説明

鋳造用金型

【課題】軽金属鋳造において細穴鋳抜き部や狭部の冷却を行うために、銅−水型ヒートパイプを耐熱限界下で使用可能とする鋳造用金型を提供する。
【解決手段】ヒートパイプ22を含む冷却部20を備えた鋳造用金型10であって、ヒートパイプ22は、金型10内に配置されて入熱部22aとされた一端部と、冷却部20内に配置されて凝縮部22bとされた他端部とを備え、入熱部22aは、断熱スリーブ35を介して金型10に接触し、凝縮部22bは、冷却部20内に設けられたインナーチューブ23の内部に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の冷却、特に、ヒートパイプを用いた軽金属鋳造用金型の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造用金型、特にその一部を構成する鋳抜きピンの冷却構造として、鋳物の厚肉部などの冷却効率向上を目的とし、先端部が鉄鋼材料、基体部が銅、ステンレスで、作動液がナフタレンであるヒートパイプを用い、高温作動状態における作動液による腐食を抑制するために鉄鋼材料内壁にめっきを施した技術(特許文献1)、省スペースでメンテナンスフリーを目的とした冷却構造であって、ヒートパイプを用いて、且つ冷却部に簡便な冷却ユニットを有する構造とすることでメンテナンスや交換が簡単に行える技術(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−068135号公報
【特許文献2】特開平8−34022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、軽金属鋳造の細穴鋳抜き部は、従来の水冷式冷却を行うと、冷却水通路に淀みが発生しやすいため、冷却水通路にスケールなどにより詰まりが生じ、冷却効率が格段に落ちる。また、金型に冷却回路を設けると、金型の肉が薄くなり、クラック発生などのリスクが高くなる部位がある。
水冷式冷却の場合には、水漏れの発生する場合があり、漏れた水が蒸発することで鋳造時に金型内の圧力が高くなることがあるため、冷却構造を設けない場合が多い。このように、冷却を行わない場合は、溶湯の凝固時間が長くなるので、鋳造サイクルの増加につながる。
【0005】
水を用いない冷却方法として、ヒートパイプを用いて熱輸送を行い、溶湯から離れた金型の深部を冷却するものがあるが、軽金属鋳造の細穴鋳抜きピンや狭部の場合は金型温度が500℃以上となる。ヒートパイプの作動液として実用熱媒体として適したものが存在せず、金型温度は300〜400℃が上限となる。また、ヒートパイプのコンテナ用材料としてもステンレス鋼などの高耐熱材を用いると、熱伝導率が小さいためにヒートパイプの凝縮部における抜熱効率の低下につながる。
【0006】
熱輸送効率が良く、腐食性能の高い材料として一般的に使用される銅製コンテナの場合、強度及び熱輸送の観点から、耐熱温度として300℃以下としなければならない。即ち、ヒートパイプの入熱部が300℃を越えると、急激に熱輸送能力が低下し、且つコンテナの劣化が進み、ヒートパイプの循環機能自体が働かなくなる。
高温下でヒートパイプを用いた冷却を行うためには、ヒートパイプの温度を300℃以下に保持できるように、より多くの熱輸送を行う必要があるが、そのためには、より熱輸送能力の高いヒートパイプを用いる必要がある。その場合、伝熱面積を確保できて作動液をより多く循環させることが可能な太いヒートパイプが必要になるが、金型狭部にヒートパイプを適用する場合には、外径を小径(例えば、6mm以下)にする必要がある。
【0007】
また、ヒートパイプは、入熱部、断熱部及び凝縮部から構成されることで、入熱部の熱を効率良く凝縮部にて抜熱可能であるが、ヒートパイプを軽金属鋳造の金型へ適用する場合、ヒートパイプの断熱部の位置に対応する金型内部も100℃以上の高温になるため、凝縮部で液化した作動液が入熱部先端まで送られる前に断熱部において加熱され、入熱部でドライアウト(作動液が蒸発して出来た蒸気が消失する状態)が発生し、熱輸送が行われなくなる。また、断熱構造を設定するのに型構造が複雑化し、効率良く熱交換を行うことができない。
【0008】
凝縮部においても、同様に効率良く冷却できなければ、大量に熱を輸送できない。抜熱効率を上げるためには、冷却水の流量を増やす、あるいは流速を上げる必要があるが、狭部金型においては、十分な凝縮区間を確保できず、且つ冷却構造をとることができない。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、軽金属鋳造において細穴鋳抜き部や狭部の冷却を行うために、銅−水型ヒートパイプを耐熱限界下で使用可能とする鋳造用金型を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明は、ヒートパイプを含む冷却回路を備えた鋳造用金型であって、前記ヒートパイプは、前記金型内に配置されて入熱部とされた一端部と、前記冷却回路内に配置されて凝縮部とされた他端部とを備え、前記入熱部は、断熱層を介して前記金型に接触し、前記凝縮部は、前記冷却回路内に設けられた冷却水供給用チューブの内部に配置されることを特徴とする。
この構成によれば、ヒートパイプの入熱部は断熱層によって入熱速度を抑制することが可能になるため、初期の入熱による最高温度を低減することができ、ヒートパイプ入熱部の温度を低減することができる。これにより、熱輸送を必要とする時間内で、より多くの時間をヒートパイプの作動温度域に抑えることが可能になり、より効率良く継続的に抜熱が行え、且つヒートパイプのパイプ本体の破損を防止することが可能である。
【0010】
また、凝縮部で液化した作動液が入熱部と凝縮部との間の断熱部で加熱されて入熱部まで循環せずに入熱部で作動液が消失するドライアウトが生じることを防止することができる。
更に、ヒートパイプの凝縮部は冷却水供給用チューブの内部に配置されることで、冷却水供給用チューブとヒートパイプの凝縮部との間の狭い流路に冷却水を流すことにより冷却水の流速が上げられるので、凝縮部から冷却水へ効率良く熱伝達を行うことができ、ヒートパイプの抜熱を促進することができる。
このように、入熱部と凝縮部での熱伝達を従来に比べて大きく変えることで、ヒートパイプの耐熱強度向上と抜熱効率向上とを両立することができる。
また、冷却水供給用チューブ内にヒートパイプを配置する構造であるため、冷却構造をよりコンパクトに構成することができ、金型の峡部や複雑形状部位に容易に配置することができ、そのような部位においてもヒートパイプを含む冷却回路による冷却を効果的に行うことができる。
【0011】
上記構成において、前記凝縮部の長さは、前記入熱部の長さ以上であっても良い。この構成によれば、凝縮部を入熱部よりも長くすることで、金型の熱を効率良く抜熱することができ、また、ヒートパイプの全長において、凝縮部の長さを長くすれば、入熱部と凝縮部との間の断熱部を短くすることができ、断熱部が加熱された場合に、入熱部でドライアウトが発生するのを防止することができる。
【0012】
また、上記構成において、前記ヒートパイプのパイプ本体は銅製であり、前記ヒートパイプの作動液は水であっても良い。この構成によれば、銅は熱伝導率が高いため、ヒートパイプのパイプ本体を銅製とすることで、熱伝導率を高めることができ、作動液の熱輸送と合わせて効果的に熱を冷却水回路に伝えることができる。また、水は潜熱が非常に大きいため、作動液を水にすることで、大きな熱輸送量を得ることができる。
【0013】
また、上記構成において、前記断熱層は、オーステナイト系ステンレス鋼で構成されるようにしても良い。この構成によれば、オーステナイト系ステンレス鋼は、耐熱性、耐食性に優れているため、長期に亘って高い断熱効果を得ることができる。
また、上記構成において、前記断熱層は、空気断熱層を備えていても良い。この構成によれば、断熱層の外周面に凹部や溝を形成したり、断熱層自体に穴を設けて空気断熱層を形成することで、より一層断熱効果を高めることができ、金型とヒートパイプとの間の伝熱をより抑制することが可能である。従って、ヒートパイプへの急激な入熱をより一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ヒートパイプは、金型内に配置されて入熱部とされた一端部と、冷却回路内に配置されて凝縮部とされた他端部とを備え、入熱部は、断熱層を介して金型に接触し、凝縮部は、冷却回路内に設けられた冷却水供給用チューブの内部に配置されるので、ヒートパイプの入熱部は断熱層によって入熱速度を抑制することが可能になるため、初期の入熱による最高温度を低減することができ、ヒートパイプ入熱部の温度を低減することができる。これにより、熱輸送を必要とする時間内で、より多くの時間をヒートパイプの作動温度域に抑えることが可能になり、より効率良く継続的に抜熱が行え、且つヒートパイプのパイプ本体の破損を防止することが可能である。
【0015】
また、凝縮部で液化した作動液が入熱部と凝縮部との間の断熱部で加熱されて入熱部まで循環せずに入熱部で作動液が消失するドライアウトが生じることを防止することができる。
更に、ヒートパイプの凝縮部は冷却水供給用チューブの内部に配置されることで、冷却水供給用チューブとヒートパイプの凝縮部との間の狭い流路に冷却水を流すことにより冷却水の流速が上げられるので、凝縮部から冷却水へ効率良く熱伝達を行うことができ、ヒートパイプの抜熱を促進することができる。
このように、入熱部と凝縮部での熱伝達を従来に比べて大きく変えることで、ヒートパイプの耐熱強度向上と抜熱効率向上とを両立することができる。
また、冷却水供給用チューブ内にヒートパイプを配置する構造であるため、冷却構造をよりコンパクトに構成することができ、金型の峡部や複雑形状部位に容易に配置することができ、そのような部位においてもヒートパイプを含む冷却回路による冷却を効果的に行うことができる。
【0016】
また、凝縮部の長さは、入熱部の長さ以上であるので、凝縮部を入熱部よりも長くすることで、金型の熱を効率良く抜熱することができ、また、ヒートパイプの全長において、凝縮部の長さを長くすれば、入熱部と凝縮部との間の断熱部を短くすることができ、断熱部が加熱された場合に、入熱部でドライアウトが発生するのを防止することができる。
また、ヒートパイプのパイプ本体は銅製であり、前記ヒートパイプの作動液は水であるので、銅は熱伝導率が高いため、ヒートパイプのパイプ本体を銅製とすることで、熱伝導率を高めることができ、作動液の熱輸送と合わせて効果的に熱を冷却水回路に伝えることができる。また、水は潜熱が非常に大きいため、作動液を水にすることで、大きな熱輸送量を得ることができる。
【0017】
また、断熱層は、オーステナイト系ステンレス鋼で構成されるので、オーステナイト系ステンレス鋼は、耐熱性、耐食性に優れているため、長期に亘って高い断熱効果を得ることができる。
また、断熱層は、空気断熱層を備えているので、断熱層の外周面に凹部や溝を形成したり、断熱層自体に穴を設けて空気断熱層を形成することで、より一層断熱効果を高めることができ、金型とヒートパイプとの間の伝熱をより抑制することが可能である。従って、ヒートパイプへの急激な入熱をより一層抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態を適用した鋳造用金型を示す断面図である。
【図2】鋳造用金型の要部を示す断面図であり、図2(a)は第1実施形態の実施例を示す断面図、図2(b)は図2(a)のG部拡大図、図2(c)は鋳造用金型の比較例を示す断面図である。
【図3】鋳抜きピン内部の断熱構造を示す要部断面図である。
【図4】鋳抜きピンの冷却の作用を示す作用図である。
【図5】鋳抜きピン内部の断熱構造の作用を示す作用図である。
【図6】鋳抜きピン内部の断熱構造の効果を示すグラフである。
【図7】本発明の第2実施形態を適用した鋳造用金型の断熱構造を示す断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態を適用した鋳造用金型の断熱構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態を適用した鋳造用金型を示す断面図である。
金型10は、貫通する中空部10aが形成された第1型11と、この第1型11の側部に取付けられた第2型12及び第3型13と、第2型12内に配置されるとともに中空部10a内に挿入された鋳抜きピン14とからなり、これらの第1型11、第2型12、第3型13及び鋳抜きピン14とに囲まれてキャビティ16が形成されている。
【0020】
鋳抜きピン14には、溶湯及び金型10を冷却するための冷却部20が付設されている。
冷却部20は、鋳抜きピン14内に鋳抜きピン14の軸方向に沿って開けられた冷却孔14aと、この冷却孔14a内に冷却水を供給するために鋳抜きピン14の端部に接続された冷却水供給部21と、鋳抜きピン14内及び冷却水供給部21内に配置されたヒートパイプ22と、このヒートパイプ22を囲むように冷却水供給部21から延ばされたステンレス鋼製のインナーチューブ23とからなる。
冷却水供給部21は、冷却水の供給源(不図示)に一端が接続されて他端がインナーチューブ23に接続された冷却水供給チューブ25と、一端が鋳抜きピン14に接続されるとともにインナーチューブ23の外側を覆うように配置されたアウターチューブ26と、このアウターチューブ26の他端に接続されて冷却水を外部に排出する冷却水排水チューブ27とからなる。なお、符号31はヒートパイプ22の軸方向移動を規制するためにインナーチューブ23内に配置されるとともにヒートパイプ22の端部に近接配置されたヒートパイプ押さえ棒である。
ヒートパイプ22とインナーチューブ23との間には、冷却水の給水通路となる内側冷却水通路33が形成され、インナーチューブ23と冷却孔14aとの間には冷却水の排水通路となる外側冷却水通路34が形成されている。内側冷却水通路33と、この内側冷却水通路33の外側を囲む外側冷却水通路34とは、それぞれの断面が同心円状に配置されている。
【0021】
図2(a)〜(c)は鋳造用金型の要部を示す断面図であり、図2(a)は第1実施形態の実施例を示す断面図である。
鋳抜きピン14は、アウターチューブ26が内側に嵌合された大径部14cと、この大径部14cに隣接するとともに大径部14cより小径に形成された中径部14dと、この中径部14dに隣接するとともに中径部14dより小径に形成された小径部14eとからなる。
鋳抜きピン14の冷却孔14aは、アウターチューブ26の端部26aを嵌合させるために大径部14cの内側に形成された大径孔14gと、この大径孔14gに連通するように大径孔14gより小径に形成された中径孔14hと、この中径孔14hに連通するように中径孔14hより小径に形成された小径孔14jとからなり、中径孔14hは、大径部14c及び中径部14dの内部に開けられ、小径孔14jは、中径部14d及び小径部14eの内部に開けられている。
【0022】
ヒートパイプ22は、銅製のパイプ本体と、このパイプ本体の内部に設けられた繊維状、網状などに形成されたウイック(wick)材と、同じくパイプ本体の内部に封入されて熱の移動の媒体となる作動液としての水とからなる銅−水型のものであり、軸方向には機能別に、金型10(図1参照)のキャビティ16(図1参照)内に配置された入熱部22aと、鋳抜きピン14の大径孔14g、中径孔14h及びアウターチューブ26内に配置された凝縮部22bと、これらの入熱部22a及び凝縮部22bのそれぞれの間に設けられた断熱部22cとに分けられる。ここで、入熱部22a、凝縮部22b及び断熱部22cのそれぞれの長さをL1,L2,L3とする。
【0023】
ヒートパイプ22の作用としては、入熱部22aが加熱されると、入熱部22aで作動液である水が蒸発して蒸発潜熱を吸収し、その蒸気が断熱部22cを介して凝縮部22bに移動する。
そして、蒸気は低温の凝縮部22bで凝縮して蒸発潜熱を放出し、凝縮して出来た水がウイック材による毛細管現象によって入熱部22aに移動する。このような蒸発と凝縮とに伴う潜熱移動により、入熱部22aから凝縮部22bに熱が輸送される。
鋳抜きピン14の内部で効率良く熱交換を行えるようにするため、断熱部22cは、短い方がよく、例えば、L3=10mm以下が好ましい。このように、断熱部22cを短くすることで確実に入熱部22aに凝縮した作動液を送ることが可能になり、ドライアウトのリスクを低減することができる。
【0024】
図2(b)は、図2(a)のG部拡大図であり、冷却孔14aの中径孔14hの先端部(小径孔14j側の端部)14mとインナーチューブ23の先端部23aとは、距離Dだけ離れている。この中径孔14hの先端部14mとインナーチューブ23の先端部23aとの間の部分は、冷却水供給部21から冷却孔14aに供給された冷却水の折り返し地点28となる。このような折り返し地点28を設けることで、冷却水をインナーチューブ23の内側及び外側で淀みなく流すことができ、冷却性を向上させることができるとともに、断面が同心円状の冷却水路を形成することができ、コンパクトな冷却構造とすることができる。
【0025】
図2(c)は鋳造用金型の比較例を示す断面図である。
ヒートパイプ100は、鋳抜きピン101の挿通孔101aに挿入されるとともに、鋳抜きピン101の端部に接続されたアウターチューブ102内に配置され、軸方向には機能別に、金型のキャビティ内に配置される入熱部100aと、アウターチューブ102内に流される冷却水により冷却される凝縮部100bと、これらの入熱部100a及び凝縮部101bのそれぞれの間に設けられた断熱部100cとに分けられる。
ここで、断熱部100cの長さをL4とすると、図2(a)及び図2(c)において、断熱部100cの長さL4が断熱部22cの長さL3に対して長いため、入熱部100aから凝縮部100bに十分に熱輸送を行うことができないため、例えば、入熱部100a内で作動液としての水、水蒸気が消失するドライアウトが発生することがある。
【0026】
図3は、鋳抜きピン内部の断熱構造を示す要部断面図であり、鋳抜きピン14の先端部、詳しくは鋳抜きピン14の小径孔14jとヒートパイプ22との間に、鋳抜きピン14からヒートパイプ22に熱を伝わりにくくする断熱スリーブ35が設けられている。
断熱スリーブ35は、ステンレス鋼(例えば、SUS303、SUS304が好適である。)製であり、筒部35aと、この筒部35aの一端に一体に設けられたドーム形状部35bとからなる。
断熱スリーブ35は、ヒートパイプ22の入熱部22a、断熱部22cを囲っているが、少なくともヒートパイプ22の入熱部22aを囲うものであれば良い。
また、断熱スリーブ35と、鋳抜きピン14の小径孔14jの内面及びヒートパイプ22の外面とは密着している。
【0027】
以上に述べた冷却部20、ヒートパイプ22及び断熱スリーブ35の作用を次に説明する。
図4は、鋳抜きピンの冷却の作用を示す作用図である。
金型10のキャビティ16内に、例えば、アルミニウム合金の溶湯41をダイカストマシンにより圧入すると、高温の溶湯41によって金型10が加熱される。鋳抜きピン14を介してヒートパイプ22の入熱部22aに流入した熱は、入熱部22aから断熱部22cを介して凝縮部22bに輸送される。また、鋳抜きピン14の小径部14eから中径部14dを介して大径部14c側にも熱が伝わる。
【0028】
冷却部20の冷却水供給部21では、矢印A,Bで示すように、冷却水供給チューブ25側からインナーチューブ23内に冷却水が供給され、冷却水は、ヒートパイプ22とインナーチューブ23との間の内側冷却水通路33を通り、折り返し地点28を介してインナーチューブ23と鋳抜きピン14の冷却孔14aとの間の外側冷却水通路34を通り、次に、矢印C,Cで示すように、インナーチューブ23とアウターチューブ26との間の冷却水通路を通り、矢印Eで示すように、アウターチューブ26を通って冷却水排水チューブ27から外部に排出される。
このような冷却水の流れによって、上記したヒートパイプ22の凝縮部22bの熱及び鋳抜きピン14の熱が冷却水に伝わり、ヒートパイプ22及び鋳抜きピン14が冷却される。
【0029】
図5は、鋳抜きピン内部の断熱構造の作用を示す作用図であり、鋳抜きピン14の先端部の熱の流れを示している。
白抜き矢印で示すように、溶湯から鋳抜きピン14の先端部(小径部14e、中径部14d)に入熱すると、その熱は断熱スリーブ35を介してヒートパイプ22の入熱部22aに伝わる。そして、その熱は、黒塗り矢印で示すように、ヒートパイプ22の入熱部22aから断熱部22cを介して凝縮部22bに伝わり、冷却水供給部21内を流れる冷却水に伝わる。
【0030】
図6は、鋳抜きピン内部の断熱構造の効果を示すグラフであり、図2(a)に示した実施例に示したヒートパイプ22と図2(c)に示したヒートパイプ100の温度変化を示している。グラフの縦軸はヒートパイプの温度、横軸は時間を表す。時間=0(ゼロ)は金型内に溶湯を圧入した時である。
実施例のヒートパイプ22では、金型内に溶湯を圧入した後に、ヒートパイプ22の温度は次第に上昇し、時間t2に最大温度Tmax1に達する。時間t2の後はヒートパイプ22の温度は次第に低下する。グラフ中のT1は強度及び熱輸送の観点から設定されたヒートパイプ22の耐熱温度であり、例えば、300℃である。
このように、実施例のヒートパイプ22においては、図2(a)に示されるように、ヒートパイプ22の入熱部22aが断熱スリーブ35で覆われるため、溶湯から熱が伝わりにくくなっている。
【0031】
図6において、比較例のヒートパイプ100では、金型内に溶湯を圧入した後に、ヒートパイプ100の温度は、実施例のヒートパイプ100の場合よりも急に上昇し、時間t1(<t2)に最大温度Tmax2に達する。最大温度Tmax2は実施例の最大温度Tmax1よりも高い。時間t2の後はヒートパイプ100の温度は次第に低下する。グラフ中のT2は短時間使用する際のヒートパイプ100の耐熱温度であり、例えば、500℃である。
このように、図2(c)に示した鋳抜きピン101内に単にヒートパイプ100を挿入しただけでは、ヒートパイプ100の温度が非常に高くなるため、ヒートパイプ100の寿命は短くなる。また、ヒートパイプ100の内部でドライアウトが発生して、熱輸送が行われなくなる場合がある。
これに対して、実施例では、図6に示したように、比較例の最大温度Tmax2に対して最大温度Tmax1が低く、温度T1以下の低い温度状態が維持されるため、ヒートパイプ22による熱移動を効果的に行うことができる。
【0032】
以上の図1〜図3で説明したように、ヒートパイプ22は、金型10内に配置されて入熱部22aとされた一端部と、冷却回路としての冷却部20内に配置されて凝縮部22bとされた他端部とを備え、入熱部22aは、断熱層としての断熱スリーブ35を介して金型10、詳しくは鋳抜きピン14に接触し、凝縮部22bは、冷却部20内に設けられた冷却水供給用チューブとしてのインナーチューブ23の内部に配置されるので、ヒートパイプ22の入熱部22aは断熱スリーブ35によって入熱速度を抑制することが可能になるため、初期の入熱による最高温度を低減することができ、ヒートパイプ22の入熱部22aの温度を低減することができる。これにより、熱輸送を必要とする時間内で、より多くの時間をヒートパイプ22の作動温度域に抑えることが可能になり、より効率良く継続的に抜熱が行え、且つヒートパイプ22のパイプ本体の破損を防止することが可能である。
【0033】
また、凝縮部22bで液化した作動液が入熱部22aと凝縮部22bとの間の断熱部22cで加熱されて入熱部22aまで循環せずに入熱部22aで作動液が消失するドライアウトが生じることを防止することができる。
更に、ヒートパイプ22の凝縮部22bはインナーチューブ23の内部に配置されることで、インナーチューブ23とヒートパイプ22の凝縮部22bとの間の狭い流路に冷却水を流すことにより冷却水の流速が上げられるので、凝縮部22bから冷却水へ効率良く熱伝達を行うことができ、ヒートパイプ22の抜熱を促進することができる。
このように、入熱部22aと凝縮部22bでの熱伝達を従来に比べて大きく変えることで、ヒートパイプ22の耐熱強度向上と抜熱効率向上とを両立することができる。
また、インナーチューブ23内にヒートパイプ22を配置する構造であるため、冷却構造をよりコンパクトに構成することができ、金型10の峡部や複雑形状部位に容易に配置することができ、そのような部位においてもヒートパイプ22を含む冷却回路による冷却を効果的に行うことができる。
【0034】
また、凝縮部22bの長さL2は、入熱部22aの長さL1以上であるので、凝縮部22bを入熱部22aよりも長くすることで、金型10の熱を効率良く抜熱することができ、また、ヒートパイプ22の全長において、凝縮部22bの長さを長くすれば、入熱部22aと凝縮部22bとの間の断熱部22cを短くすることができ、断熱部22cが加熱された場合に、入熱部22aでドライアウトが発生するのを防止することができる。
また、ヒートパイプ22のパイプ本体は銅製であり、ヒートパイプ22の作動液は水であるので、銅は熱伝導率が高いため、ヒートパイプ22のパイプ本体を銅製とすることで、熱伝導率を高めることができ、作動液の熱輸送と合わせて効果的に熱を冷却水回路に伝えることができる。また、水は潜熱が非常に大きいため、作動液を水にすることで、大きな熱輸送量を得ることができる。
【0035】
また、断熱スリーブ35は、オーステナイト系ステンレス鋼で構成されるので、オーステナイト系ステンレス鋼は、耐熱性、耐食性に優れているため、長期に亘って高い断熱効果を得ることができる。
【0036】
<第2実施形態>
図7は、本発明の第2実施形態を適用した鋳造用金型の断熱構造を示す断面図である。 第2実施形態において、第1実施形態と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
断熱スリーブ51は、ステンレス鋼(例えば、SUS303、SUS304が好適である。)製であり、筒部51aと、この筒部51aの一端に一体に設けられたドーム形状部51bとからなり、外周面51cに、筒部51a及びドーム形状部51bに亘って空気断熱層を形成する複数の凹部51eが形成されている。
【0037】
<第3実施形態>
図8は、本発明の第3実施形態を適用した鋳造用金型の断熱構造を示す断面図である。
第3実施形態において、第1実施形態と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
断熱スリーブ55は、ステンレス鋼(例えば、SUS303、SUS304が好適である。)製であり、筒部55aと、この筒部55aの一端に一体に設けられたドーム形状部55bとからなり、筒部51a及びドーム形状部51bに亘って空気断熱層を形成するために外周面55c側と内周面55d側とを貫通する複数の貫通孔55eが形成されている。
以上の図7、図8で説明したように、断熱層としての断熱スリーブ51,55は、空気断熱層としての複数の凹部51e、貫通孔55eを備えているので、断熱スリーブ51,55の外周面に凹部51eを形成したり、貫通孔55eを設けて空気断熱層を形成することで、より一層断熱効果を高めることができ、金型としての鋳抜きピン14とヒートパイプ22との間の伝熱をより抑制することが可能である。従って、ヒートパイプ22への急激な入熱をより一層抑制することができる。
【0038】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
例えば、上記実施形態において、図7に示した断熱スリーブ51では、外周面51cに複数の凹部51eを形成したが、これに限らず、断熱スリーブ51の内周面に複数の凹部を形成しても良い。また、外周面51cに複数の空気断熱層としての溝を形成しても良い。
【符号の説明】
【0039】
10 金型(鋳造用金型)
20 冷却部(冷却回路)
22 ヒートパイプ
22a 入熱部
22b 凝縮部
23 インナーチューブ(冷却水供給用チューブ)
35 断熱スリーブ(断熱層)
51e 凹部(空気断熱層)
55e 貫通孔(空気断熱層)
L1 入熱部の長さ
L2 凝縮部の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートパイプを含む冷却回路を備えた鋳造用金型であって、
前記ヒートパイプは、前記金型内に配置されて入熱部とされた一端部と、前記冷却回路内に配置されて凝縮部とされた他端部とを備え、
前記入熱部は、断熱層を介して前記金型に接触し、前記凝縮部は、前記冷却回路内に設けられた冷却水供給用チューブの内部に配置されることを特徴とする鋳造用金型。
【請求項2】
前記凝縮部の長さは、前記入熱部の長さ以上であることを特徴とする請求項1に記載の鋳造用金型。
【請求項3】
前記ヒートパイプのパイプ本体は銅製であり、前記ヒートパイプの作動液は水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳造用金型。
【請求項4】
前記断熱層は、オーステナイト系ステンレス鋼で構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の鋳造用金型。
【請求項5】
前記断熱層は、空気断熱層を備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の鋳造用金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−86170(P2013−86170A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231855(P2011−231855)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】