説明

針状体アレイ原版および針状体アレイの製造方法

【課題】要求される高さ、根元幅、先端角度および/または表面粗さなど、形状についての規格を満たす針状体を具備する針状体アレイを容易に形成できる手段を提供する。
【解決手段】基体と、前記基体の第一の面に形成された針状体とを具備する針状体アレイを製造するための針状体原版の製造方法であって、
感光性ガラスにエネルギー分布を持たせて露光を行うことにより露光部を形成する工程と、
露光後に加熱処理により前記露光部を改質させて改質部を形成する工程と、
等方性エッチングにより前記改質部を除去する工程と、
を備えた針状体アレイ原版の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状体アレイの製造手段に関する。
【背景技術】
【0002】
針状体アレイは、微小な針状構造体である針状体(一般的には、マイクロニードルとも称する)を複数具備する。主に医療、生物現象、創薬などの分野で用いられ、近年、特に経皮薬物送達システム(Trans-Dermal Drug-Delivery System:以下「TDDS」と記す)と呼ばれる投薬方法において用いられる事例が増えている。
【0003】
TDDSによる投与は、経口投与に比べて胃腸障害などの副作用が少なく、患部に効果的に薬剤を作用できる。また皮膚から持続的に吸収されることで薬物の血中濃度が一定に保たれる。このような皮膚から薬剤を浸透させることにより生体に薬剤を投与する経皮吸収法は、対象に痛みを与えることなく、簡便に薬剤を投与することが出来る方法として用いられている。しかしながら、薬剤の種類によっては経皮吸収法では投与が困難な薬剤が存在する。そのような薬剤を効率よく体内に吸収させる方法として、ミクロンオーダーの微細な針状体を用いて皮膚を穿孔し、皮膚内に直接薬剤を投与する方法が注目されている。この方法によれば、投薬用の特別な機器を用いることなく、簡便に薬剤を皮下投与することが可能となる。
【0004】
上記経皮投与の目的で針状体アレイを用いる場合、針状体は、皮膚を穿孔するために十分な細さおよび先端角、皮膚の最外層である角質層を貫通し、かつ神経層へ到達しない長さを有していることが望ましく、具体的には、針状体の直径は数μmから100μm程度、針状体の先端角度は30°以下、針状体の長さは数十μmから数百μm程度、であることが望ましいとされている。
【0005】
一方で、針状体アレイを血液の採取を目的とした場合、求められる機能として、痛みを軽減するために外径が200μm以下、長さは毛細血管に到達する500μm以上、強度は構造の一部が使用後に体内に残らないことが要求されている。
【0006】
また、針状体アレイを用いた検査チップ及び血液分析装置も提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、シリコンウェハをドライエッチング及びウェットエッチングで加工することにより得られた、針状体内部が中空の針状体アレイが開示される。同文献では、これを人体に穿刺して、血液を毛細管現象により採取する検査チップとして用いることが開示されている。また当該検査チップにより採取された血液を分析するシステムを備えた装置も開示されている。
【0007】
また、上述したような医療用の針状体アレイを構成する材料は、仮に破損した針状体が体内に残留した場合でも、人体に悪影響を及ぼさない材料であることが望ましく、例えば、医療用シリコン樹脂、マルトース、ポリ乳酸およびデキストランなどの生体適合性材料が有望視されている(特許文献2参照)。
【0008】
一方で針状体アレイの製造技術では、被穿刺物に対して最適な硬度を有する材料の選択、製造コストの低下、機能の信頼性の向上が要求され、更にTDDS応用の場合、針状体アレイが外皮を貫通することが必須であり、針状体の最低限の強度と耐久性が必要である。
【0009】
針状体アレイの作製方法は、各種研究機関や企業から多数報告されている。例として、微細加工方法の1つであるフォトリソグラフィー法によりシリコン基板に針状体を形成する方法(例えば、特許文献3)や、ワイヤーカットにより針状体を形成する方法(例えば、特許文献4)などが挙げられる。
【0010】
特許文献3によると、半導体プロセスで用いられるシリコンウェハに対し、エッチングマスクを設置した後で、等方性エッチングまたは結晶異方性エッチングを行い、さらに異方性エッチングを行った後に、加工側面に堆積層を除去し、ウェットエッチングを行い、それによって、所望する任意の先端形状を有する針状体を具備する針状体アレイを形成する方法が開示される。
【0011】
特許文献4によると、平行6面体の機械加工鋼板の一面を高精度なワイヤカッティングによりX方向とY方向の2方向で機械加工し、当該機械加工鋼板の所定位置に四角錐台形の針状体を備えたマスターモールドを作製する方法が開示される。
【0012】
しかしながら、特許文献3に記載の方法はリソグラフィー法であるため、レジスト塗布、乾燥、露光、現像、エッチングおよびレジスト剥離などの製造プロセスが必要であり、工程が多くかつ複雑である。また、針状体アレイを製造するまでに要するコストが大きく、工程を完了するまでの時間も長いなどの問題がある。
【0013】
特許文献4に記載の作製方法は、加工の微細性に乏しく、これはワイヤーカットを含めた精密機械加工全般に共通する欠点である。針状体構造においては、特に鋭利な先端形状が必要であるが、当該製造方法により製造された針状体アレイには、先端部のみが欠けるという問題がある。
【0014】
上述したように、多くの作製方法が提案されているが、何れの方法も品質とコストの両方を同時に満たすものではない。例えば、針状体アレイに要求される品質とは、針状体の高さ、根元幅、先端角度や表面荒さなどの形状について、および針状体を穿刺した時に破損に至る限界圧力に代表される機械強度についての品質である。
【0015】
一方で特許文献5には、感光性ガラスを加工してインクジェットヘッドを作製する方法が開示される。当該方法では、感光性ガラスの表面にインク流路となる溝のパターンを形成するためのフォトマスクを形成し、紫外線照射と熱処理により結晶部を形成した後に、エッチングを行って溝を形成し、その後、振動板および圧電素子を接着してインクジェットヘッドを得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2002−369816号公報
【特許文献2】特開2005−21677号公報
【特許文献3】特開2005−199392号公報
【特許文献4】特表2006−513811号公報
【特許文献5】特許第3200881号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、要求される高さ、根元幅、先端角度および/または表面粗さなど、形状についての規格を満たす針状体を具備する針状体アレイを容易に形成できる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するための本発明は、
(1)基体と、前記基体の第一の面に形成された針状体とを具備する針状体アレイを製造するための針状体原版の製造方法であって、
感光性ガラスにエネルギー分布を持たせて露光を行うことにより露光部を形成する工程と、
露光後に加熱処理により前記露光部を改質させて改質部を形成する工程と、
等方性エッチングにより前記改質部を除去する工程と、
を備えた針状体アレイ原版の製造方法;
(2)前記露光を行うことが、間歇的かつ同心円状にレーザを照射することにより行われることを特徴とする(1)に記載の方法;
(3)前記露光を行うことが、連続的かつ螺旋状にレーザを照射することにより行われることを特徴とする(1)に記載の方法;
(4)前記等方性エッチングにより改質部を除去することにより、テーパ状の未貫通穴が形成されることを特徴とする(1)〜(3)の何れか1項に記載の方法;
(5)(1)〜(4)の何れか1項に記載の方法により製造された針状体アレイ原版;
(6)(5)に記載の針状体アレイ原版を用いて行う転写成形と、それに続く更なる転写成型により製造された針状体アレイ;
である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、要求される高さ、根元幅、先端角度および/または表面粗さなど、形状についての規格を満たす針状体を具備する針状体アレイを容易に形成できる手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に従う針状体アレイの例および針状体アレイ原版の例を示す概略図。
【図2】本発明に従う針状体の例を示す概略断面図。
【図3】本発明に従う針状体の例を示す概略断面図。
【図4】本発明に従う針状体の例を示す概略断面図。
【図5】本発明に従う針状体アレイの例を示す概略断面図。
【図6】本発明に従う針状体アレイの例を示す概略断面図。
【図7】本発明に従う針状体アレイの例を示す概略図。
【図8】感光性ガラスに対する露光パターンの例を示す図。
【図9】本発明に従う針状体アレイの製造方法の手順を模式的に示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に従うと、針状体アレイを製造するための針状体原版の製造方法、針状体アレイ原版およびそれらにより製造される針状体アレイが提供される。
【0022】
1.針状体アレイ
本発明に従う針状体アレイを図1(a)および(b)に模式的に示す。図1(a)は、本発明に従う針状体アレイの平面図であり、図1(b)は図1(a)を線I−Iに沿って切った断面である。図1(a)および(b)に示すように、本発明に従う針状体アレイ1は、基体2と、前記基体2の第一の面に具備される複数の針状体3を具備する。
【0023】
本発明に従う針状体は、基板上に林立し、アレイ状に配列していることが好ましい。ここで、「アレイ状」とは、各針状体が並んでいる状態を示すものであり、例えば、格子配列、最密充填配列、同心円状に配列、ランダムに配列、などのパターンを含むものとする。
【0024】
また、本発明に従う針状体が基板上に林立しアレイ状に配列している場合、特に、最密充填配列であることが好ましい。最密充填配列とすることで、面積あたりのマイクロニードルの集積率を向上することが出来る。ここで、「最密充填配列」とは、一つのマイクロニードルに対して、他の6つのマイクロニードルを等距離に配置するような配列をいう。
【0025】
当該針状体アレイは、図1(a)および(b)に示された形態に限定されるものではなく、用途によってその形状を自由に設計されてよい。また当該針状体も、形状、寸法、構成する材料なども特に限定されるものではなく、用途および/または仕様に応じて適宜設計を行ってよい。例えば、生理活性物質の経皮吸収を促進する目的や、経皮的に生体内の物質を生体外へ取り出す目的で使用される場合、皮膚穿刺性能の観点から、針状体アレイに具備される針状体の先端が先鋭な錐形状であって、根元幅は数μmから数百μm、長さは数十μmから数百μm程度であり、針状体側壁には括れや段差が無いことが望ましい。
【0026】
本発明に従う針状体の形状の例を、図2〜4に示す。
【0027】
図2に示す針状体201は、(a)側壁角度が中途で変化する錐形状、(b)側壁角度が一定の錐形状、(c)中途まで柱形状で先端が錐形状である。
【0028】
図3に示す針状体301は、(a)左右非対称の側壁角度が中途で変化する錐形状、(b)左右非対称の側壁角度が一定の錐形状、(c)左右非対称の中途まで柱形状で先端が錐形状である。
【0029】
図4に示す針状体401は、(a)中空部を有する錐形状、(b)中空部を有する左右非対称の錐形状である。
【0030】
生理活性物質および/または化粧品組成物を本発明に従う針状体の表面上に塗布する構成の場合、針状体の形状は、生理活性物質および/または化粧品組成物などが、表面状に滞留するような形状となっていることが好ましい。具体的には、例えば、中空の非貫通孔を備えた形状、針状体の側面が内側に湾曲した形状、針状体の側面に流路となる溝を形成した形状、などであっても良い。
【0031】
また、特に、針状体による穿孔の深さを「角質層を貫通しかつ神経層へ到達しない深さ」に留める場合、生理活性物質や化粧品組成物を、角質層より深い位置に送達することが出来る。角質層に形成された穿孔は時間と共に塞がるため、角質層下に送達された生理活性物質や化粧品組成物は外界から角質層にバリアされた状態で生体内に保持される。このため、生理活性物質や化粧品組成物は、角質層の新陳代謝や、スキンケアなどの洗浄により剥落することを低減でき、長期間、化粧状態を維持することが出来る。
【0032】
長期間の化粧状態を維持することが出来ることから、特に、眉、目の周囲、口唇の周囲、など、長期間の色味の保持が求められる部位における化粧品組成物の送達に好適に用いることが出来る。
【0033】
また、特に、針状体による穿孔の深さを「角質層内」に留める場合、生理活性物質や化粧品組成物を、角質層内に滞留させることが出来る。角質層はたえず新陳代謝により新規に生成されるため、角質層内の生理活性物質や化粧品組成物は時間と共に体外へ排出される。このため、皮膚の洗浄や皮膚をピーリングすることなどにより、例えば、化粧状態および付与状態を容易に解除することが出来る。
【0034】
また、本発明の針状体アレイは、皮膚を穿孔するための十分な細さおよび神経層へ到達しない長さを有していることが望ましく、具体的には、針状体の直径は数μmから数百μm程度、針状体の長さは数μmから数百μm程度、であることが望ましい。
【0035】
特に、「穿孔を角質層を貫通しかつ神経層へ到達しない長さ」に留める場合、針状体の長さは、具体的には、200μm以上700μm以下、より好適には200μm以上500μm以下、更に好適には、200μm以上300μm以下程度の範囲内にあることが好ましい。
【0036】
また、特に、穿孔を角質層内に留める場合、針状体の長さは、具体的には、30μm以上300μm以下、より好適には30μm以上250μm以下、更に好適には、30μm以上40μm以下、程度の範囲内にあることが好ましい。
【0037】
また、本発明に従う針状体をアレイ状に配列する場合、各針状体の長さは全て同一でも良いし同一なくてもよい。針状体の長さが異なる場合、例えば、(1)アレイ状の外周のみ長い針状体とすることで、曲面に対し、好適に接触することができる、(2)アレイ状の外周のみ短い針状体とすることで、破損しやすい外周部のマイクロニードルの機械的強度を補強することができる、などの利点が挙げられる。
【0038】
また針状体が、錐形状などの先端角を有する形状の場合、(1)角質層を貫通するときは、先端角は5°以上30°以下、より好ましくは10°以上20°以下の範囲程度が好ましく、(2)角質層内に穿孔を留める場合、先端角は30°以上、より好ましくは、45°以上が好ましい。
【0039】
当該針状体アレイの材料は、針状体を保持するのに充分な機械特性を備えていればよく、特に制限されるものではない。例えば、ステンレス、シリコン、Mg系化合物およびTi系化合物などの金属、例えば、石英およびセラミックスなどの無機材料、例えば、医療用シリコーン樹脂などの生体適合性材料、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリアミノ酸、マルトース、デキストラン、キチンおよびその誘導体、キトサンおよびその誘導体などの生体適合性を有する生分解性材料、並びに、その他の生体適合性と生分解性とを有するポリマーなどの有機材料などであればよい。
【0040】
また、当該針状体アレイを構成する基体と針状体は、同組成の材料により形成しても、異なる組成の材料により形成してもよい。基体と針状体とを同組成の組成物で形成することにより、基体部分と針状体部分を一体成形にて好適に形成することができる。
【0041】
また、基体に可撓性を持たせてもよい。可撓性を有する基板とすることにより、曲面や生体皮膚などの可撓性を有する対象に対して好適に穿刺することができる。また、可撓性を有する基板を用いた場合、当該基板をロール状にすることで、針状体が林立したローラーを形成することができる。
【0042】
基体は、シート状の基体であってもよい。シート状の基体を用いることにより、基体をシリンダーにロール状に積層した状態で保管することができ、製造工程をロール・ツー・ロール方式により連続的に行うことができる。
【0043】
基板は多層の基体であってもよい。複数種の材料を積層することにより、複数の材料の物性を活かした基体とすることができる。例えば、次のような基体の例が挙げられる。(1)上層を針状体と同組成の組成物で形成し、下層を可撓性に富んだ材料としてもよい。(2)上層を下層よりも展性の大きい材料としてもよく、その場合、好適に基体をロール状に曲げることができる利点がある。(3)上層を下層よりも収縮の小さい材料とした基体としてもよく、この場合、好適に基体をロール状に曲げることができる。或いは(4)基体の最下層に柔軟性を有する層を配置してもよい。その場合、針状体アレイを重ねて保管するとき針状体部分の破損を抑制できる。
【0044】
また、本発明に従う針状体アレイは、シート状で皮膚に接触してもよいし、ロール状にしてローラ状の器具に装備させ、皮膚に接触させてもよい。
【0045】
本発明の針状体アレイの例を図5に示す。図5(a)には、針状体アレイ500を構成する基体501と針状体502が同組成の材料により一体成形された場合の針状体アレイ500を示す。
【0046】
図5(b)の針状体アレイ510は、可撓性を有する基体511とその第一の面に突出した針状体512を具備する例を示す。このような針状体アレイ510は、針状体の凹凸反転した版に材料を充填して針状体を成形した後に、当該材料が固化する前にそれを基体材料に固定してもよく、固化した後に当該針状体と基体材料とを固定化してもよい。
【0047】
図5(c)の針状体アレイ520は、基体521の第一の面から突出した針状体524を具備する例である。当該基体521は、針状体524と同組成の材料により一体成形された第一の部分522と当該針状体524とは異なる組成の材料からなる第二の部分523からなる。このような針状体アレイ520は、針状体の凹凸反転した版に材料を充填して針状体と第一の部分とを成形した後に、当該材料が固化する前にそれを第二の部分の基体材料に固定してもよく、当該材料が固化した後に当該針状体および第一の部分と第二の部分のための基体材料とを固定化してもよい。
【0048】
例えば、本発明に従う針状体をキチン、キトサンおよび/またはその誘導体で形成した場合、これらは皮膚を穿孔すると共に生体内で分解される。このとき、分解されたキチン、キトサンおよび/またはその誘導体は皮膚に対し保湿など美容効果を奏することも期待できる。固形状のキチン、キトサンおよび/またはその誘導体は、上述したようなマイクロレベルの微細な寸法で形成されたときであっても、皮膚を穿孔するのに充分な強度を備える。皮膚を穿孔するのに充分な機械強度を備えると同時に皮膚内で保湿効果を示すことは、穿孔する針状体自体をキチン、キトサンおよび/またはその誘導体を用いて形成することにより奏される効果である。
【0049】
また、針状体を組成の異なる複数の相により構成してもよいし、針状体の部位により構成が異なってもよい。一例として、図6に、基底部よりも先端部に生理活性物質および/または化粧品組成物が多く含まれる構成の針状体アレイ600の概略図を示す。図6では、生理活性物質や化粧品組成物が、針状体601の先端部602の部位に基底部603よりも多く含まれる針状体アレイ600の例を示した。図6では、針状体601が2層の場合を例示したが、厳密な2層ではなく、生理活性物質および/または化粧品組成物の濃度が先端部方向に向けてゆるやかに上昇する構成であってもよく、その逆であってもよい。
【0050】
当該針状体に複数の有効成分、例えば、活性物質および/または化粧品組成物を含ませてもよい。例えば、キチン、キトサンおよび/またはその誘導体で、針状体を形成し、更に、当該針状体に更なる活性物質を含ませてもよい。生理活性物質および/または化粧品組成物を当該針状体アレイを形成するキチン、キトサンおよび/またはその誘導体の内部に含有させる場合、生理活性物質および/または化粧品組成物をマイクロカプセルとして調製し、当該マイクロカプセルを針状体の材料、この場合、キチン、キトサンおよび/またはその誘導体と混練して分散した後に、針状体を形成してもよい。生理活性物質および/または化粧品組成物をマイクロカプセル化することにより、マイクロカプセルの外殻に使用した物質の物性などにより、当該生理活性物質および/または化粧品組成物の除放速度を制御することができる。このため、生理活性物質および/または化粧品組成物を長期間滞留させたい場合に特に好適に作用する。
【0051】
当該針状体をアレイ状に配列する場合、針状体の周囲に補助枠を設けてもよい。補助枠の高さを変更することにより、700μm以上の長さを備えた針であっても、穿刺部位を補助枠の高さにより制御することができる。また、補助枠を上面図で見て閉じた図形とした場合、生理活性物質や化粧品組成物を塗布するとき、補助枠の外へ流出することを抑制することが出来る。例えば、そのような補助枠は、林立した針状体の周囲を取り囲むように基体上に設けられればよい。このような針状体アレイの一例を図7に示す。図7の針状体アレイ700は、基体702の第一の面に突出した針状体701を取り囲むように補助枠704が設けられている。このような補助枠は、例えば、針状体を成形するための版に、針状体の凹凸反転パターンと共に所望の形状の補助枠の凹凸反転したパターンを形成し、用いることにより形成することが可能である。補助枠の凹凸反転パターンを版に形成する手段は、それ自身公知の微細加工技術であってよく、例えば、これらに限定するものではないが、リソグラフィ、ウェットエッチング、ドライエッチング、プラズマエッチングおよび反応性イオンエッチングなどのエッチング、レーザー加工、収束イオンビーム、サンドブラストなどのブラスト処理および精密機械加工法などであればよい。
【0052】
以下に、本発明に従う針状体アレイの製造方法について説明するが、以下の方法と共に、従来のそれ自身公知の何れの手段を一緒に利用して当該針状体アレイを製造してもよい。
【0053】
2.針状体アレイ原版
当該針状体アレイは、針状体アレイ原版、即ち、感光性ガラスにエネルギー分布を持たせて露光を行うことにより露光部を形成する工程と、露光後に加熱処理により前記露光部を改質させて改質部を形成する工程と、等方性エッチングにより前記改質部を除去する工程とを備えた方法により製造された針状体アレイ原版を用いて製造することが可能である。図1(c)に示すように、針状体アレイ原版4は、基体5と、前記基体5の第一の面に形成された凹部6を具備する。凹部6は、目的とする針状体アレイ1の第一の面に具備される針状体3のパターンを凹凸反転して得られる形状で基体5に具備されればよい。
【0054】
当該感光性ガラスにエネルギー分布を持たせて露光を行うことにより露光部を形成する工程は、例えば、レーザを用いて行うことが可能である。感光性ガラスに対する照射エネルギー量が大きくなるにつれて、最終的に得られる凹部6の深さが深くなる。従って、凹部6の深度に対応するようにエネルギー分布を持たせて露光を行うことが必要である。
【0055】
凹部6の深度に合わせたエネルギー分布を持たせて感光性ガラスを露光するためには、レーザにより、中心部が最大量の露光量となり、中心部から外側に向かうに従って露光量が小さくなるように照射すればよい。また、当該照射は、基体に具備される凹部の開口部の形状と同心となるように照射するか、当該開口部と凹部の最低部とを結ぶように連続して螺旋状に照射すればよい。例えば、図8(a)に示すように、原版材料801に対して間歇的に複数の同心円状にレーザ照射してもよい。図8(a)には、当該開口部が円形である例を示したが、当該開口部の形状は、円形、楕円形、矩形の何れであってもよい。図8(a)のように同心円状にレーザを走査し、且つ中心部において最大量の露光量で照射し、中心部から外側に行くに従って段階的に照射量を小さくすることにより、図8(b)のような断面を有する凹部802をエッチング後に得ることが可能である。
【0056】
露光を行うレーザの光源として、ルビーレーザおよびYAGレーザなどの固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、He−Cdレーザ、ArレーザおよびHe−Neレーザなどのガスレーザ、InGaAsP系、GaAlAs系、GaAlInP系およびGaN系などの半導体レーザが用いられてよく、分解能を数百nm以下まで向上できるため、フェムト秒レーザおよびエバネッセント光が好ましく用いられる。
【0057】
上述のように感光性ガラスに対して露光することにより露光部を形成した後に、当該露光部をアニール処理することにより改質、即ち、結晶化する。当該結晶化は、電気炉などの手段を用いて行う加熱処理により行ってよい。
【0058】
結晶化を行った後に、エッチング溶液を用いて感光性ガラスの結晶化された部分、即ち、改質部を除去する。ここで使用されるエッチング溶液の例は、弗化水素酸水溶液などを含む。エッチングは、当該エッチング溶液に感光性ガラスを浸漬すればよい。このようなエッチングにより当該感光性ガラスの結晶化部分のみを除去することができ、それにより、当該感光性ガラスに所望の針状体に対応する凹部を未貫通穴として多数形成することが可能である。
【0059】
感光性ガラスを使用して上記のように製造した針状体アレイ原版からの針状体アレイの製造は、当該針状体アレイ原版に針状体アレイ材料を適用して転写成型することにより行ってもよい。或いは、当該針状体アレイ原版を第一の版として用い、これから第二の版を作製し、更に第二の版から第三の版を作製し、当該第三の版から最終産物である針状体アレイを製造することにより行ってもよい。
【0060】
3.針状体アレイの製造方法
当該針状体アレイの製造方法の例を図9に示す。図9は、当該針状体アレイを作製するまでの製造プロセスを模式的に示す断面図である。当該製造方法は、感光性ガラスを加工して第一の版を作製する工程(図9(1))と、転写成形法により第二の版を作製する工程と(図9(2))、第三の版を作製する工程(図9(3))と、第三の版から針状体アレイを作製する工程(図9(4))を具備する。
【0061】
<感光性ガラスを加工した第一の版を作製する工程>
まず、感光性ガラスに対してレーザ光による露光を行う。露光量は、図8(b)に示すようにエッチング後に形成される凹部802の断面形状において鋭利な底部803を有する未貫通穴が得られるように、レーザの照射エネルギー量が中心部で最も大きく、外側にいくほど小さくなるように行えばよい。例えば、凹部802の形状が円錐である場合には、始めに円の中心部分に点照射を行い、次に径の小さい円をレーザ光で描き、徐々に円の径を大きくしていくように露光を行う。このとき照射するレーザ光の出力は、最初の点照射が最も大きく、円の径が大きくなるほど出力を小さくする。
【0062】
このような方法で露光した感光性ガラスに対して、電気炉などでアニール処理を行い、露光部分を結晶化させる。その後、弗化水素酸水溶液に浸漬させることで当該感受性ガラスの結晶化部分のみを除去し、未貫通穴である凹部を多数形成する。これにより、針状体アレイ原版が第一の版901として作製される(図9(1))。
【0063】
<第一の版から第二の版を作製する工程>
次に、図9(2)に示すように、上記工程により作製した第一の版901に対して、熱硬化性樹脂903を充填した後(図9(2)の(a))、加熱処理によって当該樹脂903を硬化し、第一の版901から剥離することにより(図9(2)の(b))、第二の版904を作製する(図9(2)の(c))。このように作製した第二の版904は、第一の版901から転写されて作製されるため、凸形状の針が多数形成された剣山状となっている。即ち、第二の版904は、最終的に得ようとする針状体アレイと同様に基体905と、針状体906とを具備する。
【0064】
熱硬化性樹脂903の好ましい例は、これに限定するものではないが、例えば、シリコーン、アクリル、メラミン樹脂、不飽和ポリエステルおよびポリイミドなどである。
【0065】
<第二の版から第三の版を作製する工程>
図9(3)に示すように、第二の版904に対して、熱硬化性樹脂907を充填し(図9(3)の(a))、加熱処理などによって当該樹脂907を硬化し、剥離することにより(図9(3)の(b))、第三の版908を作製する(図9(3)の(c))。このように作製した第三の版908は、第二の版904から転写されて作製される。従って、第三の版908は、第一の版901と同様の形状を有し、即ち、基体と前記基体の第一の面に形成された凹部とを具備する。
【0066】
熱硬化性樹脂907の好ましい例は、これに限定するものではないが、例えば、シリコーン、アクリル、メラミン樹脂、不飽和ポリエステルおよびポリイミドなどである。
【0067】
<第三の版から針状体アレイを作製する工程>
次に図9(4)に示すように、第三の版908に対して、針状体アレイ材料909を適用して転写成型し(図9(4)の(a))、硬化および剥離することによって(図9(4)の(b))、目的とする針状体アレイ910を得る(図9(4)の(c))。針状体アレイ910は、基体911と前記基体911の第一の面に具備される針状体912とを具備する。
【0068】
当該針状体アレイ材料909は、上述した「1.針状体アレイ」の項で記載した針状体アレイの材料の何れかを用いればよく、好ましくは、例えば、医療用シリコン樹脂、ポリ乳酸およびデキストランなどの生体適合樹脂が使用される。
【実施例】
【0069】
以下に、本発明の具体的な内容を図を用いて説明する。当然のことながら、本発明の実施形態は下記実施例に限定されず、類推できる他の形態をも含むと解されるべきである。
【0070】
例1
(1)第一の版の作製
感光性ガラス(製品名:CM101、住田光学ガラス社製)に対してレーザ光(装置名:CPA−2001、clark−mxr社製)を照射して露光を行った。当該照射は、凹凸転写して得られる最終産物である針状体アレイに具備される針状体の先端が鋭利となるような凹部を感光性ガラスに形成するために、中心部分になるほどレーザの総エネルギー量が多くなるように同心円の複数の円を描くようにレーザ光を照射した。
【0071】
表1に、直径100μmの円錐状の未貫通穴を凹部として作製する場合の露光条件を示す。
【表1】

【0072】
表1に示すように当該露光は、レーザの照射方法、加工直径および出力を段階的に変化させて全5ステップで行った。まず当該凹部の中央に相当する部分に点照射を行い、次に加工直径がそれぞれ25、50、75、100μmとなるように感光性ガラスもしくはレーザのいずれかを同心円状に走査させながら、レーザを照射して露光を行った。このときレーザの出力は、加工後の形状が円錐形となるように最初の点照射のときが最も大きく、円照射では走査する円の直径が小さいときほど露光時のレーザ出力が大きく、円の直径が大きくなるほど出力が小さくなるように設定した。
【0073】
次に露光した感光性ガラスに対して、熱処理を行うことで露光部分を結晶化させた。熱処理は、まず0.5min/℃の速度で510℃まで昇温し、510℃で1時間保持した後、540℃まで昇温し、540℃で1.5時間保持した。
【0074】
最後に結晶化させた部分のみを除去するため、濃度5%、容量500mlの希弗化水素酸水溶液中に当該1時間浸漬させた。その結果、円錐状で底部が鋭利な未貫通穴が凹部として多数形成された第一の版を作製することができた。
【0075】
(2)第二の版の作製
作製した第一の版に対して、熱硬化性樹脂であるシリコーン樹脂を充填した後、加熱処理を行い、樹脂を硬化させた。樹脂を硬化させる加熱処理条件は、温度130℃、時間30分とした。このように作製された第二の版は第一の版から転写されて作製されるため、第二の版には、基体の第一の面に剣山状に多数の円錐状の針状体が形成された。
【0076】
(3)第三の版の作製
上記の手順で作製した第二の版に対して、同様に熱硬化性樹脂であるシリコーン樹脂を流し込んだ後、加熱処理を行って樹脂を硬化させた。樹脂を硬化させる加熱処理条件は、第二の版を作製したときと同様であり、温度130℃、時間30分とした。その後、樹脂を第二の版から剥離させ、第三の版を作製した。このように作製された第三の版の形状は、第一の版と同一形状で、基体の第一の面に底部が鋭利な未貫通穴が凹部として多数形成されたものであった。
【0077】
(4)針状体アレイの作製
上記の手順で作製した第三の版を用いて、生体適合樹脂であるポリ乳酸に転写を行い、針状体アレイを作製した。このように作製された針状体アレイの形状は第二の版と同様であり、基体の第一の面に剣山状に多数の針状体を具備するものである。
【0078】
このようにして作製した針状体アレイを走査型電子顕微鏡にて観察したところ、当該針状体アレイは、全て均一な複数の円錐形の針状体を基体の第一の面に具備することが確認された。
【0079】
例2
例1で得た第三の版に水溶性キトサンを用いて転写を行った。
【0080】
一般的に、キチンはギ酸+ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸+ジクロロエタン、ジメチルアセトアミド+塩化リチウム、メタンスルホン酸、メタノール+塩化カルシウム・2水和物、10%苛性ソーダ水溶液等の溶媒に溶解する。
【0081】
また、キトサンの溶解には強酸を用いることが出来、塩酸、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸等の希薄水溶液に溶解する。
【0082】
以下、一例として、キトサン水溶液の調製について例示する。
【0083】
まず、ジャーファーメンターに蒸留水を7L、原材料キトサン(脱アセチル化度70%)を入れ、氷酢酸180gで溶解する。Bacillus由来エンド型キトナーゼを入れて、pH5.5、40℃で24時間酵素処理した。次に、80℃で酵素失活・粉末活性炭(二村製)5gを加えて、ろ紙(アドバンテック製NoSC)でろ過した。ろ液を凍結乾燥装置で乾燥物620g(黄褐色)を得た。水に再溶解して、キトサン水溶液を得た。上述したキトサン水溶液を第三の版に流して、約30℃の温度で乾燥させた。
【0084】
以上より、本発明の円錐形状の針状体アレイを製造した。
【0085】
例3
例2と同様に、針状体アレイを製造した。本例では、水溶性キトサンの代わりに、キトサンオリゴ糖およびキトサン水溶液を用いた。
【0086】
まず、キトサンオリゴ糖、化粧効果または医薬効果を有する蛋白質、水、を混ぜたゲル状溶液を作成した。次に、該水溶液を第三の版の凹部全体が埋まらない程度に少量供給した。第三の版を減圧下にて、30℃まで加熱した状態で荷重し、乾燥し、第三の版の先端部位にキトサンオリゴ糖が充填された。例2で調整されたキトサン水溶液を先端部位にキトサンオリゴ糖が充填された第三の版に充填し、30℃まで加熱し、乾燥させた。
【0087】
以上より、先端部のみが、キトサンオリゴ糖よりなり、基底部が水溶性キトサンよりなる針状体アレイを製造することが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に従う針状体アレイは、治療および予防などの医療分野、並びに美容分野において、医学的、栄養学的または香粧品学的に利用される活性成分および/または美容成分を目的の部位に送達するために都合よく使用できる。
【符号の説明】
【0089】
1、500、510、520、600、700、910 針状体アレイ
2、5、501、511、521、702、905、911 基体
3、201、301、401、502、512、524、601、701、906、912 針状体
4 針状体アレイ原版
6、802 凹部
801 原版材料
803 底部
901 第一の版
903、907 熱硬化性樹脂
904 第二の版
908 第三の版
909 針状体アレイ材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体の第一の面に形成された針状体とを具備する針状体アレイを製造するための針状体原版の製造方法であって、
感光性ガラスにエネルギー分布を持たせて露光を行うことにより露光部を形成する工程と、
露光後に加熱処理により前記露光部を改質させて改質部を形成する工程と、
等方性エッチングにより前記改質部を除去する工程と、
を備えた針状体アレイ原版の製造方法。
【請求項2】
前記露光を行うことが、間歇的かつ同心円状にレーザを照射することにより行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記露光を行うことが、連続的かつ螺旋状にレーザを照射することにより行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記等方性エッチングにより改質部を除去することにより、テーパ状の未貫通穴が形成されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の方法により製造された針状体アレイ原版。
【請求項6】
請求項5に記載の針状体アレイ原版を用いて行う転写成形と、それに続く更なる転写成型により製造された針状体アレイ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−254814(P2009−254814A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79842(P2009−79842)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】