説明

金属調化粧シートの製造方法及び当該金属調化粧シートを用いたインサート成形体の製造方法

【課題】縁部での剥離することを防止できる金属調化粧シートの製造方法を提供する。
【解決手段】透明な熱可塑性樹脂フィルム11の一方の面上に金属薄膜層12を形成する。インサート成形体1の表面に非金属調の意匠を表示する領域と縁部領域Kとの金属薄膜層12を除去することにより金属薄膜層12の未加工部17を形成する。金属薄膜層12及び未加工部17上にインク層14を積層する。以上の工程を備えることを特徴とする金属調化粧シートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品等に用いられる金属調化粧シートの製造方法及び当該金属調化粧シートを用いたインサート成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家電製品に用いられる熱可塑性樹脂成形体を金属調化粧シートで被覆した成形体が知られている。前記成形体は、前記金属調化粧シートを予め金型内に配置した状態で、前記熱可塑性樹脂成形体を形成する熱可塑性樹脂を該金型内に射出するインサート成形法により製造される。
【0003】
前記成形体は、家電製品の表示部、タッチパネル部等に用いられることから、前記金属調化粧シートは、裏面から、一部に文字・図形等の意匠として非金属調のインクが印刷され、さらに前記文字・図形等以外の全体的な部分には、金属調のインクが蒸着あるいはスパッタされている。
【0004】
前記金属調化粧シートを製造する方法としては、図4に示すように、透明な熱可塑性樹脂フィルム10の一方の面上に、表面に表示する意匠130を印刷し、次に金属薄膜層112を蒸着し、さらに金属薄膜層が透けないようにインク層114を印刷し、最後に熱可塑性樹脂成形体120と接着させるためのバインダ層115を印刷する工程とを備えるものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−288720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図4に示すように、前記インサート成形法により前記金属調化粧シート110で前記熱可塑性樹脂成形体120を被覆した場合、前記金属調化粧シート110の縁部領域Kにおいて、前記金属調化粧シート110の金属薄膜層112の部分と前記熱可塑性樹脂成形体120とが接触するおそれが生じる。
【0007】
この場合、当該金属薄膜層120の部分は、前記熱可塑性樹脂成形体と密着しにくく、また、漂白剤などのアルカリ性溶液が付着すると溶解しやすいことから、当該縁部領域Kにおいて熱可塑性樹脂成形体120から金属調化粧シート110が剥離して、製品の外観品質が損なわれることがあるという不都合がある。
【0008】
本発明は、かかる不都合を解消して、従来どおりインサート成形体の表面に金属調の意匠に加え非金属調の意匠を表示することができ、金属薄膜層が透けず、かつ、縁部での剥離を防止できる金属調化粧シートの製造方法及びインサート成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明の金属調化粧シートの製造方法は、インサート成形により熱可塑性樹脂成形体と一体に成形される金属調化粧シートの製造方法であって、透明な熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に金属薄膜層を形成する工程と、前記インサート成形体の表面に非金属調の意匠を表示させる領域と前記熱可塑性樹脂成形体と接触する接触面の縁部領域との前記金属薄膜層を除去することにより前記金属薄膜層の未加工部を形成する工程と、前記金属薄膜層と未加工部上の一部または全部とにインク層を積層する工程とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の金属調化粧シートの製造方法では、透明な熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に金属薄膜層を形成する。そして、前記金属薄膜層のうち、前記インサート成形体の表面に非金属調の意匠を表示させる領域と前記熱可塑性樹脂成形体と接触する接触面の縁部領域との前記金属薄膜層を除去する。これにより、透明な熱可塑性樹脂フィルムの面上には、金属薄膜層と、金属薄膜層が除去された未加工部とが存在することになる。さらに、本発明の金属調化粧シートの製造方法では、前記金属薄膜層と未加工部上にインク層が積層される。
【0011】
したがって、本発明の金属調化粧シートの製造方法では、金属薄膜層の上には、金属薄膜層が透けないようにインク層が形成されると共に、未加工部を形成するインサート成形体の表面に非金属調の意匠を表示させる領域と前記熱可塑性樹脂成形体と接触する接触面の縁部領域にインクが入り込みインク層が形成される。
【0012】
この結果、本発明の金属調化粧シートの製造方法によれば、金属薄膜層が存在しない未加工部を設けその上からインク層を形成するので、インサート成形体の表面に非金属調の異なる意匠を表示すると共に、金属薄膜層が透けないようにすることができる。
【0013】
また、金属調化粧シートの前記熱可塑性樹脂成形体と接触する接触面の縁部領域では、未加工部に入り込んだインク層によって金属薄膜層が露出されないこととなるため、縁部での剥離を防止することができる。
【0014】
なお、未加工部の一部、具体的には、非金属調意匠を表示させる領域の一部と縁部領域とにインク層を積層し、すなわち、未加工部のうちの非金属調の意匠を表示させる領域の一部にインク層を積層しないことにより、非金属調の意匠の一態様として透明窓部を設けることもできる。
【0015】
また、かかる目的を達成するために、本発明のインサート成形体の製造方法は、前記金属調化粧シートの製造方法により製造された金属調化粧シートと熱可塑性樹脂成形体とが一体的に成形されるインサート成形体の製造方法であって、前記金属調化粧シートにバインダ層を積層する工程と、前記金属調化粧シートを、前記熱可塑性樹脂成形体の当該前記金属調化粧シートと対向する面から外周に沿って曲げるフォーミング加工をする工程と、前記金属調化粧シートを前記縁部に沿って型抜きする工程と、キャビティを形成可能な金型内に、前記フォーミング加工をした金属調化粧シートを、前記積層された面上に前記熱可塑性樹脂成形体が形成可能なように配置する工程と、前記キャビティ内に、前記熱可塑性樹脂成形体を形成する熱可塑性樹脂を射出する工程とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明のインサート成形体の製造方法では、本発明の金属調化粧シートの製造方法により、透明な熱可塑性樹脂フィルムの金属薄膜層の上に、金属薄膜層が透けないようにインク層が形成されると共に、未加工部を形成するインサート成形体の表面に非金属調の意匠を表示させる領域と前記熱可塑性樹脂成形体と接触する接触面の縁部領域とにインクが入り込みインク層が形成される。そして、熱可塑性樹脂フィルムのインク層にバインダ層を積層したうえで、前記熱可塑性樹脂成形体の外周に沿って曲げるフォーミング加工をし、さらに前記縁部に沿って型抜きする。
【0017】
なお、本発明の工程は順不同であり、例えば、前記型抜きをしてからフォーミング加工をしてもよい。
【0018】
そして、本発明のインサート成形体の製造方法では、この型抜きされた金属調化粧シートに対して熱可塑性樹脂を射出してインサート成形体を製造する。
【0019】
この結果、本発明のインサート成形体の製造方法によれば、インサート成形体の表面に意匠を表示すると共に、金属薄膜層が透けないようにすることができる。そして、本発明のインサート成形体の製造方法によれば、金属調化粧シートの前記熱可塑性樹脂成形体と接触する接触面の縁部に、金属薄膜層が露出されることがないため、縁部での剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明により製造されたインサート成形体の断面を示す説明図。
【図2】本発明の製造工程を示す平面図及びA−A線断面図(その1)
【図3】本発明の製造工程を示す平面図及びA−A線断面図(その2)
【図4】従来の製法により製造されたインサート成形体の断面を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
(本実施形態の製造方法によるインサート成形体1の構造)
図1に示すように、本実施形態の製造方法により製造されるインサート成形体1は、金属調化粧シート10と熱可塑性樹脂成形体20とからなる。金属調化粧シート10の熱可塑性樹脂成形体20と接する側の面は、基板となる透明な熱可塑性樹脂フィルム11と、金属薄膜層12と、保護層13と、インク層14と、バインダ層15が順次積層された構造となっている。
【0022】
(本実施形態のインサート成形体1の製造方法)
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態のインサート成形体1の製造方法について説明する。
【0023】
図2(a)及び図2(a´)に示すように、本実施形態のインサート成形体1の製造方法では、第1の工程として、基板となる透明な熱可塑性樹脂フィルム11の熱可塑性樹脂成形体20と接する側の面、すなわち裏面に、金属薄膜層12を形成する。
【0024】
基板となる透明な熱可塑性樹脂フィルム11は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ABS樹脂等からなる。また、金属薄膜層12は、Al、Sn、Pb等を真空蒸着、スパッタリング等する各種薄膜生成法により形成される。
【0025】
次に、第2の工程として、図2(b)及び図2(b´)に示すように、金属薄膜層12を残したい領域の上に、PETの場合はウレタン系の2液硬化インクまたはポリエステル系のインク、PCの場合はポリエステル系のインク等の有機質インクをスクリーン印刷することにより保護層13を形成する。インサート成形体1の表面に非金属調の意匠を表示したい領域及び熱可塑性樹脂成形体20と接触する接触面の縁部を構成する縁部領域Kが、金属薄膜層12を除去したい領域なので、それ以外の領域が金属調の意匠として金属薄膜層12を残したい領域となる。
【0026】
次に、第3の工程として、上記積層された熱可塑性樹脂フィルム11を水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリで洗浄することで、図2(c)及び図2(c´)に示すように、金属薄膜層12を溶解除去し、熱可塑性樹脂フィルム11の裏面上に、金属薄膜層12及び保護層13が形成された断面視凸状の部分と、金属薄膜層が除去された断面視凹状の未加工部17とを形成する。
【0027】
なお、上記アルカリ洗浄の後、純水による洗浄を行う、または、希硫酸で熱可塑性樹脂フィルム11の裏面上の中和したうえで純水による洗浄を行うことが好ましい。
【0028】
次に、第4の工程として、図2(d)及び図2(d´)に示すように、熱可塑性樹脂フィルム11の裏面上に、主に前記保護層と同様の有機質インクをスクリーン印刷することで、保護層13の上、及び、未加工部17内にインク層14を形成する。
【0029】
なお、オフセット印刷することによりインク層14を形成してもよい。
【0030】
このとき、インサート成形体1の表面に表示したい文字、図形等の非金属調の意匠、前記縁部領域K、及び、金属薄膜層が透けないようにするためのインクの色を異ならせたい場合には、インサート成形体1の表面に表示したい意匠を構成するための未加工部17及び前記縁部領域Kを構成するための未加工部17に、それぞれインクを注入するようスクリーン印刷した上で、金属薄膜層が透けないようにするためのインクを全面にスクリーン印刷する。
【0031】
また、未加工部のうちの非金属調の意匠を表示させる領域の一部に、インク層を積層しないことにより、非金属調の意匠の一態様として透明窓部を設けることもできる。
【0032】
次に、第5の工程として、図2(e)及び図2(e´)に示すように、インク層17の上に、金属調化粧シート10と熱可塑性樹脂成形体20とのバインダをスクリーン印刷することにより、バインダ層15を形成する。バインダは、熱可塑性樹脂成形体20の種類に応じて、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、塩化ビニル系などの樹脂から適宜選択が可能である。
【0033】
以上が、金属調化粧シート10の製造方法の説明である。
【0034】
次に、金属調化粧シート10をインサート成形する前の事前処理について説明する。
【0035】
まず、第6の工程として、複数の金属調化粧シート10が一枚のフィルムとなっている場合には、図3(f)に示すように、前記第6の工程の前に前記フィルムをそれぞれ必要な範囲で大抜きすることで、金属調化粧シート10を分割する。
【0036】
次に、第7の工程として、図3(g)及び図3(g´)に示すように、金属調化粧シート10に対して、圧空成形、熱プレス等のフォーミングを行う。フォーミングは、熱可塑性樹脂成形体20の金属調化粧シート10に対向する面から熱可塑性樹脂成形体20の外周に沿って曲がり込むように行う。また、熱可塑性樹脂成形体20が立体的形状の場合には、金属調化粧シート10に3次元形状のフォーミングを行う。
【0037】
次に、第8の工程として、図3(h)及び図3(h´)に示すように、フォーミングした金属調化粧シート10をインサート成形体と同様の形状になるように型抜きをする。
【0038】
この型抜きは、金属調化粧シート10のうち前記縁部領域Kを構成するための未加工部17内に形成されたインク層17が、金属調化粧シート10の縁に配置されるように行う。
【0039】
なお、第5工程の後に、第6の工程、第7の工程、第8の工程という順番以外にも、第5工程の後に、第8の工程として説明した型抜き処理、第7の工程であるフォーミング処理という順番で金属調化粧シート10を製造することもできる。この場合には、第6工程の大抜き処理は省略されることになる。
【0040】
最後に、金属調化粧シート10を用いてインサート成形体を製造する第9の工程について説明する。
【0041】
まず、図3(i)に示すように、キャビティを形成可能な金型M内に、前記型抜きした金属調化粧シート10を、バインダ層15が熱可塑性樹脂成形体20と接触する向きに配置する。そして、前記キャビティ内に、熱可塑性樹脂成形体20を形成する熱可塑性樹脂を射出する。
(本実施形態の製造方法の効果)
本実施形態のインサート成形体1の製造方法によれば、透明な熱可塑性樹脂フィルム11に蒸着された金属薄膜層12の上にインク層14が形成されるので、金属薄膜層が透けることを防止することができる。
【0042】
また、インサート成形体1の表面に意匠を表示したい領域に形成された未加工部17に、インクが入り込みインク層14が形成される。したがって、インサート成形体1の表面から見た場合には、未加工部17に入り込んだインク層14が透明な熱可塑性樹脂フィルム11を介して表面に表示されるので、鮮明に意匠を表示させることができる。
【0043】
さらに、前記熱可塑性樹脂成形体20と接触する接触領域の縁部領域Kに形成された未加工部17に、インクが入り込みインク層14が形成される。そして、図3(j)に示すように、金属調化粧シート10は、縁部領域Kに沿って型抜きされるため、縁部領域Kには、インク層14は露出されるが、金属薄膜層12が露出されることがない。したがって、この型抜きされた金属調化粧シート10に対して熱可塑性樹脂を射出してインサート成形体を製造した場合にも、前記縁部領域Kにおいて金属調化粧シート10の金属薄膜層12が露出されることがないため、縁部領域Kでの金属調化粧シート10の剥離を防止することができる。
【0044】
以上説明したとおり、本実施形態のインサート成形体の製造方法によれば、1回のインクのスクリーン印刷で、金属薄膜層が透けることを防止し、インサート成形体1の表面に意匠を表示し、縁部領域Kでの金属調化粧シート10の剥離を防止することができる。
【0045】
本実施形態のインサート成形体の製造方法によるインサート成形体1の、縁部領域Kでの金属調化粧シート10の剥離防止の効果を実験した。具体的には、水酸化ナトリウム配合の塩素系漂白剤に、インサート成形体1を室温で24時間浸漬し、縁部領域Kで金属調化粧シート10が剥離するか否かを検査した。その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、従来のインサート成形体は、5回の全ての実験において、縁部領域Kで金属調化粧シート10が剥離した。一方、本実施形態にかかるインサート成形体1は、5回の全ての実験において、縁部領域Kで金属調化粧シート10が剥離することを防止できた。
【0048】
この実験結果からすれば、本実施形態に係るインサート成形体1によれば、縁部領域Kで金属調化粧シート10が剥離することを防止できることが明らかである。
【符号の説明】
【0049】
1…インサート成形体、 10…金属調化粧シート、 11…熱可塑性樹脂フィルム、 12…金属薄膜層、 14…インク層、 15…バインダ層、 17…未加工部、 縁部…K。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサート成形により熱可塑性樹脂成形体と一体に成形される金属調化粧シートの製造方法であって、
透明な熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に金属薄膜層を形成する工程と、
前記インサート成形体の表面に非金属調の意匠を表示させる領域と前記熱可塑性樹脂成形体と接触する接触面の縁部領域との前記金属薄膜層を除去することにより前記金属薄膜層の未加工部を形成する工程と、
前記金属薄膜層と未加工部上の一部または全部とにインク層を積層する工程と
を備えることを特徴とする金属調化粧シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の金属調化粧シートの製造方法により製造された金属調化粧シートと熱可塑性樹脂成形体とが一体的に成形されるインサート成形体の製造方法であって、
前記金属調化粧シートにバインダ層を積層する工程と、
前記金属調化粧シートを、前記熱可塑性樹脂成形体の当該前記金属調化粧シートと対向する面から外周に沿って曲げるフォーミング加工をする工程と、
前記金属調化粧シートを前記縁部に沿って型抜きする工程と、
キャビティを形成可能な金型内に、前記フォーミング加工をした金属調化粧シートを、前記積層された面上に前記熱可塑性樹脂成形体が形成可能なように配置する工程と、
前記キャビティ内に、前記熱可塑性樹脂成形体を形成する熱可塑性樹脂を射出する工程とを備えることを特徴とするインサート成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−11596(P2012−11596A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148097(P2010−148097)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【特許番号】特許第4820452号(P4820452)
【特許公報発行日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(591178517)株式会社三和スクリーン銘板 (19)
【Fターム(参考)】