説明

鉛蓄電池用極板群の製造方法および前記極板群を用いた鉛蓄電池

【課題】耳部とストラップ間にフィレットが良好に形成された高品質の鉛蓄電池用極板群を製造する。
【解決手段】複数の正極板1および負極板2の耳部1a、2aにSn層またはPb−Sn合金層5を形成し、正極板1の耳部1a同士および負極板2の耳部2a同士をそれぞれ溶接する鉛蓄電池用極板群の製造方法において、前記Sn層またはPb−Sn合金層を塩化錫/塩酸系浴または塩化錫+塩化鉛/塩酸系浴を用いた置換メッキ法により形成し、かつ耳部同士の溶接をフラックスを用いずに行う。ストラップの形成に先立ち、耳部にSn層またはPb−Sn合金層を置換メッキ法により形成するので、耳部に残存するペーストや酸化皮膜は置換メッキ浴中で溶解または還元して除去される。従ってSnまたはPb−Sn合金層が耳部に良好に置換メッキされる。また前記置換メッキ層は鉛合金溶湯との濡れ性がよいため耳部とストラップ間にフィレットが良好に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高品質な鉛蓄電池用極板群の製造方法および前記極板群を用いた長寿命の鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池用極板群は、例えば、図3に示すように、複数の正極板1と複数の負極板2とをセパレータ3を介して交互に積層し、この積層体の正極耳部1a同士と負極耳部2a同士をそれぞれ溶接したものであり、前記溶接部はストラップ7と称する。図中8は極柱である。
【0003】
前記溶接は、図4に示すように、極板1、2を倒立させて耳部1a、2aを鋳型9内の溶融鉛10に浸漬し、溶融鉛10を耳部1a、2aの周囲に冷却凝固させるキャストオン方式(以下COS方式と称す。)、或いは耳部に鉛棒を配置し、この鉛棒をバーナー加熱により溶融し凝固させるバーナー溶接法などにより行われている。前記COS方式は極板群を電槽に挿入後に行うこともできる。
前記COS方式は、ストラップ7と一緒に極柱8或いはセル間接続体も形成でき、また溶融鉛10の温度管理が容易であり、さらに自動化も可能なため広く用いられている。
【0004】
前記溶接に当たっては、活物質充填時に耳部に付着したペースト或いは熟成や乾燥時に生成した酸化皮膜は予め除去するが、除去が不十分な場合は溶融鉛10の濡れ性が悪化し、図5に示すように耳部2aとストラップ7間に隙間11が生じた。
【0005】
また溶融鉛10の濡れ性を良くするため両極耳部1a、2aにフラックスを塗布した場合は、溶接熱でフラックスがガス化してストラップ7にブローホール(図示せず)が発生することがあった。
そして隙間11やブローホールは耳部1a、2aとストラップ7間の接合強度を低下させ、また電池使用中に隙間11やブローホールに電解液が侵入して両極耳部1a、2a或いはストラップ7が腐食するといった問題があった。これらの問題はCOS方式でもバーナー加熱方式でも同じように発生し、電池寿命の低下の原因になっていた。
【0006】
このようなことから、耳部をPb−Sn合金溶湯に浸漬して耳部にPb−Sn合金層を形成してから溶接する方法(特許文献1)、或いは前記耳部浸漬時にPb−Sn合金溶湯に超音波振動を付与する方法(特許文献2)が提案された。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−264864号公報
【特許文献2】特開平6−52846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2の方法では、耳部の表面皮膜を合金溶湯浸漬法で形成するため、耳部に残存したペーストや酸化皮膜を十分除去できず耳部とストラップの耐食性を安定して高めることは難しい。特許文献1では耳部とストラップの機械的強度は上がっているが断面組織観察では内部欠陥が多く存在している。
本発明は、耳部とストラップ間にフィレットが良好に形成された高品質の鉛蓄電池用極板群を製造する方法および前記極板群を用いた長寿命の鉛蓄電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載発明は、複数の正極板および負極板の耳部にSn層またはPb−Sn合金層を形成し、前記正極板の耳部同士および負極板の耳部同士をそれぞれ溶接する鉛蓄電池用極板群の製造方法において、前記耳部にSn層またはPb−Sn合金層を塩化錫/塩酸系浴または塩化錫+塩化鉛/塩酸系浴を用いた置換メッキ法により形成し、かつ前記耳部同士の溶接をフラックスを用いずに行うことを特徴とする鉛蓄電池用極板群の製造方法である。
【0010】
請求項2記載発明は、前記耳部同士の溶接を、前記耳部を予熱して行うことを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池用極板群の製造方法である。
【0011】
請求項3記載発明は、請求項1または2記載の製造方法により製造された鉛蓄電池用極板群が用いられていることを特徴とする鉛蓄電池である。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、耳部の溶接(ストラップの形成)に先立ち、耳部にSn層またはPb−Sn合金層を置換メッキ法により形成するので、耳部に残存するペーストや酸化皮膜は置換メッキ浴中で溶解または還元され十分除去される。従って、Sn層またはPb−Sn合金層が耳部に良好に置換メッキされる。また前記置換メッキ層は鉛合金溶湯との濡れ性がよいため耳部とストラップ間にフィレットが良好に形成される。また本発明では、フラックスを用いないためブローホールが発生しない。従って本発明によれば、耳部とストラップ間の接合強度が高く、かつ耳部およびストラップが腐食し難い高品質の鉛蓄電池用極板群が得られる。前記高品質の極板群を用いた本発明の鉛蓄電池は長寿命である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、図1(イ)に示すように、複数の正極板1および負極板2をセパレータ3を介して積層した積層体の各極板の耳部1a、2aを塩化錫/塩酸系浴または塩化錫+塩化鉛/塩酸系浴4に浸漬して、図1(ロ)に示すように、各極板の耳部1a、2aにSn層またはPb−Sn合金層5を置換メッキし、その後、前記正極板1の耳部1a同士および負極板2の耳部2a同士をフラックスを塗布せずにCOS方式(図4参照)またはバーナー溶接法により溶接する鉛蓄電池用極板群の製造方法である。
【0014】
本発明において、耳部にSn層またはPb−Sn合金層を、塩化錫/塩酸系浴または塩化錫+塩化鉛/塩酸系浴を用いた置換メッキ法により形成する理由は、前記塩酸系浴により耳部に残存するペーストや酸化皮膜が十分除去され、耳部と溶融鉛の濡れ性が向上し、図2に示すように、耳部2aとストラップ7の接合部にフィレット6が良好に形成され、耳部2aとストラップ7間に隙間が生じなくなるためである。
【0015】
本発明において、置換メッキ中に、置換メッキ浴に超音波振動を付与することにより、ペーストや酸化皮膜がより十分に除去される。
【0016】
本発明において、正極板の耳部同士および負極板の耳部同士の溶接には、任意の方法が適用できるが、作業性に優れるCOS方式またはバーナー溶接法を推奨される。特にCOS方式は溶接温度を管理し易いなどの利点を有し望ましい。
【0017】
本発明において、溶接時にフラックスを塗布しない理由は、フラックスが溶接熱でガス化してブローホールが発生し、耳部とストラップ間の接合強度が低下し、さらに電池使用中に前記ブローホールに電解液が侵入して耳部およびストラップが腐食するためである。
【0018】
本発明において、溶接前に耳部を予熱しておくと、溶融鉛の湯流れ性が向上し、耳部にフィレットがより良好に形成され望ましい。
【実施例1】
【0019】
ペーストおよび酸化皮膜が残存している正極板3枚および負極板4枚をガラス繊維を抄造したリテーナマット(セパレータ)を介して交互に積層し、この積層体の極板の耳部にSn層またはPb−50%Sn合金層を塩酸系浴を用いて10〜15μm厚みに置換メッキし、水洗、乾燥後、同極性耳群同士をPb−15%Sn合金溶湯を用いたCOS方式により群溶接して鉛蓄電池用極板群(図3参照)を製造した。耳部へのフラックス塗布および耳部の予熱は行わなかった。
【0020】
得られた極板群について、耳部とストラップ間の隙間の有無、ストラップにおけるブローホールの有無を調べた。
【実施例2】
【0021】
前記群溶接を置換メッキ後の耳部を予熱して行った他は、実施例1と同じ方法により極板群を製造し、実施例1と同じ調査を行った。
【0022】
[比較例1]
前記溶接を耳部にフラックスを塗布し、また耳部を予熱して溶接した他は、実施例2と同じ方法により極板群を製造し、実施例2と同じ調査を行った。
【0023】
[比較例2]
耳部にSn層またはPb−Sn合金層を形成せず、耳部にフラックスを塗布した他は、実施例2と同じ方法により極板群を製造し、実施例2と同じ調査を行った。
【0024】
[比較例3]
耳部にSn層またはPb−Sn合金層を、従来の合金溶湯浸漬法により形成した他は、実施例2と同じ方法により極板群を製造し、実施例2と同じ調査を行った。
【0025】
実施例1、2および比較例1〜3の調査結果を表1に示す。
表1には、耳部とストラップ間に隙間が存在した極板群(フィレット不良)の個数、およびストラップにブローホールが存在した極板群(ブローホール不良)の個数を示した。調査個数(n)は各20個とした。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、本発明例品(実施例1、2)はフィレット不良(図5参照)個数が1以下であった。これは溶接前にSn層またはPb−Sn合金層を置換メッキ法により形成したため、ペーストや酸化皮膜が置換メッキ浴中で除去されたためである。またフラックスを用いなかったためブローホール不良の個数は0であった。特に耳部を予熱したもの(実施例2)は鉛合金溶湯の湯流れ性が向上しフィレットが極めて良好に形成された。
【0028】
一方、比較例1はフラックスを塗布したためブローホール不良が2〜3個発生した。比較例2はSn層またはPb−Sn合金層を形成せず、しかもフラックスを塗布したため、フィレット不良が6個、ブローホール不良が4個発生した。比較例3はSn層またはPb−Sn合金層を溶湯浸漬法により形成したためペーストおよび酸化皮膜が除去されずフィレット不良が3〜4個発生した。
【実施例3】
【0029】
実施例1、2で製造した極板群のうちフィレットが良好に形成された極板群を用いて、2V、定格容量7Ahの制御弁式鉛蓄電池を組み立ててサイクル寿命試験を行った。
前記サイクル寿命試験は、前記制御弁式鉛蓄電池を25℃の恒温槽に入れて、放電0.25C×2時間(DOD50%)、充電0.1C×6時間、充電量120%の条件で行った。定格容量の70%を切った時点のサイクル数が400回以上をサイクル寿命特性が優れると判定した。試験個数は各2個ずつとした。
【0030】
その結果、いずれの制御弁式鉛蓄電池も前記サイクル数が400回以上であり、サイクル寿命特性に優れることが確認された。試験後の電池を解体して極板群を調べたが、耳部とストラップ間の剥離や腐食などは全く認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(イ)は本発明で用いる置換メッキ方法の実施形態を示す斜視説明図、(ロ)は置換メッキ後の極板の実施形態を示す斜視説明図である。
【図2】本発明で製造される極板群の耳部とストラップ間の接合状態の実施形態を示す縦断面説明図である。
【図3】鉛蓄電池用極板群の斜視説明図である。
【図4】COS方式によるストラップの形成方法の側面説明図である。
【図5】従来の極板群の耳部とストラップ間の接合状態を示す縦断面説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 正極板
1a正極板の耳部
2 負極板
2a負極板の耳部
3 セパレータ
4 塩化錫/塩酸系浴または塩化錫+塩化鉛/塩酸系浴
5 Sn層またはPb−Sn合金層
6 フィレット
7 ストラップ
8 極柱
9 鋳型
10溶融鉛
11耳部とストラップ間の隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の正極板および負極板の耳部にSn層またはPb−Sn合金層を形成し、前記正極板の耳部同士および負極板の耳部同士をそれぞれ溶接する鉛蓄電池用極板群の製造方法において、前記耳部にSn層またはPb−Sn合金層を塩化錫/塩酸系浴または塩化錫+塩化鉛/塩酸系浴を用いた置換メッキ法により形成し、かつ前記耳部同士の溶接をフラックスを用いずに行うことを特徴とする鉛蓄電池用極板群の製造方法。
【請求項2】
前記耳部同士の溶接を、前記耳部を予熱して行うことを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池用極板群の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法により製造された鉛蓄電池用極板群が用いられていることを特徴とする鉛蓄電池。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−227118(P2007−227118A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46144(P2006−46144)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】