛、金属酸化物、金属酸化物を含む合金からなる金属群の中から選択された1種以上を含むことが好ましい。
前記基材が、樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂板の形態から選択されたいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶剤系のアンダーコートあるいはプライマー処理を行うことなく、硬質塩化ビニルからなる基材の表面に強固に接着して高温・高湿に対する耐久性に優れた金属皮膜を有する、金属被覆された硬質塩化ビニル基材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施の形態に基づき、本発明を説明する。
本発明に係る金属被覆された硬質塩化ビニル基材は、硬質PVCからなる基材の表面に表面改質層が設けられ、前記基材の表面改質層を介して、蒸着による金属薄膜層が被覆してなる。硬質PVC基材の表面改質層の形成方法としては、例えば空気雰囲気でのコロナ放電処理(エアコロナ処理)、窒素ガス雰囲気でのコロナ放電処理、大気圧グロープラズマ処理等が挙げられる。
【0012】
(コロナ放電処理)
コロナ放電による表面改質の処理は、高周波電源電圧を用いて大気中にコロナ放電を発生させ、それに伴って発生する電子やイオンを樹脂基材の表面に照射し、樹脂基材の表面に官能基を付加することによって樹脂基材の表面改質を行うものである。
空気雰囲気下で行われるコロナ放電による表面改質の処理では、コロナ放電処理した樹脂基材の表面が酸化され、該樹脂基材の表面において、高分子の主鎖や側鎖に、カルボニル基(>CO)やカルボキシル基(−COOH)などの酸素官能基が主として形成すると考えられる。
【0013】
(窒素ガス雰囲気でのコロナ放電処理)
また、窒素ガス雰囲気でのコロナ放電処理を行い、窒素ガスを反応ガスとすることで、樹脂基材の表面の高分子の主鎖や側鎖に、接着に寄与すると思われるアミノ基(−NH)等の窒素官能基が主として生成すると考えられる。さらに、窒素ガス雰囲気でのコロナ放電処理は、通常の空気雰囲気でのコロナ放電処理(エアコロナ処理)と異なり、窒素ガス雰囲気中で放電が起こっているために、空気雰囲気でのコロナ放電処理(エアコロナ処理)を行った場合に発生する空気中の不純物による脆弱層の発生が抑えられる。幾つかの特許文献では、窒素ガスも大気圧グロープラズマ処理の雰囲気ガスとして使用できるような記載があるが、放電状態を観察すると大気圧グロープラズマ放電ではない。しかしながら、窒素ガス雰囲気でのコロナ放電は、放電条件の調整によって雷のようなストリーマー状(線状)、すなわち空気雰囲気でのコロナ放電よりは緩やかな(マイルドな)グローに近い放電が可能であるため、エアコロナ処理よりも均一な表面改質として利用できる。
【0014】
(大気圧グロープラズマ処理)
従来、真空状態で放電させる低温プラズマ処理が表面改質に用いられていたが、真空設備を要することから装置が大掛かりとなり操作が煩雑であるという欠点があった。このため、通常、真空状態でしか発生できないグロー放電状態を大気圧下で発生させ、それにより生じる反応ラジカル、電子などを用いて表面改質を行う大気圧プラズマ処理装置が、樹脂フィルムの濡れ性改善・接着性改善に簡便に使用されるようになった。
【0015】
大気圧グロープラズマ処理は、雰囲気ガスとしてヘリウム、アルゴンなどの希ガス元素を用いることで安定にグロー放電が保持され、雷のようなストリーマー状(線状)、すなわち空気雰囲気でのコロナ放電よりも、むらの無い均一な表面改質が可能である。幾つかの特許文献では、窒素ガスも大気圧グロープラズマ処理の雰囲気ガスとして使用できるような記載があるが、放電状態を観察すると大気圧グロープラズマ放電ではない。
【0016】
本発明での大気圧プラズマ処理とは、窒素ガス雰囲気でのコロナ放電処理、あるいはヘリウム、アルゴンなどの希ガス雰囲気での大気圧グロープラズマ処理であり、窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガス等を反応ガスとすることができる。
酸素ガスを反応ガスとする大気圧プラズマ処理では、樹脂フィルムの表面において、高分子の主鎖や側鎖に、カルボニル基(>CO)やカルボキシル基(−COOH)などの酸素官能基が主として形成する。また、窒素系ガスを反応ガスとする、例えば、N、NO、NHなど、さらに水素(H)、酸素(O)などを混合することにより、アミノ基、アミド基なども意図的に導入することができることを、本発明者らは確認している。
また、反応ガスには、CH、CO等を添加してもよい。炭酸ガス(CO)を反応ガスとした場合には、基材表面に弱い酸化が起こり、酸素官能基が主に生成する。
【0017】
これらを考慮して本発明では、硬質PVC基材の表面に大気圧プラズマ処理を用いて表面改質処理を行う場合、窒素ガス雰囲気でのコロナ放電処理、あるいはヘリウム、アルゴンなどの希ガス雰囲気での大気圧グロープラズマ処理を用いて行うことが好ましい。また、窒素ガス雰囲気下による大気圧プラズマ処理により形成されてなることが好ましい。
さらに、本発明では硬質PVC基材の表面に、接着性改質層が形成されるように、大気圧プラズマ処理において、大気圧プラズマ処理装置で発生したプラズマを樹脂フィルムの表面に対して照射する時間、印加電力、周波数などを調整して行う。
前記表面改質層が、官能基として少なくともカルボキシル基(−COOH)を含むことが好ましい。これにより、金属に対する密着性(部分的剥離のない、膜全体への付着性)がより高いものとなる。
【0018】
金属薄膜層を構成する金属又はその化合物としては、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)などの金属、これらの2種または3種以上の金属の合金、または、金属酸化物、金属酸化物を含む合金などが挙げられる。金属酸化物としては、TiO、CrO、ITO(インジウム添加酸化錫)、FTO(フッ素添加酸化錫)、ATO(アンチモン添加酸化錫)、ZnO、Al、SiO等が挙げられる。
金属薄膜層は、電気伝導性、熱伝導性、意匠性(着色や金属光沢の付与)、防湿性、気密性、可視光の反射性(遮光性)、電磁波の遮蔽性(赤外線の断熱や電磁波シールド)など、各種の目的に対応可能である。
【0019】
金属薄膜層の形成は、金属、合金、金属酸化物等の蒸着、スパッタリング、塗布、金属箔の貼着等が挙げられる。上記表面改質層は濡れ性が高く、金属に対する接着性が良好であるので、基材表面に接着剤及びアンカーコート剤を塗布することなく、金属薄膜層を積層することができる。金属薄膜層は、基材表面の全面に渡って形成することも、部分的に形成することも可能である。
【0020】
また、硬質PVCからなる基材は、その厚みが特に限定されるものではないが、金属薄膜層を積層するための面の形状が表面改質処理のため、ある程度の平坦性を有することが好ましい。例えば、樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂板などが挙げられる。
本発明の金属被覆された硬質PVC基材は、ポリオレフィン、ナイロン、ポリエステル等の樹脂フィルム、紙、セロハン等の他種の基材と積層して、複合材料を構成するために用いることもできる。
本発明による金属被覆された硬質PVC基材は、化粧シート、光学フィルム、保護フィルム、電子・OA機器用部材、医療用部材、包装容器などの各種用途に使用できる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
(試験方法)
初期密着性は、JIS K 5400(またはその改訂版であるJIS K 5600−5−6)に準じてクロスカットテープ試験によって行った。即ち、ナイフを用いて基材の蒸着膜層形成面に1mm間隔に切れ目を入れ、1平方mmのマス目を100個形成させる。次に、その上ヘセロハン粘着テープ(ニチバン(株)製商品名「セロテープ(登録商標)」)を強く押し付けた後、表面から90°方向へ急に引っ張り剥離した後、蒸着膜層の残っている状態を目視で観察した。
高温・高湿保存試験は、供試体を、環境温度40℃×相対湿度90%RHまたは環境温度60℃×相対湿度90%RHの環境で、所定時間放置した後、JIS K 6854−1「接着剤 はく離接着強さ試験方法 第一部:90度はく離」に規定された測定方法で剥離強度(N/25.4mm)を測定した。
【0022】
引き剥がし時の蒸着膜層の状態は、硬質PVC基材と金属蒸着膜層との界面がどのように剥離したかによって、以下の基準により分類した。
・全体的に剥離・・・・蒸着膜層が全面的に基材から剥離した場合。
・部分的に剥離・・・・蒸着膜層が10%以上の割合で剥離した場合。
・一部が剥離・・・・・蒸着膜層が10%未満の割合で剥離した場合。
・蒸着割れ・・・・・・蒸着膜層に割れが発生して、引き剥がし用フィルム(セロハン粘着テープ又はL‐LDPE)側への薄い蒸着膜層の付着が目視で確認された場合。
・無記載・・・・・・・蒸着膜層の剥離も割れも目視で確認されなかった場合(良好)。
・段剥離・・・・・・・引っ張り方向に対して、蒸着膜層が基材から剥離した箇所と剥離しない箇所とが交互に多段で出現した場合。
【0023】
なお、初期密着性の結果を示す表では、無記載(良好)の場合「○」、それ以外の場合「×」と評価した。
高温・高湿保存試験の結果において、引き剥がし時の蒸着膜層の状態が無記載(良好)の場合は、引き剥がし用フィルムが蒸着面あるいは接着剤面等から剥離したときの剥離強度を示した。この場合は、引き剥がし用フィルムとの接着面が、本来測定すべき基材と蒸着膜層との界面(以下「基材/蒸着界面」という。)の剥離強度よりも小さな値で、剥離したことを意味する。
【0024】
(表面改質層の形成)
厚さ100〜200μmの硬質PVC基材の表面を、大気圧プラズマ処理装置を用いて表面改質した。処理条件は、照射エネルギー600W・min/m、周波数5kHzである。
窒素ガスを反応ガスとした大気圧プラズマ処理により、一方の表面に表面改質層を有する表面改質例1の硬質PVC基材を得た。
炭酸ガスを反応ガスとした大気圧プラズマ処理により、一方の表面に表面改質層を有する表面改質例2の硬質PVC基材を得た。
酸素ガスを反応ガスとした大気圧プラズマ処理により、一方の表面に表面改質層を有する表面改質例3の硬質PVC基材を得た。
【0025】
(Al蒸着膜層が形成された硬質PVC基材の作製)
次に、表面改質例1〜3の硬質PVC基材の表面改質層が形成された表面に、アルミニウム(Al)を蒸着して、金属被覆された硬質PVC基材を得た。また、対照例として、表面改質層が形成されていない硬質PVC基材(未処理)の表面に、アルミニウム(Al)を蒸着して、対照例に係る金属被覆された硬質PVC基材を作製した。初期密着性は、金属被覆された硬質PVC基材のAl蒸着面にセロハン粘着テープを貼付してクロスカット試験を実施した。
さらにAl蒸着面の上に接着剤を介して直鎖状低密度ポリエチレン(L‐LDPE)フィルムを貼り合わせ、硬質PVC基材/表面改質層/Al蒸着膜層/接着剤/L‐LDPEの構成からなる試験用の供試体を作製し、高温・高湿保存試験(40℃×90%RHおよび60℃×90%RH)を実施した。
以上の試験結果を表1〜3に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
(Cu蒸着膜層が形成された硬質PVC基材の作製)
表面改質例1〜3の硬質PVC基材の表面改質層が形成された表面に、銅(Cu)を蒸着して、金属被覆された硬質PVC基材を得た。また、対照例として、表面改質層が形成されていない硬質PVC基材(未処理)の表面に、銅(Cu)を蒸着して、対照例に係る金属被覆された硬質PVC基材を作製した。初期密着性は、金属被覆された硬質PVC基材のCu蒸着面にセロハン粘着テープを貼付してクロスカット試験を実施した。
さらにCu蒸着面の上に接着剤を介して直鎖状低密度ポリエチレン(L‐LDPE)フィルムを貼り合わせ、硬質PVC基材/表面改質層/Cu蒸着膜層/接着剤/L‐LDPEの構成からなる試験用の供試体を作製し、高温・高湿保存試験(40℃×90%RHおよび60℃×90%RH)を実施した。
以上の試験結果を表4〜6に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
【表5】

【0032】
【表6】

【0033】
なお、Cu蒸着の場合、炭酸ガスや酸素ガスを反応ガスとして表面改質処理をすると、基材表面の酸素原子含有官能基(COOH等の極性官能基)が蒸着される金属と反応して、変色してしまう(亜酸化銅の生成による)。窒素ガスを反応ガスとして表面改質処理をした場合は、変色のないCu蒸着膜層を形成することができた。
【0034】
(Ni蒸着膜層が形成された硬質PVC基材の作製)
表面改質例1〜3の硬質PVC基材の表面改質層が形成された表面に、ニッケル(Ni)を蒸着して、金属被覆された硬質PVC基材を得た。また、対照例として、表面改質層が形成されていない硬質PVC基材(未処理)の表面に、ニッケル(Ni)を蒸着して、対照例に係る金属被覆された硬質PVC基材を作製した。初期密着性は、金属被覆された硬質PVC基材のNi蒸着面にセロハン粘着テープを貼付してクロスカット試験を実施した。
さらにNi蒸着面の上に接着剤を介して直鎖状低密度ポリエチレン(L‐LDPE)フィルムを貼り合わせ、硬質PVC基材/表面改質層/Ni蒸着膜層/接着剤/L‐LDPEの構成からなる試験用の供試体を作製し、高温・高湿保存試験(40℃×90%RHおよび60℃×90%RH)を実施した。
以上の試験結果を表7〜9に示す。
【0035】
【表7】

【0036】
【表8】

【0037】
【表9】

【0038】
(Cr蒸着膜層が形成された硬質PVC基材の作製)
表面改質例1〜3の硬質PVC基材の表面改質層が形成された表面に、クロム(Cr)を蒸着して、金属被覆された硬質PVC基材を得た。また、対照例として、表面改質層が形成されていない硬質PVC基材(未処理)の表面に、クロム(Cr)を蒸着して、対照例に係る金属被覆された硬質PVC基材を作製した。初期密着性は、金属被覆された硬質PVC基材のCr蒸着面にセロハン粘着テープを貼付してクロスカット試験を実施した。
さらにCr蒸着面の上に接着剤を介して直鎖状低密度ポリエチレン(L‐LDPE)フィルムを貼り合わせ、硬質PVC基材/表面改質層/Cr蒸着膜層/接着剤/L‐LDPEの構成からなる試験用の供試体を作製し、高温・高湿保存試験(40℃×90%RH)を実施した。
以上の試験結果を表10〜11に示す。
【0039】
【表10】

【0040】
【表11】

【0041】
(まとめ)
以上の結果より、硬質PVC基材の表面に大気圧プラズマ処理で表面改質層を形成してから金属を蒸着することにより、引き剥がしに要する剥離強度の向上を確認することができた。したがって、金属への密着性(部分的剥離のない、膜全体への付着性)に優れる金属被覆された硬質塩化ビニル基材を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質塩化ビニルからなる基材の表面に表面改質層が設けられ、前記基材の表面改質層を介して、蒸着による金属薄膜層が被覆してなることを特徴とする金属被覆された硬質塩化ビニル基材。
【請求項2】
前記表面改質層が、官能基として少なくともカルボキシル基を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属被覆された硬質塩化ビニル基材。
【請求項3】
前記表面改質層が、窒素ガスを反応ガスとする大気圧プラズマ処理により形成されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の金属被覆された硬質塩化ビニル基材。
【請求項4】
前記金属薄膜層が、アルミニウム、銅、ニッケル、クロム、金、銀、白金、錫、亜鉛、金属酸化物、金属酸化物を含む合金からなる金属群の中から選択された1種以上を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の金属被覆された硬質塩化ビニル基材。
【請求項5】
前記基材が、樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂板の形態から選択されたいずれかであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の金属被覆された硬質塩化ビニル基材。

【公開番号】特開2012−206316(P2012−206316A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72306(P2011−72306)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】