説明

鉛系圧電材料及びその製造方法

【課題】結晶配向セラミックスの成長のシードとして好適に用いられる鉛系圧電材料を提供する。
【解決手段】上記課題は、粒子状の鉛系圧電材料であって、メジアン径が1μm未満であり、[算術偏差/平均]で表される粒度分布が15%以下であり、全粒子のうち85%以上が立方体形状を有する鉛系圧電材料によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛系圧電材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の鉛系圧電材料は、様々なデバイスに用いられている。
【0003】
特許文献1では、PZTをデバイスに適用する方法の1つとして、PZT粒子を焼結する方法を挙げている。その上で、特許文献1は、PZT粒子の製造方法として一般的な固相法の問題点として、得られるPZT粒子の粒径が大きいので、高い焼結温度が必要であると点を挙げている。
【0004】
特許文献1では、焼結温度を下げるために、小さい粒径を有するPZT粒子を製造する方法を提案している。特に、特許文献1には、Pb(NO水溶液、ZrOCl水溶液、TiCl水溶液、及びKOH水溶液を撹拌することで前駆体粒子を形成し、さらにこの前駆体粒子を水熱処理することでPZT粉末を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−116395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者らは、圧電材料の粒子をシードとして用いることで、配向度の高い結晶配向セラミックスを成長させることができる点に注目している。シードは、テンプレートとも称される。
【0007】
本発明は、二次元整列したときに被覆率が大きく、シードとして好適に用いることのできる鉛系圧電材料を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、シードとして用いることのできる鉛系圧電材料として、サイズが小さく、粒径の均一性が高い新たな鉛系圧電材料を実現した。また、そのような鉛系圧電材料を得るために好ましく用いられる材料を見出した。
【0009】
本発明の第1観点に係る粒子状の鉛系圧電材料は、平均粒子径が5〜30nmの範囲内であり、[算術偏差/平均]で表される粒度分布が10%以下である。この鉛系圧電材料を便宜上、「ナノ粉体」と称することがある。ナノ粉体は、下記第2観点に係る鉛系圧電材料を得るために好ましく用いられる。
【0010】
本発明の第2観点に係る粒子状の鉛系圧電材料は、メジアン径が1μm未満であり、[算術偏差/平均]で表される粒度分布が15%以下であり、全粒子のうち85%以上が立方体形状を有する。
【0011】
本発明の第3観点に係る製造方法は、ナノ粒子を核とし、水熱法によって粒子を成長させることを含む、上記第2観点に係る鉛系圧電材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
メジアン径が1μm未満であり、[算術偏差/平均]で表される粒度分布が15%以下であり、全粒子のうち85%以上が立方体形状を有する、粒子状の鉛系圧電材料は、二次元整列したときに被覆率が大きく、結晶配向セラミックスの製造に好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られたサブミクロン粒子のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.ナノ粉体
本明細書において「ナノ粉体」とは、5〜30nmの範囲内の平均粒子径と、[算術偏差/平均]で表される10%以下の粒度分布と、を有する粒子状の鉛系圧電材料である。つまり、ナノ粉体は、ナノサイズの鉛系圧電材料の粒子(つまりナノ粒子)の集合体である。
【0015】
本明細書において、“鉛系圧電材料”とは、少なくとも鉛(Pb)を含む圧電材料を意味する。
【0016】
本明細書において、“圧電材料”とは、圧力が加えられると電荷が発生する物質及び電界が印加されると変形する物質を包含する。本明細書においては、“圧電”という概念は“電歪”を包含する。
【0017】
鉛系圧電材料は、一般組成式ABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有していてもよい。また、鉛系圧電材料は、酸素を含有してもよく、鉛と酸素以外に2種以上の元素を含有していてもよい。具体的には、鉛系圧電材料は、Aサイト及びBサイトに合計3種以上の元素を含有するペロブスカイト型結晶構造を有していてもよい。
【0018】
より具体的には、鉛系圧電材料は、Pb(Zr,Ti)O3、Pb(Mg、Nb)(Zr,Ti)O3、Pb(Ni,Nb)(Zr,Ti)O3、Pb(Zn,Nb)(Zr,Ti)O3、Pb(Yb,Nb)(Zr,Ti)O3、(Pb,Sr)(Zr,Ti)O3、(Pb,Ba)(Zr,Ti)O3、(Pb,La)(Zr,Ti)O3、(Bi,Pb)(Ni,Nb)(Zr,Ti)O3、(Bi,Pb)(Mg,Nb)(Zr,Ti)O3、(Bi,Pb)(Zn,Nb)(Zr,Ti)O3、(Pb,Sr,La)(Mg,Ni,Nb)(Zr,Ti)O3、PbTiO、Pb(Mg,Nb)TiO、Pb(Ni,Nb)TiO、及びPb(Zn,Nb)TiOから成る群より選択される少なくとも1種の酸化物であってもよい。
【0019】
ナノ粉体に含まれる粒子の径は、例えばSEM(scanning electron microscope)又はTEM(Transmission Electron Microscope)によって観察することで、測定可能である。ここで、粒子の径とは、円相当径を意味し、具体的には、投影面積円相当径(Heywood径)を意味する。
【0020】
ナノ粉体における粒度分布は、例えば、SEMやTEMで円相当径が5nm以上の粒子が視野内に20個〜50個含まれる倍率を選択して、得られた画像データを画像解析式粒度分布ソフトウェアで粒子認識させた後、投影面積円相当径に換算することで算出可能である。
【0021】
また、ナノ粉体における平均粒子径は、円相当径の頻度ヒストグラムを正規分布で近似し、平均粒子径を統計的に算出可能である。
【0022】
ナノ粉体は、後述のサブマイクロ粉体の製造に好適に用いられる。
【0023】
ナノ粉体は、他の物質と混合されていてもよいし、媒体中に拡散していてもよい。
【0024】
なお、後述のサブミクロン粉体の製造に用いるためには、ナノ粉体において、PZT強度比は、好ましくは20%以上であり、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。PZT強度比とは、PZT合成率と言い換えてもよく、2θ=20〜60°のXRD(X‐ray diffraction)プロファイルにおいて、全強度に対してPZT相を示す強度の割合である。
【0025】
2.ナノ粉体組成物
ナノ粉体組成物とは、上述の鉛系圧電材料に含まれる元素のうちの少なくとも1種の元素の酸化物及び水酸化物の少なくとも一方を含有する。つまり、鉛系圧電材料がPb,Zr及びTiを含有する場合、ナノ粉体組成物は、上述の粒子の他に、PbO、Pb(OH)、ZrO、Zr(OH)、TiO及びTi(OH)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有する。
【0026】
ナノ粉体組成物は、水等の媒体を含有していてもよい。酸化物及び水酸化物、並びに上述のナノ粉体が、媒体中に拡散及び/又は溶解していてもよい。
【0027】
ナノ粉体組成物は、後述のサブミクロン粉体の製造に適用される。サブミクロン粉体の製造においてEDTA等のキレート剤が用いられる場合、ナノ粒子組成物中の酸化物又は水酸化物の元素の原子は、キレート剤により、錯体と遊離体との間で平衡状態となるが、余剰の原子が存在することで、サブミクロン粒子の成長速度が適切に調整される可能性がある。
【0028】
3.サブミクロン粉体
本明細書において、サブミクロン粉体とは、1μm未満のメジアン径と、[算術偏差/平均]で表される15%以下の粒度分布と、粒子状の鉛系圧電材料である。サブミクロン粉体の全粒子のうち85%以上が立方体形状を有する。つまり、サブミクロン粉体は、サブミクロンサイズの鉛系圧電材料の粒子(つまりサブミクロン粒子)の集合体である。
【0029】
本明細書において、立方体形状を有する粒子は、完全な立方体以外の略立方体形状を有する粒子も包含する。すなわち、立方体形状を有する粒子は、粒子のある面に垂直な方向からの投影像において、略正方形の辺(略立方体の稜)となる対向する2組の辺を有し、辺にそれぞれの組に直交する2軸の長軸と短軸の比が1.0〜1.1であり、さらに辺の直線部分の長さが、少なくとも略立方体形状の粒子のうち正対する面間隔(すなわち粒子サイズ)の50%以上であり、好ましくは70%以上であり、更に好ましくは80%以上である粒子であってもよい。立方体形状の粒子の頂点部は、丸くなっていてもよいし、カットされた形状で多面体であってもよい。粒子の観察は、SEM又はTEMによって観察可能である。
【0030】
サブミクロン粉体の粒度分布は、一般的な粒度計によって測定可能であり、例えば、後述するように、動的光散乱法によって測定可能である。
【0031】
なお、メジアン径は、D50とも表記される値である。メジアン径を境界値として粉体を2つのグループに分類したとき、それぞれのグループに含まれる粒子の量は同一となる。
【0032】
4.製造方法
サブミクロン粉体の製造方法は、ナノ粒子を核として、水熱法によって粒成長を行うことを含む。
【0033】
水熱法の実行条件は、目的とする鉛系圧電材料の組成及び目的とする粒子の大きさ等に応じて設定される。
【0034】
サブミクロン粉体は、上述のナノ粉体を核として用いる水熱法によって製造されてもよい。
【0035】
ナノ粉体の製造方法としては、高分散反応場を用いる方法が例として挙げられる。すなわち、ナノ粉体の原料を溶質として含む溶液(すなわち原料液)を、薄膜化された、原料の貧溶媒(すなわち薄膜流体)に接触させる。これによって、原料が析出し、ナノ粒子が形成される。原料液と薄膜流体との反応後の液体は、上述のナノ粉体組成に包含される。
ここでいう貧溶媒とは原料液の溶質の溶解度が低い状態であり、溶媒種が異なっていてもよく、同種の溶媒であっても温度や圧力などが異なっていても良い
【0036】
ナノ粉体の製造方法における具体的な条件は、目的とする鉛系圧電材料の組成及び目的とする粒子の大きさ等に応じて設定される。具体的には、高分散反応場を用いる方法において、下記条件:
・温度:室温〜200℃、
・圧力:0.01〜2MPa、
・原料液と薄膜流体の流量比(薄膜流体/原料液):0.5〜12000、及び
・薄膜流体を得るための回転数:30〜3500rpm、
の少なくとも1つの条件が満たされることが好ましい。
【実施例】
【0037】
1.PZT粒子の製造
1−1.核の形成
(実施例1〜10)
酢酸鉛三水和物(関東化学製)及び水酸化カリウム(関東化学製)を含む鉛水溶液;塩化酸化ジルコニウム八水和物(関東化学製)を含むジルコニウム水溶液;塩化チタン水溶液(和光純薬製);水酸化カリウム(関東化学製)を含む水酸化カリウム水溶液を用意した。Pb、Zr及びTiのモル比が、Pb:Zr:Ti=1.1:0.7:0.3となるように、各水溶液を混合することで、原料液Sを得た。
【0038】
原料液Sの成分、薄膜流体Tの成分、反応温度、及び圧力を、表1の実施例1〜10に示すように組み合わせて、PZTを析出させた。
【0039】
析出には、一方が固定ディスクであり他方が回転ディスクからなり、回転ディスクを回転させることで薄膜流体層を形成できる装置が用いられた。このような装置としては、例えば、高分散粒子合成装置ULREA SS−11(エム・テクニック製)を用いることができる。
【0040】
回転ディスクの回転数は500rpmとした。回転ディスクの回転によって薄膜化された流体Tに、原料液Sを合流させることで、PZTを析出させた。合流した後の流体(以下、スラリーUと称する)をすべて回収した。スラリーUは、上述のナノ粉体組成物に該当する。
【0041】
なお、実施例6では、まず上段に示す成分(Pb,Ti及びK)を含有する原料液と薄膜流体とを用いてPbTiOxを形成することで中間溶液を得た。この中間溶液にZr及びKを添加することで、下段に示す成分(PbTiOx,Zr及びK)を含有する原料液が得られた。
【0042】
こうして得られたスラリーUを用いて、後述のPZT粒子の形成を行った。
【0043】
(実施例11)
原料溶Sとして、酢酸鉛(関東化学製)を2-メトキシエタノール(関東化学製)に溶解し、テトライソプロポキシド(高純度化学研究所製)とテトラブトキシジルコニウム(高純度科学研究所製)を加え、さらにアセチルアセトン(関東化学製)を加えて十分撹拌したものに水とイソプロピルアルコール(関東化学製)の混合溶媒(水分1.5wt%)を加えたものを準備した。一方、薄膜流体Tとして純水を用いた。
【0044】
表1に示す条件下で、上述の実施例1〜10と同様の操作によって、スラリーを得た。
【0045】
(実施例12)
PZT微粒子の原料液Sとして、ジイソプロポキシ鉛(高純度化学研究所製)とテトライソプロポキシド、テトラブトキシジルコニウムをイソプロピルアルコールに溶解し、さらにアセト酢酸エチルを加えた後、水イソプロピルアルコール混合溶媒(水分1.5wt%)を加えたものを準備した。一方、薄膜流体Tとして純水を用いた。
表1に示す条件下で、上述の実施例1〜10と同様の操作によって、スラリーを得た。
【0046】
【表1】

【0047】
1−2.粒成長
(実施例1〜12)
酢酸鉛三水和物(関東化学製)、エチレンジアミン四酢酸(関東化学製)、及び水酸化カリウム(関東化学製)を含む鉛水溶液;塩化酸化ジルコニウム八水和物(関東化学製)を含むジルコニウム水溶液;塩化チタン水溶液(和光純薬製);水酸化カリウム(関東化学製)を含む水酸化カリウム水溶液を、Pb、Zr及びTiのモル比がPb:Zr:Ti=1.1:0.7:0.3となるように混合することで、粒成長プロセスのための原料液S’を調製した。
【0048】
スラリーUのpHを調整し、10mlのスラリーUを、20mlの原料液S’と共に、ポリテトラフルオロエチレンで形成された内壁を有し、100mlの容量を有するSUS製の圧力容器に入れた。この圧力容器を用いて、120℃、2時間の水熱合成処理を行うことで、PZT粒子を得た。
以上の操作を、実施例1〜12の各スラリーUを用いて行った。
【0049】
(比較例1)
酢酸鉛三水和物(関東化学製)、エチレンジアミン四酢酸(関東化学製)、及び水酸化カリウム(関東化学製)を含む鉛水溶液;塩化酸化ジルコニウム八水和物(関東化学製)を含むジルコニウム水溶液;塩化チタン水溶液(和光純薬製);並びに水酸化カリウム(関東化学製)を含む水酸化カリウム水溶液を、Pb,Zr及びTiのモル比がPb:Zr:Ti=1.1:0.7:0.3となるように混合することで、原料液を調製した。30mlの原料液を、内壁がポリテトラフルオロエチレンであるSUS製の100mlの圧力容器に入れて、165℃、4時間の水熱合成処理を行うことで、PZT粒子を得た。
【0050】
(比較例2)
酢酸鉛三水和物(関東化学製)、エチレンジアミン四酢酸(関東化学製)、及び水酸化カリウム(関東化学製)を含む鉛水溶液;塩化酸化ジルコニウム八水和物(関東化学製)を含むジルコニウム水溶液;塩化チタン水溶液(和光純薬製);並びに水酸化カリウム(関東化学製)を含む水酸化カリウム水溶液を、モル比がPb,Zr及びTiのモル比がPb:Zr:Ti=1.1:0.7:0.3となるように混合した。さらに、ゼラチン(ゼライス製)2.5wt%を加えて、分散機で十分撹拌することで、原料液を調製した。30mlの原料液を、内壁がポリテトラフルオロエチレンであるSUS製の100mlの圧力容器に入れて、165℃、4時間の水熱合成処理を行うことで、PZT粒子を得た。
【0051】
2.評価
2−1.核粒子について
上記1−1で得られたスラリーについて、X線回折装置(PANalytical製X‘Pert MPD Pro)により、2θ=20〜60°におけるXRDプロファイルを得た。2θ=20〜60°における全強度に対するPZT相強度比を、PZT合成率として算出した。
【0052】
電界放出型電子顕微鏡(日本電子製 JSM−7000F)にて円相当径がおよそ5nm以上の粒子が視野内に20個〜50個含まれる倍率を選択して、得られた画像データを画像解析式粒度分布ソフトウェア(Mountech社製Mac-View)で粒子認識させ、投影面積円相当径を粒子径として測定した。平均粒子径を、頻度ヒストグラムの正規分布近似から統計的に算出した。
【0053】
また、同様に統計的に偏差を算出し、粒度分布の指標として式(1)のように偏差を平均粒子径で除することで粒度分布を算出した。
粒度分布=近似した正規分布の偏差/近似した正規分布の平均 (1)
【0054】
2−2.成長後のPZT粒子
成長後のPZT粒子の粒度分布をスペクトリス社製動的散乱式粒度分布測定装置ゼータサイザーナノnano−ZSで測定し、得たデータからメジアン径および粒度分布を求めた。
【0055】
さらにPZT粒子の形状を、電界放出型電子顕微鏡(日本電子製 JSM−7000F)によって確認した。PZT粒子を分散させて粒子が重ならないようにSEM試料台に薄く広げた状態で20個〜50個含まれる倍率を選択して観察し、得られた画像データから立方体形状の粒子の割合を算出した。得られた画像を、画像解析式粒度分布ソフトウェアで粒子の投影面積σ、投影周囲長λ、外接円面積Σを求め、円形度(=4πσ/λ)と外接円面積に対する投影面積比(=σ/Σ)を算出した。円形度が1.092以上かつ、面積比0.637以上のものを選別し、そのうち投影像において平行に対向する辺が偶数組である粒子を立方体形状として割合を算出した。
【0056】
結果を表2に示す。また、実施例1のPZT粒子の画像を図1に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2及び図1に示すように、実施例1〜12の核粒子は、平均粒子径が5〜30nmの範囲にあり、粒度分布が10%以下であった。また、これらを核として成長させたPZT粒子は、メジアン径がサブミクロンオーダーで、かつ粒度分布が15%以下であり、全粒子のうち85%以上が立方体形状を有する鉛系圧電材料であった。
【0059】
また、得られた粒子の長軸と短軸の比は1.0〜1.1であり、略正方形の辺の長さが粒子サイズの80%以上であることを確認した。一方、比較例2では、20%以上の粒子が略立方体形状ではなく球状または、球や立方体が崩れた不完全な形状であることを確認した。
【0060】
3.配向セラミックスの製造
上記1−2で得られたPZT粒子の配向セラミックスのシードとしての特性を評価するために、PZT粒子の二次元整列処理をおこない、面内の被覆率から粒子の充填程度を評価した。具体的な作製方法は次の通りである。
【0061】
サイズ30mm×30mm、厚さ150μmのジルコニア基板上に、幅1mm、長さ40mm、厚さ10μmの白金成形体をスクリーン印刷により形成し、電気炉を用い1350℃で焼付けることにより基板上に白金電極(第1電極)を形成した。また、30mlの純水に0.01mol/l(リットル)となるようにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムとピロールとを添加してピロール水溶液を作製した。作製した水溶液をビーカーに入れ、この水溶液へ、水熱合成法で作製した粒径3μmの立方体形状のPZT粒子を1重量%投入し、ホモジナイザーで分散処理した懸濁液(スラリーモノマー溶液)を調製した。
【0062】
次に、この溶液を入れたビーカーの底に上述のジルコニア基板を置き、PZT粒子が沈降堆積するまで10分間静置した。次に、基板に対して平行になるようにSUS製の対向電極を電極間隔1mmで設置し、基板上の白金電極をマイナス極、対向電極をプラス極となるように電源に接続して、ピーク電圧5Vで2Hzの三角波を30回印加してポリピロールを白金電極上に合成した。
【0063】
ポリピロールが成膜された基板を水溶液中で揺動して余分な粒子を粗除去したのち、純水中で超音波洗浄して、白金電極以外に付着したPZT粒子を除去した。こうして、白金電極上のみにPZT粒子を膜状に固着した固着層を有する粒子固着体が得られた。被覆率(電極の単位面積あたりに被覆している粒子の割合)を、固着層を形成した第1電極の表面をSEMで観察し、画像解析により電極面積あたりの粒子の被覆面積を数値化して求めた。その結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
表3のように、実施例1のサブミクロン粉体を用いた方が、比較例2の粉体を用いるよりも、高い被覆率を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明が提供するサブミクロンオーダーの粒子状の鉛系圧電材料は、立方体形状を有し、粒度分布が小さい。このような鉛系圧電材料は、二次元的に整列しやすい性質をもつので、配向セラミックスの成長のシードとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の鉛系圧電材料であって、
平均粒子径が5〜30nmの範囲内であり、
[算術偏差/平均]で表される粒度分布が10%以下である、
鉛系圧電材料。
【請求項2】
鉛と酸素以外に2種以上の元素を含有する、
鉛系圧電材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鉛系圧電材料と、
前記鉛系圧電材料に含まれる元素のうちの少なくとも1種の元素の酸化物及び水酸化物の少なくとも一方と、
を含有する圧電材料組成物。
【請求項4】
粒子状の鉛系圧電材料であって、
メジアン径が1μm未満であり、
[算術偏差/平均]で表される粒度分布が15%以下であり、
全粒子のうち85%以上が立方体形状を有する、
鉛系圧電材料。
【請求項5】
鉛と酸素以外に2種以上の元素を含有する、
請求項4に記載の鉛系圧電材料。
【請求項6】
請求項4に記載の鉛系圧電材料の製造方法であって、
ナノ粒子を核として水熱法によって粒子を成長させることを備える、
製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の鉛系圧電材料を前記核として用いる、
請求項6に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−96962(P2012−96962A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246730(P2010−246730)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】