説明

鋳造成形品の中子折れ検査方法

【課題】 中子の折れを正確に検出することが可能な、鋳造成形品の中子折れ検査方法を提供する。
【解決手段】 鋳造成形品の中子折れ検査方法は、鋳造本体部11と、肉厚が他の部位に比べて薄い薄肉部31を含む中子30を用いて鋳造本体部内に形成されるウォータジャケット12(中空部)とを備えるエンジンシリンダヘッド10(鋳造成形品)を準備するステップ、鋳造本体部とウォータジャケットとの間の境界面13のうち検査対象となる検査面14に向けて探触子21から超音波を送信するステップ、検査面において反射した超音波を探触子により受信するステップ、受信した超音波に基づいて中子の折れを検出するステップ、を有する。エンジンシリンダヘッドを準備するステップにおいては、薄肉部の先端に断面平面形状を有する平坦部32を設けた中子を使用し、検査面を平坦部によって平面形状に成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中子の折れを検出する、鋳造成形品の中子折れ検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用の鋳造成形品であるシリンダヘッドやギヤキャリアなどは、鋳造本体部と、当該鋳造本体部内に形成される中空部とを備えている。中空部を形成するに際しては、一般に、シェルモールド法あるいはコールドボックス法により造型した中子を使用している。搬送時や鋳造時において、中子に折れや割れが生じることがある。折れなどが生じた中子を使用して鋳造すると、当該中子によって成形されるべき流路が所定形状に成形されないという不具合が生じる。
【0003】
鋳造成形品を製品として出荷する前には、流路が所定形状に成形されているか否かが検査される。流路の検査手法には、目視やファイバースコープによる官能検査のほか、特許文献1に示されるように、超音波センサを使用して検査する手法がある。特許文献1の検査手法では、流路に通じる一の開口より超音波を送信し、送信された超音波を流路に通じる他の開口で受信し、流路の閉塞度を検査している。
【特許文献1】特開2000−338090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中空部を形成するための中子には、要求される中空部の形状に対応して、肉厚が他の部位に比べて薄く形成された薄肉部を含むものがある。この種の中子は薄肉部が折れたり欠けたりしやすいため、鋳造成形品を製品として出荷する前には、特に、中子の折れの有無を検査する必要がある。
【0005】
流路の閉塞度を検査するための特許文献1の検査手法にあっては、鋳造成形品の中子折れを検査することは困難である。
【0006】
本発明の目的は、中子の折れを正確に検出することが可能な、鋳造成形品の中子折れ検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は下記の手段により達成される。
【0008】
鋳造本体部と、肉厚が他の部位に比べて薄い薄肉部を含む中子を用いて前記鋳造本体部内に形成される中空部とを備える鋳造成形品を準備するステップと、
前記鋳造本体部と前記中空部との間の境界面のうち検査対象となる検査面に向けて送信探触子から超音波を送信するステップと、
前記検査面において反射した超音波を受信探触子により受信するステップと、
受信した超音波に基づいて前記中子の折れを検出するステップと、を有し、
前記鋳造成形品を準備するステップにおいて、前記薄肉部の先端に断面平面形状を有する平坦部を設けた中子を使用し、前記検査面を前記平坦部によって平面形状に成形してなる鋳造成形品の中子折れ検査方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、反射源の形状を平面形状に設定することによって、検査面で反射する超音波の分散、減衰を低減し、反射効率を高めることができる。したがって、反射源から安定かつ明瞭なエコー信号を得ることができ、エコー信号の振幅を増大し、検出性能(S/N)を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る鋳造成形品10の中子折れ検査方法を具現化した検査装置20を示す概略構成図、図2(A)は、同検査装置20の要部を示す断面図、図2(B)は、鋳造成形品10を準備する際に使用される中子30を示す断面図、図3は、反射波の波形の一例を示す線図である。図4は、対比例における検査装置の要部を示す断面図である。
【0012】
図1および図2を参照して、検査装置20は、鋳造本体部11と、中子30を用いて鋳造本体部11内に形成される中空部12とを備える鋳造成形品10に対して、中子30の折れを検出するために用いられる。図示例において、鋳造成形品10は、エンジンシリンダヘッドであり、中空部12は、冷却水を流すためのウォータジャケットである。中子30は、例えば砂中子であり、肉厚が他の部位に比べて薄い薄肉部31を含んでいる。中子30の薄肉部31は折れたり欠けたりしやすいため、エンジンシリンダヘッド10を製品として出荷する前に、検査装置20により、薄肉部31における中子30の折れの有無を検査する。
【0013】
検査装置20は、周知の超音波探傷試験の原理を利用したものであり、超音波を送受信する探触子21(送信探触子および受信探触子に相当する)と、探触子21に接続されたパルス発生機24と、探触子21に接続された受信機25と、受信機25に接続された画像化処理装置26と、画像化処理装置26に接続された制御装置27とを有している。実施形態では、送受信兼用の1つの探触子21を使用している。パルス発生機24および受信機25により、送受信回路が構成される。
【0014】
図示する探触子21は、超音波を探傷面10aに対して斜めに送受信する斜角探触子であり、合成樹脂製のくさび22に振動子23を貼り付けて構成されている。探触子21は、鋳造本体部11とウォータジャケット12との間の境界面13のうち検査対象となる検査面14に向けて、超音波を送信する。送信される超音波の周波数は、パルス発生機24からの信号に基づいて所定の周波数に設定される。振動子23から発せられた超音波は、鋳造本体部11内に所定の屈折角θをもって伝播される。屈折角θは、エンジンシリンダヘッド10の設計データに基づいて、探触子21と検査面14との位置関係から算出される。斜角探触子21は、屈折角を調節自在に構成されていることが好ましい。屈折角の微調整を可能にするとともに、複数種類のエンジンシリンダヘッド10に対する検査を可能にするためである。
【0015】
受信機25は、探触子21が受信した、検査面14において反射した超音波に関する信号(エコー信号)を受信する。
【0016】
制御装置27は、CPUやディスプレイ28などを備え、検査装置20全体の作動の制御を司り、中子30の折れの有無を検出する。ディスプレイ28には、画像化された超音波の波形や、検出結果などが表示される。
【0017】
一般的な中子にあっては、薄肉部の先端は円弧形状に形成されている。このため、図4に示す対比例のように、エンジンシリンダヘッド40における検査面41も円弧形状に成形される。検査面41が円弧形状であると、検査面41で反射した超音波が分散、減衰する結果、反射源からのエコー信号が不明瞭になる。したがって、エコー信号の振幅が減少し、検出性能(S/N)が低下する。
【0018】
そこで、本実施形態にあっては、エコー信号の振幅を増大し、検出性能(S/N)を改善するために、次のような手段を講じてある。
【0019】
すなわち、エンジンシリンダヘッド10を準備するに際し、薄肉部31の先端に断面平面形状を有する平坦部32を設けた中子30を使用し(図2(B)参照)、検査面14を平坦部32によって平面形状に成形してある(図2(A)参照)。
【0020】
平坦部32は、平面形状をなす検査面14上の法線を探触子21に向けるように、中子30に設けられている。平坦部32の傾斜角度は、エンジンシリンダヘッド10の設計データに基づいて、探触子21と検査面14との位置関係から算出される。
【0021】
平坦部32を形成する範囲は、薄肉部31の先端の一部の範囲で足りる。つまり、平坦部32によって成形される検査面14が、鋳造本体部11内を伝播してきた超音波を反射し得る範囲に位置すれば足りる。さらに、ウォータジャケット12本来の機能を阻害しないように、検査面14は、冷却水の流速などに影響を及ぼさない程度の面積に設定される。
【0022】
上記のように反射源の形状を平面形状に設定することによって、検査面14で反射する超音波の分散、減衰を低減し、反射効率を高めることができる。したがって、反射源から安定かつ明瞭なエコー信号を得ることができ、エコー信号の振幅を増大し、検出性能(S/N)を改善することができる(図3参照)。なお、図3において、符号「3A」は、探傷面10aにおける反射波を示し、符号「3B」は、検査面14における反射波を示している。
【0023】
さらに、本実施形態では、エンジンシリンダヘッド10を準備するに際し、平坦部32の表面粗さを他の部位の表面粗さに比べて小さくした中子30を使用することによって、平面形状をなす検査面14の表面粗さを他の境界面13の表面粗さに比べて小さく、つまり平滑面にしてある。具体的には、平坦部32の表面に塗型を塗布することによって、中子30における平坦部32の表面粗さを他の部位の表面粗さに比べて小さくしてある。これにより、中子30の平坦部32によって成形される検査面14には、他の境界面13の表面粗さに比べて小さい表面粗さのコーティング層15が形成される(図2(A)参照)。塗型には、扁平粒子などを含んだ揮発性バインダの混合液を使用することができる。
【0024】
上記のように反射源の界面性状を平滑面に設定することにより、検査面14で反射する超音波の分散、減衰をさらに低減し、反射効率を一層高めることができる。したがって、反射源から安定かつ明瞭なエコー信号を得ることができ、エコー信号の振幅を増大し、検出性能(S/N)を改善することができる。
【0025】
次に、中子折れの検出手順を説明する。
【0026】
まず、鋳造本体部11と、肉厚が他の部位に比べて薄い薄肉部31を含む中子30を用いて鋳造本体部11内に形成されるウォータジャケット12とを備えるエンジンシリンダヘッド10を準備する(エンジンシリンダヘッド10を準備するステップ)。
【0027】
このエンジンシリンダヘッド10を準備するステップにおいては、薄肉部31の先端に断面平面形状を有する平坦部32を設けた中子30を使用し(図2(B)参照)、検査面14を平坦部32によって平面形状に成形してある(図2(A)参照)。さらに、平坦部32の表面に塗型を塗布することによって、中子30の平坦部32の表面粗さを他の部位の表面粗さに比べて小さくし、検査面14に、他の境界面13の表面粗さに比べて小さい表面粗さのコーティング層15を形成してある(図2(A)参照)。
【0028】
次いで、鋳造本体部11とウォータジャケット12との間の境界面13のうち検査対象となる検査面14に向けて探触子21から超音波を送信する(超音波を送信するステップ)。振動子23から発せられた超音波は、鋳造本体部11内に所定の屈折角θをもって伝播される。屈折角θは、エンジンシリンダヘッド10の設計データに基づいて、探触子21と検査面14との位置関係から算出されている。
【0029】
次いで、検査面14において反射した超音波を探触子21により受信する(超音波を受信するステップ)。本実施形態にあっては、反射源の形状を平面形状に設定し、さらに、反射源の界面性状を平滑面に設定することによって、検査面14で反射する超音波の分散、減衰を低減し、反射効率を高めることができる。したがって、反射源から安定かつ明瞭なエコー信号を得ることができ、エコー信号の振幅を増大し、検出性能(S/N)を改善することができる。
【0030】
次いで、受信した超音波に基づいて中子30の折れを検出する(中子の折れを検出するステップ)。中子折れが発生しなかった場合には、検査面14の位置は設計データどおりであるため、設計上の位置にエコーが現れる。したがって、エコーが現れた位置に基づくことによって、中子30の折れの有無を判別することができる。検査面14の検出位置は、超音波の伝播速度(音速)と反射波が戻ってくるのに要した時間とから求められる。ディスプレイ28には、画像化された超音波の波形や、検出結果などが表示される。
【0031】
選定したセンサを用いて測定したところ、エコー信号の振幅が増大し、検出性能(S/N)が改善され、本発明の手法の有効性を確認した。選定したセンサの仕様は次のとおりである。
【0032】
振動子材質: ニオブ酸鉛整合層付き
振動子径: φ8
ダンパ: タングステン入りエポキシ樹脂(横振動除去コイル付)
遅延材材質: ポリスチレン
遅延材形状: 20mm角
超音波入射点:センタ
吸音材: 有り
である。
【0033】
(改変例)
反射源の形状を平面形状に設定し、かつ、反射源の界面性状を平滑面に設定した実施形態について説明したが、少なくとも、反射源の形状を平面形状に設定することによって、本発明の目的を達成することができる。
【0034】
送信探触子および受信探触子を1つの探触子21により兼用したが、送信探触子および受信探触子を別個独立に設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る鋳造成形品の中子折れ検査方法を具現化した検査装置を示す概略構成図である。
【図2】図2(A)は、同検査装置の要部を示す断面図、図2(B)は、鋳造成形品を準備する際に使用される中子を示す断面図である。
【図3】反射波の波形の一例を示す線図である。
【図4】対比例における検査装置の要部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
10 エンジンシリンダヘッド(鋳造成形品)、
11 鋳造本体部、
12 ウォータジャケット(中空部)、
13 境界面、
14 検査面、
15 コーティング層、
20 検査装置、
21 探触子(送信探触子、受信探触子)、
22 くさび、
23 振動子、
24 パルス発生機、
25 受信機、
26 画像化処理装置、
27 制御装置、
28 ディスプレイ、
30 中子、
31 薄肉部、
32 平坦部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造本体部と、肉厚が他の部位に比べて薄い薄肉部を含む中子を用いて前記鋳造本体部内に形成される中空部とを備える鋳造成形品を準備するステップと、
前記鋳造本体部と前記中空部との間の境界面のうち検査対象となる検査面に向けて送信探触子から超音波を送信するステップと、
前記検査面において反射した超音波を受信探触子により受信するステップと、
受信した超音波に基づいて前記中子の折れを検出するステップと、を有し、
前記鋳造成形品を準備するステップにおいて、前記薄肉部の先端に断面平面形状を有する平坦部を設けた中子を使用し、前記検査面を前記平坦部によって平面形状に成形してなる鋳造成形品の中子折れ検査方法。
【請求項2】
前記平坦部は、平面形状をなす前記検査面上の法線を前記受信探触子に向けるように、前記中子に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鋳造成形品の中子折れ検査方法。
【請求項3】
前記鋳造成形品を準備するステップにおいて、前記平坦部の表面粗さを他の部位の表面粗さに比べて小さくした中子を使用することによって、平面形状をなす前記検査面の表面粗さを他の境界面の表面粗さに比べて小さくしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋳造成形品の中子折れ検査方法。
【請求項4】
前記平坦部の表面に塗型を塗布することによって、前記中子における前記平坦部の表面粗さを他の部位の表面粗さに比べて小さくすることを特徴とする請求項3に記載の鋳造成形品の中子折れ検査方法。
【請求項5】
前記鋳造成形品はエンジンシリンダヘッドであり、前記中空部は冷却水を流すためのウォータジャケットである請求項1〜4のいずれか1つに記載の鋳造成形品の中子折れ検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−162331(P2006−162331A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351296(P2004−351296)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】