説明

銅系摺動材料

【課題】 耐焼付き性に優れた無機化合物粒子を添加した銅系摺動材料を提供する。
【解決手段】 無機化合物粒子5の平均粒径が1〜10μm、無機化合物粒子5に対するCu合金マトリクス4の真密度の比が0.6〜1.4、無機化合物粒子5に対するCu合金マトリクス4の熱膨張係数の比が1.5〜3.0を満たし、Cu合金マトリクス4に分散した無機化合物粒子5の平均粒子間距離を5〜50μmとしたことで、Cu合金マトリクス4の全体が無機化合物粒子5との熱膨張量の差による影響を受けるようになる。このため、均質に活性状態となり、Cu合金マトリクス4の表面全体に早期に酸化膜及び硫化膜が形成されることで、耐焼付き性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐焼付き性に優れた銅系摺動材料に係り、特に自動車、産業機械等における半割軸受、ブシュ、スラストワッシャ等の材料として好適な銅系摺動材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関用のすべり軸受に使用される銅系摺動材料は、連続焼結法により製造されるのが一般的である。この連続焼結法とは、帯鋼上にCu合金粉末を連続的に散布し、焼結、圧延を連続的に施す製造方法である。また、すべり軸受に使用される銅系摺動材料には、耐摩耗性、耐焼付き性、耐食性等の軸受特性を向上させるために、無機化合物粒子を添加した焼結Cu合金を使用するものが提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−124646号公報
【特許文献2】特開2005−350722号公報
【特許文献3】特許3839740号公報
【特許文献4】特許3370785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、自動車エンジンの高出力化に伴い、すべり軸受にかかる負荷は大きくなる傾向にある。このため、すべり軸受の摺動面と相手軸の表面とは、金属同士が直接接触するようになり、焼付きが発生し易い。本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、耐焼付き性に優れた無機化合物粒子を添加した銅系摺動材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鋼裏金層及びCu合金層からなる銅系摺動材料であって、前記Cu合金層はSnを0.5〜15質量%、無機化合物粒子を0.2〜5質量%含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅系摺動部材において、前記無機化合物粒子の平均粒径が1〜10μm、前記無機化合物粒子に対するCu合金マトリクスの真密度の比が0.6〜1.4、前記無機化合物粒子に対する前記Cu合金マトリクスの熱膨張係数の比が1.5〜3.0を満たし、前記Cu合金マトリクスに分散した前記無機化合物粒子の平均粒子間距離を5〜50μmとしたことを特徴とする。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の銅系摺動材料において、前記無機化合物粒子は、金属の炭化物、窒化物、珪化物、ホウ化物の少なくとも1種以上であることを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載の銅系摺動材料において、前記Cu合金層は、Bi、Pbからなる群の中から少なくとも1種以上を総量で0.1〜30質量%含有することを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る発明においては、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の銅系摺動材料において、前記Cu合金層は、Ni、Zn、Fe、Ag、Inからなる群の中から少なくとも1種以上を総量で0.1〜40質量%含有することを特徴とする。
【0009】
請求項5に係る発明においては、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の銅系摺動材料において、前記Cu合金層は、Pを0.01〜0.5質量%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
Cu合金マトリクス中に無機化合物粒子を分散した銅系摺動材料は、例えば内燃機関用のすべり軸受として使用される場合において、銅系摺動材料の温度が上昇すると、Cu合金マトリクスと無機化合物粒子との熱膨張量の差により、無機化合物粒子の周囲のCu合金マトリクスを構成する金属原子の配列に欠陥(歪み)が生じる。このとき、金属原子の配列に欠陥が生じたCu合金マトリクスは活性状態となり、潤滑油中に存在する酸素成分及び硫黄成分と反応が起き易くなる。請求項1に係る発明においては、Cu合金マトリクス中に分散した無機化合物粒子の粒子間距離を5〜50μmとしたことで、Cu合金マトリクスの全体が無機化合物粒子との熱膨張量の差による影響を受けるようになるため、均質に活性状態となり、Cu合金マトリクスの表面全体に早期に酸化膜及び硫化膜を形成することが可能となる。これにより、Cu合金マトリクスの表面と相手軸の表面とが直接接触することを防いで、耐焼付き性を向上させることができる。
【0011】
上記したCu合金マトリクス中に分散した無機化合物粒子の粒子間距離は、粉末散布時の分散状態が影響し、Cu合金粉末の空隙率((1−嵩密度/真密度)×100の式から算出)および無機化合物粒子に対するCu合金マトリクスの真密度の比によって、制御が可能であることが見出された。アトマイズ法によって作製されたCu合金粉末は、帯鋼上に散布を行うと、Cu合金粉末間には空隙が存在している。そして、アトマイズ法によって作製されたCu合金粉末と無機化合物粒子との混合粉末を帯鋼上に散布を行うと、無機化合物粒子はCu合金粉末間の空隙部分に存在する。通常では、空隙率が20〜80%程度であるが、空隙率が70%を超える場合、無機化合物粒子が凝集・偏析を生じ易く、無機化合物粒子の平均粒子間距離が大きくなり過ぎる。一方、空隙率が小さいほど無機化合物粒子の分散性は向上するが、空隙率を20%未満とするには、特別な方法で製造されたCu合金粉末が必要となり、銅系摺動材料が高価になる。
【0012】
本発明者は、平均粒径が小さく、且つ、粒度分布の範囲が狭いCu合金粉末と無機化合物粒子との混合粉末を使用すれば、焼結後にCu合金マトリクスに分散した無機化合物粒子の粒子間距離が一定になると考えて試みたが、これに反し、無機化合物粒子の平均粒子間距離のバラつきが大きく、無機化合物粒子の粒子間距離を制御することが困難であった。これは、粉末混合時にCu合金粉末と無機化合物粒子とを均一に分散しても、平均粒径が小さく、且つ、粒度分布の範囲が狭いCu合金粉末は空隙率が大きく、また、このCu合金粉末と無機化合物粒子とを混合した粉末は流動性が悪いため、帯鋼上に散布する工程にて、無機化合物粒子が凝集、偏析することが原因と考えられる。
【0013】
以下、請求項1に係る発明の限定理由について説明する。
(1)Snの含有量について
銅系摺動材料において、Cu合金マトリクスにSnを含有させることは一般的である。これは、Cu合金マトリクスの強度を強化するためである。Snの含有量が0.5質量%未満では、Cu合金マトリクスの強度を強化する効果が得られず、15質量%を越えると、Cu合金マトリクスが脆くなる。
【0014】
(2)無機化合物粒子の含有量について
無機化合物粒子の含有量が0.2質量%未満では、Cu合金マトリクス中に分散した無機化合物粒子の平均粒子間距離が50μmを超えて、無機化合物粒子間に存在するCu合金マトリクスが、無機化合物粒子との熱膨張量の差による影響を受け難くなるため、Cu合金マトリクスの表面全体に酸化膜及び硫化膜が形成し難くなる。一方、無機化合物粒子の含有量が5質量%を超えると、Cu合金マトリクス中に局部的に無機化合物粒子が凝集し易く、無機化合物粒子の平均粒子間距離が50μmを超えて、Cu合金マトリクスの表面全体に酸化膜及び硫化膜が形成し難くなる。
【0015】
(3)無機化合物粒子の平均粒径について
無機化合物粒子の平均粒径が1μm未満では、無機化合物粒子が細か過ぎて、Cu合金マトリクスと無機化合物粒子との熱膨張量の差により、無機化合物粒子の周囲のCu合金マトリクスを構成する金属原子の配列に欠陥(歪み)が生じ難い。このため、潤滑油中に存在する酸素成分及び硫黄成分と反応が起こり難くなり、耐焼付き性が低下する。一方、無機化合物粒子の平均粒径が10μmを超えると、無機化合物粒子と相手軸との接触による発熱量が多くなり、無機化合物粒子の周囲のCu合金マトリクスの欠陥(歪み)量が大きくなる。このため、局所的に酸化膜及び硫化膜が肥厚化し、破壊が生じる。そして、破壊が生じた部分においては、Cu合金マトリクスの金属表面が露出するため、耐焼付き性が低下する。
【0016】
(4)真密度の比について
本発明における無機化合物粒子に対するCu合金マトリクスの真密度の比は、(Cu合金マトリクスの真密度/無機化合物粒子の真密度)の式によって表わされるものであり、この真密度の比が0.6〜1.4となるように構成することで、Cu合金マトリクスと無機化合物粒子との真密度が近く、Cu合金マトリクス中における無機化合物粒子の分散を制御することが可能となる。この真密度の比が0.6〜1.4の範囲から外れる場合、真密度の差が大きくなり、無機化合物粒子が凝集・偏析を生じ易くなる。
【0017】
(5)熱膨張係数の比について
本発明における熱膨張係数は、内燃機関用のすべり軸受の使用温度域に相当する温度域として、20〜300℃の温度域での値を使用している。また、無機化合物粒子に対するCu合金マトリクスの熱膨張係数の比は、(Cu合金マトリクスの熱膨張係数/無機化合物粒子の熱膨張係数)の式によって表わされるものであり、この熱膨張係数の比が1.5〜3.0となるように構成することで、Cu合金マトリクスの表面全体に均質な酸化膜及び硫化膜を形成することが可能となる。より好ましくは、熱膨張係数の比が1.9〜2.6の範囲である。この熱膨張係数の比が1.5未満では、無機化合物粒子の周囲しか熱膨張量の差による影響を受けないため、Cu合金マトリクスの表面全体に均質な酸化膜及び硫化膜が形成し難くなる。一方、熱膨張係数の比が3.0を超えると、Cu合金マトリクスの表面全体が歪みを大きく受けるため、酸化膜及び硫化膜が過剰に形成される。このため、酸化膜及び硫化膜が肥厚化し、膜内の応力が高くなることで破壊が生じる。そして、破壊が生じた部分においては、Cu合金マトリクスの金属表面が露出するため、耐焼付き性が低下する。
【0018】
(6)無機化合物粒子の平均粒子間距離について
本発明における無機化合物粒子の平均粒子間距離は、Cu合金マトリクス中に分散した無機化合物粒子の表面と、その粒子が最も近接する他の無機化合物粒子の表面との間の距離の平均値であり、無機化合物粒子間に存在するCu合金マトリクスの平均長さを表わしている。この無機化合物粒子の平均粒子間距離が50μmを超えると、無機化合物粒子間の中央部付近のCu合金マトリクスが、無機化合物粒子との熱膨張量の差による影響を受け難くなるため、Cu合金マトリクスの表面全体に酸化膜及び硫化膜が形成し難くなる。一方、無機化合物粒子の平均粒子間距離については、5μmを下限値としたが、実験で確認した限界値である。なお、無機化合物粒子の平均粒子間距離が5μm未満では、酸化膜及び硫化膜の形成の観点では望ましい状態であるが、原材料を無機化合物粒子とCu合金粉末を機械的に複合化する等の特殊な粉末製造方法や、従来技術に示した連続焼結法以外の製造方法で製造する必要があり、銅系摺動材料が高価になる。
【0019】
また、請求項2に係る発明のように、無機化合物粒子は、金属の炭化物、窒化物、珪化物、ホウ化物の少なくとも1種以上であり、炭化物としてNbC、TaC、MoC、Cr等、窒化物としてZrN、CrN、NbN等、珪化物としてTaSi、MoSi、MoSi、WSi等、ホウ化物としてMo、VB、CrB、TaB等を使用することができる。
【0020】
また、請求項3に係る発明のように、Cu合金層は、Cu合金マトリクスの摺動特性を高めるため、Bi、Pbからなる群の中から少なくとも1種以上を総量で0.1〜30質量%含有してもよい。これらの含有量が0.1質量%未満では、Cu合金マトリクスの摺動特性の向上に寄与せず、30質量%を超えると、Cu合金マトリクスの強度が低下する。
【0021】
また。請求項4に係る発明のように、Cu合金層は、Cu合金マトリクスを強化するため、Ni、Zn、Fe、Ag、Inからなる群の中から少なくとも1種以上を総量で0.1〜40質量%含有してもよい。これらの含有量が0.1質量%未満では、Cu合金マトリクスの強化が不十分となり、40質量%を超えると、Cu合金マトリクスが脆くなる。
【0022】
また。請求項5に係る発明のように、Cu合金層は、Cu合金マトリクスを強化するため、Pを0.01〜0.5質量%含有してもよい。これらの含有量が0.01質量%未満では、Cu合金マトリクスの強化が不十分となり、0.5質量%を超えると、Cu合金マトリクスが脆くなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】銅系摺動材料を作製するための焼結工程図である。
【図2】(a)は、Cu合金マトリクス中に無機化合物粒子を分散したCu合金層の断面組織を示す模式図であり、(b)は、Cu合金マトリクス中に無機化合物粒子を分散したCu合金層の表面組織を示す模式図である。
【図3】(a)は、Cu合金粉末と無機化合物粒子の混合時における無機化合物粒子の挙動を説明するための図であり、(b)は、無機化合物粒子を混合したCu合金粉末の散布時における無機化合物粒子の挙動を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図1乃至図3を参照して説明する。図1は、銅系摺動材料1を作製するための焼結工程図であり、図2(a)は、Cu合金マトリクス4中に無機化合物粒子5を分散したCu合金層3の断面組織を示す模式図であり、図2(b)は、Cu合金マトリクス4中に無機化合物粒子5を分散したCu合金層3の表面組織を示す模式図であり、図3(a)は、Cu合金粉末6と無機化合物粒子5の混合時における無機化合物粒子5の挙動を説明するための図であり、図3(b)は、無機化合物粒子5を混合したCu合金粉末6の散布時における無機化合物粒子5の挙動を説明するための図である。
【0025】
実施例1〜18及び比較例1〜10の作製方法として、まず、表1に示す組成のCu合金粉末6と、表1に示す組成及び平均粒径の無機化合物粒子5を、無機化合物粒子5の割合が表1の「無機化合物量」に示す値の質量%となるように混合した。また、表1には、実施例1〜18及び比較例1〜10について、無機化合物粒子5に対するCu合金マトリクス4の真密度の比を「真密度比」に、無機化合物粒子5に対するCu合金マトリクス4の熱膨張係数の比を「熱膨張係数比」に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
また、実施例1〜18及び比較例1〜10においては、無加圧時に表1に示す空隙率のCu合金粉末6を用いた。具体的には、空隙率が80%のCu合金粉末6(比較例3)は、最大粒径が75μm以下で、45μm以下が90%以上の粒度分布のものを使用し、空隙率が70%のCu合金粉末6(実施例4,10、比較例10)は、最大粒径が106μm以下で、75μm以下が90%以上、且つ45μm以下が60%以上の粒度分布のものを使用し、空隙率が45%のCu合金粉末6(実施例1〜3,6〜9,12〜18、比較例1,2,4〜9)は、最大粒径が150μm以下で、75μm以下が50%以上、且つ45μm以下が30%以上の粒度分布のものを使用し、空隙率が20%のCu合金粉末6(実施例5,11)は、最大粒径が150μm以下で、75μm以下が40%以上、且つ45μm以下が25%以下の粒度分布のものを使用した。
【0028】
なお、Cu合金粉末6の空隙率は、空隙率=(1−嵩密度/真密度)×100の式から算出される。本実施形態で使用される嵩密度は、例えばISO3923−1(JIS規格ではJIS Z2504)に示されるような測定方法を用いることにより、値を求めることができる。
【0029】
次いで、図1に示すように、無機化合物粒子5を混合したCu合金粉末6を帯鋼上に散布し、還元雰囲気で、温度750〜970℃、10〜30分の焼結条件で一次焼結し、帯鋼上に多孔質なCu合金層3を形成した。そして、多孔質なCu合金層3を緻密化するためのロール圧延を施した後、一次焼結の温度と同じ焼結条件で二次焼結を行った。これにより、図2(a)に示すように、鋼裏金層2上において、Cu合金マトリクス4中に無機化合物粒子5を分散したCu合金層3が形成された銅系摺動材料1を作製した。なお、実施例1〜18及び比較例1〜9における一次焼結及び二次焼結の温度は、Cu合金組成に対して固相線温度を超え、液相線温度未満の温度とし、焼結時にCu合金粉末6の表面に一部液相が発生(固液共存状態)するようにした。一方、比較例10における一次焼結及び二次焼結の温度は、Cu合金組成に対して固相線温度未満の温度とし、焼結時にCu合金粉末6の表面に液相が発生しないようにした。
【0030】
次に、Cu合金層3におけるCu合金マトリクス4中に分散した無機化合物粒子5の平均粒子間距離の測定結果を、表1に示す。無機化合物粒子5の平均粒子間距離は、図2(b)の拡大図に示すように、Cu合金マトリクス4中に分散した無機化合物粒子5の表面と、その粒子が最も近接する他の無機化合物粒子5の表面との間の距離の平均値であり、無機化合物粒子5間に存在するCu合金マトリクス4の平均長さを表わしている。この平均粒子間距離は、電子顕微鏡を用いてCu合金層3の組成像を倍率500倍で撮影し、得られた組成像から一般的な画像解析手法(解析ソフト:Image−ProPlus(Version4.5);(株)プラネトロン製等)を用いて測定した。また、図2(a)に示すCu合金層3の断面及び図2(b)に示すCu合金層3の断面のいずれを測定しても無機化合物粒子5の平均粒子間距離の値が変わらないことを確認しているため、Cu合金層3の表面(摺動面)に対して垂直方向の断面から測定したデータを使用している。なお、本実施形態の「平均粒子間距離」は、Cu合金マトリクス4中に局部的に複数の無機化合物粒子5が偏析(凝集)した場合には、各偏析(凝集)部を1つの無機化合物粒子5として測定した。すなわち、無機化合物粒子5の偏析(凝集)部は、複数の無機化合物粒子5の表面が接した状態を意味する。
【0031】
実施例1〜18及び比較例1〜10の銅系摺動材料1は、円筒形状のすべり軸受に加工し、表2に示す条件で保護被膜形成試験を行った。評価方法は、摺動面全体の面積における硫化や酸化により黒色や褐色となった部分の面積の割合によって求め、その結果を表1の「形成膜の面積率」に示す。また、表3に示す条件で焼付き試験を行った。評価方法は、すべり軸受の背面温度が230℃となった場合を焼付きと判定し、焼付きが起こらなかった限界の負荷(面圧)を表1の「焼付き限界面圧」に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
実施例1〜18には、何れも銅系摺動材料1の摺動面におけるCu合金マトリクス4の表面に60%以上の酸化膜及び硫化膜が形成されており、焼付き試験の結果として、比較例1〜10に対して良好な結果が得られている。一方、比較例1〜10には、銅系摺動材料1の摺動面に金属光沢を呈する部分が半分以上残っており、銅系摺動材料1の摺動面におけるCu合金マトリクス4の表面に十分な酸化膜及び硫化膜が形成されておらず、焼付き試験の結果として、良好な結果が得られていない。
【0035】
実施例2,3及び比較例1,2は、実施例1に対して無機化合物粒子5の含有量を変化させたものである。実施例1〜3では、無機化合物粒子5の含有量が0.2〜5質量%の範囲内となるように構成することで、Cu合金マトリクス4の表面に酸化膜及び硫化膜が形成され易くなるため、比較例1,2に対して耐焼付き性が優れる。特に、実施例1〜3のうち実施例1では、無機化合物粒子5の凝集・偏析が少なく、無機化合物粒子5の平均粒子間距離が短くなるため、耐焼付き性が良好である。一方、比較例1では、無機化合物粒子5の含有量が0.2質量%未満であり、無機化合物粒子5の平均粒子間距離が長くなるため、Cu合金マトリクス4が無機化合物粒子5との熱膨張量の差による歪みを受け難くなり、Cu合金マトリクス4の表面に均一な酸化膜及び硫化膜が形成されず、耐焼付き性が低い。また、比較例2では、無機化合物粒子5の含有量が5質量%を超えており、無機化合物粒子5の凝集が生じて無機化合物粒子5の平均粒子間距離が長くなるため、Cu合金マトリクス4の表面に酸化膜及び硫化膜が形成し難くなり、耐焼付き性が低い。
【0036】
実施例4,5及び比較例3は、実施例1に対してCu合金粉末6の空隙率を変化させたものである。実施例1,4,5では、Cu合金粉末6の空隙率が20〜70%の範囲内となるように構成することで、無機化合物粒子5の平均粒子間距離が短くなるため、比較例3に対して耐焼付き性が優れる。特に、実施例1,4,5のうち実施例5では、Cu合金粉末6の空隙率が小さいほど、無機化合物粒子5の分散性が良くなるため、Cu合金マトリクス4の表面に酸化膜及び硫化膜が形成され易くなり、耐焼付きが優れる。一方、比較例3では、Cu合金粉末6の空隙率が20〜70%の範囲から意図的に外れたものを用いているが、Cu合金粉末6の空隙率が大きい場合には、図3(a)に示すように、Cu合金粉末6との混合時に無機化合物粒子5が分散していても、図3(b)に示すように、Cu合金粉末6の散布時に無機化合物粒子5が流動して偏析・凝集が起こり易い。これにより、無機化合物粒子5の平均粒子間距離が長くなるため、Cu合金マトリクス4の表面に酸化膜及び硫化膜が形成し難くなり、耐焼付き性が低い。
【0037】
実施例6,7及び比較例4,5は、実施例1に対して無機化合物粒子5に対するCu合金マトリクス4の熱膨張係数の比を変化させたものである。実施例1,6,7では、熱膨張係数の比が1.5〜3.0の範囲内となるように構成することで、Cu合金マトリクス4の表面に酸化膜及び硫化膜の形成が良好であるため、比較例4,5に対して耐焼付き性が優れる。一方、比較例4では、熱膨張係数の比が3.0を超えており、Cu合金マトリクス4の表面全体が歪みを大きく受けるため、酸化膜及び硫化膜が過剰に形成される。これにより、Cu合金マトリクス4の表面で酸化膜及び硫化膜の形成と脱落を繰り返し、Cu合金層3の表面が粗くなることで、安定した油膜を確保することができず、耐焼付き性が低い。また、比較例5では、熱膨張係数の比が1.5未満であり、Cu合金マトリクス4が無機化合物粒子5との熱膨張量の差による歪みを受け難いため、Cu合金マトリクス4の表面に均一な酸化膜及び硫化膜が形成されず、耐焼付き性が低い。
【0038】
実施例8,9及び比較例6,7は、実施例1に対して無機化合物粒子5に対するCu合金マトリクス4の真密度の比を変化させたものである。実施例1,8,9では、真密度の比が0.6〜1.4の範囲内となるように構成することで、無機化合物粒子5の平均粒子間距離が短くなるため、Cu合金マトリクス4の表面に酸化膜及び硫化膜が形成され易くなり、比較例6,7に対して耐焼付き性が優れる。一方、比較例6,7では、真密度の比が0.6〜1.4の範囲から外れており、無機化合物粒子5が偏析、凝集してしまい、無機化合物粒子5の平均粒子間距離が長くなるため、Cu合金マトリクス4の表面に酸化膜及び硫化膜が形成し難くなり、耐焼付き性が低い。
【0039】
実施例10,11は、実施例1に対して無機化合物粒子5の粒子間距離を変化させたものである。実施例10では、Cu合金粉末6の空隙率が大きく、無機化合物粒子5に対するCu合金マトリクス4の真密度の比が0.6〜1.4の範囲の下限値となるように構成することで、無機化合物粒子5の粒子間距離が5〜50μmの範囲の上限値となるが、Cu合金マトリクス4の表面に酸化膜及び硫化膜が形成されており、耐焼付き性が良好である。また、実施例11では、Cu合金粉末6の空隙率が小さく、無機化合物粒子5に対するCu合金マトリクス4の真密度の比が0.6〜1.4の範囲の中央値となるように構成することで、無機化合物粒子5の粒子間距離が5〜50μmの範囲の下限値となるが、実施例10よりも酸化膜及び硫化膜が形成され易くなり、耐焼付き性がさらに優れる。
【0040】
実施例12,13及び比較例8は、実施例1に対して無機化合物粒子5の平均粒径を変化させたものである。実施例12,13では、無機化合物粒子5の平均粒径が1〜10μmの範囲内となるように構成することで、Cu合金マトリクス4の表面に酸化膜及び硫化膜が形成されており、耐焼付き性が良好である。一方、比較例8では、無機化合物粒子5の平均粒径が10μmを超えており、無機化合物粒子5と相手軸との接触による発熱量が多くなり、無機化合物粒子5の周囲のCu合金マトリクス4の欠陥(歪み)量が大きくなる。このため、局所的に酸化膜及び硫化膜が肥厚化し、破壊が生じるようになり、耐焼付き性が低い。
【0041】
実施例14は、実施例1に対してNi、Zn、Fe、Ag、Inを、実施例15は、実施例1に対してPを添加し、Cu合金マトリクス4の強化を行ったが、耐焼付き性が良好である。
【0042】
実施例16は、実施例1に対してBiを、実施例17は、実施例1に対してPbを添加し、Cu合金マトリクス4の潤滑性を高めたが、耐焼付き性が良好である。
【0043】
実施例18は、無機化合物粒子5に対するCu合金マトリクス4の熱膨張係数の比が1.5〜3.0の範囲内である無機化合物粒子5として、TaSiとMoCの2種類を1:1の割合で添加しているが、耐焼付き性が良好である。
【0044】
比較例9は、無機化合物粒子5としてAlNを添加しているが、無機化合物粒子5に対するCu合金マトリクス4の熱膨張係数の比が3.0を超えており、Cu合金マトリクス4の表面全体が歪みを大きく受けるため、酸化膜及び硫化膜が過剰に形成される。これにより、Cu合金マトリクス4の表面で酸化膜及び硫化膜の形成と脱落を繰り返し、Cu合金層3の表面が粗くなることで、安定した油膜を確保することができず、耐焼付き性が低い。
【0045】
比較例10は、一次焼結及び二次焼結の温度として、Cu合金組成に対して固相線温度未満の温度で焼結したため、無機化合物粒子5がCu合金粉末6の表面に結合することなく、多孔質なCu合金層3の空隙部で偏析、凝集を起こし易い。このため、無機化合物粒子5の平均粒子間距離が大きな銅系摺動材料1しか得られない。また、一次焼結及び二次焼結の温度として、Cu合金組成に対して固相線温度未満の温度で焼結すると、Cu合金層3におけるCu合金マトリクス4の結晶粒径が細かくなり過ぎて、Cu合金マトリクス4の表面に保護被膜(酸化膜や硫化膜)が形成され難いことも判明した。すなわち、比較例10では、Cu合金層3におけるCu合金マトリクス4の結晶粒径が細かくなり過ぎて、Cu合金層3の表面で結晶粒界の面積の割合が増加し、硫化や酸化が結晶粒界で優先的に起こるため、Cu合金マトリクス4の表面に保護被膜(硫化膜や酸化膜)の形成が妨げられたと考えられる。
【0046】
本実施形態に係る銅系摺動材料1は、内燃機関のすべり軸受や各種産業機械のすべり軸受材料に適用することができる。また、本実施形態に係る銅系摺動材料1は、Cu合金層3の表面にオーバレイ層を形成させた多層軸受として使用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 銅系摺動材料
2 鋼裏金層
3 Cu合金層
4 Cu合金マトリクス
5 無機化合物粒子
6 Cu合金粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼裏金層及びCu合金層からなる銅系摺動材料であって、前記Cu合金層はSnを0.5〜15質量%、無機化合物粒子を0.2〜5質量%含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅系摺動部材において、
前記無機化合物粒子の平均粒径が1〜10μm、前記無機化合物粒子に対するCu合金マトリクスの真密度の比が0.6〜1.4、前記無機化合物粒子に対する前記Cu合金マトリクスの熱膨張係数の比が1.5〜3.0を満たし、前記Cu合金マトリクスに分散した前記無機化合物粒子の平均粒子間距離を5〜50μmとしたことを特徴とする銅系摺動材料。
【請求項2】
前記無機化合物粒子は、金属の炭化物、窒化物、珪化物、ホウ化物の少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1記載の銅系摺動材料。
【請求項3】
前記Cu合金層は、Bi、Pbからなる群の中から少なくとも1種以上を総量で0.1〜30質量%含有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の銅系摺動材料。
【請求項4】
前記Cu合金層は、Ni、Zn、Fe、Ag、Inからなる群の中から少なくとも1種以上を総量で0.1〜40質量%含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の銅系摺動材料。
【請求項5】
前記Cu合金層は、Pを0.01〜0.5質量%含有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の銅系摺動材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−49887(P2013−49887A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187885(P2011−187885)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】