説明

鉛蓄電池

【課題】高温下で使用される鉛蓄電池の負極ストラップ近傍の極板耳の腐食を防止する。
【解決手段】負極ストラップ6の下面と隔離体5の上端との間隙を、ガラスマット4を隔離体の構成要素として併用する場合は6mm以上とし、ガラスマット4を隔離体の構成要素として併用しない場合は、4mm以上とする。かかる構成によって、厳しい使用条件下でも負極耳の腐食が防止でき、鉛蓄電池の信頼性と安全性を確保することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,安全で信頼性の高い鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は,安価,高信頼性などによって,自動車用,据置用,電気車用など多くの分野で使用されている。
【0003】
一方,鉛蓄電池が使用される環境は,最近,特に厳しくなってきている。たとえば,自動車用鉛蓄電池が使用されている自動車においては,クーラー装着率の増加やエンジンの高出力化などにより熱発生量が増える一方,スラントノーズ化や各種電装品の高密度配置による冷気流入不足によって,ボンネット内に設置されている鉛蓄電池が高温にさらされやすくなっており,夏期には100℃近くまで上昇することが観察されている。
【0004】
さらに,オルタネータの出力アップによる充電電流の増加によって鉛蓄電池の一層の高温化や過充電が引き起こされる。その上,リヤ・ワイパーやパワー・ウインドウなどの電動装置の増加や,オーディオ機器などのアクセサリーの増加並びにコンピュータ化による暗電流の増加などによって,鉛蓄電池がより一層深く放電される傾向にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの高温,過充電,深放電という要因は,鉛蓄電池の寿命を短くするものであり,いずれもけっして好ましいものではないが,その中でも,特に,高温化は重要な問題である。なぜなら,高温下で長時間使用されると極板の劣化が助長されるだけでなく,場合によっては,ストラップ下面近傍の負極板耳が異常に腐食されることがあるからである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は,負極板耳の腐食を防止すべく,多数の試験を行い,その試験中の電池,特に電解液中の負極ストラップ近傍の様子を,特別に製作した耐酸性を有する鉛蓄電池内部観察用装置で克明に観察し,その結果を詳細に解析することによって,ガラスマットを構成要素としない隔離体を用いた場合には隔離体上端から負極ストラップ下面までの距離が4mm以上となるように,ガラスマットを構成要素とする隔離体を用いた場合には隔離体上端から負極ストラップ下面までの距離を6mm以上となるようにすることによって,上述のような厳しい状況下で使用された場合にでも,負極板耳の腐食を防ぐことが可能であることをあきらかにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば厳しい使用条件下でも負極耳の腐食が防止でき,鉛蓄電池の信頼性と安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】一般的な自動車用鉛蓄電池の負極ストラップ断面および正極板・隔離体の各位置を示した模式図である。
【図2】図1の部分を拡大した摸式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は一般的な自動車用鉛蓄電池の負極ストラップ断面および正極板・隔離体の各位置の模式図を示したものである。図2は図1の部分を拡大したものである。
【0011】
1,2はそれぞれ負極板および正極板,5は隔離体である。図2の拡大図に示したように,隔離体5は抄紙体3(厚さ0.3mm)とガラスマット4(厚さ0.7mm)とから成っており,ガラスマット4は正極板2に当接されている。抄紙体には合成繊維とシリカとを主成分とするものを抄紙したものを用いた。抄紙体にはリブは形成されていない。また,1aは負極板耳である。極板ピッチ(同極性の極板の厚さ方向の中心間の距離)は5.5mmとした。
【0012】
ここで正極に鉛−1.7重量%アンチモン−0.25重量%砒素−0.015重量%セレンおよび微量の不純物を含む合金からなる鋳造格子を,負極に鉛−0.065重量%カルシウム−0.5重量%錫−0.007重量%アルミニウム合金からなる圧延シートをエキスパンド加工した格子を用い,ストラップは鉛−2.2重量%アンチモン−0.25重量%砒素−0.015重量%セレンからなる合金を用いてキャスト・オン・ストラップ(COS)法によって形成した一般的な自動車用鉛蓄電池を準備した。なおこの時,負極板耳1aの長さを種々変え,隔離体上端から負極ストラップ下面までの距離Aを2,4,6,8,10mmと変えたものを作製した。当然ではあるが,正極板耳の長さも負極板耳長さと同様に変わっている。
【0013】
次に,これらの電池を水槽中,14.8Vの定電圧で8週間連続通電した。試験を促進させるため,水槽温度を80℃,電解液比重を1.40(20℃換算)とした。高温下での試験のため,水の分解・蒸発が激しく,試験中は1日1回,上部の規定液面線(アッパーレベル)まで補水した。また,試験中は電解液中の負極ストラップ近傍の様子を,特別に製作した耐酸性を有する鉛蓄電池内部観察用装置で克明に観察した。試験後,電池を解体し,負極ストラップ下面近傍の負極耳の腐食状態を観察するとともに,試験中の負極ストラップ近傍の様子と比較しながら詳細に解析した。
【0014】
解析結果を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
表1から明らかなように,隔離体上端から負極ストラップ下面までの距離Aが4mm以下の場合には負極ストラップ下面でのガス溜りが多く,負極耳の腐食の程度も中〜大であったが,Aが6mmになるとガス溜りも少なくなり,負極耳の腐食も少なくなって,実用上問題になるレベルではなくなった。Aがさらに8,10mmと長くなると,ガス溜りもわずかになり,負極耳の腐食もわずかになった。
【0017】
Aが長くなるとガス溜りが少なくなるのは,充電中に正および負極板から発生する酸素および水素ガスがストラップ下面に溜まらずに,それ以外の部分へ放散するチャンスが多いためではないかと推測される。また,ガス溜りが多いほど負極耳の腐食が激しい理由は明確になってはいないが,次のように考えられる。すなわち,ガスが溜まることによって負極耳表面が十分な電解液で覆われることがなくなり,ごく薄い電解液の皮膜によって覆われることになる。その結果,充電中であっても負極耳表面は充分陰極側に分極されず,鉛/硫酸鉛の平衡電位付近に置かれる。すると,形成される硫酸鉛の皮膜が不安定で,発生するガス等によってより一層破壊されやすくなる。
【実施例2】
【0018】
実施例1と同様な鉛蓄電池を用い,同様な試験を行った。ただし,鉛蓄電池の正極には鉛−0.065重量%カルシウム−1.3重量%錫−0.01重量%アルミニウム合金からなる圧延シートをエキスパンド加工した格子を用い,隔離体にはガラスマットを使用せず,負極板に当接する面には比較的低く(約0.25mm),かつピッチが約5mmの細かなリブを設け,正極板に当接する面には比較的高くて(約0.5mm),ピッチが約10mmの粗いリブを設けた微多孔性ポリエチレン(基板厚さ 0.25mm)を用いた。また,この微多孔性ポリエチレンを袋状にし,その中に負極板を入れた。
【0019】
解析結果を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
実施例1の場合と同様,Aが長くなるほど負極ストラップ下面でのガス溜りが少なく,負極耳腐食も少なくなる傾向がみられたが,本実施例の場合には,Aが4mmと比較的短くてもガス溜りが少なく,実用上問題になるレベルではなかった。
【0022】
傾向が同じとは言うものの,実施例1の場合よりAが短くても負極ストラップ下面でのガス溜りが少なかった理由は明らかではないが,本実施例の隔離体はガラスマットを構成要素とせず,また,リブを設けているため,ガラスマットを構成要素とする隔離体で極板を圧迫している場合に比べ,発生した酸素ガスあるいは水素ガスがより速やかに放散したためではないかと推測される。
【符号の説明】
【0023】
1. 負極板
1a.負極板耳
2. 正極板
3. 抄紙体
4. ガラスマット
5. 隔離体
6. 負極ストラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスマットを構成要素としない隔離体を用い、隔離体上端から負極ストラップ下面までの距離が4mm以上となるようにしたことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
ガラスマットを構成要素とする隔離体を用い、隔離体上端から負極ストラップ下面までの距離を6mm以上となるようにしたことを特徴とする鉛蓄電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−218222(P2009−218222A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123639(P2009−123639)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【分割の表示】特願平9−195162の分割
【原出願日】平成9年7月3日(1997.7.3)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】