説明

鉛フリーはんだ合金の製造方法及び半導体装置の製造方法

【課題】現在実用化されている鉛フリーはんだ合金の微細接合部の濡れ性、はんだオーバーボリューム、およびブリッジオーバーリーク性、更には繰返しヒートサイクルによる経時劣化や疲労破断性の改善を目的とし、微小電子部品の微細接合部の接合信頼性を飛躍的に向上させる鉛フリーはんだ合金を提供する。
【解決手段】炭素数が13〜20の有機脂肪酸5〜80重量%を含有する油からなる液温180〜300℃の溶液中に、錫を主成分としこれに銀、銅、亜鉛、ビスマス、アンチモン、ニッケル、ゲルマニウムのいずれか1種以上の金属を添加した溶融鉛フリーはんだ合金を浸漬し撹拌処理し、該鉛フリーはんだ中の酸化物及び不純物を除去することにより、従来にない物理的機械的物性として柔軟で伸び、靭性に優れ、また溶融時の粘性は従来の鉛フリーはんだ合金に較べて明らかに低くはんだぬれ広がり性が良く、微細接合部の接合信頼性の高いはんだ接合を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体パッケージ、電子素子等の実装部材をプリント回路板に回路形成を目的として鉛フリーはんだを用いてはんだ接合する際に、プリント回路板の銅ランドと半導体パッケージ、電子素子等リード端子との間にはんだを介してはんだ接合させる鉛フリーはんだ合金、および該はんだを使用してはんだ接合した半導体装置に関するもので、更に詳しく言えば、現行の鉛フリーはんだ合金よりも物理的機械的物性として遥かに柔軟で伸び、靭性に富み、溶融状態での粘性が低く、ぬれ広がり性が良くて、オーバーボリュームになり難く、狭間隔で隣接するリードへブリッジリークし難く、かつ、はんだ接合した微小接合部の接合信頼性が高いはんだ接合を可能にする鉛フリーはんだ合金、また本発明の該鉛フリーはんだ合金を用いてはんだ接合した半導体装置、及び技術の提供に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器はますます高信頼性化と小型軽量化が要求され、トランジスタ、ダイオード、IC、抵抗器、コンデンサーなどの電子素子、コネクターなどの電子部品をプリント回路板にはんだ接合して搭載して電子回路を形成させ、半導体装置や電子装置として広く使用されているが、これら電子素子、電子部品の小型微小化に伴いはんだ接合部も微細化され、ますます高品質信頼性が要求されている。とりわけプリント回路板と電子素子部品間の微小はんだ接合品質には極めて厳しい信頼性が要求されている。
このため、はんだ接合に使用するはんだ合金側にもはんだ接合強度、とりわけ電子素子、電子部品のリードの接合面積およびピッチの微小化に伴うはんだ接合部の高信頼性が要求されている。
また一方では、近年、環境汚染ならびに人体に対する有害性の問題で鉛の使用禁止または規制化が進み、特に電子部品分野においては鉛を含有しない所謂「鉛フリーはんだ合金」がはんだ付け加工に広く使用されており、特に、錫・銀・銅系はんだ合金、及びそれにアンチモンを添加したはんだ合金(特許文献1)、錫・銀・銅系はんだ合金にニッケルまたはゲルマニウムなどを添加したはんだ合金(特許文献2)などが提案され、実用化されている。このほかにも、錫・亜鉛・ニッケル系はんだ合金及び更に銀、銅、ビスマスなどを添加したはんだ合金(特許文献3)など数多くの各種はんだ合金が提案されている。
しかしながら、これらの鉛フリーはんだ合金は溶融時のぬれ性が良くないため、はんだ接合部面積が微細になると、接合部に必要以上の容量ではんだが盛り上がる所謂「オーバーボリューム」やリード間ピッチが狭小の回路では隣接リードにブリッジオーバーしてリークを生じやすい難点があるばかりか、凝固時のはんだの物理的機械的特性の1つである伸びが小さいために通電on−offに伴う繰返しヒートサイクルによるはんだ接合部の疲労破断による導通不良など生じやすく、微小化した電子機器の接続信頼性を損なうことも多い。
【特許文献1】 特開平5−50286(特許3027441)
【特許文献2】 特開平11−77366(特許3296289)
【特許文献3】 特開平9−94688(特許3299091)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、現在、実用化されている鉛フリーはんだ合金における微小リード・極狭リードピッチ回路の微小部はんだ接合時の難点である上記オーバーボリュームの問題、ブリッジオーバーによる隣接リードとのリークの問題、更には該はんだ接合部の繰返しヒートサイクルによる経時劣化的疲労破断による導通不良の問題を解決することを目的とし、微小電子部品の微細接合部の接合信頼性を飛躍的に向上させる鉛フリーはんだ合金、およびそれを使用することにより微小部のはんだ接合信頼性を飛躍的に向上させた半導体装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、炭素数が13〜20の有機脂肪酸5〜80重量%を含有する油からなる液温180〜300℃の溶液中に、現在、広く実用されている通常の鉛フリーはんだ合金、即ち、錫を主成分としこれに銀、銅、亜鉛、ビスマス、アンチモン、ニッケル、ゲルマニウムのいずれか1種以上の金属を添加した溶融鉛フリーはんだ合金を浸漬し撹拌処理し、該鉛フリーはんだ中の酸化物及び不純物を除去することにより、従来にない物性を持ったぬれ広がり性が良くて、はんだの物理的機械的物性として柔軟で伸び、靭性に優れ、それを用いてはんだ接合した接合部、特に微細接合部の接合信頼性が高いはんだ接合を可能にするはんだ合金、及びそれを使用することにより微小部のはんだ接合信頼性を飛躍的に向上させた半導体装置、及びその技術の提供に関するものである。
【0005】
更に詳しく言えば、本発明で用いる有機脂肪酸は炭素数12以下でも使用可能ではあるが吸水性があり、高温で使用する関係からあまり好ましくない。また、炭素数21以上の有機脂肪酸では融点が高いこと及び浸透性が悪くまた取扱いし難く処理後の該鉛フリーはんだ合金の防錆効果も不充分になる。望ましくは炭素数16のパルミチン酸、炭素数18のステアリン酸が最適であり、そのいずれか1種を10〜70重量%と残部エステル合成油からなる液温180〜300℃の溶液を用いることにより、該鉛フリーはんだ合金内部に存在する酸化物や不純金属を除去し、従来にない物理的機械的化学的物性、特に、柔軟で伸び、靭性に富み、溶融時の粘性が低く(見た目の感覚でも従来の鉛フリーはんだと比較して明らかに「さらさら」感がある)、はんだぬれ性のよい優れた清浄な鉛フリーはんだ合金が得られる。
該有機脂肪酸濃度については10重量%以下でも効果はあるが、補充管理など煩雑なこと、また70重量%以上では液粘度も高くなり、該鉛フリーはんだ合金との撹拌抵抗及び混合浸透性に問題を生じるため、好ましくは10〜70重量%である。液温は使用する鉛フリーはんだ合金の融点で決まり、少なくとも該融点以上の高温領域で有機脂肪酸溶液と溶融した該鉛フリーはんだを激しく撹拌接触させる必要がある。
また上限温度は発煙の問題や省エネの観点から300℃程度であり、望ましくは使用する鉛フリーはんだの融点以上の温度〜270℃である。また、エステル合成油を混合する理由は液粘度を下げて均一な撹拌処理を行うこと及び有機脂肪酸の高温発煙性抑制にあり、その濃度は有機脂肪酸濃度で決まる。
【0006】
撹拌方法は、加熱装置のついたステンレス容器に上記有機脂肪酸とエステル合成油を入れて所定の温度に加温しながら通常のバッチ式ステンレス製インペラ撹拌子などを用いて撹拌して均一に溶液化させ、その中に予め別槽で溶融させた該鉛フリーはんだ合金液を少量ずつ激しく撹拌しながら注入すればよい。撹拌はスタティックミキサーを使うと短時間で該鉛フリーはんだ中の酸化物および不純物の除去が効率的に出来る。
【0007】
鉛フリーはんだ合金の種類は、実際に錫・銀・銅系とそれにニッケル、ゲルマニウムを添加した市販の合金、及び錫・亜鉛系合金にニッケル、銀を添加した合金を中心に上記本発明の有機脂肪酸とエステル合成油で浸漬撹拌処理を実施しその効果を検証したが、これ以外の鉛フリーはんだ合金に該本発明処理を適用すれば同様の効果が得られるものと類推される。
【発明の効果】
【0008】
上記の炭素数が13〜20の有機脂肪酸5〜80重量%と残部エステル合成からなる液温180(使用する鉛はんだ合金材料の融点以上の温度)〜300℃の溶液中に、現在、広く実用されている通常の鉛フリーはんだ合金、即ち、錫を主成分としこれに銀、銅、亜鉛、ビスマス、アンチモン、ニッケル、ゲルマニウムのいずれか1種以上の金属を添加した溶融鉛フリーはんだ合金を注入し浸漬撹拌処理すると、該溶融鉛フリーはんだ合金中に存在する錫酸化物、銅酸化物、銀酸化物、あるいはその他の添加金属の酸化物および微量混入している鉄、鉛、珪素、カリウムなどの酸化不純物が有機脂肪酸のカルボニル基と反応して取り込まれケン化物となり、該鉛フリーはんだ合金内部から分離除去される。
撹拌時間は該鉛フリーはんだ合金の投入量および撹拌機の構造および撹拌条件にもよるが、一般的には10〜60分間程度強撹拌すれば充分である。その後、比重差を利用して反応槽最下部より上記酸化物および大半の不純物が分離除去され清浄化された該鉛フリーはんだ合金を溶融状態で鋳型等に取り出し、凝固させ、通常のはんだ付け装置に投入してはんだ接合すればよい。
【0009】
上述の条件で製造した本発明の鉛フリーはんだ合金の物理的機械的及び化学的特性を調べると、以下の実施例(1〜3)に示した通り、現在広く使われている鉛フリーはんだ合金(比較例1〜3)に較べて、伸び、破断伸びが著しく向上していること、はんだ接合の際のはんだぬれ性も遥かによく、また溶融時の粘性も低く、微小部のはんだ接合に最適な鉛フリーはんだ合金であることが確認された。即ち、リード面積が0.08mmφ、隣接リード間隔が0.08mmの極狭ピッチにおいてもオーバーボリューム、およびブリッジオーバーして隣接リードにリークすることなく、また高低温ヒートサイクルに伴う微小はんだ接合部の疲労破断による電子回路の導通不良もなく、本発明鉛フリーはんだによる接合部の長期接続信頼性が優れていることがわかった。
【実施例および比較例】

【比較例1】
【0010】
銀2.5重量%、銅0.5重量%、残部錫からなる鉛フリーはんだ合金
【比較例2】
【0011】
銀2.5重量%、銅0.5重量%、ニッケル0.01重量%、ゲルマニウム0.005重量%、残部錫からなる鉛フリーはんだ合金
【比較例3】
【0012】
亜鉛8.0重量%、ニッケル0.05重量%、銀1.0重量%、残部錫からなる鉛フリーはんだ合金
【実施例1】
【0013】
上記比較例1と同じ組成の、銀2.5重量%、銅0.5重量%、残部錫からなる鉛フリーはんだ合金を予め溶融させておき、ステアリン酸50重量%と残部エステル合成からなる液温260℃の溶液中に少量ずる滴下しながら上下2段に設置されたステンレスインペラー付回転式撹拌機で激しく撹拌しながら、30分後に処理槽の最下部から還元清浄化された該鉛フリーはんだを取り出し、評価試験に供した。
【実施例2】
【0014】
上記比較例2と同じ組成の、銀2.5重量%、銅0.5重量%、ニッケル0.01重量%、ゲルマニウム0.005重量%、残部錫からなる鉛フリーはんだ合金を予め溶融させておき、パルミチン酸40重量%と残部エステル合成からなる液温255℃の溶液中に少量ずる滴下しながら上下2段に設置されたステンレスインペラー付回転式撹拌機で激しく撹拌しながら、60分後に処理槽の最下部から還元清浄化された該鉛フリーはんだを取り出し、評価試験に供した。
【実施例3】
【0015】
上記比較例3と同じ組成の、亜鉛8.0重量%、ニッケル0.05重量%、銀1.0重量%、残部錫からなる鉛フリーはんだ合金を予め溶融させておき、パルミチン酸40重量%とステアリン酸20重量%と残部エステル合成からなる液温280℃の溶液中に少量ずる滴下しながら上下2段に設置されたステンレスインペラー付回転式撹拌機で激しく撹拌しながら、20分後に処理槽の最下部から還元清浄化された該鉛フリーはんだを取り出し、評価試験に供した。
【0016】
物理的機械的評価方法は、上記比較例1〜3及び実施例1〜3の各鉛フリーはんだ合金をステンレス(SUS 304)製鋳造金型(JIS 6号)を用い、評点間距離 L=50mm、直径 8mmφ、チャッキング部長さ L=20mm、直径 10mmφの試験片を作成し、JIS Z 4421)の試験方法により島津製作所製引張り試験機(AG100型)を用い、室温25℃において、それぞれ繰返し3(n=3)で、荷重負荷速度 5mm/minで試験測定した。
また、化学的物性評価方法は、上記比較例1〜3及び実施例1〜3の各鉛フリーはんだ合金をメニスコグラフによるはんだ濡れ性試験方法によりそれぞれ繰返し5(n=5)でゼロクロス時間を測定した。その際、測定ピンは0.4mmφの純銅線を使用した。
【0017】
その結果は下記[表1]の通り、実施例の清浄化鉛フリーはんだ合金では比較例に較べて物理的機械的特性のうち特に伸びが1.5倍以上大きく、破断し難いことを示唆している。また、はんだ濡れ性でも圧倒的に濡れ易く、溶融状態における粘性、即ち、さらさら感も従来のはんだ合金にない低粘性を保有している。これは、凝固後のはんだ内部結晶組織で見ると、本発明の鉛フリーはんだ合金の場合(実施例1)は結晶粒界が小さい([図1])のに対して、同じ組成で本発明の処理をしていない鉛フリーはんだ合金の場合(比較例2)は柱状結晶の長さが長いことが知見された([図2])。また、伸びの大きさに対して実施例の引張強度は比較例と大差なく、従って、靭性も強靭で長期ヒートサイクル試験での膨張収縮による疲労破壊も生じ難いことが確認された。
【0018】
【表1】

【産業上の利用の可能性】
【0019】
以上の通り、本発明の技術は明らかに従来の鉛フリーはんだ合金にない高い伸びと強靭性、特に微小面積接合部の繰返しヒートサイクル疲労による接合破断リスクが小さく従って微細化する電子機器のはんだ接合の長期高信頼性確保を可能にする鉛フリーはんだ合金として工業的に価値が高い技術である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の鉛フリーはんだ合金(実施例2)の内部断面結晶組織事例
【図2】従来の鉛フリーはんだ合金(比較例2)の内部断面結晶組織事例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント回路板を炭素数が13〜20の有機脂肪酸5〜80重量%を含有する油からなる液温180〜300℃の溶液中に、錫を主成分としこれに銀、銅、亜鉛、ビスマス、アンチモン、ニッケル、ゲルマニウムのいずれか1種以上の金属を添加した溶融鉛フリーはんだ合金を浸漬し撹拌処理することにより、該鉛フリーはんだ中の酸化物及び不純物を除去した電子部品用鉛フリーはんだ合金。
【請求項2】
前記請求項1における有機脂肪酸としてパルミチン酸、ステアリン酸のいずれか1種を10〜70重量%と残部エステル合成油からなる液温180〜300℃の溶液に、錫を主成分としこれに銀、銅、亜鉛、ビスマス、アンチモン、ニッケル、ゲルマニウムのいずれか1種以上の金属を添加した溶融鉛フリーはんだ合金を浸漬し撹拌処理することにより、該鉛フリーはんだ中の酸化物及び不純物を除去した電子部品用鉛フリーはんだ合金。
【請求項3】
プリント回路板を炭素数が13〜20の有機脂肪酸5〜80重量%を含有する油からなる液温180〜300℃の溶液中に、錫を主成分としこれに銀、銅、亜鉛、ビスマス、アンチモン、ニッケル、ゲルマニウムのいずれか1種以上の金属を添加した溶融鉛フリーはんだ合金を浸漬し撹拌処理することにより、該鉛フリーはんだ中の酸化物及び不純物を除去した電子部品用鉛フリーはんだ合金を使用してはんだ接合した半導体装置。
【請求項4】
前記請求項1における有機脂肪酸としてパルミチン酸、ステアリン酸のいずれか1種を10〜70重量%と残部エステル合成油からなる液温180〜300℃の溶液に、錫を主成分としこれに銀、銅、亜鉛、ビスマス、アンチモン、ニッケル、ゲルマニウムのいずれか1種以上の金属を添加した溶融鉛フリーはんだ合金を浸漬し撹拌処理することにより、該鉛フリーはんだ中の酸化物及び不純物を除去した電子部品用鉛フリーはんだ合金を使用してはんだ接合した半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−197315(P2009−197315A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72364(P2008−72364)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(501307343)日本ジョイント株式会社 (5)
【出願人】(506356450)ホライゾン技術研究所株式会社 (8)
【Fターム(参考)】