説明

金属被覆ポリイミドフィルム、フレキシブル配線板およびそれらの製造方法

【課題】高い密着強度と、優れた耐折曲げ性を備えた金属被覆ポリイミドフィルムとその製造方法、及び接続不良を低減したフレキシブル配線板とその製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】ポリイミドフィルムの少なくとも一方の表面に接着剤を介することなく金属膜が設けられた金属化ポリイミドフィルムであって、該ポリイミドフィルムは、ビフェニルテトラカルボン酸とジアミン化合物によるイミド結合をポリイミド分子中に含有し、その表面のTD方向を薄膜X線回折(Cu Kα 入射角=0.1°)で測定したときに、2θ=10°〜12°に半価幅が1.5°以下のピーク及び、2θ=17°〜20°に半価幅が1.5°以下のピークを有し、膜厚35μmのとき、吸水率が1〜3%であり、かつTD方向の熱膨張係数が4ppm/℃〜6ppm/℃であることを特徴とする金属被覆ポリイミドフィルムにより提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属被覆ポリイミドフィルム、フレキシブル配線板およびそれらの製造方法に関し、さらに詳しくは、高い密着強度と、優れた耐折曲げ性を備えた金属被覆ポリイミドフィルムとその製造方法、及び接続不良を低減したフレキシブル配線板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路を形成してこれらの電子部品を搭載する基板は、硬い板状の「リジット配線板」と、フィルム状で柔軟性があり、自由に曲げることのできる「フレキシブル配線板」(以下、FPCと称す場合がある)がある。このなかで、FPCはその柔軟性を生かしてLCDドライバー用配線版、ハードディスクドライブ(HDD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)モジュール、携帯電話のヒンジ部のような屈曲性が要求される部分で使用できることから、その需要はますます増加してきている。
【0003】
ところで、こうしたフレキシブル配線板は、ポリイミドフィルムの表面に金属層が設けられた基材を用い、この金属層をサブトラクティブ法又はセミアディティブ法により配線加工して配線を得ている。因みに、サブトラクティブ法でフレキシブル配線板を得る場合は、まず、基材の金属層表面にレジスト層を設け、そのレジスト層の上に所定の配線パターを有するマスクを設け、その上から紫外線を照射して露光し、現像して金属層をエッチングするためのエッチングマスクを得、次いで露出している金属部をエッチングして除去し、次いで残存するレジスト層を除去し、水洗し、要すれば配線のリード端子部等に所定のめっきを施して得ている。
一方、セミアディティブ法の場合は、基材の金属表面にレジスト層を設け、そのレジスト層の上に所定の配線パターを有するマスクを設け、その上から紫外線を照射して露光し、現像して金属層表面に銅を電着させるためのめっき用マスクを得、開口部に露出している金属層を陰極として電気メッキして配線部を形成し、次にレジスト層を除去し、ソフトエッチングして配線部以外の前記基材表面の金属層を除去して配線部を完成させ、水洗し、要すれば、配線のリード端子部等に所定のめっきを施して得ている。
【0004】
現在、液晶ディスプレイ(以下、LCDと称す場合がある)、携帯電話、デジタルカメラ及び様々な電気機器は、薄型、小型、軽量化、低コスト化が求められており、それらに搭載される電子部品にも、当然ながら小型化への流れが進んでおり、用いられるフレキシブル配線板の配線ピッチは25μm以下が求められてきている。
この要求に応ずるべく、配線ピッチが25μmのフレキシブル配線板を得ようとすると、サブトラクティブ法で配線を設ける場合には、配線作成の際のサイドエッチングによる影響を無くして、その断面が矩形形状の良好な配線とするために、基材に設けられている前記金属層の厚さは20μm以下としなければならない。
このような基材を得るためには、縁性樹脂フィルム表面に乾式めっき法で金属薄膜を設け、その上に乾式めっき法で銅薄膜を設け、その上に湿式めっき法により銅層を設けて金属層を得る方法が推奨されている。というのは、この基材は、全ての構成膜をめっき法で設けるため、金属層の厚さを任意に制御できるからである。
【0005】
また、配線のファインピッチ化と共に、金属層と絶縁性フィルムとの密着性の向上も求められるようにもなってきている。これは、例えば、フレキシブル配線板に半導体素子を実装する際に、半導体素子表面の電極と配線のインナーリード部とをワイヤボンディングするが、この際のタクトタイムを短くするために、高温度で圧力を掛けてワイヤボンディングが行われるからである。このため、例えば125℃、湿度85%、96時間で行われるPressure Cooker Test(以下、PCT試験という)後の密着強度(PCT密着強度)を評価することが重要となってきている。
さらに、フレキシブル配線板には、寸法安定性やMIT耐折性が求められている。特に、電子機器内の使用部品やCPU(Central Processing Unit 中央演算処理装置)の多チャンネル化に伴って、25μmピッチ以下のファインピッチのCOF(Chip on Film)の実装には寸法安定性を高める必要があり、折り曲げて実装する際のリードの断線を避けるためには、MIT耐折性が要求される。特に、携帯電話をはじめとする小型電子機器、ノート型パソコンや大型液晶LCDに採用される金属化ポリイミドフィルムでは、MIT耐折性に優れることが強く要請されるようになった。
【0006】
ところで、ポリイミドフィルムとその表面に設けられた金属層との密着強度を改善することは、そうした基材が開発されて以来、絶えることのない検討課題であり、既に多くの試みが成されている。
因みに、本出願人は、例えば、初期密着力、耐熱密着力、PCT後の密着力が、ともに優れた2層めっき銅ポリイミド基板を提供するべく、主成分としてピロメリット酸二無水和物(PMDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を含む、もしくは、主成分としてピロメリット酸二無水和物(PMDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)からなる成分とビフェニルテトラカルボン酸二無水和物(BPDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)からなる成分を含むポリイミドフィルムを用い、このポリイミドフィルム表面をプラズマ処理、コロナ放電または湿式処理により改質して該表面に親水性官能基を導入し、この改質層の厚さを200Å以下とし、その上にスパッタリング法により、少なくともニッケル、クロム、及びこれらの合金からなる群から選ばれた金属でシード層を作成し、その上にめっき法により厚さ8μmの銅層を設けることを提案している(特許文献1 第1、2頁参照)。
この方法により基材のポリイミド表面と金属層との密着強度が改良され、初期密着強度、150℃で大気中に168時間放置した後の密着強度、121℃、湿度95%、2気圧での100時間のPCTテスト後の密着強度がいずれも400N/m以上となる(特許文献1 第5頁参照)。
【0007】
また、寸法安定性に優れ、ファインピッチ回路用基板、特にフィルム幅方向に狭ピッチに配線されるCOF(Chip on Film)用に好適なポリイミドフィルム及びそれを基材とした銅張積層体が提案されている(特許文献2)。ここには、ジアミン成分に4,4’−ジアミノベンズアニリドを特定量以上使用すること、寸法安定性の観点からポリイミドフィルムの熱膨張係数を規定し、熱膨張係数を金属の熱膨張係数にそろえることが望ましいことが記載されている。金属化ポリイミドフィルムを用いた回路基板には、寸法安定性だけでなく密着強度も要求される。しかしながら、特許文献2には、密着強度や折り曲げ性の指数であるMIT耐折性試験については、詳細な記述は含まれていない。
【0008】
これまでの金属被覆ポリイミド基板では、MIT耐折性試験(JIS C 6471−1995)において、チップオンフィルム(COF)の折り曲げ実装時に求められる耐屈曲性について、2000回以上を達成できるものはない。
また、リードが断線しにくい、MIT耐折性に対する耐久性に優れた半導体実装用の金属被覆ポリイミド基板も知られておらず、寸法安定性と密着性さらにMIT耐折性試験を兼ね備える金属被覆ポリイミド基板を安定して製造できる方法が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−318177号公報(第1、2、5頁参照)
【特許文献2】特開2009−67859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、初期密着強度およびPCT試験後の密着強度が向上し、かつ折り曲げ性の指数であるMIT耐折性試験が向上した金属被覆ポリイミドフィルム、接続不良を低減したフレキシブル配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく種々検討した結果、ビフェニルテトラカルボン酸とジアミン化合物によるイミド結合をポリイミド分子中に含有し、その表面のTD方向を薄膜X線回折測定(Cu Kα 入射角=0.1°)したときに、2θ=10°〜12°の位置及び、2θ=17°〜20°の位置にピークを有し、膜厚35μmのとき、吸水率が1〜3%であり、TD方向の熱膨張係数が特定の範囲にあるポリイミドフィルムを用いることで、この表面に直接金属膜を設けた金属被覆ポリイミドフィルムは、配線加工の際に接続不良を低減できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明の第1の発明に依れば、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の表面に接着剤を介することなく金属膜が設けられた金属化ポリイミドフィルムであって、
該ポリイミドフィルムは、ビフェニルテトラカルボン酸とジアミン化合物によるイミド結合をポリイミド分子中に含有し、その表面のTD方向を薄膜X線回折(Cu Kα 入射角=0.1°)で測定したときに、2θ=10°〜12°に半価幅が1.5°以下のピーク及び、2θ=17°〜20°に半価幅が1.5°以下のピークを有し、膜厚35μmのとき、吸水率が1〜3%であり、かつTD方向の熱膨張係数が4ppm/℃〜6ppm/℃であることを特徴とする金属被覆ポリイミドフィルムが提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明に依れば、第1の発明において、前記金属膜は、前記ポリイミドフィルムの表面に設けられたニッケル、クロム、又はこれらの合金から選択される少なくとも1種からなる金属薄膜と、該金属薄膜の表面に設けられた銅薄膜との2層で構成されていることを特徴とする金属被覆ポリイミドフィルムが提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明に依れば、第1または第2の発明において、前記金属膜は、前記金属薄膜及び銅薄膜の上に銅層が設けられた3層で構成されていることを特徴とする金属被覆ポリイミドフィルムが提供される。
【0015】
また、本発明の第4の発明に依れば、第2又は3の発明において、前記金属薄膜と銅薄膜は、いずれも乾式めっき法で形成されることを特徴とする金属被覆ポリイミドフィルムが提供される。
【0016】
また、本発明の第5の発明に依れば、第3の発明において、前記銅層は、湿式めっき法で形成されることを特徴とする金属化ポリイミドフィルムが提供される。
【0017】
また、本発明の第6の発明に依れば、第1〜5のいずれかの発明において、前記金属膜の厚さは、20μm以下であることを特徴とする金属被覆ポリイミドフィルムが提供される。
【0018】
また、本発明の第7の発明によれば、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の表面に接着剤を介することなく金属膜を設ける金属化ポリイミドフィルム製造方法であって、該ポリイミドフィルムとして、ビフェニルテトラカルボン酸とジアミン化合物によるイミド結合をポリイミド分子中に含有し、その表面のTD方向を薄膜X線回折測定(Cu Kα 入射角=0.1°)したときに、2θ=10°〜12°に半価幅が1.5°以下のピーク及び、2θ=18°〜20°に半価幅が1.5°以下のピークを有し、膜厚35μmのとき、吸水率が1〜3%であり、TD方向の熱膨張係数が4ppm/℃〜6ppm/℃であるものを用い、該金属膜は、前記ポリイミドフィルムの表面にニッケル、クロム、又はこれらの合金から選択される少なくとも1種からなる金属薄膜を乾式めっき法で設け、さらに、前記金属薄膜の表面に銅薄膜を乾式めっき法で設けることを特徴とする金属被覆ポリイミドフィルムの製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第8の発明に依れば、第7の発明において、前記金属膜は、前記ポリイミドフィルムの表面に設けた金属薄膜層、該金属薄膜層の表面に設けた銅薄膜、及び該銅薄膜の表面に設けた銅層から構成され、該銅層が湿式めっき法で設けられることを特徴とする金属被覆ポリイミドフィルムの製造方法が提供される。
また、本発明の第9の発明に依れば、第1〜6のいずれかの発明において、金属被覆ポリイミドフィルムを配線加工して得られるフレキシブル配線板が提供される。
【0020】
また、本発明の第10の発明に依れば、第7の発明の製造方法で得られた金属被覆ポリイミドフィルムを、セミアディティブ法またはサブトラクティブ法のいずれかで配線加工することを特徴とするフレキシブル配線板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の金属被覆ポリイミドフィルムは、初期密着強度、PCT試験後の密着強度およびMIT耐折性試験方法に定める折曲げ性が従来の金属被覆ポリイミドフィルムよりも優れるため、電子回路のファインピッチ化対応に好適なフレキシブル配線板の素材として用いることが出来る。本発明の金属被覆ポリイミドフィルムを用いて得られる本発明のフレキシブル配線板は、接続不良を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1に用いたポリイミドフィルムの薄膜X線回折のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の金属被覆ポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の表面に接着剤を介することなく金属膜が設けられた金属化ポリイミドフィルムであって、該ポリイミドフィルムは、ビフェニルテトラカルボン酸とジアミン化合物によるイミド結合をポリイミド分子中に含有し、その表面のTD方向を薄膜X線回折測定(Cu Kα 入射角=0.1°)したときに、2θ=10°〜12°に半価幅が1.5°以下のピーク、及び2θ=17°〜20°に半価幅が1.5°以下のピークを有し、膜厚35μmのとき、吸水率が1〜3%であり、TD方向の熱膨張係数が4ppm/℃〜6ppm/℃であることを特徴とする。
本発明の金属被覆ポリイミドフィルムは、このような特徴があるため初期密着強度が900N/m以上、PCT試験後に密着強度が600N/m以上、且つMIT耐折性試験方法に定める折曲げ性が2000〜3000回を示すため、この金属被覆ポリイミドフィルムをセミアディティブ法またはサブトラクティブ法で配線加工してフレキシブル配線板とすると、インナーリート部に生じたリードとポリイミドフィルムの接続不良の低減が可能となる。
【0024】
1)ポリイミドフィルム
本発明に使用するポリイミドフィルムは、ビフェニルテトラカルボン酸とジアミン化合物によるイミド結合をポリイミド分子中に含有しており、その表面をTD方向(ポリイミドフィルムの幅方向)に薄膜X線回折測定(Cu Kα 入射角=0.1°)したときに、2θ=10°〜12°に半価幅が1.5°以下のピーク及び、2θ=17°〜20°に半価幅が1.5°以下のピークを有し、その熱膨張係数が4ppm/℃〜6ppm/℃である。
なお、本発明に用いるポリイミドフィルムは、単にX線回折測定(Cu Kα)したのでは、2θ=10°〜12°及び17°〜20°に特定のピークを見出すことは難しいので表面状態の確認が容易ではなく、薄膜X線回折測定で入射角を0.1°として測定して初めてピークが確認でき、表面状態を確認することができる。ポリイミドフィルムの中には、2θ=2°〜10°に半価幅1.5°以下のピークを有するものもあるが、本発明に用いるポリイミドフィルムは、この位置に半価幅1.5°以下のピークがない。
【0025】
本発明の金属被覆ポリイミドフィルムは、前記特定のポリイミドフィルムの表面に乾式めっき法で金属薄膜と銅薄膜とを設けた後、湿式めっき法で所定の厚さの銅層を設けている。
湿式めっき法、特に電気メッキ法で銅層を設けると、銅層内には電着応力として引っ張り応力が形成される。この引っ張り応力が、金属層とポリイミド層との剥離の原因となる。
湿式めっき法で銅層を設ける際には、ポリイミドフィルムはめっき浴に浸漬される。ポリイミドフィルムは吸水性が良く、めっき浴に浸漬されると水を吸水して膨張する。そして、めっき終了後は加熱乾燥されるため、収縮してめっき処理前の状態に戻る。したがって、ポリイミドフィルムの吸水による膨張速度が適切であれば、適度に膨張したポリイミドフィルムの表面に銅めっき層を完成させ、その後の加熱乾燥することにより、ポリイミドフィルムが収縮し、銅めっき層を引き延ばすことができ、銅層内に内部応力として残留する引っ張り応力を低減することが可能となる。
【0026】
また、本発明においてはポリイミドフィルムの吸水による膨張速度と共に、吸水率についても考慮することが必要である。本発明では、吸水率が1〜3%のポリイミドフィルムを用いるが、吸水率が1%未満になると吸水によるポリイミドフィルムの膨張量が少なくなり、本発明の目的が達成されない。吸水率が3%を超えるとポリイミドフィルムの吸水による膨張量が大きくなり過ぎて、加熱乾燥した場合に銅層に内部応力として圧縮応力を発生させ、十分な初期密着強度やPCT密着強度が得られない場合がある。
ポリイミドフィルム表面に直接金属層を設けた場合、金属層とポリイミドフィルムの熱膨張係数差が大きければ大きい程、ボンディングワイヤー時の高温加熱により幅の狭い配線部とポリイミドフィルムとの接合面に負荷がかかり、剥がれやすくなる。
【0027】
ポリイミドフィルムが前記したような酸素透過率や吸水性を持つ理由は、以下のように考えられる。
一般に、ポリイミドフィルムは、その耐熱性と成形方法により、結晶化しやすいことが知られている。結晶化したポリイミドフィルムでは、ポリイミド分子が整列し、該分子と分子との間を水分が出入りしやすくなる。すなわち、適度に結晶化したポリイミドでは、膜厚35μmのポリイミドフィルムを用いて1013hPa下で測定して得た酸素透過率の値を、300〜500cm/m/24時間とでき、吸水率を1〜3%とすることができる。
ポリイミドフィルムが結晶化しているかどうかを確認するには、ポリイミドフィルム表面を薄膜X線回折で測定すればよい。結晶化している場合、その結晶化度により異なるが、通常複数のピークがチャート上で確認される。本発明で、2θ=10°〜12°に半価幅が1.5°以下のピーク及び、2θ=17°〜20°に半価幅が1.5°以下のピークを有するものを用いると、ポリイミドフィルムが適度に結晶化しているので、適度な吸水率を有するポリイミドフィルムになる。
上記特性のポリイミドフィルムは、その結晶化度により、バルクとして弾性が高く、金属被膜ポリイミドフィルムの折り曲げ性の向上に寄与する。
また、TD方向の熱膨張係数が4ppm/℃〜6ppm/℃であるため、配線加工して得られるフレキシブル配線板のインナーリード部に生じたリードとポリイミドフィルムとの接合不良の低減に寄与する。
【0028】
本発明に用いるポリイミドフィルムとしては、前記特性を有すれば、それ以外に特に限定されるものではないが、ビフェニルテトラカルボン酸を主成分とするポリイミドフィルムを用いることが好ましい。ビフェニルテトラカルボン酸を主成分とするポリイミドフィルムは、耐熱性、寸法安定性に優れるためである。
【0029】
本発明に用いるポリイミドフィルムの厚みは特に限定されないが、屈曲げ性の確保や金属膜の成膜時の歩留りを考慮すると、25〜50μmであることが好ましい。
【0030】
また、摺動性、熱伝導性等のフィルムの諸特性を改善する目的でフィラーを添加して用いることもできる。この場合、フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としてはシリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
フィラーの粒子径は、改質すべきフィルム特性と添加するフィラーの種類によって決定されるため、特に限定されるものではないが、一般的には平均粒径が0.05〜100μm、好ましくは0.1〜75μm、更に好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.1〜25μmである。粒子径がこの範囲を下回ると改質効果が現れにくくなり、この範囲を上回ると表面性を大きく損なったり、機械的特性が大きく低下したりする可能性がある。また、フィラーの添加量も改質すべきフィルム特性やフィラー粒子径などにより決定されるため特に限定されるものではない。一般的にフィラーの添加量はポリイミド100重量部に対して0.01〜100重量部、好ましくは0.01〜90重量部、更に好ましくは0.02〜80重量部である。フィラー添加量がこの範囲を下回るとフィラーによる改質効果が現れにくく、この範囲を上回るとフィルムの機械的特性が大きく損なわれる可能性がある。
このようなポリイミドフィルムの例として、例えば、宇部興産株式会社から市販されているユーピレックス35SGA V1(登録商標)が挙げられる。
【0031】
次に、ポリイミドフィルムの製造方法を例示する。
(i)前駆体であるポリアミック酸の製造
ポリアミック酸を得る方法としてはあらゆる公知の方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。代表的な重合方法として次のような(a)〜(e)の方法が挙げられる。すなわち、
(a)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これに、等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を添加して重合させる。
(b)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、最終的に芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を添加して重合させる。
(c)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いて、最終的に芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように、芳香族テトラカルボン酸二無水物を添加して重合させる。
(d)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を添加して重合させる。
(e)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する。
ポリアミック酸を得るために,これらの(a)〜(e)の何れかの方法を用いても良いし、部分的に組み合わせて用いても良い。いずれの方法で得られたポリアミック酸も本発明に用いるポリイミドフィルムの原料として用いることができる。
【0032】
また、前記酸二水物としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、およびそれらの類似物を含み、これらを単独または、任意の割合の混合物が好ましく用い得る。
これら酸二無水物の中で、特にピロメリット酸二無水物及び/又は3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物及び/又は4,4’−オキシフタル酸二無水物及び/又は3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の使用が好ましく、さらには、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含有する酸二無水物の混合物の使用がより好ましい。
【0033】
前記芳香族ジアミン化合物としては、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4−ジアミノベンゾフェノン及びそれらの類似物などが挙げられる。
【0034】
本発明に用いるポリイミドフィルム用のポリアミック酸は、上記の範囲の中で芳香族酸テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの種類、配合比を選定して重合させることにより得られる。
ポリアミック酸を合成するための好ましい溶媒は、ポリアミック酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどが好ましく、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましい。
【0035】
(ii)ポリアミック酸からポリイミドへの変換
このようにして得られたポリアミック酸は、次にポリイミドへの変換する。ポリアミック酸を含む有機溶液は、ガラス板、アルミ箔、金属製エンドレスベルト、金属製ドラムなどの支持体上にキャストして樹脂膜を得る。この際、支持体上で加熱することにより、部分的に硬化及び/または乾燥させるが、このとき熱風や遠赤外線輻射熱を与えればよい。または、支持体そのものを加熱してもよい。さらには、熱風、遠赤外線放射熱を与える手法と、支持体そのものを加熱する手法を組み合わせることができる。
加熱によりキャストされた樹脂膜は、自己支持性のある半硬化フィルム、いわゆるゲルフィルムとなり、支持体より剥離される。このゲルフィルムは、ポリアミド酸からポリイミドへの硬化の中間段階にある、すなわち部分的にイミド化されて自己支持性を有し、溶媒等の残揮発成分を有するものである。
次に、前記ゲルフィルムを加熱して残存する溶媒を除去するために乾燥させ、これとともに硬化(イミド化)を完了させるが、乾燥および硬化時のゲルフィルムの収縮を回避するために、ゲルフィルムの端部をピンまたはテンタークリップ等でテンターフレームに把持しつつ、加熱炉へと搬送し、200〜400℃で加熱してポリイミドフィルムを得る。
【0036】
2)金属被覆ポリイミドフィルム
このようにして得られた特定のポリイミドフィルムは、次のようにして金属被覆ポリイミドフィルムとする。
表面にニッケル、クロム、及びこれらの合金から選択される少なくとも1種からなる金属薄膜を乾式めっき法で設け、その上に銅薄膜を乾式めっき法で設ける。金属被覆ポリイミドフィルムの使用方法、即ち、本発明のフレキシブル配線板の製造方法に応じて、銅薄膜の表面に所定の厚さの銅層を湿式めっき法で設けてもよい。
【0037】
a)金属薄膜
金属薄膜は、ポリイミドフィルムと金属膜との密着性や耐熱性などの信頼性を確保するために、設けられるものである。したがって、前記金属薄膜の材質は、ポリイミドフィルムと銅層との密着力を高くするために、ニッケル、クロム、又はこれらの合金の中から選ばれる何れかとすればよいが、密着強度や配線作成時のエッチング容易性からニッケル・クロム合金とすることが好ましい。また、ニッケル・クロム合金の濃度勾配を設けるためにクロム濃度の異なる複数のニッケル・クロム合金層で金属薄膜を構成しても良い。これらの金属で構成すれば、金属化ポリイミドフィルムの耐食性、耐マイグレーション性が向上する。
また、前記金属薄膜の耐食性をより高くするために、前記金属にバナジウム、チタン、モリブデン、コバルト等を添加しても良い。
また、乾式めっきを行なう前にポリイミドフィルムと前記金属薄膜の密着性を改善するため、ポリイミドフィルム表面をコロナ放電やイオン照射などで表面処理した後、酸素ガス雰囲気下に、紫外線照射処理をすると好ましい。これらの処理条件は、特に限定されるものではなく、通常の金属化ポリイミドフィルムの製造方法に適用されている条件でよい。
前記金属薄膜の膜厚は、3〜50nmとすることが好ましい。3nm未満では、上記金属化ポリイミドフィルムの金属層をエッチングして配線を作成すると、エッチング液が前記金属薄膜を浸食し、ポリイミドフィルムと前記金属薄膜との間に染み込み、配線が浮いてしまう場合があり好ましくない。一方、50nmを超えると、エッチングして配線を作成する場合、金属薄膜が完全に除去されず、残渣として配線間に残り、配線間の絶縁不良を発生させる虞が高くなる。
前記金属薄膜は、乾式めっき法で成膜することか好ましい。乾式めっき法には、スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法、真空蒸着法、CVD法等があり、いずれを用いても良いが、工業的にはマグネトロンスパッタ法が用いられる。生産効率が高いからである。
【0038】
b)銅薄膜
本発明において銅薄膜は、乾式めっき法で得たものが好ましい。採用する乾式めっき法は、前記したスパッタリング法、マグネトロンスパッタ法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法、真空蒸着法、CVD法等がいずれも用いうる。前記金属薄膜をマグネトロンスパッタリング法で成膜した後、銅薄膜を蒸着法で設けることも可能である。すなわち、前記金属薄膜と銅薄膜とを同じ方法で乾式めっきしなければならない理由はない。
銅薄膜を設ける理由は、前記金属薄膜の上に銅層を電気めっき法により直接設けようとすると、通電抵抗が高く、電気めっきの電流密度が不安定になるためである。銅薄膜を設けることにより通電抵抗を下げ、電気めっき時の電流密度の安定化を図ることができる。この銅薄膜の厚さは10nm〜1μmとすることが好ましい。あまりに薄いと電気めっき時の通電抵抗を十分下げることができず、あまりに厚いと時間が掛かりすぎ、生産性を悪化させ、経済性を損なうからである。
【0039】
c)銅層
本発明において銅層の厚みは、1.0〜20.0μmとすることが好ましい。1.0μm未満であると、配線を形成したときに十分な導電性が得られない場合があり、20μmを越えると銅層の内部応力が大きくなりすぎるからである。
前記銅層は湿式めっき法で設けたものが好ましい。乾式めっき法では所定の厚さまでめっきするには時間がかかりすぎ、生産性を悪化させ、経済性を損なうからである。湿式めっき法には、電気めっき法と無電解めっき法とがあるが、何れかを用いても良く、組み合わせて用いても良いが、電気めっき法が簡便で、且つ得られる銅層が緻密なものとなるので好ましい。なお、めっき条件は、公知の条件で行われる。
電気めっき法で銅層を設ける場合、硫酸浴を用いると適度な引張り応力を持った電着銅層が得られ、ポリイミドフィルムの膨張・伸縮による内部応力のバランスが取りやすく、より好ましい。
電気めっき法により銅層を得る場合、該銅層の内部応力は、ポリイミドフィルムが乾燥する前の状態で、5〜30MPaの引張り応力であることが好ましい。5MPa未満であると、ポリイミドフィルムを乾燥させた際にポリイミドフィルム伸縮効果が大きくなりすぎ、30MPaを越える引張り応力であると、ポリイミドフィルムを乾燥させた場合のポリイミドフィルムの伸縮効果が小さくなりすぎるからである。
硫酸浴による電気銅めっきは、通常の条件で行なえばよい。めっき浴としては、一般的な電気銅めっきに使用される市販の硫酸銅めっき浴を用いることができる。また、陰極電流密度は、めっき槽の平均陰極電流密度を1〜3A/dmとすることが好ましい。陰極電流密度の平均陰極電流密度が1A/dm未満では、得られる銅層の硬度が高くなり、折れ曲げ性を確保することが困難となり、得られた金属化ポリイミドフィルムを用いてフレキシブル配線板を得ても、得られたフレキシブル配線板はフレキシブル性において良好なものとならないからである。一方、平均陰極電流密度が3A/dmを超えると、得られる銅層内で発生する残留応力にばらつきが生ずるからである。
硫酸浴を用いた電気銅めっき装置は、乾式めっき工程と同様に、ロール状のポリイミドフィルムを、電気銅めっき装置の入口側に設置した巻出機から巻き出し、搬送しながらめっき槽を順次通過させて巻取機で巻き取りながら行なうロール・ツゥ・ロール方式の電気めっき装置を用いることが生産効率を上げ、製造コストを低減するために好ましい。この場合、フィルムの搬送速度は、50〜150m/hに調整することが好ましい。搬送速度が、50m/h未満であると、生産性が低くなり過ぎ、150m/hを越えると、通電電流量を大きくしなければならなくなり、大規模の電源装置を用いる必要があり、設備が高価になるという問題がある。
このようにして得られた本発明の金属化ポリイミドフィルムは、JIS C−6471−1995−8.1に基づく引き剥がし強さの評価で、初期密着強度が、900N/m以上となり、且つ温度125℃、湿度85%、96hrのPCT後の密着強度が600N/m以上、且つMIT耐折性試験(JIS C 6471−1995−8.2)に定める折曲げ性が2000〜3000回を有する金属被覆ポリイミドフィルムとなる。
【0040】
3)フレキシブル配線板
本発明のフレキシブル配線板は、上記の金属被覆ポリイミドフィルムを用い、サブトラクティブ法またはセミアディティブ法で配線加工したものである。
例えば、サブトラクティブ法の場合には、本発明の金属被覆ポリイミドフィルムの金属膜の表面にレジスト層を設け、その上に所定のパターンを有する露光マスクを設け、その上から紫外線を照射して露光し、現像して配線部を得るためのエッチングマスクを得る。次いで、露出している金属膜をエッチング除去し、次いで残存するエッチングマスクを除去し、水洗し、必要箇所に所望のめっきを施して本発明のフレキシブル配線板を得る。
また、例えば、セミアディティブ法でフレキシブル配線板を得るには、本発明の金属被覆ポリイミドフィルムの金属膜表面にレジスト層を設け、その上に所定の配線パターンを有するマスクを設け、紫外線を照射して露光し、現像して配線が開口部となるめっきマスクを得、電気銅めっき法により開口部に露出する金属膜の表面上に銅を析出させて配線を形成し、次いでめっきマスクを除去する。その後、ソフトエッチングして配線以外の金属層を除去して配線の絶縁性を確保し、水洗し、必要箇所に所望のめっきを施して本発明のフレキシブル配線板を得る。
なお、セミアディティブ法でフレキシブル配線板を得る場合に用いる金属被覆ポリイミドフィルムは、金属膜が金属薄膜と銅薄膜の2層で構成されても、金属薄膜と銅薄膜と銅層の3層で構成されても、いずれでも良い。電気銅めっき法で銅を析出させて配線を形成させていることから、析出した配線は、本発明の金属被覆ポリイミドフィルムの銅層に相当する。
したがって、本発明のフレキシブル配線板の配線構造は、いずれの方法により作成しても、ポリイミドフィルム表面より金属薄膜、銅薄膜、銅層がこの順に積層された構造になっている。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例で用いたポリイミドフィルムの薄膜X線回折の測定条件、吸水率、熱膨張係数、および得られた金属被覆ポリイミドフィルムの密着強度の測定方法、PCT試験、MIT耐折性の測定方法の条件は、以下の通りである。
(1)薄膜X線回折測定:回折装置として、(株)リガク製 水平型X線回折装置「SmartLab」を用い、TD方向へ入射角(ω)を0.1°、サンプリング幅0.1°、測定角度2θを、2°〜60°とし、走査速度を4°/分で測定した。
(2)吸水率:ASTM D570に定められた、20℃、24hr浸漬法(Immergion)により、求めた。
(3)熱膨張係数:TMA(熱機械分析)装置を用いて、50°〜200°の範囲における、TD方向について、引張法により求めた。
(4)密着強度:線幅1mm、長さ50mmの配線パターンをサブトラクティブ法で形成し、これを用いてJIS C−6471−1995−8.1に準ずる、引き剥がし法により求めた。
(5)PCT試験:温度125℃、湿度85%、96hrの条件で測定した。
(6)MIT耐折性:JIS C 6471−1995−8.2に準ずるMIT耐折性試験方法により、R=0.38、荷重500g、線幅1mmの条件で折れ曲げに至るまでの折曲げ回数を求めた。
【0042】
(実施例1)
まず、吸水率が1.8%、熱膨張係数がTD方向:4ppm/℃でかつ、薄膜X線回折の結果、図1に示されるように、2θ=11°に半価幅が1.5°以下のピーク及び、2θ=18°に半価幅が1.5°以下のピークが見られる厚さ35μmのビフェニルテトラカルボン酸を主成分とする長尺のポリイミドフィルム((株)宇部興産製、ユーピレックスSGA V1)を用意した。
このポリイミドフィルムの片面に、巻き出し機、スパッタリング装置、巻き取り機から構成されるスパッタリング設備を用いて直流スパッタリング法により、平均厚さ230Åの20質量%Crのクロム−ニッケル合金層を金属薄膜として形成した。さらに、同様にして、金属薄膜の上に平均厚さ1000Åの銅薄膜を形成した。
次に、銅薄膜の上に電気銅めっき法により、厚さ8μmの銅層を設けて金属化ポリイミドフィルムを得た。用いた電気めっき浴は、銅濃度23g/lの硫酸銅めっき浴であり、めっき時の浴温は27℃とした。また、めっき槽は、複数のめっき槽を連結させた複数構造槽とし、巻き出し機と巻き取り機とにより片面に金属層が設けられたポリイミドフィルムが連続的に各槽に浸漬されるように搬送しながら電気めっきを行なった。搬送速度は、75m/hとし、めっき槽の平均陰極電流密度を1.0〜2.5A/dmに調整して銅めっきを施した。
得られた金属被覆ポリイミドフィルムの初期密着強度を求めたところ、958N/mであり、且つ、PCT試験後の密着強度は692N/mであった。ちなみに、150℃で168時間保持した後の密着強度は546N/m、MIT耐折性は、2850回であった。
次に、この金属被覆ポリイミドフィルムを用いて配線間隔35μm、全配線幅が15000μmのCOF(Chip on film)をサブトラクティブ法で作成し、これにICチップを搭載し、ICチップ表面の電極と配線のリード部とをワイヤボンディング装置を用いて400℃にて0.5秒間のボンディング処理条件でワイヤボンディングした。このときにインナーリート部に生じたリードとポリイミドフィルムとの接合不良の割合は0.0001%であった。
【0043】
(実施例2)
実施例1で得た金属被覆ポリイミドフィルムを用い、配線間隔を25μmとした以外は実施例1と同様にしてフレキシブル配線板を作成し、実施例1と同様にして接合不良の割合を求めた。インナーリードとポリイミドフィルムと接合不良の割合は0.005%であり、ファインピッチにおいても十分な寸法信頼性があることがわかった。
【0044】
(比較例1)
ポリイミドフィルムとして、吸水率が1.7%、熱膨張係数が、TD方向:16ppm/℃のビフェニルテトラカルボン酸を主成分とする厚さ38μmポリイミドフィルム((株)東レデュポン製、カプトン150EN )を用いた以外は、実施例1と同様にして、金属化ポリイミドフィルムを得た。なお、カプトン150ENを薄膜X線回折したところ2θで10°と14°に大きなピークが確認された。
得られた金属化ポリイミドフィルムについて、実施例1と同様にして評価したところ、初期密着強度が725N/mであり、且つ、PCT密着強度が、412N/mであった。ちなみに、150℃で168時間保持した後の密着強度は423N/mで、MIT耐折性は、113回であった。
次に、上記金属化ポリイミドフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして配線幅35μmのフレキシブル配線板を作成し、実施例1と同様にして接合不良の割合を求めた。配線のインナーリード部に生じた接合不良の割合は0.001%であり、実施例1と比較し悪い値となり、配線幅35μmにおいても十分な信頼性を有するものは得られなかった。
【0045】
(比較例2)
配線間隔を25μmとした以外は比較例1と同様にしてフレキシブル配線板を作成し、実施例1と同様にして接合不良の割合を求めた。配線のインナーリード部に生じた接合不良の割合は0.1%であり、ファインピッチ化した場合には、十分な信頼性を有するものが得られなかった。
【0046】
(比較例3)
ポリイミドフィルムとして、吸水率が、1.4%、熱膨張係数が、TD方向:14ppm/℃のビフェニルテトラカルボン酸を主成分とする厚さ35μmポリイミドフィルム(製品名、カネカ製 アピカル35FP)を用いた以外は、実施例1と同様にして、金属化ポリイミドフィルムを得た。なお、ユーピレックス35SGAを薄膜X線回折したところ、2θ=14°の位置に半価幅1.0°の大きなピークが確認された。
得られた金属化ポリイミドフィルムについて、実施例1と同様にして評価したところ、初期密着強度は928N/mであり、且つ、PCT試験後の密着強度は692N/mであった。ちなみに、150℃で168時間保持した後の密着強度は446N/m、MIT耐折性は、150回であった。
次に、上記金属化ポリイミドフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして配線幅35μmのフレキシブル配線板を作成し、実施例1と同様にして接合不良の割合を求めた。配線のインナーリードに生じた接合不良の割合は0.001%であり、実施例と比較し悪い値となった。
【0047】
(比較例4)
配線間隔を25μmとした以外は比較例3と同様にしてフレキシブル配線板を作成し、実施例1と同様にして接合不良の割合を求めた。配線の電極部に生じた接合不良の割合は0.1%であり、ファインピッチ化した場合には、信頼性を有するものが得られないことがわかった。
以上のことから分かるように、本発明の金属被覆ポリイミドフィルムは、初期密着強度及びPCT試験後のPCT密着力が極めて高いため、これを用いてファインピッチのフレキシブル配線板を作成すると、該配線板へのICの実装時に400℃以上の温度で加圧してワイヤボンディングを行っても、リードがポリイミドフィルムから剥がれることなく、フレキシブル配線板として極めて信頼性の高いものが得られる。これに対して、本発明の条件に合わない金属被覆ポリイミドフィルムを用いて得たフレキシブル配線板では、ファインピッチどころか配線幅35μmでも信頼性の高いフレキシブル配線板が得られないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の金属被覆ポリイミドフィルムを用いてファインピッチのフレキシブル配線板を作成すると、該配線板へのICの実装時に400℃以上の温度で加圧してワイヤボンディングを行っても、リードがポリイミドフィルムから剥がれることがなく、フレキシブル配線板として極めて信頼性の高いものが得られる。したがって、本発明は近時最も求められているフレキシブル配線板製造用の基材として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドフィルムの少なくとも一方の表面に接着剤を介することなく金属膜が設けられた金属化ポリイミドフィルムであって、
該ポリイミドフィルムは、ビフェニルテトラカルボン酸とジアミン化合物によるイミド結合をポリイミド分子中に含有し、その表面のTD方向を薄膜X線回折(Cu Kα 入射角=0.1°)で測定したときに、2θ=10°〜12°に半価幅が1.5°以下のピーク及び、2θ=17°〜20°に半価幅が1.5°以下のピークを有し、膜厚35μmのとき、吸水率が1〜3%であり、かつTD方向の熱膨張係数が4ppm/℃〜6ppm/℃であることを特徴とする金属被覆ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記金属膜は、前記ポリイミドフィルムの表面に設けられたニッケル、クロム、又はこれらの合金から選択される少なくとも1種からなる金属薄膜と、該金属薄膜の表面に設けられた銅薄膜との2層で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属被覆ポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記金属膜は、前記金属薄膜及び銅薄膜の上に銅層が設けられた3層で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属被覆ポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記金属薄膜と銅薄膜は、いずれも乾式めっき法で形成されることを特徴とする請求項2または3記載の金属被覆ポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記銅層は、湿式めっき法で形成されることを特徴とする請求項3記載の金属化ポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記金属膜の厚さは、20μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属被覆ポリイミドフィルム。
【請求項7】
ポリイミドフィルムの少なくとも一方の表面に接着剤を介することなく金属膜を設ける金属化ポリイミドフィルム製造方法であって、
該ポリイミドフィルムとして、ビフェニルテトラカルボン酸とジアミン化合物によるイミド結合をポリイミド分子中に含有し、その表面のTD方向を薄膜X線回折測定(Cu Kα 入射角=0.1°)したときに、2θ=10°〜12°に半価幅が1.5°以下のピーク及び、2θ=18°〜20°に半価幅が1.5°以下のピークを有し、膜厚35μmのとき、吸水率が1〜3%であり、TD方向の熱膨張係数が4ppm/℃〜6ppm/℃であるものを用い、
該金属膜は、前記ポリイミドフィルムの表面にニッケル、クロム、又はこれらの合金から選択される少なくとも1種からなる金属薄膜を乾式めっき法で設け、さらに、前記金属薄膜の表面に銅薄膜を乾式めっき法で設けることを特徴とする金属被覆ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記金属膜は、前記ポリイミドフィルムの表面に設けた金属薄膜層、該金属薄膜層の表面に設けた銅薄膜、及び該銅薄膜の表面に設けた銅層から構成され、該銅層が湿式めっき法で設けられることを特徴とする請求項7に記載の金属被覆ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の金属被覆ポリイミドフィルムを配線加工して得られるフレキシブル配線板。
【請求項10】
請求項7または8に記載の製造方法で得られた金属被覆ポリイミドフィルムを、セミアディティブ法またはサブトラクティブ法のいずれかで配線加工することを特徴とするフレキシブル配線板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−204763(P2012−204763A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70180(P2011−70180)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】