説明

鋳造品の鍛造方法及び鍛造装置

【課題】 鋳造品の部分鍛造処理とバリ除去処理を同時に行う鋳造品の鍛造装置を提供する。
【解決手段】 鍛造装置40には1対のプレス型33aと33bが設けられている。上側プレス型33aと下側プレス型33bには鋳造品18が嵌合するキャビティが形成されており、上側プレス型33aには鋳造品18の鍛造処理対象部位である肉厚部18aに対向する部分に鍛造用の凸部37が形成されている。上側プレス型33a及び下側プレス型33bの縁部には夫々刃部35が設けられている。上側プレス板33aと下側プレス板33bとの間に鋳造品18を挟んで駆動部を駆動させてプレス型を相互に重ね合わせることによって、鋳造品18の肉厚部18aを上側プレス型33aに設けられた凸部37によって打ち延ばしてその金属組織を強化すると同時に、鋳造品18に付着した湯口部38及び押湯部39を切除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造品の一部を局部的に鍛造して金属組織を強化する処理と、鋳造品の湯口部又は押湯部に相当する部分の切り離しとを同時に実施する鋳造品の鍛造方法及び鍛造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属又は合金の溶湯を金型に鋳込んで鋳物を製造する方法を鋳造法といい、特に、加圧せずに重力によって溶湯を金型に鋳込んで鋳造する方法をグラビティ鋳造法という。このようなグラビティ鋳造法に関する従来技術として、例えば特開平6−47517号公報(特許文献1)が挙げられる。
【0003】
図7(a)及び(b)は、上記従来技術における鋳造品の製造方法を示す説明図であり、図7(a)は、金属製の鋳型(以下、金型という)のパーティングラインに沿った断面図、図7(b)はパーティングラインに直交する断面図である。図7(a)及び(b)において、鋳造品は以下のようにして製造される。
【0004】
即ち、金型Aの固定型aと可動型bを合わせて型閉めした後、ベント孔51からキャビティ52内のガスを吸引すると共にキャビティ52内を減圧し、この状態で湯口53から溶湯を注入する。溶湯は重力により湯道を通ってキャビティ52内に鋳込まれる。
【0005】
溶湯を金型に鋳込んだ後、加圧シリンダ54を動作させて加圧子55によってキャビティ52内の溶湯に圧力を加え、この状態で溶湯が凝固し、製品が鋳造されるまで放置する。このような従来技術によれば、鋳造品への加圧効果が大きくなって、より寸法精度の高い鋳造品が得られるということである。
【0006】
【特許文献1】特開平6−47517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には以下のような問題点がある。即ち、一般に鋳造用の金型には、溶湯の凝固、収縮によって鋳物に欠陥を生じさせないよう、溶湯を補給するための空間部としての押湯部が設けられており、鋳造品には前記押湯部に溜まった凝固金属(以下、単に押湯部という)がバリとして付着する。
【0008】
また、鋳造品には溶湯を金型内に導く流路である湯口部に溜まった凝固金属(以下、単に湯口部という)がバリとして付着する。従って、鋳造品製造工程には、鋳造成型後にトリミングプレス機又は鋸盤等を使用して前記押湯部又は湯口部を切除するバリ除去工程が必要になる。
【0009】
また、鋳造品の一部である例えば肉厚部は、組織が肥大化するか又は微小欠陥が発生し易く、製品強度が低下し易いことから、このような微小欠陥が発生し易い部分の組織強度を部分的に向上させるための処理が必要になるという問題点もあり、上述したバリ除去工程と共に鋳造品製造工程全体を煩雑にする要因となっている。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、金属又は合金の溶湯を金型に鋳込んで鋳造した鋳造品の微小欠陥を生じ易い部分を局部的に鍛造してその金属組織を強化させる処理と、押湯部又は湯口部に相当する部分を切除するバリ除去処理とを同時に実施することによって鋳造品製造工程全体を簡略化することができる鋳造品の鍛造方法及び鍛造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願第1発明に係る鋳造品の鍛造方法は、金属又は合金の溶湯を金型に鋳込んで得た鋳造品を1対のプレス型により局部的に鍛造する鋳造品の鍛造方法において、前記プレス型は相互に重ねられて前記鋳造品の形状に合うキャビティを形成するキャビティ面を有し、少なくとも一方の前記キャビティ面には局部的に凸部が設けられ各プレス型の縁部には刃部が設けられており、前記1対のプレス型間に前記鋳造品を配置し、前記1対のプレス型を相互に重ね合わせることにより、前記凸部による前記鋳造品の局部的鍛造及び前記刃部による前記鋳造品のバリ除去を同時に実施することを特徴とする。
【0012】
この場合において、前記鋳造品は、金属又は合金の溶湯を重力によって前記金型に鋳込んだ重力鋳造品であることが好ましい。
【0013】
また、この場合において、前記鋳造品は、アルミニウム又はアルミニウム合金製であることが好ましい。
【0014】
更に、この場合において、前記バリは前記鋳造品の湯口部又は押湯部に相当する部分であることが好ましい。
【0015】
本願第2発明に係る鋳造品の鍛造装置は、相互に重ねられて金属又は合金からなる鋳造品の形状に合うキャビティを形成するキャビティ面を有する1対のプレス型と、少なくとも一方の前記キャビティ面に局部的に設けられた凸部と、前記各プレス型の縁部に設けられた刃部と、前記1対のプレス型間に前記鋳造品を配置した状態で前記プレス型を相互に重ね合わせるように駆動する駆動部と、を有し、前記駆動部により前記1対のプレス型の少なくとも一方を駆動することにより、前記凸部による前記鋳造品の局部的鍛造及び前記刃部による前記鋳造品のバリ除去を同時に実施するものであることを特徴とする。
【0016】
この場合において、前記鋳造品は、金属又は合金の溶湯を重力によって金型に鋳込んだ重力鋳造品であることが好ましい。
【0017】
また、この場合において、前記鋳造品は、アルミニウム又はアルミニウム合金製であることが好ましい。
【0018】
更に、この場合において、前記バリは前記鋳造品の湯口部又は押湯部に相当する部分であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本願第1発明の請求項1に係る鋳造品の鍛造方法によれば、鋳造品の一部の金属組織を強化する鍛造処理と、鋳造品に付着した湯口部、押湯部等を切除するバリ除去処理とを1つの操作によって同時に実施することができるので、製造工程を煩雑にすることなく、バリのない、組織強度に優れた鋳造品を得ることができる。
【0020】
本願請求項2に係る鋳造品の鍛造方法によれば、前記鋳造品を、金属又は合金の溶湯を重力によって金型に鋳込んだ重力鋳造品としたので、バリのない、組織強度に優れた重力鋳造品が得られる。
【0021】
本願請求項3に係る鋳造品の鍛造方法によれば、前記鋳造品を、アルミニウム又はアルミニウム合金製としたので、アルミニウム又はアルミニウム合金製の鋳造品又は重力鋳造品であって、バリのない組織強度に優れた鋳造品を得ることができる。
【0022】
本願請求項4に係る鋳造品の鍛造方法によれば、前記バリを前記鋳造品の湯口部又は押湯部に相当する部分としたので、湯口部又は押湯部が切除された組織強度に優れた鋳造品を得ることができる。
【0023】
本願第2発明の請求項5に係る鋳造品の鍛造装置によれば、鋳造品の一部を鍛造処理してその金属組織を強化する鍛造処理と、鋳造品に付着した湯口部、押湯部等を切除するバリ除去処理とを1つの装置の1つの操作によって同時に実施することができるので、鋳造品製造工程の煩雑さを解消して、バリのない、組織強度が強化された鋳造品を製造することができる。
【0024】
本願請求項6に係る鋳造品の鍛造装置によれば、前記鋳造品を、金属又は合金の溶湯を重力によって金型に鋳込んだ重力鋳造品としたので、重力鋳造品の部分的組織強化処理と、バリ除去処理とを同時に実施することができる。
【0025】
本願請求項7に係る鋳造品の鍛造装置によれば、前記鋳造品を、アルミニウム又はアルミニウム合金製としたので、製造工程を煩雑にすることなく、バリのない、組織強度に優れたアルミニウム又はアルミニウム合金製の鋳造品又は重力鋳造品を得ることができる。
【0026】
本願請求項8に係る鋳造品の鍛造装置によれば、前記バリを前記鋳造品の湯口部又は押湯部に相当する部分としたので、湯口部又は押湯部が切除された組織強度に優れた鋳造品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
図1及び図2は夫々重力金型鋳造機の説明図及びこの重力金型鋳造機を用いた鋳造方法を示す説明図であって、図1(a)は重力金型鋳造機の正面図、図1(b)は図1(a)の左側面図である。また図2(a)乃至図2(e)は、夫々鋳造工程に沿った金型部分を示す断面図である。先ず、図1及び図2を用いて本実施形態で使用する重力金型鋳造機及びこれを用いた鋳造品の鋳造方法について説明する。
【0029】
図1(a)において、この重力金型鋳造機の鋳造機本体1は、架台2上に載置されており、直立状態(初期状態)から水平状態(注湯状態)に至るまで傾動可能になっている。鋳造機本体1の上下端には夫々矩形の可動側取付板3及び固定側取付板4が配置されており、この可動側取付板3と固定側取付板4とは夫々その4角に配置された4本のタイバー5で連結されている。
【0030】
上側型板6a及び下側型板6bの4角には夫々貫通孔が設けられており、この貫通孔に夫々4本のタイバー5が挿入されている。上側型板6a及び下側型板6bはタイバー5に沿って上下動可能に設けられている。
【0031】
上側型板6aは可動側取付板3を貫通して上方に延びる上側型締めシリンダ8に連結されており、下側型板6bは固定側取付板4を貫通して下方に延びる下側型締めシリンダ9に連結されている。上側型締めシリンダ8は上側型板6aをタイバー5に沿って上下動させるように作用し、下側型締めシリンダ9は下側型板6bをダイバー5に沿って上下動させるように作用する。
【0032】
上側型板6aと下側型板6bとの接合面には鋳造品を成型するためのキャビティが形成され、このキャビティ内に溶湯を鋳込んで鋳造品が製造される。
【0033】
鋳造機本体1の下方端は架台2の一端に設けられた1対の軸受け11に支持された傾動軸12に回転可能に支持されている。また鋳造機本体1の長さ方向略中央部と架台2とは傾動シリンダ10によって連結されており、傾動シリンダ10と鋳造機本体1との連結部及び傾動シリンダ10と架台2との連結部は夫々回転可能となっている、従って、傾動シリンダ10が伸縮することによって鋳造機本体1は軸受け11に支持された傾動軸12を中心として回動し、架台2に対して垂直の初期状態と水平状態との間を傾動する。
【0034】
図1(b)において、傾動軸12は左右両側の軸受け11によって支持されており、鋳造機本体1の固定側取付板4は傾動軸12に回転可能に支持されている。固定側取付板4の4角には4本のタイバー5が配置されており、固定側取付板4はこの4本のタイバー5を介して図示省略した上方の固定側取付板3と連結されている。固定側取付板4のほぼ中央部には、固定側取付板4を貫通するように下側型締めシリンダ9が配置されている。
【0035】
このような重力金型鋳造機20によって鋳造品を製造する際、先ず、図1の傾動シリンダ10を伸長して鋳造機本体1を金型6が水平の初期状態に戻す。この初期状態において、上側型締めシリンダ8を操作して金型6の上側型板6aを下降させて下側型板6bに当接させると、上側型板6a及び下側型板6b凹部によりキャビティ13が形成される(図2(a))。
【0036】
図2(a)において、上側型板6aと下側型板6bとを合わせることにより、鋳造用キャビティ13が構成される。このキャビティ13は、図中左側から右側に向かって3箇所の拡径部13aと、3箇所の縮径部13bとが交互に形成され、左端の拡径部13aの先端部がテーパ状に先細になっている。一方、右端の縮径部13bには図中右側に向かって延びる縮径部13bよりもさらに細い円筒部分13cを有し、この円筒部分は湯口と連通している。金型6の湯口部には溶湯を一時貯留する湯受け16が設けられている。このキャビティは例えばロッド鋳造用のものである。
【0037】
上側型板6aと下側型板6bを夫々貫通するように2本の突き出しピン15及び1本のリターンピン14が設けられており、この突き出しピン15及びリターンピン14は上側型板6aの上側及び下側型板6bの下側に夫々配置された突き出し板19に固定されている。
【0038】
上側型板6aを下降させて下側型板6bに合わせると、キャビティ13が形成される。このキャビティ13の湯口部に付設された湯受け16に例えばアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、単にアルミニウムという)の溶湯17を注入する。アルミニウムの溶湯17を湯受け16に注入した後、図1の傾動シリンダ10を短縮させて鋳造機本体1を徐々に傾動する。即ち、鋳造機本体1の金型6を例えば図2(b)に示したように、水平に対して約30度傾斜させると、湯受け16内のアルミニウムの溶湯17のキャビティ13内への注入が開始され、その後、更に鋳造機本体1の金型6を傾斜させていくと、湯受け16内の溶湯はキャビティ13内に注入されていく。最終的に、鋳造機本体1の金型6を垂直状態にしてアルミニウムの溶湯17のキャビティ13内への鋳込みが終了する(図2(c))。
【0039】
この状態でキャビティ13に鋳込んだアルミニウムの溶湯17を凝固させ、溶湯が凝固した後、図1の傾動シリンダ10を操作して鋳造機本体1を再度初期状態に戻す。これによって、図2(d)に示したように金型6が水平状態となる。
【0040】
その後、上側型板6aに連結された上側型締めシリンダ8(図1参照)を操作して上側型板6aをリターンピン14に沿って上昇させると共に突き出しピン15によって鋳造品18を押し出すと、図2(e)に示したように、金型6が開き、鋳造品18が離型する。図2(e)において、上下の突き出し板19は夫々プレス板26に支持されている。
【0041】
重力金型鋳造機20からの鋳造品の取り出しには鋳造品取り出し装置が使用される。図3は、鋳造品取り出し装置を示す説明図である。この鋳造品取り出し装置は例えば重力金型鋳造機20に付設されている。鋳造品取り出し装置25は、金型6から離型した鋳造品18を受ける受け皿21と、この受け皿21を支持する支持腕22と、この支持腕22を旋回可能に支持する台座23とから主として構成されている。支持腕22は受け皿21で鋳造品18を受け取る際の衝撃を緩和するように、緩衝材、例えばバネ部材を介して台座23に係合されている。
【0042】
図3において、図2と同様の構成の金型6が記載されており、この金型6によって鋳造品18を成形した後、金型6を構成する上側型板6aと下側型板6bとを開き、上側型板6aに付着して上昇した拡径部と縮径部とを有するロッドとしての鋳造品18の下方に鋳造品取り出し装置25の受け皿21が挿入されている。この状態で、上側型板6aの突き出しピン15を下方に突き出すことによって鋳造品18が受け皿21上に落下して取り出される。
【0043】
鋳造品取り出し装置25によって重力金型鋳造機20から取り出された鋳造品18は鍛造装置40に移され、ここで鋳造品18の一部としての例えば肉厚部が部分的に鍛造処理されてその金属組織が強化される。またこのとき、湯口部及び押湯部がバリとして切除される。
【0044】
図4は、本発明の実施形態に係る鋳造品の鍛造装置の要部を示す断面図である。図4において、この鍛造装置40には、1対のプレス型33aと33bが設けられている。上側プレス型33aは断面逆T字状の上側プレス板31に取り付けられており、下側プレス型33bは断面T字状の下側プレス板32に支持されている。
【0045】
上側プレス型33aと下側プレス型33bには鋳造品18が嵌合するキャビティが形成されており、上側プレス型33aには鋳造品18の鍛造処理対象部位である例えば肉厚部18aに対向する部分に鍛造用の凸部37が形成されている。鍛造用の凸部37の断面形状は、例えば三角形状又は台形状であり、図4の凸部37は断面台形の円錐台形状をしている。
【0046】
鍛造用の凸部37は、鋳造品18の微小巣(ピンホール)を鍛造処理によってなくすことができるものであればその形状は特に限定されるものではない。従って、凸部37の形状は、円錐台状、円錐状、三角錐状、三角柱状等種々のものがある。また、鍛造処理後仕上げ成形処理を行わない場合は、最終製品形状に合致した形状の凸部にすることが好ましい。
【0047】
上側プレス型33a及び下側プレス型33bの縁部には夫々刃部35が設けられており、この刃部35が噛み合うことによって鋳造品18の湯口部38及び押湯部39が切除される。
【0048】
上側プレス板33aと下側プレス板33bのキャビティ面間に鋳造品18を挟んで図示省略した駆動部を駆動させ、プレス型を相互に重ね合わせることによって、鋳造品18の肉厚部18aが上側プレス型33aに設けられた凸部37によって打ち延ばされ、微小巣がなくなって金属組織が強化されると同時に、鋳造品18に付着した湯口部38及び押湯部39が切除される。
【0049】
上側プレス型33aの凸部37を貫通するように押出ピン41が設けられている。また、下側プレス型33bの凸部37に対向する部分には、下側プレス型33bを貫通する押出ピン41が設けられている。上側プレス型33a及び下側プレス型33bには夫々所定位置にリターンピン42が設けられている。
【0050】
以下、上述のように構成された本実施形態に係る鋳造品の鍛造装置の動作を説明する。
【0051】
図5及び図6は、本実施形態に係る鋳造品の鍛造装置の動作を示す説明図である。先ず、上述した重力金型鋳造機20の金型6の鋳造用キャビティ13にアルミニウムの溶湯17を鋳込んで、鋳造品18を成型した後、金型6を上側型板6aと下側型板6bとの接合部であるパーティングラインで開く際、下側型板6bの突き出しピン15を突き出して鋳造品18を押し出す一方、上側型板6aの突き出しピン15は突き出すことなくそのままの状態で開くと、鋳造品18は図3に示したように上側型板6aに付着したまま上方に持ち上がる。
【0052】
この状態で、鋳造品取り出し装置25の支持腕22を旋回させて支持腕22の先端部の受け皿21を上側型板6aに付着した鋳造品18の下方に挿入する。この状態で上側型板6aの突き出しピン15を突き出すと鋳造品18は離型して受け皿21上に落下する。
【0053】
このようにして受け皿21で受け取った鋳造品18を例えばオペレータが火箸を用いて図5(a)に示したような鍛造装置40の下側プレス型33bのキャビティ面上に載置する。上側プレス型33aと下側プレス型33bには鋳造品18が嵌合するキャビティを構成する凹部が形成されており、鋳造品18は下側プレス型33bの凹部であるキャビティ面上に置かれる。鋳造品18には例えば図6(a)に示したように湯口部38及び押湯部39が付着している。図6(a)において、図5に示した鋳造品18とは形状が異なる平面図上5つの凸部を有する鋳造品28に湯口部38及び押湯部39がバリとして付着している。
【0054】
鍛造装置40に鋳造品18を移した状態で、図示省略した駆動装置の起動スイッチを押すと図5(b)に示したように、例えば上側プレス型33aが下降し、上側プレス型33aと下側プレス型33bとが噛み合う。これによって、上側プレス型33aに設けられた鍛造用凸部37によって鋳造品18の例えば肉厚部18aが打ち延ばされ、部分的に鍛造処理される。このとき、鋳造品18に付着した湯口部38及び図示省略した押湯部39が刃部35によって切除される。凸部37による鍛造処理は前記凸部37によるプレス操作として1回のみ行われ、これによって、金属組織に鍛流線が生じて組織強度が高まる。
【0055】
鋳造品を部分的に鍛造処理して金属組織強度を向上させると共に、湯口部38及び押湯部39を切除した後、鍛造装置40の動作を停止し、上側プレス型33aを上昇させて鋳造品18を製品として取り出す。
【0056】
図6(b)は、湯口部38及び押湯部39が切除された鋳造品28を示す図である。図6(b)において、図6(a)に示した平面図上5つの凸部を有する鋳造品28から湯口部38及び押湯部39が切除されている。
【0057】
本実施形態によれば、鋳造品18を鍛造用凸部37と刃部35とを備えた1対のプレス型を有する鍛造装置40に移し、前記プレス型を駆動装置によって重ね合わせることによって、一の装置による一の動作によって鋳造品18の一部としての例えば肉厚部18aを部分的に鍛造してその金属組織を強化すると同時に、湯口部38及び押湯部39を切除することができる。従って、鋳造品製造工程の煩雑さを解消することができる。
【0058】
本実施形態において、鍛造処理された鋳造品には成型品組織に鍛流線が生じ、微小巣がなくなってその部分の金属組織強度が向上する。
【0059】
本実施形態において、鋳造品18を成型した後、鋳造品18に余熱がある状態で鍛造装置40に移して鍛造処理とバリ除去処理を行うことが好ましい。鋳造成型時の余熱を有する鋳造品18に対して鍛造処理及びバリ除去処理を行うことにより、鋳造品を冷却させた後、同様の処理を行う場合に比べて鋳造品強度が小さい温度領域で処理することができるので、比較的小さな力によって金属組織強化処理及びバリ除去処理を行うことができ、これによってエネルギ効率が向上すると共に、治具の寿命が延びる。
【0060】
なお、本実施形態では、成型品を部分的に鍛造処理したものが最終製品となる。鋳造品の形状は、ニアネット形状であり、このニアネット形状の鋳造品を部分的に鍛造処理することによって最終製品形状となる。
【0061】
本実施形態においては、鋳造品18の肉厚部18aを部分的に鍛造処理する場合について説明したが、本発明において、部分的に鍛造処理される部位は肉厚部に限定されるものでなく、組織強化の必要な部位について鍛造処理を行うことができる。また、本実施形態において、鍛造処理の対象として重力鋳造品を使用したが、本発明の処理対象となる鋳造品は重力鋳造品に限定されるものではなく、加圧鋳造品、減圧鋳造品、その他の鋳造品であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の鋳造品の鍛造方法及び鍛造装置は、鋳造品の部分的強化とバリ除去処理とを一の装置による一工程として同時に行うことができ、鋳造品製造工程の簡素化及び熱効率の向上を実現することができるものであり、鋳造分野、特にアルミニウム重力鋳造分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】重力金型鋳造機の説明図である。
【図2】重力金型鋳造機による鋳造方法を示す説明図である。
【図3】重力金型鋳造機に付設された鋳造品取り出し装置の説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る鍛造装置の部分拡大断面図である。
【図5】鍛造装置の作用を示す説明図である。
【図6】鋳造品のバリ除去操作を示す説明図である。
【図7】従来技術の説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1:鋳造機本体
2:架台
3:可動側取付板
4:固定側取付板
5:タイバー
6:金型
6a:上側型板
6b:下側型板
8:上側型締めシリンダ
9:下側型締めシリンダ
10:傾動シリンダ
11:軸受け
12:傾動軸
13:キャビティ
14:リターンピン
15:突き出しピン
16:湯受け
17:アルミニウムの溶湯
18:鋳造品
18a:肉厚部
19:突き出し板
20:重力金型鋳造機
21:受け皿
22:支持腕
23:台座
25:鋳造品取り出し装置
26:プレス板
28:鋳造品
31:上側プレス板
32:下側プレス板
33a:上側プレス型
33b:下側プレス型
35:刃部
37:鍛造用凸部
38:湯口部
39:押湯部
40:鍛造装置
41:押出ピン
42:リターンピン
51:ベント孔
52:キャビティ
53:湯口
54:加圧シリンダ
55:加圧子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属又は合金の溶湯を金型に鋳込んで得た鋳造品を1対のプレス型により局部的に鍛造する鋳造品の鍛造方法において、前記プレス型は相互に重ねられて前記鋳造品の形状に合うキャビティを形成するキャビティ面を有し、少なくとも一方の前記キャビティ面には局部的に凸部が設けられ各プレス型の縁部には刃部が設けられており、前記1対のプレス型間に前記鋳造品を配置し、前記1対のプレス型を相互に重ね合わせることにより、前記凸部による前記鋳造品の局部的鍛造及び前記刃部による前記鋳造品のバリ除去を同時に実施することを特徴とする鋳造品の鍛造方法。
【請求項2】
前記鋳造品は、金属又は合金の溶湯を重力によって前記金型に鋳込んだ重力鋳造品であることを特徴とする請求項1に記載の鋳造品の鍛造方法。
【請求項3】
前記鋳造品は、アルミニウム又はアルミニウム合金製であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳造品の鍛造方法。
【請求項4】
前記バリは前記鋳造品の湯口部又は押湯部に相当する部分であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鋳造品の鍛造方法。
【請求項5】
相互に重ねられて金属又は合金からなる鋳造品の形状に合うキャビティを形成するキャビティ面を有する1対のプレス型と、少なくとも一方の前記キャビティ面に局部的に設けられた凸部と、前記各プレス型の縁部に設けられた刃部と、前記1対のプレス型間に前記鋳造品を配置した状態で前記プレス型を相互に重ね合わせるように駆動する駆動部と、を有し、前記駆動部により前記1対のプレス型の少なくとも一方を駆動することにより、前記凸部による前記鋳造品の局部的鍛造及び前記刃部による前記鋳造品のバリ除去を同時に実施するものであることを特徴とする鋳造品の鍛造装置。
【請求項6】
前記鋳造品は、金属又は合金の溶湯を重力によって金型に鋳込んだ重力鋳造品であることを特徴とする請求項5に記載の鋳造品の鍛造装置。
【請求項7】
前記鋳造品は、アルミニウム又はアルミニウム合金製であることを特徴とする請求項5又は6に記載の鋳造品の鍛造装置。
【請求項8】
前記バリは前記鋳造品の湯口部又は押湯部に相当する部分であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の鋳造品の鍛造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−150430(P2006−150430A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347653(P2004−347653)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(390027524)浅間技研工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】