説明

金属酸化物前駆体溶液、金属酸化膜の形成方法、半導体装置の製造方法および電子機器の製造方法

【課題】ストライエーションの生じ難い金属酸化物前駆体溶液を提供する。また、金属酸化膜の成膜性や特性を向上させる。
【解決手段】基板1上に金属酸化物前駆体溶液3をスピンコート法で塗布し、乾燥および焼成を施し、金属酸化膜3aを形成する際、金属酸化物前駆体溶液3を20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であり、より好ましくは、20℃おける粘性が20cP以下である溶液とする。また、当該溶液に用いる溶媒の主溶媒を20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であり、より好ましくは、20℃おける粘性が20cP以下とすることによりストライエーションの低減および成膜性の向上を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物前駆体溶液、金属酸化膜の形成方法、半導体装置の製造方法および電子機器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強誘電体膜や圧電体膜として用いられる金属酸化膜の形成方法としては、CVD(chemical vapor deposition、化学気相成長)やスパッタリング法により形成することが可能であるが、これらの方法には高額の装置が必要である。
【0003】
これに対し、その膜成分の調整(調製)等が行いやすく、品質の良い膜を形成する方法として、金属酸化物前駆体溶液を用いた成膜方法が使用されている。また、かかる方法によれば、大面積に均一な膜を形成することができ、有効な成膜方法として注目されている。
【0004】
この金属酸化物前駆体溶液には、金属酸化物の材料化合物および溶媒が含まれており、この金属酸化物前駆体溶液を基板上に塗布し、乾燥および焼成することで、金属酸化膜を形成する。
【0005】
例えば、下記特許文献1(特開2001−48540)には、ストリエーションがなく、高品質のPLZT強誘電体薄膜を形成するため、Pb,La,Zr及びTiの金属アルコキシド、その部分加水分解物及び/又は有機酸塩を含むペロブスカイト型PLZT強誘電体薄膜形成用組成物において、水分含有量が0.8重量%以下であるPLZT強誘電体薄膜形成用組成物を用い、このPLZT強誘電体薄膜形成用組成物を耐熱性基板に塗布し、空気中、酸化雰囲気中又は含水蒸気雰囲気中で加熱する工程を所望の厚さの膜が得られるまで繰り返し、少なくとも最終工程における加熱中或いは加熱後に膜を結晶化温度以上で焼成するPLZT強誘電体薄膜の形成方法が開示されている。この他、強誘電体薄膜のストリエーション対策に関する技術は、例えば、下記特許文献2〜5に開示されている。
【特許文献1】特開2001−48540号公報
【特許文献2】特開平10−199336号公報
【特許文献3】特開2001−72416号公報
【特許文献4】特開2005−38830号公報
【特許文献5】特開2000−351623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、金属酸化物前駆体溶液を用いた金属酸化膜の形成に関する研究・開発を行っており、ストライエーションを防止しつつ、特性の良好な金属酸化膜を形成すべく、鋭意検討を重ねている。
【0007】
中でも、1)金属酸化物前駆体溶液に用いて好適な溶媒の検討を行い、例えば、上記文献等にも示すシリコンを原料溶液に添加する場合には、シリコンが膜中に不純物として残存し、強誘電体薄膜としての特性の劣化が生じる。
【0008】
また、2)原料溶液が水を含有する場合には、その保管性に問題が生じ、その保湿管理(水分含有量の管理)が難しい。
【0009】
また、3)原料溶液として、プロピレングリコールもしくはプロピレングリコール誘導体を用いる場合、原料溶液の粘度が高くなりすぎ、成膜性が良くない。
【0010】
また、4)原料溶液に反応性基と疎水性基とを有する金属化合物を用いる場合、これらの化合物を合成することが困難である。
【0011】
このように、従来の原料溶液を含め種々の検討をおこなった結果、ストライエーションの防止には、溶媒の蒸気圧や粘性が重要であり、金属化合物とその溶媒を混合した後の前駆体溶液の蒸気圧や粘性が良好となるよう、金属化合物の特性(例えば、溶媒に対する溶解性)を考慮し、溶媒の選択や組み合わせが重要となることが判明した。
【0012】
本発明は、ストライエーションの生じ難い金属酸化物前駆体溶液を提供することを目的とする。また、金属酸化膜の成膜性や特性を向上させることを目的とする。また、金属酸化膜を有する素子や装置の特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明は、金属酸化物の材料化合物および溶媒を有する金属酸化物前駆体溶液であって、20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であることを特徴とする金属酸化物前駆体溶液である。
【0014】
かかる構成によれば、金属酸化物前駆体溶液自身を、20℃における蒸気圧が0.5hPa以下に調整したので、ストライエーションの発生を低減でき、成膜性を向上させることができる。また、形成される膜の特性を向上させることができる。
【0015】
(2)本発明は、金属酸化物の材料化合物および溶媒を有する金属酸化物前駆体溶液であって、上記溶媒の50体積%以上を構成する主溶媒は、20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であることを特徴とする金属酸化物前駆体溶液である。
【0016】
かかる構成によれば、金属酸化物前駆体溶液の主溶媒を、20℃における蒸気圧が0.5hPa以下に調整したので、金属酸化物前駆体溶液の蒸気圧を低減でき、その結果、ストライエーションの発生を低減できる。また、成膜性を向上させることができ、形成される膜の特性を向上させることができる。
【0017】
上記溶媒は、例えば、単一溶媒であり、2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2−n−エトキシエトキシ)エタノールもしくは2−(2−メトキシエトキシ)エタノールよりなる。
【0018】
上記溶媒は、例えば、混合溶媒であり、2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2−n−エトキシエトキシ)エタノールもしくは2−(2−メトキシエトキシ)エタノールよりなる溶媒が、上記溶媒の50体積%以上を構成する主溶媒である。
【0019】
上記溶媒は、例えば20℃における粘性が20cP以下である。
【0020】
(3)本発明は、金属酸化物の材料化合物および溶媒を有する金属酸化物前駆体溶液であって、上記溶媒は、例えば混合溶媒であり、上記溶媒の50体積%以上を構成する主溶媒と、上記溶媒の50体積%以下を構成する副溶媒よりなり、上記主溶媒は、20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であり、上記副溶媒は、上記主溶媒より20℃おける粘性が低い溶媒であることを特徴とする。
【0021】
(4)本発明は、金属酸化物の材料化合物および溶媒を有する金属酸化物前駆体溶液であって、上記溶媒は、例えば混合溶媒であり、上記溶媒の50体積%以上を構成する主溶媒と、上記溶媒の50体積%以下を構成する副溶媒よりなり、上記主溶媒は、20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であり、上記副溶媒は、上記主溶媒より極性が大きい溶媒であることを特徴とする金属酸化物前駆体溶液である。
【0022】
上記溶媒は、例えば、クラック防止剤を含む。
【0023】
(5)本発明は、金属酸化物の材料化合物および溶媒を有する金属酸化物前駆体溶液であって、上記溶媒の50体積%以上を構成する主溶媒として2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2−n−エトキシエトキシ)エタノールもしくは2−(2−メトキシエトキシ)エタノールを含有することを特徴とする。
【0024】
上記溶媒は、例えば、さらに、上記主溶媒より極性が大きい溶媒を副溶媒として含有する。
【0025】
上記溶媒は、例えば、さらに、クラック防止剤を含有する。
【0026】
上記金属酸化物の材料化合物は、金属アルコキシド、金属カルボン酸塩もしくは金属β−ジオナト錯体である。
【0027】
(6)本発明は、金属酸化物前駆体溶液を用いた金属酸化膜の形成方法であって、上記金属酸化物前駆体溶液を塗布した後、乾燥および焼成してなる金属酸化膜の形成方法である。
【0028】
(7)本発明は、金属酸化物を有する半導体装置の製造方法であって、上記金属酸化膜の形成方法を有することを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【0029】
(8)本発明は、半導体装置を有する電子機器の製造方法であって、上記半導体装置の製造方法を有することを特徴とする電子機器の製造方法である。ここで「電子機器」とは、本発明にかかる金属酸化膜を有する素子を備えた一定の機能を奏する機器一般をいい、その構成に特に限定はないが、例えば、上記金属酸化膜を有する強誘電体メモリ装置を備えたコンピュータ装置一般、携帯電話、PHS、PDA、電子手帳、ICカードなど、記憶装置を必要とする装置や、上記金属酸化膜を有する圧電体素子を有する、液滴吐出装置などが含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同一の機能を有するものには同一もしくは関連の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する。
【0031】
(金属酸化膜の形成方法)
本実施の形態の金属酸化膜の形成方法について図1を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態の金属酸化膜の形成工程を示す要部断面図である。
【0032】
図1(A)に示すように、基板1上に金属酸化物前駆体溶液3をスピンコート法で塗布する。この金属酸化物前駆体溶液は、金属酸化物の材料化合物(金属化合物、有機金属化合物)および溶媒を有する溶液である。また、この金属酸化物前駆体溶液は、20℃における蒸気圧が0.5hPa以下である。より好ましくは、20℃おける粘性が20cP〔SI単位表記では、0.02Pa・s〕以下である。なお、インクジェット法により基板1上に金属酸化物前駆体溶液3を塗布(滴下)してもよい。また、ディップコート法を用いてもよい。
【0033】
次いで、図1(B)に示すように、金属酸化物前駆体溶液(塗布膜)を乾燥させ、溶液中の溶媒を揮発させた後、熱処理を施す(焼成する)ことにより金属酸化膜(金属酸化物薄膜)3aを形成する。この後、必要に応じて金属酸化物に対し結晶化アニールを施す。
【0034】
このように、本実施の形態によれば、金属酸化物前駆体溶液自身の蒸気圧を20℃において0.5hPa以下としたので、ストライエーション(膜むら)の発生を低減することができる。
【0035】
例えば、金属酸化物前駆体溶液自身の20℃における蒸気圧が0.5hPa以上の場合は、溶媒が揮発しやすく、ストライエーションが起こりやすい。例えば、図2(A)に示すように、略円状の基板1において、その中心部から放射線状に縞上の凸部51が金属酸化膜53aの表面に形成される。図2(B)に、この凸部の断面を示す。図2は、ストライエーションを示す平面図および断面図である。このような、ストライエーションによる凹凸が生じると、当該膜のエッチング処理等の際に下地にその凹凸が反映(転写)されてしまう。従って、下地上に形成される他の膜や素子の接合性が悪くなり、素子特性が劣化する。
【0036】
このストライエーションは、金属酸化物前駆体溶液の乾燥の際に生じやすい。これは、溶液中の対流(マランゴン対流、ベナール対流)が原因で起こると考えられている。
【0037】
しかしながら、本発明者の検討の結果、上記の通り蒸気圧を抑える、即ち、徐々に揮発させることによりストライエーションの発生が抑えられることが判明した。
【0038】
ここで、この金属酸化物前駆体溶液は、20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であり、より好ましくは、20℃おける粘性が20cP以下とすることが最適であるが、用いる溶媒の主溶媒を20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であり、より好ましくは、20℃おける粘性が20cP以下とすることで、ストライエーションの低減および成膜性の向上を図ってもよい。ここで、主溶媒とは、前駆体溶媒の50体積%以上を構成する溶媒を意味する。ここで溶媒の体積%とは、混合する複数の溶媒の体積の和に対する特定の溶媒の体積の割合をいい、単一溶媒の場合は100体積%となる。なお、ここでは、複数の溶媒の体積の和は、混合する前の各溶媒の体積の和をいうものとする。
【0039】
(実験例)
次いで、本発明者が検討した具体的な金属酸化膜の形成例(実験例)について説明する。
【0040】
金属酸化膜であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の金属酸化物前駆体溶液Aの調製を次の通り行った。図3に、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の金属酸化物前駆体溶液の調製フローを示す。
【0041】
図3に示すように、溶媒として、2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノールを準備する(ステップS1)。この2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノールは、低蒸気圧溶媒(20℃における蒸気圧が0.5hPa以下である溶媒)である。具体的には、134℃における蒸気圧が13hPaであり、その沸点は230℃である。
【0042】
次いで、2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノールに金属酸化物(PZT)の材料化合物として、チタニウムテトライソプロポキシド(Ti化合物)を添加し、室温で15分間攪拌する(ステップS2)。
【0043】
次いで、ジエタノールアミンを添加し、室温で15分攪拌する(ステップS3)。このジエタノールアミンは、Tiの安定化剤として機能し、また、後述するPbおよびZrの溶解補助剤としても機能する。即ち、ジエタノールアミンのような極性の大きい溶媒を用いれば、金属錯体を安定化でき、また、極性のある(油に溶けにくい)材料化合物を溶解させることができる。
【0044】
次いで、材料化合物として酢酸鉛三水和物(Pb化合物)およびジルコニウムアセチルアセトナート(Zr化合物)を添加し、80℃で20分間攪拌し、室温にて自然冷却する(ステップS4)。
【0045】
次いで、クラック防止剤としてポリエチレングリコールを添加し、室温で10分間攪拌する(ステップ5)。
【0046】
以上の工程により金属酸化物前駆体溶液Aを調製した。なお、比較例として、溶媒として、2−n−ブトキシエタノールを用い、他は図3に示すフローと同じ条件で調製した金属酸化物前駆体溶液Bも準備した。この2−n−ブトキシエタノールは、20℃における蒸気圧が0.8hPaの高蒸気圧溶媒であり、その沸点は171℃である。
【0047】
次いで、これらの金属酸化物前駆体溶液AおよびBを、直径6インチのシリコンウエハ(基板)上に、スピンコート法を用いて塗布し、160℃にて乾燥処理を施し、乾燥塗布膜を形成した。
【0048】
金属酸化物前駆体溶液Aの処理において、スピンコートの回転速度を1460rpmとした場合の、金属酸化物前駆体溶液AおよびBの乾燥後のウエハの表面状態をそれぞれ図4および図5に示す。各図において、(A)はウエハの中心部における表面状態を示し、(B)は基板の外周部における表面状態を示す。また、(A)および(B)は、ウエハの表面写真の複写図であり、(C)および(D)は、(A)および(B)の写真(図)の表面状態を模写した図である。
【0049】
図5に示すように、高蒸気圧溶媒である2−n−ブトキシエタノールを用いた場合には、ウエハの中心部において、斑点状の凸部が確認され(図5(A)、(C))、ウエハの外周部においては、縞状の凸部が確認された(図5(B)、(D))。即ち、ストライエーションの発生が確認された。
【0050】
これに対し、低蒸気圧溶媒である2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノールを用いた場合には、図4に示すように、ウエハの中心部および外周部において、上記凸部は確認されなかった。即ち、ストライエーションの発生は確認されなかった。なお、図示は省略するが、金属酸化物前駆体溶液Aを1000rpmの回転速度でスピンコートし、同様に乾燥させた場合もストライエーションの発生は確認されなかった。
【0051】
次いで、光干渉式膜厚測定装置を用いて各乾燥塗布膜(ウエハ)の各ポイント(P1〜P5)における膜厚を測定した。その結果を、図6に示す。
【0052】
図6に示すように、金属酸化物前駆体溶液Bの乾燥塗布膜においては、各ポイントにおいて最大17.2μm程度の高低差があることが確認された。高低差とは、図6の「山」および「谷」の欄の差をいう。これに対し、金属酸化物前駆体溶液Aの乾燥塗布膜においては、回転速度が1460rpmの場合も、1000rpmの場合も、上記高低差は確認されず、回転速度が1460rpmの場合は410μmの膜厚を、また、1000rpmの場合は、620μm程度の膜厚を確保することができた。
【0053】
このように、本実験例においては、低蒸気圧溶媒を用いることで、ストライエーションの低減された乾燥塗布膜を得ることができた。また、図6からも分かるように、低蒸気圧溶媒を用いることで、その揮発が制限される分、乾燥塗布膜の膜厚が減少する傾向にある。しかしながら、膜厚の減少に対しては、回転速度を低下させることで対応可能であることが分かった。
【0054】
(具体的溶媒の検討1)
次いで、図7を参照しながら、溶媒として用いて好適な溶液を検討する。図7は、薬品名(溶液名)と、蒸気圧〔hPa〕、粘度〔cP〕および水に対する溶解性等の関係を示した図表である。なお、これらの薬品はその基本骨格から、エチレングリコール誘導体、ジエチレングリコール誘導体、プロパンジオール誘導体、ブタンジオール誘導体および飽和炭化水素アルコールに分類される。また、各薬品について、沸点〔℃〕および密度〔g/ml〕も併記してある。
【0055】
図7に示す薬品のうち、20℃にける蒸気圧が0.5hPa以下のものが、溶媒として用いて好適である。かかる条件を満たす薬品の「蒸気圧」の欄に丸を付けてある。
【0056】
蒸気圧の条件は、上記ストライエーション対策としては、必須のものであるが、この他、成膜性の向上には、その粘度も影響してくる。即ち、蒸気圧の条件をクリアしても、粘度が高すぎると、液滴を滴下し難くなり、また、スピンコートしても溶液が広がりにくい等、その成膜性が悪くなる。また、成膜性を良くするため、液滴の吐出方法やコートの方法を変えるなどの工夫が必要となる。
【0057】
従って、溶媒の20℃おける粘性が20cP以下であることが好ましい。図7に示す薬品のうち、蒸気圧の条件を満たし、さらに、20℃おける粘性が20cP以下のものが、溶媒として用いて好適である。図7に示す薬品のうち、20℃おける粘性が20cP以下である薬品の「粘性」の欄に丸を付けてある。
【0058】
さらに、蒸気圧および粘性の条件に加え、その極性が高い方が、より好ましい。前述したように、金属酸化物の材料化合物によっては、溶解補助剤や安定化剤を必要とするものがある。これは、金属酸化物の材料化合物には、カルボン酸塩やβ−ジオナト錯体などの形態が多く、これらの化合物は、極性が小さい溶媒には溶け難い場合があるからである。また、溶解しても不安的で、その後沈殿(析出)してしまう場合があり、安定に溶液中に存在させる必要があるからである。このような溶解性や安定性は溶媒の極性と深く関係している。即ち、極性溶媒を溶解補助剤・安定化剤として用いることにより、容易に金属酸化物前駆体溶液を得ることが可能となる。一般的に極性溶媒は水との溶解性が大きく、溶解補助剤・安定化剤としてはカルボン酸のようなプロトン性溶媒や、アルカノールアミンやβ−ジケトンのようなキレート剤などを用いることができる。
【0059】
従って、図7に示す薬品のうち、20℃にける蒸気圧が0.5hPa以下であり、かつ、20℃おける粘性が20cP以下である薬品のうち、20℃における水に対する溶解度が20体積%以上のものが、溶媒として用いて好適である。図7に示す薬品のうち、20℃おける水に対する溶解度が20体積%以上の薬品の「水に対する溶解度」の欄に丸を付けてある。
【0060】
従って、「蒸気圧」「粘性」および「水に対する溶解度」の欄のすべてに丸がついた薬品を溶媒として用いて好適である。
【0061】
中でも、「蒸気圧」「粘性」および「水に対する溶解度」の数値や取り扱い安さ、汎用性等を考慮するとジエチレングリコール誘導体の中で、「蒸気圧」「粘性」および「水に対する溶解度」の欄のすべてに丸がついた薬品を溶媒として用いて好適である。特に、2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2−n−エトキシエトキシ)エタノールもしくは2−(2−メトキシエトキシ)エタノールを用いて好適である。
【0062】
上記「蒸気圧」「粘性」および「水に対する溶解度」の欄のすべてに丸がついた薬品、即ち、20℃にける蒸気圧が0.5hPa以下であり、かつ、20℃おける粘性が20cP以下であり、かつ、20℃における水に対する溶解度が20体積%以上の薬品は、単一の溶媒として使用可能である。もちろん、混合溶媒の主溶媒として用いることも可能である。
【0063】
このように、上記条件を満たす溶媒を用いることで、金属酸化物前駆体溶媒自身の蒸気圧を低下させ、ストライエーションの発生を抑制することができる。また、最適な粘性を保持することができ塗布膜の成膜性を向上させることができる。また、極性を持たせることで、材料化合物(特に、金属カルボン酸塩やβ−ジオナト錯体など)の溶解度や溶解後の金属の安定性を向上させることができる。なお、材料化合物として金属アルコキシドを用いる場合には、20℃における水に対する溶解度が20体積%以下でもかまわない。ただし、水に対する溶解度が大きいほど経時変化(大気中の水分による劣化)が少なくなるため、溶解補助剤や安定化剤を添加しても何ら問題はない。
【0064】
なお、必要に応じてクラック防止剤を添加する。このクラック防止剤には、ポリエチレングリコールなどの高分子材料があり、特に、0.5μm以上の膜厚の金属酸化膜を形成する場合には、その使用が好ましい。
【0065】
(具体的溶媒の検討2)
上記検討においては、図7の「蒸気圧」「粘性」および「水に対する溶解度」の欄のすべてに丸がついた薬品、即ち、20℃にける蒸気圧が0.5hPa以下であり、かつ、20℃おける粘性が20cP以下であり、かつ、20℃における水に対する溶解度が20体積%以上の薬品を主溶媒として用いて好適である旨の説明をしたが、「粘性」および「水に対する溶解度」の条件を満たさない薬品についても、以下に示す方法で対応可能である。なお、ここでは、金属化合物を、a)金属アルコキシド、b)金属アルコキシド以外の金属化合物であるが、配位子交換によりアルコキシドが形成される場合、c)金属アルコキシド以外の金属化合物であり、配位子交換が起きない場合、に分類し、溶媒の選択および調製方法を説明する。図8〜図10は、金属酸化物前駆体溶液の溶媒の選択および調製方法を示すフロー図である。なお、このフロー図においては、主溶媒の20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であることが前提となっている。
【0066】
図8に示すように、用いる金属化合物がすべて金属アルコキシドの場合は、次のフローに従う。即ち、主溶媒の20℃おける粘性が20cP以下かどうかを判断し、以下である場合(Yes)で、水に対する溶解度が20体積%以上である(水に対する溶解性の条件を満たす)場合は、副溶媒による調整は必要ない(言い換えれば、単一溶媒として使用可能である)。ただし、安定化剤を添加することで金属酸化物前駆体溶液の安定性をさらに向上させることができるのは前述の通りであるため、安定化剤を添加しても何ら問題はない。なお、調整された金属酸化物前駆体溶液自身の20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であり、かつ、20℃おける粘性が20cP以下である場合がより好ましいことは前述した通りである。
【0067】
ここで、粘性が20cP以下でない場合(No)は、副溶媒を用いて粘度を20cP(20℃)以下となるよう調整する。この場合、主溶媒は、副溶媒より粘度が高いといえる。
【0068】
水に対する溶解度が20体積%以上(より好ましくは、自由に混合もしくは易溶)である場合(Yes)は、粘度の条件を満たせば副溶媒による調整は必要ない(言い換えれば、単一溶媒として使用可能である)。水に対する溶解度が20体積%以上でない場合(No)は、他の水に対する溶解度が20体積%以上である溶媒(溶解補助剤、安定化剤)、即ち、副溶媒を用いて調整する。この場合、主溶媒は、副溶媒より極性が低いといえる。
【0069】
図9に示すように、用いる金属化合物が金属アルコキシド以外の金属化合物を含み、そのすべてが配位子交換により金属化合物がすべて金属アルコキシドになる場合は、次のフローに従う。即ち、主溶媒の20℃おける粘性が20cP以下かどうかを判断し、以下である場合(Yes)で、水に対する溶解度が20体積%以上である(水に対する溶解性の条件を満たす)場合は、副溶媒による調整は必要ない(言い換えれば、単一溶媒として使用可能である)。ただし、安定化剤を添加することで金属酸化物前駆体溶液の安定性をさらに向上させることができるのは前述の通りであるため、安定化剤を添加しても何ら問題はない。なお、調整された金属酸化物前駆体溶液自身の20℃にける蒸気圧が0.5hPa以下であり、かつ、20℃おける粘性が20cP以下である場合がより好ましいことは前述した通りである。
【0070】
ここで、粘性が20cP以下でない場合(No)は、副溶媒を用いて粘度を20cP(20℃)以下となるよう調整する。この場合、主溶媒は、副溶媒より粘度が高いといえる。
【0071】
水に対する溶解度が20体積%以上(より好ましくは、自由に混合もしくは易溶)である場合(Yes)は、粘度の条件を満たせば副溶媒による調整は必要ない(言い換えれば、単一溶媒として使用可能である)。ただし、安定化剤を添加することで金属酸化物前駆体溶液の安定性をさらに向上させることができるのは前述の通りであるため、安定化剤を添加しても何ら問題はない。水に対する溶解度が20体積%以上でない場合(No)は、他の水に対する溶解度が20体積%以上である溶媒(溶解補助剤、安定化剤)、即ち、副溶媒を用いて調整する。この場合、主溶媒は、副溶媒より極性が低いといえる。
【0072】
図10に示すように、用いる金属化合物が金属アルコキシド以外の金属化合物を含み、配位子交換が起きない場合は、次のフローに従う。即ち、主溶媒の20℃おける粘性が20cP以下かどうかを判断し、以下である場合(Yes)、溶解補助剤として、他の水に対する溶解度が20体積%以上である溶媒、即ち、副溶媒を用いて調整する。また、粘性が20cP以下でない場合(No)は、副溶媒を用いて粘度を20cP(20℃)以下となるよう調整するとともに、溶解補助剤として、他の水に対する溶解度が20体積%以上である溶媒、即ち、他の副溶媒を用いて調整する。
【0073】
水に対する溶解度が20体積%以上(より好ましくは、自由に混合もしくは易溶)である場合(Yes)は、溶解補助剤として、他の水に対する溶解度が20体積%以上である溶媒、即ち、副溶媒を用いて調整する。また、20体積%以上でない場合(No)は、他の水に対する溶解度が20体積%以上である溶媒(溶解補助剤、安定化剤)、即ち、副溶媒を用いて調整する。
【0074】
このように、主溶媒が上記3つの条件のうち、「粘性」および「水に対する溶解度」に対する条件を満たさなくても、副溶媒を適宜選択し、調整することで、良好な金属酸化物前駆体溶液を調製することができる。ここで、副溶媒とは、上記溶媒の50体積%以下を構成する溶媒をいい、一種であるか否かを問わない。
【0075】
なお、上記実施の形態の実験例においては、PZTを例に説明したが、他の金属酸化物前駆体溶液にも広く適用可能である。
【0076】
また、金属酸化膜の成膜方法には、ゾルゲル法、有機金属分解(MOD)法などがあるが、金属酸化物前駆体溶液を用いる金属酸化膜の形成に広く適用可能である。
【0077】
上記金属酸化物前駆体溶液を用いて形成された金属酸化膜は、強誘電体膜として強誘電体メモリなどに用いられる。また、圧電体膜として圧電素子等に用いられる。従って、本実施の形態の金属酸化物前駆体溶液は、金属酸化膜を有する素子(半導体素子)の製造方法に広く適用可能であり、また、かかる素子を有する電子機器の製造方法に広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本実施の形態の金属酸化膜の形成工程を示す要部断面図である。
【図2】ストライエーションを示す平面図および断面図である。
【図3】PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の金属酸化物前駆体溶液の調製フローを示す図である。
【図4】金属酸化物前駆体溶液Aの乾燥後のウエハの表面状態を示す図である。
【図5】金属酸化物前駆体溶液Bの乾燥後のウエハの表面状態を示す図である。
【図6】各乾燥塗布膜の各ポイント(P1〜P5)における膜厚を示す図表である。
【図7】薬品名(溶液名)と、蒸気圧〔hPa〕、粘度〔cP〕および水に対する溶解性等の関係を示した図表である。
【図8】金属酸化物前駆体溶液の溶媒の選択および調製方法を示すフロー図である。
【図9】金属酸化物前駆体溶液の溶媒の選択および調製方法を示すフロー図である。
【図10】金属酸化物前駆体溶液の溶媒の選択および調製方法を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0079】
1…基板、3…金属酸化物前駆体溶液、3a…金属酸化膜、51…凸部、53a…金属酸化膜、S1〜S5…ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物の材料化合物および溶媒を有する金属酸化物前駆体溶液であって、
20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であることを特徴とする金属酸化物前駆体溶液。
【請求項2】
金属酸化物の材料化合物および溶媒を有する金属酸化物前駆体溶液であって、
前記溶媒の50体積%以上を構成する主溶媒は、20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であることを特徴とする金属酸化物前駆体溶液。
【請求項3】
前記溶媒は、単一溶媒であり、2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2−n−エトキシエトキシ)エタノールもしくは2−(2−メトキシエトキシ)エタノールよりなることを特徴とする請求項1又は2記載の金属酸化物前駆体溶液。
【請求項4】
前記溶媒は、混合溶媒であり、2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2−n−エトキシエトキシ)エタノールもしくは2−(2−メトキシエトキシ)エタノールよりなる溶媒が、前記溶媒の50体積%以上を構成する主溶媒であることを特徴とする請求項1又は2記載の金属酸化物前駆体溶液。
【請求項5】
前記溶媒は、20℃における粘性が20cP以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の金属酸化物前駆体溶液。
【請求項6】
金属酸化物の材料化合物および溶媒を有する金属酸化物前駆体溶液であって、
前記溶媒は、混合溶媒であり、前記溶媒の50体積%以上を構成する主溶媒と、前記溶媒の50体積%以下を構成する副溶媒よりなり、
前記主溶媒は、20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であり、
前記副溶媒は、前記主溶媒より20℃における粘性が低い溶媒であることを特徴とする金属酸化物前駆体溶液。
【請求項7】
金属酸化物の材料化合物および溶媒を有する金属酸化物前駆体溶液であって、
前記溶媒は、混合溶媒であり、前記溶媒の50体積%以上を構成する主溶媒と、前記溶媒の50体積%以下を構成する副溶媒よりなり、
前記主溶媒は、20℃における蒸気圧が0.5hPa以下であり、
前記副溶媒は、前記主溶媒より極性が大きい溶媒であることを特徴とする金属酸化物前駆体溶液。
【請求項8】
前記溶媒は、クラック防止剤を含むことを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか一項に記載の金属酸化物前駆体溶液。
【請求項9】
金属酸化物の材料化合物および溶媒を有する金属酸化物前駆体溶液であって、前記溶媒の50体積%以上を構成する主溶媒として2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2−n−エトキシエトキシ)エタノールもしくは2−(2−メトキシエトキシ)エタノールを含有することを特徴とする金属酸化物前駆体溶液。
【請求項10】
前記溶媒は、さらに、前記主溶媒より極性が大きい溶媒を副溶媒として含有することを特徴とする請求項9記載の金属酸化物前駆体溶液。
【請求項11】
前記溶媒は、さらに、クラック防止剤を含有することを特徴とする請求項9又は10記載の金属酸化物前駆体溶液。
【請求項12】
前記金属酸化物の材料化合物は、金属アルコキシド、金属カルボン酸塩もしくは金属βジオナト錯体であることを特徴とする請求項1〜11のうちいずれか一項記載の金属酸化物前駆体溶液。
【請求項13】
金属酸化物前駆体溶液を用いた金属酸化膜の形成方法であって、請求項1〜12のいずれか一項に記載の金属酸化物前駆体溶液を塗布した後、乾燥および焼成してなる金属酸化膜の形成方法。
【請求項14】
金属酸化物を有する半導体装置の製造方法であって、請求項13記載の金属酸化膜の形成方法を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項15】
半導体装置を有する電子機器の製造方法であって、請求項14記載の半導体装置の製造方法を有することを特徴とする電子機器の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−246322(P2007−246322A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70743(P2006−70743)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】