説明

銅含有3成分および4成分カルコゲニド薄膜を製造する方法

試薬溶液から固体膜を基材上に堆積するための装置は、試薬溶液内における均一反応を阻害するのに十分低い温度に保った試薬溶液の貯槽を備える。冷却した溶液は、シャワーヘッドにより、一度に、基材上に分注される。シャワーヘッドの1つが試薬溶液を微細ミストとして送達するようにネブライザーを含むのに対して、他のシャワーヘッドは試薬を流れるストリームとして送達する。基材の下に配置されたヒータは、試薬溶液からの所望の固体相の堆積が開始され得る温度に基材を昇温して保つ。各試薬溶液は、少なくとも1種の金属およびSもしくはSeのいずれかまたは両方を含有する。試薬溶液の少なくとも1つは、Cuを含有する。該装置およびそれに関連する使用方法は、Cu含有化合物半導体の膜を形成するために特に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の表面を、エレクトロニクスを含む種々の用途のために半導体材料、金属、または絶縁体で化学的にコーティングするシステムおよび方法に関する。より特定すれば、本発明は、光起電性のデバイスおよび他の用途のために、銅を含有するカルコゲニド化合物膜を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的用途においては、電気を使用しない化学的、化学的蒸着、および物理的蒸着のような多数のコーティング・プロセスが一般的に使用される。物理的蒸着は、半導体製造用途において一般的に使用され、比較的高い膜成長速度を維持するために、しばしば費用のかかる真空技法を用いる。多くのそのようなプロセスは、高温で(例えば、300℃を超える)実施されるが、非平衡であり、しばしば非化学量論比率を生じる。また、堆積プロセスの性質が原因で、堆積した膜は、比較的高い欠陥密度を含むことが多い。半導性デバイスの場合、そのような高い欠陥レベルは、電気的性能特性に限界を設ける可能性がある。部分的真空中で1つの膜を第2の膜または導電率が異なるタイプの基材上に堆積することによりpn接合を形成する半導体デバイス製作において、従来の蒸発およびスパッタリング技法は、不満足な膜品質を提供することがある。代替法として、化学的蒸着(CVD)、分子ビームエピタキシー(MBE)、パルスレーザ堆積、および原子層エピタキシーなどの比較的より費用がかかる技法は、特にIII−V族化合物の半導体材料の形成で有用であるが、薄膜II−VI族化合物の半導体材料の製作のために満足すべき堆積プロセスは、まだ利用可能になっていない。
【0003】
CuACまたはCu(AB)C[ここでAは、In、Al、Ga、Sn、Fe、Sbまたは任意の他の遷移金属であり;(AB)は、(InGa)、(InAl)、(ZnSn)または(CdSn)、または遷移金属の任意の組合せであり;CはSまたはSeまたはSSeの組合せである]のカルコゲニド化合物膜は、太陽電池および他の光電子的用途において非常に重要なp−タイプの半導体材料である。これらの材料に基づくデバイスの上市は、それらの伝統的成長技法の煩雑および貧弱な収率により非常に不利な影響を受けてきた。
【0004】
これらの材料の一部を成長させる伝統的技法には以下のものが含まれる:
National Renewable Energy Laboratory(NREL)により実施されるCuInGaSeのMoコート基材上への3段階バッチ式共蒸発。第1段階は400℃における(InGa)Se層の堆積であり、それを第2段階中にCuおよびSeと550℃で反応させる。第3段階は、第1段階と同様に、Seの存在および400℃におけるInおよびGaの蒸発からなる[非特許文献1、2]。
【0005】
Energy Photovoltaics、Inc.(EPV)により教示されるハイブリッド共蒸発/スパッタリング・プロセスによりMoコートガラス上に作製されるCuInGaSe。このプロセスにおいて、InおよびGaは、先ずSe蒸気の存在下で蒸発される。続いて第1層にCuがスパッタされ、膜はSe蒸気中でセレン化される。最終段階で、InおよびGaが、Seの存在下でもう一度蒸発される[非特許文献1]。
【0006】
Global Solar Energy,IncによりMoコートステンレス鋼上に共蒸発されたCuInGaSe。Global Solarのプロセスは本質的に3段階であり、このプロセスではIII族原子(InおよびGa)が最初に堆積し、次にCu、続いて膜がその所望の化学量論になるのに十分なIII族原子が堆積する。これらの各ステップはセレンの存在下において高温で行われる。堆積は、連続的に進むステンレス鋼箔の36cm300mロール上に高い堆積速度で実施される[非特許文献1]。
【0007】
CuInGaSSeの製作におけるShell Solar Industries(SSI)のアプローチは、合金化されたCu−GaおよびInターゲットから積み重ねた前駆体をスパッタリングして、次に昇温してHSe中でセレン化し、続いて昇温してHS中で硫化することを含む。堆積および反応は、SiO拡散バリアおよびMoバック接点でコートしたソーダ石灰ガラスの3900cmのガラス板上で実施される[非特許文献1]。
【0008】
Institute for Energy Conversion(IEC)によりMoコートガラス上に2段階でバッチ共蒸発されたCuInGaSe。このプロセスにおいては、元素状Cu、In、Ga、およびSeの流束は独立に制御されて、操業開始時にCuに富む全流束を、Cu/(In+Ga)>1で提供する。次に、所望の最終組成、Cu/(In+Ga)=0.8−0.9が得られるまで、In、Ga、およびSe流束のみが適用される。膜は550℃の基材温度で堆積する[非特許文献1]。
【0009】
インラインタイプの真空装置により堆積したCuZnSnS。この場合、ZnS、SnSおよびCuが、真空チャンバ中で加熱されかつ回転する基材上に共スパッタされ、次にN+HS(20%)を使用して硫化するために反応ガス・チャンバに移されて、およそ580℃でアニールされる[非特許文献3]。
【0010】
上の全ては費用のかかる真空技法であり、含まれるプロセスは、材料を構成する元素を混合し、混合物を高温に曝して化合物を形成することに主として基づく。あいにく、種々の元素状粒子の各々は、周囲環境が同じでない。それ故、小さい隔離された面積がアニール後に正しい材料組成を有し、化学量論が不均質な膜が生じるであろう。したがって、このプロセスは、小面積の堆積には適当であるかもしれないが、高収率の製造に必要とされる大面積の堆積には好ましくない。
【0011】
Nanosolarにより採用された別の成長方法は、ナノ粒子、この場合Cu、In、Ga、およびSeの均一に混合されたインクを、工業的な湿式コーティング技法を用いてコーティングし、続いて焼き固めて焼結し、CuInGaSe化合物を形成する方法である[非特許文献4]。
【0012】
International Solar Electric Technologies(ISET)のCuInGaSSe吸収体は、非真空ナイフコーティング技法により、混合酸化物前駆体コーティングを、金属蒸着ガラス基材上に適用することにより調製される。前駆体コーティングは、混合した酸化物のナノ粒子を含有する水系インクを使用して堆積する。乾燥後、前駆体インクは、HとNとのガス混合物の雰囲気下で還元されて均質でかつ平滑なCu−In−Ga合金のコーティングが得られる。生じる合金コーティングは、HSeおよびHSガスの雰囲気下でさらにセレン化される[非特許文献1]。
【0013】
ナノ粒子成長は費用のかかる化学物質を必要としかつ極端に遅い速度で起こるため、期待されるように安くはないプロセスであるナノ粒子成長を含むので、前述の方法は両方とも簡単ではない。次に、費用のかかるインク配合プロセスがこれに続く。この方法により成長した材料は、成長面積全体にわたって、粒子に適当な周囲の粒子がない確率が高いために不均一という欠点もあるであろう。
【0014】
二硫化銅インジウム(CuInS)薄膜は、単一供給源前駆体を使用してエアロゾルで補助する化学的蒸着により堆積した。水平な熱壁反応器中395℃で大気圧における成長により、著者が主張する最良のデバイス膜が生じた。堆積後の硫黄蒸気アニールにより膜の化学量論性および結晶性が向上した。しかしながら、単一前駆体は非常に費用のかかる有機金属(PPhCu(SEt)In(SEt)である。高い前駆体コストは、太陽電池のような低コストのデバイスとは両立し得ない[非特許文献5]。
【0015】
CuSbSは、伝統的な化学浴堆積(CBD)によっても堆積した。これは、最初にSbSを、続いてCuSを成長させることを含む。6700Åの膜は成長に約7時間かかる。この緩慢な成長速度およびそれに伴う廃棄物のために、このプロセスは受け入れられないものとなる[非特許文献6]。
【0016】
CuInSは噴霧熱分解により均等に堆積した[非特許文献7]。この場合、0.01MのCuCl・2HO、InCl、およびCS(NHの水溶液が1:1:2(体積により)で、基材上に225、250および275℃という種々の温度で噴霧された。CuSbS膜も噴霧熱分解堆積により得られた[非特許文献8]。ここで、前駆体重量比(CuCl・2HO:HNCSNH:(CHCOO)Sb)は、240℃で2.57:1:5.71と6.86:1:5.71との間で変えられた。たいてい膜形態は望ましいものに達せず、かつこれらの膜の電気的性質は膜の後方に残留した非揮発性の望ましくない元素により損なわれ、それゆえ該膜の実用的重要性は小さい。
【0017】
さらなる背景技術の情報は、以下の参考文献中に見出すことができ、文献番号は上述の議論における引用にそれぞれ対応する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願第12/151,562号
【特許文献2】米国特許第6,537,845号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】I.L.Repins et al. Comparison of device performance and measured transport parameters in widely-varying Cu(In,Ga)(Se,S) solar cells. Prog. Photovolt: Res.Appl.14: 25-43, 2006.
【非特許文献2】J.Ward et al. Cu(In,Ga)Se2Thin-film concentrator solar cells. NCPV Prog.Rev.Meeting Lakewood, Colorado,Oct.14-17,2001.NREL/CP-520-31144.
【非特許文献3】K.Jimbo et al. Cu2ZnSnS4-type thin film solar cells using abundant materials. Thin Solid Films 515:5997-9,2007.
【非特許文献4】Nanosolar Inc.; High-performance thin-film photovoltaics using low-cost process technology.17th Int’l Photovoltaic Sci. Eng.Conf., Tokyo,Japan, Dec3-7,2007.
【非特許文献5】A.F.Hepp et al. Aerosol-assisted chemical vapor deposited thin films for space photovoltaics; NASA/TM-2006-214445.
【非特許文献6】S.Messina et al. Antimony sulfide thin films in chemically deposited thin film photovoltaic cells. Thin Solid Films 515:5777-82,2007.
【非特許文献7】S.Aksay,“Structural and morphological properties of CuInS2 polycrystalline films obtained by spray pyrolysis method.J.Arts and Sci.4:1-9,2005.
【非特許文献8】S.Manolache et al. The influence of the precursor concentration on CuSbS2 thin films deposited from aqueous solutions. Thin Solid Films 515:5957-60,2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、以下のことを含む:選択された相を基材上に堆積することができるが、その間液体浴本体中における同一のまたは同様な相の均一な核形成を最小にする浴堆積装置を提供すること;物理的、化学的、光学的、または電気的性質の向上した膜を堆積することができる浴堆積装置を提供すること;より容易に制御される浴堆積装置を提供すること;試薬の使用がより効率的な浴堆積装置を提供すること;浴の他の部分を比較的低い温度に保ちながら、浴の比較的小体積の局所的加熱が可能な浴堆積装置を提供すること;高品質の混合カルコゲニド薄膜を成長させるための浴堆積装置を提供すること;光起電性電池に適した混合Cu含有カルコゲニド膜を成長させるための浴堆積装置を提供すること;より容易に制御される浴堆積のための方法を提供すること;浴内における均一核形成を最小にする浴堆積のための方法を提供すること;選択されたII−VI化合物、他の化合物、または金属の改善された性質を有する膜を堆積することができる浴堆積のための方法を提供すること;高品質の混合Cu含有カルコゲニド膜の浴堆積のための方法を提供すること;および組成に勾配をつけたカルコゲニド膜の浴堆積のための方法を提供すること。これらのおよび他の目的は、添付図面と併せて明細書をから明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様により、試薬溶液から固体膜を基材上に堆積するための装置は:
第1試薬溶液内で均一反応が実質的に阻害される第1の温度に保たれた第1試薬溶液の貯槽;
第1試薬溶液を第1の温度で微細ミストとして分注するように構成されたネブライザーを含む第1シャワーヘッド・アセンブリ;
第2試薬溶液内で均一反応が実質的に阻害される第2の温度に保たれた第2試薬溶液の貯槽;
第2試薬溶液を第2の温度で流れるストリームとして分注するように構成された第2のシャワーヘッド・アセンブリ;
第1試薬溶液の微細ミストの少なくとも一部分および第2試薬の流れるストリームの少なくとも一部分を順に基材の選択された領域上で受ける位置に基材を保持するように構成された基材ホルダであって、選択された領域の周縁を高くした構造をさらに備え、それにより制御された体積の第2試薬溶液を基材上に維持してかつ選択された速度で補充することができる該基材ホルダ;および
第1試薬溶液および第2試薬溶液からの所望の固体相の堆積がそれぞれ開始され得る第1の温度および第2の温度の少なくとも一方を超える選択された温度に基材を保つように構成された、基材の下で配置されたヒータ
を含む。
【0022】
本発明の他の態様により、試薬溶液から基材上に固体膜を堆積する方法は、
第1試薬溶液内で均一反応が実質的に阻害される第1の温度に保った第1試薬溶液の供給を提供するステップ;
第1シャワーヘッド・アセンブリから第1試薬溶液の微細ミストを分注するステップ;
第1試薬の微細ミストの少なくとも一部分を基材の選択された領域上で受けるように基材を位置させるステップ;
第2試薬溶液内で均一反応が実質的に阻害される第2の温度に保った第2試薬溶液の供給を提供するステップ;
第2のシャワーヘッド・アセンブリから第2試薬溶液の流れるストリームを分注するステップ;
基材の選択された領域上で第2試薬の流れるストリームの少なくとも一部分を受けるように基材を位置させるステップ;
制御された体積の第2試薬溶液を基材上に維持し得るように、選択された領域の周縁に高くした構造を提供するステップ;および
試薬溶液から所望の固体相の堆積が開始され得るように、基材および基材上の制御された体積の第2試薬溶液を、第1の温度および第2の温度の少なくとも一方を超える選択された温度に加熱するステップ
を含む。
【0023】
本発明の利点および特徴、ならびに本発明により提供される典型的システムの部品および操作の明確な概念は、この明細書に添付してその一部をなす図面(幾つかの図において同じ数字が同じ構成要素を表す)を参照することにより、より容易に明らかになるであろう。それらの図(feature)は必ずしも正確な縮尺ではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一態様による試薬の一般的流れを図式的に例示する図である。
【図2】本発明の一態様による化学浴堆積チャンバの垂直断面を図式的に例示する図である。
【図3】本発明の他の態様による化学浴堆積チャンバの垂直断面を図式的に例示する図である。
【図4】本発明の一態様により調製した2層膜スタックのためのプロセスのフローダイヤグラムを示す図である。
【図5】本発明の一態様による2枚の別の膜の堆積による単相Cu含有半導体膜の形成を図式的に例示する図である。
【図6】本発明の一態様による勾配をつけたバンドギャップを有する膜の形成を図式的に例示する図である。
【図7】本発明の方法により調製したCuZnSnS膜のSIMSによる深さプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
膜が形成される基材表面全体にわたって比較的一様な膜厚を提供しながら、高品質の膜、例えば、半導体膜を高い形成速度で造り出すことができる化学的システムに対する必要性があった。本発明の幾つかの実施形態により、そのような高品質の半導体膜は、システムが化学処理溶液の連続的または補給可能な供給を提供する置き換え反応により形成される。幾つかの例において、該溶液は加熱した基材の表面付近で反応する。基材温度は、表面全体にわたって実質的に一様な温度を示すように制御することができる。すなわち、膜が形成される表面に沿った温度差は小さく抑えられて、反応速度は表面に沿って実質的に一定になり、それにより比較的一様な膜成長速度が保証される。さらに、溶液のpHおよび組成は連続的にモニタして、プロセスの安定性、したがって堆積した膜の品質、例えば、化学量論性、欠陥密度、ドーパント分布の一様性および一貫性を改善するように保つことができる。システムは、大気圧より高くで操業することができて、膜成長速度を増大させる。
【0026】
図1〜2に、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる2008年5月7日出願の本出願人の同時係属米国特許出願第12/151,562号(特許文献1)において一般的に教示した、化学浴堆積を実施するための膜成長システム(FGS)の幾つかの態様を図式的に例示する。このプロセスは、本明細書において、液相流動無電解電気化学的堆積(Liquid Phase Streaming Electroless Electrochemical Deposition(LPSPEED))と称することにする。簡単にいえば、LPSPEEDの幾つかの特性には以下のものが含まれる:種々の金属および非金属、およびその安定性を改善するための種々のリガンドを含有する試薬溶液が、かなり低い温度(好ましくは冷却して)に保たれて均一な核形成を抑制する。この溶液は、実質的に流れる液体としてシャワーヘッドにより分注され、基材上に流れる。基材は、基材の表面上に所望の固体相の不均一な核形成を生じさせるのに十分な温度に加熱する。幾つかの好ましい例において、冷却した試薬溶液のさらなる流れを堆積装置の他の部分を冷却するために使用して、溶液中における均一な核形成ならびに基材以外の表面における不均一な核形成を抑制することができる。他の例において、堆積チャンバ中のヒータの外側の領域は、冷却した冷却剤が流入および流出する内蔵された冷却ジャケットにより積極的に冷却する。この配置は、溶液中における均一な核形成ならびに堆積チャンバ中の基材以外の表面における不均一な核形成をさらに抑制する。
【0027】
上記の米国特許出願第12/151,562号(特許文献1)は、多くの異なる固体膜を堆積するのに適合した試薬溶液の多くの適当な組成を教示する。
【0028】
さらなる実験および試験に基づいて、本出願人は、以前のプロセスをさらに改良してその有用性を拡大し、組成に勾配をつけた膜を作製して、先行方法における前に記載した欠点の多くを総じて解決することができることを発見した。以下の幾つかの例においてより詳細に記載するように、本発明の一態様は、試薬溶液を、好ましくは約50μm未満、より好ましくは約20μm未満の液滴を含む微細ミストとして分注するように構成された1つまたは複数のネブライザーを備えた第2のシャワーヘッドの追加を含む。ネブライザーを使用するプロセスは、本明細書において、無電解電気化学的堆積のための蒸気相ストリーミング・プロセス(Vapor Phase Streaming Process for Electroless Electrochemical Deposition(VPSPEED))と称することにする。
【0029】
図1のFGSは、反応チャンバ10および安定な低温好ましくは約25℃未満、より好ましくは10から25℃またはそれ未満の範囲内に保つことができる、化学処理溶液を保持および冷却するための冷却した溶液貯槽11を含む。好ましい温度において、均一反応は実質的に阻害されて、溶液の寿命は適当であり、粒状物の均一な沈殿は僅少である。FGSは、化学処理溶液を(低温に保ちながら)貯槽からチャンバに移動するための溶液供給サブシステム、および部分的に消費された溶液をチャンバから溶液貯槽に戻して循環するための溶液還流サブシステムをさらに備える。溶液供給サブシステムは、粒状物を溶液から除去するための供給ラインフィルタF2、溶液を反応チャンバに供給するための、およびシステムコントローラ指示下の液体制御パネル12を備える。液体制御パネル12は、液体の流れを処理チャンバ10の中に選択的に注入し、変更するための一連の従来のバルブおよび流量コントローラを備える。例えば、液体制御パネル12は、チャンバ清浄化または所望の膜が成長する基材の表面の清浄化のための化学処理溶液および1種または複数種の化学物質を送達することができる。
【0030】
貯槽からの化学処理溶液は、供給ラインポンプにより供給ラインフィルタF2を通過した後、液体制御パネルに供給される。溶液還流サブシステムは、処理チャンバからの種々の液体の流れを制御するための複数のバルブ、還流ライン貯槽13、粒状物を還流溶液から除去するための還流ラインフィルタF1、および濾過した溶液をプロセス溶液貯槽11に送るための還流ラインポンプP1を備える。液体制御パネルを通って流れる液体の適当な制御および調整は、システムコントローラの指示下にある流量コントローラにより実施される。溶液貯槽11は、高低レベルスイッチ14、15、温度センサ16、pHメータ17、および化学分析計18のようなよく知られている部品を場合により備えることができる。
【0031】
図2中に図式的に例示した反応チャンバ10は、基材33を固定するために配置された機械的クランプ(示していない)または真空チャック(示してある)を備えることができる基材ホルダ・アセンブリ31’、処理溶液をチャンバ内および基材(加工中の製品)33上に供給および分注するためのシャワーヘッド41’を備える送達システムを備える。基材ホルダ・アセンブリ31’は、絶縁性のハウジングを含み、それは内蔵された冷却ジャケットを備えることができ、中にヒータブロック45’が形成されている。縁または環構造51は基材33を囲み、選択された体積の膜形成試薬溶液を閉じ込める。ヒータブロックと上部の絶縁性表面(その上に基材が置かれる)との組合せは、本明細書においてプラテンと称する。種々のこれらの部品は、円形または方形の形状を有することができるが、反応チャンバの機能は、これらの例の幾何学的形状に限定されない。他の例において、環構造51は、アパーチャまたはスロットを含むスペーサにより置き換えることができ、または数枚の個々の間隔を空けたスペーサにより置き換えることができて、その場合、間隔により、処理溶液は露出した上部基材表面に隣接した反応領域から溶液還流サブシステムを通って冷却した貯槽11へ流れ出やすくなる。チャンバは、図1に図式的に示した圧力ゲージ、ガス導入口、ガス流出口、および部分的に消費された処理溶液をチャンバ10から貯槽11に向かわせる還流サブシステムの一部である排液ライン34をさらに備えることができる。この例において、保守を最小化してかつチャンバの有効寿命を延長するために、チャンバの化学溶液に曝される全ての部分を、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはペルフルオロアルコキシ(PFA)などの化学的に不活性な材料で作製するか、またはそのような部分の表面をPTFEまたはPFA膜でコートすることができる。例えば、環51(浅い捕捉領域を造る基材付近または処理溶液の基材表面上を流れる部分を保持するために開口している基材付近に位置する)は、PTFE、PFAなどの比較的堅いもしくは比較的柔らかい材料、またはPFAコートもしくはPTFEコート構造材料で形成することができる。例示した連続的環51は、上にあるシャワーヘッドから前に供給された溶液が、環51により封じられた体積から外へ溢流してまたは吐き出されて排液ライン34に進むので、連続的に、間断なくまたは周期的に処理溶液を補給され得る基材表面の領域を囲い込む。
【0032】
環51の働きは、McCandlessが固定した体積の溶液の実質的に静的閉じ込めを想定しているのに対して、本発明はシャワーヘッドからの冷却した溶液を使用する連続的または周期的補給に依存することにおいて、米国特許第6,537,845号(特許文献2)におけるMcCandlessらの「閉じ込め枠」とは根本的に異なることが理解されるであろう。本出願人は、この新規な特徴を使用して、均一な核形成をより効果的に抑制するために、隣接するハードウェア部品をさらに冷却し、それだけでなく、直近の堆積層以外の領域でも溶液を冷却する。
【0033】
図1の例の特徴は、膜形成速度、例えば、FGSにおけるII−VI族半導体材料を成長させる速度は比較的高いが、一方、基材上における膜形成表面付近の処理溶液の体積の、上で膜が形成される膜形成表面の面積に対する比が小さい、すなわち、従来の伝統的な化学浴における対応する比に比較して小さいことである。伝統的な浴は、基材を、処理溶液を含む加熱した容器中に典型的には浸漬するのに対して、FGSは、例えば、上からなどの連続的または間断ないまたは周期的な流れにより処理溶液の供給を受けるように基材を位置させて加熱するので、伝統的な化学浴内における基材の幾何学的形状および配向は、FGSのものとは通常異なるという理解で、上述の主張をした。したがって、そのような比の直接の比較は容易に確かめられない。それにも拘わらず、本発明によれば、例えば、基材が、処理溶液を満たした容器の中側で水平または垂直な方向で位置するかまたはレベル溶液表面に関して他の方向に配向するとき、適用可能な体積対表面積の比は、伝統的な浴におけるものより事実上実質的に小さい。FGSの働きについて、膜形成基材の表面付近の処理溶液の体積と膜が形成される基材表面の面積との比は、本明細書においては、体積対表面積比(VSAR)と称する。VSARが高いとき、処理溶液の比較的小さい部分が効果的に膜形成に寄与し、一方残余の部分は大量の溶液中でコロイドの形成を生じ得る。FGSにおいては、スペーサにより限られた体積の処理溶液が基材表面上に位置することが可能になる。スペーサは、浅い貯槽のように見えるが、処理溶液の一部が基材表面上に短期間残留して、曝された表面に沿って化学反応を起こすので、実際には一時的な、周期的に補充される集積領域として役立つ。典型的な連続的スペーサは、基材の周縁に沿って複数のクランプで固定されるように設計することができ、それにより溶液がスペーサを超えて流れることが可能になる。したがって、スペーサの境界内に保持された化学処理溶液の体積は、一般的には、基材上のスペーサの、例えば、0.1mmと10mmの間の範囲にある高さにより決定される。具体的なプロセス、プロセス・パラメータ(例えば、基材温度、処理溶液の流速、溶液中の反応物の濃度)の設定に応じて、適当なまたは最適の高さを有するスペーサを選択することができる。複数の変数がある複雑さ、および膜形成速度を最大化する希望により、プロセスの幾何学的配列および設定を実験的に決定することが必要になることがある。FGSは処理溶液のシャワーヘッドを通る連続的または周期的流れを送達するようにプログラムすることができ、または膜形成表面上への溶液の一様な送達を提供する計量した体積を送達するようにプログラムすることができる。均一に加熱した基材上に形成された連続的スペーサによりおよび処理溶液の基材の反応領域上への間断ないまたは周期的な補給により、低いVSARは、膜成長の全領域上において大量生産に適した比較的高い成長速度での比較的一様な膜成長をもたらす。本明細書において開示した数例のなかで、典型的VSARは、0.1から10mmの範囲、典型的な対応する膜成長速度は100から1000Å/分の範囲であり、および満足すべき一様な(例えば、10パーセント未満)膜厚は数ミクロンを超え得る。
【0034】
本発明の他の特徴は、膜形成プロセスの間、反応チャンバ内の他の表面が比較的低温にあるのに、膜成長表面を比較的高温に保つことができることである。この特徴により、基材表面以外の表面上における膜形成を最小化または防止することができる。例として、反応チャンバ内における成長表面と他の表面との間の温度差は、60℃または70℃から200℃の範囲にすることができ、例えば140℃もあり得る。チャンバの圧力、溶液流速、および基材温度は、厚さがおよそ1から5ミクロンの比較的一様な膜を製造するために、およそ500Å/分の堆積速度を達成するように調節することができる。21cmの膜成長面積にわたって達成可能な一様性(すなわち、膜厚の変動に基づいて測定可能)は、一般的に10%よりよく、幾つかの場合には5%よりよい。図1に一般的に教示したように、FGSの操作の間に、処理溶液は、環51により画定された体積内から溶液還流ラインおよびそれに連なる貯槽13に進み、溶液を入れ替えるべきほど必須の化学物質が消費されるときまで、冷却および再循環するために溶液貯槽11中にポンプ送液で戻す。還流ライン中に進むプロセスにおいて、環またはスペーサにより画定された体積を去る処理溶液は、比較的低温の処理溶液の他の部分と合流することができる。すなわち、処理溶液のそのような他の部分は、シャワーヘッドから加熱した膜成長表面の領域の外のチャンバの区域中に注入され、その結果、これらの部分は比較的低温である。後者、すなわち比較的低温の溶液は、スペーサ体積から流れる溶液の一部と混合して加熱された溶液の温度低下を助長し、それにより反応チャンバ中における望ましくない生成物の形成を抑制することができる。溶液貯槽は、温度センサ16、化学分析計18、pHメータ17、および一対の液体レベルスイッチ14、15を備えることができる。溶液貯槽の温度は冷却器により制御され、貯槽は典型的には10〜25℃の範囲の温度に保たれる。化学分析計18は、溶液貯槽に接続されて貯槽の化学的組成を常時または定期的にモニタする。必要なときには、予め混合した処理溶液を予め混合した所望の濃度の溶液を含む貯槽から溶液貯槽に加えるが、該溶液はより濃厚な形態で貯蔵して、貯槽へ入れるときまたはそれに先だって希釈することができる。例えば、システムコントローラが液体制御パネルと連結したバルブを操作して、蒸溜(DI)水および前駆体溶液を貯槽に直接分注して、溶液貯槽中で混合することができる。幾つかの化学的プロセスにおいて、堆積速度は、溶液のpHにより大きく影響される。pHメータ17が溶液浴のpHをモニタして、コントローラの指示下でpHを調節することができる。貯槽中の液体レベルは、第1および第2の液体レベルセンサスイッチで制御できる。第1の液体レベルセンサスイッチ15は、最低の所望のレベルの溶液が貯槽中に存在するときに、コントローラにシグナルを提供する。第2の液体レベルセンサスイッチ14は、最高レベルの液体が貯槽中に存在するときに、システムコントローラにシグナルを提供する。
【0035】
センサ情報、例えば、レベルスイッチにより提供されるシグナルに応答して多数のバルブおよびスイッチを作動させるシステムコントローラの指示下で、システム全体を操業することができる。システムコントローラは、処理溶液の反応チャンバへの送達を溶液流量計により制御し、化学的プロセス中にシャワーヘッドを選択的に回転させることもできる。熱電対は、操業中にプラテン温度を制御するために備えられる。コントローラは、予め混合した処理溶液の溶液貯槽への送達も制御して貯槽中における処理溶液の適当なレベルを維持する。
【0036】
処理チャンバを周期的に保守するために、チャンバ清浄化のための化学溶液を、清浄化薬品貯槽から清浄化薬品供給ラインを経由して供給することができる。チャンバ清浄化後にチャンバをすすぐためのDI水は、DI水貯槽からDI水供給ラインを経由して供給することができる。清浄化薬品の送達は、清浄化薬品供給ラインバルブにより制御される。DI水の送達は、DI水供給ラインバルブにより制御される。専用のバルブの制御下にある分離した排液管をチャンバ清浄化薬品およびすすぎ水を集めるために備えることができる。一般的に、チャンバからの排液の流れは、コントローラの指示下にある溶液還流ラインバルブと清浄化薬品還流ラインバルブとの組合せにより制御される。集められた清浄化薬品は、化学成分を回収するため化学薬品回収処理のための装置に送ることができる。
【0037】
図3に、FGS反応チャンバの他の実施形態のその垂直な中心線に沿った断面図を図示する。VPSPEEDの方法を実施するために改変したこのチャンバは、幾つかの観点において図2に示したものと異なる。第1に、シャワーヘッド・アセンブリ41”は、試薬溶液の微細ミストを基材33に送達するように構成された、好ましくはある程度まで移動させ得るネブライザー60を備える。ネブライザーは、種々の設計のものであってよい。1つの適当なタイプは、Miraミストネブライザー[Burgener Research,Inc.、944 Meadow Wood Rd.、Mississauga、オンタリオ州、カナダ、L5J2S6]などの空気作動式ネブライザーである。他の適当なタイプは、高精度(imoact precision)スプレーヤー[Sono−TekCorp.、2012 Route 9W、Milton、NY12547]などの超音波ネブライザーである。本出願人は、該ネブライザーが実質的に少ない量の試薬溶液を送達し、その結果VPSPEED堆積ステップ中に基材表面上に多量の試薬溶液を保持または貯留する構造を提供する必要がないことを考慮し、図2に前に示した環構造51は排除することができる。
【0038】
特定のプロセスに応じて、堆積プロセス中に、基材をある所望の温度に加熱することができる。本発明の特徴は、FGSにおける膜成長速度が温度に指数関数的に依存して、それ故、チャンバ表面は低温に保ちながら基材だけを高温に保つことが、効率的、選択的な堆積のために有利であることである。以下の数例を見れば、当業者は、プロセスのLPSPEED段階の間に送達される試薬溶液は、プロセスのVPSPEED段階の間に送達される試薬溶液とは一般的に異なる組成のものであることを理解するであろう。その結果、加熱したプラテンは、基材をVPSPEED操作中1つの温度に、およびLPSPEED操作中は第2の温度に保つことが多くの場合好ましい。両方の場合、基材は、シャワーヘッドまたは噴霧器により分注されるそれぞれの試薬溶液の温度より高い温度に保たれる。
【0039】
本出願人は、多くの用途において、最初にVPSPEED段階が、続いてLPSPEED段階が実施されることを意図する。しかしながら、本出願人は、本発明をいかなる特定の順序のプロセスステップにも限定することは意図せず、当業者は、ある特定の用途についてLPSPEED段階を最初に、続いてVPSPEED段階を実施することができるか、または実際、より複雑な組成に改変された構造を造り出すために2段階を交互の順で実施することができるかを日常的実験により決定することができる。
【0040】
図2に、シャワーヘッド41’が基材ホルダ・アセンブリ31に対して実質的に固定されている例を示す。他の想定される実施形態においては、基材全表面にわたるプロセス液の一様な流れを確実にする他の手段として、移動し回転しまたは往復するシャワーヘッドを使用することが望ましいことがあり得ることが理解されるであろう。当業者は、当技術分野において周知の電動モータ、機械的連結等を使用して、過度な実験をせずに、そのような改変を容易に付け加えることができる。
【0041】
以下の例において、化学的プロセスの配列によっては、2層以上の半導体材料を基材上に形成することができる。図4を参照すると、基材上に複数の層の材料を順に置く典型的ステップのフローチャートが示されている。2つの層を順に形成することは、基材表面から汚染物質を除去する清浄化ステップと、それに続く第1層の形成を含むことができる。次に、残留化学物質を基材表面から除去するために、第1の膜形成後の清浄化ステップを実施して、続いて第1層と異なる第2膜層を形成するステップを実施する。これに続いて基材表面から残留化学物質を除去するために第2の膜形成後の清浄化ステップを行うことができる。膜形成前の清浄化ステップにおいては、チャンバ内部の基材ホルダ・アセンブリ上に置いた基材を、第1の清浄化溶液で清浄化して、脱イオン(DI)水ですすいで、例えば、半導体デバイス製造において一般的なスピン乾燥法により乾燥することができる。次に、第1の半導体層を基材の表面に沿って形成し、続いて、基材を第2の清浄化溶液で清浄化する膜形成後の清浄化を行い、DI水で適当な時間すすいで乾燥することができる。複数層の膜を形成するために、複数のプロセス・チャンバおよび基材取り扱いロボットを含むシステムが、高い作業効率および処理能力を提供することができて、その結果、膜層当たりの設備費が比較的低くなる。単一のロボットが、複数の処理チャンバに基材取り扱いを提供することができる。
【0042】
図1〜4に記載した典型的膜成長システムは、溶液中の構成成分から、金属、半導体、および絶縁体を含む広範囲の材料のいずれかを温度制御された基材上に含む膜を形成するために、基材温度、チャンバ圧力、処理溶液の流速、溶液のpHおよび組成の1つまたは複数を制御しながら実施される一連の反応により使用することができる。光起電性の用途にとって特に所望する材料について、一般的なプロセス配列は以下のように記載することができる。
【0043】
VPSPEEDシステムは、ACまたは(AB)Cからなる第1層を堆積するために使用することができ、ここで、AはIn、Ga、Sn、Sb、Fe、Al、その他であり;(AB)は(InGa)、(InAl)、(ZnSn)、(CdSn)、その他であり;およびCは、SまたはSeまたはこれらの2元素の組合せである。
【0044】
次にLPSPEEDシステムは、第1層の上にCuS層を堆積するために使用する。CuSの液相堆積中に、熱的および化学的に誘発された拡散およびイオン交換が、CuSと第1層との間で起こり得る。この現象は、場合によってはCuACまたはCu(AB)Cのその場での形成をもたらす。LPSPEEDステップ中に流れる試薬が過剰にあることは、VPSPEEDで堆積した層中の、純粋な噴霧堆積膜の電気的性質をしばしば損なう望ましくない元素状残留物を洗い去ることを可能にすることによるさらなる利点を提供する。
【0045】
堆積したCuACまたはCu(AB)C膜の均質化を完全にするために、膜にN/Ar雰囲気中200〜250℃の温度で約5から10分間急速な熱的アニール(RTA)を受けさせることができる。
【0046】
膜は、300℃と500℃との間の温度範囲で約1から10分間Ar/N雰囲気中で瞬間アニールまたはRTAアニールをさらに受けさせて、粒子サイズを大きくして膜の導電性を改善することができる。
【0047】
これらの材料のバンドギャップは、勾配をつけることもできて;これは、一般的に、膜のCuに富むか(低いバンドギャップ用)またはCuに乏しい(高いバンドギャップ)部分に対応する。基材に隣接する膜の部分をCuに富ませるために、ACまたは(AB)Cの第1層を堆積する前に薄CuS層を堆積することができる。また膜の表面にCuに乏しい領域を設けるためには、ACまたは(AB)Cの層を追加して堆積する。
【0048】
VPSPEED堆積のための前駆体は、好ましくは、金属または関心のある金属の硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、または塩酸塩、およびチオ尿素またはセレノウレアまたはSまたはSe供給源それぞれの2つの組合せである。溶媒は、10から90%のエタノール、アセトン、または他の適当な有機溶媒を含む脱イオン水であることが好ましい。有機溶媒の存在は、試薬ミストの液滴サイズが好ましくは50μm未満、最も一様な膜堆積のためにより好ましくは約20μm未満であることをさらに確実にすることに役立つ。この堆積中、基材は、好ましくは、室温と約200℃の間の範囲の温度に保つ。
【0049】
LPSPEED堆積のための前駆体は、好ましくは、本出願人の同時係属米国特許出願第12/151,562号(特許文献1)に記載した通りである。該試薬溶液は、金属または関心のある金属の塩、少なくとも2つのリガンド、およびSまたはSe供給源としてのチオ尿素またはセレノウレアを適当なpHの脱イオン水媒体中に含む。成長は、好ましくは約100℃を超える温度に保たれた基材上で起こる。
【実施例】
【0050】
以下の幾つかの具体的例は、その光起電性材料への応用に特に重点をおいた本発明のより十分な理解を提供するであろう。
【0051】

図5に、黄銅鉱構造を有するCuACまたはCu(AB)C膜の形成を図式的に示す。第1ステップにおいて、所望の厚さのACまたはABC化合物2が、基材1上に、好ましくはVPSPEEDまたは他の噴霧に基づく技法により形成される。次のステップにおいて、対応する厚さのCuC層3がLPSPEEDにより堆積して所望の化学量論性を達成する。目標の化合物CuACまたはCu(AB)C、層4が、層3の堆積中に形成される。
【0052】

図6に、バンドギャップに勾配をつけたCuACまたはCu(AB)C膜の形成を図式的に例示する。第1ステップで、CuCの薄い層3が基材1上に堆積する。ACまたは(AB)Cの層2が次に堆積し、CuCの別の層3が続く。最後に、ACまたは(AB)Cの薄い層2が堆積する。均質化により、膜成長中または堆積アニール後の期間のいずれかで、2つの副層、5aおよび5bを含む勾配をつけた層5が生じる。副層5aはCuに富みバンドギャップが比較的低く、および副層5bはCuに乏しくバンドギャップが比較的高い。
【0053】

CuInS膜は2ステップでMoコートステンレス鋼基材上に成長した。第1の、InSは、1:1エタノール−脱イオン水の溶液中のInCl 0.005M、チオ尿素0.0075Mからなる試薬溶液を使用してVPSPEEDにより堆積した。試薬溶液は15℃に保ち、基材を約150℃に保ちながら、微細化したミスト(平均液滴約20μmであった)で基材上に噴霧した。次に、硫酸銅0.005M、トリエタノールアミン0.09M、クエン酸0.125M、ニトリオトリ酢酸0.03Mおよびチオアセトアミド0.008Mからなる試薬水溶液を使用して、LPSPEEDによりInS膜の上にCuS層を堆積した。この試薬溶液を15℃に保ち、約120℃に保ったInSコート基材上に分注した。完全に成長した膜を、次にAr/N環境中約210℃で約10分間アニールした。
【0054】
生じた厚さ0.5μmの膜SIMS分析は良好な均質性を示し、XRD分析は、支配的な結晶性相が、光起電性の用途にとって興味ある相の1つであるCuIn5S8であることを示した。
【0055】

主として相CuZnSnSからなる勾配をつけた膜を、Moコートステンレス鋼上にCuS−SnZnS−CuS−SnZnSの順に堆積した。VPSPEEDによるSnZnS堆積のために、試薬溶液は、15℃に保った1:1エタノール−脱イオン水溶液中のSnCl 0.0025M、硝酸亜鉛0.0025M、およびチオ尿素0.0075Mからなり;、基材は160℃に保った。LPSPEEDCuS堆積のために、硫酸銅0.005M、トリエタノールアミン0.09M、クエン酸0.125M、ニトリオトリ酢酸0.03Mおよびチオアセトアミド0.008Mからなる試薬の水溶液を使用した。この試薬溶液を15℃に保ち、加熱して約120℃に保った基材上に分注した。完全に成長した膜を、次にAr/N環境中約210℃で約10分間アニールした。
【0056】
生じた厚さ約0.8μmの膜を、SIMSにより分析した。深さプロファイルを図7に示す。CuおよびSは膜全体にわたって非常に均一に分布しているが、それに対してSnおよびZn濃度は大きく変動していることが見てとれる。それ故、これらの濃度の比を操作して、膜のバンドギャップの規格にすることができる。
【0057】
SEMによる分析は、膜がナノ結晶構造を有することを示し、試料の広がったXRDパターンと矛盾しなかった。適当な熱的アニールは、膜を結晶化させ、さらなる粒子成長を誘発して膜の電子的性質全体を向上させるために使用することができると期待される。
【0058】
半導体の当業者は、膜の組成に、基材に垂直な方向に勾配をつけることが、バンドギャップだけでなく多くの電子的性質に影響し得ることを理解するであろう。これらの性質のあるものは、電子および正孔などのキャリアの濃度、およびそれらそれぞれの移動度、ならびに電気伝導度または膜の抵抗率を含む。
【0059】
本発明の技法が使用され得る幾つかの化合物半導体には、以下のものが任意の化学量論で含まれる:CuSbS、CuSbSSe、CuInSSe、CuSnZnSe、CuInGaSSe、CuInGaS、CuAlS、CuAlSSe、CuFeS、CuFeSSe、CuLiS、CuLiSSe、CuGaS、CuGaSSe、CuSnS、CuSnSSe、CuZnS、CuZnSSe、CuAlMgS、CuAlMgSSe、CuCdS、CuCdSSe、CuCdSnS、CuCdSnSSe、その他。当業者は、日常的実験により、本明細書において教示した種々の処方および手順を改変して、他の金属を適応させ、それらを、例えば硝酸塩、塩酸塩、酢酸塩、硫酸塩または他の可溶な種として添加することができる。
【0060】
本発明を多数の例により例示し説明したが、本発明はそのように限定されることはない。当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多数の改変、変更、置き換えおよび同等の事物を着想するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬溶液から基材上に固体膜を堆積するための装置であって:
第1試薬溶液内で均一反応が実質的に阻害される第1の温度に保たれた前記第1試薬溶液の貯槽;
前記第1試薬溶液を前記第1の温度で微細ミストとして分注するように構成されたネブライザーを含む第1シャワーヘッド・アセンブリ;
第2試薬溶液内で均一反応が実質的に阻害される第2の温度に保たれた前記第2試薬溶液の貯槽;
前記第2試薬溶液を前記第2の温度で流れるストリームとして分注するように構成された第2のシャワーヘッド・アセンブリ;
前記第1試薬溶液の前記微細ミストの少なくとも一部分および前記第2試薬の前記流れるストリームの少なくとも一部分を順に前記基材の選択された領域上で受ける位置に前記基材を保持するように構成された基材ホルダであって、前記選択された領域の周縁を高くした構造をさらに備え、それにより制御された体積の前記第2試薬溶液を前記基材上に維持してかつ選択された速度で補充することができる基材ホルダ;および
前記第1試薬溶液および前記第2試薬溶液からの所望の固体相の堆積がそれぞれ開始され得る前記第1の温度および第2の温度の少なくとも一方を超える選択された温度に前記基材を保つように構成された、前記基材の下に配置されたヒータ
を含む装置。
【請求項2】
前記選択された温度が、前記第1の温度および前記第2の温度の少なくとも一方を少なくとも60℃超える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1シャワーヘッド・アセンブリが、前記第1試薬溶液を平均液滴サイズが約50μm未満のミストとして分注するように構成された、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第2のシャワーヘッド・アセンブリが、前記第2試薬溶液の第1の部分を前記高くした周縁構造により画定された前記制御された体積中に分注し、前記試薬溶液の第2の部分を前記制御された体積の外側に分注するように構成された、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記シャワーヘッド・アセンブリ、前記基材ホルダ、および前記ヒータを含むプロセス・チャンバをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第2試薬溶液の少なくとも一部分が前記プロセス・チャンバと前記第2試薬溶液貯槽との間の再循環経路を通る、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第1試薬溶液貯槽および第2試薬溶液貯槽の少なくとも一方が、温度センサ、pHメータ、化学センサ、液体レベル制御スイッチ、および冷却器からなる群から選択されるデバイスを備える、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記再循環経路が、ポンプ、バルブ、フィルタ、圧力ゲージ、および還流ライン貯槽からなる群から選択されるデバイスを備える、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記プロセス・チャンバが、選択された圧力に保たれ得る、請求項5に記載の装置。
【請求項10】
試薬溶液から固体膜を基材上に堆積する方法であって:
前記第1試薬溶液内で均一反応が実質的に阻害される第1の温度に保った第1試薬溶液の供給を提供するステップ;
第1シャワーヘッド・アセンブリから前記第1試薬溶液の微細ミストを分注するステップ;
前記第1試薬の前記微細ミストの少なくとも一部分を前記基材の選択された領域上で受けるように前記基材を位置させるステップ;
第2試薬溶液内で均一反応が実質的に阻害される第2の温度に保った前記第2試薬溶液の供給を提供するステップ;
第2のシャワーヘッド・アセンブリから前記第2試薬溶液の流れるストリームを分注するステップ;
前記基材の選択された領域上で前記第2試薬の前記流れるストリームの少なくとも一部分を受けるように前記基材を位置させるステップ;
制御された体積の前記第2試薬溶液を前記基材上に維持し得るように、前記選択された領域の周縁に高くした構造を提供するステップ;および
前記試薬溶液から所望の固体相の堆積が開始され得るように、前記基材および前記基材上の前記制御された体積の前記第2試薬溶液を前記第1の温度および前記第2の温度の少なくとも一方を超える選択された温度に加熱するステップ
を含む方法。
【請求項11】
前記固体膜が、Cu、少なくとも1種の他の金属、ならびにSおよびSeからなる群から選択された少なくとも1種の非金属を含む化合物半導体を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物半導体が、CuSbS、CuSbSSe、CuInSSe、CuSnZnSe、CuInGaSSe、CuInGaS、CuAlS、CuAlSSe、CuFeS、CuFeSSe、CuLiS、CuLiSSe、CuGaS、CuGaSSe、CuSnS、CuSnSSe、CuZnS、CuZnSSe、CuAlMgS、CuAlMgSSe、CuCdS、CuCdSSe、CuCdSnS、およびCuCdSnSSeからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記固体膜の組成が、前記基材の表面に垂直の方向で変化する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記固体膜の少なくとも1つの電子的特性が、前記基材の表面に垂直の方向で変化する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記固体膜の前記少なくとも1つの電子的特性が、バンドギャップ、キャリア濃度、キャリア移動度、および抵抗率からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1試薬の前記微細ミストが、約50μm未満の平均液滴サイズを有する、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記選択された温度が、前記第1の温度および第2の温度を少なくとも60℃超える、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記堆積した膜を、前記選択された温度を超えるアニーリング温度でアニールするステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記アニーリング温度が、少なくとも200℃である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
試薬溶液から化合物半導体膜を基材上で形成する方法であって:
第1試薬溶液内で均一反応が実質的に阻害される第1の温度に保った、少なくとも1種の金属ならびにSおよびSeからなる群から選択される少なくとも1種の非金属を含有する前記第1試薬溶液の供給を提供するステップ;
第1シャワーヘッド・アセンブリから前記第1試薬溶液の微細ミストを分注するステップ;
前記基材の選択された領域上で前記第1試薬の前記微細ミストの少なくとも一部分を受けるように、前記基材を位置させるステップ;
第2試薬溶液内で均一反応が実質的に阻害される第2の温度に保った、少なくとも1種の金属ならびにSおよびSeからなる群から選択される少なくとも1種の非金属を含有する前記第2試薬溶液の供給を提供するステップであって、前記第1試薬溶液および前記第2試薬溶液の少なくとも一方が銅を含有するステップ;
第2のシャワーヘッド・アセンブリから前記第2試薬溶液の流れるストリームを分注するステップ;
前記基材の選択された領域上で前記第2試薬の前記流れるストリームの少なくとも一部分を受けるように、前記基材を位置させるステップ;
制御された体積の前記第2試薬溶液を前記基材上に維持し得るように、前記選択された領域の周縁に高くした構造を提供するステップ;および
所望の銅含有固体相の前記試薬溶液からの堆積が開始され得るように、前記基材と前記基材上の前記制御された体積の前記第2試薬溶液とを、前記第1の温度および前記第2の温度の少なくとも一方を超える選択された温度に加熱するステップ
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−500400(P2013−500400A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522808(P2012−522808)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/002104
【国際公開番号】WO2011/014245
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(512023007)
【Fターム(参考)】